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差異への欲望

2001年4月8日

ブランド物で身を固め、ライバルにファッションセンスの違いをひけらかす女性たち、経歴や肩書きで一般大衆との違いを誇示しようとする知的エリートたち、自分の影響力を見せつけ、部下の忠誠を絶えず確認しようとする、猿山から永田町にいたるあらゆる場所にいるボスたち…多くの人々は、差異への欲望を満たそうとする。

Image by Ahmad Ardity from Pixabay
最新のファッションへの興味は、凡庸な服を着ているライバルとの差異への欲望に基づいている。

1. 父権社会での差異への欲望

私たちの差異への欲望は、幼少期のペニス羨望と去勢コンプレックスを原型としている。フロイトによれば、女児は、ペニスがないことに劣等感を感じ、ペニスを欲しがる。男児は、女性にペニスがないことを発見して衝撃を受け、父親からペニスを奪われるのではないかという恐怖心を抱くようになる。

この精神分析学の理論は、フロイトの時代の男性優位社会を背景にしている。当時の家族の中では、父親が最も高資本であった。その高資本を象徴するファルスが、父親のペニスであったわけである。

2. 母権社会での差異への欲望

もし、私たちの社会が女性優位であるならば、乳房がファルスとして機能するにちがいない。ただし、ペニスの場合とは異なって、女児にも男児にも、最初から母親のような豊かな乳房を持たないから、女児が持つ去勢コンプレックスは、「ママは、私がパパの愛を奪わないようにするために、いつまでも胸をぺちゃんこにさせつづけるかもしれない」といったものになるであろう。一方男児は、いつまでたっても胸が膨らまないおのれの運命を知り、劣等感を感じるにちがいない。

ペニスと乳房は、女性性器や男性の薄い胸といった欠如態を否定する記号である。女性性器や男性の薄い胸も、性を差異化することができるが、ペニスと乳房は、これ見よがしの顕在性、手で掴むことができる形状ゆえに、ファルスとして、欲望の対象となることができる(もともとファルスは、ギリシャ語で、膨らんだものという意味だった)。

3. 差異への欲望の一般化

ちょうど経済資本を代表象する紙幣や文化資本を代表象する卒業証明書などが、それ自体としては取るに足りない紙切れでしかないように、ペニスも乳房も、それ自体としては取るに足りない肉の塊でしかない。しかしこれらの象徴は、しばしばフェティッシュな欲望の直接的な対象となる。

ただし、性欲自体は、ここで謂う所の差異への欲望ではない。性愛は、男女が相互に異性に惹かれるので、対称性を持つ。これに対して、差異への欲望は、非対称性に基づく。貧乏人は金持ちに憧れるが、金持ちは貧乏人に憧れはしないのである。