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北マリアナ諸島知事の就任式に出席

2006年1月25日

2006年1月9日、北マリアナ諸島知事の就任式に招待されて行きました。生まれて初めての海外旅行です。新知事は、破綻寸前の財政を建て直すためには、日本から観光客と投資を呼び込むことが必要だと演説の中で言っていました。日本に熱い視線を向けているこの国の未来を考えてみましょう。

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1. 北マリアナ諸島とは

北マリアナ諸島は、小笠原諸島の先に続く、サイパン島、ティニアン島、ロタ島など、マリアナ諸島南端のグアム島を除く14の諸島で、北マリアナ諸島自治連邦区(Commonwealth of the Northern Mariana Islands)、通称北マリアナ連邦と呼ばれる米国の自治領です。原住民は、チャモロ人と呼ばれています。

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北マリアナ諸島自治連邦区の位置[1]

北マリアナ諸島はかつて日本領でした。第一次世界大戦中、日本によって、当時ドイツ領だった北マリアナ諸島が占領され、1920年に、国際連盟で日本の委任統治地域とされました。1921年、松江春次が南洋興発株式会社を創立し、製糖業を手始めとして、様々な事業をサイパン島やロタ島で興し、一時期、人口は5万人に達したそうです。

サイパン島のラパン公園には、松江春次の業績を表彰して、シュガーキングの像が建てられているそうです。また、この写真にあるように、ロタ島では、日本統治時代に造られた製糖工場跡や機関車の残骸などを今でも見ることができます。

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しかし、北マリアナ諸島が、第二次世界大戦中に、米国によって占領されたために、南洋興発株式会社は閉鎖されてしまいました。その後、北マリアナ諸島は、1947年に、国際連合により、米国の太平洋後諸島信託統治地域ミクロネシアの一部とされました。現在は米国領の中でもコモンウェルスという政治的地位にあり、半ば独立した状態になっています。

2. 知事の演説

Benigno Fitial 知事と Timothy Villagomez 副知事の就任式は、1月9日、雨が降る中、アメリカン・メモリアル・パークで行われました。チャモロ人の伝統なのでしょうか、民族衣装をまとった男が、貝の笛を吹いて、開会式を告げました。

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肝心の知事の演説なのですが、「もしも、4年早く知事になっていたならば…」と悔しそうに言っていたのが印象的でした。まるで、前知事の Juan Nekai Babauta が無能で何もしなかったかのようで、私の隣に座っていた前知事が気の毒に思えました。

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新知事は、破綻している北マリアナ諸島の経済を建て直すには、すぐ近くにある世界第二の経済大国日本から投資と観光客を呼び込むことが最も重要であると言っていました。知事は、就任する前にも、私費で日本に行って、投資を呼びかけたそうです。

知事は、日本人客を中心に年間100万人の観光客が北マリアナ諸島を訪れることを目標として掲げていました。ただ、後で述べるように、私は、首都があるサイパン島には、それだけの観光客を惹きつける魅力はないと感じました。海や町があまりきれいとは言えず、アジア系移民の増加に伴って、治安も悪化しているからです。

金持ちの観光客の数を増やしたいのであれば、サイパン島よりも海がきれいで治安も良いロタ島を重点的に開発すべきでしょう。但し、従来型の開発をすると、サイパン島の二の舞になるので、観光資源を損なわない開発をする必要があります。

閉会式でも、貝の笛が吹かれ、女の子たちがそれぞれの民族衣装を着て踊りを披露しました。

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アメリカ風あり、中国風あり、朝鮮風あり、ハワイ風ありと、様々でしたが、日本の民族衣装を着ている女の子はいませんでした。かつてサイパンだけで三万人の日本人が住んでいたというのに、今では日系の現地人はいなくなってしまったのでしょうか。

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配られたパンフレットを見ると、中国やフィリピンやパラオといった各国政府からの祝辞が載せられているのに、日本政府からの祝辞は載せられていませんでした。知事が日本にラブコールを送っている割には、日本の存在を感じさせないセレモニーでした。

サイパンに首都を置く北マリアナ連邦は、事実上財政が破綻しています。かつては日本から多くの観光客が訪れ、経済的に豊かだったこの国は、なぜこんなに落ちぶれたのでしょうか。その原因は、住民の未来のことを何も考えないアメリカの統治政策と持続可能な開発を考えない住民の安易な生活習慣にあったと言わなければなりません。

3. 北マリアナ連邦の経済危機

米国は、1946年から1958年まで、北マリアナ諸島の近くにあるビキニ、エニウェトクの二つの環礁で67回の核実験を行いました。1975年以降、米国は、損害を被ったマーシャル諸島の住民たちに対する補償を始め、北マリアナ諸島に関しても、チャモロ人にフード・スタンプなど補助金を支給するなど懐柔策を取りました。日本がチャモロ人に働くことを教えたのに対して、米国はチャモロ人を遊ばせました。

サイパン島に住むある老人は、政府が支給するフード・スタンプ(食費補助のための金券)のおかげで、島の農業が廃れたと嘆いています。

今では、農民をやる必要がなくなった。怠けて、フード・スタンプをもらいに行って、生きていくことができる。昔は、フード・スタンプなんてものはなかった。外に出て、作物を植えるか、漁をするかしなければならなかった。今日では、うちの村でもフード・スタンプ・プログラムのお世話になっているやつがいっぱいいるよ。[2]

