日本の農林水産業はどうあるべきか
日本では、農林水産業(広義の農業)は斜陽産業の象徴のように思われ、先進産業と見なされた工業から後進産業と見なされた農業への所得再配分が行われてきた。しかし、先進国に農作物輸出国が、途上国に農作物輸入国が多いことからもわかるとおり、農業は先端的な技術を持つ先進国のほうが有利なハイテク産業である。自然環境に恵まれ、技術立国を自負する日本は、本来農業を先進産業に育成することができたはずなのに、そうならなかったのはなぜなのか。日本の官僚は、規模が小さいから競争力がないと考え、大規模化と集約化を進めているが、日本の農業の根本問題は、規模の小ささよりも、むしろ規模の大きさにある。

1. 日本の農業はどうあるべきか
1.1. 日本の農業はどれほど保護されているのか
日本が農業を手厚く保護していることはよく知られている。日本政府による農家一軒あたりの農業予算が低いことを根拠に「日本の農業補助金は先進国中最低![1]」と言う人もいるが、日本の農家一軒の規模は小さいのだから、公平な比較ではない。事実、農地1haあたりの農業予算では、日本が欧米と比べて突出して多い[2]。また、政府から農家への直接支払額だけで比較して、日本の農家は保護されていないと主張する[3]ことも一面的である。
国家が国内農業をどれだけ保護しているかを示す代表的な指標に、OECD(経済協力開発機構)が、関税、価格統制(政策的な価格の吊り上げ)、財政支援から割り出した PSE(Producer Support Estimate 生産者支援評価額)と総農業収入との比である「PSEパーセンテージ」がある。以下の地図とグラフは、データが入手可能な24の国と地域のPSEパーセンテージを示している。このパーセンテージが高いほど、農家以外から農家への所得移転が多く行われていることになる。

ノルウェー(60.4%)、アイスランド(59.6%)、スイス(58.2%)、韓国(49.2%)、日本(48.0%)のPSEパーセンテージが、トルコ(27.9%)以下の国や地域よりも高いことがわかる。

従来、日本政府は、国土が狭いことや人件費が高いことを理由に、国内農業保護を正当化してきた。たしかに、日本は米国やオーストラリアのように広大な土地を持たないし、途上国のように低賃金で労働者を雇うこともできない(農業技能実習生という名目で外国人労働者を低賃金で搾取することを禁止するならばの話だが)。しかし、ヨーロッパ諸国は、国土が狭いし、人件費も高いという点で日本と似ている。それならば、日本は、米国(8.7%)なみは無理でも、せめてEU(21.0%)なみにPSEパーセンテージを引き下げることができるのではないか。
もちろん、すでに見たとおり、ヨーロッパでも、ノルウェー、アイスランド、スイスは、PSEパーセンテージが高いが、これらの国々の国土は、農業には向いていない。スイスは、アルプス山脈を含めた山岳地域に位置し、ノルウェーとアイスランドは高緯度地域なので、単位面積あたりの日射量が小さく、しかも、同じ高緯度地帯にあるスウェーデンやフィンランドとは異なり、平地がほとんどない。日本は、これらの国々よりもずっと環境に恵まれており、PSEパーセンテージがこれらの国と同じような水準であってよいことにはならない。
1.2. オランダの農業は日本にとって参考になるか
ヨーロッパ諸国の中でも、近年とりわけ日本が見習うべきモデルとして注目を浴びているのが、コンピューターによる生産管理など、先端技術を用いた農業[6]で有名なオランダである。オランダは、国土面積が九州ほどしかなく、気候にも恵まれず、しかも人件費が高いのにもかかわらず、その農業は、トマトの施設園芸を例に取ると、土地生産性(単収)が日本の約5倍、労働時間あたり生産性では約9倍など[7]、高い生産性を持ち、米国についで世界第二の農産物輸出国になっている。オランダの農業は中継貿易も行っているが、輸出額から輸入額を引いた純輸出額でもブラジルについで世界第二位であるから、高い付加価値を生み出していることは間違いない。そこで、世界最大の農産物純輸入国である日本の農業もオランダの農業を見習うべきだという声が出てきた[8]。

これに対して、オランダ農業は日本農業の参考にならないと言う人もいる。
世界地図を見れば明らかですが、オランダからイギリス、フランス、ドイツのような大消費地はすぐ近くです。今では英仏海峡トンネルも開通していますので、離島でもない限り、陸路で輸出ができます。[…]政治が貿易に悪影響を及ぼす可能性はほぼありません。EU参加国間では国境も簡単に越えられます。それに加えて、関税もありませんし、共通の通貨であるユーロを用いているため、為替相場による経営リスクや、両替に伴う時間やコストの問題もありません。[10]
農産物の輸出額が多いということは、オランダ農業の競争力を示す一つの指標でしかなく、日本が見習うべき点はそこに限定されない。オランダの農産物輸出の80%超がEU向けなので、もしもオランダを独立国としてではなくて、EUの一地方と見なすなら、「オランダ地方」の輸出額は激減する。しかし、そうした定義の変更を行ったからといって、オランダ農業の土地生産性が世界トップクラスで、日本の農業にとって見習うべきところがあるという事実が変わることはない。
オランダの耕地面積は、日本で言うと、三大都市圏を除く本州の耕地面積とほぼ同じである。そう考えると、オランダの農村の立地条件は、本州の地方における農村の立地条件と似ている。オランダの近くには、ドイツ、フランス、イギリスなど、高所得の消費者を多く抱える国があるが、本州の農村の近くにも、東京、名古屋、大阪といった高所得の消費者を多く抱える大都市圏があり、関税、検疫、両替といった障壁もなく、そこへと陸路で農産物を輸送することができる。なぜ日本の農村は、オランダのように立地条件に恵まれているのにもかかわらず、オランダほど高収益ではないのか、これこそが問われなければならない。
オランダ農業の強さを「極端に限られた種類の農作物を大規模な施設で大量生産している[11]」ところに求める人もいる。オランダは、農家一戸あたりの耕地面積が日本の北海道の農家とほぼ同じで、たしかに日本と比べると大規模ではあるが、他の農業大国と比べるとむしろ小規模である。米国やオーストラリアとは比べ物にならないぐらい小さいし、以下の図を見ても分かるとおり、英独仏よりもさらに小さい。

実は、1980年代までは、オランダでも日本と同様、家族経営の小規模農家が多かった。しかしグローバル化が進む中、オランダ政府は、日本政府のように経営能力のない農家の延命のために補助金を出すことはせず、先端的な技術革新に投資した。その結果、1980年に14.5万戸あった農業経営体も、2007年には7.7万戸へと半減した[13]。現在生き残っているオランダの農業経営者は、経営や栽培技術に関して専門的知識を持ったハイテク農業のプロたちである。トマトの単収を例に取ると、30~40年間に、4倍近くに向上した。だから、大規模化したから農家の競争力が高まったというよりも、競争力のある農家が淘汰の結果大規模化したといったほうが実態に近い[14]。
もとより、オランダの農家が品種を絞っていることは事実であるが、それはオランダ農業の強みというよりかはむしろ弱点である。現に、オランダが生産するトマトはコモディティ化して、安値で買い叩かれている。他方で高付加価値のトマトを求める需要があるのに、オランダのトマト農家はそれを逃している[15]。では、ハイテク農業なら、ニッチマーケット向けの少量生産ができないのかといえば、答えは否である。現在の情報技術では高度なカスタマイズが可能で、ハウス単位で違う品種を育成することもできる。だから「日本は、国内の繊細でバラエティーに溢れる食文化が求める需要にどれだけニッチに応えられるかで勝負する[16]」からといって、「オランダの農業を真似しても日本の農業が強くならない」とは言えないのである。オランダから学ぶべきことを学んだ上で、オランダよりもさらに時代を先取りした農業をすればよいのである。
1.3. 情報社会時代の農業はどうあるべきか
大まかに図式化すると、人類文明は、資源集約的狩猟社会から労働集約的農業社会、資本集約的工業社会を経て知識集約的情報社会へと移行する。各時代を画期する農業革命(食糧生産革命)、工業革命(産業革命)、情報革命は、その名称から、まるで農業、工業、情報産業といったその時代を象徴する産業にだけイノベーションを起こすかのような印象を与えてしまうが、実際にはすべての産業の生産様式を変える。
農業に関して言えば、人間と家畜に依存した前近代的な農業は、人工的に作られた肥料と農薬と大型機械によって大量生産を行う近代農業となり、ポスト近代である現代では、遺伝子組み換えやコンピューター制御の栽培など情報技術を駆使した農業が行われるようになっている。農業を工業革命以降の生産革命から取り残された遅れた産業とみなし、収益性が低くくて当然と思ってはいけない。
オランダの《選択と集中》路線は、情報革命の産物のように見えるが、実は工業社会時代の痕跡を残している。そのことを説明する前に、情報社会と工業社会がどう異なるかを説明しよう。情報社会の花形である情報産業は、前近代社会では、写本、演奏、見世物など、人力に依存する原始的な産業にすぎなかった。近代になると、活版印刷術の発明を皮切りに、ラジオ放送、テレビ放送が誕生し、コンテンツ商品が機械によって大量かつ安価に生産されるようになった。ポスト近代である現代では、出版社や放送局といった集権型メディアが没落し、インターネットという分散型メディアが台頭する。
一般的に言って、豊かになるにつれて、人の欲望は多様になる。貧困状態にあった前近代社会の人々は、規格品を安価に大量生産する工業革命によって救われたが、基本的な欲望が満たされるようになると、より高次で多様な欲望を満たそうとするようになる。その結果、情報社会では、従来の少品種多量生産に加え、多品種少量生産が求められる。インターネットを通じてインディーたちがロング・テールの需要を満たすのは、マス・メディアがショート・ヘッド向けにコンテンツを作るだけでは不十分であるからだ。味という点では評価が高くない[17]。トマトを安価に大量生産しているオランダの農業は、ロング・テールの需要を逃しているという点で、情報社会にふさわしい生産様式とは言えないということである。
多品種少量生産は、大企業が一社で実現するべき生産様態ではない。大企業がマス市場向けに標準的な商品を大量生産し、多数の中小企業がニッチ市場向けに個性的な商品を生産するというのが理想的な役割分担である。日本の農家は規模が小さいので、高級品を少量生産して国内外の富裕層に売り、一般向けの安価な食料は、保存が難しい生鮮食品を除いて、大規模生産を行っている海外から輸入するという戦略が望ましい。
これに対して、食料を部分的にではあっても海外に依存することは、食料安全保障という点で好ましくないと思う人もいるだろう。基本的なカロリーを供給する食品の輸入が途絶えると、国内で餓死者が出るのではないかという危惧を抱く人がいるのも無理はない。日本の生産額ベース総合食料自給率は68%と比較的高いのに対して、カロリーベース総合食料自給率は38%と低い[18]。農林水産省が後者の低さを問題にして、対策を練っているのは、「世界的な人口増加等による食料需要の増大、気候変動による生産減少など、国内外の様々な要因によって食料供給に影響を及ぼす可能性があり、食料の安定供給に対する国民の不安も高まって[19]」いるからだ。
農林水産省が食糧危機を煽るのは、環境省が地球温暖化の危機を煽ったり、国土交通省が南海トラフ巨大地震の危機を煽ったり、財務省が財政破綻の危機を煽ったり、厚生労働省が少子高齢化の危機を煽ったりするのと同じで、国民を不安に陥れることで自分たちの省益確保を正当化しようとする官僚たちの常套手段である。食糧不足は、短期的かつ局所的に起きることはあっても、長期的かつグローバルに起きることはありそうにない。このことを確かめよう。
まずは「世界的な人口増加等による食料需要の増大」から考えよう。日本の人口は減少しつつあるものの、世界の人口は増加を続けているのは事実である。しかし、以下のグラフを見ても分かるとおり、世界の人口増加率は、1962年に2.1%に達した後、低下傾向にあり、今後世界の人口は頭打ちになると予想されている。

では、「気候変動による生産減少」はどうだろうか。ここでいう「気候変動」は、地球温暖化のことなのだろうが、二酸化炭素濃度の上昇、寒冷地の気温上昇[21]、降雨量の増加[22]は、農業生産にとって全般的には有利に働く。局地的に被害が出るとしても、地球全体では、農業にとって損害よりも利益のほうが大きいと予想される。実際、温暖化にもかかわらず、 世界の穀物の生産量は世界人口以上に増加しており、このため、以下のグラフに示されるように、穀物の実質価格(インフレの影響を取り除いた価格)は長期的には低下傾向にある。

一方で「世界的な人口増加等による食料需要の増大」が起き、他方で「気候変動による生産減少」が起きるなら、食料価格は上昇するはずだが、過去一世紀には全く逆のことが起きている。そして、こうした需給改善の傾向は、今後さらに続くと予想される。将来、農地の面積が急速に増えることはないだろうが、オランダがそうしたように、技術革新によって土地生産性を大幅に高めることは可能である。オランダに限らず、今後世界の農業が、モノのインターネット(IoT)と農業の融合であるAgTech、CRISPR-Cas9[24]を嚆矢とするゲノム編集技術などの先端技術によって、畜産業を含めた農業の生産性を大幅に向上させることが期待されている。
工業革命も農業の生産性を高めたが、人口も同時に指数関数的に増加させたので、飢餓の問題は完全には解決しなかった。対照的に、情報革命は人口増加を抑制する。人口は等比級数的に増加するが、食料の生産高は等差級数的にしか増加せず、飢餓が生じるというマルサスの法則とは逆に、技術は指数関数的に進歩するのに、人口増加は緩やかになり、食料が余るようになると予想される。現在世界人口の11%に相当する8億1500万人が栄養不良の状態にある[25]が、長期的に見れば、こうした飢餓人口は減り、農業は量よりも質が重要であるようになるだろう。
だから日本は、カロリーベースの自給率に固執せずに、付加価値の高い農作物の生産に力を入れ、生産額ベースの自給率を向上させるべきなのだ。将来日本で飢餓が発生するとするなら、それは世界全体の農作物の不足によってよりも、輸入のための外貨の不足によって起きる可能性のほうが大きい。日本の工業が競争力を持っていた時代には、農業は工業に寄生できたが、日本の工業の競争力が低下した現在、農業は稼げる産業になることを目指さなければならない。
食料安全保障という観点から考慮しなければならないリスクには、戦争や経済制裁といった政治的要因で起きる輸入の途絶もある。だが、もしも太平洋戦争の時のように世界を敵に回す戦争をするなら、たとえカロリーベースの自給率が100%でも、国内で飢餓が発生するだろう。なぜなら、現代の農業は、生産、流通、販売の全てで輸入したエネルギー資源に依存しているからだ。食料だけでなく、エネルギー資源の輸入までが停止したなら、日本は今の人口を維持できなくなる。人口を鎖国をしていた江戸時代の頃の規模(三千万人)にまで減らせば、自給自足できるが、それよりも、日本が世界を敵に回す戦争をしない方が現実的な選択肢である。
日本政府が米を主食と位置付け、特別な保護を与えてきた背景には、カロリーベースの自給率を維持したいという思惑があるのだろう。しかし、米を始めとした穀物の生産は、土地が広い国の方が有利である。オランダも穀物は輸入に依存しており、代わりに、トマト、パプリカ、ナスなど、カロリーは大きくないが、付加価値額は大きい施設園芸用野菜に力を入れている。日本も、国土は狭いが、高所得者が住む消費地の近くにあるという似た環境下にあるオランダの戦略を選んだ方が賢明である。
1.4. 日本はオランダの農業から何を学ぶべきか
日本はオランダ農業の成功から学ぶべきであると言っても、例えば、トマトに関して言えば、日照時間や温度などが異なるので、表面的な模倣をしてもうまくいかないだろう。重要なことは、そうした表面的な違いに惑わされずに、オランダ農業の成功の本質をよく認識することだ。その観点からすれば、オランダから学ぶべきことは二つある。一つは、政府による補助金の使い方であり、もう一つは民間企業の役割である。
オランダは、EUの平均程度の補助金を支給しているが、日本のように競争力のない農家を保護するために補助金をばらまくということはせず、研究開発や実験的な新規事業などに予算を戦略的に使っている。研究開発のために使われる農業予算の割合は、日本では4.7%であるのに対して、オランダでは22%もある。その結果、品種改良や農業のハイテク化が進み、それによって競争力を高めた農家が出現した一方で、競争に敗れて撤退する農家も相次いだ。こうした選抜がオランダの農業の競争力を高めたことはすでに述べたとおりである。
もとより日本でも、手厚い保護にもかかわらず、農家の廃業が相次ぎ、その結果、農家一戸あたりの規模は大きくなる傾向にある。しかし、それで日本の農業が競争力を高めたかといえば、必ずしもそうではない。だからこそ、耕作放棄地は増える一方なのである。たんに農家一戸あたりの規模を拡大するだけでは不十分で、農業のハイテク化、経営のプロフェッショナル化、流通の合理化が必要なのだが、農林族議員と農林水産省がJA(農業協同組合)を通じて行ってきた延命農政が、必要なイノベーションを妨げてきた。
オランダにも農協はあるが、民間企業の参入が活発であるため、日本ほど独占的で圧倒的な地位を占めていない。日本のJAグループは、農産物の共同販売や農業資材の共同購入しか行っていない欧米の農業組合とは異なり、金融事業を含めた広範な事業を行っている巨大コングロマリット(下の図参照)で、今でも農産物や農業資材の市場で過半数のシェアを持っている。日本の農業における問題の根源は、農家一戸あたりの規模の小ささよりも農家を束ねているJAグループの規模の大きさにある。

