ザイム真理教対モリタク真理教
モリタクの『ザイム真理教』がベストセラーになったことで、財務省叩きや財務省陰謀論が流行するようになりました。しかし、財務省の財政均衡主義をカルトと断じるモリタクも別のカルトを形成したことにならないでしょうか。この記事では、モリタクの教義の矛盾を暴きつつ、ザイム真理教とモリタク真理教の対立地平を超えた真の国民負担軽減策を提案します[1]。

モリタク真理教の教義
モリタクのザイム真理教批判
2023年に、森永卓郎(もりながたくろう, 1957年 – 2025年)、通称モリタクは『ザイム真理教―それは信者8000万人の巨大カルト』を出版し、財務省の均衡財政主義をオウム真理教になぞらえてザイム真理教と呼んで危険視しました。「ザイム真理教」という呼称自体は、それ以前からネットにあったものの、それが幅広く使われる流行語になったのは、ベストセラーとなったこの本のおかげです。なお、モリタクの主張につけられた「モリタク真理教」なる呼称もネット上で既に使われていて、私の造語ではないということをお断りしておきます。
この本は、モリタクの個人的な体験談から始まります。1980年に大蔵省(現在の財務省)の外郭団体であった日本専売公社(現JT)に入社し、大蔵省に「絶対服従」していたモリタクは、「財政再建元年」という言葉をしばしば耳にした[2]とのことです。1973年の石油ショック以降発行された巨額の国債の大量償還が1980年代の初めに迫っていたことが背景にありました。
しかしモリタクは、償還が迫っているなら、借金の借り換えをすればよいとして、基礎的財政収支(プライマリー・バランス=債務の元利払いを除いた支出と収入の差額)の黒字化によって国債を償還しようとする大蔵省の方針に疑問を呈しました。自国通貨を持っている国は、財政均衡に縛られずに、国債発行できるというこの本におけるモリタクの主張は、MMT(現代貨幣理論)に基づいています。
これに対して、財務省は、財政再建元年以降、今日に至るまで国債発行の抑制と基礎的財政収支の黒字化を一貫して主張してきました。そうしたザイム真理教の教義は、「これからの日本のために – 財政を考える – 」という一般向けのパンフレットにわかりやすくまとめられています。そこでは、国の借金の増加には、「国債や通貨への信認が失われるリスク」があると警告されています。
国の財政状況の悪化により、国が発行する国債や通貨に対する信認が低下すると、金利が大きく上昇したり、円の価値が暴落して過度な円安になったり、物価が急激に上昇するなどのリスクがあります。[3]
そして、「国の財政状況の悪化」がいかに深刻であるかを視覚的にわかりやすくするように、以下のような「ワニの口」と呼ばれるグラフを掲載しています。

グラフの黒線は一般会計歳出で、青線は一般会計税収です。ピンク色で示された両者の差が財政赤字です。一般会計と特別会計を合算した純系でも、財源不足が生じています(令和3年現在40.8兆円)。大蔵省の時代から財務省が基礎的財政収支の黒字化を目指しているにもかかわらず、財政赤字は解消されず、国債発行額が上昇する傾向にあります。この図をもとに、モリタクは、ザイム真理教の教義を次のように批判しています。
2020年度に80兆円ものプライマリーバランスの赤字を出したことは、財政均衡主義という教義にとって、致命的な危機だった。80兆円というのは税収全体を大きく上回る規模の額だ。
それだけ赤字を出しても金融市場や経済になんの問題も起きなかった。しかも日本と同じような巨大な財政出動は、世界中で行なわれた。ところが、そうした国においても、ハイパーインフレも、国債の暴落も、為替の暴落も起きなかったのだ。
本章の冒頭で採り上げた財務省の「これからの日本のために財政を考える」というパンフレットには、財務省がよく使う「ワニの口」の図が掲載されている。税収が伸び悩む中で、歳出がどんどん拡大していて、そのグラフがまるでワニが口を開けているように見えるという図だ。このまま行ったら、ワニの口が裂けてしまうぞという脅しなのだが、新型コロナの感染拡大は、ワニがまだまだ大きく口を開けることができることを立証してしまったのだ。
ちなみに、財務省の「国債及び借入金並びに政府保証債務現在高」という統計によると、国の広義の借金は2020年度末で、前年比102兆円増えている。2020年度の国債発行額は109兆円だ。どの統計でみても、2020年度に国は100兆円前後の借金を増やした。そして何も起きなかった。これはまぎれもない事実なのだ。[4]
財務省はハイパーインフレとまでは言っていません。ハイパーインフレになると予想していたのは、藤巻健史(ふじまき たけし, 1950年6月3日 – )などごく少数の人だけです。藤巻は、2019年に参議院議員選挙の比例区から立候補したものの、全国から5万余票しか集められずに、落選しました。それゆえ、ハイパーインフレ信者は、8000万人もいません。
財務省が警告しているのは、過度な円安や物価の急激な上昇などのリスクです。2020年度に財政赤字が大幅に膨らんでから4年以上が経過した今、為替レートと物価という点で「何も起きなかった」とは言えません。以下のグラフにおける2020年基準の実質実効為替レート指数(緑色)と2020年基準消費者物価指数(赤色)の推移をご覧ください。2021年から2024年末にかけて、円の実質実効為替レートが低下し、消費者物価指数が上昇しています。

当初、日本の物価上昇はコスト・プッシュ型とみなされていました。つまり、需給がタイト(物不足)になった結果、物価が上昇したというのです。たしかに、2020年以降のパンデミックによってサプライチェーンが供給制約を受け、2021年9月まで国際物流コストの指標であるバルチック海運指数(青色)が上昇傾向にありました。また、2022年2月にロシアがウクライナに侵攻すると、穀物や鉱物資源等の価格が上昇しました。グラフでは、2022年4月にブレント原油価格がピークに達したことが確認できます。
しかしその後、コスト・プッシュ型の物価上昇は全般的に収束しました。にもかかわらず、その後も物価が上昇しているのは、通貨価値が下落し続けているからです。実際、2020年以降、実効為替レート指数と消費者物価指数との間には負の相関 (相関係数=-0.871)が確認できます。アベノミクス以降、日本銀行は、事実上の国債の引き受けを実行中なので、国債を大量に発行して、それをヘリコプター・マネーとして市中にばらまけば、円安とインフレになるのは、当然のことです。
もちろん、日本だけでなく、米国も欧州もパンデミック対策のためにヘリコプター・マネーをばらまきました。しかし、2022年3月から米連邦準備理事会(FRB)が、7月から欧州中央銀行(ECB)が利上げを開始したのに対し、日本がマイナス金利を解除したのは2024年3月と遅れ、しかも、今でも依然として実質金利がマイナスであるため、円安とインフレがなかなか終息しません。それを過度な円安や物価の急激な上昇と言えるかどうかは微妙なところですが、少なくとも、「何も起きなかった」ということはありません。現状認識はともかくとして、重要な問いは、現在のような円安インフレになってもなお金融緩和と積極財政を続ける高圧経済が正しいのかどうかということです。
モリタクの消費税増税批判
モリタク真理教のもう一つの重要な教義は、消費税増税批判です。モリタクは、NHKの番組「おはよう日本」の質問「日本の賃金が下がり続けているのはなぜですか?」に対して、「それは消費税率を引き上げたからです」と答え、2022年1月にそれがそのまま放送されて大反響となったと言っています[6]。その内容は後に「NHK NEWS WEB」で詳しい記事が配信される予定だったのに、1か月も配信が延期されたと圧力があったかのような後日談まで付け加えています。
では、なぜ消費税率の引き上げが賃金の低下をもたらしたと言えるのでしょうか。モリタクは、消費税導入前の1988年度と2021年度現在の家計を比較した表を『ザイム真理教』に掲載しています。
1988年度 | 2021年度 | 増減率 | |
世帯主収入 | 474万円 | 533万円 | 12.5%増 |
