萌えと少子化の関係
「今日のコラム(仮)」に対するコメント。プレスプランのサイトでの連載『性書』で「萌え」についてコラムを書いたところ、オタクと思しき人から批判がありましたので、それに対する反論を書きます。

「萌えやポルノが人口爆発を抑制する」と書いてあるが、本当に人口抑制が必要なのは、途上国である。具体的には中国やインドがそうだ。中国やインドにポルノと萌えアニメを輸出すれば、本当に人口が抑えられるのか?その効果が本当にあったとしても、TVもネットも出来ない低所得者には、意味がない。貧乏人の子沢山というのだから、低所得者の子供が最も困るのではないか。
人口増加率が減ってきている最大の理由は、教育の普及でしょう。高学歴化は、先進国から始まったため、少子化も先進国から始まっているのです。
教育が普及し、高学歴化すると、
- 就学期間が長くなり、就職が遅れて、晩婚化する
- 教育費の上昇により、子育てのコストが高くなる
- 表象空間が肥大化し、欲望の代替的充足が可能になる
といった理由により、少子化が進みます。1と2はネガティブな要因で、これだけだと、子供を産みたいけれども産むことができないわけだから、人々に苦痛を与えます。これに対して、3はポジティブな要因で、人々に子供を産む必要はないと思わせ、苦痛を和らげることで、少子化を促進させます。私は、萌え文化を3の一つの現われと認識し、注目しています。
これについては、後でもう少し詳しく述べることにして、一つ小さな間違いを指摘しますと、中国は、1979年から一人っ子政策を強行したため、現在では人口増加問題はもはや深刻ではなく、一人っ子政策は緩和されています。それでも、上海のような大都市では、出生率が減少し続けています。そして、上海では、日本の萌えアニメが大ブームです。
戦前、「突撃一番」などというコンドームが戦地で兵士に支給されていたそうだが、その質は酷いものだったと言う。それが、戦後世界一優秀な品質に生まれ変わったのは、ベビーブームから来る中絶急増対策のバスコンが絡んでいるのではないか。コンドーム輸出の方が即効性があると思われる。
コンドームは、人々が子供を産みたくないと思っているときには有効でしょうが、人口が爆発的に増えている発展途上国の人々がしばしばそうであるように、人々が子供を産みたがっている場合は、人口抑制効果をもたらしません。
萌えキャラ以前に、アイドルが男たちの視線を一身に集めていた時代があったではないか?
アイドルを少子化や人口抑制に絡めて言うと、ファンや芸能界からクレームが来ると恐れているわけではないだろうな?
たしかに、男たちが、女性アイドルの写真や絵を自分の部屋に飾るといったことは、1970年代以前にもありました。しかし、彼らにとって、生身の女性アイドルこそがホンモノであり、写真や絵は、ニセモノに過ぎません。だから、彼らは、現実の女性に対する性的欲望を失っているわけではありません。
しかし二次元美少女に萌えているオタクたちにとっては、二次元美少女こそがホンモノであり、三次元の女はニセモノです。この逆転は、生殖という観点からすれば、重要な違いをもたらします。
なお、私が「ファンや芸能界からクレームが来ると恐れている」という推測は不可解です。私は、少子化は良いことであり、もっと少子化を推し進めるべきだという立場の人間ですから。
実際に萌えている人が書いていないから、ダメなのは言うまでもない。理解出来ない人が面白おかしく取り上げるから、いつまで経っても偏見で見られ続ける。
優れた宗教学の研究者は、しばしば無神論者です。信仰があると、客観的な研究ができないから、信仰がない人による宗教の研究も必要なのです。萌えについても、内在的視点と同様に、外在的視点も必要でしょう。
私は、いわゆる萌えキャラには興味はありませんが、学術オタクとでもいうべき一種のオタクだろうと思っています。家の中にこもりがちで、自分から好んで旅行に行くことはないし、結婚したいとも思いません。周囲は、変人扱いしているけれども、私にとっては、新しい学問に挑戦することが旅行であり、新しい作品を作ることが子供を産むことであり、その作品が人々に読まれることが、子孫が繁殖することに相当するからです。
ドーキンスは、文化では、遺伝子(gene)に相当するミーム(meme)が増殖すると言っています [Richard Dawkins:The Selfish Gene, p.195]。遺伝子の物理的増殖が、環境的制約によって限界に達している今、表象空間という新たなフロンティアで、新たな遺伝子であるミームを増殖させることが、人類の遺伝子戦略であると考えることができます。これは、70年代以降の情報革命で、バーチャルな表象空間が肥大化したオタクたちが出現して可能になりました。
