5月 072005
 

書籍編の「なぜ人は性器を隠すのか」と試論編の「人はなぜ性器を隠すのか」への追記。人が性器を隠すのは、性フェロモンの機能が失われたことの代替だという説を私が出したのは、2002年の11月で、今でも、この仮説は正しいと信じているが、細部の論点に関しては、考えを変えてきたので、その変遷をここに記しておきたい。

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2002年当時、性フェロモンの機能は、水中生活でなくなり、その頃から性器を隠蔽し始めたと想定し、次のように書いた。

いったい、私たちの祖先は、いつから性器を隠し、セックスをタブーにしたのだろうか。アクア説によれば、ヒトは水中生活をしているうちに体毛を失った。300万年前ごろから始まった、アフリカの気候の寒冷化・乾燥化に伴って、再び陸上生活を余儀なくされた時、ヒトは、かつて体毛が担っていた保温や直射日光遮断の機能を衣服に代行させた。では、人間は、服を着るようになったから、性器の露出を恥ずかしいと思うようになったのだろうか。そうではない。熱帯雨林地帯に住んでいて、服を着る必要がない、ほとんど全裸の未開社会の人々ですら、性器だけは通常隠蔽している。

ヒトは、水中生活で体毛を失ったと言ったが、人間には、例外的に毛が残っている箇所が三つある。頭部と腋の下と性器周辺である。頭髪や髭などが残存しているのは、呼吸のため、頭が水中に没することが少なかったからである。人間が腋の下と性器周辺に毛を生やしているのは、腋と性器から放出されるフェロモンを毛に付着させることにより、効果的に空中に散布するためである。しかし、それなら、水中ではフェロモンが無効になるのだから、他の体毛と同様に後退してもおかしくないのではないだろうか。

この問いに対しては、次のように答えることができる。腋の下の毛は、通常上腕によって覆われていて、水流に直接晒されないので、残存した。そして、陰部も何かによって覆われていたので、毛が生えたままになったのではないだろうか。もしそうなら、ヒトは水中生活をしていたころから、性器を隠していたことになる。性フェロモンは、微量ではあるが、乳頭や臍の穴からも分泌される。それなのに胸部や腹部の毛が後退したのは、これらの部位が水流に対して保護されていなかったからだと推測できる。

陰毛は、ちょうど睫毛や鼻毛と同じ働きをしていて、性器に異物が混入しないように生えているのではないかと反論する人もいるかもしれない。なるほど、女性の陰毛に対しては、この説明が有効だ。では、男性性器の場合はどうだろうか。保護するべき亀頭は剥き出しで、代わりに、どうでもよさそうな所に陰毛がむじゃむじゃと生えている。男の陰毛には、勃起した陰茎からあふれ出る男性フェロモンを受け止める機能があったが、フェロモンが機能しなくなれば、もはや存在理由はない。

女性にとって、乳房は第二の性器と言われる。乳房の露出が恥ずかしいのは、陰部の露出が恥ずかしいのとは事情が違う。後者の場合は、《恥ずかしいから隠す》であるのに対して、前者の場合、《隠すから恥ずかしい》のである。熱帯雨林地帯の女性は、近代文明の影響を受けるまでは、男性に乳房を見られることを恥ずかしいとは感じなかった。水中生活を送っていたヒトも、そうだったに違いない。その証拠に、乳首からフェロモンが分泌されるにもかかわらず、乳房の毛は完全に失われてしまっている。水中生活をやめ、寒冷化・乾燥化した気候のもと、胸まで覆う服を着て陸上生活をするようになってから、かなりの時間をかけて、乳房は、男女の性差を示す記号として、陰部に準じる扱いを受けるようになったと考えることができる。

しかし、その後、陰毛と腋毛は、アポクリン汗腺から分泌される性フェロモンを効果的に散布するために残ったと考えるようになった。こうした毛が残ったということは、水辺から離れた後も、性フェロモンは、ある程度機能していたということを示唆している。そこで、衣類の発明が性フェロモンの機能を弱めたとしたわけだ。

寒さと直射日光から体を守るためには、衣服を発明する必要があった。そして、それを成し遂げたのが、180万年前に登場したホモ・エルガスターであると推測できる。この初期のホモ・エレクトス(原人)が着ていた動物の毛皮は腐りやすく、服を着た化石の人骨などの直接の証拠は残っていないが、間接的な証拠ならある。顕微鏡を使えば、ホモ・エレクトスが使っていた骨角器に皮を加工した跡があることがわかる。服を発明したからこそ、ホモ・エレクトスは、ヒトとして初めて出アフリカを果たし、アフリカよりも寒いユーラシア大陸に進出することができた。

しかし、コロモジラミの遺伝子解析によると、人類が毛皮の服を着始めたのは今から約7万年前である [Kittler, R., Kayser, M. & Stoneking, M. : Molecular evolution of Pediculus humanus and the origin of clothing, Current Biology 13, 1414-1417 (2003)]。この結果は、現生人類がアフリカを離れて寒冷地に移住した時期と符合しているので、信憑性が高い。

熱帯のアフリカでは、寒さから体を守る必要はない。水中から出た人類の肌を直射日光から守るようになったのは、服ではなくて、全身に広がったエクリン汗腺である。寒さから体を守るために衣類が発明される前に、性器の隠蔽が始まっていたと考えたほうが良さそうだ。

ともあれ、2002年版で書いたように、「熱帯雨林地帯に住んでいて、服を着る必要がない、ほとんど全裸の未開社会の人々ですら、性器だけは通常隠蔽している」のだから、

日常的に衣服を着ることで、異性の性器が珍しくなった。そのため、既に衰退しつつあったフェロモンに代わって、性器の露出という光学的刺激が性行動を解発する機能を持つようになり、そしてフェロモンは、役立たずになったおかげでますます衰退して今日に至るようになった

という説明はおかしいということになる。性器は、隠さなければならないから隠すのであって、衣服の着用と性器の隠蔽は別の目的があると考えなければならない。では、なぜ私たちは性器を隠さなければならないのか。

私は、現在では、「自然排卵動物である人間を人為的に交尾排卵動物にするために性器を隠している」と考えている。詳しくは、[試論編:人はなぜ性器を隠すのか]を参照されたい。

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  2 コメント

  1. >>コロモジラミの遺伝子解析によると
    だったらケジラミの遺伝子を解析すれば体毛が消えて陰毛が出来た時期が?と思ってググったら、こんな↓ものが。
    ケジラミはゴリラから?
    http://ghop.exblog.jp/5358904/
    ケジラミはその祖先の時代から(ゴリラの)陰部周辺に寄生していたそうです。
    英文が分からないのですみませんが訳して下さい。

  2. ・・・・・・ペンネームは変えるもんじゃないですね(少なくとも同一サイトでは)。

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