ジョージェスク=レーゲンのリサイクル論

ジョージェスク・レーゲンは、地球のような閉じたシステムでは、物が散逸するエントロピーは不可逆的に増大するという「熱力学第四法則」により、地球上に住む私たちは熱死ならぬ物死を先に迎えると予言し、さらに、リサイクルによって持続可能な経済を実現しようとすることは永久機関を作ろうとする行為であり、リサイクルによって物死を回避することは不可能であると主張した。しかし、ジョージェスク・レーゲンが謂う所の熱力学第四法則は物理学的に間違いであり、リサイクルをすること、すなわち熱のエントロピーを増大させることで物のエントロピーを縮減し、熱のエントロピーを宇宙に捨てることで地球内における物のエントロピーを低く維持し続けることは、原理的には可能である。
クラウジウスはエントロピーをどう定義したか

クラウジウスは近代熱力学の創始者の一人であり、「エントロピー」という用語の発案者であるが、この言葉を創る前は「変換の等価値」という呼称を用いていた。今日物理学の専門用語として使われているエントロピーは、交換の対価という経済学的な発想から生まれた概念であった。そもそも熱力学自体が、蒸気機関の熱効率の向上という経済的な関心から生まれた物理学の分野であり、半分物理学であるが、半分経済学でもあるような学問なのである。クラウジウス自身、そのような問題意識はなかったとはいえ、今日、エントロピーという概念は、地球の資源問題や環境問題を考える上で重要にもなっている。
地球は熱機関としてどのような仕事を行うか

熱機関とは、熱エネルギーを継続的に運動エネルギーに変える装置である。熱機関が、私たちにとって有用な正の仕事をするためには、温度格差と膨張率の高い作業物質が必要である。高温熱源との接触による膨張と低温熱源との接触による圧縮が直接仕事を行うこともあれば、体積変化に伴う密度変化が惹き起こす対流が間接的に仕事を行うこともある。私たちに有用な仕事を行ってくれる熱機関は、人工の熱機関に限らない。地球もまた熱機関として、生命にとって有用な仕事をしている。すなわち太陽放射の熱を高温熱源とする熱機関は空気と水の循環を、地球内部の熱を高温熱源とする熱機関は無機塩類の循環を生み出している。
生命にとっての資源問題と環境問題

天然資源の枯渇と資源環境の破壊は、急速に拡大を続ける私たち生命の存続を脅かしている二つの大きな問題である。これらの二つの問題は、そして生命を維持する問題自体も、実際には、エントロピーの問題という一つの問題に収斂する。資源問題と環境問題の本質が、そして二つの問題を解く鍵が、いかにしてエントロピーを減らすかにあることを示したい。