日本はアジアのモナコになれるか
福祉国家と社会主義の崩壊により、個人単位での貧富の格差が増大しつつある。それにともなって、ビジネスのあり方も、大衆のために安く大量に商品を作るフォーでリズム的なやり方よりも、金持ちのために高額な商品を少量作る前近代的なやり方のほうが有望になっている。そんな時代の流れを反映して『日本の富裕層』という本が出た。著者は「日本はアジアのモナコになれ」と言うが、それが可能かどうかを考えてみたい。

1. 金持ちは何に金を使うのか
臼井によれば、金持ちは次のような「富裕層市場の五大ニーズ[1]」に積極的に金を使う。
- 資産防衛
- セキュリティ
- 健康・美容・アンチエイジング
- 教育・社会貢献
- エンタテインメント
たとえハイリスクな方法で金を稼いだとしても、いったん金持ちになると、攻めから守りへと運用方針が保守化する。資本の限界効用は逓減するので、経済的資本が増大すると、さらに増やそうという意欲が少なくなり、まだ十分ではない他の資本、すなわち、文化的資本、政治的資本(ブルデュが謂う所の社会関係資本 =コネ)、身体的資本を増やそうとするようになる。
金はあるけれども名誉がないという人は、文化的資本の限界効用よりも経済的資本の限界効用のほうが大きいので、例えば、慈善団体への寄付によって名誉を得ようとしたりする。金を失うことによって減る効用よりも、名誉を得ることによって増える効用の方が大きいのである。
この観点から、金持ち好みの支出項目を見ていこう。
1.1. 資産防衛
金持ちが関心を持つ資産防衛とは、節税と資産のリスク分散である。スイスのプライベート・バンクなどは、こうした金持ちの需要を満たす典型である。プライベートバンクは、決して、アグレッシブな運用はしない。彼らは、慎重に、かつ着実な成果を挙げている。
資産のリスク分散というと、多くの人は、財産を、株、債権、外貨、不動産など複数の形態で分散して保有することを思い浮かべる。それももちろん、リスク分散なのだが、経済的資本を他の資本に転化することもまた、一種のリスク分散である。なぜなら、経済的資本を他の資本に転化することができるのみならず、他の資本を経済的資本に転化することもできるからである。
1.2. セキュリティ
これは、身体的資本の保護のための支出であるが、金持ちは、強盗や身代金目当ての誘拐のターゲットになりやすいので、一種の資産防衛でもある。
金持ちが貧乏人の近くに住みたがらないのは、セキュリティ上の問題からである。ガードマンを雇って、身の安全を図るという方法もあるが、ガードマン自身は貧乏人であり、逆にガードマンに資産を狙われるということもある。
だから、一番安全な方法は、金持ちどうしで住むことである。金持ちが、金目当てで強盗などをすることはまずない。これについては、また後で取り上げよう。
1.3. 健康・美容・アンチエイジング
これは、経済的資本を身体的資本へ転化する典型である。いくら金があっても、死ねば無意味だから、健康に金を使うのは当然である。金持ちの場合は、さらに美容やアンチエイジング(老化防止)にもふんだんに金を使う。美しさや若さがあれば、社交界でも有利であり、身体的資本を政治的資本へと転化できる。
1.4. 教育・社会貢献
教育への支出は、経済的資本を文化的資本へと転化させる。文化的資本を増殖させるには、自分自身や自分の分身である子供の教育に投資をする直接的な方法以外にも、文化人のパトロンとなるなどの社会貢献によって、その名誉を獲得するという間接的な方法もある。環境破壊をやっている会社が、環境保護活動に寄付することで企業イメージを高めることは、経済的資本を文化的資本に転化させる好例である。
富裕層が寄付を好むのは、必ずしも名誉という文化的資本が目的というわけではない。むしろ、寄付をせがまれるのを避けるために、匿名で寄付する場合もある。多くの国は、寄付を税制上優遇しているので、富裕層は、何に使われるかわからない税金 を自分のビジネスに有利な非営利分野に寄付するということがしばしばある。この場合、経済的資本を経済的資本のために投資していることになる。
