7月 232003
 

植物が実を結ぶように、あるいは動物が子供を産むように、お金は、貸せば利子を生むものだと私たちは考えている。しかしお金とお金がセックスをして子供を産むわけではない。では、なぜお金は利子を生むのか。これに関しては、様々な説があるので、それらを1つづつ検討していきながら、結論を出すことにしよう。

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1. 禁欲説

利子とは、貨幣を消費に使うことを抑制したことへの対価である

この禁欲説は明らかに間違っている。金庫の中に貨幣を入れ、むらむらと湧き上がる煩悩に心を動かすことなく、長期にわたって使わなかったからといって、金庫が「よく我慢したね。はい、これ我慢代」と言って利子を払ってくれるわけではない。利子が生まれるのは、貨幣を他人に貸した場合だけである。

2. 利潤説

利子とは、資本家が労働者から搾取した利潤の一部である

マルクス経済学によれば、金融資本の所有者は、経営者に貨幣を貸すことにより、経営者が労働者から搾取した利潤の一部を利子として受け取ることができる。もしこれが利子の本質だとするならば、利子と配当の区別があいまいになる。経営者は、多くの利潤を上げることができた時には、多くの配当を株主に還元し、利潤が小さい時には配当を見送る。しかし利子の場合、利潤が多いか少ないかとは関係なく、借り手は支払わなくてはならない。したがって、利子と利潤は、直接には関係がない。だが、間接的には関係がある。そこで次の説が登場する。

3. 機会費用説

利子とは、お金を貸すことによって奪われる可能的利潤である

この説によれば、利子率は、もしお金を他人に貸すことなく、自分の事業の資金として使った場合、期待できる平均的な収益率によって決まる。だから、貸した相手が、たまたま多くの利益を上げたかどうかということとは関係なく、一定割合の利子を要求することができるわけである。では、機会費用がマイナスであるような縮小再生産の経済では、金利もマイナスになるのだろうか。平均的な収益がマイナスであるような経済では、誰も借金して事業を起こさないともうかもしれない。しかし、例えば、賞金の期待値が賭け金の額より小さく、平均的な収益がマイナスになるにもかかわらず、人々は「自分だけは例外だ」とはかない夢を抱いて宝くじを買うように、事業家は、「自分だけは例外だ」と思い込んで起業するものなのである。他方、300円の宝くじを買った全員に100円の賞金があたるというだけの宝くじは誰も買わない。同様に、利子率がマイナスの債券は誰も買わないのである。このように、機会費用説は、平均的な機会費用がマイナスになっているデフレ経済でも、なぜ利子率がマイナスにならないのかを説明することができない。

4. 賃借説

利子とは、お金の借りるために支払うリース料金である

例えば自動車をリースで使う場合、リースカー所有者にリース料金を支払うように、お金を借りた時にも、借金のリース料金、すなわち金利を支払わなければならないという賃借説は、常識的に誰もが思いつく説である。だが、カーリースと借金には、大きな違いがある。自動車は、使っているうちに消耗し、寿命が来れば使い物にならなくなるので、価値はゼロになる。ところが、紙幣は、使っているうちに消耗することはするが、いくら手垢にまみれて汚くなっても、日銀の発券課にもって行けば、新品の紙幣と交換してもらえる。つまり貨幣は、消耗により減価しないのである。実際のカーリース料金の内訳を見ると、減価償却費と金利は別になっている。このことは、リース料金のコアである減価償却費と金利は性格を異にすることを物語っている。

5. 流動性プレミアム説

利子とは、流動性を放棄することに対する代償である

一般に、普通預金の金利よりも定期預金の金利の方が高い。これは、定期預金のほうが普通預金よりも流動性(貨幣に変換する容易さ)が低いからである。しかしすべての利子を流動性プレミアムで説明することができるだろうか。長期債は短期債よりも流動性が低いが、「目下金利は高いが、将来金利は下がるだろう」と多くの市場参加者が予測する時、長期金利が短期金利を下回る場合がある。さらに、この予測がはずれ、金利が高い水準で推移する時、利子率だけでなく、利子額でも短期債が長期債を凌駕することもある。この例は、流動性プレミアム説だけでなく、次の説の反証例になる。

6. 時差説

利子とは、貨幣の現在での価値と将来における価値との差額である

確かに、エントロピーの法則を援用するまでもなく、時間とともに不確実性が増大するので、「今1万円やる」と約束される方が、「1年後に1万円やる」と約束されるよりも嬉しい。もし1年後の1万円が今の8000円ほどの値打ちしかないとするならば、8000円の借金に対して2000円の利子をつけなければいけない計算になる。だが、時間だけで利子が説明できるだろうか。実際には、利子率は時間の長さ以外の変数でも変動するし、長短の利子率が逆転することもある。さらに、この学説も、貨幣の価値が現在よりも将来の方が大きくなるデフレ経済のもとでもなぜ利子率はマイナスにならないのかを説明することができない。そこで、私は次の説を主張したい。

7. リスク代償説

利子とは、貨幣資産を減価するリスクに対する代償である

他人にお金を貸すと、様々なリスクを抱えることになる。貸出先が倒産する貸し倒れリスク、固定金利のときのインフレリスク、もっと有利な運用先があるかもしれないという機会費用リスク、必要な時に貨幣として消費できない流動性リスクなどである。前節で確認したとおり、価値とは低エントロピーのことだから、貨幣の所有権/使用権の不確定性(エントロピー)が増大すると、その分価値は低くなる。お金を貸すことによって増大したエントロピーは、借り手が利子を支払うことで代償しなければならない。このネガティブな交換が利払いの本質なのである。

リスク代償説の観点からすれば、機会費用説、流動性プレミアム説、時差説は、真理の一面を捉えていると言うことができる。これらの説がその一面性ゆえに説明できなかった2つの現象をリスク代償説で説明しよう。

まず、長期金利と短期金利の逆転であるが、一般に、長期債の方が短期債よりも貸し倒れリスク・流動性リスク・機会費用リスクが高いので、金利も高くなる。しかしもし短期的にインフレだが長期的にはデフレになる可能性が高いのであれば、インフレリスクのゆえに、短期の名目金利よりも長期の名目金利の方が低くなる。

もう1つの、なぜデフレ経済のもとでも金利がマイナスにならないのかという問題についてだが、デフレ経済のもとでは、インフレリスクと機会費用リスクがしばしばマイナスになるが、デフレは不景気をもたらすのだから、それ以上に貸し倒れリスクが高くなるので、マイナスにはならない。

もっとも現在のようなゼロ金利のデフレ経済のもとで、窃盗や火事などによって、自宅に保管している貨幣資産が失われるリスクが貸し出しリスクとあまり変わらないほど高く、そのリスク格差が預金することによって得られる決済上の便益を超えるほどではないなどの条件がそろえば、預金者が口座維持手数料と称するマイナスの金利を支払うということも、考えられなくはない。

読書案内
書名貨幣・利子および資本―貨幣的経済理論入門
媒体単行本
著者C. ロジャーズ 他
出版社と出版時期日本経済評論社, 2004/06
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