そもそも、協同組合は、個人や零細企業が大企業に対抗するために組織するというのが本来の理念で、政府は、弱者保護の観点から協同組合が行う共同購入や共同販売等への独占禁止法の適用を除外している。ところが、JAグループは、関税と規制によって外国や他の業界から隔離されている日本の農業界において、対抗するべき大企業など存在しない最大手である。そういう最大手に独占禁止法の適用を除外するというのは、独占禁止法の趣旨に反している。日本で米の内外価格差が大きい原因の一つは、農協による共同販売であり、米価の吊り上げは、消費者の負担を大きくさせているという点だけでなく、良い米を安く作ろうとするインセンティブを農家から奪い、国内農業の競争力を低下させているという点でも有害である。
農協による共同購入に独占禁止法の適用を除外していることも問題だ。本来、協同組合による共同購入は、単独購入よりも安く買うことができるはずなのだが、日本ではこれが逆になっている。小泉進次郎は、「日本メーカーが作っている農機具が、なぜアメリカで半額で売られているのか[27]」と言って、農協が販売している農業資材の価格の高さを疑問視しているが、JAグループという巨人に独占禁止法の適用を除外すれば、価格の吊り上げが起きるのは当然である。農家は、農協から割高な資材を買いたくないと思う一方で、そうすると融資が受けられなくなるかもしれないという村八分に対する恐怖心から農協支配からなかなか抜け出すことができない。
農協が協同組合の本来のあり方から掛け離れた存在になった背景には、日本の農村に欧米型の民主主義を根付かせようとしたGHQの政策の失敗がある。日本政府は、戦時中に農業を統制するために農業会を組織した。戦後、GHQは、農地改革を行って、小作農に農地を与えたが、小作農に農業経営のノウハウはなく、このため、農業会が、戦後「協同組合」という民主主義的仮面を被って復活し、元小作農たちは地主に代わって農協に隷従することになった。農地改革により地主は没落したが、国家が上から統制する農業という戦時中に誕生した国家社会主義的配給経済の仕組みはそのまま残ったのである。
農協による独占と国家社会主義的統制経済は日本の農業のイノベーションを阻害し、農家の経営力を奪った。しかし、農協は、農家の経営力向上よりも自分たちの独占権益を守ることを優先し、農協という集票マシーンに依存する政治家たちも関税や補助金や規制で国家社会主義的統制経済を維持してきた。農家の中には、農協に依存せずに自立しようとする向きもあるが、そうした努力は農協による嫌がらせによって妨害される。オランダでは、農協は農家が自発的に組織している本来の協同組合で、農家は農協以外と自由に取引できる。この違いは大きい。
日本では、長らく民間企業、とりわけ株式会社の農業への参入はタブー視されてきた。株式会社は、儲からないとすぐ撤退するから信用できないというのが反対派の言い分であるのだが、儲からない農業を補助金で延命させてきた従来の農政のほうがずっと問題である。幸い、近年、一連の規制緩和により、株式会社の農業への参入が条件付きながら可能になった。農林水産省も、「スマート農業の実現[28]」に力を入れるようになったが、オランダ並み、あるいはそれ以上に農業をハイテク化するには、異業種の企業が参入する障壁をさらに取り除き、農業を自由化するべきだ。
イノベーションは、基本的に民間企業が主体となって行うべきものではあるが、農業に関しては、政府が手がけたほうがよい公共性の高いインフラがある。それは二酸化炭素を供給するパイプラインである。オランダは、発電によって排出される二酸化炭素と熱をハウス栽培に活用するトリジェネレーションを先駆的に実践している。トリジェネレーションとは、有機物資源を燃焼させることで生産できる電気、熱、二酸化炭素の三つを有効活用する技術である[29]。
ハウス内では、作物は、呼吸で出す以上に二酸化炭素を光合成のために消費する。このため、換気しないと作物は二酸化炭素飢餓に陥る。冬場のように換気が難しい季節では、ハウス内の温度を上げつつ、二酸化炭素飢餓を防ぐために、ハウス内でプロパンガスを燃焼させる農家が日本にはあるが、もったいないことだ。
オランダが行っているトリジェネレーションは、二酸化炭素飢餓を防ぐ以上の効果を目指している。ハウス栽培で二酸化炭素濃度を大気中濃度の360PPMから700~1000PPM程度に上げると、葉野菜で25~30%、果物で20%程度、花卉で40%程度収穫が増えることが知られている[30]。まるで肥料を与えたかのようによく実ることから、「CO2施肥効果」と呼ばれている。
トリジェネレーションに関しても、日本とオランダの違いを強調して、疑問視する人がいるかもしれない。例えば、日本はオランダよりも気温が高いので、温室に対する需要は大きくないといった違いだ。しかし、発電所が生産する熱は、吸収ヒートポンプ[31]によって冷房や除湿に使うこともできる。東北電力研究開発センターが実施した研究によると、夏場の夜間に冷房と除湿を行うことで、トマトの収穫量を40%程度向上させることができたとのことである。トマトの流通量が減少し、販売単価が高まる時期(9~11月)に生産性を向上させることができるのなら、収益性の向上が期待できる。

ハウス内よりもハウス外の温度と湿度が好ましい場合は、窓を開放した方がよいが、その場合でも、ハウス内の二酸化炭素濃度を大気中よりも高い状態に維持することは可能だ。二酸化炭素の分子量は44で、空気の平均分子量28.8よりも重く、ハウスの上部に位置する天窓を開けても、周囲を囲っている限り、ハウス内に二酸化炭素が滞留する。実際、その重さゆえに、大気圏における二酸化炭素濃度は、地表面で最も高くなっている。だから、暖房や冷房が不要な場合でも、二酸化炭素を供給するパイプラインは必要ということになる。
もう一つの違いとして、オランダは、北海の石油や天然ガスを安価に手に入れることができるため、エネルギーコストが低いことを指摘する人もいる。日本は天然ガスを液化して輸入しており、これは、パイプラインで直送する場合と比べて、コストが高くなる。しかし、他方で、日本国内には豊富な石炭資源と木材資源がある。これらを活用することでエネルギーコストを下げることができるのだが、この話は林業の章でまた取り上げることにしたい。日本とオランダとの間には、これら以外にも違いはあるだろうが、日本でトリジェネレーションが成功しない理由はない。日本も、二酸化炭素を厄介者扱いせずに、有効活用するべきだ。
日本でも、二酸化炭素を有効活用しようとする動きが、民間のみならず、政府の側にも見られる。経済産業省資源エネルギー庁は、パリ協定の目標を実現するべく、CCS(Carbon dioxide Capture and Storage 二酸化炭素回収・貯留)とCCU(Carbon dioxide Capture and Utilization 二酸化炭素回収・活用)への取り組みを強化している。CCSとは、発電所や化学工場などから排出された二酸化炭素を、他の気体から分離して集め、地中深くに貯留・圧入する方法で、CCUは、分離した二酸化炭素を有効活用する方法である。トリジェネレーションは、CCUに相当する。
エネルギー庁は、「CCSと比較した場合、現時点ではCO2の大規模処理が困難であるものの、有価物の製造につながる点でコスト性に優れ、今後の技術革新によりCO2の処理能力、有価物の製造効率が向上すれば将来の利用拡大が期待される」として、以下の図を掲げている。

CCSは、排出権取引と同様、二酸化炭素をゴミ扱いしている。だが、二酸化炭素は、金を払わないと引き取ってもらえないゴミではなくて、売ることができる資源である。農業用途としては、既に述べたトリジェネレーションに加え、青果物の保存(CA貯蔵)にも使える。工業用途もたくさんある。それなのに、資源エネルギー庁は、藻類バイオ(藻類から石油を作る技術)や人工光合成といったまだ実現されていない用途を挙げ、利用拡大を将来の課題としている。自分の所管の事業以外は興味が無いのだろう。縦割り行政の弊害である。
それでも、既存の農業用途と工業用途だけでは、二酸化炭素の処理能力は十分ではないかもしれない。しかし、広域的なパイプラインを敷設して、二酸化炭素の流通を簡便にすることによって、もっと大きな需要を発生させることができる。それは炭酸風呂という需要である。炭酸水の水浴には「脈拍及び拡張期血圧の減少、静脈血の心臓還流の改善と拍出量の増加、皮膚の充血、呼吸量の増加[34]」という健康効果が期待できる。また、炭酸によって体がきれいになるだけでなく、浴槽の掃除にもなる。健康と美容に効果的であるため、炭酸温泉は昔から人気があり、炭酸風呂を呼び物としているスーパー銭湯も増えている。家庭でも炭酸風呂を楽しもうと、浴槽内に重曹やクエン酸を入れる人もいる。もしも二酸化炭素が、水や天然ガスのように、パイプラインを通じて簡単かつ安価に供給できるようになれば、炭酸風呂はブームになるだろう。炭酸風呂で使用した炭酸排水は、浄化した後、淡水藻や海藻の養殖に使うことができる。藻類は、水中の炭酸濃度が高ければ、成長速度が飛躍的に高まることが知られている[35]。藻類は魚の養殖のための餌として使える。
二酸化炭素を供給するパイプラインは、上下水道管などの公共インフラと同様、政府が敷設に関与したほうがよい。現在電気とガスの自由化が進行しているが、各電気事業者から送配電部門が、各ガス会社からガスの導管事業が法的に分離され、公的に中立性を維持する仕組みが作られる予定である。上下水道も民営化が検討されているが、それはあくまでも管理業務であって、少なくとも所有権は自治体が持ち続ける。こうしたネットワーク外部性のあるインフラは、民間企業が私有すると自然独占が帰結し、かえって健全な競争を阻害することになるので、政府が中立性維持のために監視しなければならないのである。
日本政府は、農業機械やハウスなどの経費削減や担い手育成のために補助金を支給しているが、こうした民間でできることは、民間に任せた方がよい。政府は、民間ではうまくできないことに専念するべきだ。農業への支援に関して言えば、研究開発や二酸化炭素供給パイプラインの建設などの事業への支援がそうである。農業という重要産業であっても、基本的には市場経済に委ね、国家の関与を民間だけではうまくいかない分野に限定すること、これこそが、私たちがオランダの農業政策から学ぶべきことなのだ。
2. 日本の林業はどうあるべきか
2.1. 日本の林業はなぜ衰退したのか
日本は、森林面積の広さで世界第23位、国土の森林率で世界第3位なので、森林資源には恵まれている方である。それなのに、日本の林業は、農業以上に衰退したのか。1964年に木材の輸入が全面自由化され、安い外材が輸入されるようになったから、国産材が売れなくなったといった説明がよくなされるが、国産材の価格は輸入材の価格よりも必ずしも高くない。例えば、代表的な国産材であるスギ中丸太は、1990年以降、米国産の栂(ツガ)丸太や松丸太よりも大幅に低価格でしか売れない状況が続いている。かつては高級材だった国産ヒノキ中丸太でさえ、今では米国産の丸太よりも安値で売られている。だから、国産材が売れない原因は、価格だけではない。もとより、国産木材の生産コストが高いことは事実で、それを低価格で販売することにより生じる大赤字を税金で穴埋めしなければ経営が成り立たないというのが日本の林業の情けない現状である。
では、日本の林業はなぜ生産コストが高いのか。日本の山は傾斜が急で、伐採コストが高くなるとか、先進国ゆえに人件費も高くつくとかいった言い訳がよくなされる。しかし、こうした理由から日本の林業の競争力の低さを当然視している人には、ちょうど、国土の狭さや人件費の高さから日本の農業の競争力の低さを当然視する人にとってオランダという不都合な国があったように、オーストリアという不都合な国がある。オーストリアは、アルプス山脈の上に位置し、急峻な地形を有し、人件費も高い。雪崩が頻発するとか、森林限界上部区域が多いとか、日本以上の悪材料もある。それにもかかわらず、オーストリアでは、森林面積あたりの木材生産量は、日本の4.2倍もある[36]。そのため、オーストリアは、国内木材自給率が100%であるのみならず、日本を含めた海外に木材製品をたくさん輸出して、外貨を稼いでいる。この競争力の違いはどこから生まれるのか。
実は、平成29年度の『森林・林業白書』 でも、「我が国と比較的類似した地形や森林所有規模等の条件を有しながら、欧州の林業国として自国内から盛んに丸太の生産を行い、製材品の輸出等につなげている[37]」オーストリアの林業が取り上げられている。そこでは、以下のような、日本とオーストリアで同じ丸太価格におけるコストの内訳を比較したグラフが掲げられている。

林野庁は、この違いを「オーストリアと日本における、林業経営の集積・集約化や効率的な林業のための条件整備の状況の違い[39]」で説明し、「オーストリアの林業から学ぶべき点」として、「森林所有者の経営意思のみに任せるのではなく、林業の現場に近い存在である公的な主体が関わって、森林の経営管理の集積・集約化を実現する新たな仕組みを構築する必要がある[40]」と結論付けている。林野庁は、オーストリアでは「2haを超える皆伐が禁止されている」ため、「森林では天然更新が主で」、「中小規模の森林所有者で自伐を行うものが一定程度存在している」ことには触れているが、日本のように50年で皆伐せずに、択伐と間伐を中心にもっと長い伐期で天然更新(自然に落ちた種子から発生する稚樹を育てていく造林法)を行うオーストリア林業の特徴は「オーストリアの林業から学ぶべき点」とは考えていないようだ。
では、本当に「森林の経営管理の集積・集約化」で、日本の林業はオーストリアの林業のような競争力を持ちえるようになるのだろうか。日本の森林所有者が所有している森林面積は、たしかにオーストリアのそれよりも小さいが、オーストリアの森林所有規模は、ヨーロッパの中では小さい方だ。オーストリアの林業に競争力があるのは、森林所有規模や経営規模が大きいからではない。
そもそも、日本の森林所有者の大部分は林業経営に従事していない。日本政府は、1964年の木材輸入自由化以来「森林の経営管理の集積・集約化」を追求し、森林組合を中心とする伐採業者が、小規模な森林所有者に代わって木材の伐出、運搬、流通を請け負うようになったからだ。2013年現在、森林組合系統組織全体の規模は、出資金約538億円、事業総取扱高約2695億円、素材生産量約453万m3、木材取扱量約745m3、造林面積約15200ha、保育面積27万ha[41]である。森林経営の主体としては、むしろ巨大すぎると言ってもよいぐらいだ。だから「森林の経営管理の集積・集約化」は既に十分達成されている。では、それによって「効率的な林業」が実現したかといえば、答えは否である。
もう一度、丸太価格におけるコスト比較(図10)を見ていただきたい。日本は、オーストリアと比べて、伐出コスト、運材コスト、流通コストが大きい。これは、それらの業務を請け負っている森林組合などの事業が非効率的であることを雄弁に物語っている。その皺寄せは、山元と作業員に行く。山元に支払われる立木価格は、オーストリアの半分以下である。またこの図では示されていないが、林業機械の作業員に支払われる人件費も日本はオーストリアの半分程度[42]で、面積あたりの労災死亡者数は倍[43]である。だから、オーストリアとは異なり、林業家は日本では人気のある職業ではない。林野庁は、日本の森林所有者には主伐の意欲がないだの、若者が参入せずに林業の担い手が高齢化しているだのと嘆くが、伐採業者が非効率な経営を続けて、山元と作業員に利益を還元しなければ、そうなって当然である。
おそらく林野庁は、オーストリアから何かを学ぼうという意欲は最初からなかったのだろう。「森林の経営管理の集積・集約化」で日本の林業が衰退したというのに、日本の林業の再生にはさらなる「森林の経営管理の集積・集約化」が必要だと主張する林野庁に学習能力はないのだろうか。農業と同様、林業においても、日本における根本的な問題は、規模が小さすぎることではなくて、大きすぎることだ。政府と組合主導の国家社会主義的な配給経済が、民間需要との間にあるミスマッチに対処できずに低迷しているのだ。ある民間企業が、顧客が求めている木材の必要量を必要な時期に売る多品種少量生産のサービスをしたところ、儲からないはずの林業が儲かるようになったという報告がある[44]。政府と組合主導の林業は、他の業界では当たり前の努力すら怠って「林業は儲からない」、「もっと補助金をよこせ」と言っているのである。
現行の林業は、経費の7割程度を助成してもらわないと成り立たないという、いわば税金に寄生した産業になっている。これだけ補助金のウエイトが大きいと、林業をするために補助金をもらっているのか、補助金をもらうために林業もどきをしているのかわからなくなる。たんなる切捨て間伐で補助金がもらえる林業家はそれで困らないにしても、困るのは大きな税負担を強いられている国民の方だ。林野庁が「官僚の無謬性」原則により政策転換できないのなら、政治家が政策転換させなければならないのだが、「林業の成長産業化」に邁進する安倍政権は、官僚以上に日本の林業の問題点がわかっていない。
2.2. 問題だらけの「林業の成長産業化」
林業の成長産業化は、公共電波開放や待機児童解消とならんで、安倍政権の重点分野の一つである[45]。林野庁は、林業の成長産業化を次のように説明している。
これまで、我が国の森林・林業に関する施策においては、森林所有者の自発的な施業を国や都道府県が支援するという仕組みをとってきた。しかし、森林所有者の多くが経営規模を拡大する意欲や所有意思等が低くなり、路網整備や施業の集約化など積極的な経営や適切な管理を期待できない状況がみられる。
このため、森林所有者が自ら所有する森林について経営管理すべき責務があることを明確化した上で、森林所有者や林業経営者に一番近い公的な存在である市町村が森林所有者の意向を確認し、森林所有者が自ら経営管理できない場合には、所有している森林の経営管理に必要な権利を森林所有者が市町村に委ねることができるようにし、さらに、市町村は、林業経営に適した森林を、意欲と能力のある林業経営者に任せ、森林の経営管理を集積・集約させていく必要がある。[46]
このビジョンのもと、2018年5月25日に「森林経営管理法」が国会で可決され、2019年4月1日に施行されることになった[47]。そして、政府はその財源を確保するべく、2019年度税制改正において、年間千円を市町村が個人住民税に上乗せする形で賦課徴収する森林環境税とそれを国が自治体に再配分する森林環境譲与税を創設することを閣議決定している[48]。
森林経営管理法は、以下の図に示されているとおり、「林業の成長産業化と森林資源の適切な管理の両立を図るためには、市町村を介して林業経営の意欲の低い小規模零細な森林所有者の経営を意欲と能力のある林業経営者につなぐことで林業経営の集積・集約化を図るとともに、経済的に成り立たない森林については、市町村が自ら経営管理を行う仕組みを構築する必要がある[49]」という趣旨で制定された法律である。

