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『性書』の連載を開始

2006年4月8日

プレスプランのウェブサイトで、『性書』の連載を始めました。性に関するキーワードを毎月ひとつ選び、それについての私の見解を披露するという趣旨の企画です。初回のキーワードは、「萌え」です。なぜオタクたちは二次元美少女に萌えるのか、なぜ萌え文化は日本から世界に向かって広がりつつあるのかという問題を扱います。

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1. 新連載の『性書』について

この連載は、最新のコラムしか掲載しません。過去のバックナンバーは、何らかの方法で、公開する予定です。また、このコラムには、コメントのためのフォームはありません。コメントをしたい方は、どのタイトルのコラムであるかを明記した上で、このページの下にあるフォームを利用してください。

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プレスプランで掲載された性書[1]

いい年して、アニメ絵の美少女(あるいは幼女)に萌えて、現実の大人の女には萎えるオタクが増えつつある。なぜオタクたちは二次元美少女に萌えるのか、なぜ萌え文化は日本から世界に向かって広がりつつある のか、「萌え」と「オタク」の言葉の意味を分析しつつ、その本質を考えてみよう。…[2]

2. 追記(1)「萌え」に対する批判に応える

2006年5月17日

初回「萌え」についてコラムを書いたところ、オタクと思しき人から批判がありましたので、それに対する反論を書きます。

「萌えやポルノが人口爆発を抑制する」と書いてあるが、本当に人口抑制が必要なのは、途上国である。具体的には中国やインドがそうだ。中国やインドにポルノと萌えアニメを輸出すれば、本当に人口が抑えられるのか?その効果が本当にあったとしても、TVもネットも出来ない低所得者には、意味がない。貧乏人の子沢山というのだから、低所得者の子供が最も困るのではないか。[3]

人口増加率が減ってきている最大の理由は、教育の普及でしょう。高学歴化は、先進国から始まったため、少子化も先進国から始まっているのです。

教育が普及し、高学歴化すると、

  1. 就学期間が長くなり、就職が遅れて、晩婚化する
  2. 教育費の上昇により、子育てのコストが高くなる
  3. 表象空間が肥大化し、欲望の代替的充足が可能になる

といった理由により、少子化が進みます。1と2はネガティブな要因で、これだけだと、子供を産みたいけれども産むことができないわけだから、人々に苦痛を与えます。これに対して、3はポジティブな要因で、人々に子供を産む必要はないと思わせ、苦痛を和らげることで、少子化を促進させます。私は、萌え文化を3の一つの現われと認識し、注目しています。

これについては、後でもう少し詳しく述べることにして、一つ小さな間違いを指摘しますと、中国は、1979年から一人っ子政策を強行したため、現在では人口増加問題はもはや深刻ではなく、一人っ子政策は緩和されています。それでも、上海のような大都市では、出生率が減少し続けています。そして、上海では、日本の萌えアニメが大ブームです。

戦前、「突撃一番」などというコンドームが戦地で兵士に支給されていたそうだが、その質は酷いものだったと言う。それが、戦後世界一優秀な品質に生まれ変わったのは、ベビーブームから来る中絶急増対策のバスコンが絡んでいるのではないか。コンドーム輸出の方が即効性があると思われる。[4]

コンドームは、人々が子供を産みたくないと思っているときには有効でしょうが、人口が爆発的に増えている発展途上国の人々がしばしばそうであるように、人々が子供を産みたがっている場合は、人口抑制効果をもたらしません。

萌えキャラ以前に、アイドルが男たちの視線を一身に集めていた時代があったではないか?
アイドルを少子化や人口抑制に絡めて言うと、ファンや芸能界からクレームが来ると恐れているわけではないだろうな?[5]

たしかに、男たちが、女性アイドルの写真や絵を自分の部屋に飾るといったことは、1970年代以前にもありました。しかし、彼らにとって、生身の女性アイドルこそがホンモノであり、写真や絵は、ニセモノに過ぎません。だから、彼らは、現実の女性に対する性的欲望を失っているわけではありません。

しかし二次元美少女に萌えているオタクたちにとっては、二次元美少女こそがホンモノであり、三次元の女はニセモノです。この逆転は、生殖という観点からすれば、重要な違いをもたらします。

なお、私が「ファンや芸能界からクレームが来ると恐れている」という推測は不可解です。私は、少子化は良いことであり、もっと少子化を推し進めるべきだという立場の人間ですから。

実際に萌えている人が書いていないから、ダメなのは言うまでもない。理解出来ない人が面白おかしく取り上げるから、いつまで経っても偏見で見られ続ける。[6]

優れた宗教学の研究者は、しばしば無神論者です。信仰があると、客観的な研究ができないから、信仰がない人による宗教の研究も必要なのです。萌えについても、内在的視点と同様に、外在的視点も必要でしょう。