税と社会保険料 | 90万円 | 135万円 | 50.1%増 |
手取り収入 | 384万円 | 398万円 | 3.8%増 |
消費税 | 0万円 | 32万円 | – |
消費税後手取り | 384万円 | 366万円 | 4.6%減 |
世帯主収入は、474万円から533万円へと12.5%増えたものの、税と社会保険料が50.1%も増えた結果、手取り収入が3.8%しか増えておらず、そこから消費税の負担を差し引くと、18万円(4.6%)の減少になることを根拠に、次のように言っています。
なぜ、日本経済がこの30年間、ほとんど成長しなかったのかという疑問がしばしば提起されている。
日本企業がイノベーションを怠ったからだとか、終身雇用・年功序列処遇が時代に合わなくなったからだとか、企業が雇用を守るために賃金を抑え込んだからだなどといろいろな意見が出されているが、この表を見れば、答えは明らかだろう。
日本経済が成長できなくなった最大の理由は「急激な増税と社会保険料アップで手取り収入が減ってしまったから」だ。
使えるお金が減れば、消費が落ちる。消費が落ちれば、企業の売上げが減る。そのため企業は人件費を削減せざるを得なくなる …… という悪循環が続いたのだ。
ザイム真理教は、国民生活どころか、日本経済まで破壊してしまったのだ。[7]
「日本企業がイノベーションを怠ったからだとか、終身雇用・年功序列処遇が時代に合わなくなったからだとか、企業が雇用を守るために賃金を抑え込んだからだなど」は、2021年の私のビデオ「日本経済はなぜ没落したのか」での主張に近いが、新自由主義が嫌いなモリタクは、サプライサイド(供給側)よりもデマンドサイド(需要側)に注目しようとします。「使えるお金が減れば、消費が落ちる。消費が落ちれば、企業の売上げが減る。そのため企業は人件費を削減せざるを得なくなる」といった説明は、デマンドサイド経済学の立場によるものです。
財務省は、消費税を社会保障の安定財源と位置付け、税率の引き上げを正当化しています。
保険料のみでは働く現役世代に負担が集中してしまうため、税金や借金も充てています。このうちの多くは借金に頼っており、私たちの子や孫の世代に負担を先送りしている状況です。
日本は速いスピードで高齢化が進んでおり、高齢化に伴い社会保障の費用は増え続け、税金や借金に頼る分も増えています。現在の社会保障制度を次世代に引き継ぐためには、安定的な財源の確保が必要です。[8]
モリタクは、財務省の主張を次のように批判しています。
財務省は重要な視点を隠している。そもそも日本の社会保障制度は、社会保険制度が支えてきたということだ。その制度は労使がともに支えるというのが基本だ。たとえば、厚生年金にしろ、健康保険にしろ、負担は労使折半だ。保険料の半分を企業が負担しているのだ。ところが、消費税は全額を消費者が負担する。高齢化が進むなかで、社会保障の負担が大きくなってきていることは事実だ。だからこそ、皆で社会保障を支えないといけない。ところが、消費税を社会保障財源にするということ自体が、企業が社会保障負担から逃れることを意味してしまうのだ。[9]
もしも高齢化に伴う社会保障の負担増加を認めるのなら、保険料だけでは不足する財源を何に求めるのでしょうか。モリタクは、財政赤字容認派ですが、増税を全否定しているのではありません。消費税の代替として、金融資産課税、法人税、相続税などの増税を挙げています[10]。この中で大きなウエイトを占めるのが、法人税です。実は、1989年以降、消費税率が引き上げられる一方で、法人税率は引き下げられています。モリタクは、2012年の著作で、
この15年間の消費税の税収は136兆円に上るのに、同じ時期の企業からの法人3税(法人税、法人住民税、法人事業税)は131兆円も減収しています。
つまり、消費税は、大企業が納めるべき税の減収の穴埋めに使われているといっても過言ではありません。[11]
と述べ、2019年の寄稿では、「消費税増税は法人税減税のため[12]」とまで言い切っています。「庶民派経済学」を標榜するモリタクとしては、庶民に負担がかかる消費税よりも企業に負担がかかる法人税や社会保険料の方が好ましいということなのでしょう。しかし、この認識は本当に正しいのかが問題となります。
モリタク真理教のカルト性
以上、モリタクによるザイム真理教批判を簡単に紹介しました。これだけなら、モリタク真理教などとカルト的な呼称を付けるほどでもないと思うかもしれません。しかし、モリタクの主張は、オウム真理教と共通点があります。それは、陰謀論と終末思想です。オウム真理教では、麻原彰晃(あさはらしょうこう, 1955年 – 2018年)が、米軍からサリン攻撃を受けているといった陰謀論で信者たちに被害妄想を抱かせ、人類最終戦争(ハルマゲドン)を予言し[13]、そこから生き延びるための唯一の方法として出家を促しました。実際に終末を迎えたのは、人類ではなくて、教団の方でした。
モリタクは、2023年末にがん罹患を公表しましたが、テレビ番組降板の原因は、それではなく、財務省のタブーに切り込んだことと考えています[14]。テレビは、税務調査の報復を恐れて、財務省にとって都合の悪い報道ができないというのです。しかし、それなら、なぜテレビ以外の媒体は、モリタクの主張を伝えるのでしょうか。税務調査の報復を恐れるのは、テレビ局に限定されないはずです。
2024年11月に、写真週刊誌『FLASH』が、大幅な減税を求めていた国民民主党の代表、玉木雄一郎(たまきゆういちろう, 1969年 – )の不倫スキャンダルをスクープした[15]時、モリタクは「“財務真理教”っていう教団に逆らうと必ずこういう目に遭うんですよ。そのやり口が“きったねぇなぁ…”って思う[16]」と財務省陰謀論を唱えました。しかし、玉木は、財務省から睨まれるよりもずっと前から不倫相手と交際していて、地元関係者の一部で噂になっていたというのですから、財務省の陰謀で説明するには無理があります。
陰謀論はともかくとして、終末予言の方は、ザイム真理教にも見られます。ザイム真理教は、借金が増え続けると財政が破綻すると予言して信者を脅し、増税を容認させようとするので、カルト的な終末思想を有すると言えなくもありません。しかし、ザイム真理教をカルトとして糾弾しているモリタクは、それに勝るとも劣らぬセンセーショナルな終末予言をしています。2024年の対談でモリタクは、「来年中に日経平均は3000円になる。本音を言うと2000円ぐらい。ちょうど今の20分の1くらいになる[17]」と予想し、NISAを今すぐ解約しろと忠告しています。
この発言に対して、堀江貴文(ほりえたかふみ, 1972年 – )が「自分が死ぬからって何でも言っていいわけじゃないでしょうよ[18]」と呆れていましたが、実は、モリタクは、2023年にがんを患う前からセンセーショナルな終末予言をしていました。例えば、2012年に出版した『大貧民―2015年日本経済大破局!!』の表紙には、「消費増税で国民の9割は貯蓄も雇用も失う!!」という煽り文句が掲げられています。もちろん、その予言が実現することはありませんでした。
モリタクは、さらに「グローバル資本主義の崩壊[19]」を予言し、トカイナカ(都会と田舎の中間)への移住を推奨しています。
私はいまの資本主義が維持できるのはあと2年程度だと思っています。それに伴って、東京という大都市が続けてきた繫栄もあと2年ほどで終わりを告げるでしょう。だから「みんなで東京を捨てて逃げたほうがいい」と言っているのです。[20]
引用元は、2023年の記事なので、「あと2年」とは、2025年にはということです。麻原は、ハルマゲドン予言で信者を脅し、生き残るための秘儀を伝授すると称して、上九一色村の自給自足的なサティアンに移住させました。カルトで洗脳するには、いろいろな情報が入る都会よりも、情報を遮断しやすい田舎の方が、都合がよかったのでしょう。モリタクは、グローバル資本主義の崩壊から生き残るために、トカイナカで食料と電気を自産自消し、オタクの世界に閉じこもる「1億総農民」「1億総アーティスト」の未来像を思い描いています[19]。こうした方舟への逃避を奨めるモリタク真理教にも、カルト的な側面があることは否定できません。
