10月 081999
 

日本の予算には、一般会計の予算とは別に、郵便貯金・国民年金・厚生年金などから国の信用で集め、国の政策目的実現のために政府系金融機関・地方自治体などに投融資する第二の予算があり、無駄な公共工事の温床となっている。この財政投融資は、99年度以降減りつつあるが、完全な廃止は可能だろうか。

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司会: 多くの国民にとって大きな政府の一番わかりやすい弊害は、公共事業と称して全国各地で行われている無駄な土木工事でしょう。日本の公共工事費は、一部は談合によって、一部は国会議員や自治体の首長への上納金によって16%~33%も割高になっていると言われています。同じ施設を造る場合でも、国から補助金を受けると、官僚や政治家のひもつきの業者が受注するので、価格は倍以上になり、補助金をもらわないときよりもかえってコスト高になると聞きます。このことは逆にいえば、政治家や官僚が補助金を搾取しているということでしょう。天下り先を確保したい官僚と政治資金が欲しい族議員と仕事を求めるゼネコンとの癒着は、国家の不良債権を増殖させる深刻な構造的問題です。どうすれば税金の無駄使いを止めることができるでしょうか。

自由: まず政府の仕事を減らすことが必要で、高速道路の建設・運営のように、収益性のある、したがって財政投融資の対象となる事業はすべて民営化し、一般道路の建設・運営のような、受益者に直接課金することが困難な事業は一般会計による政府の事業とすることによって、官でも民でもないヌエ的なグレーゾーンの帰属をはっきりさせるべきだ。グレーゾーンの圧倒的多数は民営化可能であり、結果として市場経済の領域が増える。

司会: グレーゾーンというのは、具体的にどのような組織のことを言っているのですか。

自由: 特殊法人・認可法人・公益法人・公営企業・地方公社・第三セクターなど種類は様々だが、共通属性を定義するならば、

  1. 規制により他の民間企業の参入を禁止もしくは制限してもらう法的特権
  2. 政府の出資や補助金や税制上の優遇措置などの経済的特権

という二つの特権を持ち、役員人事や事業計画などに政府の認可が必要な、純粋な民間企業ではない法人ということになる。財投機関以外にも改革すべきグレーゾンがあるということだ。行政改革で必要なことは、そうした二つの特権を取り上げることだ。なかでも最も効果的な改革は財政投融資の廃止だ。

社会: 財投機関には、赤字の事業が多い。民営化しても株は売れないし、倒産が相次ぐだけだ。だが高速道路のような公共性の高い施設を、採算が取れないという理由だけで閉鎖していいのか。

自由: 「赤字だから民営化しない」ではなく「赤字にならないように民営化する」という発想が必要だ。特殊法人である道路公団には収益性を上げようという意思がない。揮発油税などの特定財源があるので、採算を無視して造りつづけなければならないという建設上の問題だけでなく、経営上の問題もある。例えば、高速道路の料金は、開通直前に建設に要した事業費を50年以内の償還期間内に償還するべく料金が決定される。消費者の論理ではなく生産者の論理で決められているわけだ。公団は料金が安ければ安いほど「公益」になると思っているようだが、いくら安くても渋滞していては高速道路としての意味がない。渋滞する季節や時間帯の料金は引き上げ、サービスの質を高め、同時に収益性を上げていくべきだ。逆に利用車が少ないのなら、料金を引き下げて薄利多売でいかなければならない。そうした柔軟な対応が官僚OBの役員にはできない。

国家: 国鉄の分割民営化が成功したから、この調子で他の財投機関もすべて民営化すれば、黒字経営になってうまく行くと思っているのか。

自由: 国鉄の民営化は失敗だった。もちろん民営化したことは正しかったのだが、民営化の仕方に問題があった。ところで当時なぜ国鉄は民営化されざるをえなかったのだろうか。

社会: それはサッチャリズムの影響を受けた自民党が国鉄の労働組合を叩き潰そうとしたからだ。実際、民営化の時、国労や全動労の活動家が優先的に再就職から排除された。

国家: 違うよ。国鉄職員がろくに仕事もしないで賃上げのためのストライキばかりやっていたから、債務が25兆4000億円にまで膨れ上がり、破産した。自業自得というものだ。

社会: 国鉄が破産したというのは誤解だ。1987年に民営化された時の国鉄の債務等は、37兆円だったが、国鉄の資産は当時の時価で50兆円あると見積もられており、債務超過ではなかった。さらに国鉄が分割民営化される直前の昭和61年度の決算では、営業収支は2662億円の黒字だった。一般に日本の国鉄はサービスが悪いというのが定評になっているが、安全性や時間厳守などの面において外国の国鉄よりも優秀だった。

