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石油に代わるエネルギーは何か

2000年6月24日

近代工業を育ててきた石油や石炭は有限な資源であるから、いつかは枯渇すると考えられている。また石油や石炭の燃焼は、さまざまな公害の原因となっている。こうしたことから、オイルショック以来、先進国は、石油や石炭の代わりとなるクリーンなエネルギー資源を模索している。一般にはそれほど注目されていないが、私は、最も理想的な代替エネルギー資源はメタンだと考えている。メタンのどこが優れているのか、原子力発電、太陽発電、風力発電、水力発電など他の候補と比較しながら、説明していきたい。

Image by Johannes Plenio from Pixabay

1. 代替エネルギーの主な候補

1.1. 原子力発電

原子力発電が事故を起こした時、いかに危険であるかは誰もが知っている。では、もし安全に運転してさえいれば、問題がないのかといえば、そうでもない。日本の原発推進派の人々は、「原子力エネルギーは、安くて、しかも二酸化炭素を排出しないクリーンなエネルギー」と宣伝しているが、これがまったくのうそなのである。

まず、原子力発電が二酸化炭素を排出しないということはありえない。発電所の建設やウラン燃料の加工などで石油が使われ、二酸化炭素を出すだけでない。原発は、核分裂によって生じた熱エネルギーの三分の二を廃熱として捨てているのだが、その廃熱は温排水として海に流され、海水の温度を上昇させる。海水の温度が上昇すると、コカコーラを温めた時と同様に、海に溶けている二酸化炭素が大気中に放出される。100万キロワットの原発を1日運転するだけで、1000トンもの二酸化炭素が大気中に放出される。もちろん温められるのは主として海表面であるが、海表面にはたくさんの植物プランクトンがいる。大気中の二酸化炭素は、植物プランクトンの光合成に利用され、そして固定された炭素は、プランクトンの死骸とともに海底に沈む。だから海水の二酸化炭素濃度の減少が植物プランクトンの光合成を妨げると、さらに海の二酸化炭素吸収力を下げるおそれがある。

また原発が経済的というのもうそである。毎年政府が多額の公的資金を投入しなければならないことは、原発が採算のとれない発電方式であることを雄弁に物語っている。日本でも、世界の潮流にあわせて電力を自由化することになっているが、応募企業の卸売市場での希望売電単価は、キロワット時あたり5-6円である。日本の原子力発電の売電単価は、多額の税金の補助を受けているにもかかわらず、キロワット時あたり11-12円と割高である。もっとも原発の場合、放射性廃棄物の処理費や廃炉費などのバックエンド費用が十分に内部化されていないので、キロワット時あたり11-12円でもまだ安すぎると言われている。また原子力発電は、常に運転しつづけなければならず、電力需要にあわせた柔軟な供給調整ができないのだから、今後さらに20基増設するなどということはナンセンスである。高コストの原発は、電力自由化時代には、増設どころか、すべて運転停止に追い込まれるだろう。市場原理により、効率の悪い発電はよろしく淘汰されるべきである。

1.2. 太陽光発電

太陽光発電も、主要なエネルギー資源にはならない。日中しか稼動しないし、適当に雨が降らないとパネルに埃が積もって性能が落ちるから、日中もフル稼働というわけにはいかない。だからエネルギー効率が悪く、太陽光発電機器一式を作るのに必要なエネルギーを太陽光発電で回収するには10年かかると計算される。施設の廃棄に必要なエネルギーまで回収しようとすれば、もっとかかる。こうしたエネルギー消費が、石油の燃焼による環境汚染を引き起こしていることを考えると、太陽光発電がクリーンなエネルギーだとは言いがたい。また雨風にさらされる太陽光発電施設は時間とともに性能が劣化するので、もとをとれる頃には、故障などにより使い物にならないケースが多い。つまり、太陽光発電器は、エネルギーの生産者ではなくて、消費者になってしまう可能性があるということである。

エネルギー収支の黒字化も難しいが、経済収支の黒字化はさらに難しい。日本では、太陽光発電施設の購入に際して、費用の三分の一が公的に補助され、さらに住宅金融公庫からソーラー住宅には150万円の割り増し融資をつけてもらえることになっているが、それでも発電によるメリットの収益率を計算すると、公的融資の利率を下回るので、時間とともに赤字幅は拡大していくばかりになる。地球にやさしいわけでもなければ、経済的合理性もない太陽光発電機器が、公的資金による補助と「市民の高い環境意識」とやらに動機付けられて販売台数を増やしているのは嘆かわしいことである。