モリタク真理教の矛盾
国債大量発行に問題はないのか
モリタクやMMTの支持者たちは、赤字国債を大量に発行し続けても財政は破綻しないと主張します。しかし、財政が破綻しないからといって、国債を乱発してよいという結論にはなりません。あたかも財政破綻やハイパーインフレだけが放漫財政の問題であるかのように論点をすり替えるのは、藁人形論法に過ぎません。国債の増発の現実的な問題は、全要素生産性(TFP=Total Factor Productivity)を低下させるところにあります。これは、財政破綻のような将来起きるかもしれないと懸念される問題ではなくて、実際に起きた弊害です。
庄司啓史(しょうじけいし)[21]によると、公的債務の蓄積は、
- 資金のクラウディング・アウトによる設備投資の低下
- 実質金利の上昇あるいは期待収益率の低下による設備投資の低下
- 財政硬直化(公債費の増加等)による社会資本ストック投資の低下
の三つの要因を通じて、全要素生産性を低下させ、実体経済に対してマイナスのインパクトを与えます。以下のグラフは、普通国債残高対GDP比の増加率(正負反転)と全要素生産性の上昇率を標準化して、同じグラフに重ね合わせたものです。

赤色のグラフが暦年単位であるのに対して、青色のグラフは年度単位で、3か月のずれがあります。それにもかかわらず、両者の間には、国債残高対GDP比が増加する(青色のグラフが下がる)と全要素生産性が低下する(赤色のグラフが下がる)という負の相関性(相関係数=-0.324)があります。実は、財政赤字が生産性を低下させることは、1993年の頃から指摘[23]されていて、2015年発表のOECD加盟諸国を対象としたリサーチ[24]でも、とりわけ社会保障費の増大による財政赤字の拡大が全要素生産性を低下させるという結果が出ています。
なお、国債残高だけでなく、財政支出も全要素生産性にダメージを与えています。以下のグラフは、日本の一般政府最終消費支出対GDP比の増加率(正負反転)と全要素生産性の上昇率を標準化して、同じグラフに重ね合わせたものです。

こちらも3か月ずれていますが、負の相関性(-0.393)が認められます。
全要素生産性がいかに重要であるかを、以下のコブ=ダグラス型関数で説明しましょう。
Y は総生産量、A は全要素生産性、K は資本投入量、L は労働投入量、αとβはKとLの寄与率を決めるパラメーターです。全要素生産性は、イノベーションや経営の改善などにより向上する生産性で、財政出動によりKとLを増やそうとしても、Aが低下すると、Yが増えません。実際、バブル崩壊後、日本政府は不況対策として財政出動を繰り返しましたが、政府が存在を高めたことで民間のイノベーションが阻害され、結果として経済は成長しませんでした。積極財政で経済を量的に拡大しようとしても、質が劣化するなら、両者の積である総生産量は思うように増えないということです。
国債増発による資金のクラウディング・アウトと実質金利の上昇を回避する方法として量的金融緩和があります。国債を発行しても、それを日銀が買い取れば、市中に潤沢に資金を提供できるし、金利の上昇も抑制できます。日銀が保有する国債の利息は、国庫納付金として政府に還流するため、利払いによる社会資本ストック投資の低下も限定的です。しかし、これは、事実上の日銀による国債の引受けですから、円安とインフレを惹き起こします。
インフレは、インフレ税と呼ばれるように、一種の税金として機能します。一方でインフレが進行しているにもかかわらず、他方で名目金利が低く抑えられた結果、実質金利が負となりました。実質金利がマイナスということは、通貨や国債の保有者から発行元の政府へと富が移転したということです。インフレ税は、貨幣退蔵への罰金として機能するので、必ずしも否定すべきではありませんが、度が過ぎると弊害も大きくなるので、インフレ率は2%程度に抑えなければなりません。そして、国民所得の上昇率は、インフレ率を超えなければなりません。ところが、2022年から2024年にかけて、実質賃金の上昇率(名目賃金の上昇率-インフレ率)は年間でマイナスです。その結果、勤労者の購買力が低下し、消費活動が低迷しています。
以下のグラフは、日銀が公表している実質消費活動指数です。

パンデミック以降、2015年=100の水準を下回ったままです。特に実質賃金の上昇率がマイナスとなったこの三年の間、旺盛なインバウンド関連の消費を除いた青色の消費活動指数は、パンデミックが収束したにもかかわらず、パンデミック前の水準をかなり下回って横ばいとなっています。来日外国人が景気よく金を使っている一方で、日本人の財布の紐は固くなっているのです。
2025年2月4日の衆議院予算委員会で、植田和男(うえだかずお, 1951年 – )日銀総裁が「現在はデフレでなくインフレの状態にある」という認識を示したのに対して、石破茂(いしばしげる, 1957年 – )首相は「日本経済はデフレの状況にはない。しかしながらデフレは脱却できていない。今をインフレと決めつけることはしない」と答弁しました。経済学的には明らかにインフレであるにもかかわらず、政府がいまだデフレ脱却宣言を出せないのは、景気が好転しないからです。アベノミクス以降、政府は、デフレから脱却さえすれば、好況になると楽観していましたが、実際はそうではないという現状をなかなか受け入れられないようです。
一般的に言って、デフレよりもインフレの方が景気に有利に働きますが、インフレになったから景気が良くなるという必然性はありません。インフレであるにもかかわらず、景気が停滞している経済状態をスタグフレーション(stagflation)と言います。景気停滞(stagnation)とインフレーション(inflation)の合成語です。モリタクは、2023年2月に出版した本[27]で「2023年は物価が下がるだろう」と予測し、「スタグフレーションは死語になる」と書いていますが、死語になるどころか、2023年から2024年にかけて誰もが実感するリアルな現象になっています。
財政規律を無視してでも消費税を減税すべきだと、モリタクだけでなく、多くの日本の積極財政派が主張していますが、一方で消費を低迷させるという理由から消費税増税を目の敵にしつつ、円の所有者から購買力を奪うことで日本の消費を低迷させるインフレ税増税に目をつぶるのは矛盾しています。積極財政派がそれを自己矛盾と思わないとするなら、インフレ税の負担を重くする高圧経済の弊害をあまりにも軽視しすぎていると言わざるをえません。
消費税増税が賃金低迷の原因か
次に、消費税増税が日本の賃金を低下させたというモリタク説の真偽を検証しましょう。一般に消費税を負担するのは消費者と思われています。たしかに、消費税を引き上げた直後はそうですが、1997年に消費税率を5%に上げてから2021年まで、税込みの物価は、1997年の引き上げ以前とほぼ同じ水準を維持しました。それゆえ、消費者は、短期的にはともかくとして、長期的には、物価の上昇という形では税を負担していないのです。では消費税の負担はどこに帰着したのでしょうか。
冨永和人(とみながかずと, 1966年 – )によれば[28]、企業は、消費税の存在の下で継続的に労働を資本で代替するよう促されるので、最終的に消費税の負担は賃金抑制というかたちで労働者に帰着します。機械設備の仕入には仕入税額控除が適用されるのに対して、労働の賃金には仕入税額控除が適用されないから、消費税は労働と資本の相対価格に対して中立ではないのです。この説明は、モリタクのデマンドサイドの説明よりも説得力があります。
但し、バブル崩壊以後、30年以上にわたって日本人の賃金が抑制された原因を消費税に求める冨永の主張には賛同しかねます。なぜなら、消費税とは逆に負担が減った法人税にも同じように労働者の賃金を引き下げる効果があるからです。土居丈朗(どいたけろう, 1970年 – )のシミュレーション[29]によると、法人税負担の労働所得への帰着は、1年目には約10~ 20%程度ですが、時間とともにその割合が増え、長期的には100%になるとのことです。