アニメキャラクターが同人市場でミームの変異体を増やしているさまは、遺伝子が増殖するプロセスとよく似ています。同じことは、ハイカルチャーでも観察できます。ミーム論という観点からすると、ハイカルチャーかサブカルチャーかという違いはあまり重要ではありません。
それと、アニメが世界的に普及するのは、現実問題としては困難である。なぜなら、既にディズニーが世界中で興行収入トップを独走し続けている。日本だけ、一位になれないのである。本当に日本製アニメが世界的脅威になるとしたら、ディズニーもハリウッドも黙っていないし、政界に圧力を掛けて妨害することもあるだろう。
中国は、海外アニメの輸入を規制して、国産アニメを自国民に押し付けようとしていますが、うまくいっていません。
ある北京の男子大学生(22)は「国産アニメはつまらない」と言い、多くの日本のアニメや漫画を違法にダウンロードして鑑賞している。「字幕組」と呼ばれる人々がボランティアで中国語訳をつけたものも出回っている。規制をくぐって「海賊版」も入り込む。
上海のある関係者は「中国の視聴者はグローバル化で日本などの優秀な作品を知っており、目が肥えている。視聴者と共に成長した日本のアニメとでは、やはり差が大きい」とこぼす。
世界に広がる萌え文化を政治的な圧力で押さえ込むことはできないでしょう。ただ、私は、日本しか萌え文化の担い手になれないとは考えていません。オタク市場が大きいと判断すれば、ディズニーもハリウッドもその市場を狙った作品を出してくるでしょう。
社団法人「日本家族計画協会」の「男女の生活と意識に関する調査」によると、40-45歳男性のセックス未経験者は、7.9%である。
日本家族計画協会の北村邦夫所長は、「今の40代男性は失敗を許されない偏差値教育を受け、青年期にAVが登場。その弊害でセックス観が毒されているのかも知れません。『イク、イカない』に固執し、『勃起しなかったらどうしよう』『イカせられなかったら不安』との強迫観念がセックスを遠ざけてしまう。『面倒だから、AVでヌクほうが楽』となるのです」[ゲンダイネット:2006年5月30日]と言っている。
セックスに失敗するリスクが大きければ大きいほど、セックスを達成する快楽も大きくなる。バーチャルな売春は、セックスの希少価値を下げることで、少子化に貢献する。
ディスカッション
コメント一覧
私も、少子化が良いこともあるのだと思います。世界は、人口爆発し将来は食料や水が無くなる事もありえる。その中で、日本の出生率が普通だと思います。先進国の中で、狭い土地の日本が出生率が低いと言われていますが、世界が異常なのです。アメリカの人口と比べれば低くなると思います。現在は、日本は、政府(企業)少子化対策の恩恵や不妊治療の向上や低高齢出産等により着々と子供は増えています。産婦人科不足や待機児童がいる保育施設や写真館等の子供対応企業の繁栄を見て、これでも少子化と言えるのでしょうか。年金を支える人が足りないだけです。
少子化で年金制度が崩壊するのは、下の世代が上の世代を支えるという賦課方式(ねずみ講方式)だからです。日本の公的年金はもともと積み立て方式で、この方式を維持していたら、少子化がいくら進もうとも年金制度が崩壊することはありません。これについては、「社会福祉は必要か」をご覧ください。
この部分ですが、文字通りの読むと間違っているように思います。萌えの文化に浸っている人でも「現実の女性に対する性的欲望」を失っている人、「二次元美少女こそがホンモノ」と思っている人はほとんどいないと思うのですが。二次元と三次元は別次元でやはり生身の女性も好きだと思いますよ。ただ、ジーンよりミームの増殖に興味を奪われているから、その意味で三次元より二次元の「生殖」に興味を持つという解釈の中でとらえると、アイドルと萌えの違いが出てくるのじゃないかと思うのですけれど。
私は筋金入りのオタクに直接聞いてみましたが、二次元美少女にしか興味はなく、現実の女は愛せないといっていました。ここのコメントにも、同じ趣旨の意見が表明されています。もっとも、オタクはどのみち現実の女にはもてませんから、ルサンチマンということも考えられます。
少し趣旨の違う話になるかもしれませんが、「日本人は不幸な死に方をした短命の偉人を好む」と言われます。人にもよりますが、長命の偉人は人気がありません。
近年の戦国武将ブーム(「武将萌え」と呼ぶ人もいる)では、なぜか短命の武将の人気が急上昇しています。人物の生き方やポリシーに共感を呼ぶと言われますが、うがった見方をすると、「自分のやりたい事をやりつくして、年を取る事なく若いまま死ねてうらやましい」と思います。実像とかけ離れたイメージが定着するのもある意味困り物です。
本文の「萌え」という観点では、美少年に萌える女性は昔からいます。「少子化」は日本社会が幼稚化したため起きているとも言われます。性別に関係なく精神的に幼いと、子供を持ちたいとは感じないのでしょうか?