林野庁が、森林所有者の経営意欲が低いと判断した根拠は、以下のアンケート調査の結果に基づいている。

森林所有者のうち、71.5%は「現状を維持したい」と回答し、林業を続けるつもりの所有者のうち60%は「伐期に達した山林はあるが、主伐を実施する予定はない」と答えている。しかし、それをもって森林所有者の経営意欲が低いと判断するのはおかしい。主伐をしなくても、間伐を繰り返すつもりと答えた人は半数を超えており[51]、そうした人たちは、林野庁の想定とは別の意味で経営意欲を持っていると言うことができる。
そもそも「我が国の人工林の約半数が主伐期を迎えている」という林野庁の認識は正しいのか。以下の図「人工林の齢級別面積」に示されているように、10齢級(50年生)が51%を占めている。問題は、50年生以上で主伐期を迎えていると言えるのかというところにある。

私たち人間は、青年期まではよく成長するが、中年期以降は成長が止まる。しかし、木も同じと考えてはいけない。Stephenson et al. (2014) が、世界各地にある403種類の樹木のデータを分析したところ、年老いた樹木の方が若い樹木よりも成長が速く、より多くの二酸化炭素を吸収していることが判明した[53]。日本の人工林に植えられている代表的な樹木はスギとヒノキで、スギは140年生まで、ヒノキは80~100年生まで成長が期待できる[54]。
大径材は小・中径材よりも高値で取引される[55]ので、伸び盛りの50年生の木をすべて切ることは、経済的に合理的ではない。また、皆伐はハゲ山を作るので、土砂災害防止という点でも好ましくない。要するに、50年生で皆伐する日本の林業慣行は、経済という点でも、環境という点でも極めて非合理なのである。それにもかかわらず、50年生以降の森林で間伐を続ける林業家に対して「経営意欲が低い」というレッテルを貼る林野庁は非合理な偏見に満ちていると言わざるをえない[56]。
森林所有者が、所有者としての権利を行使して林野庁の横暴を阻止できればよいのだが、森林経営管理法は、日本国憲法第二十九条に抵触するかもしれない財産権侵害の条項を含んでいる。
第十七条 市町村の長が前条の規定による勧告をした場合において、当該勧告をした日から起算して二月以内に当該勧告を受けた確知森林所有者が経営管理権集積計画に同意しないときは、当該市町村の長は、当該勧告をした日から起算して六月以内に、農林水産省令で定めるところにより、都道府県知事の裁定を申請することができる。[57]
所有者が経営管理権集積計画に反対しても、都道府県知事の裁定によっては、所有者の意に反する経営管理権集積計画が強行され、所有者にわずかな経営管理受益権の対価しか支払われないという可能性があるということだ。所有者不明とされた森林に対しては、行政主導の経営管理権集積計画がより容易に強行される。
経営管理権集積計画を立案した市町村は、計画の実行を「意欲と能力のある林業経営者」に委託できることになっている。林野庁が行った調査によると、伐採業者(素材生産業者)の70%は規模拡大を望み、事業を行う上での課題として最も多かった(37.9%)のは「事業地確保が困難」であった[58]。だから森林所有者から経営管理権を取り上げ、素材生産業者に伐採をさせれば、木材生産が増えるに違いないというのが林野庁の目論見である。
しかし、木を伐るだけ伐って、「後は野となれ山となれ」では、所有者が困る。そこで、森林経営管理法案は、第三十八条で、「林業経営者は、販売収益について伐採後の植栽及び保育に要すると見込まれる額を適切に留保し、これらに要する経費に充てることにより、計画的かつ確実な伐採後の植栽及び保育を実施しなければならない[57]」というように、「計画的かつ確実な伐採後の植栽及び保育の実施」を義務化している。
ところが、50年生皆伐では、「伐採後の植栽及び保育に要すると見込まれる額」が販売収益を大幅に上回る。スギ人工林の場合、50年生で主伐した場合の立木販売収入は、2010年現在の丸太価格に基づいて試算すると、117万円/haであるのに対して、植栽から50年生までの造林・保育にかかる経費は、平均で約231万円/haである[59]。だから、税金で赤字を補填しなければ、民間企業による伐採後の植栽と保育の義務化は無理である。政府が森林環境税と森林環境譲与税を創設したのは、民間の伐採業者を参入させても、現行林業のまま木材増産を強行すれば、赤字拡大必至と事前に予想しているからである。
森林環境税は人頭税のようなもので、逆進性が高い。左翼は、消費税は逆進性が高いと言って反対しているのに、それよりももっと逆進性が高い森林環境税にそれほど反対していないのはなぜだろうか。多分「環境」という言葉に弱いからなのだろう。国民一般も、年間千円で森林環境が守られるなら安いものだという意識があるから、大きな反対運動は起きていない。しかし、この税金が本当に森林環境の保護に使われるかどうか怪しい。
森林環境税は、「パリ協定の枠組みの下におけるわが国の温室効果ガス排出削減目標の達成や災害防止等を図るため、森林整備等に必要な地方財源を安定的に確保する観点から[60]」創設される税だから、皆伐に対して直接補助金が出されることはないだろう。しかし、間接的に皆伐が促されるということはありうる。現に、平成30年度林野庁予算概算要求では、「主伐時の全木集材、それと一貫して行う再造林の実施」が「資源高度利用型施業」として支援の対象になっている[61]。つまり、ハゲ山を作ることになる施行も「林業・木材産業成長産業化促進対策」の一環として補助金で推進するということである。森林環境税も、「森林整備等に必要」ということで、将来こうした使い方がされるかもしれない。しかし、50年生皆伐は、温室効果ガス排出削減という点でも、災害防止という点でも、林業振興という点でも逆効果であり、森林環境税を現行林業拡大のために使うなら、それは納税者に対する裏切りになる。
以上見てきたとおり、安倍政権と林野庁が推進する「林業の成長産業化」には問題が多い。それにもかかわらず、民主党政権下でも同様の政策が試みられていた(後述)こともあり、これに反対する動きが野党にあまり見られない。国会で森林経営管理法に反対した会派は、衆議院では日本共産党のみ[62]、参議院では日本共産党と希望の会の一部のみ[63]である。おそらく、林業に詳しい議員が各会派にあまりいないからなのだろう。
2.3. 収益性と環境保全を両立させる方法
世界で林業が最も先進的であるのはドイツである。ドイツの森林面積は、日本の人工林の面積とほぼ同じであるが、木材生産量は日本の4倍以上もあり、かつその製品は強い輸出競争力を持つ。ドイツは日本よりも地形が急峻ではないなどの違いがあるとはいえ、この違いは自然環境だけで説明できるものではなく、先進的な林業の手法で説明されるべきである。オーストリアはドイツと同じドイツ語圏にあり、ドイツの先進的な林業が実践されている。日本でも大正時代に、ドイツで主流となっていたアルフレート・メーラー (Alfred Möller)提唱の「恒続林思想(Dauerwaldgedanke)」に基づいて、択伐や天然更新施行が導入されたが、昭和になって戦争が激化し、経済制裁を受けるようになると、大正以前の皆伐が復活した。以下のグラフに示されているとおり、日中戦争が始まった1937年以降、伐採が増えた。石油が輸入できなくなったことにより、薪炭用の材積が増えていることがわかる。

敗戦後も、日本は外材を輸入する外貨がなかったこともあり、復興のために大規模な伐採を行った。グラフから、この時期、用材の材積が増えていることがわかる。しかし、戦中から戦後にかけての過剰伐採により、全国でハゲ山が増え、土砂災害が顕著になった。このため、政府は、1964年に木材の輸入を自由化した。おかげで過剰伐採はなくなったが、50年生皆伐の慣行はまだなくなっていない。ドイツも第二次世界大戦中は皆伐を行ったが、戦後、皆伐を禁止し、今では択伐と間伐を中心とした天然更新で持続可能な施行をしている。
戦争中は「背に腹はかえられぬ」状況であったことは理解できる。問題は、なぜ日本は、今でも50年生皆伐を続けているのかである。それは、おそらく日本人は林業を農業の一種と考えているからだろう。農業では、苗を苗床で育てて、耕した土地に植え、肥料を与えたり、雑草を除いたりして世話をしながら育て、実りの時期に一斉に収穫する。日本人は林業でも同じことをしようとする。苗木を苗畑で育ててから、地拵え(整地)した山に植栽(植え付け)し、下刈り(雑草むしり)・蔓刈り・除伐・間伐をしながら育て、柱や板の材料となる太さにまで成長した40~50年後に皆伐する。
こうした農業型林業には、多大なコストがかかる。農業の場合、1年で収穫できるからまだよいが、40~50年で収穫する林業の場合、採算が取れない。それ以外にも問題はある。苗木は肥料をやるとよく育つが、栄養の吸収率が悪くなるので、後の成長に悪影響を与える。下刈り、つまり雑草むしりも、やりすぎると弊害が大きい。雑草は、根が表土を固めることによって、そして葉が雨水の衝撃を和らげることによって表土の流出を防いでいる。また、雑草は、枯れることで土壌を豊かにする働きがある。植栽木以外をすべて除伐することも森林の多様性を失わせ、害虫、害獣、病気などのリスクに対して脆弱になる。
これに対して、ドイツやオーストリアなどで行われている天然更新では、皆伐を避け、間伐を中心に施行し、百年前後の長伐期で主伐を行う。間伐によってできるギャップに日光が当たると、自然落下した種子から稚樹が生育する。ただし、天然更新がどこでも有効とは限らず、望ましくない樹種が生育する場所では、育種された種苗による人工更新が行われる。オランダと同様、ドイツやオーストリアでも、政府は遺伝子解析や品種改良のような研究開発分野には力を入れていて、高い生産性をもたらす種苗が研究されている[65]。それでも、いったん天然林に近い針広混交林になると、天然更新による森林資源の再生産が可能になる。
長伐期天然更新は、自然の力を最大限利用するので、短伐期一斉植林(人間が徹底的に面倒を見る農業的手法による林業)よりもコストがかからず、収益性の改善が期待できる。それのみならず、災害防止という点でもアドバンテージがある。一斉植林で誕生した単純同齢林では、根の深さが画一的であるが、長伐期天然更新の森林では、地中深くまで根を張った高齢樹、地表面で根を張る雑草、その中間で根を張る若齢樹のバランスが取れており、根の深さに多様性がある。また皆伐はしないので、森がハゲ山になることもない。だから、土砂災害を防止するという点でも、長伐期天然更新の方が短伐期一斉植林よりも好ましい。しかし、日本では、北海道十勝郡浦幌町の石井山林のような例外を除いて、長伐期天然更新はほとんど行われていない。

戦後の拡大造林期に造られた日本の針葉樹人工林を天然更新で針広混交林にすることは難しいので、最初は人工更新を行わなければならない。人工更新は天然更新よりもコストはかかるが、それは移行期だけで、恒常的にコストがかかる農業型林業とは異なる。もとよりコストがかからなくても、売上も減るなら収入も減ってしまう。従来、広葉樹は、針葉樹のように真っ直ぐ育たないので、パルプの原料にしかならない価値の低い雑木と軽視されてきた。このため、針広混交林では、経営が成り立たないだろうという予測もある[67]。しかし、近年、家具や工芸品の材料として注目されており、その個性的な形や文様に芸術的価値を見出す職人もいる。広葉樹材は、工夫次第で針葉樹材よりもはるかに高値で売れる[68]ので、針広混交林だからといって収入が減るとは限らない。
日本が今でも短伐期皆伐に固執するもう一つの理由は、国内需要の変化にある。奈良県の吉野、千葉県の山武、岐阜県の今須では、伝統的に伐期を通常の二倍(80~100年)に設定する長伐期施業で大径木を育てている。A材として使われる大径木には和室の建材としての大きな需要があったからだ。ところが、住宅の洋風化により、和室の需要が減り、集成材や合板用のB材の需要が増えるという「木材革命」が起きた。B材を量産するには、大径木になるまで待つ必要はないということになる。日本政府が、一方で皆伐を補助金で促進し、他方で建設会社が直交集成板(CLT)を購入する場合、平均価格を上限に全額補助することを決めた[69]背景には、「木材革命」があったと見ることができる。
とはいえ、日本で住宅の洋風化がいくら進もうが、大径木に対する需要が無くなることはない。大径木には無垢フローリング床材や化粧用単板という大きな需要が世界的にある。無垢フローリング(solid wood flooring 単層フローリング)は、高級志向の顧客に人気で、合板の上に化粧板を貼った複合フローリング(engineered wood flooring)よりも高値で売れる。ただし、スギやヒノキなど針葉樹で作った無垢フローリングは、柔らかくて、傷がつきやすいという欠点があり、固くて丈夫な広葉樹で作った無垢フローリングほど高くは売れない。しかし、この欠点もケボニー化[70]や表層圧密テクノロジー[71]によって克服できる。だから、スギヤヒノキも、長伐期施業で大径木を育てることは、日本の林業を輸出産業化する上で有望である。