土居は、グローバル経済の影響を無視した閉鎖経済モデルでシミュレーションしていますが、開放経済モデルを採用するなら、もっと早く法人税負担が労働所得に帰着するかもしれません。企業は必ずしも日本を拠点とする必要はなく、法人税率が高くなるなら、もっと低い国に移転する自由を有します。これを阻止するには、労働者の賃金を切り下げ、法人税負担を労働者に転嫁しなければなりません。消費税増税による価格の嵩上げも、そのままにすると売れなくなるので、仕入税額控除が適用されない人件費を切り下げる圧力がかかります。どちらも、労働者に帰着する税負担という点では同じです。それにもかかわらず、日本人の賃金が上がらなかったのは、前回の「氷河期世代はなぜ貧しいのか」で述べたとおり、ネズミ講オーナスのせいです。
法人税減税と消費税増税を企業優遇、庶民いじめと糾弾するモリタクのいかにも大衆受けしそうな俗説が間違いだとするなら、政府は何のために消費税を導入したのでしょうか。かつては直間比率の是正が大義名分として掲げられていました。しかし、どちらも、直接的には法人に課され、間接的には労働者が負担するという点で、両者に違いはありません。むしろ重要なことは、かつて法人税が一部の黒字企業にだけ課されていたのに対して、消費税は赤字企業にも課されるので、課税対象が広がったことです。2010年に、所得割に加え、外形標準課税である付加価値割りや資本割りを課すようになったのも、税負担を薄く広くしつつ、課税対象を複雑にすることで節税対策を難しくする意図があったと考えられます。
モリタクは、増大する社会保障費用の財源として消費税よりも企業が半分を負担している保険料の方が好ましいと考えていますが、「負担は労使折半」というのも表面的な見方です。社会保険料とは、さもなくばすべて労働者に賃金として支払われるべき人件費の一部を政府が保険料として取り上げる税金のようなものです。仮に全額を企業負担にしても、その分賃金が引き下げられるので、労働者の負担が減ることはありません(社会保険料は控除されるので、納税額にも影響を与えません)。結局のところ、労働者の負担を減らす上で重要なことは、財源を変えることではなくて、無駄な社会保障費用を削減することなのです。
法人税増税や企業による社会保障費の負担が労働者の負担減と企業の負担増につながらない一方で、モリタクが容認しているインフレ税は、貯蓄超過主体である家計には不利に働き、債務を抱えている企業にとって有利に働きます。円安は、国内の輸出企業に有利に働きますが、輸入品を購入する消費者には生活苦をもたらします。もちろん、債務超過の家計もあれば、無借金の企業もあるので、影響は一様ではありませんが、一般的に言って、円安インフレは、企業には有利に働き、生活者には不利に働きます。労働者の負担減と企業の負担増を主張する庶民派経済学者のモリタクが、インフレ税を容認するのは、矛盾しているように思えます。
投資はゼロサムのギャンブルか
2024年1月から新NISAが始まりました。政府は、「老後2000万円問題」に対応すべく、「貯蓄から投資へ」を推奨しています。ところが、
モリタクは、2024年7月に持ち株を全部売却し、日経ダブルインバースを購入して、日経平均の暴落に賭けました。そして、9月に『投資依存症―こうしてあなたはババを引く』や『新NISAという名の洗脳』といった本を出版し、「貯蓄から投資へ」を推奨する政府の方針に異議を唱えました。モリタクは、完全競争下では企業利益がゼロになるから、株式は無価値になる[30]と考え、投資を競馬や競輪と同じゼロサム・ゲームのギャンブルと断じ、新NISAが投資依存症を広めていると警鐘を鳴らしました。
企業の超過利潤がゼロになる完全競争は、あくまでも理論的に考えられた極端な状態であり、マイケル・ポーター(Michael Porter, 1947年 – )が批判した[31]ように、現実には、企業が超過利潤を得ることは可能です。それゆえ、投資をギャンブルと同等視するのは間違っています。ギャンブルは賭け金以上の金銭的利益を生む生産活動ではなく、娯楽、つまり消費活動に過ぎません。参加者は胴元に寺銭を支払うため、そのリターンの期待値は賭け金を下回ります。これに対して、投資の場合、投資対象が平均的にプラスの価値を生み出す生産活動であるので、リターンの期待値は投資額を上回ります。
もちろん、企業が損失を計上することはありうるし、株価には常に下落リスクがつきまといます。特に、2025年2月現在、2023年末から始まった生成AIブームにより、株価が急騰しているので、暴落するリスクもあります。実際、景気循環調整後の株価収益率であるCAPEレシオ(Cyclically Adjusted Price-to-Earnings ratio)[32]が、世界恐慌前と同様に30を超えており、米株はかなり割高になっています。「日経平均3000円」というモリタクの予想は、株価の下落が世界恐慌の時と同じぐらいになることを前提しています。
もとより、20世紀末のドットコム・バブルの時にCAPEレシオが44.2まで上昇した事例もあるので、CAPEレシオが30を超えたからといって、即座に株価が暴落するとは限りません。また、株価が暴落しても、世界恐慌の時とは異なり、中央銀行には量的金融緩和という救済手段があります。CAPEレシオやバフェット指数(上場株式の時価総額÷名目GDP)が、近年高い水準で維持されているのも、量的金融緩和のおかげです。それゆえ、世界恐慌の時と同じことは起きないでしょう。
19世紀以来、社会主義者たちは、恐慌が起きるたびに資本主義の終焉を宣言してきました。しかし、実際に終焉を迎えたのは社会主義の方です。以下のグラフは、1872年から2025年にかけての米国株価(S&P 500)の推移をインフレの影響を取り除いて示したものです。

赤の曲線は、指数近似曲線です。米国株は、これまで、世界恐慌、石油危機、ドットコム・バブルの崩壊、世界金融危機といった数多くの試練を乗り越え、指数関数的な成長を遂げてきたことがわかります。疑似社会主義的な経営を採用して、三十年間株価が低迷している日本とは違います。さらに、実際の投資では、インフレと配当再投資による複利効果で、資産増殖は、これよりもっと顕著に指数関数的となります。モリタクは、資本主義の崩壊を予言しましたが、今後とも、資本主義経済は、崩壊することなく、成長を続けることでしょう。それゆえ、投資は、ゼロサム・ゲームではないのです。
個別企業には倒産リスクがあり、全体の株価にも短期的には下落するリスクがあるにせよ、新NISAで一般的なインデックス・ファンドへの長期分散投資なら、リスクを抑えつつ、こうした指数関数的資産増殖が期待できます。何よりも、現在日本で課税が強化されているインフレ税から逃れられます。
モリタクは、一方で国債発行による積極財政を支持し、他方で投資しないことを推奨しています。このモリタク真理教の教義は矛盾していないでしょうか。もしもモリタクの教えを信者たちが忠実に実践したなら、信者たちは、インフレ税の犠牲者になってしまうことでしょう。オウム真理教でも、グルの教えを忠実に実践した信者たちは、悲惨な末路を辿りました。モリタク真理教についても同じことが言えそうです。
『ザイム真理教』で、モリタクは、「あの世なんて存在しない。人間は死んだら元の木阿弥で何もなくなる。神も仏も存在しない。だからすべての宗教が描いている世界観は、基本的に虚構だ[34]」としつつも、「念仏を唱えるだけで極楽浄土が待っていますと言えば、それを心の支えに、信者は現世を前向きに生きていくことができるのだ[34]」と言って、宗教の噓を正当化しています。たしかに、「嘘も方便」という考え方もあるでしょう。しかし、モリタク真理教を信じても、現世利益に与れず、むしろ損害を被ることになります。
モリタク真理教からの脱却
現代政治に影響を残すモリタク
モリタクは、2025年1月に亡くなりましたが、その影響はまだ残っています。2月21日に、ソーシャル・メディアでの呼びかけに応じた1000人ほどが、霞が関の財務省前で「財務省解体」を訴えるデモに参加しました[35]。
モリタクの主張に近い国政政党もあります。れいわ新選組の「基本政策」には、「政府の財源は、税金だけではありません。新規国債の発行も財源のひとつです[36]」とあり、国債増発がインフレ税を財源としている事実を隠しています。また、消費税に関しても、モリタクと同じような主張をしています。
