指の長い男はなぜもてるのか

2016年10月22日

かつて私の母は、私の父を結婚相手として選んだ理由として、指が長いことを挙げていたのを覚えている。その話を聞かされた時、それは母の特殊な趣味なのだろうと思っていたが、実は多くの女性に共通して見られる嗜好のようだ。

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1. 竹内久美子説

女性作家の竹内久美子は、指の長い男に性的な魅力を感じると告白している。

指の長い男が素敵だと思うのは私だけかと長い間思ってきたが、何人かの知人に聞いてみたところ、指の長い男が好きだという女は物凄く多いのである。女は男の指の長さ、美しさに魅了されていると言ってもいいくらいだ。

どうやら、女たちは、指の長さを理想的な男の条件としているようだ。では、なぜ女たちは、指の長い男に魅力を感じるのか。竹内は、生物学界では性選択の理論として有力なハミルトン-ズックの仮説に基づいて、次のように説明する。

体の成長期に寄生者、例えば回虫やギョウ虫のような腸管寄生虫にやられている人間はどう成長するだろう。おそらく栄養不足のために、手や足、特に指などの末端部の成長が阻害され、疎かにされるはずである。寄生虫の立場に立ったとしてもそれは同じで、末端部の成長など、どうでもいいこと。彼らにとって重要なのは住み場所である腸管である。つまり、ゆったりとした胴体スペースを確保することである。そう意味でも体は胴長短足、指は短いという傾向に成長するだろう。

つまり、女が指の長い男性を配偶者として選好するのは、寄生者に集られた配偶者を避けるためだというのである。

竹内は、別の本では別の説明をしている。マウスの胚に対して、あるホメオボックス遺伝子(Hox d-13)の代わりに、全く関係のない遺伝子を挿入すると、そのマウスの四肢の指と生殖器がうまく形成されない。人間の場合、生体実験ができないので、断言はできないが、四肢の指の形成不全と生殖器の形成不全の間にかなりの相関性があることが確認されている。だから、「ある人の手足の指を見ることは、その人の生殖器を見るに等しい」 [竹内 久美子:シンメトリーな男, 89頁]ということになる。

女が男のペニスを直接見ることは難しい。足の指もなかなか観察しにくい。だから、一番観察しやすいての指を見て、男の生殖器を想像するというわけである。寄生者に集られていなければ、指の成長と同様に、ペニスの成長も良く、精子も健全なはずだから、女が男の伸びやかな指に惚れることは、生物学的な根拠があると竹内は考える。

2. 竹内久美子説批判

しかし、指が短いから寄生者に集られているとは限らないし、寄生者に集られているから指が短くなるとも限らない。竹内は、新モンゴロイドは寒い環境に適応するために胴長短足になったと説明している [竹内 久美子:三人目の子にご用心!―男は睾丸、女は産み分け,212-213頁]が、指が短くなる原因は、他にもいろいろと考えられる。また、竹内がシンメトリーな男で認めているように、寄生者に集られると、末端部がシンメトリカルに短くなるのではなく、奇形が生じ、シンメトリーが崩れるのが普通だ。

百歩譲って、指が短いのは、寄生者に侵されている証拠だとしよう。その場合、なぜ男は指の長い女を選好しないのかが問題となる。寄生者に侵されている配偶者を避け、健康な子孫を残したいと願う点で、男と女に差があるはずがない。ところが、男の中には、手足の小さい女の方がかわいいと感じる者さえいる。もちろん、それは、彼らが、寄生虫だらけの女が好きだからではない。

例えば、纏足が行われていた時代、中国の男性は、小さな奇形の足に性的な魅力を感じていたが、これはなぜだろうか。竹内は、纏足とハイヒールを履いた足が似ていることから、次のように説明する。