1.5. エンタテインメント
エンタテインメントは、もちろん個人的な楽しみのために行うものではあるが、彼らの遊びは、表面上消費活動に見えて、実は生産活動ということがよくある。
例えば、ダイヤモンドを身につけ、豪華な衣装に身を包み、高い料金を払ってボールルームパーティで踊る金持ちは、たんなる浪費をしているだけに見えるかもしれない。しかし、そうした社交会では、敷居が高ければたかいほど、ランクの高い富裕層と人脈を築くことができる。
富裕層との人脈があれば、一般では手に入らない商談のチャンスを手に入れたり、政治家と懇意になって、政治を動かしたりして、金をもうけることができる。経済的資本は、政治的資本に転化することができるし、逆に政治的資本を元手にして、経済的資本を増やすこともできる。
もっとも、金があって、ダンスが踊れるだけでは、上流階級に受け入れられない。オペラや絵画やクラシックなどの話題で、上流階級と会話ができるだけの教養がなければならない。だから、文化的資本も必要である。
金持ちがアートコレクションに熱心であることはよく知られているが、これもたんなる娯楽のためではない。優れたアートは、資産として価値の上昇が期待できる経済的資本であり、コレクションのセンスを示すことで、自分の文化的資本を披露することができる。
アートという経済的資本兼文化的資本は、政治的資本にもなる。アートについての洗練された会話をすれば、ビジネスの世界でも一目置かれ、普通ならアポをとることができないような大物と会うことができたりするようになる。富裕層の生まれでないビル・ゲイツも、成功した後は絵画の勉強をし、今では立派なコレクションを持っている。
金持ちは、 無節操な浪費をしているように見えて、実は計算された投資をしているのである。大衆が、パチンコや競馬で破産するのとはわけが違うのである。そして、ここに、富裕層は金を使えば使うほど金持ちになれるというパラドックスの秘密がある。
2. 格差社会を是正するべきか
流行語を使って言うならば、かつて「一億総中流社会」といわれた日本も、「富裕層」と「下流社会」へと二極分化しつつある。貧富の格差を嘆く人は多いが、格差社会を是正するべきかどうかを論じる前に、そのようなことができるのかどうかを考えてみよう。
グローバル化が進む現代において、富裕層から高い税金を取って、それを貧困層に補助金としてばら撒く、従来型の福祉国家政策を採ろうとしても、富裕層は、より税率の低い国に移住するだけだから、富裕層を搾取しようとすればするほど、その国は貧しくなる。エリートに対するルサンチマンに基づいて左翼的な政策を強行しても、結局は自分たちをさらに貧しくさせるだけに終わってしまうののだから、自分の国を豊かにしたいのであれば、富裕層を敵視するのではなくて、むしろ大切にしなければならない。
スイスのオプワルデン州のように、金持ちほど税率低くする新制度を導入しているところすらある。
法人税も13・1%と欧州最低水準に引き下げたオプワルデン州の新税制は他州や外国に住む富豪や大企業の誘致を狙っている。州の税務責任者ブランコ・バラバンさんは、納税者ではなく「顧客」という言葉を使いながら「顧客を獲得する他州との競争だ。外国の企業や富豪がスイスに来ようと思った時、わが州が一番有利だと売り込める。すでに数社から相談が来ている」と自信満々だ。[2]
近代化→民主主義化→社会主義化(福祉国家化)は、人々の生活水準を向上させ、人類社会の進歩を示す方向だと考えられてきた。しかし、富の増大と配分の平等化は人口爆発をもたらし、それは資源問題と環境問題を顕現化させた。このため福祉国家と社会主義は行き詰まり、新自由主義が台頭した。富の再配分は弱められ、世界の人口増加率は、年々減少しているし、この傾向は長期にわたって続くと予想されている。

