7月 292003
 

本章では、農業革命、都市革命、精神革命、産業革命という文明時代の四つの革命を取り上げる。これらの革命は、2500年周期に現れる寒冷期に対応している。なぜ寒冷期は、周期的に現れるのか。太陽黒点数の関係から論じよう。

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1. ジェボンズの太陽黒点説

1876年に、限界効用理論の提唱者の1人であるウィリアム・ジェヴォンズは、科学雑誌『ネイチャー』に「商業恐慌と太陽黒点」という論文を発表し、太陽黒点数と景気循環との連動を指摘した。太陽黒点とは、太陽表面上に観察される斑点で、周囲より温度が低いために光の放射が相対的に弱く、暗く見える。太陽黒点数が増えると、太陽活動が活発になることがわかっている。ヨーロッパでは、その存在が17世紀に確認され、4世紀にわたって、その数の変動が記録されている。ジェヴォンズが発見したのは、今日ジュグラー・サイクルと呼ばれている景気循環の主循環が、約11年を周期とするの太陽黒点数の増減サイクル(シュワーベ・サイクル)に対応しているということだった。

確かに、設備投資の伸び率と太陽黒点相対数との間に正の相関関係を観て取ることができる。最近の例だと、1989年の不動産バブルとその11年後に現れた2000年のネットバブルは、いずれも太陽黒点数の極大期に相当する。経済学者は、機械の寿命は約十年なので、設備投資は約十年ごとに増減すると説明するが、機械設備の耐用年限は、実際にはまちまちだから、この説明は苦しい。実際のところ設備投資の増減が景気の変動をもたらすのではなくて、景気の見通しが設備投資に影響を与えているのだから、因果関係が逆である。

2. 様々な周期の重層構造

この主循環の他に、約40ヶ月を周期とするキチン・サイクル、15~25年を周期とするグズネッツ・サイクル、50~60年を周期とするコンドラチェフ・サイクルが、経済学の分野で指摘されているが、それぞれ、2~4年(太陽黒点周期の3分の1)周期のエルニーニョ・サイクル、約22年(太陽黒点周期の2倍)周期のヘール・サイクル、約55年(太陽黒点周期の5倍)周期の吉村サイクルに対応している。

コンドラチェフ・サイクルは、金利や物価の波動なのだが、物価が上昇し、名目金利が高くなる1815年、1870年、1920年、1973年は、太陽黒点数の少ない時期に対応している。逆に、黒点数が増えると、物価が下落し、名目金利は低くなる。特に1880~1935年の吉村サイクルは、他の吉村サイクルと比べても、際立って山が低いが、それは、この期間が、さらに規模の大きな長期の波動、太陽大周期の谷に当たるからだ。

太陽大周期とは、約200年ごとに現れる、太陽黒点数の極小期である。1900年前後の極小期の200年前に当たる1700年前後にはマウンダー極小期、さらに200年前に当たる1500年前後にはシュペーラー極小期、さらに200年前に当たる1300年前後にはウォルフ極小期がある。これらの三つの極小期には、こうした固有名詞がつくぐらいに太陽黒点数が激減した。14世紀から18世紀にかけての時期は、現在の温暖期や中世温暖期と比べて寒く、小氷期と呼ばれているぐらいであるが、それは、この期間が、さらに規模の大きな長期の波動、2500年周期の谷に当たるからだ。

太陽黒点数は、2500年ごとに、ほとんどゼロになる時期が来る。その時期は、気温も低かったことがわかっている。そして興味深いことに、農業革命、都市革命、精神革命、産業革命という、完新世の人類史を画期する四つの重要な革命は、気候が寒冷化する、つまり太陽黒点数が減少する時に起き、太陽黒点数が増えて、気候が温暖になると、社会は安定期を迎え、特筆すべき出来事に乏しくなるという意味での暗黒時代になる傾向がある。四つの革命については、第2節以降の四つの節で、それぞれ詳しく説明するが、ここでは、以下の完新世の五つの周期で、4種類の革命の時期を確かめていもらいたい。

第1周期(2500年間)

紀元前9000~8000年 寒冷期→第1次農業革命

紀元前8000~7500年 温暖期

第2周期(4000年間)

紀元前7500~6000年 寒冷期→第2次農業革命

紀元前6000~3500年 温暖期

第3周期(2500年間)

紀元前3500~2500年 寒冷期→都市革命

紀元前2500~1000年 温暖期

第4周期(2300年間)

紀元前1000~400年 寒冷期→精神革命

紀元前400~紀元後1280年 温暖期

第5周期(継続中)

