セーフティネットはどうあるべきか
生活保護の水準以下の生活を送っている勤労者がいる反面、ギャンブルや覚醒剤に支給金を使っている生活保護の受給者がいるとか、ホームレスよりも刑務所の受刑者の生活水準の方が高く、刑務所に入るために犯罪に手を染める生活困窮者が続出するなど、日本の社会的セーフティネットには様々な問題が生じている。これらの問題を解決するための方法を考えよう。

1. 現行の生活保護の問題点
日本国憲法は、その第二十五条において、国民の生存権を保障している。
1. すべて國民は、健康で文化的な最低限度の生活を營む權利を有する。
2. 國は、すべての生活部面について、社會福祉、社會保障及び公衆衞生の向上及び增進に努めなければならない。[1]
「健康で文化的な最低限度の生活」を保障する代表的な制度は生活保護である。以下のグラフが示すように、長引く不況のおかげで、生活保護の支給対象となっている世帯の割合は、この十年間で確実に増えている。

厚生労働省によると、2010年10月に生活保護を受給していた世帯数は141万世帯で、統計を取り始めた1951年度以降で過去最高となり、人員でも過去3番目の高水準となった。財政が危機的な状況を迎えている今日、この制度の存続可能性が疑問視されている。

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タグが不足しています財政的な存続可能性以前の問題として、生活保護の意義を考え直さなければいけないような事例も報告されている。生活保護の支給金は、住宅扶助や教育扶助などを除けば、使い道は特に限定されていない。そのため、支給金をギャンブルや薬物のために使う受給者もいる。TBS が2010年02月27日に放送した報道特集の番組「パンク寸前!大阪市の生活保護」によると、三人に一人が生活保護を受給している大阪市西成区あいりん地区では、支給日になると賭博所と薬物販売が繁盛するとのことである。
この報道を裏付ける報道がある。2007年10月18日に、生活保護費を受け取ったその足で大阪市西成区に行き、覚醒剤を購入した無職の男二人が、大阪府警に現行犯逮捕された[3]。2010年10月6日には、大阪府警が、大阪市西成区にあった、山口組系暴力団が経営する競輪や競艇のヤミ券売り場を摘発したところ、客約100人のうち、少なくとも約30人が生活保護受給者と確認された[4]。不祥事は西成区に限った話ではなく、石垣市でも、福祉総務課が生活保護費支給日にパチンコ店で立ち入り調査を実施したところ、生活保護受給者11人がパチンコ店に出入りしていたことが分かった[5]。
生活保護に関しては、こうした支給金の不適切な利用の他、不正受給、支給金目当ての詐欺的な貧困ビジネス、など様々な問題が起きている。これらの問題は、現金を支給することによって起きるのだから、現金に代えて生命維持に必要な最小限の現物を支給するべきだという提案がある。米国で低所得者向けに配布されているフードスタンプなどは現物支給の一例である。もとよりフードスタンプで買うことができる商品は、一般の消費者と同じなので、低所得者の中には、フードスタンプを換金して、フードスタンプでは買うことができない嗜好品を買う者もいて、現金支給の時と同じような問題を惹き起こしている。私は、この問題を最小化するためにも、以下のような未利用資源利用型社会保険を提案したい。
2. 未利用資源利用型社会保険
現在、日本で生産される野菜の少なからぬ部分が、規格外野菜として廃棄されている。規格外野菜とは、食べられるにもかかわらず、曲っている、キズがついている、色が薄い、太さが足りないなどの理由で、市場に出回らない野菜で、一部はカット野菜や加工食品として流通しているものの、4割程度は廃棄されていると推測されている[6]。同じことは鮮魚に関しても当てはまる。栄養学的に問題がなく、かつおいしいにもかかわらず、大きさが小さい、あるいは有名な魚ではないなどの理由で、水揚げされる魚の約半分が規格外の扱いを受けている[7]。