消費税は1989年に導入されましたが、その本質は、経団連の要望で実施された法人税減税のための穴埋め財源です。消費税は低所得者ほど負担が重く、「消費に対する罰金」とも言えるもので、景気回復を妨げています。私たちは消費税を廃止し、家計を支援するとともに、中小零細事業者の負担を軽減します。[37]
れいわ新選組は、日本共産党と同様、与党の政治に影響を与えませんが、2024年10月の衆議院議員総選挙において与党が過半数割れとなったことでキャスティング・ボートを握った国民民主党は、与党にとって無視できない存在となりました。国民民主党は、2024年の衆議院選挙の公約で「1995年からの最低賃金の上昇率1.73倍に基づき、基礎控除等の合計を103万円から178万円に引き上げます[38]」と宣言しましたが、それだと、国と地方で年間計7.6兆円減収になると『日経新聞』は試算し、「高所得者ほど税負担軽減の恩恵が大きくなり、公平性が課題になる[39]」と報じました。この報道に対して、玉木は、財務省陰謀論のような推測をつぶやきました。
財務省がマスコミを含めて「ご説明」に回っている効果はさすがです。今朝の朝刊は各紙こぞって「7.6兆円の減収」「高所得者ほど恩恵」とネガキャン一色。[40]
その後、ネット上で財務省叩きがエスカレートしたため、11月26日の定例会見で、玉木は一転して「財務省への誹謗中傷はやめられた方がいいと思う[41]」と述べ、火消しに動きましたが、今でもネット上では、財務省陰謀論に基づくザイム真理教批判が盛んで、こうしたところにモリタクの影響を観て取れます。
減税の財源をどこに求めるのか
政府与党は、年収103万円の壁の178万円への引き上げに難色を示していますが、それは、彼らがザイム真理教に洗脳されているからではなくて、要求している国民民主党に財源に関する具体的な提案がないからです。2024年11月7日に、玉木は、「7兆円かかるなら、7兆円をどこかから削るのは政府・与党側の責任だ。われわれはとにかく103万を178万円にしてくれと要請していく[42]」と述べたとのことですが、こうした無責任な態度が政府与党を苛立たせているのでしょう。
政府与党に減税を求めるけれども、財源をどこに求めるかは与党に任せ、自らは与党入りしない国民民主党の姿勢は、その支持母体である労働組合(連合)の姿勢とよく似ています。労働組合は、経営者に賃上げを求めるけれども、賃上げの原資をどこに求めるかは経営者に任せ、自らは経営に参画しません。日本の戦後政治において、労働組合の支援を受けた政党が政府与党となることはまれで、かつ、なったとしても、短命に終わるのは、そうした無責任さの故なのでしょう。
国民民主党が財源にコミットしないのは、それを口にすると、国民民主党の支持率が低下すると考えているようです。実際、これまで、国民民主党は、財源の話をして、非難を浴び、それを撤回するあるいは後退させたことがありました。例えば、玉木は、2024年10月の総選挙における党首討論で、
社会保障の保険料を下げるためには、われわれは高齢者医療、とくに終末期医療の見直しにも踏み込みました。尊厳死の法制化も含めて。こういったことも含め医療給付を抑え、若い人の社会保険料給付を抑えることが、消費を活性化して、つぎの好循環と賃金上昇を生み出すと思っています。[43]
と発言したところ、医療費削減のために高齢者の治療を放棄するのかなどと批判され、「尊厳死の法制化は医療費削減のためにやるものではありません[44]」と発言を修正しました。
国民民主党の古川元久(ふるかわもとひさ, 1965年 – )代表代行は、2024年12月22日の民放番組で、103万円の壁を引き上げるための財源として、土地の資産価値に応じて課税される地価税を検討すると発言した翌日、「例えで言った。党として言ったつもりはない[45]」と発言を後退させました。
申告分離を選んだ時の金融所得課税30%引き上げは、国民民主党の「令和7年度税制改革と財源についての考え方」に書かれているので、玉木も否定できませんでした[46]が、負担増は高所得者に限定されるにもかかわらず、やはり増税の評判は芳しくありません。
玉木は、税収の上振れを強調します[47]が、税収が上振れたと言っても、相変わらず歳入は歳出を下回っています。インフレを抑制しつつ減税したいのであれば、国債発行以外の方法を見つけなければなりません。
両者の対立地平を乗り越える
私は、これまでモリタク真理教を批判してきましたが、それはザイム真理教の擁護を意味しません。そもそも、ザイム真理教とモリタク真理教は、対立しているように見えて、共通点を有しています。それは、ともに歳出削減に熱心ではないという点です。両者の間には、ザイム真理教が財政赤字を通常の税で埋めようとしているのに対して、モリタク真理教はインフレ税で埋めようとしているという違いしかありません。両者の対立地平を乗り越えるには、歳出削減に注目しなければなりません。
モリタクは、財務省の「行動原理は、一円でも多く増税し、一円でも歳出をカットするという財政緊縮路線だ[48]」と言いますが、それは一般的な財政緊縮について当てはまることであって、財務省には必ずしも当てはまりません。財務省は、自分たちの権力の源泉である税を増やすことに熱心であるのに対して、歳出削減には熱心ではありません。歳出を削減すると増税する口実がなくなるので、それは当然です。実際、財務省は、『これからの日本のために』で、
財政構造を諸外国と比較すると、現在の日本の社会保障支出の規模は対GDP比で国際的に中程度であるのに対し、社会保障以外の支出規模は低い水準であり、これらを賄う税収の規模も低い水準となっています。[49]
と言って、支出規模の削減よりも税収規模拡大の必要性を訴えています。なお、こうした国際比較では、日本の政府の支出に、債務償還費や財政投融資等に係る支出が含まれていません。それゆえ、この比較だけから日本が小さな政府であるとは結論付けられません。日本の歳出総額の過半数が社会保障関係費と公債費で占められていることから、社会保障以外の支出規模が低くなっているのは、財政硬直化の結果とも言えます。
消費税減税であれ、103万円の壁を引き上げであれ、何であれ、減税するなら、それ以上に歳出を削減する必要があります。既に述べたように、公的債務の蓄積は、全要素生産性を低下させます。資本の質、労働の質、経営者の能力、イノベーションといった経済成長に必要な経済の質を劣化させるのです。経済の社会主義化を防ぐためにも、市場原理を歪める補助金行政を廃止し、歳出を削減しなければなりません。
また、社会保障関係費にも無駄や不公平がないかを見直す必要があります。真の弱者を守らなければならないとしても、今の日本の社会保障は、必ずしもそうなっていません。特に、働く能力と意欲を持った人から働くインセンティブを奪っていないかどうかを検証しなければいけません。様々な社会保障給付制度を廃止し、負の所得税を導入するのは一つのアイデアです。
歳出削減は、増税と同様に国民負担になると一般に思われています。しかし、今の日本政府の支出の中には無駄もしくは有害な介入が多くあります。それらを廃止し、減税の財源にすることで、初めて国民負担の軽減につながり、かつ、日本経済を成長させる減税が可能になるのです。
参照情報
- 森永卓郎『ザイム真理教―それは信者8000万人の巨大カルト』フォレスト出版 (2023/5/22).
- 森永卓郎『日本人「総奴隷化」計画 1985ー2029 アナタの財布を狙う「国家の野望」』徳間書店 (2025/3/1).
- 森永卓郎『書いてはいけない』三五館シンシャ (2024/3/7).
- 森永卓郎『大貧民―2015年日本経済大破局!!』アーク出版 (2012/12/20).
- 森永卓郎『増税地獄 増負担時代を生き抜く経済学』KADOKAWA (2023/2/10).
- 森永卓郎『投資依存症―こうしてあなたはババを引く』フォレスト出版 (2024/9/9).
- 森永卓郎『新NISAという名の洗脳』PHP研究所 (2024/9/30).
