10月 121999
 

日本の金融機関が透明性を高め、信用を回復し、かつ、グローバルな競争に勝ち抜くためには、今後経営と融資のあり方をどのように変えていけばよいのか。日本人の資産の運用は、今後どうあるべきか。

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司会: 政府は98年4月より、自己資本比率がゼロ未満となった金融機関に対して業務停止命令を出すなどの早期是正措置がとれるようにしました。だが、もし自己資本比率についての正確な情報が開示されていなければ、この予防策は有効に使えなくなってしまいます。日本の金融機関は、含み益を吐き出して赤字を穴埋めしたり、含み損を簿外債務として処理したり、不良債権をダミーの子会社に移し替えて隠蔽したりなどの粉飾決算を当たり前のようにしています。例えば兵庫銀行の場合、95年3月末の発表では、不良債権額は609億円でしたが、5ヶ月後の破綻で、1兆5000億円と判明しました。金融機関の経営を透明にするには、どうしたらよいでしょうか。

国家: 日本にはもともと情報を一般に公開する習慣がない。特に金融不安の時に、思わしくない財務状態をディスクローズすると、大衆に無用の不安を与え、預金の引き下ろしなどによって金融不安を一層悪化させる。情報公開については臨機応変に対処するべきだ。

自由: 大蔵省や金融機関は不安が起きないように情報を隠蔽しているのだが、実際には隠蔽しているから不安が起きる。そもそも市場は彼らの厚化粧の決算をそのまま信じるほどナイーヴではない。コンピュータハッカーは、セキュリティの甘い日本の金融機関のイントラネットに進入して素顔の財務情報を入手し、アングラマーケットで機関投資家などに売っている。日本の上場企業の有価証券不実記載は海外では常識だ。情報公開という点で第一に必要なことは、会計時価主義を採用して、連結決算を行い、帳簿をインターネット上に公開することだ。第二に、会計制度だけ変えても、組織ぐるみの隠蔽工作がなされる可能性があるので、さらに内部告発奨励法の制定を提案したい。自社の経営陣が粉飾決算やインサイダー取引などの犯罪を行っていることを発見したら、検察・NPO・マスコミなどに内部告発できる環境を整える制度を作る。検察だけに情報を提供すると内部で揉み消される危険があるので、複数のチャンネルを用意することが重要だ。裁判で被告発者の有罪が確定した段階で、内部告発者に貢献度に応じた捜査協力謝礼金を出す。もちろんそれまでは、告発者のプライバシーは保護する。野村証券の不祥事も、社員の内部告発で発覚した。社会の公正さを守るために、この制度を金融機関にとどまらずすべての官民の組織に適用するべきだ。

国家: そんなことをしたら、人々の間に疑心暗鬼が生まれ、日本のうるわしい和の伝統にひびが入る。不正を防ぐためには、公的な監査機関を作るだけで十分だ。

自由: 91年に証券金融不祥事が発覚した時、証券取引の公正を維持するために証券取引等監視委員会が設置され、97年の一連の金融破綻をきっかけに金融危機管理審査委員会や金融監督庁が設置された。こうして問題が起きるたびごとに官僚機構は焼け太りしていく。このような行政組織の肥大化は行政改革の流れに反するし、しかも公的監査機関は政治的な圧力を受けたり、被監査業者から贈賄されたりして、まともに機能しない。内部告発制の方が、コストがかからないし、しかも効果がある。

司会: 日本の金融機関が競争力を付け、ビッグバンを勝ち抜くためには、経営の透明化以外にどのようなことが必要でしょうか。

自由: 金融に市場原理を導入するということは、資金の供給者と需要者が相互に自由に選べるシステムを作るということだ。金融市場を自由にするには、メインバンク制を解体する必要がある。日本のメインバンク制は、戦前の財閥の遺物で、重化学工業を中心とする資本集約的産業に長期にわたって安定的な融資をするのにふさわしいが、知識集約的なベンチャービジネスを育てるには適していない。政府は、「善意かつ健全な借り手」であっても、メインバンクが倒産すると他の銀行から融資が受けられなくなると説明するが、メインバンク制を前提にしていたのでは、新しい金融システムへの展望は開けない。

幸いメインバンク制は現在崩壊中だ。土地担保の融資が企業をメインバンクに縛っていたが、地価下落でこの絆は弱まってきた。信用保証機能についても、取引先よりも銀行の信用の方が低くなりつつあるので、この点でもメインバンク制は無意味になっている。銀行は企業を信用しなくなり、企業も銀行を信用しなくなるなか、株式の持合いも解消されている。今後銀行の環境は競争的となり、選ぶ能力と選ばれる実力が求められるようになるだろう。付き合いに基づく情実融資は減り、主観的裁量を排除して、信用リスクを計量化する技術が求められるようになる。他方、預金者や株主が銀行を選ぶ基準も、従来のように規模の大きさ(預金量)ではなく、運用能力(株主資本利益率)が主流となる。また日本企業の資金調達は間接金融中心から直接金融中心へと変化していくだろう。

社会: 石原東京都知事が中小企業のためにジャンクボンド市場を作るとか、ソフトバンクがナスダック・ジャパンを作るとか、直接金融のための市場ができつつあるが、私は、ハイリスク・ハイリターンの金融商品が増えるとかえって金融不安が増幅されるのではないかと危惧している。アメリカでは、仕事を辞めて、自宅でまるでテレビゲームでもするかのように株式をオンラインで売買し、利ざやを稼ぐデイトレーダーと呼ばれる人々が現れてきているが、日本でも将来そうした賭博中毒患者が続出することになるのかと思うとぞっとする。

自由: 投資とギャンブルを混同してはいけない。ギャンブルは娯楽で、賞金の期待値が賭金より低いが、投資は労働で、回収額の期待値は投資額より高い。投資による配当金やキャピタルゲインは、評価するという労働に対する対価だ。投資という労働は、正しく評価した者のみが成功報酬を受け取るきわめて合理的な賃金体系に基づいている。

社会: 市場参加者は、そういう事業の中身を評価して投資する健全な投資家だけではない。一日に何百回も売買し、泡銭を稼ぐ投機家が増えれば、市場が不安定になる。

自由: もしも市場に「健全な」投資家しかいないのなら、市場はかえって不安定になるだろう。投機家は、「健全な」投資家とは異なってひねくれた人種で、みんなが売っているときに買い、みんなが買い始めたときに売る。こうした人種がいるおかげで、相場は乱高下しないですむ。

司会: 日本は数年遅れでアメリカの後を追っていると言われています。好むと好まざるとに関わらず、今後直接金融の割合が増えていくことでしょう。

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