それはやはり生殖器の品定めをしているということなのだ。キュッと引き締まった足首。引き締まるだけでなく、アキレス腱がくっきりと浮かび上がっているような足首。そういう男好みの足首の女は、おそらく生殖器もよく発達しているのだろう。そういえばハイヒールには、足首をこうした男好みの状態にし、またそう見せかける効果もあるではないか。

[竹内 久美子:シンメトリーな男, p.100]

普通の男は、女のアキレス腱がセクシーだとは思っていない。また、爪先立ちを恒常的に続け、筋肉を伸縮させていないと、膝から下の足は、筋肉が萎縮・退化するために、棒のようになる。そんな貧弱な足から、よく発達した性器が連想できるだろうか。

3. セックスアピールとしての女性器の擬態

纏足において、足は折り曲げられ、足裏に窪みができる。女性たちは、その窪みを、まるで性器のように隠蔽し、露出を恥ずかしがった。セックスにおいて、中国人男性が、その窪みを膣の代用として弄んだことからもわかるように、纏足は、陰部の擬態となったからこそ、男の性的関心を惹いたのである。

女性がハイヒールを履くのは、脚を長く見せるためと、歩くたびに尻を振って、セックスアピールをするためである。ハイヒールの高さに差をつけて、歩行をさらに不安定にすると、「モンロー・ウォーク」と呼ばれる、もっとセクシーな歩き方になる。纏足をした女も、「蓮歩」と呼ばれる、尻を振った歩き方をした。中国人男性を魅惑したのは、この蓮歩と蓮歩のおかげで鍛え上げられ、ふくよかになった臀部と太ももであり、棒のようになった膝から下の脚ではなかった。

竹内は、ワコールが男性100人を対象に女の体のどこに最も注目するかを問うたアンケートを行ったところ、トップが、顔(54%)、胸(43%)、ウェスト(15%)、ヒップ(14%)を抜いて脚(59%)となったことを引き合いにして、大半の男は、女の足にフェティッシュな欲望を持っていると考えたようだが、このアンケートでは、「脚」が「足」でないことに注意しよう。男は、普通、一部の足フェチを除けば、足ではなくて、グラマーな太ももに惹かれる。

男の関心を惹きつけようとする女が、なぜ冬の寒い時でも、ミニスカートをはいて太ももを露出するのか、その理由を考えてみよう。ミニスカート・露出した太もも・X脚という男好みの三点セットがそろうと、尻と性器を連想させる肉の山と谷ができる。それは女陰の擬態なのだ。

擬態とは、生物が他の物に似た色彩、形、姿勢を持つことで、目立たなくなる隠蔽的擬態と、目立つための標識的擬態の二種類がある。前者と同様に、後者も天敵を騙すためのテクニックとして使われるのだが、女陰の擬態は、標識的擬態の特殊な使い方と考えることができる。

女陰の擬態という考えを、私は、デズモンド・モリスから学んだ。モリスは、正座する時間が長く、性器が隠蔽されていることが多いゲラダヒヒのメスの胸が性器そっくりであることをヒントにして、次のように推測する。

The protuberant, hemispheric breasts of the female must surely be copies of the fleshy buttocks, and the sharply defined red lips around the mouth must be copies of the red labia.

女性の突出した半球形の乳房は、肉質の尻のコピーに違いないし、また口のまわりのはっきりと区切られた赤い唇は赤い陰唇[女の外部生殖器の一部]のコピーに違いない

唇も陰唇も、性的に興奮すると、膨らんで濃い赤色になる。女が口紅を塗ったり、ブラジャーを使って、乳房を寄せて上げ、尻のような谷間を覗かせたりするのは、店に喩えて言うならば、尻や陰唇そっくりの模造品を看板として目につきやすい所に置くことで、客である男の性的関心を惹きつけることが狙いである。このように、女は一方で女陰と尻を隠しながら、他方でそれを連想させるシーニュを体の様々なところに散りばめ、広告する。