こうした問題意識から、従来の短伐期皆伐林業に対して、長伐期非皆伐林業を「自伐型林業」という名称で普及させようとする動きが日本に出てきた。この名称は、森林所有者が、森林組合などの伐採業者に経営を委託するのではなく、自ら低コストな経営をすることで、収益性を改善するという理想に因んで付けられたものだ。もっとも、自伐型林業推進協会によると、自分で山林を所有せずにすることも可能である[73]とのことなので、「自伐型林業」という名称は、本質を言い当てているとは言い難いのだが、以下、長伐期非皆伐林業という意味で「自伐型林業」という名称を使うことにしよう。
NPO法人土佐の森・救援隊の中嶋健造は、自伐型林業を広めようとしたところ、林業界のエスタブリッシュメントから大きな抵抗を受けたとのことである。
「素人が山に入って来るな、山はプロの森林組合がやるものだ、素人が入って来るようなところではないぜよ!」とフォーラムで罵倒されたり、「なんで君たちがいるのだ、自伐林業などと古臭いことを言っている連中の来るところではない」と林業者の会合で一喝されたり、「中嶋さん、これからの林業は高性能林業機械を導入して大規模に生産する大規模な林業の時代ぞね。個人による自伐とか林内作業車などと、小さなことを言っておったら誰にも相手にされんぞね、ハッハッハ」と林業行政職員に笑われたり、「自分の山で、自分で林業やると言いよりますか。いやいやそれは無理です。バカなことを考えたらいかんぞね、早う森林組合に委託しいや」と林業普及員に忠告されたり、極めつけはフィールドにしている森林を追い出されるということも起こったのである。[74]
この中で、特に林業行政職員の発言に注目したい。それは、広い面積の森林を大型機械を使って大規模に伐採し、集成材や合板といった規格品を量産し、安く広く販売することが競争力につながるという林野庁の官僚たちが信奉する工業社会時代の古い発想に基づいている。これに対するアンチテーゼとしての自伐型林業は、全近代的で「古臭い」ように見えるかもしれないが、多品種少量生産に適しているという点で、情報社会にふさわしい林業であるということができる。
大型機械を使って大規模に伐採する現行林業は、効率的に見えるが、実は収益性は高くない。大型機械は高額であり、大型機械による大規模伐採が前提とする皆伐に経済合理性がないからだ。これに対して、小型機械で間伐を繰り返す自伐型林業は低コストで、持続可能なので、長期的に見れば収益性は高い。補助金を食いつぶし、森林環境を破壊する現行林業は淘汰されるべきだ。そのための最も良い方法は、林業に支給している補助金を減らすことだ。補助金を減らせば減らすほど、収益性の悪い業者から順に撤退するからだ。ところが政府は、森林環境税や森林環境譲与税を新設し、それを財源に林業のための補助金を増やすという全く逆のことをしようとしている。
政府は、林業振興とともにバイオマス発電の普及をも画策している。こちらは必ずしも悪い政策ではない。実は、自伐型林業は、A材のみならず、バイオマス燃料用のC材の生産も可能である。土佐の森・救援隊が行政に認められるようになったのは、NEDO(経済産業省管轄の新エネルギー・産業技術総合開発機構)による「バイオマスエネルギー地域システム化実験事業」に参画してからである[75]。この事業では、当初自伐型林業者はあまり期待されていなかったが、最終的にはバイオマス用燃料の収集量の九割を自伐型林業者が占め、このため、実験事業の終了後、仁淀川町の委託により土佐の森・救援隊がこの事業を受け継ぎ、二年間経営した[76]。バイオマス発電は、日本でも発祥の地であるドイツでも苦戦している。この問題を最後に取り上げよう。
2.4. バイオマス発電はどうあるべきか
日本政府は、2002年に京都議定書対策として「バイオマス・ニッポン総合戦略」を閣議決定し、再生可能な生物由来の有機性資源を活用しようとしたが、2011年3月に総務省が行った評価によれば、バイオマス関連施設には赤字のものが多い。総務省も言うように、「国費等の導入支援がなくてもバイオマス利活用施設が普及、拡大していくことが重要であり、そのためには、施設の採算性の向上が必要不可欠である[77]」。ところが、その後、再生可能エネルギーの固定価格買取制度により、バイオマス発電に「国費等の導入支援」が行われることになった。
固定価格買取制度(FIT=Feed-in Tariff)とは、再生可能エネルギーを普及させるために、火力発電による通常の価格よりも高い固定価格で再生可能エネルギーによる電力を買取る助成制度である。差額は電気料金に上乗せされるので、国民に負担を強いる事実上の補助金制度である。この制度を国レベルで最初に開始したのはドイツで、日本では、菅直人総理大臣(当時)が、2011年に退陣の条件として法案を可決させ、2012年7月1日から制度が運用されるようになった。太陽光発電は、2009年11月1日から既に余剰電力が買い取られていたが、これにより、バイオマスなど、太陽光発電以外の再生可能エネルギーも固定価格買取の対象になった。

菅がドイツを模範にしたのは、固定価格買取制度だけではない。早い時期から林業に関心を持っていた菅は、2007年にドイツの林業を視察し[79]、日本と同様に賃金の高いドイツが日本に木材を輸出している事実を知って驚き[80]、日本の林業をドイツなみにしようと意気込んだ。もっとも、菅は、ドイツの長伐期天然更新には注目せず、ドイツなみの路網密度、集約化、人材育成、バイオマス利用を公共事業という形で実現しようとした。菅は、副首相を務めていた2010年1月に、林野庁に「森林・林業再生プラン推進本部」を設置し、首相になると「林業の再生による地方の雇用の拡大」を「成長戦略」の目玉政策にした。菅内閣は一年余りで終わったが、固定価格買取制度と林業の成長産業化という菅内閣の置き土産は菅内閣退陣後も継承された。
固定価格買取制度が始まった当初、太陽光発電の調達価格は、住宅用(10kW未満)で、42円/kWh、事業用(10kW以上)で、40円/kWh(税抜き)と高く設定された[81]ため、太陽光バブルが発生した。その後、調達価格は引き下げられ、2018年度には事業用(10kW以上2000kW未満)で、18円/kWh(税抜き)になり[82]、太陽光バブルは沈静化した。他方で、間伐材等由来の木質バイオマスの調達価格は、当初、32円/kWh(税抜き)と低かったものの、2018年度には大規模発電所(2000kW以上)で、32円/kWh(税抜き)、小規模発電所(2000kW未満)で、40円/kWh(税抜き)と高く設定され、太陽光バブルに代わってバイオマス・バブルが発生している[83]。
ドイツに学ぶという姿勢自体は良いのだが、菅は、ドイツから真に学ぶべきことを学ばなかった。従来型林業の延長にしかならない「森林・林業再生プラン」は言うまでもなく、固定価格買取制度も、ドイツでは失敗と認識され[84]、日本がこの制度を始めた2012年に修正法案が成立し、2014年から競争入札制度を導入した市場プレミアム制度(FIP=Feed-in-Premium)が始められた。今後、日本もドイツと同様、より市場経済に近い状態に変えていかなければならない。
一般的に言って、補助金で新商品を普及させる政策は、量産効果でしか価格が下がらない場合に有効である。例えば、太陽光発電設備のように、時間とともにイノベーションでコスト・パーフォーマンスが改善する商品の場合、この方法はむしろ有害だ。補助金のおかげで、消費者は技術が未熟な段階で買ってしまい、後でもっと効率の良い最新の商品を買おうとしても、減価償却期間(太陽光発電設備の場合、17年)が終わるまでは難しい。結果として、効率の良い最新の設備の普及を妨げてしまう。
固定価格買取制度は、バイオマス発電の方でも問題がある。間伐材等由来の木質バイオマスが固定価格買取制度で優遇されている背景には、政府が推進する林業の成長産業化があるのだが、国内ではあまり大量に入手できないため、業者の多くは、間伐材等の燃料を海外から輸入している。これでは国内林業の成長産業化には結びつかず、むしろ日本の消費者の負担で海外の林業を振興する結果となっている。このように、固定価格買取制度は有害だから、できるだけ早く廃止するべきだ。廃止したからといってバイオマス発電がなくなることはない。むしろ、補助金に依存しない方が、持続可能な健全な発電方法になる。
最も理想的なバイオマス発電は、同じく植物を起源とし、化学的組成が似ている石炭との混焼である[85]。石炭火力発電は、有害物質を出すというイメージがあるが、日本の石炭火力発電は、SOx、NOxの排出量が主要先進国と比較して一桁低く、極めて小さい値となっている。実は、石炭混焼バイオマス発電は、現在固定価格買取制度の対象であるが、カーボン・ニュートラルではないとして批判されており、将来対象から外れる可能性がある。それでも、石炭混焼バイオマス発電は、国内資源の有効活用という観点から行われるべきだ。日本は、燃料資源に乏しく、輸入に大きく依存しているが、バイオマスと石炭なら豊富にあり、これを有効活用することは、エネルギーの安全保障という観点からも重要だ。また、太陽光、風力、原子力といった他の発電方式は、電気を生産するだけだが、石炭混焼バイオマス発電は、電気に加え、熱、二酸化炭素、肥料を生産する。そしてこれらはすべて農業に活用することができる。
植物は、成長する上で様々な栄養素を必要とする。植物および植物を直接的あるいは間接的に摂取している動物には、そうした栄養素が集まる。だから、動植物の死体あるいは排泄物から必要な栄養素を回収し、それを肥料として活用することが望ましい[86]。石炭混焼バイオマス発電は、燃焼を通じて、炭素、酸素、水素といった有機栄養素を減らすことで無機栄養素の濃度を高める。有機栄養素は水と二酸化炭素として与えられるので、無機栄養素は燃焼灰から作られた肥料で与えればよい。もともと植物に含まれていた有機栄養素と無機栄養素を再利用するという点で、石炭混焼バイオマス発電を通じての二酸化炭素と肥料の活用は、植物のリサイクルであると言うことができる。
私は、日本政府が二酸化炭素の排出量を削減するという目的で推進しているCCU(二酸化炭素回収・活用)やバイオマス発電を資源の有効活用という別の観点から評価している。二酸化炭素やメタンなど、人為起源の温室効果ガスは、今日ではすっかり悪者扱いされている。しかし、ウィリアム・ラディマンによると、ミランコビッチ・サイクルで計算するなら、現在は氷期に突入してもおかしくない時期であり、8000年前に人類が農業を開始し、温室効果ガスを出し続けているおかげで氷期突入という最悪の事態が回避されている[87]と見ることもできる。
ラディマンの仮説には異論も多いが、過去の解釈はともかく、将来に目を転じると、以下図にも見られるとおり、当面、太陽活動は低迷する見込みで、ワレンティナ・ジャルコワらは、第26太陽周期(2030-2040年頃)にマウンダー極小期のような小氷期が到来する[88]と予測している。

人類が、大量の温室効果ガスを出しているおかげで、近代小氷期のような寒冷化は回避できそうだ。他方で、2040年頃に、産業革命前(つまり近代小氷期)より1.5度気温が上昇するという予測を出し、温暖化ガスの排出削減を勧告している[90]IPCC(国連の気候変動に関する政府間パネル)は、太陽活動の影響を軽視しすぎている。今年(2018年)は、異常な暑さであったことから、地球温暖化はやはり深刻な問題だと思っている人もいるだろう。しかし、今年の猛暑は、ヒートアイランド現象の結果であって、地球全体の平均気温はそれほど上昇していない[91]。ちなみに、大寒波が襲った今年の一月は異常な寒さであった。
温暖化と寒冷化のどちらが悪いのかという議論は、インフレとデフレのどちらが悪いのかという議論に似ている。経済にとって、急激なインフレもデフレもどちらも好ましくなく、緩やかなインフレが最も好ましい。同様に人類にとっては、急激な温暖化も寒冷化もどちらも好ましくない。現在の地球が氷河期にあることを考えるなら、緩やかな温暖化が好ましい。温暖化に対する懸念を示しても、寒冷化には無関心なIPCCは、インフレの恐怖ばかりを煽って、デフレの危険性には目をつぶる反リフレ派のようなもので、バランスを欠いている。中央銀行が適度なインフレをターゲットとしているように、人類は適度な温暖化をターゲットとするべきだ。
私が提案している二酸化炭素の有効活用や石炭混焼バイオマス発電は、二酸化炭素の排出量を必ずしも削減しない。火力発電から二酸化炭素を回収しても、利用先がハウス栽培にせよ、炭酸風呂にせよ、吸収される二酸化炭素は一部で、残りは空気中に放出される。石炭混焼バイオマス発電は、投入される石炭の分、多くの二酸化炭素を排出する。それでも、通常の火力発電よりも二酸化炭素を出さないし、太陽光や風力よりも二酸化炭素を出すので、バランスの取れた方法であるということができる。何より重要なことは、農業と林業の廃棄物を有効活用することで、農業と林業の生産性を向上させるということである。
3. 日本の水産業はどうあるべきか
3.1. 日本の漁業はなぜ衰退したのか
日本の水産業は、農業や林業と同様、長期的に衰退傾向にある。以下のグラフは、1965年から2016年にかけての日本における漁業と養殖業の産出額の推移を示したもので、排他的経済水域の制度を新設した国連海洋法条約が採択された1982年をピークに現在では半減していることがわかる。直近では、養殖業の隆盛で持ち直しているものの、漁業は、漁業就業者と漁船の高齢化が進み、先行きは暗い。

もとより、以下のグラフを見ると分かるとおり、世界の水産業は、1982年以降も成長を続けている。多くの国で水産業は今もなお成長産業であるのにもかかわらず、日本は負け組になっているのが現状である。

日本の農業は国土の狭さを、日本の林業は地形の急峻さを競争力の低さの言い訳にしてきた。しかし、水産業の場合、さすがに自然環境のせいにはできない。かつて日本は、国内に大きな需要を持ち、かつ世界中の海で漁業することができたため、世界最大の漁業国になった。1982年に排他的経済水域の制度が新設された後でも、世界第6位の広さがあり、かつ世界有数の豊かな漁場である排他的経済水域を持っているのだから、自然環境という点では、他の多くの国よりも恵まれている。それなのに、なぜ日本の漁業は、若い後継者を見つけることができないほど絶望的な衰退産業になってしまったのか。
ここでもう一度図20を見られたい。1990年以降、漁業が横ばいであるのに対して、養殖業が全体の伸びを牽引していることがわかる。排他的経済水域が設定されて以来、世界の漁業には《獲る漁業》から《育てる漁業》へのパラダイム・シフトが起きた。養殖に力を入れたことはもちろん、漁業の分野でも、乱獲による資源枯渇を防ぐため、科学的根拠に基づいて漁獲可能総量(TAC=Total Allowable Catch)が設定され、漁業者あるいは漁船毎に、個別漁獲割当(IQ=Individual Quota)あるいは譲渡可能個別漁獲割当(ITQ=Individual Transferable Quota)あるいは漁船別漁獲割当(IVQ=Individual Vessel Quota)が課せられ、漁業資源を持続可能にしようとする動きが起きた。ところが、日本の漁業はこの世界の動きに後れを取ってしまった。
一般的に言って、パラダイム・シフトが起きるとき、古いパラダイムにおける最大の勝者は、最大の敗者に転落する。日本の漁業者は、《獲る漁業》にあまりにも投資しすぎたため、そのレガシーからの脱却は容易ではなかった。日本の漁協(漁業協同組合)は、既存の組合員の既得権益を守るため、《育てる漁業》への移行に消極的であった。部外者が養殖業を始めようとしても、漁協は沿岸で漁業を営む漁業権を独占的・優先的に持っており、これが障壁となって、新規参入が困難なのである。だから、海外で養殖業を行い、国内に輸入するという方法を選ぶ日本企業もある。図19を見ても分かるとおり、1982年以降も日本の養殖業は横ばいである。
もとより、日本の漁協が従来路線をそのまま継承しようとしても、漁業資源保護を求める国際世論の圧力を無視することはできない。そこで
日本も、1996年に批准した国連海洋法に基づき、総漁獲量のうち35%を占める代表的な七種類の魚種にTAC制度を導入したが、規制前の漁獲量よりも大きくTACを設定したため、TACは有名無実化した。日本での実効性のある漁獲制限は、漁獲量という成果の制限ではなくて、参入規制やプロセス規制で行われている。プロセス規制は、「わざと漁獲効率の悪い網を使用し、また船を稼働できる日数を制限するなどにより、資源を守る発想になっている[94]」ので、これにより、日本の漁業の生産効率が低下した。それでも漁獲量には実質的には制限がないので、乱獲に歯止めがかからなくなり、市場価格が低い小さな魚を捕獲するようになった。価値の低い魚を非効率な方法で捕獲するため、日本の漁業の収益性は極めて悪く、政府が補助金をばらまかなければ存続できないほどの衰退産業になったわけである。
3.2. ノルウェーの漁業はなぜ成長しているのか
日本の農業にとってのオランダ、日本の林業にとってのオーストリアに相当する日本の漁業にとって参考になる国は、中国につぐ世界第二位の水産物輸出国、ノルウェーである。ノルウェーは、農業には向かないが、漁業には明るい未来がある。以下の表は、世界の主要な漁業国が水産業(漁業と養殖業 Fisheries and aquaculture)の生産高を2016年から2030年にかけてどれだけ増やすか(Growth, 2016 to 2030)を国連食糧農業機関が予測したものである。