こうした規格外で廃棄されている食料素材を政府が安値で買い上げ、社会保険の受給者に支給してはいかがであろうか。この提案は、私が「社会福祉は必要か」で提唱した民間保険会社の社会保険への参入と矛盾しない。保険会社が直接受給者に現金を支払うことを禁止し、代わりに同額のバウチャーを支給させ、受給者は、そのバウチャーを用いて、好みの規格外食品を購入する。こうすれば、限られた枠内においてではあるが、市場原理が機能するから、特定業者が利権を寡占することはない。高所得者の大半は規格外食品に興味を示さないから、不正利用や換金の問題は起き難くなる。バウチャーだと手続きが煩瑣になると懸念する人もいるかもしれないが、電子バウチャーなら、そうした問題は起きない。
私の提案は、フードバンクに似ているが、フードバンクが、商品化されたものの、包装不備などの理由で商品価値を失った食品が対象であるのに対して、未利用資源利用型社会保険は、商品化される以前に破棄されている食材が対象であるから、未利用資源の利用という点では、より抜本的である。もちろん、フードバンクが対象としている商品も未利用資源であるには変わりなく、社会保険で支給する商品に入れることは可能である。この外、消費期限内の売れ残り、食べ残しを再調理した食品も未利用資源として活用するべきだ。Replate.org のように、食べ残しをホームレスに与える活動を行っているNGOもあるが、これだと毒物混入等のいたずらを防ぐことができないので、責任者が明確になる仕組みで再利用するべきである。
未利用資源利用型社会保険は、農業支援になると同時に資源の節約にもなる。従来、縦割り行政の弊害であるが、社会保障に関しては厚生労働省が、農業支援に関しては農林水産省が、環境保護に関しては環境省がそれぞれ単一目的の予算を組んで、財政支出を行ってきたが、限られた予算を効率よく使うには、同じ予算の執行が、社会保障にもなり、農業支援にもなり、環境保護にもなるなど、複数の政策目的を実現するように工夫する必要がある。
バウチャーの対象として、リサイクルショップの非贅沢品(ブランド物等を除く)を加えれば、これもリユースの促進になる。サービスに関しては、新人研修サービスが未利用資源となる。もちろん、リサイクルショップで、中古品の販売を装って、覚醒剤のような対象外商品が販売されるといった不正が行われる可能性は排除できない。しかし、電子バウチャーで購入すると、いつどの店でどの受給者IDがどの商品を買ったかが記録として残るから、現金支給の場合よりも不正の摘発が容易である。
現行の生活保護では、住宅扶助は生活扶助とは別枠で支給される。そのため、ゼロゼロ物件に対して上限ぎりぎりの敷金と礼金を申請をするネット制が横行している。これを防ぐためには、各種扶助を一つに統合し、限られた支給金額内でやりくりしなければならないようにすればよい。そうすれば、受給者たちは節約して使うようになる。もっとも、子供に対する教育扶助は、別人格への扶助だから別の保険制度で保障するべきだし、医療扶助は個人によって上限がまちまちなので、別の保険制度を適用するべきだろう。
この制度であれば、貧困が原因で命を落とす者がいなくなる反面、消費の自由が制約を受けるから、国民が勤労意欲を失うこともなくなる。極端な自由主義者は、こうした最小限のセーフティネットすらいらないと主張するかもしれない。たしかに、セーフティネットがなければ、勤労意欲は最大限高まるが、犯罪行為が増えるという副作用をもたらす。それも、刑務所に入るリスクを冒してでも生き延びようと犯罪行為を行う者だけでなく、刑務所に入るために犯罪行為を行う者が増えるという結果が予想される。その兆候は、すでに現在の日本で現われている。
3. セーフティネット化する刑務所
自治体の中には、不正受給防止や財政悪化を理由に、保護申請の受理を消極的に行う「水際作戦」を取るところがでてきた。生活保護がセーフティネットとして機能しなくなると、その代替セーフティネットとして選ばれるのが刑務所である。以下は、先月(2010年12月)に報道された、刑務所に入るために犯罪を行った事例である。
