4月 022006
 

燃料電池は、自動車の次世代エンジンとして脚光を集めたが、最初の実用化は、携帯機器のバッテリーから始まりそうだ。理由は、携帯機器の既存のバッテリーは、電力単価が高く、寿命も短く、電池容量に限界があるから、比較的勝ち目があるからだ。日経BP社が編集した『燃料電池2006』には、最新の燃料電池技術が多数紹介されているが、その中で、私が個人的に興味を持ったものをいくつか紹介して、論評したい。

1. メタノール燃料電池

現在、日本では最も実用化に近いといわれているのが、ダイレクト・パッシブ型のメタノール燃料電池である。この燃料電池は、メタノールの加水分解で発電する。

2005年11月に、ソニーは最大出力密度が従来二倍(100mW/cm2)あるダイレクト・パッシブ型のメタノール燃料電池を発表した。しかし、それでもまだ出力密度は高いとはいえないし、この燃料電池には、いろいろ問題があるようだ。

長所

  • ダイレクト・パッシブ型なので、超小型化が可能
  • メタノールの価格はエタノールの半分程度

短所

  • 出力密度が低い
  • メタノールは人体に有害
  • 途中で生成するホルムアルデヒドも有害
  • 途中で生成する一酸化炭素が白金触媒を劣化させる
  • メタノールがカソードにクロスオーバーすることがある
  • 二酸化炭素を排出する

メタノールはメタンから作っているので、メタンよりも価格が高い。超小型化以外にあまりメリットはない。

2. エタノール燃料電池

イタリアのACTA社は、エタノールから直接かつパッシブに発電する燃料電池を開発している。こちらは、メタノールを使うよりもいろいろとメリットがあるようだ。

長所

  • ダイレクト・パッシブ型なので、超小型化が可能
  • エタノールは、サトウキビやトウモロコシなどから作ることができるので、エネルギー源が再生可能である。
  • 酒の主要分だから、飲んでもよいぐらい安全。
  • 触媒は、鉄、コバルト、ニッケルで、白金が不要なので安価。
  • カーボン・ニュートラル

短所

  • 出力密度が低い(メタノールレベル)
  • 耐久性が低い

これ以外にも、エチレングリコールや蟻酸やヒドラジンを用いた直接型の燃料電池もあるが、出力密度が総じて低い。そんな中、注目を浴びているのが、次のボロハイドライドである。

3. ボロハイドライド燃料電池

日本の工学院大学やアメリカの Millennium Cell 社が古くから開発して、現在日米で脚光を浴びているのがボロハイドライド(水酸化ホウ素ナトリウム)を用いた燃料電池である。最近では、日本のセイコーインスツルが改質型の、アメリカのMedis Technologies 社が直接型の実用化を目指している。

ボロハイドライド、すなわち、水酸化ホウ素ナトリウム(NaBH4)を作るには、まず、天然に存在する安価なホウ砂(Na2B4O7)から二酸化ホウ素ナトリウム(NaBO2)を作り、それを水素化する。このボロハイドライドに水を加えると、水素が発生する。

ボロハイドライドは、有機ハイドライドと同様に、水素を貯蔵するための媒体であり、どのように水素を作るかに関してはオープンである。これは汎用性があるという点では長所であり、水素の値段が高いという問題を解決できないという点では短所である。

長所

  • 出力密度と起電圧が高い
  • 原料のホウ素が天然に大量にあって安い
  • 水素発生の触媒はリンゴ酸で安い(セイコーインスツル)
  • 室温で高速に水素を供給
  • パッシブなので、比較的小型である
  • 二酸化炭素を発生させない

短所

  • リサイクルが難しい
  • 水を加えないと水素を発生しない
  • 水酸化ホウ素ナトリウムには腐食性がある
  • 自分で更新ができない

使用済み燃料を冷却することで、二酸化ホウ素ナトリウムを析出させ、リサイクルすることも可能だが、2006年の夏に市場に出る、MedisTechnologies 社の燃料電池は使い捨てである。

4. 微生物燃料電池

エコロジー的な観点から興味深い燃料電池に、柿薗俊英(広島大学助教授)が開発した、好気性微生物を使った燃料電池がある。好気性微生物は、ミトコンドリア内で行う呼吸で、ブドウ糖を一時的に水素イオンと電子に分解する。その電子を、メチレンブルーをメディエイターとして、奪い、発電する。

好気性微生物を使った微生物燃料電池のしくみ [日経エレクトロニクス編集部他:燃料電池(2006), p.131]

バイオマスを使った燃料電池には、エタノール発酵、メタン発酵、水素発酵などがあるが、この好気性微生物を使った微生物燃料電池は、従来の嫌気性微生物を使った燃料電池よりもエネルギー密度が高い。

長所

  • 有機廃棄物処理を同時にすることがでっきる
  • 触媒が安価
  • ブドウ糖一モルから得られる水素の量は従来のバイオマス系燃料電池の倍以上。
  • 微生物のエネルギーを奪うので、微生物の死骸である汚泥の量が減る
  • カーボン・ニュートラル

短所

  • 非バイオマス系と比べるとエネルギー密度は格段に小さい
  • 出力を上げるには、糖蜜など有用食物を使わなければならない

発電が主目的というよりも、廃棄物処理が主目的という感じだが、余剰汚泥が産業廃棄物の重量比で6割を占め、その処分が問題になっていることを考えるならば、そうした二次処理の費用を下げ、かつ発電までできる廃棄物処理方法は、注目に値する。

ごみ処理の方法としては、サーマルリサイクルでもよいのだが、家庭ごみの約30%を占める生ごみは、水分が多く燃えにくいため、焼却施設では燃焼温度を維持するために石油などの助燃剤を使用するなどの問題が焼却処理にはあるので、こうした新しい処理方法を開発することは重要である。

読書案内

本誌は、『日経エレクトロニクス』『日経ものづくり』『日経エコロジー』の専門誌三誌が2005年1月から2006年1月までに掲載した燃料電池に関する記事を再編集したものです。燃料電池技術の最前線を知ることができます。

書名燃料電池(2006)
媒体単行本
著者日経エレクトロニクス編集部他
出版社と出版時期日経BP, 2006/02/14
このページをフォローする
私が書いた本

 返信する

以下のHTML タグと属性が利用できます: <a href="" title=""> <abbr title=""> <acronym title=""> <b> <blockquote cite=""> <cite> <code> <del datetime=""> <em> <i> <q cite=""> <s> <strike> <strong>

右上の小さな図と同じになるように、左上の断片をドラッグ・アンド・ドロップで移動させて、ジグソーパズルを完成させてください。これはボットによるスパム投稿防止のための確認ですので、ご理解のほどよろしくお願いいたします。WordPress CAPTCHA


Facebook
Facebook
Google+
Google+
https://www.nagaitoshiya.com/ja/2006/fuel-cells-magazine-review
LinkedIn