だから、貧富の格差の増大は、人類という種が、増えすぎることで絶滅しないように作動している適応反応であると解釈できる。貧富の格差の増大は、憂鬱な現象ではあるが、前向きに捉え、その上で、どうすれば、日本の下流社会の底上げができるのかを考えてみよう。
3. 日本はモナコになれるか
臼井は、「日本はアジアのモナコになれ」というおもしろい提案をしている。モナコ公国は、フランスの地中海沿岸地方にある小国で、19世紀以来、富裕層の誘致に国を挙げて取り組み、レーニエ大公がアメリカの著名女優、グレース・ケリーと結婚するといった広報活動などにより、セレブの町としてのステータスを確立した。
今、中国や韓国でも富裕層が育ちつつあります。しかし、アジアにはモナコ的な場所はありません。戦前から連綿と続く長い富裕層暦を誇る日本こそ「アジアのモナコ」にふさわしいのではないでしょうか。[3]
モナコのような場所はなぜ必要なのか。それは、金持ちは、金持ちどうしで集まりたがるからである。金持ちは、平均3000万円台の普通のマンションの最上階にある1億円以上の部屋よりも平均1億円以上のマンションの部屋に住みたがる。
セキュリティや建物の構造、立地まで含めてマンションは評価されるものです。3000万円台が主流のマンションは全体のお金のかけ方も3000万円クラスがベースになっているはずです。すべてが富裕層のために考えられたマンションの一億円だからこそ価値があるのに、それを勘違いしては売れるわけがありません。[4]
ここで「3000万円台が主流のマンション」をアジアの発展途上国、「すべてが富裕層のために考えられたマンション」を日本に置き換えてみよう。臼井がなぜ「日本はアジアのモナコになれ」と言っているかがわかるだろう。
アメリカでは、モナコの代わりに、ゲーティッド・コミュニティ(gated community)がある。ゲーティッド・コミュニティは、富裕層が安全に暮らせるように、周囲をゲートとフェンスで囲って、部外者の無許可の立ち入りを禁止している高級住宅街である。モナコも、街のいたるところに監視カメラを設置し、犯罪があれば、直ちに警察が駆けつけるようにしている。モナコは、国単位でゲーティッド・コミュニティになっているのである。
4. 日本の将来は高級住宅街かスラムか
日本は、現在、アジアの都会であるが、将来、良い意味で都会的になるのか、悪い意味で都会的になるのか、つまり、スラムになるのか、ゲーティッドコミュニティになるのかという岐路の前に立たされている。富裕層が住んでいた都会がスラム化した例として、ヨハネスブルグを挙げることができる。
現在のヨハネスブルクは「世界最悪の犯罪都市」とも称され、外務省が注意を喚起することも多い。南アフリカ共和国全体の治安が悪いわけではないが、ヨハネスブルクの危険性は突出している。アパルトヘイトの廃止後に多くの黒人が街へと移住したことで、白人富裕層がヨハネスブルクから近郊へと住居を移した。そのために街の一部はゴーストタウンと化し、治安が著しく悪化した。放棄された高層ビルには住居を持たない人々が住み着いている。とりわけ駅周辺を歩くことは昼間であっても大変危険である。[5]
日本政府は、観光立国を目指して、ビジット・ジャパン・キャンペーン を行っているが、中国や韓国の観光客の便宜を図るために、ビザを免除するというのはいかがなものだろうか。短期的には、それで日本の観光業は潤うだろうが、無差別的に観光客を受け入れると、国内の犯罪が増えてしまう。国内の治安が悪くなると、日本の富裕層が海外に脱出するようになるので、国内が貧しくなり、さらに治安が悪化し…という悪循環が繰り返され、日本がスラム化・ゴーストタウン化し、観光を含め、すべての経済活動が低迷してしまう。
