10月 131999
 

日本の金融の改革する上で、世界最大の金融機関、郵便貯金の改革は避けて通ることはできない。なぜ、小泉純一郎が総理大臣になるまで、郵政事業の民営化には着手できなかったのか。民営化は、本当に必要なのか。

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司会: 次に郵貯と簡保のありかたに話を移したいと思います。金融ビックバンへ向けた流れの中で、個人金融資産の3割弱を占める郵貯226兆円と簡保100兆円のあり方が橋本行革でも取り上げられ、一時は郵貯・簡保の民営化の方向が打ち出されたのに、結局挫折しました。どうして郵貯・簡保は民営化できないのでしょうか。

社会: その前に、むしろ逆に今の郵貯・簡保のどこが悪いのかと聞き返したい。よく官は民より非効率だと言われるが、郵貯の経費率は、民間銀行の約三分の一程度だ。銀行は給料が高いし、一等地に支店を持っているから高コストになる。スキャンダルや不祥事も民間銀行の方が多い。官より民が優れているとは言えない。何でも民営化すればいいというわけではない。

自由: 郵貯の経費率が低いのは、融資や債権回収といった銀行の仕事の半分をやっていないからだ。また一つの店舗で三つの業務を行えるからコストの削減がやりやすい。官が民より効率的とは言えない。だいたい私は日本の銀行が私企業だとは思っていない。日本の金融業は大蔵省の管理下にある半官半民の過保護産業だ。半官半民は純粋な官よりもっとひどい。比べる対象を間違っている。

社会: 郵政事業は税金を1円も使わずに独立採算で国民のニーズに合ったサービスをしている。効率が悪いとは決して言えないのに、なぜ行政改革の標的にされなければならないのか。

自由: 税金の補填がないからといって、郵政事業の経営が健全だとは言えない。郵政事業は法人税・事業税や固定資産税や印税を払っていない。郵貯は、銀行業務を行っているにもかかわらず、預金保険機構に積み立てる保険料や日銀に預ける支払準備預金が免除されている。簡保は保険契約者保護基金負担金や危険準備金を支払っていない。また株式会社ではないので配当金は支払う必要はないし、利子課税の繰り延べも最長10年間認められている。もし民営化すれば、9300億円が国と地方自治体に入ってくると通産省は試算している。逆にいえば、郵政事業は、9300億円の補助金を受け取っていることになる。

社会: 特定郵便局舎は固定資産税を払っているよ。それに「事実上の補助金」は、郵政省の試算では2100億円でしかない。いずれにしても非営利事業なのだからその程度の補助金は仕方ないのではないのか。不採算地域をカバーする全国網羅、個人・小口への限定、商品設定上の制約などのデメリットを考えれば、民間企業とイコール・フッティングだ。

自由: 民間の金融機関と比べて、明らかにイコール・フッティングでないのは、不良債権の穴埋めに税金が使われていることだ。郵貯や簡保で集めた金は、大蔵省理財局の資金運用部に全額預託される。つまり、財政投融資という名のもとに、各官庁の天下り先である数多くの特殊法人に貸しつけられるわけだが、そのうち少なからぬ部分が不良債権化している。公団・公庫に貸しつけた金は、60年間で返済するという無責任な形になっているが、黒字法人が少ない上、膨大な利子を支払わねばならない。

社会: 郵貯・簡保の肥大化が財投を肥大化させているという批判を受けて、2008年から郵貯と簡保資金は自主運用ということになっている。君は財投を廃止して、転換社債で市場から資金調達することを提案したが、そうなれば、郵政事業と特殊法人との太い資金のパイプを切ることができるではないか。

国家: 問題は、郵政三事業を民営化した時、郵貯の解約ラッシュが起きるのではないのかということと転換社債や民営化時に売却される株式に買い手がつかないのではないのかということだ。現在のように低金利で、金融不安が沈静化しないうちに郵貯を民営化すれば、日本の預金が外貨建て金融商品に流れ、円安になる可能性が強い。郵便貯金の主力人気商品である10年物の定額貯金のうち、西暦2000年から3年間に元利あわせておよそ194兆円が満期を迎えることになっている。もし郵貯が民営化されることが決まれば、194兆円が解約される可能性がある。財政赤字の今の政府なら払い出し不能になってしまう。そうなればパニックだ。もしも国債で賄おうとすれば、国債の需給悪化により、債券市場が暴落する。円安・株安・債権安のトリプル安で日本経済は大混乱になるぞ。

自由: さっきも述べたように、アメリカのマーケットが天井を形成しているので、これ以上円安ドル高が進むことはない。バブル化しているアメリカの市場で株価調整と金利の引き下げが起きた時が郵政事業民営化のタイミングだ。解約される194兆円は転換国債や民営化時に売却される株式に向かうだろう。大規模な民営化による売却益で払い出しは可能だ。

社会: 確かにタイミングさえ間違えなければ、民営化はマクロ経済に混乱をもたらさないかもしれない。だが民営化された「郵貯銀行」は利益第一主義に走って、弱者を切り捨てる恐れがある。イギリスのような金融ビッグバン先進国では、銀行のサービスを受けたい人と銀行がサービスを提供したい人とのギャップが広がっている。その結果、預金できる額の少ない貧乏人は、口座維持手数料を取られるので、銀行に口座が持てないという金融排除現象が起きている。

自由: すべての余裕資金が銀行に預貯金される必要はない。10万円未満の預金では利子もゼロに等しい。また電子マネーが普及すれば、銀行に口座がなくても電子決算ができる。

国家: 郵政三事業を民営化する時、当然三事業は分割するのだろうが、 それでも郵便貯金残高は、約225兆円で、都銀最上位行である東京三菱銀行の残高の4.5倍だから、民営化すれば世界最大の銀行となる。簡保の総資産量は約100兆円で、民間生保最大手の日本生命の2.5倍と、こちらも民営化すれば世界最大の生保会社となる。

自由: 郵便事業は全国1本社体制が望ましいが、郵貯と簡保は、独占禁止法に抵触しないように、分割するべきだと思う。

国家: 全国銀行協会が郵貯民営化に熱心であるのとは対照的に、生命保険協会は、簡保民営化をひそかに恐れている。郵政省の簡易保険局は、民営化の是非はともかく、仮に民営化されても簡保の優位性はゆるぎないものと自信のほどを示している。先の日産生命の破綻に代表されるように、民間生保の信用が失墜しているなかで簡保を民営化すると、さらなる民間生保の破綻を招くことになるかもしれない。

自由: 生保の場合、銀行のように元本保証というわけにはいかない。日産生命が破綻した時、保険金は最悪で45%カットとなった。もちろん、満期前に解約したら払い戻し金はゼロだ。だから不良債権のない巨大生保が国内に誕生することを生命保険協会は恐れている。民間生保とイコール・フッティングにするには、簡保と関わりの深い財投機関の債権のうち焦げ付いている部分を引き取ってもらうなどの措置が必要なのかもしれない。

司会: 郵貯と簡保の民営化は、郵便事業の民営化と切り離せないと思います。そこで次に郵便事業の民営化に話を移すことにします。

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