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システム論序説(01)システム論の原点

1997年9月4日

システム論あるいはシステム理論は、フォン・ベルタランフィによる一般システム理論の提唱に始まると一般にみなされている。そこで、まず、システム理論の創始者が、どのような意図で一般システム理論を提唱したのかを確認したい。

『システム論序説』の画像
このページは電子書籍『システム論序説』の一部です。

フォン・ベルタランフィは生物学者であったが、最初から哲学的な関心が強く、博物誌的な生物学ではなくて、抽象度の高い理論生物学を志向していた。彼は、生物学においては、フォン・ベルタランフィの成長曲線(von Bertalanffy growth curve)にその名前を残しているので、その学説を紹介することで、彼の理論生物学の一端に触れることにしよう。

フォン・ベルタランフィの成長曲線とは、二枚貝、魚類、哺乳類などの動物の年齢と体長との関係を示す曲線である。一般に動物の体重は、体積に比例し、体積は、体長の三乗に比例するので、以下の式が成り立つ(c は、比例定数)。

式1. W = cL3

体表面積は体長の二乗に比例するので、体重の 2/3 乗に比例する。そして、体重の変化は、エネルギーの生産から消費を引いた量と等置できる。資源は外から取り入れ、内部で消費するので、生産(同化)量は体表面に比例し、消費(異化)量は体重に比例する[1]。そこで、体重の変化の式は、以下の式に表されているように、「体を形作る材料の同化と異化のプロセスの差異[2]」によって表される(a と b は、比例定数)。

式2. 画像

式1を式2に代入すると、式3になる。

式3. 画像

生物は十分時間が経つと成長が止まるという経験的事実から、その時の体長を Lとすると、式3は式4になる。

式4. 画像

式4で、r は、フォン・ベルタランフィの成長率(von Bertalanffy growth rate)と呼ばれる定数である。体長は時間の関数であるから、L(t) と書くことができる。L(t0)=0 として、微分方程式(式4)を t0 から t まで積分すると、任意の時点における体長が、式5で与えられる。

式5. 画像

これが、フォン・ベルタランフィの成長式である。ただし、体長がゼロの時はないので、実際には、t0 は、負の値になる。

例えば、北米産のナマズであるイエローブルヘッド(yellow bullhead)に関しては、フォン・ベルタランフィの成長式は、以下の値で成り立つことがわかっている(体長はミリメートル、時間は年、P < 0.0001)。

式6. 画像

このフォン・ベルタランフィの成長式をグラフにすると、以下のようになる。

画像
南カリフォルニア産イエローブルヘッドの年齢(横軸)と体長(縦軸)の関係[3]

フォン・ベルタランフィの成長式のように、生物の相対成長に基づく生命体の全体と部分、あるいは部分と部分との間に見られる非比例的関係をアロメトリー(allometry)と言う。生命体では、全体と部分との間には、アロメトリーに限らず、機械的な比例関係はめったに見出されない。

フォン・ベルタランフィの成長式は、二枚貝、魚類、哺乳類など、特定の動物にしか当てはまらないことが経験的に知られている。一般の動物にも適用できるようにするには、式2をさらに式7へと一般化する必要がある。

式7. 画像

フォン・ベルタランフィの成長式を導く微分方程式、式2は、n=2/3, m=1 の時の特殊ケースとして位置付けられる。

式7は、n=m=1 でない限り、非線形微分方程式である。非線形とは、線形関数が持つ

加法性: (∀x)(∀y)( F(x + y) = F(x) + F(y))

斉次性: (∀x)(∀y)( F(kx) = kF(x))

を持たない関数の性質である。線形関数では、《和の関数》と《関数の和》が等しいが、非線形関数ではそうではないということである。

ニュートン力学を象徴する運動方程式(式8)は、線形微分方程式で、力は加速度に比例する。

式8. 画像

一般に、線形方程式は、非線形方程式よりも扱いが簡単で、近代科学の黎明期においては、線型方程式による自然の説明が行われた。難しい現象よりも簡単な現象から先に取り組むことは、知の進歩において当然のことなのだが、その事情を知らずに古典力学の成果に目を見張った一知半解の科学崇拝者たちは、この世界は、すべからく線形方程式が成り立つ対象である、すなわち、全体は部分の単純な和であり、部分の単純な拡大であるとする機械論的世界観を作り上げてしまった。しかし、線型方程式は、対象を極度に単純化しなければ成り立たず、それをせずに線型方程式で対象を説明することができるのは、きわめてまれなケースだとフォン・ベルタランフィは言う。

もしもあなたがついているなら、あなたが得たデータは、単純に一直線のグラフを成しながらプロットされうる。しかし、一つの単純な細胞においてすら、考えられないぐらい複雑なプロセスがあることを考えるなら、二つの変数の間に考えられる限り最も簡単なモデル、すなわち線型方程式が、実際にたくさんの事例に適用されるということは、ほとんど奇跡に近いようなことだ。[4]

線型方程式が厳密には成り立たないということは、全体は部分のたんなる総和ではないということだ。もしも、全体が部分のたんなる総和なら、科学者たちは細かく専門分化した専門領域を研究しているだけで、人類は世界全体の知識を得ることができる。しかし、「全体は部分の総和以上である[5]」のなら、部分についての科学とは別に、「“全体性”の一般的科学[6]」としての「一般システム理論」が必要になる。これが、フォン・ベルタランフィが一般システム理論を提唱した理由であった。

フォン・ベルタランフィによる一般システム理論の提唱は、古代ギリシャ的な意味での哲学の復権である。古代ギリシャにおいては、哲学は学一般を意味し、現在のように、細かい専門ごとに専門の科学者がいるということはなかった。近代になって、様々な専門科学が哲学から独立し、残りかすとなったまま存続している哲学もまた一つの専門的な学になっている。人類は、専門的な分業によって得るものもあったが、失うものもあった。高度に専門化が進んだ現代においては、専門の垣根を越えた真理の探究がおろそかになっている。私もまた、フォン・ベルタランフィのそうした遺志を継いで、超領野的なシステム研究を行う者であるが、だからと言って、フォン・ベルタランフィのシステム理論をそのまま受け継ぐということはしない。現在からみると、フォン・ベルタランフィのシステム理論はあまりにもナイーブであり、彼のシステムに対する理解はゼロから見直さざるを得ない。私は、本書において、フォン・ベルタランフィやルーマンなど、既存のシステム理論を超えるシステム論の視座を提供したい。

参照情報

  1. Sarrus et Rameaux. “Rapport sur un mémoire adressé a l’Académie Royale de Medecine”. Commissaires Robiquet et Thillaye, rapporteurs. Bull. Acad.Roy. Med. (Paris 1838–9) 3:1094–100. .
  2. Ludwig von Bertalanffy. General System Theory: Foundations, Development, Applications. Revised edition. New York: George Braziller Inc., 1969. p. 172. フォン・ベルタランフィは“the difference between processes of synthesis and degeneration of its building materials, plus any number of indeterminate factors that may influence the process”と言っているが、その他の要因は無視することにする。
  3. U.S. Geological Survey. “Variable Growth and Longevity of Yellow Bullhead (Ameiurus natalis) in South Florida
  4. Ludwig von Bertalanffy. General System Theory: Foundations, Development, Applications. Revised edition. New York: George Braziller Inc., 1969. p. 155-6.
  5. Ludwig von Bertalanffy. General System Theory: Foundations, Development, Applications. Revised edition. New York: George Braziller Inc., 1969. p. 55.
  6. Ludwig von Bertalanffy. General System Theory: Foundations, Development, Applications. Revised edition. New York: George Braziller Inc., 1969. p. 37.