投機家は有害か

2016年10月22日

インカムゲインよりもキャピタルゲインを得ようとする投資行為のことを投機という。多くの人は、投機家は危険な存在だと考えているし、政治家は、経済危機が起きると、投機家をスケープゴートにして責任転嫁をし、市場を規制しようとする。はたして、市場が不安定なのは、投機家のせいなのか。

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1. 市場は投機家のおかげで安定する

市場が不安定になればなるほど、投機家にとって儲けるチャンスなのだが、だからと言って、投機家がいるから市場が不安定になるとは言えない。市場原理が機能している限り、どの投機家も単独では市場を意のままに操ることはできない。

投機家にできることは、将来を予測することだけである。彼らは、ある資本が割安の時に将来の値上がりを予測して買い、予測が当たれば売る。割高の時には将来の値下がりを予測して空売りして、予想が当たれば買い戻す。割高な時に買い、割安な時に売り続ける投機家が現れても、その投機家の資金はたちまち底をつくので、市場から淘汰される。このことは、投機家が儲けている限り、割安になりすぎたり、割高になりすぎたりしない、つまり市場は安定するということである。

2. 美人コンテストの原理は市場を不安定にするか

この常識批判に対して、美人コンテストのパラドックスを指摘して異論を唱える人もいる。ここで言う美人コンテストとは、新聞紙上に掲載された女性の写真から読者に投票で美人を選ばせ、最も多くの得票を集めた美人に投票した読者に賞金を出すというコンテストである。読者は賞金を稼ぐために、「誰が美人か」ではなくて、「他の読者は誰を美人と考えるか」さらには「他の読者は、私を含めたその他の読者が誰を美人と考えるか」… を考える。この予想の無限後退により、予想ゲームは不確定になり、多くの読者は自分が美人だと思う女性には投票しなくなると言うわけである。

確かに、もし多くの投機家が、美人コンテストのパラドックスにより、自分が割高(割安)だと思う商品を買い(売り)続けるならば、市場は不安定になる。しかし私は次の二点を指摘してこの常識批判に対する批判を批判したい。

まず、予想の無限後退は、予想値を発散させない。

変動の予想
変動の予想の予想
変動の予想の予想の予想

というように、予想が多重的になればなるほど、その予想の不確定性が増大し、市場に与える影響は小さくなる。

第二に、予想の予想は、美人コンテスト流の予想によって生じる市場価格のファンダメンタルズからの乖離を増幅せず、むしろ是正する。資本市場参加者が自分では割高(割安)だと感じながらも、多くの他の市場参加者は割高(割安)だとは感じないだろうと予想して買い(売り)続ける結果、バブル(恐慌)が発生することはよくある。しかし、すべての市場参加者が、多くの参加者は自分では割高(割安)だと感じながらも、他の市場参加者は割高(割安)だとは感じないだろうと予想して買い(売り)続けることを予想するとき、逆に売り(買い)に転じる。その結果バリュエーションの不均衡は訂正される。

3. 投機家への責任転嫁の危険性

このように、投機家は、自己の利益を追求しているにもかかわらず、結果として市場に安定をもたらす。かつてヒトラーが国際ユダヤ金融を標的にして行ったように、現代の民族主義者は、ジョージ・ソロスをはじめとする投機家をグローバル市場経済の手先としてスケープゴートにし、国内の大衆の支持を得ようとするが、私たちは、経済危機の真の原因を取り違えないようにしなければならない。

読書案内
書名 ジョージ・ソロス
媒体 単行本
著者 ジョージ ソロス 他
出版社と出版時期 テレコムスタッフ, 1996/03