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市場原理は至上原理か(06)公共財に市場原理が導入できるか

1999年10月9日

公共財は、便益が非競合的で、フリーライダーを排除できないので、市場経済によっては生産できない。しかし、だからといって、公共財の生産に市場原理を導入することができないというわけではない。

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このページは電子書籍『市場原理は至上原理か』の一部です。

1. 公共財に市場原理が導入できるか

司会:公園や図書館など、民営化不可能な無収益インフラの建設の場合はどうするのですか。建設省は、指名競争入札制度は談合と腐敗の温床になるとして、条件付き一般競争入札制度を導入することを決めましたが、プレクォリフィケイションする条件付である以上、資格審査を通じて発注者の意向が加わる余地が残るわけで、入札談合等の不正工事を防止し、公正な競争を確保するにはどうすればよいのか議論してください。

社会:贈収賄などの不正行為は論外だが、談合自体は一概に悪いとは言えない。弱い立場にある中小企業が話し合いで共存共栄することは民主主義の理想だ。建設業は日本の雇用と国内総生産の一割を占めている、失業対策上重要な産業で、全国に50万社以上ある土木建設業者の共倒れを防止するには、談合による調整は必要悪だ。

自由:民主主義的な話し合いと不正な談合は、それが公開可能か否かではっきり区別することができる。建設業者の談合はテレビで生中継できる性質のものではない。入札プロセスをガラス張りにしようとすれば、一般競争入札にならざるをえない。自由競争で倒産する建設会社が出てきてもそれは仕方のないことだ。日本では田中角栄とその末裔たちのおかげで、建設業が不必要に肥大化してしまった。公共事業費が GDP に占める比率は、アメリカが1.6%、イギリスが1.9%、ドイツが2.0%、官僚の力が強いフランスでも3.4%であるのに対して、日本は6.9%もあり、そのうち七割が建設関係だ[1]。セメントの使用量が、面積25倍、人口2倍のアメリカとほぼ同じという日本の土木国家ぶりは、どう考えても異常だ。これを見てもわかるように、バブル崩壊後、民間の建設投資が減少しているのとは対照的に、公共の建設投資は景気対策のために増加している。

日本の建設投資の推移の図
日本の建設投資の推移[2]

公共建築物と民間建築物の工事費単価を比較すると、最近になって両者の格差が拡大している。民間建築物、公共建築物の単価とも80年代末から急上昇したが、その後の単価の下落幅は、公共建築物の方が民間建築物よりも小さく、下方硬直的となっている。バブルの時に民間が不良債権を作り、バブル崩壊後は国家が不良債権を作っている。国家財政を破綻させかねないこうした事態を放置するわけにはとてもいかない。肥大化した建設投資を削減するためには、競争激化による建設業の大淘汰もやむをえない。

国家:談合において受注業者は、他の業者に受注を断念してもらうために談合金を支払わなければならず、一般競争入札のもとでは、談合金を初めから目当てにした看板だけの請負業者が現れてくるので、談合金の額が膨れ、その分公共事業費が高くなってしまう。

自由:それはあくまでも談合を前提にした話だ。談合破りが同業者から制裁を受けないですむ環境を作ることが重要だ。

国家:談合には過当競争によるダンピングを防ぐ働きがある。一般競争入札では、「入場券」を手にするために赤字受注し、後で赤字補填を求めて来たり、手抜き工事をしたりする悪徳業者の入札を防げない。工事の質をチェックするためには、受注者と発注者との間で緊密な情報の交換が必要だ。だから一般競争入札でまったく知らない業者を参入させるわけにはいかない。手続き的に競争原理が働くかどうかよりも、結果として質のいいインフラが公正価格で住民に提供できることのほうが重要だ。指名競争入札でも、公正価格が形成される限り違法とは言えないし、逆に競争入札で決まる価格が常に公正価格だとはかぎらない。1989年に広島市水道局の地図情報システムの基本設計に関する入札を富士通が1円で落札したが、市場原理を盲信するならばそれも公正価格ということになってしまう。

自由:最近携帯電話やパソコンを無料で配布し、付属するサービスで収入を得るビジネスが散見されるが、富士通にもそうした狙いがあったのではないのか。そうだとするならば、それはダンピングとは言えないし、手抜き設計を心配する根拠にもならない。また指名競争入札で手抜き工事が防げるわけではない。阪神大震災は、そのことを我々に教えてくれた。

