1月 282006
 

浦島伝説と類似の民話は、世界に広く見られる。このことは、浦島伝説には、人類に普遍的な何かがあるということを意味しないだろうか。浦島伝説の問題の所在を確認しよう。

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1 : 浦島伝説の起源は何か

日本人なら誰でも浦島太郎の物語を知っている。忘れてしまった人は、浦島太郎の唄を歌って思い出そう。そして、この唄を歌った子供の頃を思い出そう。この本は、幼かった頃の記憶を甦らせる本なのだから。

昔々浦島は
助けた亀に連れられて
竜宮城へ来て見れば
絵にもかけない美しさ

乙姫様のごちそうに
鯛やひらめの舞踊
ただ珍しくおもしろく
月日のたつのも夢の中

遊びにあきて気がついて
おいとまごいもそこそこに
帰る途中のたのしみは
みやげにもらった玉手箱

帰って見ればこはいかに
もといた家も村もなく
みちに行きあう人々は
顔も知らない者ばかり

こころぼそさにふた取れば
あけて悔しき玉手箱
中からぱっと白けむり
たちまち太郎はおじいさん

浦島の話は、8世紀の文献である『日本書紀』や『丹後国風土記』の逸文に登場するのが最も古い。「浦島太郎」は「浦嶋子」、「竜宮城」は「蓬莱山(とこよのくに)」、「玉手箱」は「玉匣(たまくしげ=化粧箱)」と呼ばれているが、『丹後国風土記』の逸文に描かれているあらすじは、現在に伝わる浦島伝説とほぼ同じである。ただ、浦嶋子が亀を助けた話がないこと、乙姫様が亀の化身で、「亀姫」と呼ばれていたこと、玉匣を開けると、浦嶋子が「風雲のむた翩りて蒼天に飛びゆきぬ(風雲と共に天に飛び去った)」となっていることなど、いくつかの相違点もある。

「浦嶋子」が「浦島太郎」になるのは、室町時代のお伽草子においてである。冒頭が動物報恩譚で始まり、結末は、浦島太郎が玉手箱を開けた結果、太郎は鶴となって蓬莱山へ飛んで行き、そこで亀に再会して、夫婦ともに丹後の明神となったというハッピーエンドで終わっていて、道徳的色彩が強い。

2 : 浦島太郎は実在の人物か

8世紀に書かれた浦島伝説は、7世紀末の日本の文人、伊預部馬養による創作と考える人がいる一方、実在の人物の実体験に基づく伝説だと主張する人もいる。フジテレビの番組「奇跡体験!アンビリーバボー」は、2000年9月14日に、浦島伝説は、日本から南東へ3700キロ離れたところにあるミクロネシアのポナペ島に潮流で漂着して、そこから帰還した漁師の体験が元になった話だという説を放送した。

この番組によると、ポナペ島南東の海底に、「聖なる都市」という意味のカーニムエイソという海域があり、そこでは、強い磁気のおかげで時間の感覚がなくなってしまうとのことである。この強い磁場を取り囲むように、高さ5mほどの丸い石柱19本が海底に建てられており、さながら海底都市の遺跡のような外観を呈している。さらに、この地域には、次のような伝説がある。

昔、ある男が、海を泳いでいると亀に出会い、泳いで付いて行くとカーニムエイソの海底都市を見つけた。彼は、カーニムエイソでの体験を絶対話してはいけないと言われたにもかかわらず、地上に戻ると、周りの人たちにこのことを話してしまった。すると、その瞬間、男は死んでしまった。

口を開けて秘密を外に漏らしたことが、玉手箱を開けてしまったことに相当するというわけだ [1]

3 : 浦島伝説の起源は琉球か

もっとも、ポナペ島は日本から遠すぎて、『丹後国風土記』の逸文が伝えるように、三日では漂着できない。日本にもっと近いところでは、琉球諸島(特に、八重山列島)が伝説発祥の地として有力視されている。折口信夫によると、海の彼方あるいは海底に「ニライカナイ」という異郷の浄土があって、そこから神(まれびと)が現れ、現世の地上の人々を訪れるという信仰が琉球諸島にある[2]