- ↑本ページでは、2025年2月27日に初稿を公開し、3月28日にTFPに関する情報を加筆した改訂版に差し替えました。旧版に関しては、リンク先のキャッシュをご覧ください。
- ↑森永卓郎『ザイム真理教―それは信者8000万人の巨大カルト』フォレスト出版 (2023/5/22). p. 24.
- ↑財務省「これからの日本のために – 財政を考える – 」令和6年4月. p. 11.
- ↑森永卓郎『ザイム真理教―それは信者8000万人の巨大カルト』フォレスト出版 (2023/5/22). p. 85-86.
- ↑Data from 実質実効為替レート指数(日本銀行主要時系列統計データ表), 2020年基準消費者物価指数月報(2024年12月調査), Brent Oil Historical Rates, Baltic Dry Index Historical Data
- ↑森永卓郎『増税地獄 増負担時代を生き抜く経済学』KADOKAWA (2023/2/10). p. 30.
- ↑森永卓郎『ザイム真理教―それは信者8000万人の巨大カルト』フォレスト出版 (2023/5/22). p. 135.
- ↑財務省「なぜ消費税率は上がったのですか?」In: “よくある質問.” Accessed 2024/11.
- ↑森永卓郎『ザイム真理教―それは信者8000万人の巨大カルト』フォレスト出版 (2023/5/22). p. 90.
- ↑森永卓郎『大貧民―2015年日本経済大破局!!』アーク出版 (2012/12/20). p. 78-79.
- ↑森永卓郎『大貧民―2015年日本経済大破局!!』アーク出版 (2012/12/20). p. 57.
- ↑森永卓郎「なぜ消費税を社会保障財源にしてはいけないのか」in 松尾匡他『「反緊縮!」宣言』亜紀書房 (2019/5/23). p. 85-87.
- ↑麻原彰晃『麻原彰晃、戦慄の予言』オウム出版 (1993/2/1).
- ↑スポニチアネックス取材班. “森永卓郎氏 “忖度なき正論”の弊害?「実はテレビの情報報道番組は全部降ろされて…」.”『スポニチ』2024年7月2日.
- ↑『FLASH』編集部. “【独占スクープ】玉木雄一郎氏「高松観光大使」元グラドルと隠密不倫デート&地元ホテルで逢瀬…取材には「家族との話し合いが終わっていない」.” Smart FLASH(光文社週刊誌)2024.11.11.
- ↑スポニチアネックス取材班. “森永卓郎氏 国民・玉木代表の不倫スキャンダルに「逆らうと必ずこういう目に。“きったねぇなぁ”って」.”『スポニチ』2024年11月11日.
- ↑楽待RAKUMACHI. “【森永卓郎VS朝倉慶】日経平均3000円vs10万円/バブル崩壊で資本主義経済は終わる?/1ドル70円になってもおかしくない/インフレ・株高はいつまで続く?【特別対談・前編】- YouTube.” Nov 18, 2024.
- ↑堀江貴文. “これはさすがに、、、自分が死ぬからって何でも言っていいわけじゃないでしょうよ.” X.com. 2024年11月24日.
- ↑ 19.019.1森永卓郎. “森永卓郎氏が「都会暮らし」を危険視するワケ グローバル資本主義の崩壊で起こる悲劇.”『THE21オンライン』2024年11月01日.
- ↑森永卓郎, 河合雅司. “「資本主義はあと2年でダメになる」「東京を捨てて逃げたほうがいい」…森永卓郎が本気でそう考える理由.”『現代ビジネス』2023.03.11.
- ↑庄司啓史. “企業ファイナンスにおけるクラウディングアウト発生に関する実証分析.” RIETI ディスカッション・ペーパー:13-J-041. 2013年6月.
- ↑Data from 財務省理財局. “国債発行額等の推移."『債務管理リポート2023 ― 国の債務管理と公的債務の現状 ―』令和6年1月25日更新; 日本生産性本部. “日本の全要素生産性(TFP)の推移 ― 生産性データベース(JAMP)" 2024.3.
- ↑Fischer, Stanley. “The Role of Macroeconomic Factors in Growth.” Journal of Monetary Economics 32, no. 3 (December 1, 1993): 485–512.
- ↑Everaert, Gerdie, Freddy Heylen, and Ruben Schoonackers. “Fiscal Policy and TFP in the OECD: Measuring Direct and Indirect Effects.” Empirical Economics 49, no. 2 (September 1, 2015): 605–40.
- ↑Data from Worldbank. “General government final consumption expenditure (% of GDP) – Japan." Accessed 2025/03/28; 日本生産性本部. “日本の全要素生産性(TFP)の推移 ― 生産性データベース(JAMP)" 2024.3.
- ↑日本銀行調査統計局経済調査課景気動向グループ「消費活動指数」2025年2月7日掲載.
- ↑森永卓郎『増税地獄 増負担時代を生き抜く経済学』KADOKAWA (2023/2/10). p. 46.
- ↑冨永和人. “企業の生産方式の選択に関する消費税の非中立性.” Jxiv. December 16, 2024.
- ↑土居丈朗. “法人税の帰着に関する動学的分析 ― 簡素なモデルによる分析 ―.” RIETI Discussion Paper Series. 01-J-034. 2010年6月.
- ↑児玉一希. “2025年は「日経平均3000円」と予測…森永卓郎氏に日本経済と株価の行方を聞いた.”『日刊ゲンダイ』公開日:2025/01/13.
- ↑Porter, Michael. “How Competitive Forces Shape Strategy." Harvard Business Review. March-April 1979. pp. 137-145.
- ↑1988年にこれを考案したロバート・シラー(Robert Shiller, 1946年 – )の名を冠して、シラーPERとも呼ばれます。
- ↑Multpl. “Inflation Adjusted S&P 500 (constant December, 2024 dollars).” 4:00 PM EST, Fri Feb 21.
- ↑ 34.034.1森永卓郎『ザイム真理教―それは信者8000万人の巨大カルト』フォレスト出版 (2023/5/22). p. 45.
- ↑テレ東BIZ. “財務省解体デモ.” 2025.02.22.
- ↑れいわ新選組. “基本政策.” 1-1. 財政・金融政策. Accessed 2025/02/01.
- ↑れいわ新選組. “基本政策.” 1-2. 税制. Accessed 2025/02/01.
- ↑国民民主党. “政策各論1. 給料・年金が上がる経済を実現.”『国民民主党の政策2024』Accessed 14 Feb 2025.
- ↑日本経済新聞. “国民民主党の「年収の壁」対策、実現時7.6兆円減収 政府試算.” 2024年10月30日.
- ↑玉木雄一郎(国民民主党). 2024年10月31日のXでの投稿.
- ↑国民民主党. “玉木代表会見 2024年11月26日(火)10時30分より.” YouTube. Nov 26, 2024.
- ↑深津響. “国民民主、財源確保は「政府・与党の責任」―「103万円の壁」解消へ自公と強気の協議.”『産経ニュース』2024/11/8 19:00.
- ↑木村知. “玉木雄一郎代表の「尊厳死の法制化」発言に恐怖で震えた…現場医師が訴える「終末期の患者は管だらけ」の大誤解 「死なせてほしい」という意思はきっかけ一つで変わる.”『プレジデントオンライン』2024/10/22.
- ↑玉木雄一郎(国民民主党). 2024年10月12日でのXの投稿.
- ↑松井望美. “国民民主・古川代表代行が釈明、地価税検討は「例えで言った」.”『朝日新聞デジタル』2024年12月23日.
- ↑玉木雄一郎(国民民主党). 2025年2月1日でのXの投稿.
- ↑“国民民主党 代表定例会見.” 2024.07.02.
- ↑森永卓郎『ザイム真理教―それは信者8000万人の巨大カルト』フォレスト出版 (2023/5/22). p. 119.
- ↑財務省「これからの日本のために – 財政を考える – 」令和6年4月. p. 10.
