7月 312003
 

50-60年周期のコンドラチェフ・サイクルは物価変動率の波動であって、景気循環ではない。では、物価のサイクルと成長のサイクルは、どのような関係にあるのだろうか。

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1. 物価と景気の関係

かつて経済学者は、景気が良くなると物価は上昇し、景気が悪くなると物価は下落する(少なくとも物価上昇率が下落する)と考えていた。しかし、1973年以降のオイルショックと農作物の不作をきっかけに、物価の高騰と不況が同時に現れ、逆に、80年代に石油価格と農産物価格が下落すると、物価の安定と好況が同時に現れるようになり、物価変動率と経済成長率との間にあるとされた正の相関関係が疑問視されるようになった。

このことは、1973年以降のフィリップス曲線の不安定化と関係がある。フィリップス曲線とは、縦軸にインフレ率、横軸に失業率をとったときに見られる右下がり(左上がり)の曲線のことで、60年代まで経済学者は、物価の安定と失業率の低下の間にトレードオフの関係があると主張してきた。しかし、例えばアメリカでのフィリップス曲線を見ると、73年から80年にかけては、インフレ率と失業率がともに上昇して右上がりに、逆に82年から86年にかけては、インフレ率と失業率がともに下降して左下がりに推移している。

2. 長期波動の四つの局面

こうした経済の実態を説明するためには、物価変動率と経済成長率を関連付けるにあたって、四つの組み合わせを作らなければならない。

  1. 物価上昇率が高い+経済成長率が高い
  2. 物価上昇率が高い+経済成長率が低い
  3. 物価上昇率が低い+経済成長率が高い
  4. 物価上昇率が低い+経済成長率が低い

各組み合わせに次のような名前を付けることにしよう。

  1. リフレーション(リフレ)
  2. インフレーション(インフレ)
  3. ディスインフレーション(ディスインフレ)
  4. デフレーション(デフレ)

そしてこの四つの組み合わせは、そのままコンドラチェフ・サイクルの四つの局面(上昇→頂点→下降→谷底)に相当する。以下、時系列に沿って、各局面の様子を見ていくことにしよう。

2.1. リフレ期(高い物価上昇率+高い経済成長率)

リフレ期はデフレから脱却する期間である。デフレは、貨幣供給が貨幣需要に対して、資源需要が資源供給に対して過小であることによって起こる。だから、資本主義社会においては、リフレ期には、ゴールドラッシュや金融緩和によるマネーサプライの増大や公共事業、とりわけ戦争による公的支出の拡大といった現象が見られる。戦争との関係は、次の節で詳しく説明するが、リフレ期に現れる好景気は、物価の上昇を伴った経済成長によってもたらされる。

2.2. インフレ期(高い物価上昇率+低い経済成長率)

太陽黒点数の極小期、すなわち資源デフレの時期に見られる現象である。リフレ型経済成長にともなって、資源需要が資源供給の上限を超えて増大し、貨幣供給が貨幣需要の上限を超えて増大すると、経済成長を伴わない物価の上昇、いわゆるスタグフレーションが始まる。スタグフレーションは、大規模な戦争による資源枯渇現象として現れることが多い。資源不足を解消するために、企業は生産の縮小を余儀なくされる。その結果、スタグフレーションは不況と失業率の上昇を帰結する。

2.3. ディスインフレ期(低い物価上昇率+高い経済成長率)

スタグフレーションから脱却するために、政府と民間は支出を切り詰め、金融を引き締める。その結果インフレが終息すると、名目金利は低下し、それに伴って、収益還元法によって評価される資産価格が上昇し始める。いったん資産価格が上昇し始めると、投機の過熱と資産価格の高騰の循環が始まり、資産バブルが発生する。1950~60年代の日本に見られたようなリフレ型経済成長が、物価の上昇を伴った消費主導の経済成長であったのに対して、1980年代後半の日本に見られるようなディスインフレ型経済成長は、物価の上昇を伴わない投資主導の経済成長である。ディスインフレ型好景気は、資産価格の暴落により終わる。第1波動では、1825年にイギリスで起きた南米投資バブルの崩壊、第2波動では、1873年に欧米で起きた鉄道バブルの崩壊、第3波動では、1929年にアメリカで起きた株式バブルの崩壊(暗黒の木曜日)、第4波動では、2000年にアメリカで起きたネットバブルの崩壊が有名な例である。

2.4. デフレ期(低い物価上昇率+低い経済成長率)

太陽黒点数の極大期、すなわち資源インフレの時期に見られる現象。バブルが崩壊し、デフレスパイラルが始まると、物価下落期待の自己実現により、企業は縮小再生産を余儀なくされ、雇用も減少し、経済は不況、場合によっては恐慌になる。同じ不況でも、物価の下落を伴い、金融不安が起きるという点でスタグフレーションとは異なる。スタグフレーションが物不足と金余りの危機であるのに対して、恐慌は物余りと金不足の危機であると言うことができる。デフレから脱却する努力が実ると、次の波動のリフレ期が始まる。

3. クズネッツ・サイクルの位置付け

こうして整理するとわかるように、一つのコンドラチェフ・サイクルに2つの景気循環がある。コンドラチェフ・サイクルの周期が50~60年であるから、その景気循環は25~30年の周期を持つはずだ。そしてその景気循環として、従来経済学者がクズネッツ・サイクルと呼んできた波動をあてることができる。

クズネッツ・サイクルとは、1971年に経済学者、クズネッツが建設データの調査から発見した景気循環で、その周期は15~25年とされている。周期が短めに出ているのは、重点的に研究された第4波動には例外的に三つのクズネッツ周期があるからだ。

第4波動においては、それ以前の波動とは異なり、ケインズ的なリフレ政策が積極的に行われた結果、リフレ期が長く、スタグフレーションの頂点が2つできてしまった。1回目のスタグフレーションは第2次世界大戦の終結時に現れ、2回目のスタグフレーションは朝鮮戦争に始まりベトナム戦争に終わる、米ソ間で行われた一連の代理戦争の終結後に現れた。第2次世界大戦後の不況をカウントすると、第4波動には三つのクズネッツ・サイクルがあったことになり、周期が短くなる。しかし、もしその短期間の不況をカウントしなければ、クズネッツ・サイクルの平均的な周期は、コンドラチェフ・サイクルの平均的周期の半分程度になる。

コンドラチェフ・サイクルとクズネッツ・サイクル、物価の波動と成長の波動の関係を理解すれば、不況対策としての戦争の意味が理解できるようになる。次の節では、太陽活動の盛衰と物価変動と戦争との関係を考えることにしよう。

読書案内
書名景気の長波と政治行動
媒体単行本
著者ブライアン ベリー 他
出版社と出版時期亜紀書房, 1995/08
書名Long-Wave Rhythms in Economic Development and Political Behavior
媒体ペーパーバック
著者Brian J.L. Berry
出版社と出版時期Johns Hopkins Univ Pr, 1991/02/01
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