1.3. 風力発電

風力発電の場合も太陽光発電と同様に、発電が自然の気まぐれに左右されるので、バックアップ用の発電機が必要で、両者の電力調整のための施設を作ることにより、初期投資額が膨大になってしまう。さらに風力で発電するためには、あまり風力が強いと発電装置が壊れるので、一定の風速の風がコンスタントに吹いていることが条件となるが、そうした条件を満たす地域は少ない。あったとしてもそうした風力資源地域の大半はエネルギー消費地から遠く、電力の輸送のために長い送電線が必要で、これもコスト高とエネルギー効率の低下をもたらしている。風力発電の売電単価はキロワット時あたり15円で、太陽光発電の25円ほどではないにしても、価格面で競争力がないことは確かである。そしてこの単価の高さは、エネルギー効率の低さをも示している。

初期投資額が大きくても、風力発電は、一度造れば半永久的に使えるのだから、長期的には安くなると信じている人もいるが、実際には保守費用が必要だし、また風力発電を使いつづけると、軸と軸受けの摩擦等により、時間とともに性能が劣化するから、エネルギー収支や経済収支が長期的に黒字になる保証はない。1980年代にカリフォルニアで風力発電ブームが起きて、15000機以上が建設されたが、優遇税制措置が失効すると、採算がとれなくなって放棄され、あちこちに風車の墓場が無惨な姿をあらわすようになった。日本でも、電力自由化で、風力発電は淘汰されることになるであろう。

風力発電には、鳥類がプロペラに巻き込まれて死亡するという事件が相次いでいる。次の項で述べるように、鳥類は自然の生態系を守る上で重要な役割を果たしているのだから、「風力発電は自然にやさしい」という宣伝文句は怪しいのである。

1.4. 水力発電

水力発電は自然エネルギーを利用したクリーンなエネルギーと考えている人は少なくない。しかしダムを建設して川の流れをせき止めることは、栄養分が山から川を経て海に流れ、漁業資源を育み、魚を食べる鳥や動物の糞や死体となって再び山に還元されるという自然の循環を遮断するという意味で、たんに水没する地域だけでなく、山と海を含むより広範な自然の生態系を破壊するのである。日本ではダムは過去の存在となったが、発展途上国では、中国が長江三峡ダムを建設するなど、先進国の失敗を教訓としないプロジェクトが相次いでいるので、世界的には現在進行形の問題である。

2. 本命候補としてのメタン

以上代表的なクリーンエネルギーの候補を検討してきたが、どれも石油の代替エネルギーとしては失格である。しかし私は、以下の理由で、メタンが石油以上に望ましいエネルギー資源だと考える。

2.1. クリーン

天然ガスは、燃焼時に硫黄酸化物を排出しない。また窒素酸化物や二酸化炭素の排出量も石油や石炭よりずっと少ない。メタン単独はさらにクリーンで、燃焼しても水と二酸化炭素しか発生しない。メタンは燃焼以外の方法でも使える。クリーンな発電方法として今話題の燃料電池の原料は水素であるが、その水素はメタンから作られる。

2.2. ストックが豊富

在来型の天然ガスの確認埋蔵量(1995年)は、148兆8750億立方メートルで、寿命は69年ということになっているが、究極埋蔵量は300兆立方メートル程度と計算されているので、100年以上はもちそうである。またこれとは別に、非在来型資源であるメタンハイドレートの存在が各地で確認されている。

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天然ガスの国別産出量。この地図を見てもわかる通り、天然ガスは世界各地で生産されており、産地の偏りがもたらす地政学的リスクは少ない。[1]

メタンハイドレートとは。水分子の中にメタンガスの分子が入り込んで、ある圧力、温度条件のもとで結晶化した、メタンの水和物(ハイドレート)のことである。氷状の半透明物体であることから、燃える氷とも言われている。近年、北極圏などの凍土層下部の他、深さ数百メートル程度の浅い海底下からも相次いで発見され、重要な資源として注目されている。日本の領海でも多くのメタンハイドレートが確認されている。南海トラフ海域にある4.2兆立方メートルのメタンガスだけでも、日本国内の天然ガス消費量の82年分に相当する。外国の政情不安に左右されないエネルギー資源という意味でも魅力的だ。