日本の水産業の成長率は、11.5%の減少である。これほど壊滅的に減少する見込みの国は他にはない。まさに日本一人負けといったところだ。発展途上国の水産業は、人件費が安いこともあって、大きな成長が予測されている。ところが、ノルウェーの水産業の成長率が16.3%と高く評価されていることは、人件費では説明がつかない。ノルウェーの一人当たりのGDPは日本の二倍以上あり、ノルウェーの漁師の平均年収も日本の漁師の約三倍である。しかも「船内にはフィットネスジムやミニシアター、システムキッチンに小さなパーティールームなどを備え、まるでクルーズ船のような豪華設備となっている[96]」というのだから、人件費だけでなく、漁船の建造費も高くつく。大企業が漁業をやっているというわけでもなく、日本と同様、家族経営体が主体となっているのにもかかわらず、ノルウェーの漁業は高い国際競争力を持ち、かつ今後も成長すると期待されている。
ノルウェーも、今の日本と同様、60年代から70年代にかけての乱獲でニシンが大幅に減少するといった失敗をしたことがあったが、1980年代から減船補助金の支払いにより漁船の減少を促進し、他方で、IVQを導入して厳格な資源管理を行ったことで、以下の図からも分かるとおり、1990年代から漁獲量と漁獲高が回復し、その回復が今日の高収益漁業につながった。

欧米がかつてそうしたように、TAC(漁獲可能総量)を小さく制限すると、早獲り競争が起きて、若い小型魚が乱獲されてしまうという弊害がある。そこで、TAC規制は、IQ/ITQ/IVQ規制に切り替えられた。漁業者あるいは漁船ごとに漁獲可能量が割り当てられているなら、早獲り競争をする必要はない。できるだけ商品価値の高い魚を獲ろうとするので、成熟した大型魚を獲ろうとするようになり、小型魚を混獲しても、それらを海に返すようになる。TAC規制下では、できるだけ早く自分たちの水揚げ量を最大化しようとする競争が起きるのに対して、IQ/ITQ/IVQ規制下では、時間をかけてでも与えられた制限量内でその価格を最大化しようとする競争が起きる。資源保護という観点からしても、産業振興という観点からしても、どちらが望ましいかは明らかだ。
水産庁も、ようやく2018年秋の臨時国会にも、TAC対象魚種を拡大し、漁船ごとの個別割り当て方式を導入可能にする法改正案を提出する予定である。それにしても、なぜ日本は長い間、合理的な資源管理をしてこなかったのか。水揚げ量の検査が困難というのがよく聞かれる表向きの理由である。確かに漁師の自己申告では、虚偽報告がなされる可能性がある。しかし、獲った魚は、売られるか、売れ残って破棄されるかのどちらかなので、買い手と廃棄魚の処理業者という第三者からの情報を通じて水揚げ量は検証可能である。過大申告する漁業者には、漁獲可能量を引き下げるペナルティを与えれば、過大申告は減るだろう。水産庁や政治家たちが消極的だった本当の理由は、漁師や漁協が難色を示していたというところにあるのだろう。
漁業者あるいは漁船ごとに漁獲可能量が割り当てたとしよう。漁業者が廃業すると、割り当てられた漁獲可能量をどうするのかという問題が出てくる。オークションで売却するというのが経済合理的な方法だが、それだと資本力に優れた企業が落札する可能性がある。「長年その地に土着して目の前の浜で暮らしてきた我々に対して、突然、漁業権の免許が漁協(多数の家族経営漁家の集合体)から企業に変更された(あるいは企業にも付与した)ので、君らの一部は企業が雇ってくれるが、基本的にはみんな浜から出ていけ、という理不尽極まりない要請が許される[98]」ことこそが、既存の漁師と漁協が一番警戒していることである。
彼らは、効率的な漁業をする企業とは競争したくないし、企業が参入する場合は、漁協に入ってもらって、自分たちの利益になるように利用して、取り込みたい。そうやって、従来どおりの競争力のない漁業を続け、補助金利権を独占し続けたいというのが彼らの本音である。だが、これでは消費者や納税者は困るし、何より日本の水産業の衰退に歯止めがかからなくなる。それなのに、政治家たちは、漁師や漁協の票を獲得するために、改革を先延ばしし、場当たり的な補助金バラマキに終止した。
例外もある。2011年に、宮城県知事の村井嘉浩は、震災後の沿岸漁業を再生するために民間企業の力を借りようと、法人が漁協と同等の条件で漁業を営める宮城県水産特区の認定を申請した。すると、案の定、漁協はこれに猛反対した。結局、申請は認められたが、この事例からも分かるとおり、漁協は、自分たちの既得権益である漁業権が侵害されることに激しく抵抗する。それは、農協が株式会社の農業への新規参入に激しく抵抗してきたのと同じような話だ。漁協は、IQ/ITQ/IVQ規制の代わりに自主的なプロセス規制を乱獲対策として実践してきた。「自主的」と言えば、聞こえはよいが、要は、国家や企業といった《よそもの》が入ってくる余地が無いように内輪の管理で終わらせようということなのである。
元水産庁役人[99]で、TAC規制にもIQ/ITQ/IVQ規制にも反対し、漁業者による自主的な取り組みに任せるべきだというのが持論の佐藤力生は、「ノルウエーは日本漁業のモデルにならない」と言い、その理由を次のように述べている。
北欧漁業のように、可能な限り漁業者を排除し、少数の漁業者に資源を集中する「排除と富の集中」により生産性を揚げていく手法ではなく、我が国の漁業には「共生と富の均衡」を前提した、協業化・共同化により生産性を向上させていく、資源管理型漁業という手法があります。人間が幸せに生きていくために必要な多様な価値観の中で、お金や効率性のみを偏重する規制改革路線こそが、地方を切り捨て衰退させた最大の要因ではないでしょうか。[100]
一方で「協業化・共同化により生産性を向上させていく」と言いつつ、他方で「お金や効率性のみを偏重する規制改革路線」を批判するというのは矛盾しているように思える。日本の漁協が大切にしてきた協業化・共同化により生産性が向上したとは言えず、むしろ日本の漁師たちは貧しくなるばかりである。貧困化と高齢化が進む漁民たちの心に「共生と富の均衡」という美しい理念が響くだろうか。今後日本の人口が減っていくことを考えるなら、大勢の漁師が非効率な漁業を行って平等に貧しい生活を送るよりも、少数の有能な漁師が高収益の漁業を行う方が望ましいのではないのか。
日本という社会には、敗者を作らないことを良しとする伝統文化がある。敗者を作ると、その敗者が怨霊となって祟る。それでは困るので、和を以て貴しと為す「共生と富の均衡」が理念として掲げられる。日本の大企業が、従業員の解雇を極力避け、やむを得ない場合は、子会社に出向させたり、転職の紹介に世話を焼いたりするのも、怨霊対策の伝統の名残とみなすことができる。こうした日本型社会主義と揶揄される日本の慣行は怨霊対策としては有効だが、経済政策としては合理的ではない。労働市場で市場原理が機能しなければ、労働生産性が低下するし、漁業でも、護送船団方式で市場原理が機能しなければ、生産性は向上しない。
ノルウェーは、漁船を減らすために減船補助金を支給したが、日本の場合、漁業への補助金を段階的に減らすことで、過剰な数になっている漁業者に収益性が低い順に廃業してもらうという政策が考えられる。ノルウェーもかつては多くの補助金を支給していたが、漁業者に対する所得保障を2005年に廃止し、減船補助金も2008年に終了させた。2016年10月以降、世界貿易機関(WTO)において、国連が掲げる持続可能な開発目標(SDGs)を達成するため、漁業に対する補助金を禁止する提案がEUなどから提出されたが、日本は「政策上必要な補助金は認められるべきであり、禁止される補助金は、真に過剰漁獲能力・過剰漁獲につながるものに限定すべきとの立場[101]」を表明して、これに反対した。日本が漁業に支給している補助金額は世界の中で突出しており、今後補助金削減を求める国際世論は強まるだろう。同じ財政支援をするにしても、廃業者の転職支援に使った方が賢明である。外圧に屈するといった受け身の対応ということではなく、日本の水産業の未来を見据えて、戦略的に漁船の削減を図るべきではないか。
3.3. 収益性と資源保全を両立させる方法
ノルウェーの漁業は、日本の漁業よりも優れているが、問題もある。一つは、新規参入に対してオープンではないことであり、もう一つは《育てる漁業》という点ではまだ十分ではないことである。従来、この二つは二律背反の関係にあるとされていた。自由に新規参入を認めると、資源が枯渇するし、資源を守り、回復させようとすると、新規参入を制限せざるをえないというわけだ。
漁業権開放を「亡国・売国」と非難する東京大学教授の鈴木宣弘は、
規制撤廃して個々が勝手に自己利益を追求すれば、結果的に社会全体の利益が最大化されるという論理のコモンズ(共有資源)への適用は論外である。私は環境経済学の担当教授で、毎年、学生に「コモンズの悲劇」(共有牧場や漁場を例に、個々が目先の自己利益の最大化を目指して行動すると資源が枯渇して共倒れする)を講義している。教科書の最も典型的な事例なのに、「コモンズの共同管理をやめるべき」というのは、経済理論の基本もわかっていないことを意味する。[98]
と主張し、「ノーベル経済学賞を受賞したオストロム教授のゲーム論によるコモンズ利用者の自主的な資源管理ルールの有効性の証明[98]」を引き合いにしつつ、漁協による漁業権管理を養護している。そうは言っても、これまでの漁協による漁業権管理で、一方で漁業資源が減少し、他方で経済収益も低下したという最悪の結果になったことを考えるなら、今の制度をそのまま存続させることはできない。
コモンズの悲劇(the tragedy of the commons)は、競合性(消費の増大に追加的なコストがかかること)はあっても排除性がない(対価を支払わず消費するフリー・ライドを排除することができない)財で起きる。排他的経済水域の設定は、一定の排他性を与えたものの、どの排他的経済水域がカバーしない公海があるし、排他的経済水域間を回遊する魚もいるので、完全な解決策にはなっていない。また、排他的経済水域は、国単位の排他性しか与えず、事業者単位には漁業権という別の排他性を与えなければならない。
日本でも、ノルウェーでも、漁業権は、これまで漁業を行ってきた人たちに優先的に与えられる。しかし、これまで漁業資源を減らしてきた人たちに、さらに漁業資源を減らす権利を与えるのは不条理である。むしろ、漁業資源を増やした人に、報酬として漁業権を与える方が合理的だ。ちょうど事業に投資した人に、投資の果実を配当という形で報いるように、漁業資源の増加に貢献した人に、その果実を漁業権という形で報いるべきなのだ。もちろん、配当を受け取るための権利書である株式を市場で売却することができるように、漁業権も市場価格で売却可能にすればよい。
漁業権は、通常、国内での判断だけで割り当てられる。だが、農業、林業、養殖業とは異なり、漁業では、資源に排除性を与えることが難しい。だから、新しい漁業権システムは、国連海洋法条約を改正する形でグローバルに導入することが望ましい。国連海洋法条約は締結国が多い[102]ので、合意を得るには困難も予想されるが、同じような仕組みである温室効果ガス削減のための排出権取引制度(排出量削減の目標を達成できなかった国や企業が、達成できた国や企業から排出権を買い取る制度)は、多くの国で受け入れられた。海と海洋資源は人類の共有財産であり、乱獲防止は国際的な関心事である。それならば、京都メカニズムのようなグローバルな市場メカニズムを漁業資源の管理のために導入することができるのではないか。
漁業資源増加に貢献する方法は二つある。漁業資源の量を増やす方法と質を高める方法である。質を高めるとは、漁業資源の商業価値を高めることである。例えば、海洋汚染とそれに伴う魚介類の汚染を減らすことや商品価値の高い種の品種改良やその稚魚を放流することなどだ。質はもとより量に関しても、各事業が漁業資源をどれだけ増やしたかを測定することは、温室効果ガスをどれだけ削減したかを測定することよりも難しいが、科学的根拠に基づいた推定は可能であり、国際機関が仲介して評価を行い、貢献度に応じて漁業権を与え、貢献者は漁業権をオークションで売却することで、事業に必要な資金を回収する。この方法なら、漁業権の獲得にも購入にも参入障壁はなく、また増やした分を捕獲するのだから、新規参入の問題と資源保全の問題の両方を解決できる。
3.4. 漁業資源を増やすにはどうすればよいのか
最もわかりやすい《育てる漁業》は、養殖業であるが、養殖業で水産物資源を増やすことには二つの問題がある。一つは、養殖に必要な餌は海から採取するのが普通であり、それが乱獲に繋がる可能性があるということである。もう一つは、内水面で行うにせよ、海面で行うにせよ、規模に限度があるということである。世界最大の利用可能な生簀は海であり、海における水産物資源を増やすことが最もスケールの大きな《育てる漁業》である。
海における水産物資源、すなわち漁業資源の量を増やすには、海洋における食物連鎖を底辺で支える植物プランクトンを増やす必要がある。植物プランクトンが成長する上で必要な要素は、光、温度、栄養塩の三つで、栄養塩の中でも特に不足しているのが鉄である。世界の海表面には、主要な栄養塩が高濃度に存在するのに、植物プランクトンが少ないHNLC(High Nutrient Low Chlorophyll)海域がある。1980年代に、米国の海洋学者、ジョン・マーチン(John Martin;1935 – 1993)は、HNLC海域を生じさせる主たる原因が鉄イオン濃度の低さであることを鉄添加培養実験により実証した[103]。
マーチンの仮説は、近年別の証拠によっても支持されている。以下の図のaは、植物プランクトンが発するクロロフィル蛍光の量子収率を示している。これは栄養塩ストレスの指標で、赤くなっている海域は、栄養塩が不足している。この分布と相関があるのは、bの硝酸塩濃度やcのリン酸濃度ではなく、dの可溶性鉄堆積の分布である。

