10月 211999
 

金儲けのために医療を行うべきではないというのが医療関係者たちの建前であるが、この美しい理念を隠れ蓑にして、非効率で、しかも患者の要望に応えない病院経営が放置されてきたことも事実である。より良い病院が選別される仕組みを作るには、どうすればよいだろうか。

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司会: 公的医療保険だけでなく、病院経営もまた維持が難しくなっています。一般病院の平均収益率は、70年には23%もあったのに、その後急激に下がり、93年には初めてマイナス1.8%となりました。国公立病院はもっとひどく、バブル崩壊以前から赤字になっています。現在、民間病院の6割近くが赤字で、国公立病院ではほとんどすべてが赤字です。補助金や税制上の特典がなければやっていけない現状のままで良いのかどうか議論して下さい。

自由: 生活保険受給者用の無料病院を除けば、地方自治体や社会福祉法人や医療法人が設置している医療機関を営利追求の株式会社にしてかまわない。

社会: 日本の医療は非営利の公共事業で、利益の追求は医の倫理になじまない。不採算部門がカットされると医療の質が低下する。

自由: もし医者が利潤を追求していないとするならば、どうして医者の所得は高いのか。病院の中には、非営利であることを誇示するために、利潤を正体不明の「経費」で支出し、意図的に赤字経営を行っているところがある。そもそも医者は経営のプロではないのだから、病院経営者には、医者よりもMBAなど経営のスペシャリストが当たるべきだ。

医療機関を株式会社化すると、設備投資の費用を容易に調達できるメリットがあるが、もう一つのメリットとして、後継者不足の問題の解消を挙げることができる。東京都が93年に調査したところ、都内の開業医のうち後継者が決まっていると答えたところは30.8%で、48.0%は後継者がいないと答え、さらにそのうちの7割が自分の代で廃院すると答えている。農業経営の場合と同様、医療機関を自分の所有物として子供に継がせるという前近代的な所有形態を改めない限り、後継者問題は解消しない。

国家: 診療所の後継者不足問題の背後にあるのは、患者の大病院志向ではないのか。若い医者の間でも、地域のホームドクターになることよりも高度な技術が学べる大病院での勤務を希望する人が多い。

自由: そうした患者の大病院志向が、3時間待ち3分診療などの問題を引き起こしている。医療費が全額患者負担になれば、症状が軽い場合、高い大病院よりも安い診療所に患者が行く傾向が強まる。大病院の需要が縮小すれば、医者も診療所に就職せざるを得なくなる。現在、大学病院医局が医師の人事を決めているが、市場原理が機能し、病院が競争を始めると、病院は系列を超えて優秀な人材を求めるようになることが期待される。

社会: 相変わらず市場経済万歳だね。だが医者が営利を追求し始めると、安部英帝京大学教授の引き起こした薬害エイズ事件や日高弘義名古屋大学教授が引き起こした汚職事件などの不祥事が頻発するようになるだろう。金のために患者の命をおろそかにすることはあってはならない。

自由: 現行の新薬承認制度が抱える最大の問題は、企業が直接医師に委託研究費を払って臨床試験(治験)を依頼するところにある。製薬会社は治験を厚生省に依頼し、厚生省が適任の医師に試験を依頼するというように厚生省が両者の間に入るべきだ。そうすれば、製薬会社はどの医師が治験をするのかわからないし、医師もどの製薬会社の薬を治験しているのかわからないから、製薬会社が、依頼先の医師に不正に便宜を図る事件が起きないようになる。

ところで日本の上位二十番までの大手製薬会社のうち、海外売り上げ比率が5%を超えるところは1社もない。こんなに国際競争力がないのに、経常利益率は他の製造業と比べて格段に高い。その秘密は、治験担当医との癒着にある。大学教授に金をまいておけば、外国では誰も買ってくれない薬をいくらでも日本で売ることができるし、外国では良い薬とされているものを日本で売れないようにできる。その結果、日本の患者は、効果がなくて副作用の多い国内産の薬を高値で買わされることになる。

国家: 生活保険受給者用に非営利の無料病院を作れば、まじめに働いて医療費を払っている人がばかを見る。生活保険は、人々の貯蓄意欲を減退させ、自助自立を妨げるモラルハザードをもたらすことにならないのか。

自由: そうならないための工夫が必要だ。私は、このフリップ(図9)に示したような所得税の体系を提案したい。このグラフの45度線が税引き前の所得で、mは平均国民所得で、m-nは免税所得だ。赤色の領域は生活保険の支給額で、所得が増えれば、保険金は減るが、トータルでは収入が増えるようになっている。こうすれば、生活保険受給者に、勤労意欲がわくので、モラルハザードにならない。