ここから、なぜ女はスカートをはくのかが説明できそうだ。X脚の女は、太ももを使って、割れ目を作り、そしてその見本用の割れ目は、本命の割れ目に向かって一直線に延びている。この男の侵入経路を、女はスカートという、いつでもかんたんにめくることができる、最も手薄な防御で遮る。もしもズボンで堅固に防御するならば、男は侵入しにくくなるが、逆に性器が日常的に露出していると、男は興ざめになってしまう。女は、その中間状態を作ることで、男の侵入意欲をかきたてようとする。

4. セックスアピールとしての男性器の擬態

話を女のセックスアピールから男のセックスアピールに戻そう。真興エンジニアリング株式会社のアンケート(回答者613人)によると、男が女以上に顕著に注目する異性の体の部分が、ウェストと脚だったのに対して、女が男以上に顕著に注目する異性の体の部分は、指と腕だった [女と男の営み:恋愛アンケート]。

男のセックスアピールを説明するのに、これまでの女のセックスアピールを説明するのに用いた擬態理論を応用することができる。女が、男と異なってセクシーだと感じる異性の体の部分は、指や腕など、勃起したペニスの擬態となっている部分である。そして、女が長い指を欲望するということは、巨根願望の表れである。

女が背の高い男を欲望するという、もっとよく知られた事実も、巨根願望によって説明できる。女は男の身体全体が「長いペニス」の擬態となることを求めている。真興エンジニアリング株式会社のアンケートには、適切な選択肢がないので、はっきりと表れていないが、「その他ひとこと」に書かれているように、女は、男の引き締まった尻がセクシーだと感じている。尻が出ていない方が、身体全体がペニスの形状に近くなるからだ。

5. 騙しのテクニックとしての擬態

男も異性の尻がセクシーだと感じるが、男が女に求める尻の形は、丸みを帯びたグラマーな形で、女が男に求める尻の形とは、対照的である。男が女のウェストにこだわるのは、ウェストが引き締まっていると、腰の丸みが強調されるからであって、ウェスト自体が重要なわけではない。かつてヨーロッパの女性は、コルセットでウェストを縛ったが、同時にクリノリンやバッスルで腰の丸みを誇張しようとした。

女が巨根願望を持つように、男は巨乳願望を持つ。もしも乳房が尻の擬態だとするならば、巨乳願望とは、巨尻願望でもあるということになる。丸みを帯びた腰は、広々とした、居心地のよい子宮を男に連想させる。巨根願望も、巨乳願望も巨尻願望も、究極的には豊穣願望ということになる。

もとより、擬態が大きければ、本命も大きいという必然性があるのかどうかわからないし、巨根・巨乳・巨尻が本当に多産につながるのかどうかもわからない。現時点の生物学的・医学的知見によるとあまり関係がないそうだ。人間以外の動物でも、性選択が、あまり実用的でない基準で行われることが多いのだが、象徴界にどっぷりと浸かっている人間のような動物の場合は、とりわけ、因果関係よりも象徴関係で性選択を説明した方が明快である。

私たちは、良さそうな外観と魅力的なキャッチフレーズに惹かれて商品を買う。買ってからがっかりすることもあるが、後の祭りである。もともと擬態は天敵を騙すためのテクニックなのだから、異性を騙すために使われても不思議ではない。結婚などというものは、所詮、男と女の騙し合いである。もっとも、擬態そのものを愛するというフェティッシュな倒錯を認めるなら、話は別だが。

読書案内
書名 遺伝子が解く!男の指のひみつ
媒体 文庫
著者 竹内 久美子
出版社と出版時期 文芸春秋, 2004/07
書名 三人目の子にご用心!―男は睾丸、女は産み分け
媒体 単行本
著者 竹内 久美子
出版社と出版時期 文芸春秋, 1998/08
書名 シンメトリーな男
媒体 文庫
著者 竹内 久美子
出版社と出版時期 新潮社, 2002/08