10月 101999
 

地方分権を行えば、同じ日本国内で政府を選ぶ自由が増える。しかし、移転のコストが大きく、選択肢がバンドルされているために、選択の自由はあまり大きくはない。重要なことは、地方分権ではなくて、個人分権である。

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司会: 現在、納税者が納めた税金の三割が、税務署→国の予算→各省庁の国庫補助金→国の出先機関→都道府県→市町村という迂遠な回路をまわっているため、受益者と負担者の関係が不明確になっています。地域住民が行政の意思決定過程に参加しやすいように地方分権を進めれば、不必要な公共工事がなくなるという意見がありますが、みなさんはどのように思いますか。

自由: 地方分権は、公共投資効率化の必要条件だが、十分条件ではない。中央政府を小さくする代りに地方自治体を大きくし、全国にミニ永田町、ミニ霞ヶ関、ミニ虎ノ門を作るだけなら、行政改革にならない。地方政府も小さくしなければならない。地方分権に必要なことは、「ふるさと創生」のために各自治体に1億円をばらまくことではなく、受益者が地域的に限定されるPFIの予算に地域ごとの自己責任原則を持たせることだ。

社会: 政府の地方分権推進委員会は、三割自治の弊害を是正するために自治体の自主財源を増やせと提言しているが、国税に対する地方税の割合を増やして地方分権を推進すると、地域格差是正とは逆の効果をもたらす。

現在四十七ある都道府県のうち、国税と地方税の負担が地方交付税、譲与税、国庫支出金などの受益を上回っているのは、茨城・栃木・埼玉・千葉・東京・神奈川・静岡・愛知・京都・大阪・兵庫といった三大都市圏にある十一の都府県だけで、あとの三十六の道と県は負担より受益が多い。もし課税自主権を徹底するならば、弱小県は税率を引き上げるかインフラの整備を遅らせるかの選択を迫られるが、どちらにしても、それは税率が低くインフラが整備された大都市部への企業や住民の流出をもたらす。その結果東京への一極集中は是正されて三極集中にはなるかもしれないが、過密過疎問題はかえって深刻になる。地域社会の活力を取り戻すどころではない。

中央政府の補助がないと、自主財源の少ない自治体の中には財政が破綻して、国の管理化におかれるところまで出てくるかもしれない。だから地方分権を推進すると中央集権化が進む。これは地方分権のパラドックスだ。このパラドックスは、市場経済で競争を自由にすると、独占が帰結し、競争がなくなってしまうという市場経済のパラドックスとよく似ている。地方分権とは弱小地域切り捨てだ。

自由: 税率が低くインフラが整備された都市部は、確かに税率が高くインフラが未整備な農村部よりも魅力的だが、魅力的であればあるほど都市部の地価、すなわち住居コストは農村部よりも高くなる。住民にとって住居コストは税金のようなもので、この住居コストの高さが、過疎地から過密地への無制限な人口移動を防いでくれる。中央政府が「国土の均衡ある発展」のために、都市部から吸い上げた税金を地方にばらまかなくても、地価が市場原理に基づいて自動的に地域間不均衡を是正してくれる。

社会: それでも教育や福祉など自治体のサービスに格差が出てくるのは避けられない。たまたま自主財源豊富で教育熱心な自治体に産まれた子供は、そうではない子供よりも有利なスタートを切ることになる。このような不公平を「地域の個性」と称して美化することはできない。

地方分権が進む連邦制のアメリカでは、州の下にある地方学区が教育財源の半分近くを負担しているが、その学校税のほとんどが固定資産税に依存しているので、学区の財政基盤の違いが学校格差となって現れる。その結果生徒一人当たりにかける費用の格差が学区間比で数倍の開きとなり、教育の機会均等に反するから違憲という判決をいくつかの州最高裁判所が出している。教育の機会均等を守ろうとすれば、州は貧困学区への、そして連邦政府は貧困州への財政トランスファーを余儀なくさせられるが、これは自主財源に基づく地方分権の破綻を意味する。

福祉に関してもナショナルミニマムを守るためには、中央政府による地域間格差の是正が必要だ。地方には子供や老人など行政にとって税金の負担となる人が多いのに対して、都会には働き盛りが多い。地域単位で自立するなんてナンセンスだ。

自由: あなたは、教育や福祉が地方公共団体の仕事だと思っているようだが、私は民間の仕事だと思っている。さっき言ったように地方政府も小さくならなければならない。サービスは民間に任せて、資金面での教育の機会均等や社会保障は、中央政府が自治体を飛ばして直接カバーすればよい。そもそもセーフティネットの充実を自治体間の競争に委ねることはできない。もしある地方公共団体が低所得者の保護を熱心に行えば、そこから負担者である高所得者が逃げ、代りに受益者である低所得者が流入してきて、その自治体の財政が破綻するからだ。だからセーフティネットを整備することは中央政府の仕事だ。

地方政府の仕事は、道路や橋などのインフラの整備だ。地方政府は、ビルやアパートの所有者と同じで、建物の建設と維持の費用を企業のテナント料(事業税)や住居人の賃貸料(住民税)でまかなっている。企業や住人にとってみれば、選択肢は、インテリジェントで立派だが料金の高い建築物もあれば、質は低いが料金の安い物件もあるというように多様なほうが良い。

司会: 財投機関の民営化にしてもPFIにしても地方分権にしても、無駄な投資をなくすためには、まず受益と負担の関係をはっきりさせることが出発点となるようですね。ただ建設業が、親方日の丸的な過保護状態から卒業して自立するためには、同じく護送船団方式で守られ、土地とハコモノへのずさんな融資で不良債権を作りつづけている郵貯を含めた金融業が自己責任原則のもとで自立しなければならないはずです。それではここで話を金融の自由化に移すことにしましょう。

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