マーチンは、「タンカー積載量半分の鉄があれば、氷期にすることができる[105]」と言って、鉄散布事業を地球温暖化防止策として提案した。日本でも「鉄が地球温暖化を防ぐ」と言って、この事業を推奨している人もいる。しかし、世界の表層海洋の20%に対して、2100年まで年間15回鉄を散布しても、植物プランクトンの大半は海表面上で捕食され、海底に沈むのはわずかであるため、15ppmvしか大気中の二酸化炭素濃度を削減しない[106]。それでも、温暖化防止策としてではなくて、漁業資源を増やす事業としては意味がある。鉄を散布したあと、商業的価値のある種苗を放流すれば、深海に沈む植物プランクトンの死骸が減るので、炭素隔離にはならないけれども、養殖業にはなる。
鉄は、不足している唯一の栄養塩ではない。漁業資源を増やすには、他の栄養塩の供給も必要である。但し、増やしすぎると富栄養化の弊害が起きる。すなわち、窒素やリンが増えると、魚類の餌として重要な珪藻に代わって、有毒物質を出す非珪酸質の植物プランクトンが増え、それが魚介類に斃死をもたらす。表層で捕食されない植物プランクトンは、海底に溜まってヘドロとなり、溶存酸素がほとんどない環境下で嫌気性微生物によって分解されて、悪臭を発生させる。海洋施肥を行うに当たっては、そうならない範囲で栄養塩の濃度を調節しつつ行う必要がある。
漁業資源の質を高める方法として優先的に取り組まなければならないのは、海洋汚染の低減である。汚染物質の海への放出を止めても、いったん汚染した海洋は、なかなか自然には浄化されない。人工的に汚染物質を除去しようとしても、薄く広く分散しているので、容易ではないが、食物連鎖による生物蓄積で、とりわけクジラやイルカといったクジラ類の内臓に高濃度に含まれているので、高齢になったクジラ類を捕獲し、内蔵に濃縮された有害物質を微生物で無害な物質に分解し、水銀(水俣病の原因)やカドミウム(イタイイタイ病の原因)など有害な元素は隔離して保存するという方法なら、比較的容易にできる。
欧米の自称環境保護団体は、「クジラやイルカを殺すのはかわいそう」といった感情的な理由から捕鯨を全面的に否定しているが、捕鯨をしなくても、クジラ類はいずれ死に、体内に濃縮された有害物質は、再び海中に拡散する[107]。またクジラ類は骨にリンをリン酸カルシウムとして大量に含んでいるが、人間がこれを肥料として利用しなければ、骨は死後海底に沈んでしまい、リン資源の有効活用が難しくなる。有益な資源であれ、有害物質であれ、クジラ類は体内に濃縮して持っているのだから、捕鯨によって、前者を有効活用し、後者を無害化するべきである。
私は、漁業資源の質を高めるもう一つの方法として、品種改良を挙げた。農業と同様、水産業でも、クリスパー・キャス9などを用いたゲノム編集が注目を集めている。現在、既にゲノム編集を使って筋肉量を1.2倍に増やした肉厚鯛「マッスルマダイ」の量産などが計画されている[108]が、漁業資源を地球規模で底上げするには、一次生産者である植物プランクトンにこそ光合成効率を改善するなどのゲノム編集が必要である。マッスルマダイとは異なり、直接的な収益化が難しいので、植物プランクトンの品種改良は、漁業権の販売という形で資金回収することが望ましい。漁業資源に対する需要は世界的に増大しつつあるが、漁業資源増大への貢献者に漁業権を与えるシステムにより、資源を枯渇させることなく、増大する需要に応えることができる。日本の漁業も、漁協に既得権益として漁業権を与える従来の制度を見直し、新規参入と資源保全を両立させる制度へと移行するべきだ。
4. 日本の農林水産業はどうあるべきか
以上、日本の農林水産業がどうあるべきかについて私の考えを述べた。農林水産省の考えは、日本の農林水産業に競争力がないのは、農民、林業家、漁師の規模が小さいからで、競争力を高めるには、大規模化と集約化が必要というものだ。日本では今でも大企業神話が健全で、官僚に限らず、大企業ほど競争力があると信じている人が多い。もしも規模が大きいほど競争力があるのなら、日本に存在するすべての企業を集約すれば、最強の企業を作ることができるはずだ。全員が一丸となって、協力し合えば、世界に冠たる日本株式会社が誕生するはずだ。
本当にそう考えて、あらゆる生産手段を国家に集中させようとした人たちがかつていた。社会主義者と呼ばれる人たちだ。今日、左翼は格差の是正を訴えているが、それは左翼の本来の主張ではなかった。かつて、マルクス・レーニン主義者たちは、生産手段の私有が経済発展の桎梏となっているとして資本主義を批判し、生産手段を国家に集中させる社会主義革命によって生産力は飛躍的に増大すると主張した。しかし、実際には、社会主義革命は、生産力を飛躍的に増大させるどころか、壊滅的に衰退させてしまった。社会主義が経済成長をもたらさないことが明らかになった今日、左翼は、経済成長から格差批判へと重点を変えるようになった。
日本の官僚たちは、しかしながら、依然として国家主導で大規模化と集約化を進めれば競争力が向上するという国家社会主義的政策に固執している。日本は、世界大恐慌以降、デフレ克服のため統制経済に移行し、戦後GHQが改革を行ったにもかかわらず、農業に関しては国家によって統制された配給経済を続けた。GHQは、民主化と称して小作人に農地を、水夫に漁業権を与えたが、それまで使用人であった小作人や水夫がいきなり自立できるはずもなく、協同組合に従属することになった。林業では、木材自由化以降、所有と経営が分離され、森林所有者は森林組合に経営を任せることになった。
日本では農民、林業家、漁師の規模が小ささと、彼らを束ねる協同組合の規模の大きさが表裏一体になっている。組合員が小さくて非力であるからこそ、組合と組合を統制する行政の役割が大きくなる。だから、規模の小ささゆえの問題に見えるものが、実は規模の大きさゆえの問題でもあるのだ。規模が大きくなるにつれ、規模の経済が働くのは事実であるが、同時に規模の不経済も働く。そして、日本の農林水産業では、後者の弊害のほうが大きいというのが私の見解だ。小さくても、自らの意思決定で自由に経営する多数の企業が、市場経済のもとで競争し合うというポスト工業社会における最も望ましい状態へと移行するなら、日本の農林水産業は、先進国にふさわしい競争力を持つはずだ。
5. 参照情報
- ↑林雄介.『ニッポンの農業 ―ここが常識、非常識―』. ぎょうせい (2010/4/7). p.5.
- ↑農林水産省. “第1章 食料の安定供給の確保に向けて.”『平成22年度 食料・農業・農村白書』(平成23年5月31日公表).
- ↑菊池英博. 「日本の農業は“過小保護”」. 『週刊エコノミスト』2016年6月7日特大号.
- ↑OECD. “Agricultural support.” Accessed on 28 June 2018. Agricultural support estimates (Edition 2017). 2016年のデータを使用して作成。
- ↑OECD. “Producer support (PSE), % of gross farm receipts, 2016.” Accessed on 28 June 2018. Agricultural support estimates (Edition 2017).
- ↑日本では「スマートアグリ」と呼んでいるが、海外では“smart-agri”という表現はあまり使われていない。また“smart-agriculture”は、“Climate-Smart Agriculture”という形で使われるが、日本語のスマートアグリとは違う意味である。ここでは、わかりやすくハイテク農業と呼ぶことにしたい。
- ↑今井寛之.「日本とオランダのトマト施設園芸の状況.」『オランダの先進施設園芸に学ぶ』2012年. データの出典:農林水産省、オランダ農業経済研究所。
- ↑「先進国の状況を見ると、イノベーションを導入しての農業の工業化・産業化が進んでおり、農業を輸出産業と位置づけている。オランダ等は、農業条件がさほど良くなくとも、農業で貿易を伸ばしている世界最強の農業国の一つであり、我々は多くを学ぶべきである。」首相官邸.「産業競争力会議テーマ別会合.」2013年4月19日. 株式会社ローソン取締役社長(当時)の新浪剛史(にいなみたけし)の発言。
- ↑Goldlocki. “Tomaten (Solanum lycopersicum) Jungpflanzenanzucht Niederlande.” 24 January 2002. Licensed under CC-BY-SA.
- ↑locust0138. “オランダ農業が日本農業の参考にならない理由.” バッタもん日記. 2014-05-11.
- ↑「オランダは確かに最先端の農業技術を保有し、単位面積当たりの収量はとんでもなく高い。トマトなどは同じ面積で日本の数倍は穫れる。日本の1000平方メートルあたりのトマトの収穫量は品種にもよるがよく作っている人で20トン。対して、オランダは1000平方メートルあたり70トン以上穫る農家がざらにいる。その収量を支えているのは産地および農場施設の大規模化・クラスター化による熱やCO2などの有効利用。そして何より作付品目の少なさだ。つまり、極端に限られた種類の農作物を大規模な施設で大量生産している。栽培品目の選択と集中は研究開発、施設建設、栽培、輸送そして販売に至るまでのバリューチェーンのすべてにおいて、コスト低減効果を生む。」岩佐大輝. “オランダの農業を真似しても日本の農業が強くならない理由.” Yahoo!ニュース. 2014/3/20(木) 18:10. 岩佐は、「オランダは葉物野菜のような日持ちのしない作物を簡単にフランスやドイツなどの土地利用型の農業大国から陸続きで輸入できる」と言っているが、オランダで純輸入額が大きいのは小麦やとうもろこしなどで、葉物野菜は輸出のほうが多い。
- ↑Eurostat. “Average utilised agricultural area per holding, 2010 and 2013.” Farm structure statistics. 19 September 2016. Original Data.
- ↑Li Weimin. Dutch agriculture through the eyes of a Chinese economist. Report 09-035. ISBN/EAN: 9709-8615-350-3. p.45. Table 2.2
- ↑「日本の場合、国のいろんな支援制度があって、完全には競争していないようにみえます。それが、栽培技術や販売で頑張ろうというインセンティブを働きにくくしていて、経営者が生まれにくい構造がずっとありました。オランダには産業としての農業があります。基本的に補助金はありません。設備投資には補助金が出ないので、銀行からお金を借りるために事業をきちんと説明する必要があります。[…]私がオランダで学んでから15年以上たちました。当時は平均で1ヘクタールぐらいでしたが、いまは7~8ヘクタールになっています。残ったのは、技術的に優れていたり、マネジメント能力が高かったりするころです。競争を通して淘汰されたんです。それがオランダの現実です。」吉田忠則. “日本農業は20年前のオランダに追いつけたのか?.” 『日経ビジネスオンライン』2017年6月16日(金). 久枝和昇に対するインタビュー。
- ↑「注目集まるオランダ農業だが、一方で課題も顕在化してきている。一つ目が過剰生産である。各農家が自ら栽培品目を選択した結果、トマトをはじめとする得意品目への集中が進み過ぎて過剰生産が生じ、価格が低迷したのである。二つ目が他国産との競争激化である。トマトではスペインやポーランドなどの台頭が著しい。特に、露地栽培にIPM(総合的病害虫管理)の導入で、無農薬農産物のニーズに応えるスペインとの価格差は1~2割にまで縮まっている。」三輪泰史. “オランダ農業の強みと課題に学ぶ.” 日本総研ニュースレター. 2013年10月01日.
- ↑「そもそも日本の農業とオランダの農業では、勝負のルールが違うのだ。オランダは徹底的な大量生産によりコスト競争力を高めて対外競争力で勝負する。日本は、国内の繊細でバラエティーに溢れる食文化が求める需要にどれだけニッチに応えられるかで勝負する。日本刀は切り殺す。サーベルは突き殺す。同じ農業生産でもルールが違えば戦い方が異なるのは当たり前だ。」岩佐大輝. “オランダの農業を真似しても日本の農業が強くならない理由.” Yahoo!ニュース. 2014/3/20(木) 18:10.
- ↑オランダのトマトは味という点では評価は高くない。“While some good tomatoes are produced for both export and for domestic consumption, “the taste is not always good,” explains Leo Marcelis, a professor of horticulture at Wageningen University and Research.” Olga Mecking. “The Netherlands Can Feed the World. Here’s Why It Shouldn’t What gets lost when we focus solely on increasing food efficiency?” YES! Magazine. posted Jan 11, 2018
- ↑農林水産省. “食料自給率とは.” 数字は平成28年度のものである。
- ↑農林水産省. “食料安全保障とは.” 『知ってる?日本の食料事情』
- ↑Max Roser and Esteban Ortiz-Ospina (2018). “World Population Growth“. Published online at OurWorldInData.org. Original Resource: “World population until 2015 – Our World In Data series.” World population projection 2016 to 2100 is the UN Medium Variant from the 2015 revision published by the UN Population Division.” Licensed under CC-BY-SA.
- ↑温室効果ガスによる地球温暖化が進んでも、各地の気温が同程度に上昇することはなく、高緯度地帯のほうが低緯度地帯よりも上昇幅が大きくなると予想されている。暑い地域がより暑くなるよりも、寒い地域がより暖かくなるのだから、これは農業にとっては好ましいことである。
- ↑気温が上昇すれば、蒸発する水が増えるので、降雨量も多くなる。ただし降雨量が均等に増えることはなく、乾燥地帯はさらに乾燥し、他方で豪雨被害も増えることが懸念されている。しかし、これが温室効果ガスのせいなのかどうかは疑問である。
- ↑USDA. “Inflation-adjusted price indices for corn, wheat, and soybeans show long-term declines.” Friday, August 12, 2016.
- ↑CRISPR-Cas9(クリスパー・キャスナイン)は、標的遺伝子をピンポイントで編集する技術で、従来の遺伝子組み換え技術よりも簡易かつ短期間でできるために注目され、2012年以降開発が進んでいる。2018年にこの編集技術を使うと、広範囲に及ぶ遺伝子変異を高い頻度で惹き起こすことが指摘された。Kosicki, Michael, Kärt Tomberg, and Allan Bradley. “Repair of Double-Strand Breaks Induced by CRISPR–Cas9 Leads to Large Deletions and Complex Rearrangements.” Nature Biotechnology, July 16, 2018. これは医療の分野では深刻な欠陥だが、人間以外の生物の品種改良では致命的な欠陥ではない。2018年現在、CRISPR-Cas9以外の遺伝子編集技術の開発が進んでおり、今後のこの分野のイノベーションが期待される。
- ↑“After steadily declining for over a decade, global hunger is on the rise again, affecting 815 million people in 2016, or 11 per cent of the global population, says a new edition of the annual United Nations report on world food security and nutrition released today.” United Nations World Food Programme. “World Hunger Again On The Rise, Driven By Conflict And Climate Change, New UN Report Says.” 15 September 2017, Rome.
- ↑JAグループ. “JAグループの組織事業.” 資料:農林水産省. “統合農協統計表.” 2015年度。統計JA数は、JA全中調べ。
- ↑“小泉進次郎 独占インタビュー「農林中金はいらない」.”『週刊エコノミスト』2016年2月2日号.
- ↑「農林水産省は、ロボット技術やICTを活用して超省力・高品質生産を実現する新たな農業(スマート農業)を実現するため、ロボット技術利用で先行する企業やIT企業等の協力を得て平成25年11月に「スマート農業の実現に向けた研究会」を立ち上げ、推進方策等について検討を行っております。」 農林水産省. “スマート農業の実現に向けた研究会.”
- ↑熱は暖房だけでなく、冷房にも使える。海外では、発電、暖房、冷房でトリジェネレーション(Trigeneration)、その三つに加えて、二酸化炭素も利用すると、クアッドジェネレーション(Quadgeneration)と呼ぶことがある。しかし、同じ熱利用を二回カウントすることは適切ではないので、ここでは日本での用法に従うことにする。
- ↑「日本でも、大阪ガスや農業・食品産業技術総合研究機構花き研究所などが、農業トリジェネレーションの導入に取り組んできた。大気中のCO2濃度は、通常360PPM(1PPMは100万分の1)だが、同研究所の実験結果を見ると、CO2濃度を700~1000PPM程度に上げると、葉野菜で25~30%、果物で20%程度、花きでは40%程度の収穫増が認められている。」 日本経済新聞. “進むCO2の農業利用 温暖化の「悪玉」を有用資源に.” 2013/2/20 7:00.
- ↑日本では、冷房や冷凍のために、ガス会社は吸収ヒートポンプを使い、電力会社は圧縮ヒートポンプを使っている。両者には、外部から与える仕事が熱か電気かという違いはあるが、蒸発器で低熱源から熱を奪い、凝縮器で高熱源に熱を与えているという点では同じである。
- ↑東北電力. “ヒートポンプを活用したトマトのハウス栽培に関する研究成果について~冷房・除湿機能を活用し、生産性・収益性の向上を実現~.” プレスリリース. 平成29年5月25日. p.2.
- ↑経済産業省. “CO2回収、利用に関する今後の技術開発の課題と方向性.” 次世代火力発電の早期実現に向けた協議会(第2回)配布資料. 平成27年6月. p.5.
- ↑「二酸化炭素(処方箋医薬品以外の医薬品)」in 日本薬局方解説書編集委員会.『第十五改正 日本薬局方解説書』. 廣川書店; 〔机上〕版 (2006/07).
- ↑「琉大工学部の瀬名波出准教授の実験で、バイオガスに含まれる二酸化炭素を抽出し、海水と混ぜ合わせてつくった「CO2溶解海水」を、海藻の生育に活用したところ、成長速度が飛躍的に向上し、従来に比べ最大で4.6倍の成長速度が確認された。」琉球新報. “CO2溶解海水で海藻培養 成長速度4.6倍 沖縄ガス・糸満市・琉大共同研究.” 2016年3月20日 05:03.