日本で仕事をしているのだから、治安が少々悪化しても、日本の富裕層が海外に逃げることはないと、たかをくくってはいけない。今後、巨額の退職金を手にして富裕層の仲間入りをする、団塊の世代のトップクラスの退職者たちが、日本に住み続けなければならない理由は何もない。また日本で仕事をしている富裕層でも、妻子を海外に住ませるという人が少なくない。
ゆとりの教育のおかげで、かつて高い水準にあった日本の学校も、とめどもなく堕落している。教育という点でも、海外のほうが良いぐらいである。
日本ではまだそれほど知られていないかもしれませんがニューリッチの子弟が毎年、少なからず日本を飛び出し、こうした世界の名門ボーディングスクール[全寮制学校]へ通い始めています。[6]
日本には、官僚を育てるための高偏差値な名門校はあるが、帝王学を授け、世界的な人脈を築くことができる名門校はない。日本の文部科学省には、そうした学校を育てようという発想がまったくない。
5. どうすればアジアのモナコになれるのか
日本をアジアのスラムではなくて、アジアの高級住宅街にするには、冒頭で説明した「富裕層市場の五大ニーズ」が、日本で満たされるようにしなければならない。そのために行政がしなければならないことは、税制上の優遇とセキュリティである。これ以外は、アジアの富裕層が集まれば、民間ベースで、自然と供給されるようになるだろう。
日本は、モナコと比べると大きすぎるので、モナコ的な特区を、それも、言語別に、中国語圏富裕層特区、主としてインド人を対象にした英語圏富裕層特区、さらには、アラビア語富裕者特区などを国内に作る。中東は、日本から遠すぎると思うかもしれないが、中東は欧米と関係が良好ではないので、日本に住居を持ちたいと考えるアラブの富豪もいるだろう。
富裕層は、税金を嫌い、投資と寄付を好む。だから、特区に住む外国人に対しては、税金面では優遇する一方、国内への巨額な投資もしくは国内での非営利活動への一定額以上の寄付を条件付ける。もちろん、これとは別に、彼らの消費活動は、地元経済を潤す。税金以外の方法で、富裕層から貧困層への金の流れを作ることが重要である。
次にセキュリティであるが、富裕層特区をゲーティッドコミュニティにすることは好ましくない。それでは「平均3000万円台の普通のマンションの最上階にある1億円以上の部屋」と同じであり、日本に来る意味が何もない。日本全体をゲーティッドコミュニティにし、日本全体の治安を良くしなければならない。そのためにも、韓国や中国から来る観光客のビザを免除するなどといった無差別的な開放はするべきではない。
将来、日本がアジアのスラムになるのか、それともアジアの高級住宅街になるのか、私にはわからない。ただ、日本の言論界は、社会主義的傾向が強いので、日本が大胆な金持ち優遇策を打ち出すとは思えない。だから、日本がスラム化する可能性のほうが高いのではないかという気がする。
6. 参照情報
- 臼井宥文『日本の富裕層―お金持ちを「お得意さま」にする方法』宝島社 (2006/02).
- 小林昇太郎『図解 富裕層ビジネス 最前線』KADOKAWA (2013/6/20).
- 山下貴史『世界一わかりやすい富裕層マーケティングの本』イースト・プレス (2008/6/4).
- ↑臼井宥文『日本の富裕層―お金持ちを「お得意さま」にする方法』宝島社 (2006/02). p. 89.
- ↑毎日新聞. 2006年3月4日(東京夕刊).
- ↑臼井宥文『日本の富裕層―お金持ちを「お得意さま」にする方法』宝島社 (2006/02). p. 196.
- ↑臼井宥文『日本の富裕層―お金持ちを「お得意さま」にする方法』宝島社 (2006/02). p. 37.
- ↑ヨハネスブルグ -Wikipedia. 2006年3月21日 (火) 09:07.
- ↑臼井宥文『日本の富裕層―お金持ちを「お得意さま」にする方法』宝島社 (2006/02). p. 93.