紀元後1280~1715年 寒冷期→産業革命

紀元後1715年~現在 温暖期

これを見ると、4番目の周期の温暖期が異常に長いことに気が付く。この時期は、ヒプシサーマルあるいは気候最適期(クライマティック・オプティマム)という固有名で呼ばれるほどに暖かく、また持続期間も長い。それは、この期間が、さらに規模の大きな長期の波動、10万年周期で氷河期と間氷河期を繰り返すサイクルの頂点に当たるからだ。

3. 何が周期性をもたらすのか

こうした太陽黒点数と人類文明との相関関係が偶然の産物でないとするならば、両者の間にどのような因果関係があるのだろうか。なぜ吉村サイクルの頂点とコンドラチェフ・サイクルの谷間は一致するのか。つまり、なぜ黒点数が増えると物価は下落するのだろうか。

従来の仮説は、太陽黒点数が増えて、太陽光エネルギーが強くなると豊作となり、農作物が牽引役となって物価が下落するというものだった。私はこれを入り口の仮説と名付けたい。この入り口の仮説によれば、太陽黒点数の変動から直接影響を受けるのは農業だけで、工業など他の産業への影響は、せいぜい間接的ということになる。しかし、実際には、工業は、農業以上に太陽黒点数の変動から影響を受けている。

私は、入り口の仮説を否定するつもりはないが、これだけでは不十分だと考えている。そこで、次のような出口の仮説を提唱したい。太陽黒点数が増えて、太陽放射の強度が高まると、地表面の温度が上昇する。すると、地表面と上空との温度差が大きくなり、対流圏の対流が活発になる。地球とは、高熱源と低熱源の格差が広がることで熱効率を上げる、一つの熱機関なのだ。工業は、農業以上に大量の廃棄物を出し、そして廃棄物は処分されることで最終的には廃熱となり、廃熱は対流に運ばれて宇宙へと捨てられる。だから、大気の対流が活発になれば、生産物の製造コストが下がり、物価が下落する。

個人であれ、社会であれ、生命システムは、自らを維持する上で、資源問題、すなわち、いかにして低エントロピーな資源を入手するかという入り口の問題と、環境問題、すなわち、いかにして高エントロピーな廃棄物を捨てるかという出口の問題を抱えている。だから、太陽が地球に及ぼす影響を説明する時も、入り口の仮説だけではなく、出口の仮説も必要である。

地球は、太陽から低エントロピーな短波放射を取り入れ、高エントロピーな長波放射を宇宙に捨てることで、地上の生命システムを含めた散逸構造を維持している。太陽黒点数が増え、新陳代謝が活発になり、地球のエントロピーが小さくなる状態を資源インフレーション、逆の場合を資源デフレーションと呼ぶことにしよう。なお、たんにインフレ/デフレという時には、貨幣インフレ/貨幣デフレを意味するものとする。資源インフレは(貨幣)デフレを、資源デフレは(貨幣)インフレをもたらす。このように、物の価値とお金の価値の間には、負の相関関係がある。

産業革命が起きるまで、重要な変革は、寒冷期、すなわち資源デフレの時期に起きることが多い。これは、人類が過大な生産能力を手にするまでは、資源不足だけが、システムの存続にかかわる重大な危機だったからだ。資源デフレが進行し、エントロピーが増大すると、社会システムはエントロピーを縮減するために、中央集権化による政治と経済の統制、供犠型カタルシスによる環境の再設定、生産性向上のための技術革新、資源略奪型戦争による帝国の建設などを行う。

ところが、産業革命以後、資源デフレよりも資源インフの方が、資本主義経済の存続にかかわる重要な問題となる。資源インフレは、地球のエントロピーを減らすことで、社会システムから、エントロピーを縮減する仕事を奪ってしまう。だから、近年は、資源インフレの時期に、国家権力の中央集権化による公共投資の拡大、迫害型カタルシスによる環境の再設定、消費を増やすための技術革新、資源蕩尽型戦争によるマネーサプライの人為的リフレーションなどが見られるようになった。この現象は第9章以降で取り扱うことにして、本章では、それ以前の、四つの資源デフレ対策を見ていくことにしたい。

読書案内
書名地球環境変化と経済長期変動―太陽黒点変動との関係を中心に
媒体単行本
著者住田 紘
出版社と出版時期同文舘出版, 2000/03
書名気象・太陽黒点と景気変動
媒体単行本
著者住田 紘
出版社と出版時期同文舘出版, 2004/04
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  One Response

  1. 手元にあった黒点の増減グラフと、安定企業の株価を比較してみた写真です。黒点数の増加は、人間(社会)心理に抑制的に働き、黒点数減少は心理的に開放的に働くのではないか、という仮説(トンデモの範疇ですが)は成り立ちませんでしょうか?
    今期、黒点数が増加に転じる周期にもかかわらず、「増えない」という声も聞こえます。これはどんな社会の到来を意味しているのでしょうか。抑制の利かない、やりたい放題の社会が来るとしたら、空恐ろしいものを感じます。

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