社会:55万ある建設業者のうち99%は資本金が1億円未満の中小業者で、個人経営も多いため、経営基盤の安定しない業者が数多く存在する。競争激化と入札価格切り下げのしわ寄せを受けるのはそうした弱小の建設業者だ。地元選出の国会議員や地方自治体の首長が、地域経済活性化のため、弱い地元の建設会社に仕事を分け与えることは正当なことではないのか。

自由:地元企業育成という口実は疑ったほうがいい。地元零細企業を詐称する正体不明の幽霊会社が、政治家の斡旋でジョイント・ベンチャーのメンバーに入って利益の分け前を取り、それが政治家の資金源になっている。そういう幽霊会社には施工能力がなく、受注した場合、一括下請負、いわゆる丸投げをして、不当にマージンを稼いでいる。建設業法では、一括丸投げは違法だが、発注者の承認がある場合は例外という条項を利用して食いぶちを稼ぐ業者がかなりあり、それが日本の建築コスト上昇の一因となっている。

国家:悪徳業者の入札を防ぐため、受注者支援データベースや施工体制台帳の活用などの対策を講ずるべきではないのか。

社会:そうした対策を講じても、発注者は天下り先を優遇しようとするだろうから、問題の解決にはならない。公務員は、離職後2年間、離職前5年間に在職していた国の機関と密接な関係にある営利企業に就職することが認められていない。これを強化して天下りを法律で全面的に禁止したらどうだ。

国家:反対だ。天下りができなくなると官僚になる魅力がなくなるから、官庁に優秀な人材が集まらなくなる。

自由:優秀な人材は、自分の能力に応じた権限を求める。そして官僚に強い裁量の権限があることが、政官財の癒着構造の根本的な原因となっている。本来、優秀な人材は官庁などに行かずに民間で働くべきだ。官僚の許認可権限を大幅に縮小すれば、官僚が営利企業へ直接天下りしても問題はない。営利企業への再就職を規制したりするから、官僚は、老後の保証のために[3]わけのわからない外郭団体を乱造する。官僚の権限を縮小するには、施工や管理運営だけでなく、プロジェクトの提案も、融資も、品質保証もアウトソーシングし、住民が政策決定の過程に参加するパブリック・インボルブメント方式を導入しなければならない。公共事業の歴史は、官から民への権力委譲の歴史だ。明治時代の公共事業では、官庁がゼネコンの役割を果たしていた。建設省が省内に多くの技師を抱えているのはその時の名残だ。当初民間の大工や石工はただ労働力を提供するだけだった。ところが時代が下るにつれて、民間の役割は拡大し、資材調達・重土木機械による施工、さらには設計エンジニアリング・ファイナンシングまで手がけるようになってきている。

国家:民間の建設会社にプロジェクトを提案させて競争入札をすると、他の企業が提案されたプロジェクトを模倣するので、民間企業がプロジェクトに創意工夫を凝らそうとする意欲をそぐことになる。民間によるプロジェクト提案と一般競争入札は両立しない。

自由:模倣されないようにすればよい。情報社会では、価格競争よりもアイデアの競争のほうが重要だ。政府が仕様を細かく指定して業者に造らせる従来のやり方では、民間の知恵が生かされない。行政は、例えば「ごみ問題を解決するにはどうしたらよいか」などの問題を提起し、その解決策を民間企業から募集する。価格競争の場合、単純に一番低い価格を提示した業者を選べばよいのだが、アイデアの競争では、そうはいかない。そこでパブリック・インボルブメント方式が必要になる。インターネットが普及すれば、将来自宅で電子投票ができるようになる。納税者は各プロジェクトの内容と費用を見比べながら採点し、その集計結果で着工の可否を決定する。議員の仕事は住民の不満をくみ上げて問題提起することに、官僚の仕事は形式的な事務の遂行に限られるので、両者とも業者と癒着する余地はない。

国家:一般の納税者は建築の素人だから、悪徳業者の詐欺的な提案を見抜くことができない。品質の保証はどうやって確保するのか。

自由:競争入札に応募する前に、応募者は民間の損害保険会社に依頼して、自分の経験、技術力、資金力を事前に審査させ、ボンド(保証証券)を発行してもらう。もし着工後、手抜き工事など契約違反が発覚すれば、政府は保険会社に損害賠償を請求することができる。こうすれば、悪徳業者を事前に排除することができる。

