8月 232005
 

中国通が書いた龍のトリビア『龍の百科』を読みながら、龍は男なのか女なのかを考えよう。現在の中国人は、男と考えているようだが、もともとそうだったかどうかが問題である。

1 : 龍は男で鳳は女か

蛇と鳥は、中国人にとっての二大トーテムであり、両者の戦いは、世界各地のプリミティブな社会で好まれるテーマだ。そして、中国人が愛する一対の瑞祥である龍と鳳は、蛇と鳥をモデルにしている。

池上は、龍と鳳に次のような区別があると言う[1]

龍 = 武・力・闘争・男・皇帝・陽

鳳 = 文・美・平和・女・皇后・陰

池上は、何新の仮説[2]に基づいて、次のような二元論で整理する。

何氏によれば、遥か昔の中国大陸には、二つの代表的な血族集団があった。一つは母系制で、鳳をトーテムとし、もう一つは父系制で、龍をトーテムとしていた。この二つの集団が合体して、中華民族の祖となったとする。

誤解を恐れずに、この「龍と鳳」を拡大解釈してみたい。龍は、黄河を中心とし、ムギを食べる北方系である。鳳は、長江(揚子江)を中心とし、米を食べる南方系である。思想上でいえば、龍は秩序を重んじる儒教の、鳳は自由を重んじる道教の、それぞれ系譜にある。[3]

果たして、このような単純な二元論が成り立つのだろうか。鳥は、父なる天とこの世との媒介者であり、蛇は母なる海または大地とこの世との媒介者である。父と娘、母と息子は相性が良いから、鳥が女で、蛇は男と考えてよいかもしれない。しかし、中国では、蛇/鳥の関係がそのまま龍/鳳の関係になるわけではない。

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清国国旗(1889年~1912年)に描かれている竜[4]

龍も鳳も、合成獣であり、龍は部分的には鳥であり、鳳は部分的には蛇である。中国の龍には、角が生えているが、これは、中国の伝承によれば、雄鶏の角を盗んだものだとされている。そして、龍は、蛇とは異なり、鳥のように空を飛ぶ。また、『説文解字』によると、鳳は「前は鴻、後は麟、首は蛇、尾は魚、額は鸛、髭は鴛鴦、紋様は龍、背中は亀、嘴は鶏、頷は燕、体色は五色[5]」と記述されている。 首は蛇で、紋様は龍とされているところに注意しよう。

2 : 母なる龍としての黄河

龍が川と同一視される時、それは女性的な性格を帯びる。

中国人は黄河を、慈愛に満ちた「母なる存在」にたとえる反面、一匹の「暴れ巨龍」にもたとえる。[6]

「母なる存在」と「暴れ巨龍」は両立しないのだろうか。私は、川をファリック・マザーのファルスとみなしている。ファリック・マザーはまさに「暴れ巨龍」にふさわしい。少なくとも、西洋では、常にそう表象されるのである。

3 : 龍の眼は何を意味するのか

山東省にはこんな民話がある。崔黒子(ツオエヘイツ)という男が、龍の子を見つけて育てたが、大きくなると世話をすることができなくなって、洞窟に連れて行くことになった。崔が皇帝の命令で龍の眼が必要になると、龍は左の目玉を与えて、恩返しをした。この功績で崔は大臣となり、傲慢となり、今度は龍の許可もなく、龍の右目を取ろうとしたところ、龍に呑み込まれてしまった[7]

日本にも、これに似た「蛇女房」の話がある。

どこからか来た美しい女が嫁になるが、あるとき昼寝の場面を覗いたら女は蛇になっていた。蛇は見られたことを恥じて山の湖に去ってゆくが、去り際に目玉をくりぬいて、これをしゃぶっているようにと子供に残してゆく。「蛇の目玉」である。話はこの後、その目玉を殿様に召し上げられ、さらにもう一つの目玉まで取られるに及んで、蛇が洪水を起こし、領民一同水の底に消えてゆくと語っている。[8]

蛇/龍の目は鏡である。自己を鏡像的他者に置き換える死の抱擁という点で、水面に落ちるナルシスの物語や見る人を石にするメデューサの物語と同じモティーフを有している。龍には鏡像的他者、つまり母の性格が残っている。

4 : 読書案内

書名龍の百科
媒体単行本(ソフトカバー)
著者池上 正治
出版社と出版時期新潮社, 2000/01

5 : 参照情報

  1. 池上 正治. 『龍の百科』. 新潮社 (2000/01). p.33.
  2. 何新.『龍 ― 神話と真相』. 上海人民出版社. 1990.
  3. 池上 正治. 『龍の百科』. 新潮社 (2000/01). p.34.
  4. Sodacan. “Flag of the Chinese Empire under the Qing dynasty (1889-1912).” Licensed under CC-0.
  5. “鳳之象也,鴻前麐後,蛇頸魚尾,鸛顙鴛思,龍文虎背,燕頷雞喙,五色備舉。” 『説文解字』卷五. 鳥部. 2358. 中國哲學書電子化計劃字典.
  6. 池上 正治. 『龍の百科』. 新潮社 (2000/01). p.87.
  7. 池上 正治. 『龍の百科』. 新潮社 (2000/01). p.191-193.
  8. 篠田 知和基. 『竜蛇神と機織姫―文明を織りなす昔話の女たち』. 人文書院 (1997/11). p.20.
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