ディスカッション
コメント一覧
男は黙つて個人向け国債(変動10年)。
もしもインフレと金利上昇が続くなら、債券価格は下落します。債券でインフレから財産を守ろうとするなら、物価連動国債でしょう。もしもインフレと金利上昇が終わると予測するなら、債券購入もありです。
分析ありがとうございます。
私は市井の人間ですが、国民民主党も森永卓郎も財務省解体デモも胡散臭いと思って見ていました。
天下りの問題があるとはいえ、彼らが優秀な官僚を叩くのはお門違いなのではないかと
このような風潮が広まるとかえって日本の中枢にいっそう優秀な人材が集まらなくなり、日本の未来は暗くなると思います。
日本では歳出削減なしの減税が議論になっているのに対して、アメリカではトランプ政権が財政支出削減と減税をセットにして、政府のスリム化に取り組もうとしています。
第一次トランプ政権が発足した頃はデフレリスクがあったため、財政拡大方針を採っていましたが、二期目ではコロナ後の高インフレが選挙最大の争点となり、財政支出の削減を掲げて当選しました。過剰な規制を緩和し、無駄な支出を削減するというトランプ政権の姿勢には期待が寄せられますが、どこまで実現できるかは不透明です。ただし、一連の関税政策を支持することは難しいです。関税を経済や外交上の問題解決の手段として前向きに捉えることもできますが、関税そのものがインフレの原因となるため、政策的に矛盾しています。
今回の選挙ではリバタリアンの支持が大きかったため、所得税ではなく関税を主な財源とする小さな政府モデルへの回帰が見られますが、トランプ政権をリバタリアンな政権と評価するのは難しいです。イーロン・マスクをはじめとするシリコンバレーの支持を取り付けた点では、一期目とは支持層の印象が大きく異なります。対立していたメタのザッカーバーグとも和解したようです。
これまでシリコンバレーはカリフォルニアにあるため民主党支持一色だと思っていましたが、テクノ・リバタリアニズムといった思想も強い影響力を持っているようです。アメリカはコロナ後に高いインフレ率を記録しましたが、70年代のようなスタグフレーションは回避しており、日本と違って経済は成長しています。しかし、70年代と同様に高インフレが小さな政府への改革を促す流れが今回も見られます。
日本では小さな政府への動きが全く見られません。また、日本の生産性を向上させるために永井さんが主張する解雇規制緩和の議論も進んでいないと言えます。オールドメディアに影響を受けている層はもちろん、ネット民ですら解雇規制緩和に対して肯定的な意見はごく少数派です。
トランプ政権はやることなすこと不確実性が高く、米経済の未来を見通すことは困難ですが、座して死を待つ日本より未来は明るいと思います。今後、日米格差は広がることはあっても縮まることはないでしょう。モリタク真理教の信者には、S&P500真理教への改宗をお勧めしたいですね。
TikTokでも天下りを問題視する人がいたので、「日本には職業選択の自由があるから、天下り自体は禁止できません。重要なことは、役所の権限を小さくすることです。問題の根幹は、大きな政府なのです」と答えておきました。かつて最高の人材が大蔵省のキャリアになりましたが、それは大蔵省が強大な権力を有することが前提となっています。役所が大きな権力を持たないのなら、優秀な人材が官僚になる必要はなく、むしろ民間で活躍してくれた方が日本の利益になります。
資本主義社会では、正常な人間は官僚になどなりません。
スタグフレーションなのかコスト・プッシュ・インフレなのか知らないが、インフレであることは間違いない。この状況で減税を主張することは、マクロ経済学的にはナンセンスだ。歳出削減を推進し、余剰の歳入で国債を償還すべきである。
国民民主党が減税を主張していることが、長期金利上昇の原因のひとつではある。
ドナルド・トランプ大統領は、リバタリアンかどうか以前の問題として、政治家としての思想があるかどうか疑わしく思います。
もともと政治家ではなくて、実業家であったトランプは、国家運営を企業運営と同等視しています。グリーンランドの購入を要求しているのも不動産屋の発想です。政治家なら、ロシアの脅威から米国を守るために、グリーンランドを直接所有する必要はないと考えるのが普通です。
企業経営者にとって、長期にわたる赤字は、企業の存続に関わる問題なので、黒字化しなければなりません。トランプは、この経営者の発想を、貿易収支赤字に持ち込み、関税で早急に解決しようとしています。
重商主義の時代、ヨーロッパの君主はトランプと同じ考えでしたが、アダム・スミス以降、自由貿易の方が諸国民の富を増やすと考えられるようになりました。特に、米国のような基軸通貨を発行する覇権国は、貿易収支、あるいはもっと広く経常収支の赤字を企業の赤字と同等視する必要はありません。
私は、「現代貨幣理論と令和の政策ピボット」(2021年)で、法定貨幣論や信用貨幣論では不十分として、商品貨幣論を主張しました。商品貨幣論といっても、財商品としてではなくて、サービス商品として通貨には価値があるというものです。そして、債券の債券である国債も、金融商品としての価値があることになります。
この商品貨幣論に基づくと、米国の貿易・サービス収支は赤字でないということになります。赤字であるように見えるのは、世界的に売れている金融商品のドル通貨を除外しているからです。ドル紙幣を輸出品とみなすなら、紙を印刷するだけで欲しいものを海外から輸入できる米国は、外国からすると羨ましい存在ということになります。
もちろん米ドルは、無条件で基軸通貨なのではありません。米国が、自由貿易における最大の交易国で、かつ、自由貿易圏の安全保障を提供しているからこそ、米ドルは基軸通貨として日意を維持できるのです。実際、米ドルが基軸通貨としての地位を確立したのは、米国が孤立主義を捨てた第二次世界大戦以降のことです。
トランプは、2025年1月31日の投稿で、共通通貨の創設を話し合うBRICSに対して、米ドルを基軸通貨として支持するよう要求し、従わなければ100%の関税を課すと脅しました。このように、米ドルの基軸通貨としての地位保全に執心なのとは裏腹に、トランプは、関税によって米国経済を国際経済から切り離そうとしたり、国外での安全保障上の役割を後退させようとしたりして、米ドルの基軸通貨としての地位を危うくしています。
さらに不可解なのは、トランプが、暗号資産の普及に熱心なことです。トランプは、1月24日に、ビットコインの戦略備蓄を創設する大統領令に署名し、3月7日には、ホワイトハウスで暗号資産サミットまで開催しました。もしもBRICS諸国が、ビットコインを米ドルに代わる基軸通貨として使用すると宣言するなら、どうするつもりなのでしょうか。
BRICS諸国だけなら、影響は限定的ですが、トランプは、カナダやヨーロッパといった伝統的な同盟国に対しても関税戦争を仕掛けています。また、NATO加盟国に対して、国防支出が不十分な場合、攻撃を受けても防衛しないと公言したり、日米同盟の片務性に不満を表明したりしています。ボルトン前米大統領補佐官の回顧録によると、一期目の時、トランプは、米軍を撤退させると脅して、在日米軍の駐留経費の日本側負担を四倍にすることを要求したとのことです。
どうやらトランプは、日米同盟をたんなる負担としてしかみなしていないようですが、日本は、たんに米軍に基地を提供しているだけでなく、米国債を買い支えるなど、経済面で米国のヘゲモニーを支えてきたことを見落としています。もしも米国が日本を防衛する義務を果たさないというのなら、日本は、米国債を売却し、備蓄してきた米ドルを自国の防衛力強化に使用することになるでしょう。
他の国も同様の行動をとるなら、自由貿易からも集団安全保障からも退いた米国の通貨は、ローカル通貨と化してしまいます。そうなると、これまで問題ではなかった米国の赤字が、問題となってきます。輸出を増やそうとしても、報復関税やデジタル課税のような対抗措置で、うまくいかないでしょうから、消費を抑制しなければならなくなります。それは米国民の生活水準を低下させることになるでしょう。
逆説的な言い方をすると、トランプは、貿易赤字という深刻ではない問題を、深刻と誤解して解決しようとすることで、本当に深刻にしてしまうということです。消費を犠牲にすれば、赤字は解消されますが、そうなると、米国の経済規模が縮小してしまいます。トランプは、メイク・アメリカ・グレート・アゲインを公約に掲げて当選しましたが、彼がやろうとしていることは、メイク・アメリカ・スモール・アゲインなのです。
「正常な」というよりも「優秀な」人間が、官僚にならないということですね。政治家に指示されたことを実行に移すだけなのですから、その意味で平凡な人材でよいのです。優秀な人材が官僚になると、能力に応じた権力と予算を要求するようになるので、小さな政府を目指す上では、むしろ有害ということになります。
インフレに対して、大きな政府を求める者は、増税で対応しようとし、小さな政府を求める者は、歳出削減で対応しようとします。私は、後者の立場です。
世間を惑わす怪しいイケダノブオ教をも糾弾してください。
どういうところが「怪しい」と感じているのですか。
斎藤元彦がまだ兵庫県知事だったころ、相模湖の南にイケダ教という怪しい宗教が流行っていた。それを信じない者はインフレで無一文になってしまうと云ふ。その正体は何か。自民党はイケダ教の秘密を探るため、最高学府から禿頭の学者を呼んだ。その名は、「ウエカズ参上」
斎藤元彦は、今でも兵庫県知事です。
永井さんはトランプ関税について世界にどのような影響があると考えていますか。
思いのほか日本に対し厳しい税率のため、自分は衝撃を受けました。
モルガンスタンレーのアナリストがニクソンショックに匹敵するといったのもうなずけます。
世界各国が米国を孤立化させるような貿易体制を築く可能性はありますか?