- ↑森林面積は、オーストリアが387万ha、日本が2508万ha。木材生産量は、オーストリアが1755万m3/年、日本が2714万m3/年である。農林水産省林野庁.『平成29年度 森林・林業白書』. 平成30年6月1日公表. 資料Ⅰ-6. p.18.
- ↑農林水産省林野庁.『平成29年度 森林・林業白書』. 平成30年6月1日公表. p.18.
- ↑農林水産省林野庁.『平成29年度 森林・林業白書』. 平成30年6月1日公表. 資料Ⅰ-8. p.21.
- ↑農林水産省林野庁.『平成29年度 森林・林業白書』. 平成30年6月1日公表. p.21.
- ↑農林水産省林野庁.『平成29年度 森林・林業白書』. 平成30年6月1日公表. p.22.
- ↑“JForest 全国森林組合連合会 森林組合のご紹介.” 森林組合系統の事業規模.
- ↑「欧州の主要林業国、オーストリアでは伐採などに使う林業機械の作業員に支払われる人件費は1時間あたり29ユーロ(約3400円)。1日では3万円超にもなり、日本に比べて2倍近いという。」 日本経済新聞. “「今後40年間は有望」説も 持続可能な日本の“もうかる”林業.” 2011/7/4.
- ↑2011年現在、38万m3あたりの林業死亡者数は、オーストリアが0.4人であるのに対して、日本は0.8人である。
- ↑宇賀神 宰司. “「もうからない林業」でしたたかに稼ぐ人たち.” 『日経ビジネスオンライン』2017年3月7日(火).
- ↑産経ニュース. “規制改革会議 公共電波開放・待機児童解消・林業の成長産業化に重点.” 2017.9.12 07:15.
- ↑農林水産省林野庁.『平成29年度 森林・林業白書』. 平成30年6月1日公表. p.25.
- ↑衆議院. “森林経営管理法案.” 第一九六回国会. 閣第三八号.
- ↑財務省. “税制改正の概要.” 平成29年12月22日閣議決定。ただし、森林環境税は、平成36年度から課税される予定である。総務省. “平成30年度地方税制改正(案)について.”
- ↑ 49.049.1農林水産省. “森林経営管理法案の概要.” 第196回国会(平成30年 常会)提出法律案(閣第三八号). 成立日:平成30年5月25日.
- ↑農林水産省林野庁.『平成29年度 森林・林業白書』. 平成30年6月1日公表. p.17. 資料:農林水産省「森林資源の循環利用に関する意識・意向調査」(平成27(2015)年10月).
- ↑「アンケート結果では、7割の人が「主伐を実施する予定はない」と回答している。ところが、その後の項目では、この回答をした人に、「主伐を実施しない理由」について複数回答可で再質問している。その結果は、「主伐を行わず、間伐を繰り返す予定であるため」との回答が58%で最も高かったのだ。林野庁の資料では、この回答がまったく無視されていた。」 西岡千史. “「データ捏造」疑惑が浮上した森林環境税関連法 モリカケ追及の裏であっさり衆院通過.” AERA dot. 2018.4.23 09:26.
- ↑農林水産省林野庁.『平成29年度 森林・林業白書』. 平成30年6月1日公表. 資料Ⅰ-3. p.16. 資料:林野庁「森林資源の現況」(平成24(2012)年3月31日現在).
- ↑Stephenson, N. L., A. J. Das, R. Condit, S. E. Russo, P. J. Baker, N. G. Beckman, D. A. Coomes, et al. “Rate of Tree Carbon Accumulation Increases Continuously with Tree Size.” Nature 507, no. 7490 (March 2014): 90–93.
- ↑「スギ 72 本、ヒノキ 80 本の樹幹解析を行った。解析結果をもとに、連年材積成長量と平均材積成長量を比較した結果、スギ、ヒノキともほとんどの個体は高齢でも平均材積成長量が増加することを確認した。スギの劣性木については、一部、平均材積成長量が連年材積成長量より小さい値を示した。ヒノキについては優勢木から劣性木まで、70 年生以降も平均材積成長量が増加する傾向を示した。以上より、スギに関しては劣性木を除けば林齢約 140 年生まで、ヒノキに関しては 80~100 年生まで、各個体の成長が期待できると考えられた。」 高齢林の林型および成立条件に関する研究会.「高齢林の林型および成立条件に関する研究会報告書」p.4. スギの劣性木は間伐すればよいので、主伐期はこれを除外して設定できる。
- ↑「スギ3m材および4m材の径級別価格は、平成18年度から同27年度までのすべての年度において、大径材が小・中径材よりも高値で取引されていた。[…]今後も大径材の取扱量は増加傾向で推移し、さらに高価格で取扱われていくものと考えられる。」亀山翔平, 井上公基, 吉岡拓如. “木材市場における取扱量の変化について~ 大径材の動向~." 日本森林学会大会発表データベース 第 127 回日本森林学会大会. p. 221. 日本森林学会, 2016.
- ↑こうした批判を受けて、林野庁は、資料にあった「8割の森林所有者は森林の経営意欲が低い」を「約8割の森林所有者は経営規模を拡大する意欲が低い」に修正した。西岡千史. “「データ捏造」疑惑が浮上した森林環境税関連法 モリカケ追及の裏であっさり衆院通過.” AERA dot. 2018.4.23 09:26.
- ↑ 57.057.1衆議院. “森林経営管理法案.” 第196回国会(平成30年 常会)提出法律案(閣第三八号). 成立日:平成30年5月25日.
- ↑農林水産省林野庁.『平成29年度 森林・林業白書』. 平成30年6月1日公表. 資料Ⅰ-5. p.17. 資料:林野庁「森林資源の現況」(平成24(2012)年3月31日現在).
- ↑林野庁. 「主伐の立木販売収入は育林経費を下回る」in『平成24年度 森林・林業白書』/第1部 第V章 第1節 林業の動向(1)林業生産の動向. 平成25年6月7日公表.
- ↑「パリ協定の枠組みの下におけるわが国の温室効果ガス排出削減目標の達成や災害防止等を図るため、森林整備等に必要な地方財源を安定的に確保する観点から、次期通常国会における森林関連法令の見直しを踏まえ、平成 31 年度税制改正において、森林環境税(仮称)及び森林環境譲与税(仮称)を創設する。」総務省.「平成 30 年度地方税制改正(案)について 」平成 29 年 12 月.
- ↑林野庁.「平成30年度林野庁予算概算要求の概要について」. 平成29年9月.
- ↑衆議院. “閣法 第196回国会 38 森林経営管理法案.” 議案審議経過情報. 賛成会派:自由民主党; 立憲民主党・市民クラブ; 希望の党・無所属クラブ; 公明党; 無所属の会; 日本維新の会; 自由党; 社会民主党・市民連合
- ↑参議院. “森林経営管理法案(内閣提出、衆議院送付)本会議投票結果.” 第196回国会 2018年 5月 25日 投票結果. 希望の会のうち、反対したのは自由党系の議員である。それ以外は、無所属を含めて反対した議員はいない。
- ↑農林水産省林野庁.『平成29年度 森林・林業白書』. 平成30年6月1日公表. p.11. 大正10(1921)年までは、薪炭材の材積は「1棚=100立方尺=2.7826㎥」、用材の材積は「1石=0.27826㎥」(明治44(1911)年のデータはそれぞれ、「1棚=108立方尺」「1尺〆=0.33392㎥」)で換算。資料:林野庁「林業統計要覧」、農商務省「農商務統計表」.
- ↑ドイツでは、連邦政府の研究機関(Johann Heinrich von Thünen-Institut)に加え、州政府の研究機関が、研究、技術開発および育種事業を行っている。オーストリアでも連邦政府の森林・自然災害・景観研究研修所(Bundesforschungs- und Ausbildungszentrum für Wald, Naturgefahren und Landschaft)が同様の仕事をしている。
- ↑Lienhard Schulz. “Dauerwaldrevier Bärenthorener Kiefernwirtschaft, Lehrpfad. Das Revier wurde 1884 von dem Kammerherrn und Forstmann Friedrich von Kalitsch begründet. Bärenthoren ist ein Ortsteil der Gemeinde Polenzko im Naturpark Fläming und gehört zur Verwaltungsgemeinschaft Elbe-Ehle-Nuthe im Landkreis Anhalt-Bitterfeld in Sachsen-Anhalt.” Licensed under CC-BY-SA.
- ↑「一番重要なのは、天然林施業が経営として成り立つかどうかである。用材林として経営するのなら、より目標林型はシビアなはずであり、それに対する育林コストも高くなるはずである。一方、公益的機能林として経営するのであれば、機能発揮に対する負担金が得られるのかどうか、またその維持に関してもコストは発生し続けるという点を考慮しておかねばならない。」 田内裕之.「天然更新や天然林施業はどこまで可能なのか」持続可能な森林経営研究会第1回セミナー. 2008年10月7日.
- ↑田中淳夫. “高値の木を捨てている…。日本の林業現場の実情.” Yahoo!ニュース. 2018/6/19(火) 9:53.
- ↑日本経済新聞. “木材使った新建材 購入補助 政府、国内林業後押し.” 2018/3/29 13:00. 全額補助では、生産者にコスト低減のインセンティブが働かない。ヨーロッパから輸入するCLTの価格は、日本の半額程度で、しかも日欧EPAにより木材への関税が撤廃されるので、補助金制度終了とともに、国産CLTは売れなくなるだろう。林業経営をヨーロッパ型に変換しなければ、ヨーロッパとの競争に勝つことはできない。
- ↑「KEBONYとはソフトウッドをハードウッドにする技術を言います。成長の早い森林から計画的に伐採されたソフトウッドの細胞組成に働きかけ性質を変化させます。木材は茶褐色化、比重が高まり、寸法が安定し、硬化すると同時に耐腐朽性が飛躍的に向上します。国産杉、檜でも試験後同等の性能変化が確認されています。」フジグループ・アンド・アソシエイツ株式会社. “KEBONY ブランド紹介.” BARCELONA TRADE.
- ↑“表層圧密テクノロジー「Gywood®」は、スギやヒノキ、アカマツなど、軟らかいとされる針葉樹の無垢材の表層部を特に高密度化することで、素材としての硬さや強度を向上させ、更に一般的な無垢材と比べて形状安定性を高めることに成功した「無垢の新素材」です。針葉樹の美しい木目の意匠や、質感、風合いを保ちつつ、表面をほどよい硬さにしています。針葉樹の弱点であった傷つきやすさを克服しつつも、内部は針葉樹の軟らかさをそのままとし、キズに強くて、軽い素材となっています。” ナイス株式会社. “ナイスグループ 大径材の活用による内装の木質化を提案.” 『ナイスビジネスレポート』2018年(平成30年)4/15号.
- ↑メルビル. “ドイツ産の松(パイン)材のフローリング。長さ4mソリッド幅広。” Licensed under CC-BY-SA.
- ↑NPO法人持続可能な環境共生林業を実現する自伐型林業推進協会. “山林を所有しない移住者や地域住民はできないの?.” Q&A. 2016.3.17.
- ↑中嶋健造. “普及開始すると林業界からは強烈な逆風(批判等)を受け続けるが、これがその後の展開の基礎となり、チャンスへと発展.”『土佐の森から~未来へのたより』NHK 地域づくり情報局. 2016年06月09日 (木).
- ↑中嶋健造. “木質バイオマスによる林地残材収集システムが自伐林業者を表舞台に.”『土佐の森から~未来へのたより』NHK 地域づくり情報局. 2016年07月15日 (金).
- ↑“実験事業の終了後、平成22年度から仁淀川町の委託によりNPO法人土佐の森・救援隊が発電&ペレット製造プラントの管理・運営を行うことになりました。「仁淀川町地域木質バイオマス資源活用事業所」(所長は片岡正法氏)を立ち上げ、常勤6名、非常勤8名、及び多くの土佐の森グループの会員がボラバイトで、2年間にわたりプラントを経営しました。経済的にも技術的にも大変難しく、且つ大きな財務的なリスクを伴う厳しい経営を強いられる木質系バイオマスプラントの管理・運営を、ほぼ完璧に計画どおり完遂させました。” NPO法人土佐の森・救援隊. “活動拠点の変遷.” 2017-05-10 01:03.
- ↑総務省. 「評価の結果及び勧告」in『バイオマスの利活用に関する政策評価』. 平成23年2月15日. p.271.
- ↑Guillaume Paumier. “Naoto Kan at the 37th G8 Summit in Deauville.” Taken on May 27, 2011. Licensed under CC-BY.
- ↑「4月26日から林業視察にドイツに出かけ、今日帰国。ドイツ南部の黒い森と呼ばれる森林地帯を中心に、フォレスター(森林官)を養成する専門大学、森林伐採現場、製材所、工務店などを視察した。民有林についても経営指導しているフォレスターの役割など、日本の林業再生プランを作るうえで大変参考になった。」 菅直人. “ドイツ林業視察.” 2007年5月 2日 00:00.
- ↑「昨年の5月の連休にはドイツの黒い森の周辺に林業の視察に出かけた。その時、驚いたのはドイツの木材まで日本が輸入しているということ。1万キロはなれ、賃金水準も変わらないドイツの木材がなぜ日本の国産材との競争に勝つのか。全ては日本の林業の生産性の低さに原因がある。」 菅直人. “林業再生.” 2008年7月27日 12:57.
- ↑経済産業省エネルギー資源庁. “なっとく!再生可能エネルギー 固定価格買取制度.” 買取価格・期間等(平成24年度~28年度).
- ↑経済産業省エネルギー資源庁. “なっとく!再生可能エネルギー 固定価格買取制度.” 買取価格・期間等(2018年度以降).
- ↑産経ニュース. “バイオマス発電「第2のバブル」計画相次ぎ買い取り費用急増 国は制度変更検討.” 2018.2.11 21:43.
- ↑“Die milliardenschwere Förderung „grünen“ Stroms in Deutschland hat praktisch null Klimaschutzwirkung, führt aber zu einem gefährlich steigenden Strompreis.” Justus Haucap. “Deutschlands teurer Energie-Irrweg.” Frankfurter Allgemeine Zeitung GmbH. 2017-06-26.
- ↑中国による輸入禁止でプラスチックのマテリアル・リサイクルが危機に直面している。「中国のリサイクル業者が日本に拠点を移す動きはほかにもある。ただ、国内の廃棄物をすべて処理することはできない。」 日本経済新聞. “廃プラ「捌ききれない」中国輸入規制で行き場なく.” 2018/7/22 15:02. プラスチックをはじめとする石油化学製品は、石炭やバイオマスと化学的組成が似ているので、一緒に混焼すればよい。
- ↑石炭火力発電が副産物として生み出す石炭灰は、カリウムとリンを含むため、従来より、セメントや建築資材として使われる以外に、肥料としても使われていた。リンは、動物、特に魚やクジラの骨と内臓に多く含まれる。窒素は、家畜や人間の糞尿に含まれる。窒素、リン、カリウムという肥料の主要要素以外の元素も、動植物の死体や排泄物には適量含まれている。
- ↑“Cyclic variations in CO2 and CH4 driven by Earth-orbital changes during the last 350,000 years predict decreases throughout the Holocene, but the CO2 trend began an anomalous increase 8000 years ago, and the CH4 trend did so 5000 years ago.” Ruddiman, William F. “The Anthropogenic Greenhouse Era Began Thousands of Years Ago.” Climatic Change 61, no. 3 (December 1, 2003): 261–93.
- ↑“The prediction revealed increasing phase separation in cycle 25 and 11 year phase between these waves in cycle 26, e.g. these two waves become separated into the opposite hemispheres. We predict that this will lead to a significant reduction (more than 60%) in solar activity in cycle 26 compared to current cycle 24. These cycle s 25-26 will have the properties of a “Maunder minimum”.” Zharkova, V. V., et al. “Irregular heartbeat of the Sun with Principal Component Analysis and prediction of solar activity”. Press-release on the research reported at National Astronomy Meeting 2015 (Landudno). Cf. “Diminishing solar activity may bring new Ice Age by 2030.” Astronomy Now 17 July 2015.
- ↑Kitiashvili, Irina N. Collins. “Using Data Assimilation Methods of Prediction of Solar Activity.” Solar Heliospheric & Interplanetary Environment (SHINE) 2017 Workshop; 24-28 Jul. 2017; Saint-Sauveur, Quebec; Canada.
- ↑「国連の気候変動に関する政府間パネルは、現状の温暖化ガスの排出ペースが続くと2040年ごろの気温上昇が産業革命前より1.5度に達するとの予測をまとめた。猛暑や豪雨が増加するほか海面上昇も高まり動植物の絶滅などにつながると分析。温暖化の被害を抑えるには、今世紀半ばまでに温暖化ガスの排出を「実質ゼロ」にする経済活動などの変革が必要だとした。」 日本経済新聞. “2040年1.5度上昇、進む温暖化 IPCC予測、猛暑や豪雨多発.” 2018/7/24付朝刊.
- ↑山内正敏. “猛暑の原因に関する3つの誤解 【再掲】.” WEBRONZA. 2018年07月20日.
- ↑水産庁.『平成29年度 水産白書』. 第196回国会提出. p.67. 図Ⅱ-2-2. 資料:農林水産省「漁業産出額」。