この信仰のためなのか、琉球諸島では、浜辺を訪れる亀は神として大切にされている。「ニライカナイ」は、本土の言葉で言えば、常世(とこよ)に相当する、時間を超越した理想郷であり、竜宮城の条件を満たしている。そして、1995年には、竜宮城にふさわしい海底遺跡が与那国島近海で発見された。

グラハム・ハンコックによれば、与那国海底遺跡は、1万年以上前に存在した超古代文明によって造られ、氷河時代の終わりに世界を襲った大洪水で水没し、遺棄された巨石建築物である[3]。本当に人間が作ったものかどうかは別として、あの幻想的な石造物が宮殿のように見えることは確かであり、たまたまこれを水中で見つけた昔の琉球の人が、その神秘的な体験からニライカナイ伝説を作り出したという仮説を考えることもできる。

4 : 浦島伝説は世界中にある

以上のミクロネシア起源説と琉球諸島起源説は、どちらも、浦島の話が日本特有であり、日本人のある実体験に基づいているはずだという前提の下で出されている。ところが、実は、浦島伝説とそっくりの民話が中国にもある[4]。いろいろなバリエーションがあるが、一番日本のものと近いのは、「洞庭湖の竜女」と呼ばれている、長江流域に伝わる、次のような話である。

昔、若い漁夫が、ある乙女を助けたところ、その乙女は、実は竜女だった。彼女の招待で、漁夫は洞庭湖の湖底にある竜宮城に行くことができた。漁夫は、竜宮城で湖の生き物たちに歓待され、ついには竜女と結婚して幸せに暮らした。楽しい日々が続いたが、漁夫はふと、故郷の母親を思い出し、故郷に帰りたいと言うと、竜女は「私に会いたくなったら、いつでもこの箱に向かって私の名を呼びなさい。でも、この手箱を開けてはいけません」と言って、宝の手箱を渡した。

漁夫が故郷に帰ってきてみると、村の様子はすっかり変わり、自分の家は無く、村人たちも知らない人ばかりだった。村の年寄りに聞くと、「子供の頃に聞いた話だが、この辺りに、出て行ったきり帰らぬせがれを待つ婆様が住んでいたということだが、もうとうの昔に亡くなったということじゃ」と言われた。気が動転した漁夫は、竜女に説明を求めようと、思わず手箱を開けてしまった。すると、一筋の白い煙が立ち上がり、若かった漁夫は白髪の老人に変わり、湖のほとりにばったりと倒れて死んだ。

この話は、六朝時代に編集された『拾遺記』にある。『拾遺記』は、その原本が東晋の時代(5世紀以前)に書かれわけだから、『日本書紀』や『丹後国風土記』よりもずっと古い。だから、中国南部にあった民間伝承が日本に伝わり、それを伊預部馬養が日本風にアレンジして、史実であるかのように書き記したと考えることができる。実際、『日本書紀』や『丹後国風土記』に書かれている浦島伝説には、「蓬莱山」、「仙都」、「神仙の堺」など、中国の神仙説話から影響を受けたことを示す言葉が使われている。

では、浦島伝説発祥の地は、中国なのか。そう断定することはできない。なぜなら、浦島伝説と類似の竜宮伝説は世界の他の地域にも見られ、かつその起源は相当に古いからだ。

竜宮の信仰は必ずしも日本や中国だけのものではない。インドのナーガ神の宮殿も地下か海底にあって、当然、憂いを知らない楽園である。いや、アーサー王物語のモルガンや湖の夫人の宮殿も水底の妖精世界である。グラエランやギンガモールが訪れた妖精の国もある。こちらは必ずしも水底とは言われないが、たいていは川を渡った彼方にあり、妖精も水の妖精の性格が強い。[5]