国家:君はさっき融資も民間に任せると言ったが、それは PFI を導入するということなのか。

自由:そうだ。もっとも政府が導入を決めた日本型 PFI は、イギリス型の PFI とは少し違っていてまゆつばものだ。これを見てもらいたい。

日本型 PFI の特殊性の図
日本型 PFI の特殊性

ここに示したように、公共事業は、建設・運営・融資・所有を官民のどちらが行うかでさまざまな形態を考えることができる。四つとも公的セクタが行えば、純粋な公共事業になるが、日本は社会主義の国ではないから、二番目のパターン、建設だけ民間企業に任せる方式をとってきた。80年代になると民間の経営手法を取り入れて官の非効率を是正しようと、中曽根内閣の時の民活法によって、全国に多数の第三セクタが作られた。ところが官民の役割分担がはっきりせず、参加した民間企業は、いざとなればお役所が何とかしてくれるだろうという甘い考えでずさんな経営を行い、現在その大半が経営危機に見舞われている。

国家:そこで政府は、官民の役割を明確にしようと、イギリスの PFI の手法を導入しようとした。

自由:そのはずなのだけれども … イギリスでは PFI が行政改革のために案出されたのに対して、日本では景気対策としての性格が強い。PFI 事業推進法案は正式には、「民間資金等の活用による公共施設等の整備等の促進に関する法律」という三つも「等」の付く名前を持つのだが、その中でも民間資金等の「等」が曲者だ。この法案によれば、政府が事業に出資したり、無利子で貸し付けたり、債務保証をすることができるほか、国有財産の無償使用や税制面での支援まで用意してある。まさに至れり尽くせりだ。

国家:それはいざという時のための公的支援策であって、初めから日の丸金融でやるわけではないだろう。

自由:そうでもないよ。具体例を挙げよう。日本の PFI 第一号と言われている中部国際空港会社の場合、総事業費7680億円のうち40%は政府保証債や開発銀行などからの借入金で残り60%は無利子資金なのだが、その83%は国と地元自治体からの出資だ。民間の出資はわずかに512億円で、しかも地元財界の主要企業が企業ランクに応じた額を負担するという、いかにも奉加帳方式という感じの出資だ。政府は民間主導という印象を国民に与えるために社長をトヨタ自動車から迎えたが、その性格は特殊法人として設立された関西新国際空港と何ら変わるところがない。

司会:表にある BOT や BOO はどういう意味ですか。

自由:BOT とは、民間事業者が、施設を建設(Build)し、運営(Operate)し、少なくとも最終的には政府に所有権を譲渡(Transfer)する PFI で、BOO の場合は、譲渡せずに事業者が所有(Own)しつづける。道路や公園を造成するなら BOT でいいが、ごみ処理施設を BOT で造ろうとすると、大都市の区などの場合は設置場所に苦労する。BOO なら、たんに処理サービスを購入するだけだから、施設の設置場所は自治体の外でもいいことになる。

BOT と BOO との違いはそれほど重要ではない。重要なことは、PFI にしても、ボンド制にしても、厳しい自己責任原則のもと、民間が民間を審査することだ。政府が融資の面倒を見ないと言うことは、モラル・ハザードを防ぐ上で必要不可欠だ[4]

2. 参照情報

  1. 日本における一般政府総固定資本形成の GDP 比は、バブル崩壊後、5%を超える高水準にあったが、小泉改革により、他の先進国並みの 3% 程度にまで下がった。公共事業を大幅に減らしたのにもかかわらず、小泉政権の時代では、失われた二十年の中にあって例外的に経済が成長し、プライマリー・バランスが改善した。
  2. 「西暦」は会計年度。1995年度は実績見込み。『建設統計要覧』は、建設に関する統計をまとめた総合建設統計資料で、平成22年版を最後に刊行が終了している。
  3. 正確に言えば、出世競争に敗れたキャリアを同期並みに厚遇するために天下り先が作られている。
  4. 公共事業を効率化するための英国の最近の手法として、インパクト投資(Impact Investment)がある。インパクト投資とは、政府が、公益をもたらすとされる事業そのものではなくて、その成果(インパクト)に対して金を出し、その金をリターンとして求める民間が事業に投資をすることを指す。例えば、貧困層支援などの社会福祉事業において、支援そのものに金を出すのではなくて、貧困層が資格を取得するなど成果に対して金を出す。つまり、民間が知恵を絞って、効率よく資格取得者を出すことに成功すれば、インパクト投資に投資した人は高いリターンを得ることができる。このように民間にリスクを負わせることで、民間の創意工夫を促し、無駄な公共投資を減らすことができるというわけである。