覇権国が米国から中国に移るパラダイムシフトの序章でしょうか。
2025年4月2日にトランプ政権は、すべての国と地域を対象に最低でも10%、対米黒字が大きい日本には24%の関税を課すと発表しました。この発表に驚いた日本人も多いようですが、これは米国の孤立主義の始まりに過ぎません。関税だけでは貿易不均衡が是正されない場合、米国はさらにマールアラーゴ合意への同意を要求する可能性があります。
マールアラーゴ合意とは、ドル安誘導を通じて貿易赤字を解消させようとするスティーブン・ミラン経済諮問委員会委員長の構想です。その提案の中には、米国が安全保障を担保する見返りとして、同盟国に米国債利息の受け取り放棄させるといった強引な債務負担軽減策が含まれています。まだ政権は公式には認めていませんが、トランプ大統領なら、こうした類の同盟国いじめを強行する可能性があります。
米国は、高関税や日米安保破棄で脅せば、日本はどんな不条理な条件でも呑むと思っているようですが、こうした脅しに屈しないようにするためにも、日本は、米国に依存しない自由貿易圏と代替的な安全保障の枠組みを構築しなければなりません。
日本が所属する自由貿易圏は、CPTPPです。ここにEUが加われば、世界最大の経済圏となります。自由貿易圏の拡大は、通常、困難ですが、CPTPPもEUも、トランプ関税の被害をともに受けているので、加盟国には、交渉を進める十分な動機があります。
インドのモディ首相は、中国やロシアと距離を取りつつ、グローバル・サウスのリーダーになろうとしています。ロシアと中国が権威主義的な体制であるのに対して、インドは、ブラジルや南アフリカと同様に、民主主義的な体制であるので、同じBRICSでも、溝があるのです。米国が権威主義的な体制に近づきつつあるのなら、日本も米国と距離を置きながら、他の先進国とグローバル・ノースを形成すればよいということです。グローバル・サウスとグローバル・ノースは、置かれている立場が近いので、提携の余地があります。
日本にとって安全保障上の脅威となる隣国は、ロシアと中国のみです。北朝鮮は、現体制の維持が精一杯で、日本の脅威になりません。遠交近攻の策を用いるなら、ロシアに対しては、ヨーロッパが、中国に対しては、インドとベトナムがパートナーとなりえます。同盟が無理でも、兵器の共同開発などの提携なら可能でしょう。また、米国の核の傘から出るなら、日本は核武装の必要性が出てきます。
「トランプの政策は米国の国益に資するのか」で述べたように、米国が自由貿易と集団安全保障から本格的に撤退するなら、米国は覇権国家ではなくなり、米ドルは基軸通貨からローカル通貨になってしまいます。マールアラーゴ合意に備えるためにも、米ドルに代わる新たな国際決済手段をグローバル・ノースで作る必要があります。EUと日本と英国の債券を担保に暗号通貨を分散台帳技術で発行すれば、利便性と信頼性の高い国際決済手段を提供できます。
それには、時間がかかるでしょうから、とりあえず日本銀行は、米国債を減らして、ヨーロッパの債券を購入し、米ドルを売ってユーロやポンドを購入し、資産の多様化によるリスク分散を図るべきです。ドイツは、現在、再軍備のために国債を増発しているので、それを支援するためにも、ヨーロッパの債券の中でも、とりわけドイツ国債を買うとよいでしょう。
多くの日本人は、米国の孤立主義をピンチと感じています。しかし、ピンチはチャンスでもあります。米国の属国から独立するためのチャンスにこのピンチを変えられるかどうかは、日本の政治家の覚悟と行動力にかかっています。
米国の属国からの独立は大変望ましい限りですが、現実的に自由貿易圏や経済圏は永井先生のおっしゃる通りに構築できると思いますが、安全保障においては日本が核武装なんて本当にできるのでしょうか?よく言われる事ですが、日本が核開発をやろうにも米英アングロサクソンはもちろん認めないだろうし、諸外国の反日感情が高まり反日運動が激化したり、秘密裏に行っても朴正煕時代の韓国みたいにアメリカに締め上げられると思います。まず何より、核実験を行う場所をどこの都道府県でやればいいのか、米軍基地の移設でもかなり揉めるくらいです。部分的核実験停止条約に違反するので海中での実験も無理です。それを破棄したら北朝鮮と同類になってしまいます。アメリカやロシアのように広大な国土を持たないので地上に核基地を置けないからイギリスやフランスのように原潜を持つべき?それとも核共有ならいけるって事ですか?
量的緩和は社会主義政策ですよね。政府の子会社の日銀が市場をゆがめるわけですから。保守派の論客は量的緩和を肯定しているようですが、保守派は近衛文麿と同様、疑似社会主義と相性がいいと考えれば納得できます。
トランプは、大統領になる前から、日本と韓国が独自で核兵器を製造することを容認する可能性を示していました(ロイター 2016/03/28)。その後発言は二転三転しました(CNN 2016.06.03)が、歴代大統領とは異なり、絶対反対という立場ではないようです。なお、最近では、米国の孤立主義化を受けて、韓国(Wedge 2025年4月2日)に加え、ドイツまでもが核武装を検討しているようです(WSJ 2025年3月16日)。
元祖新自由主義者のフリードマンが、量的金融緩和に相当するマネーサプライ・コントロール方法を提案していましたから、社会主義的とは言えません。実のところ、それは、リフレを口実に財政を拡張させないようにするための社会主義化予防策なのです。
金融業界が半周縁(=企業)に対して高金利で尻を叩くと、やがて落ちこぼれ企業が公的支援を要求してきて政治的にやっかいになことになるので、だったら低金利に統制して半周縁を懐柔するほうがマシという意味での予防ですか。
日銀が利上げをしたといっても、インフレ調整後の日本の実質金利は、依然としてマイナスです。日本は、積極的労働市場政策とは逆の政策を採用しているので、雇用を守るために、ゾンビ企業を延命させなければならず、そのため、実質金利を引き上げられないのです。
日本的経営を捨てられないから日銀が実質金利を引き上げない。
日銀が実質金利を引き上げないから日本的経営を捨てられない。
この無限ループに堕ちているんですね。30年間ずっと?!ここから脱出するためにはやはり、負の所得税ですか。
負の所得税にするかどうかは別として、重要なことは、政府が国民の生活の保障を企業に委託せず、直接提供し、生産性の低い企業を市場原理により淘汰させることです。