コンビニエンスストアの店員を脅したとして、愛媛県警西条署は7日、住所不定、無職宇田尚容疑者(50)を脅迫容疑で逮捕した。
宇田容疑者は店員に「すみません、びっくりせんと聞いてください。今から強盗するんで警察呼んでください」と話しかけて脅迫したといい、「刑務所から出たばかりで、戻りたかった」と供述しているという。
発表では、宇田容疑者は6日午後6時55分頃、西条市大町のコンビニ店で、男性店員(26)に傘の先端を示して「金を出せ」などと脅した疑い。店内に客はいたが、けがはなかった。[8]
愛知県警港署は14日、名古屋市港区東海通5丁目、無職相畑幸三容疑者(43)を現住建造物等放火の疑いで逮捕し、発表した。「生活費に窮した。刑務所に入りたかった」と容疑を認めているという。
同署によると、相畑容疑者は13日午後2時20分ごろ、5階建てマンション2階の自宅で布団にサラダ油をまき、ライターで火をつけた疑いがある。この火事で、布団が燃えたり壁が焦げたりしたが、けが人はなかった。相畑容疑者は同日午後7時半ごろ、近くの交番に出頭。同署の調べに対し、家賃を滞納しており、「生活費に窮して火をつけた」などと話しているという。[9]
刑務所を出た1週間後に、パトカーに十円硬貨で傷をつけたとして器物損壊罪で起訴された男(56)に、山口地裁(鳥飼晃嗣裁判官)は27日、求刑通り懲役1年6月の判決を言い渡した。男は公判で「社会復帰して生活する気はない」と話していた。弁護人は「被告が長期間の受刑を望み、(出所後に)重大な犯罪をしなければいいのだが」と懸念している。
検察側は公判で「被告は過去にも2度、刑務所に入る目的で強盗や器物損壊をやった」と指摘。男は「刑務所では仕事も食事も与えられ、誰にも遠慮せず堂々と生活できる」と話した。[10]
2002年に発覚した名古屋刑務所での受刑者に対する暴行・殺人事件をきっかけに行刑改革推進委員会が発足し、法務省は、その委員会を通じて受刑者の要望などを聞き、処遇の改善を進めてきた。その結果、日本の刑務所は、三食が保証され、職業訓練が受けられるのみならず、受刑者が、各部屋でテレビを見たり、図書館で雑誌や新聞を読んだり、様々なクラブ活動に従事したりすることができる快適な空間となってしまった。だから、出所後も、刑務所に戻るために再犯を繰り返す受刑者が後を絶たないのである。
日本は、欧州連合(EU)などから死刑制度を廃止するように要求され、亀井静香を会長とする死刑廃止議連は、死刑に代わって終身刑を創設しようとしたことがあった。だが、刑務所への長期入所を希望する者がたくさんいる日本において、死刑を終身刑で代替すると、「一生刑務所に入れてくれ!」と叫びながら無差別大量殺人をする生活困窮者が続出するという由々しき事態の発生が懸念される。日本の刑法では、死刑と無期懲役とを分ける境界線は明確ではなく、そのため、死刑を回避して、刑務所に長く居たいという人には、軽い犯罪を繰り返すという手段しかなかったが、極刑が終身刑になると、刑務所に終身雇用を求めている人は、安心して重犯罪を敢行することができるようになる。
4. 刑務所のセーフティネット化を防ぐ方法
刑務所への入所希望者を減らす方法は、二つある。一つは、刑務所の外部に、遺漏のないセーフティネットを張ることであるが、これについては、すでに述べた。もう一つは刑務所の内部を快適な空間にしないことである。イスラム圏で今でも行われている鞭打ち刑を導入すれば、誰も受刑を望まなくなるが、こうした野蛮な刑の導入に日本のような先進国の人々は同意しないだろう。ミシェル・フーコーが『監獄の誕生』で指摘したように、刑罰は、肉体を苛める報復的な刑から犯罪者を社会復帰させるための訓育的な刑へと進化するのが時代の流れであり、私もこの流れを否定するものではない。犯罪者といえども、人間は人的資源であり、人的資源を鞭打ちなどで毀損させるよりも、社会に役立つように矯正する方が、社会にとって生産的である。