「日本人は不幸な死に方をした短命の偉人を好む」という表現は、正確ではありません。日本人は、不幸な死に方をした短命の人が、怨霊となって祟りをなさないようにするために、その人を「偉大な神」と崇拝したと考えるべきでしょう。判官贔屓などはその典型です。
現在の日本の少子化の原因は、教育の普及(高学歴化)ということばかりではなく、結婚したくてもできない コミュニケーション能力の低い男と、選り好みをして結婚しない女の増加にあるようです。いわゆる非婚化が、少子化の大きな原因であります。
結婚しない女は、子供など産む必要がないと思っているかもしれないが、結婚できない男が、すべてオタクというわけではなく、子供など産む必要がないと思っているわけでもありません。
最近は、婚活している肉食系の女子が増えているので、コミュニケーション能力の低い男でも、その気になれば、結婚できます。例えば、こういうニュースが世情を反映しています。
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独身男女の出会いをサポートしようと、プロ野球の日本ハムが募集する「KONKATSU(婚活)シート」に女性からの定員を超える申し込みが殺到している。交際に積極的な“肉食系女子”の勢いに、球団関係者は驚きを隠せない。
シートは、札幌ドームで行われる7月11、12両日のロッテ戦で設置。抽選で選ばれた男女各100人が、男女別に交互に座り、イニングが経過するごとに男性が移動していく仕組み。
試合途中にペア宿泊券などの当たる抽選会が予定されているほか、結婚につながれば、始球式で投球する権利がプレゼントされる。
18日に始まった募集。女性は初日で定員をオーバーしたが、男性は4分の1程度で、関係者は「草食系男子が増えているのか…」と分析。
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[MSN産経ニュース(2009.5.21)婚活シートに女性応募殺到 野球場に“肉食系女子”]
男が結婚に消極的であるのは、自分たちの生涯賃金が低くて、妻子を養う自信がないからでしょう。子供の教育費が安く、若いうちから働かせることができた時代には、こういう現象は見られませんでした。
言っていることは正しいと思います。私もたいがいなのですが、私の周囲には大量のオタクがいます。そしてこのようなことを口を揃えていいます。「リアル(三次元)はリアルで二次元が現実」正直意味を理解するのに時間が掛かりますが、この言葉の意味を逆にすると、「三次元が現実で二次元は二次元」てな感じで、二次元が現実と言いたかったのでしょう。
このお話では「オタク」と「萌え」を主題にしていますが、女性もたいがいです。とくにジャニーズやドラマで出てくる「かっこいい人」をみて追っかけなどがいますが、確実に婚期のがしてる。そうでなくとも、テレビでかっこいい人が仰山出たり、結婚してたりすると「私もいつかこんなかっこいい人に出会えるかも」とか愚かなこといってます。わけのわからん理屈ですが、周りの人がブス、デブだった時、だれか普通の人が来たらかっこいいと思う可能性があります。
ですが、その普通の人がいたところは、みんな美男子だったら、そのひとは、かっこ悪いということになります。
つまり、ブスに囲まれた生活なら、かっこいいのハードルは下がります。一方かっこいい人に囲まれた生活ならかっこいいのハードルは上がります。
そして、テレビで見たものも例外ではなく「私もいつかこんなかっこいい人に出会えるかも」が適用され、ハードルが上がるのではないでしょうか?
舞台や映画やテレビの美男美女にあこがれるという現象は、いつの時代にもありましたが、それが未婚率の上昇や少子化の原因となることはありませんでした。やはり、根本的な原因は、経済現象に求めなければいけないでしょう。