メタンハイドレートの採掘可能な資源量は、250兆立方メートルと試算されている。合計すると 地球上の採掘可能なメタンの潜在的なエネルギーの量は石油の2倍以上である。しかも石油のように特定地域に偏っていない。日米欧のような大消費地 の近くにも大量のストックがあるので、輸送コストを下げることができる。

地球が温暖化するにつれて、メタンハイドレートが融解し、メタンが大量に大気中に放出される。メタンガスは、天然ガス(炭化水素化合物)の主成分として幅広く使われている貴重な資源であるが、同時に、分子あたりで二酸化炭素の21倍の温室効果を持つ地球温暖化原因物質でもある。人類は、石油を資源として利用することなく海に流して環境を破壊するような、二重の意味でもったいないことをしているのである。地球温暖化がメタンガス濃度を高め、メタンガス濃度の上昇が地球温暖化を促進するというポジティヴフィードバックによる温暖化の暴走が懸念される。これを防ぐためには、メタンハイドレートを融解する前に燃料として使うべきだ。メタンガスを燃やすと温室効果が20分の1になるからだ。

2.3. 再生可能

メタンは自然の循環を利用して人為的に生産することができる。動物の排泄物や死体、生ごみ、木材など有機物のごみは、密閉した容器に入れておくと、バクテリアの嫌気性発酵により分解される過程でメタン、二酸化炭素、アンモニアなどのガスを発生する。そのうちメタンの占める割合は、50-60%で、これを貯留し、エネルギー回収することができる。分解後の有機物は、肥料として農業で使われる。こうしたメタン発酵は、バイオマスと呼ばれ、一石三鳥の汚物処理方法として、日本の畜産農家などで既に実行されている。

2.4. エネルギー効率がよい

火力発電や原子力発電のエネルギー効率は35%であるが、天然ガス発電の場合、廃熱を、蒸気タービンを回すことに再利用するガスコンバインドサイクルだと、50%のエネルギー効率を達成できる。また廃熱を給湯や冷暖房などに利用するコージェネレーションシステムだと、エネルギー効率は80%にもなる。ちなみにこうした廃熱の再利用は、消費地から遠く離れたところに立地している原子力発電所ではできない。

2.5. 安価

天然ガスの発電コストは、世界的には、石油より安い。日本では、遠隔地で液化して輸送しているために、石油より高くなるが、国内で生産して気体のままパイプラインで輸送すれば、輸送コストを安く抑えることができる。多くの環境保護運動家は、たとえコストが高くても、補助金でクリーンエネルギーを普及させるべきだと主張しているが、今後発展途上国が環境破壊の主役になっていくことを考えると、補助金がなくても、市場原理で普及していく経済性がどうしても必要である。

先見の明があるアメリカは、早くも核エネルギーに見切りをつけ、メタンエネルギーの研究開発に力を注いでいる。他方日本では、自らの利権を守ろうとする原子力関係の御用学者たちが「21世紀のエネルギーは核融合」と宣伝し、建設費1兆円のトカマク磁場閉じ込め核融合炉を日本に誘致しようとしている。

1992年から98年にかけて、米国、ロシア、EU、日本の4極で国際熱核融合実験炉の設計および建設コストなどの評価をおこない、この方法による発電設備は、従来の核分裂炉に比較してキロワット当たりの建設単価が数倍高くなること、その構成システムの種類が核分裂炉より約2倍以上多く、かつ炉の構成が複雑に絡み合っていることなどから、市場経済性とプラントの信頼性確立の両面で実用化は不可能であるという結論が出た。そして、米国は撤退を決定、ロシアやEUもこれ以上予算を出さない方針を決めている。ところが日本は、この失敗確実で危険極まりない実験炉を、赤字で苦しむむつ小川原開発地区や苫小牧東部開発地区の「活性化」のために、日本で建設しようとしている。日本の原子力関係者は1兆円の負担をすることで「国際貢献ができる」と胸を張っているが、海外では、この愚かな決断はもっぱら嘲笑と軽蔑の的になっている。

3. 参照情報

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注釈一覧