自由: その認識は正しい。営業収支で黒字だった国鉄がトータルでは赤字だったのは、主として利子の支払い等が膨大だったからだ。我田引鉄に熱心な族議員とゼネコンを始めとする公共事業の寄生虫たちが癒着して採算の取れないコスト高の路線を造って経営を圧迫した。もっとも民営化した当時、まだ国鉄は債務超過に陥っていなかったわけだから、国鉄清算事業団など作る必要はなかった。その当時は、旧国鉄用地3350ヘクタールの売却収入が15兆円以上、JR三社株式売却収入が9兆円以上と評価されたので、清算事業団が受け継いだ23兆円は、すぐに返済可能だった。ところが、当時の中曽根内閣は、清算事業団発足後10ヶ月後に、「緊急土地対策要綱」を閣議決定し、公開競争入札を中止し、その後、資産処分審議会が「土地信託方式」(土地を信託し、信託受益権を分割又は一括で処分する方法)や「建物付土地売却方式」(清算事業団用地に建物を建設し、土地と建物を共有持分権又は区分所有権として分割して売却する方法)などを答申で提案した。

国家: それは、当時のようなバブルの真っ最中に公開競争入札で旧国鉄用地を売却すると、地価高騰をあおることを当局が恐れたためだったのではないのか。

自由: 清算事業団が大量に土地を放出すれば、需要と供給の関係から、地価は下がるはずだ。「緊急土地対策要綱」は、「地価を顕在化させない土地の処分方法について検討を進める」と言っていたが、要するに政府は、旧国鉄用地の時価がオープンな市場で「顕在化」され、その結果、国鉄が債務超過でないことが暴露され、税金投入による国鉄民営化の大義名分を失うことを恐れていたわけだ。もっとも、清算事業団用地を地方自治体に随意契約で安く売却し、そこを再開発することで懇意にしているゼネコンをもうけさせようという族議員たちの思惑はバブル崩壊で水泡に帰したのだが。

社会: 民営化を英語でプライヴァタイゼイション と言うが、これは私物化と訳すこともできる。国鉄債務の清算と称して一部の政治家が国鉄から譲り受けた国有財産を私物化したことは嘆かわしいことだ。

自由: 国鉄が民営化された後も、族議員たちの我田引鉄志向は衰えない。政府は、以前新幹線保有機構が保有していた新幹線設備の譲渡代金としてJR各社が支払った9兆2000億円とNTT株売却益で、旧国鉄の債務を返すどころか、日本鉄道建設公団を通じて、北陸新幹線をはじめとする整備新幹線の建設やリニアモーターカーの開発を行い、第二の国鉄債務を作っている。

社会: 鉄道は飽和状態でもう魅力がなくなったから民営化して切り捨て、新幹線や空港や高速道路など地元への利益誘導の目玉としてもっと魅力的な交通インフラでもって、かつて鉄道建設の時にしたことと同じことを繰り返そうとしているわけだな。

自由: 国鉄民営化は、民営化が不徹底であったという意味で失敗だった。国鉄だけでなく、鉄道建設公団も空港公団も道路公団も住都公団もすべて完全民営化しなければならない。国鉄民営化の失敗から学ぶべき教訓は、債務超過に陥っていない公的事業は、負債の返済を含めて一体として民営化しなければならないということだ。ニュージーランドの行革を猫のシッポ切に喩えた人がいた。猫のシッポを切る時少しづつ切ろうとしたら、猫は痛がってギャーギャーわめきうまくいかない。一度にスパッと切らなければいけない。段階的民営化と称して、政府が経営に関与できる特殊法人のような中途半端な民間企業を作るべきではない。

国家: 民営化しても黒字経営が不可能な法人もある。美術館のように採算が取れないが、文化の維持という観点から補助金が必要なのではないのか。

自由: 美術館だって民間の知恵で経営が成り立つよ。公的セクターが税金で立派な美術館など造らなくても、デパートがそれに代る展示会をやってくれる。デパートが芸術作品の展示会をするのは、見に来たお客さんが、ついでに何かデパートで買ってくれることを期待しているからだ。また高級イメージを演出することでコンビニやディスカウントショップなどのライバルとの差別化を図り、宝石や化粧品やブランド物を販売する雰囲気を作れるというメリットもある。

ただ私は非営利団体の重要性を認めないわけではない。政府でも民間営利企業でもないNGOやNPOを、市場原理を生かしながらどう支えていくかは、また後で述べる。

国家: 空港建設のような巨額の投資を必要とする大型公共事業を民間企業が自発的に進めるとは思えない。やはり政府のイニシャティヴが必要なのではないのか。無駄な公共事業に対する世間の批判が高まっているが、無駄かどうかは中立的な評価機関を作ってそこに判断させたら良い。

自由: 第三者機関を作っても業者と癒着して機能しなくなる可能性が大きい。第一、新たに公的機関を作ることは行政改革の精神に反する。官僚機構は問題が起きるたびに新たに組織を作って焼け太りしてきたわけだが、わざわざ中立的な評価機関を作らなくても、市場がその役割を担ってくれる。政府がプロジェクトを企画する時には、財投を使わずに転換社債を発行して、費用対効果があるかどうか市場に判断してもらえばよい。公共工事が完成すれば、債権者が株主になるので、自動的に民営化がなされる。また収益性は低いが、地域住民の要望が強い場合には、地域住民に転換社債を買ってもらう。打ち出の小槌のようにいくらでもお上から補助金が下賜されると思うから全国に無用の長物ができるわけで、そうした財政錯覚を打破しなければならない。

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