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「富裕層に対して大甘」なのは、クメール・ルージュの極端な共産主義に対する反省からではないですか。カンボジアはスタートが低いから、海外の資本を受け入れれば今後発展するでしょうが、たんに富裕層のリゾートで終わるなら、経済成長にも限界があります。この点、知識人や技術者がポルポト派によって虐殺されたのが痛いですね。豊かな国を目指すのであれば、まずは教育に力を入れ、人的資源を向上させるところから始めなければいけません。
ところで、カンボジアは、タイと交戦しているようですけれども、だいじょうぶでしょうか。戦争が長引けば、富裕層は国外に逃げるでしょうね。
御返事ありがとうございます。
カンボジアでは、内戦時に知識人や技術者がポルポト派によって虐殺されたため、現在の経済成長の足を引っ張っている、という事は政府も強く認識しており、教育には非常に力を入れています。特に次世代のリーダーを育てるためのプノンペン大学などの奨学金制度はかなり充実しています。
また最近では、急速に増えてきた中流層の進学熱が大変な勢いで加熱しております。
手前味噌で恐縮ですが、私のブログでも触れていますので、お暇な時にでも御覧頂けると幸いです。
カンボジアの高等教育事情(予備校と大学編) : JCOD カンボジア事務局長blog
大学進学を目指す高校や進学塾での授業レベルはかなり高いです。
私は受験競争の激しかった世代ですが、その頃に負けないレベルかと思います。
また、大学進学を目指す高校3年生は、みんな普通に英語が話せます。
私の秘書は専門学校卒ですが、日本語と英語を普通に話すトリリンガルです。
全体的に優秀な若者が増えており、将来が楽しみです。
タイとカンボジアは国境で紛争をしていますが、国民生活では全く影響がありません。
プレビヒアに展開している部隊の多くがベトナム人(傭兵みたいなものですが、一応正規軍です)で犠牲者もベトナム人軍人が多いという事もありますが、昔から時々衝突しており、また報じられているよりも局所的なため、国民もニュースを見て、「ふーん、今回は随分長いね」と言っているくらいです。
プレビヒアの近くの、アンコール遺跡群があるシェムリアップは相変わらず観光客で賑わっています。
今回の紛争はタイ側に大きな問題があり、プミポン国王の健康状態があまり良くなく、それに伴う後継者問題で国内に対立がおきており、国民の目を逸らすための様です。カンボジアの政府や知識層はその事をよく理解しています。
私は某下院議員の顧問もやっていますが、その議員も「タイの問題に付き合わされてみんな辟易しているよ」と言っていますし、タイ商社のタイ人社長も分かっていました。
タイはミャンマーにエネルギーを依存しており、マレーシアからは資本と資源が入ってきていますので、鉾先を向けるのは昔から国境問題を抱えるカンボジアしかないという分かりやすい事情があります。
リンク先の記事を読みました。なるほど、カンボジアは教育にも力を入れているのですね。しかし、人的資源の質が向上しても、人材が国内で活用されなければ意味がありません。英語ができるということは、海外でも働くことができるということですから、国内に良い就職先がなければ、人材が国外に流出する可能性もあります。
事務局長さんのブログを読んでいて気になる箇所がありました。
「大土地所有を禁止して小作人に農地を与える」というような共産主義的な発想はクメール・ルージュの考えとあまり変わらないのではないでしょうか。日本が農地改革のおかげで経済成長できたという見解は定説のようになっていますが、私は神話だと思っています。戦後の日本経済を成長させたのは、主として工業であり、日本の農業は農地改革以後衰退し、今日に至るまで日本経済の足を引っ張っています。
地主が保有していた広大な農地を分割し、零細自営農家をたくさん作ると、生産効率が下がります。零細自営農家は数が多いので、政治家にとっては重要な票田となり、政治家たちは補助金の支給や貿易障壁の設定などの方法で彼らの利権を守ろうとしますが、これが生産効率の向上を阻害し…という悪循環を生みます。
日本と同じ間違いを繰り返さないようにするには、大土地所有を禁止するよりも、農業経営者の株式会社化を促進する方が賢明です。そうすれば、大土地所有者は、株式の一部を売却した資金で機械化や品種改良等により生産性を向上させることができるし、生産性が向上すれば、所有者も従業員となった元小作人も豊かになることができます。
