エビデンスに基づく教育政策
従来の日本の教育改革は、政策立案者の個人的体験に基づく人生論、精神論、感情論で行われることが多かった。中室牧子の『「学力」の経済学』は、教育を人的資本への投資とする経済的アプローチをとり、医療行政で行われているようなエビデンス(科学的根拠)に基づく政策立案を提案する。その方向は正しいが、中室が言っていることには同意できない点もあるので、それも併せて指摘することにしよう。
地方創生はどうあるべきか
日本の地方が過疎化しているのは、たんに新興国とのグローバルな企業誘致競争に敗れた結果であって、時代の必然ではない。私は、日本の地方が新興国型の経済成長を遂げることができるように、三つの政策を提案したい。一つは最低賃金法の廃止、もう一つは生活保護のバウチャーによる現物支給、三つ目は農協からの特権の剥奪である。
日本の税制はどうあるべきか
維新の会が、遺産全額徴収による「一生涯使い切り型人生モデル」を提唱した。相続税率を百パーセントに引き上げることは実務上難しいが、維新の会としては、フロー課税からストック課税へと税制をシフトさせたいつもりのようだ。しかし、フロー課税からストック課税へのシフトは本当に望ましいことなのだろうか。
オキュパイ・ウォールストリート
リベラルか保守かを問わず、米国人の大部分は、多くの企業が政府から保護されることなく倒産していった一方で、保険会社のAIG、自動車のGM、銀行のシティバンクなど、特定の企業は公的資金で救済されたことに不満を抱いている。
セーフティネットはどうあるべきか
生活保護の水準以下の生活を送っている勤労者がいる反面、ギャンブルや覚醒剤に支給金を使っている生活保護の受給者がいるとか、ホームレスよりも刑務所の受刑者の生活水準の方が高く、刑務所に入るために犯罪に手を染める生活困窮者が続出するなど、日本の社会的セーフティネットには様々な問題が生じている。これらの問題を解決するための方法を考えよう。
世代を超えた格差の固定化を防ぐ方法
豊かな家庭に生まれた子供は、恵まれた教育を受けて、多くの遺産を受け継ぐことができるので、貧しい家庭に生まれた子供よりも有利である。このため、親の世代にできた格差が、次の世代にまで引き継がれ、公平な競争が損なわれてしまう。この弊害を取り除くために、相続税の強化や公教育の充実が提案されることがあるが、こうした方法は、世代を超えた格差の固定化を防ぐ方法として望ましいだろうか。
太平洋戦争における保守と革新
戦後の日本人は、保守と革新が右派と左派の関係にあり、保守勢力が好戦的であるのに対して、革新勢力は平和主義者であると考えがちである。しかし、戦前の日本を満州事変以降の自滅的な侵略戦争に駆り立てたのは、保守勢力ではなくて、一見すると右翼的であるが、実は左翼的な革新勢力であった。保守と革新という観点から、近現代の日本の歴史を振り返ってみたい。
プロレタリア型右翼
従来、左翼は弱者の思想で、右翼は強者の思想と考えられてきたが、現代では、弱者であるがゆえに右翼的な思想を持つ、プロレタリア型右翼とでも呼ぶべき、新しい右翼が増えてきた。知識人たちは、こうした右翼を権威主義的パーソナリティー論によって説明しようとするが、私はそれとは違う視点から、プロレタリア型右翼を解釈したい。
サブプライム問題はなぜ起きたのか
2009年1月20日、バラック・オバマが米国大統領に就任した。共和党の市場経済万能主義的な経済政策のおかげでサブプライム問題が発生したので、この世界恐慌以来の経済的危機を、世界恐慌の時と同様のニューディール政策によって克服する必要性が生じ、このため、米国の有権者は、小さな政府を理想とする共和党政権に代わって、大きな政府を理想とする民主党政権を選んだというのが大方の解釈であるが、この解釈は正しいのか。検証してみよう。
なぜ戦争は起きるのか(小学生向け)
戦争は、悲惨であるにもかかわらず、なぜなくならないのでしょうか。戦争は、経済現象であり、たんなる憎しみの連鎖で起きるのではありません。戦争はなぜ起きるかを、小学生でもわかるように、わかりやすく解説します。
日本はアジアのモナコになれるか
福祉国家と社会主義の崩壊により、個人単位での貧富の格差が増大しつつある。それにともなって、ビジネスのあり方も、大衆のために安く大量に商品を作るフォーでリズム的なやり方よりも、金持ちのために高額な商品を少量作る前近代的なやり方のほうが有望になっている。そんな時代の流れを反映して『日本の富裕層』という本が出た。著者は「日本はアジアのモナコになれ」と言うが、それが可能かどうかを考えてみたい。
資本主義の未来
アメリカでは、70年代以降、貧富の格差が広がっているが、日本でも80年代以降、同じ現象が起きている。社会主義経済が崩壊し、市場経済が勝利をおさめ、いまやグローバリゼーションの波が世界中を覆っている。他方で、これが人類にとって好ましい現象なのだろうかと首を傾げる人もいる。そうしたレスター・サローの『資本主義の未来』の問題提起に答えよう。
上品さとは何か
上品さとは、欲望充足の直接性と効率性を否定することであり、上品さにおいて文化が自然から区別される。上品さは、上流階級の人々が富を衒示的に浪費することで示されるステータスシンボルである。
中心と周縁
中心/周縁という区別は、中心に宮廷や寺院が位置し、それを官僚や貴族の居住地区が取り囲み、さらにはそれらを商人、職人、農民という周縁が取り巻いている古代都市などに見られる階層構造をモデルにした概念だが、社会学では、社会システムにおける<資本=権力>の偏在を表す対概念として非地理的に使われることが多い。
差異への欲望
ブランド物で身を固め、ライバルにファッションセンスの違いをひけらかす女性たち、経歴や肩書きで一般大衆との違いを誇示しようとする知的エリートたち、自分の影響力を見せつけ、部下の忠誠を絶えず確認しようとする、猿山から永田町にいたるあらゆる場所にいるボスたち…多くの人々は、差異への欲望を満たそうとする。
自由は平等と両立するのか
一般に自由と平等は対立すると考えられている。もし人々に選択の自由を与えるならば、選ばれる人と選ばれない人が出てきて、社会が不平等になるというわけだ。だから平等を望む人は、自由競争には否定的な人が多い。だが、本当に自由は平等と対立するのだろうか。
ルソーのノスタルジーは正しいのか
ルソーやマルクスは、文明成立以前の発展段階に戦争も階級もないユートピアをノスタルジックに想定した。今でも人類学者や考古学者の多くは、未開社会や原始社会は、本来平等で平和であったと考える傾向にある。しかし、このノスタルジーに科学的な根拠はない。