ヨーロッパで最も浦島伝説と似ているのは、アイルランドに伝わるオシーン(オシアン)の伝説である。これは、簡単にまとめると、次のような話である。

騎士オシーン(Oisin)が父や仲間の騎士たちと狩に出かけると、美しい乙女が馬に乗って現れた。彼女は常若の国(Tir na nOg ティル・ナ・ノグ)の王女でニアヴ(Niamh)といい、オシーンと結婚するために来たと言った。オシーンはニアヴに魅了され、彼女と共に行くことを承知した。 オシーンは、馬にまたがってニアヴと共に霧に覆われた海の上を駆けて行った。霧が晴れると、常若の国が現れた。オシーンは、王と王妃に迎えられ、素晴らしい祝宴が何日も続いた。三年が経つのは瞬く間のことだった。

やがて、オシーンは父や仲間が恋しくなり、一度帰ろうと思い立った。ニアヴにそれを告げると、彼女は「この馬から降りてはいけません」と言って馬を用意した。オシーンは決して馬から降りないと約束し、それに乗って、常若の国を後にし、懐かしい故郷に帰った。ところが、目にする光景は、何もかも変わっていて、愕然とする。途中、オシーンは、大勢の小人たちが大きな石の水槽を動かそうとしているのに出会い、彼らを助けようと馬の上から身をかがめて片手で岩を持ったところ、馬から転落した。そして、オシーンは、両足が土に触れると、皺だらけの老人になってしまった。白馬はいなないて駆け去り、二度と戻らなかった。

この神話の起源は3世紀まで遡ると言われている [6]。つまり、この話は、キリスト教が伝来する前から存在したケルト人たちの土着的な伝説なのである。中国の竜宮伝説ほど浦島伝説には似ていないが、後で示すように、このオシーンの伝説も浦島伝説と等価である。

5 : 浦島伝説は何を伝えているのか

起源の問題を別としても、浦島伝説をはじめとする世界の竜宮伝説には、多くの謎がある。

  1. なぜ竜宮は、理想郷であるにもかかわらず、天の上ではなくて、海や湖といった水の中にあるのか 。竜宮伝説の中には、竜宮が、島や洞窟の中にある場合があるが、これはなぜか。
  2. なぜ日本の浦島伝説には、竜が出てこないのに、竜宮が出てくるのか。なぜ浦島を竜宮に連れて行ったのは亀だったのか。なぜニアヴは馬に跨っていたのか。
  3. なぜ、竜宮では時間の流れが遅いのか。なぜ浦島は、玉手箱を開けたとたん年を取ってしまったのか。 なぜオシーンは、足を地に着けたとたんに老人になってしまったのか。

これらの謎を解くことで、私たちは、人類の精神史の初期に光を当てることができる。自分自身の過去を思い出しながら、忘れ去られた人類の過去の記憶を呼び覚まそう。

6 : 参照情報

  1. フジテレビ.「浦島太郎伝説の真実」.『奇跡体験!アンビリーバボー』100回記念スペシャル. September 14th, 2000.
  2. 折口 信夫.「妣が国へ・常世へ」in『古代研究〈1〉祭りの発生』. 中央公論新社 (2002/8/1).
  3. Hancock, Graham. Underworld: The Mysterious Origins of Civilization. Toronto: Doubleday Canada, 2002. Part.6. Japan, Taiwan, China. グラハム・ハンコック.『神々の世界 (下)』小学館 (2002/10/1).
  4. 君島 久子. 月をかじる犬―中国の民話』. 筑摩書房 (1984/07).
  5. 篠田 知和基.『竜蛇神と機織姫―文明を織りなす昔話の女たち』. 人文書院 (1997/11). p.35.
  6. Harry Mountain. The Celtic Encyclopedia (Celtic Encyclopedia). Upublish.Com (1998/06). p.576-577.
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  4 コメント

  1. なぜこんな、さまざまな場所や時代で、似ている話があるのか偶然だろうか、それとも昔に世界に伝える何かがあったのか

  2. 私も謎の真相が知りたいです。

  3. なぜ、浦島太郎は亀を助けたのに竜宮城でとしをとる箱をもらったのでしょうか。
    不思議です。
    理由を教えてください。

  4. なぜ玉手箱を開けると年を取るのか」を読んでください。このページは、『浦島伝説の謎を解く』の一部であり、たんに問題提起をしているだけですから、質問は、謎解きを行う本書全体を読んでからにしてください。

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