本稿の主題は「セーフティネットはどうあるべきか」であって「刑罰はいかにあるべきか」ではないので、詳しくは論じないが、刑罰を科す目的は、報復ではなくて、損害賠償と再発防止のための矯正である。従来、損害賠償は民事裁判で、矯正は刑事裁判で重視さてきたが、刑事罰にも損害賠償の原理を導入してはどうだろうか。犯罪者は社会に損害を与えているのだから、責任能力が問える場合には、その損害および矯正のためのコストを受刑者が金銭で賠償することは道理にかなっている。
法務省は「矯正処遇の適正な実施」のために710億円、「更生保護活動の適切な実施」のために120億円を平成21年度に支出している[11]。犯罪者は、その犯罪によって社会に損失を与えているのにもかかわらず、その損失を賠償するどころか、逆に自分の矯正や更生のために税金を使っている。これはまことに不条理なことである。犯罪者に資産がある場合は、それで賠償することができるが、ない場合は、刑務所での労働で費用を支払うことができるようにするべきだ。
こう言うと、受刑者の刑務所作業収入では、損害賠償どころか、刑務所運営の経費の相殺にすらならないと反論する人もいるだろう。たしかに、平成21年度における矯正官署作業収入は47億円であるから、赤字である[12]。しかし、これは、受刑者に木工、洋裁、金属、革工といった付加価値の低い労働をさせているからであって、付加価値の高い労働に従事させれば、黒字にすることは可能である。そして、刑務所作業の付加価値を高めようとするならば、刑務所ゆえに競争力を持つ仕事を見出さなければいけない。
そのような仕事の代表は、情報機密を要求される仕事である。入学試験の印刷は古典的な例だが、2005年に個人情報保護法が施行されて以来、企業の顧客情報管理が厳しく問われるようになり、個人情報を扱う業務のアウトソーシングに対する対価は高くなる傾向にある。これは、刑務所にとっては大きなビジネスチャンスだ。普通の企業は、個人情報漏洩を防ぐために、従業員を24時間監禁して管理するといったことはできないが、刑務所ならそれができる。といっても、公営の刑務所に不慣れなビジネスを始めさせる必要はない。機密事業を扱っている企業に刑務所業務を委託すればよい。もちろん、市場原理が機能するように、参入は自由にするべきだし、受刑者にも刑務所を選ぶ自由が与えられるべきである。
日本でも、2007年以降、美祢社会復帰促進センターのような半官半民の刑務所が作られたが、刑務所の民営化に関しては、米国の方が先を行っている。民営刑務所は、1990年に米国には五ヶ所しかなかったが、10年間で百ヶ所以上に膨れ上がった。堤未果の『ルポ 貧困大国アメリカ II』によれば「この新しいビジネスの急激な拡大をもたらした背景には、1990年代に盛り上がった自由市場至上主義の熱気と、連邦および州政府の財政難の二つがある[13]」。堤は、刑務所ビジネスの拡大が低賃金搾取労働の温床になっているとして、自由市場至上主義を批判しているが、低賃金搾取労働を解消する鍵は、むしろ市場原理にある。堤が指摘するように、刑務所ビジネスが儲かるビジネスで、参入企業が増えてくるならば、刑務所における労働市場は売り手市場となり、企業側は囚人労働者の待遇を改善せざるをえなくなる。
しかし、実際には、そうはならなかった。刑務所の数と同時に囚人の数まで増えたからだ。堤は「過度な市場原理が支配する社会では、政治と企業はとても仲が良い[14]」と言って、企業が低賃金搾取労働を続けるために、政府が囚人の数を増やしていると推測しているが、囚人の数が増え出したのは1970年代の後半からで、刑務所が民営化されたから囚人が増えたのではなくて、囚人が増え出したから公営の刑務所だけでは追いつかなくなったというのが現実である。もちろん、政府が企業と癒着するということはありうることだが、政府が特定業者と癒着することによって起きる弊害は、政府が自ら企業活動をすることによって起きる弊害と同じ種類のもので、社会主義経済の悪弊である。市場原理の欠如によって起きる問題を市場原理が原因で起きる問題と混同してはいけない。
5. 安心と公平さの両立