図9 所得税制改正案

また生活保険受給者のための無料医療施設などの財源を捻出する方法としてドネーション・マーケット方式を提案したい。従来のように国公営で経営すると非効率で不必要な施設が自己目的に存続する懸念がある。そこで、この図にあるように、高額所得者に、累進課税の原則に従って、中所得者よりも高い税率を課し、そのかわり福祉を含めた与えられた選択肢の中から使い道を選べる権利を与える。つまり自分が評価する非営利の公的活動に寄付する。相続税についても同様の制度を作る。これまで政府や外郭団体の仕事であった分野に民間の非営利活動法人の参入を認め、その資金調達方法に寄付制を採り入れることにより、この分野でも市場原理が機能して、成果を上げている非営利活動には寄付が多数集まるようになる。もちろん寄付は非政府活動に対してだけでなく、政府の特定プロジェクトに対して行っても良い。

従来日本の公益法人は、主務官庁の天下りOBが行う事業の節税手段として利用されてきた経緯があり、必ずしも公益に奉仕していない。そこで近年NGOやNPOなどの、より草の根的な組織の活動が注目されるようになった。これらの非営利活動法人は、98年3月に公布された特定非営利活動促進法により、法人格の認証が可能となったが、これだけでは不十分だ。公益法人に認められている収益事業の軽減税率制度などの税制上の優遇措置を廃止して公益法人の利権色を薄め、現在の許可制を認可制にし、公益法人を非営利活動法人に格下げする。

国家: そうすると、例えば新興宗教の信者が、宗教法人の経営する慈善団体や学校へ寄付するように見せかけて、お布施を間接的に寄進し、その結果、本来国の税収となるべき金がいかがわしい宗教儀式や信者獲得のために浪費されるということもあるのではないか。

自由: 現在宗教法人は公益法人の一種とされているが、憲法第二十条に記されているように、国家が宗教に対して中立的でなければならない以上、当然寄付税対象に宗教活動が含まれてはならない。税金を使う以上は、非営利活動法人の財務と事業内容の情報開示が義務づけられてしかるべきだし、本来の趣旨と異なる活動を行えば、寄付のリストからはずし、非営利活動法人としての認可を取り消すことだってするべきだ。これまで公益法人の設立に厳しい許可制が採られてきたのは、数を増やすと税収が落ち込むからだ。その結果休眠法人を売買するアングラマーケットまである。しかし税制上の優遇措置を廃止すれば、公益法人はいくら認可してもかまわない。寄付が集まらなければ、公益法人や非営利活動法人のメリットは何もないからだ。「作らせない、潰さない」よりも「作らせて、潰すと脅す」方が、不正行為の予防になる。

国家: 医療機器メーカーの社長が、特定病院に寄付をして、その見返りとして自社の商品の購入を迫るというようなことがあるのではないか。

自由: 寄付は匿名で行う。政府が寄付者と非営利活動法人の間に入るので、そうした癒着は起きない。寄付を受ける法人には寄付者の親族がいてはいけないなど条件を課す必要もある。また高齢者が、在籍中に施設への遺産の寄付を約束することも禁止するべきだ。判断力を失った高齢者に寄付を強請したりすることは現に起きているし、早く高齢者が死んだ方が、寄付の額が多くなるような仕組みは、施設側に好ましくないインセンティヴを与える。

社会: 非営利活動法人のなかには、寄付を多く集めるために、本業を疎かにして広告に力を入れるところも出てくるだろう。その結果寄付で集まった金がマスコミに流れることにならないか。

自由: 非営利活動法人の広告は、非営利のマスメディアでのみ許可すればよい。そうすれば寄付金は営利企業に直接には流れない。現在NHKは、視聴者から直接料金を取っているが、ドネーション・マーケットのメディアとして広告収入で経営されるべきだ。またテレビでもラジオでも、NHKは複数のチャンネルを持っているので、二つに分割し、公共放送自体にも競争原理を導入するべきだ。

社会: 高所得者は、慈善活動団体よりも、宇宙開発事業団や美術館など自分たちに関係のある非営利事業に寄付するだろう。そうした寄付の偏りはどうやって防ぐのか。

自由: プロジェクトのジャンルごとにあらかじめ政府サイドで寄付総額に占める配分比率を決めておく。それでも一つのプロジェクト・ジャンルに対して複数の候補がいるから、競争原理は確保される。

国家: 寄付する人が、しっかり事業内容を検討して選ぶかどうか疑問だ。非営利活動法人は星の数ほどある。選ぶのが面倒ではないか。

自由: 知名度の低い、小さな非営利活動法人の場合、同じような全国の団体とグループを作ってまとめて寄付を求めたらよい。また寄付税が導入されたら、当然マスコミは、寄付の参考になる各種ランキング表を作って出版するようになるだろう。

社会: ランキング表を参考に寄付したら、特定の非営利活動法人に寄付金が集中するのではないか。

自由: それでよい。寄付金が多く集まったら、寄付金が集まらない非営利活動法人の業務を引き継いで、活動を拡大できる。効率的な経営で成果を上げているところや、おもしろいアイデアでユニークな事業を行っているところが生き残ればよいのだ。

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