11月 242012
 

メルマガ原文の再掲載シリーズ第4回目は、「資本主義と精神分裂症」です。これも、当時と考えが変わったというわけではありませんが、試論編では不採用にしました。ドゥルーズとガタリの『アンチ・オイディプス』に関しては、また別の機会に詳しく取り上げる予定です。

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エディプスを描いた十八世紀の絵画。Oedipus at Colonus, by Jean-Antoine-Théodore Giroust

1999年10月30日発行のメルマガの内容

STEP1 今週の用語解説:精神分裂症とパラノイア

広義の精神分裂病は大別して典型的な破瓜緊張型と妄想型に分類される。フランスでは、精神分裂病(schizophrenia)を前者に限定し、後者の患者に見られる、猜疑心の強い、自負心を伴った被害感を持ちやすい性格を特にパラノイア(paranoia)と呼んでいる。二つの病気を医学的に説明しよう。

狭義の精神分裂病は、25歳以下の若いうちに発病しやすい。特別の理由なく学校や職場へ行くのを嫌がり、無口となり、他人を避けて自室に閉じこもり、しばしば昼夜が逆転したような生活をはじめる。不精・不作法・反抗・徘徊・放浪がみられることが多い。この時期に、幻聴を伴った被害・関係妄想、身体幻覚や奇妙な心気的訴えなども稀ならずみられる。さらに病気が進行すると、主観的な異常体験はめだたなくなるが一方において、滅裂思考・自閉・無関心・無為・独語・空笑・衒奇行為・児戯性爽快などが著明になる。このような患者は怠惰・無為・孤独な生活を送ることが多く、しばしば社会から落伍する。

パラノイアは、精神分裂病より発病年齢がやや遅く、30-35歳頃から起こることが多い。妄想や幻覚が主症状で、当初は人格の障害があまり目立たない。比較的まとまりのある体系的な妄想を強固にいだいているのが本型の特徴であり、妄想の内容としては被害的・迫害的・関係的なものが多い。たとえば、「周囲がグルになって自分を監視したり、自分に危害を加えようとする」というような妄想がよくみられ、隣家にどなり込んだり、防衛のため凶器をもち歩いたり、仮想の迫害者に暴行を働いたりする病的確信に基づいた異常行動も稀ではない。誇大妄想や色情妄想が起こることもある。

STEP2 今週のコラム:資本主義と精神分裂症

80年代、私が大学生だった頃、ポストモダンやポスト構造主義が流行していた。当時、哲学の古典研究をしていた私は、ポストモダンの流行は、服装の流行と同様に、パリ発の一時的なファッションで、すぐに流行遅れになるだろうと考えていた。

実際ポストモダンという言葉はもう流行遅れである。しかし私は、ポストモダンという言葉が流行遅れになった今になって、初めてポストモダンという言葉が流行遅れでないことに気が付き始めている。

ポストモダンとは、ポストインダストリアルな社会のあり方であり、情報革命の論理である。私は、以前の論文で、情報革命の転換点となった年が、1973年であると主張した。

1973年の1年前に書かれた、ドゥルーズとガタリの共著『資本主義と分裂症?アンチオイディプス』を読むと、彼らの主張はまだ古くないという印象を受けた。例えば、続巻の『千のプラトー』に出てくるリゾーム(無秩序な地下茎)の概念などは、現代のインターネット文化のあり方にぴったりである。

今日のコラムでは、前回に引き続き、精神分析学と経済学の接点を求めて、『資本主義と分裂症?アンチオイディプス』を考え直してみたい。

ドゥルーズとガタリによれば、パラノイアは専制君主の産物で、分裂病は資本主義の産物である。パラノイアの典型は、前近代的家庭によくいる権威主義的な父親である。「アンチオイディプス」という表題は、権威主義的な父親(ファルス)から逃走するスキゾキッズの精神を表している。

「選択が行われるのは、パラノイア的な逆逃走と分裂症的な逃走の二極の間でしかないのだ。前者は順応主義的、反動的、ファシズム的な諸備給に活気を与え、後者は革命的な備給に変換可能である」(『アンチオイディプス』第四章)。

パラノイア型の人間は、会社や家庭や国家など特定の土地に妄想的に執着するのに対して、スキゾフレニー型の人間は、ネットサーフィンをするように、あちらこちら気がかわって、どんどんどこへでも動いていく遊牧民族型の人間である。

特定の専門分野にしがみつく大学の専門バカを敬遠しつつ、定職にも付かずに大学の外で好き勝手なことをしている私も、ずいぶんスキゾ型の生活をしているものだ。「特別の理由なく学校や職場へ行くのを嫌がり、無口となり、他人を避けて自室に閉じこもり、しばしば昼夜が逆転したような生活をはじめる」なんていう症状も私に当てはまる。

スキゾ型の生き方は、情報社会における新しい生き方なのか、それとも世紀末的な退廃なのか。私は前者だと思っている。情報革命は、ツリー状のピラミッド型組織を解体し、リゾーム状のネットワーク社会を作る。双方向のネットワーク社会で生きていくには、スキゾ型の生活の方が良いのである。

医学書によれば、スキゾフレニーが重くなると、植物生活的な末期状態になる場合もあるとのことである。しかし、ドゥルーズとガタリによれば、「いまだかつて誰も[精神分裂病的]矛盾が原因で死んだことはない。資本主義は調子が狂えば狂うほど、ますます分裂症化して、アメリカ風にさらに調子がよくなるものだ」(『アンチオイディプス』第三章)。

スキゾもリゾームも言葉としては古くなった。ではこれらの言葉で特徴付けられる現代のインターネット資本主義のあり方を適切に表現する流行の言葉は何か。それは複雑系である。

北朝鮮のマスゲームのような、一人の独裁者の意思によって一糸乱れず動く社会は、単純系である。それに対して、差異を差異として肯定する、偶然と多様性に満ちた市場経済の社会は、複雑系の名にふさわしいシステムである。

STEP3 今週の読書案内

◎ 三浦貞則編『電子テクスト版精神医学』(日本医事新報社 1991年11月5日)

http://bme.ahs.kitasato-u.ac.jp:8080/docs/qrs/psy/index.html

精神医学の教科書。「今週の用語解説」は、この電子テクストの「精神医学各論 第4章 機能精神病」を参考に書いた。

◎ ドゥルーズの作品(フランス語)

http://www.imaginet.fr/deleuze/sommaire.html

この「ウェブ・ドゥルーズ」は、ドゥルーズがパリ第8大学で行った80回、2000ページに及ぶ講義録や手書き原稿の写真、肉声を収め、その思想の成り立ちを分かりやすく伝えている。講義題目は、スピノザ、ライプニッツ、カントの哲学、そしてイメージ論。資本主義と精神分析について論じ、後に「アンチ・オイディプス」と「千のプラトー」のタイトルで刊行される講義も含まれている。一部英訳もあり。

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  One Response

  1. 「精神分裂病」は放送禁止用語です。「統合失調症」に書き改めてください。

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