セーフティネットという言葉は、本来、サーカスなどの演技者が、誤って落下しても命を落とさないように下に張ってある安全網のことを指している。日本の社会的セーフティネットは、かなり高い位置に不完全に張ってあるため、一方で演技の邪魔になっている反面、他方で網にかからないまま地面にたたきつけられて死亡する者が出ているというありさまである。
この問題を解消するためには、高い位置にある不完全な安全網を撤去し、低い位置に強固な安全網を張らなければいけない。具体的に言うならば、年金や雇用保険といった中途半端な社会保障を廃止し、雇用を守るという大義名分の下に競争力のない産業を保護することを止め、経済を自由化すると同時に、本稿で提案した方法で最低限の生存権を保障することを提案したい。
また、サーカスに成功した者が、失敗した者よりも低い位置にいることもあってはならない。日本国憲法第27条は、勤労を日本国民の義務と定めている。だから、働いている者の生活水準が、働かない生活保護受給者の生活水準よりも下であってはならない。また、犯罪者が、法律を遵守している者よりも利益を受けるということもあってはならない。要するに、
勤労者の生活水準>社会保険適用者の生活水準>受刑者の生活水準
という不等式が成り立たなければいけない。私が本稿で提案した、未利用資源利用型社会保険、刑事裁判への賠償制度の導入、刑務所の民営化は、一方で最低限の生存権を守りつつ、他方でこの不等式をも維持するための制度である。
6. 参照情報
- ↑「日本國憲法」第25条.
- ↑国立社会保障・人口問題研究所. “「生活保護」に関する公的統計データ一覧." 2010年9月28日(更新).
- ↑“生活保護費で覚醒剤 支給日「心待ち」密売所直行 所持容疑、2人逮捕 大阪府警"『産経新聞』2007年10月18日.
- ↑“競輪のヤミ券売り場、生活保護食い物に 山口組系が経営" 『朝日新聞』2010年11月20日.
- ↑“市生活保護費支給日、受給者11人がパチンコ" 『八重山毎日新聞』2010年10月19日.
- ↑山本 なほ. “規格外野菜ってなんだろう?" All About. 更新日:2009年08月28日.
- ↑“食を支える-旬材、規格外・珍魚をネット売買."『日経流通新聞』2008年12月17日.
- ↑“「今から強盗、警察呼んで」…刑務所戻りたい男." 『読売新聞』2010年12月8日.
- ↑“「刑務所に入りたかった」自宅に放火容疑、無職の男逮捕." 『朝日新聞』2010年12月15日.
- ↑“山口地裁、刑務所志願の男に実刑「社会復帰する気ない」." 『西日本新聞』2010年12月27日.
- ↑法務省. “平成21年度 政策ごとの予算との対応について." 予算及び決算について.
- ↑法務省. “平成23年度 一般会計歳入予算概算."
- ↑堤未果. 『ルポ 貧困大国アメリカ II』岩波書店 (2010/1/21). p. 161.
- ↑堤未果. 『ルポ 貧困大国アメリカ II』岩波書店 (2010/1/21). p. 194.
ディスカッション
コメント一覧
最近の犯罪凶悪化による服役期間の長期化で、年によって刑務所の定員オーバーと言う状況が生じておりますが、これに対応すべく新たに刑務所を建設するとなると、公共の場合は税金がかかりますね。民間で行う場合は日本ではあまり前例がないので自治体の住民が大いに抵抗がありますね。自治体の住民を安心させる対策(受刑者の脱獄防止)はありますか?
また重い犯罪を犯した受刑者が出所後に、「二度と刑務所になんか戻りたくない」と思わせるための方法はありますか?ただかつての網走刑務所のような劣悪過ぎる環境では獄死するケースも出ます。神社仏閣やキリスト教の教会などが身元の引き受け先となり、「宗教施設に勤務」と言う社会復帰ならいいと思います。人によっては身寄りがいない事も再犯率の高さに影響していると思われます。再犯を繰り返す人物は犯罪に対する精神倫理的な欠落もあると思います。受刑者が自らの罪を反省させるための、「お灸」になり得る事は何かできますか?