私は、いわゆる萌えキャラには興味はありませんが、学術オタクとでもいうべき一種のオタクだろうと思っています。家の中にこもりがちで、自分から好んで旅行に行くことはないし、結婚したいとも思いません。周囲は、変人扱いしているけれども、私にとっては、新しい学問に挑戦することが旅行であり、新しい作品を作ることが子供を産むことであり、その作品が人々に読まれることが、子孫が繁殖することに相当するからです。

ドーキンスは、文化では、遺伝子(gene)に相当するミーム(meme)が増殖すると言っています[7]。遺伝子の物理的増殖が、環境的制約によって限界に達している今、表象空間という新たなフロンティアで、新たな遺伝子であるミームを増殖させることが、人類の遺伝子戦略であると考えることができます。これは、70年代以降の情報革命で、バーチャルな表象空間が肥大化したオタクたちが出現して可能になりました。

アニメキャラクターが同人市場でミームの変異体を増やしているさまは、遺伝子が増殖するプロセスとよく似ています。同じことは、ハイカルチャーでも観察できます。ミーム論という観点からすると、ハイカルチャーかサブカルチャーかという違いはあまり重要ではありません。

それと、アニメが世界的に普及するのは、現実問題としては困難である。なぜなら、既にディズニーが世界中で興行収入トップを独走し続けている。日本だけ、一位になれないのである。本当に日本製アニメが世界的脅威になるとしたら、ディズニーもハリウッドも黙っていないし、政界に圧力を掛けて妨害することもあるだろう。[8]

中国は、海外アニメの輸入を規制して、国産アニメを自国民に押し付けようとしていますが、うまくいっていません。

ある北京の男子大学生(22)は「国産アニメはつまらない」と言い、多くの日本のアニメや漫画を違法にダウンロードして鑑賞している。「字幕組」と呼ばれる人々がボランティアで中国語訳をつけたものも出回っている。規制をくぐって「海賊版」も入り込む。
上海のある関係者は「中国の視聴者はグローバル化で日本などの優秀な作品を知っており、目が肥えている。視聴者と共に成長した日本のアニメとでは、やはり差が大きい」とこぼす。[9]

世界に広がる萌え文化を政治的な圧力で押さえ込むことはできないでしょう。ただ、私は、日本しか萌え文化の担い手になれないとは考えていません。オタク市場が大きいと判断すれば、ディズニーもハリウッドもその市場を狙った作品を出してくるでしょう。

3. 追記(2)『性書』の連載が終了しました

2007年11月7日

プレスプラン社のウェブサイトで、1年8ヶ月にわたって連載した『性書』は、第20回目をもって終了しました。長らくのご愛読ありがとうございました。バックナンバーは非公開となっていますが、これの公開に関しましては、また後ほどお知らせします。以下は、全20回の各コラムの掲載年月とキーワードです。

『性書』全20回の掲載年月とキーワード
回数掲載年月キーワード
012006年04月萌え
022006年05月生殖
032006年06月性的選択
042006年07月フェロモン
052006年08月男女共同参画社会
062006年09月プラトニック・ラブ
072006年10月同性愛
082006年11月ストーカー
092006年12月性的倒錯
102007年01月夫婦別姓
112007年02月体位
122007年03月一夫一婦制
132007年04月性的自己擬態
142007年05月
152007年06月神聖娼婦
162007年07月遊女
172007年08月乱交
182007年09月混浴
192007年10月エロティシズム
202007年11月去勢

4. 追記(3)『性書』が単行本として出版されます

2008年11月6日

プレスプランのサイトで連載した『性書』が、『ファリック・マザー幻想-学校では決して教えない永井俊哉の《性の哲学》』というタイトルで、リーダーズノート株式会社から単行本として出版されることとなりました。書店での発売は12月15日を予定しています。

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リーダーズノート株式会社のホームページ(2015年9月撮影)。

詳しくは追って報告します[10]

5. 参照情報

  1. 『性書』の公開場所は、当初、http://www.kitanet.ne.jp/~press/08seisho/ だったが、その後、http://www.pressplan.jp/08seisho/ に移転した。2021年現在はリンク切れなので、キャッシュにリンクを張っておく。
  2. 永井俊哉. “萌え.”『性書』プレスプラン. 2006年4月8日.
  3. Seiro. “永井俊哉 新連載「性書」 萌え”『今日のコラム(仮)』2006/04/11.
  4. Seiro. “永井俊哉 新連載「性書」 萌え”『今日のコラム(仮)』2006/04/11.
  5. Seiro. “永井俊哉 新連載「性書」 萌え”『今日のコラム(仮)』2006/04/11.
  6. Seiro. “永井俊哉 新連載「性書」 萌え”『今日のコラム(仮)』2006/04/11.
  7. Richard Dawkins. The Selfish Gene. 40th Anniversary edition (Oxford Landmark Science). OUP Oxford (2016/6/2). p. 195.
  8. Seiro. “永井俊哉 新連載「性書」 萌え”『今日のコラム(仮)』2006/04/11.
  9. 「アニメ国産」中国必死 脱・下請けへ優遇" 『朝日新聞』2006/04/24.
  10. 2008年12月15日の “『ファリック・マザー幻想』を出版しました" を参照されたい。