- ↑水産庁.『平成29年度 水産白書』. 第196回国会提出. p.97. 図Ⅱ-3-1. FAO「Fishstat(Capture Production、Aquaculture Production)」(日本以外の国)及び農林水産省「漁業・養殖業生産統計」(日本)に基づき水産庁で作成
- ↑八木 信行.『食卓に迫る危機 グローバル社会における漁業資源の未来』. KS科学一般書. 講談社 (2011/12/23). p.62.
- ↑FAO. The State of World Fisheries and Aquaculture 2018: Meeting the Sustainable Development Goals. Food & Agriculture Org. (2018/7/31). p.185. TABLE 22. PROJECTED FISH PRODUCTION, 2030 (live weight equivalent).
- ↑武田 健太郎. “ジム付き漁船、ノルウェーの贅沢な漁師たち.” 『日経ビジネスオンライン』2017年8月31日(木).
- ↑水産庁.「ノルウェーの漁業及び漁業管理について.」 “資源管理のあり方検討会.” 資料3-1. 平成26年4月18日.
- ↑ 98.098.198.2鈴木宣弘. “亡国・売国の漁業権開放.” 『農業協同組合新聞』2017.08.29.
- ↑佐藤力生は、昭和51年4月に水産庁に入庁(国家公務員上級職:水産)し 、平成24年3月に水産庁を定年退職している。佐藤力生. “プロフィール.”『本音で語る資源管理』.
- ↑佐藤力生. “資源爆食漁業国ノルウエーは日本漁業のモデルにならない(後編).”『本音で語る資源管理』. 2018年7月25日 .
- ↑水産庁.「水産物貿易をめぐる国際情勢」in『平成29年度 水産白書』. 第196回国会提出. p.103.
- ↑米国は、深海海底開発の条項が途上国よりであることを不服として、現行の国連海洋法条約を締結していない(それ以外は実質的には遵守している)。影響力の大きい大国には、条約改正をきっかけに、国際的な枠組みに入ってもらいたいところだが、パリ条約からも脱退したトランプ政権なら、難しいだろう。非締結国に対しては、その国の漁業からの輸入に税金を課し、その金で非締結国に代わって漁業権を購入すれば、非締結国のフリー・ライドを防ぐことができる。
- ↑“We report here that the addition of nmol amounts of dissolved iron resulted in the nearly complete utilization of excess NO3, whereas in the controls—without added Fe—only 25% of the available NO3 was used. We also observed that the amounts of chlorophyll in the phytoplankton increased in proportion to the Fe added. We conclude that Fe deficiency is limiting phytoplankton growth in these major-nutrient-rich waters.” Martin, John H., and Steve E. Fitzwater. “Iron Deficiency Limits Phytoplankton Growth in the North-East Pacific Subarctic.” Nature 331, no. 6154 (January 1988): 341–43.
- ↑“Our results present satellite-based fluorescence as a valuable tool for evaluating nutrient stress predictions in ocean ecosystem models and give the first synoptic observational evidence that iron plays an important role in seasonal phytoplankton dynamics of the Indian Ocean.” Behrenfeld, M. J., T. K. Westberry, E. S. Boss, R. T. O’Malley, D. A. Siegel, J. D. Wiggert, B. A. Franz, et al. “Satellite-Detected Fluorescence Reveals Global Physiology of Ocean Phytoplankton.” Biogeosciences 6, no. 5 (May 8, 2009): 779–94. Fig.4. p.785. Licensed under CC-BY.
- ↑“Give me a half tanker of iron, and I will give you an ice age.” in a lecture at the Woods Hole Oceanographic Institution in July 1988. Cf. John Weier. “John Martin.” July 10, 2001.
- ↑“Using various carbon cycle models, we find that if 20% of the world’s surface ocean were fertilized 15 times per year until year 2100, it would reduce atmospheric CO2 by ≲15 ppmv at an expected level of ∼700 ppmv for business‐as‐usual scenarios.” Zeebe, R. E., and D. Archer. “Feasibility of Ocean Fertilization and Its Impact on Future Atmospheric CO2 Levels.” Geophysical Research Letters 32, no. 9 (May 1, 2005).
- ↑自然状態でも、微生物が有害物質を分解する場合もあるが、それが難しい場合もある。例えば、PCB(カネミ油症事件の原因となったダイオキシン)は、自然界では微生物による分解は難しい。しかし、紫外線による脱塩素処理を行えば、微生物による分解が可能になる。だから、微生物の力を借りるにしても、人為的に無毒化をすることが必要である。
- ↑日本経済新聞. “近大、次はタイ ゲノム編集で肉厚「マッスルマダイ」高級魚、量産にメド.” 2018/7/25.
ディスカッション
コメント一覧
確かに、様々な業界においてその傾向が多く見られます。
主論からは少々逸れるかもしれませんが、前述したように林業で繊細で精緻な作業ができる技術者たちは、長い年月をかけて山に親しみトレーニングと経験を積んだ方々であり、かつて視察したある森林での伐採作業においては、瞬時に、山の傾斜角度や地質や周囲の樹木の特性を把握し、最も他の樹木に傷害を与えず安全な角度に寸分違えず切り倒す技術と、それをサポートするチームワークには目を見張るものがありました。しかし、国内林業の優れた技術者の多くは70代を超えています。
林業の現状を鑑みた上で未来に目を移した時、国内林業の維持と再生から成長への今後の最大の課題は、新たな労働力の確保であろうと拝察されます。
2025年問題に際しても介護業界の人材不足が非常に深刻であるように、林業の労働力不足の問題も深刻です。
国内の他業界から転職が可能であるにしても転職者はごく僅かである上に、転職者が直ぐに優れた技術を習得できない業界においては、海外からの労働力の移入も厳しいという現実を前提として、どのようにすれば、そうした業界に人材を確保し、優れた技術者を育成できる可能性が実現できるでしょうか?持続可能な未来への提言をお聞かせ下さい。
人工知能に、機械学習(深層学習)という形で熟練林業家の職人技を学ばせればよいと思います。人工知能によるAR(拡張現実)ガイドがあれば、素人でも比較的早く林業を始めることができるようになるでしょう。
ご返信の数々誠にありがとうございました。
試論に啓発された私論に過ぎませんが、現状を鑑みるにおいて、実際に林業現場で働く優れた技術を持つ人材の継続育成を行わなければ、日本の森林は更に荒廃の度合いを深めてゆくでしょうし、既に、クレーンやヘリコプターなどの出動により、一層巨額なコストがかかる時代が始まっています。
人工知能によるARガイドがあっても、人間に変わって、樹高数十メートルの枝打ちが出来たり、危険な作業現場でその労務を実現するほどの精巧なロボットの作成には、更に時間と巨額なコストがかかると思いますが、それらが、日本の森林を比較的廉価で維持することが可能になる未来がどの程度の年数で実現できるのかを思い量りますと、憂慮は絶えません。
林業技術に習熟せずに現場に入ると人身への危険を伴う林業の労務についての最大の問題は、所謂不人気業種と言われて久しい介護現場への人材の確保と同様に、人材が集まらない業種に如何に人材を確保するか?という難題を、全ての作業を人工知能やロボットでは充足できない事を前提として解決法を考える時、
これらの所謂不人気業種を維持継続成長させるには労働対価をかなり高額に設定するしか対策が無いように思いますが、そうしてゆくと、更に、現在の「わたしたち」の感覚では、「高い税金を納めさせられる」「不利益を被る」という感覚が嵩じてゆく風潮が強く推測されます。
かつて、WHOが、日本の建築現場でコンパネが使い捨てにされていることを指弾した会見が、偶然その会見場で弁当を食べていたU.Sの記者が「日本人には使い捨てが多すぎる。この箸もそうであるように。」と発言したことにすり替えられ、WHOの主旨は完全に無視され割り箸が日本の環境破壊の象徴であるかのように捻じ曲げた報道が国内に広報され、これに扇動された割り箸バッシング先導者たちが喚起したムーブメントが、日本の箸の文化と林業の間伐材の有効利用のひとつであった産業を崩壊させてしまった典型的な事例がありました。
この問題は、本来国際競争力が高く多くの税金を払っている大企業へのバッシングを、割り箸をスケープゴートとしてその生産へのバッシングにすり替えることによって、「わたしたち」が、国際競争力を保ってきたと言い換えることもできるでしょう。
また、木材の輸入の自由化は、国内林業を衰弱させた反面、国際競争力が高い多くの税金を払っている大手商社に巨額な利益をもたらして来ました。
つまり、これまでの産業間の大規模な「選択と集中」によって、豊かで快適な「わたしたち」の生活が育まれたと言えるでしょう。
年金問題にしても、「わたしたち」は、中・高校の社会で、この国の年金は、pay forwardシステムであって、pay backシステムではないことを学んで来ましたし、もし年金制度を公平化すれば既にご高齢者の最低限のベーシック・インカムが保障できるほど豊かになった現代においては、ここまでの経済成長を成し遂げて来た現代のご高齢者がpay forwardしてきたことに対するpay backとも捉えることが可能なはずが、私たち現役世代の負担の不満が蔓延する現状にもあります。
高齢化社会に際しても、介護現場での要介護者さんへの虐待や殺戮問題が数多く発生し、一方で、障害者施設での殺戮事件の温床となったかのように拝察される同時期にネット上に氾濫した「安易な安楽死」の推進が現代の「善」であるかのような軽々しい世論の雪崩も顕著です。
劇場のイドラに扇動されやすく、1つの方向に雪崩のように傾倒してゆく「わたしたち」日本国民の意識の問題と、グローバル化と内需の問題、経済至上主義等々、そろそろ何らかの「意識変革」や「意識革命」のパラダイムが提示されなければ、2025年問題は勿論、第一次産業を含めて、人心の自立という土台形成が脆弱なこの国の限界が来ているように、私には、感じられてなりません。
余談が長くなり申し訳ありません。
こちらののサイトには、様々な思考が啓発されます。
ご活躍に期待させて頂いております。
1ha辺りの補助金の算額比較は残念ながら無意味ですね。
農林水産事業の多くは農家へ付与される性質のものではなく、土建業者へ支払われる資金額ですよ。
農道の整備から圃場の整備(田んぼの1ha整備)まで農家への補助金ではなく都道府県の土建業へ対しての補助金と言った方が早いです。
この理屈で甘やかされてると言われるなら、インフラ整備に対して道路や土地を使ってるあらゆる人々も対象に入ります。
1ha整備にしても少ないとは言え、農家から持ち出し金を徴収します。
誘致で店舗を構えて事業をする企業ですら、名目整備されたインフラにお金を支払うなんて事は存在しません。
農家が甘やかされてるかどうかは戸別保障でみるのが妥当ですよ。
日本農家の所得に対する「直接支払(税金)」の割合は15.6%とOCED主要国中最低です。
欧州の農家の所得に占める直接支払の割合は、軒並み90%を超えです。
アメリカの穀物(小麦等)は55%前後でそれ以外も26%。
農業産出額に対する農業予算の割合も
アメリカ65% スイス62% フランス44% イギリス42% 日本27%
各国は「輸出補助金」と呼べるシステムがあるのに対し0補助が日本です。
グローバル市場へ打って出るなら欧米諸国並みの「輸出補助金」で予算を組まなければ、企業化した国内輸出農家もいずれ立ち行かなくなり、
内外から食糧事情を握られる事態になり兼ねませんよ。
軍隊・エネルギー・食糧は、国家と見なされる条件であると共に国衛策の基本ですよ。
シンガポールを目指すなら企業化農業すらいらない。
私が本稿で言おうとしていることは、「農家が甘やかされて」いるということではなくて、農業保護を口実に政府が農業に介入し、その結果農家が農協に搾取されているということです。その意味では、農家は被害者であると言うこともできます。
>一方で、障害者施設での殺戮事件の温床となったかのように拝察される
>同時期にネット上に氾濫した「安易な安楽死」の推進が
>現代の「善」であるかのような軽々しい世論の雪崩も顕著です。
これ永井さんも一枚噛んでいるでしょう。買い被りですかね?
何処の項目でも言っているように永井さんの主張というのは
「保護するな!」これに尽きる。何で様々な思想が存在する左派
(これに関しては右派も同じです)を十把一絡げの如く
纏めて毛嫌いするのかよくわかんないのですがね。
(その昔に社会主義に憧れていた反動ですかね?)
「感情を押し出すな押し留めろ!」永井さんはこうも言いたいのだと思います。
もう永井さんが日本を引っ張っていけば良いんじゃないですかね。
やれ政治家を無能だと言う前に永井さんがやってくださいよ。
「私には政治は合いませんので・・・」
「私には研究という本分がありますので・・・」そんな言い訳は良いですから。
それでは記事全般は机上の空論ですよね?研究して実践して証明してくださいよ。
証明も何もないからその手の分野の研究費が削られるんですよ。
>千年杉さん
「戦争か平和かの対立地平を超える」この記事をみてください。
結構酷いことが書いてあります。永井さん的には
何てことのない考えなのだろうけど自分は冷酷に思えましたね。
何て言えば良いのか。究極的に人を駒としか見てないんですよね。
多分ですが一個人の感情というのは邪魔だと
考えているのではないかと思います。
これがプログラム思考というやつですかね。
AI時代に到来したら僕らのようなのは真っ先に
殺されてしまうのではないかという考えが過ります。
永井さんにとって僕らの存在というのは書類上の中の一人でしかないんですよね。
名前が記されているだけの人間。いや単なる文字。人間ですらない。
こんなんだからどうも思ってないんです。政策考える上で「こうこうこうして」
「手配して」というのも単なる配置であって では永井さんが何で思考を
巡らせる必要に迫られているかと言えば僕らのような人間が
五月蠅いから(少なくとも今は)と思っているに尽きます。
んで永井さんの志向するAI社会というのは本質的に僕ら
低知能の人間の居場所はない。飼われるだけマシですかね。
地球の無駄と称して殺されても何ら不思議でもなんでもない。
何故か?自分らのようなのが本質的に無力化されるからです。
それに遺伝子操作が向上すれば僕らのような産む機械・働く機械なんて
必要ないわけですし。というふうに考えてみると
永井さんてかなり恐ろしい思想の持ち主だなと思うわけです。
一体これからどうなっていくんでしょうか。
惨憺たる思いであります。
>高齢化社会に際しても、介護現場での要介護者さんへの
>虐待や殺戮問題が数多く発生し、一方で、障害者施設での
>殺戮事件の温床となったかのように拝察される同時期に
>ネット上に氾濫した「安易な安楽死」の推進が
>現代の「善」であるかのような軽々しい世論の雪崩も顕著です。
永井さんはこういう感情を呼び起こすような意見は嫌いでしょう。
だから返答しない。(失礼だけど)返答する価値が無いと思っている。つまり無駄。
飽く迄も永井さんは感情が介在しない形での理論構築(空想)が好きなんですよ。
何故ならそこに人という感情が介在すれば必ずや
ややこしいこと=難題に直面することになるからです。だから出来るだけ省いている。
失礼ながらこのサイトそんなにアクセスはないだろうとは言え
公共的空間なので言わないと思うけど本質的に
障害者なんてどうでも良いと思ってますよ。僕も障碍者の家族を
抱えているわけでもないし団体に所属しているわけでもないから
無関心なことは多々ありますがね。
まあでも障碍者の数は多いわけでもないから
「このくらいなら現代的価値観に沿って面倒を見てやっても良い。
ただし今後増えるならその限りではない。」と思っているかもしれない。
引用されている発言は、千年杉さんのものであって、私のものではありません。千年杉さんが取り上げている「障害者施設での殺戮事件」に対する私の見解は、「高齢者の増加は有害なのか」で書いてあるので、そちらをお読みください。
私は無政府主義者ではないので、政府は民間をすべて保護するなとは主張しません。例えば、軍隊や警察が「保護」する国民の生命と財産は、純粋に民間だけでは保護できませんから、政府が関与するしかありません。トトクメイさんの決めつけのほうがよっぽど十把一絡げではないかと思います。
私は大学生のころ、社会主義ではなくて、廣松哲学に憧れていましたが、廣松渉先生は哲学者で、政治や経済の話題にはあまり触れていませんでしたし、私も政治や経済の勉強はしていませんでした。博士後期課程に進学してから社会科学の勉強を始め、社会主義がもたらす政治経済的問題を認識し、そこからマルクス主義哲学や廣松哲学の哲学としての問題を認識するようになった次第です。
私が、ネットという公共の空間で、政治的な提案をすることは、政治活動に含まれます。トトクメイさんは、選挙に出馬しなければ、政治活動をしたことにはならないとでも考えているのでしょうか。議員は民意の代弁者ですから、議員になると、かえって自分の考えを自由に表明できなくなります。それが嫌だから、私は選挙には出馬しません。
人工知能の未来に関しては、こちらのカーツワイル論を参照してください。人工知能は人間にとって道具でしかなく、それを自分の欠陥を補う形で利用すればよいだけです。人間の能力を完全に追い抜く時代になれば、マインド・アップローディングにより、人工知能の進化を自分の進化にすればよいのです。だから、人工知能の進化に対して疎外感を抱く必要はありません。
私は、政策論において感情一般を無視するべきだということを言っているのではなくて、特定個人の特定感情にとらわれて客観普遍性を欠いた政策を提案するべきではないということを言っています。「感情」を「利害」に置き換えても同じことが言えます。
自分の家族に障碍者がいるか否かで提案する政策が違うなら、その政策には客観普遍性はありません。政策は、自分が社会のどのポジションにいても合意できるような内容でなければなりません。