今やっている職業訓練が、出所後の生活に役立つと納得すれば、脱獄のモチベーションが低くなります。公営刑務所が行う職業訓練はともすれば市場のニーズからかけ離れやすく、刑務所内での職業訓練の民間委託は、こうした弊害の是正に役立っています。
教会には、犯罪者のアジールとして機能したという歴史があります。私は、本文で「刑罰を科す目的は、報復ではなくて、損害賠償と再発防止のための矯正である」と書きました。資産家が重犯罪を行った場合、損害賠償はすぐにできるでしょうが、心の矯正のためには、精神科医の治療を受けるとか、宗教施設で修行を行うなどの方法が有効かもしれません。
損害賠償をしたいと思う人はいないでしょう。それが、犯罪の抑止効果となるのです。
永井先生が今頃セーフティネットに関する提言を行っても手遅れだと思います。これから、セーフティネットが民主党の政策で完全に消滅していくことが予測できるからです。
民主党は国保の保険料を低所得者ほど現在と比べて高くなる方式にするそうです。おそらく、まじめに働く貧乏人には、「徹底的に搾取され、使えなくなったら殺される」という選択肢しか残ってないのでしょう。高負担低福祉な社会になるおかげで、劣等なホームレスが餓死してしまうのですから、優生学的に素晴らしい案だと思います(皮肉をこめて言ってます)。
“市町村ごとに運営される国保の保険料の所得割額の計算には、主に「住民税方式」と「旧ただし書き方式」があります。
政府は今回、「旧ただし書き方式」に統一することを打ち出しました。
「住民税方式」と違い「旧ただし書き方式」では扶養控除などの各種控除が適用されないため、
控除を受けている低・中所得世帯や障害者、家族人数の多い世帯の負担が重くなります。
住民税非課税であっても所得割を課される世帯が出ます。
東京23区は今年4月に同様の計算方式の変更を予定しています。豊島区では年収250万円の4人家族の場合、
現行の「住民税方式」では年12万7680円の保険料が、「旧ただし書き方式」に変更すると22万7996円に、
1・8倍に上がります。「経過措置」として一時的に軽減をしても15万2759円(1・2倍)に上がります。
扶養家族がさらに多い世帯や障害者を扶養する世帯は負担が数倍にはね上がります。
さらに政府は、自治体が低所得者向けに独自の保険料軽減措置を実施する場合、その財源を一般会計(税金)でなく国保財政でまかなえるよう、
国保法施行令を改定する方針を示しています。国保財政を悪化させ、保険料水準全体をさらに高騰させる道です。
所得割 国保の保険料(税)は、(1)所得に応じた所得割(2)被保険者全員に均等に課される均等割―の合計。
(3)資産に応じた資産割(4)世帯単位で均等に課される世帯割―を加えている自治体もあります。”
[しんぶん赤旗(2011年1月20日)低所得者に国保料増/計算方式全国一本化 負担1.8倍も]
蛇足ですが、この案に対するネット住民の反応(ハムスター速報)をリンクしておきます。永井先生の予測通りの反応だと思います。
それは民主党が今進めている「税制と社会保障一体改革」の一環でしょう。与謝野馨氏を経済財政担当相に任命したことからもわかるとおり、菅第2次改造内閣は明確に増税路線に打ち出しています。しかし、菅内閣の寿命は長くはないでしょうから、ポスト菅内閣(あるいはポスト民主党政権)での社会保障について、今から考える必要があります。「手遅れ」ということはありません。
なお、セーフティネットは、弱者を救うためではなくて、不幸な者を救うためのものです。失敗した者に再チャレンジのチャンスを与えることは、社会全体にとって利益になることです。あなたは「ホームレスは劣等」と考えているようですが、OKWave の社長、兼元謙任氏のように、ホームレスから企業経営者になった人もいるのですから、一概に「ホームレスは劣等」と言うことはできません。所謂優生学は、有性生殖の意義に対する無理解に基づいていると思います。
先生は「負の所得税」に関してはどのようにお考えでしょうか?