事務局長さんは固定資産課税を高く評価していますが、固定資産に課税しても、それだけならば、それは最終的に小作料の引き上げをもたらすので、小作人を貧しくすることになります。国民全体を豊かにしようと思うならば、市場原理を導入するのが一番です。労働市場が機能しているのなら、経済成長に伴って賃金が上昇すると、農業経営者は、人材の流出を防ぐために、賃金を上げざるをえなくなります。
私の稚拙なブログを御覧頂き、更には御指摘と御指導まで頂きまして誠にありがとうございます。
おっしゃられる通り、人的資源の質が向上しても、カンボジア国内で人材が活用されなければ意味がありません。
カンボジアでは、これはいわばニワトリ卵の状況でして、『優秀な人材がまだ少ないから人材を雇用する企業が進出して来ない。企業が少なくて優秀な人材の就職先が無いから人材が育たない』という感じです。
それでも徐々に優秀な人材は増えつつ得るので、政府が必死に進めている企業誘致と上手くリンクすれば良いなと思っております。
大土地所有の件ですが、これはあまりにも極端な大土地所有者が存在している一方で、これまた極端に収入の少ない小作農が多数存在しています。
貧困層といわれる年収$420以下の人たちは、実は小作農に多いと言われております。
日払いで、よく給料を叩かれますので、小作農の意欲は低く、生産性の低下の一因にもなっています。
零細自営農家が増える弊害については、あまり理解しておりませんでした。勉強になります。
農業経営者の株式会社化を促進するという案はいいですね。
ただ、まだこちらでは株式会社という仕組みに対する理解が少ないため、大土地所有者が株式の一部を売却という事はまだ誰もやっておらず、彼らはその必要性すらも感じていない(今まで通りでいいと思っている)かと思います。
そもそも、国の徴税能力が低く、金融機関以外は経理がいい加減でも済みますので、出資して株を持っても配当はあまり期待できないという事情があります。
実はカンボジアでは、株式会社ではなくてNPOを立ち上げ、土地をそこに寄付し、収益を非課税にしている大地主が多いのです。
これは最近問題視され始めましたので、法改正が入る可能性はあります。
最近では、海外資本による農園の株式会社化が増えていますので、徐々に株式会社が普及して、そのメリットが理解されてカンボジア人大地主達の意識が変わってくる事を期待したい所です。
また、私は固定資産課税を評価しているのではなく、自身が大地主でありながらあえて課税に踏み切ろうとしているフン・セン首相が興味深いのです。
本当に実行できるかどうか、単なる選挙前の票集めのためのアピールなのかどうかを興味深く観察しています。
カンボジアでは、インフラや人材だけでなく、急速に法整備が整いつつありますので、これからを期待しています。
一番手っ取り早い方法は、先端的な経営力/技術力を持った海外企業を国内に誘致する方法でしょう。カンボジアの場合、フランスが積極的であるようですね。
以前から中国と韓国は進出に積極的なのですが、自国から人を連れてきてしまいますので、カンボジアには思ったほど雇用を生み出しません。
フランスはこれからですが、既存のフランス企業は比較的地元の人を雇用する傾向があります(今のところ、ホテルや空港などに限られていますが)。
本当は日本企業に進出して欲しいのですが、日本はODAなどのお金は凄く出しますが、企業はなかなか来てくれません。
私は日本企業の進出もサポートしているのですが、大きな会社ほど日本のやり方や日本の「常識」に固執しますので、なかなか上手く行きません。
困ったものです。
たしかに、これまでカンボジアに進出した主な日本企業といえば、ユニクロの子会社のジーユーぐらいでしたが、先週の日経の記事によると、東日本大震災の影響で、今後は日本企業のカンボジア進出が大幅増になるそうです。
プノンペン経済特区(PPSEZ)の役員の方にはいつも御世話になっております。
結構問い合わせが増えていて忙しいみたいですね。
私は、中小企業の進出支援をしつつ、これからの食糧問題をにらみながら自分で農業を展開して行きたいと考えております。
農業は、食糧問題のみならずエネルギー問題を解決する上で重要な分野ですね。これからもがんばってください。
ありがとうございます。
もし万が一、日本で食糧問題が起こった時には、少しでも役に立てる様になりたいと思っております。