私はベーシックインカムには否定的ですが、負の所得税であれば、
労働のインセンティブを損なわれないと思われます。
(橘玲氏は「ベーシックインカムは奴隷制度」とおっしゃっています。)
ベーシックインカムはどうですか? | 橘玲 公式サイト
現金支給ではなくて現物支給にすること、民間の保険会社が参入できるようにすることという条件を付ければ、負の所得税と私の主張は同じになります。ベーシック・インカムは、財政規模を大きくしすぎるので、反対です。
リンク先の文章を読みましたが、民主主義国家で為政者が「国家に忠誠を誓う国民にのみベーシック・インカムを給付する」と公言したならば、普通は支持率が下がって、権力を失うでしょう。独裁国家なら話は別ですが、独裁国家でははじめから国民は奴隷ですから、その場合、橘玲さんの主張は「国民が奴隷ならば、奴隷である」というトートロジーになってしまいます。
もちろん、国民の間でナショナリズムが異常に高揚すれば、「国家に忠誠を誓う国民にのみベーシック・インカムを給付する」という政策が国民によって支持されるかもしれません。しかし、ベーシック・インカムが存在しなくても、例えば、売国罪を新設して、国家に忠誠を誓わない国民に懲役を科すという方法で、愛国主義的多数派が、そうでない少数派を奴隷にするということも可能でしょう。
いずれにしても、国民が奴隷になるということは、ベーシック・インカムに固有の問題でもなければ、必然的な問題でもありません。それは、現状の日本の政治を見ればわかることです。農業のような政府の保護がないと自立できない産業が、それ以外の産業の奴隷になっているでしょうか。むしろ逆に、自立している産業が、そうでない産業の奴隷のように搾取されているのが現状ではないでしょうか。
「売り物にならない食べ物を貧乏人に渡す制度」と揶揄されるおそれがあり,実現可能性の点で疑問が残るのですが,どう正当化しますか。
今でもホームレスは残飯をあさっています。私の提案は、これを制度的にもっと大規模かつ安全かつ経済合理的にやろうというものにすぎません。貧困層の増大、逼迫する財政状況、低迷する食料自給率に対する国民の懸念、および環境意識の高まりを考えれば、実現可能性は低くないと思います。
今の日本社会の欠点は、人権問題と政策処理問題を混同して情緒的に物事を判断する過ちから、何ひとつ進展しない齟齬を招いています。
生活保護の問題について言えば、当事者能力も無い人間に金銭を与えて救済をしたところでざるに水を注ぐようなもので、当事者自身に何でもよいのですが公的機関の社会貢献させて、その代償として支給すべきでしょう。それが発展すれば、公務員の削減に寄与することもあるでしょう。
生活保護の本質は、生来的に一般社会への適応能力を欠く障害者等への給付を旨として健全な人たちへは一時的日雇い救済のような対策にすべきです。
まさに、働かざる者、食うべからずの精神を徹底すべきでしょう。安易な社会民主主義は国家崩壊に繋がります。
“菅内閣の寿命は長くはないでしょうから、ポスト菅内閣(あるいはポスト民主党政権)での社会保障について、今から考える必要があります。「手遅れ」ということはありません。”
「手遅れ」だと思う理由は、管内閣が増税路線に打ち出しているからだけではありません。最近、日本国債が格下げされました。これから日本は財政破綻して、社会保障どころではなくなり、多くの一般市民が路頭に迷うことになるでしょう。まあ、こちらのほうがゆっくりと衰退していくよりましだと思いますが。
“OKWave の社長、兼元謙任氏のように、ホームレスから企業経営者になった人もいるのですから、一概に「ホームレスは劣等」と言うことはできません。”
それはどうでしょうか。一般的に、日本のIT企業は、「IT土方」とういう差別表現があるほど、労働者を奴隷のように扱うことで成り立っていると言われています(とくに独立系はその傾向が強い)。日本のIT企業の経営者が劣等ではないと一概に言えるのでしょうか。