北マリアナ諸島の人々は、豊かな自然に恵まれているにもかかわらず、海外、特に米国から輸入される食材に依存しています。これも、フード・スタンプの弊害で、ロタ島でも、フード・スタンプのおかげで、チャモロ人たちは、以前のように熱心に農業や漁業をしなくなりました。あんなに小さな島に住んでいるにもかかわらず、泳げないチャモロ人までいます。

1986年に、レーガン大統領は、北マリアナ諸島を、自治領として内政的に独立させ、長年補助金で甘やかされてきた北マリアナ諸島が、いかに経済的に自立するかが課題となっています。この国の二大産業は、観光産業と縫製産業ですが、そのどちらもが近年危機的状態にあります。

4. 北マリアナ連邦の観光産業

かつてサイパン島は、日本に近いという地理的条件から、観光業で栄えていました。しかし、日本からの観光客は年々減少し、2005年10月には、日本航空(JAL)が国内から北マリアナへの定期便をすべて運休にしてしまいました[3]。最終便には数名の乗客しか乗っていなかったらしい。日本航空の代わりに、ノースウェスト航空が定期便を飛ばしましたが、そのノースウェスト航空も、2006年10月には、サイパン-関空間の運行を中止し、さらに、成田-サイパン間も週3便から1便に減らしました。直接の原因は原油高ですが、根本的な原因は、サイパンがもはや目の肥えた日本の観光客を満足させることができなくなっているところにあります。

サイパンが不衛生になり、観光地としての魅力を失ったのは、ゴミ処理問題で失敗したことが原因でしょう。サイパン島に代わって日本人観光客の注目を集めるようになったのが、ロタ島です。サイパン島と違って、観光地としての開発が進んでおらず、住民も少ないこともあって、かつてサイパン島にあった透明度の高い美しい海がまだ残っています。サイパンに見切りをつけた日本航空も、ロタにチャーター便を飛ばすことを決めました。

ロタの元上院議員、ポール・マングローナは、昨日の会合で、2005年にサイパンへの定期便を取りやめた日本航空が、8月にロタへ11便のチャーター機を飛ばすことに同意したことを確認した。[4]

しかしながら、私が見るところ、ロタもサイパンと同じ過ちを繰り返しているように思えます。「ロタ島滞在記」で書いたとおり、ゴミ処理がずさんというか、そもそも処理など全くしていないといってもよいぐらいであるからです。

5. 北マリアナ連邦の繊維産業

北マリアナ連邦の観光業に次ぐ産業は縫製業です。北マリアナ連邦は米国の一部ということで、輸入割り当て制限や関税が免除され、さらに、最低賃金規制の水準が本国よりも低いため、中国系の企業が、サイパンに建設した縫製工場で、安い移民の労働力を使って本土向けの衣類品を作っていました。本国の人権派議員の中には、サイパン工場で行われていた搾取労働を問題視する人もいます。

日本語のサイトには、中国系企業がサイパンに工場を作ったのは“Made in USA”のブランドが目当てだといった説明をよく見かけますが、ブランドのメリットは大きいものではなく、2005年1月に、WTOの協定により、衣類の米国向け輸入割り当て制限が廃止されると、中国本土の安い衣類が米国市場を席巻し、サイパンの縫製工場は大きな打撃を受け、撤退したりダウンサイズしたりするところが相継ぎました。

結局のところ、北マリアナ連邦の縫製産業は、米国であって米国でないという微妙な地位を利用して栄えた輸出産業であって、製品そのものに競争力があるわけではありません。北マリアナが長期的な繁栄を目指すのであれば、法の網をかいくぐるようなやり方ではなく、本当に国際競争力のある商品の開発に特化すべきでしょう。その商品とは、言うまでもなく、観光資源です。

6. 経済危機を克服するのに必要なこと

北マリアナ連邦が、危機に瀕している経済を立て直すには、フード・スタンプ・プログラムのような生活保護制度を大幅に縮小させ、農業(漁業を含めた農業)を復活させる必要があります。北マリアナ諸島では物価が高いのだから、生活保護は必要だと思うかもしれませんが、物価が高いのは、ほとんどのものを輸入物に頼っているからです。人件費は安いのだから、その安い労働力を使って農業をすれば物価は下がるはずです。

また農業の復活は、観光産業にとっても好ましい影響を与えます。海外から輸入された高くてまずい食材を使ってありきたりの料理を作るよりも、地元で取れた安くて新鮮な食材を使ってチャモロ料理を作るほうが、観光客には魅力的です。自給自足する必要はないが、比較優位のある作物なら作るべきです。

観光資源を保全するためにもう一つ必要なことは、ゴミ問題を解決することです。ロタも一時期ゴミを焼却処理していたが、ダイオキシンが出るということで、野焼きをしなくなったのだそうです。日本でも、ダイオキシンは問題になったが、実際には毒性が低く、野焼きをして発生するダイオキシンで、人が死ぬことはない。但し、単に焼却処理をするだけでは、ゴミに残存している未利用資源を有効に活用することはできない。

北マリアナ連邦は、エネルギーを輸入した石油に頼っていますが、これだと、原油価格が高騰すると、航空会社が撤退するだけでなく、国内で停電が頻発し、経済全体が麻痺してしまいます。農業の復活とゴミ問題の解決は、エネルギー自給率の向上による経済の安定という点でも必要です。農業廃材からバイオエタノールを製造すれば、それをガソリンに混ぜて使うことができます。

バイオエタノールは取り出すことができるエネルギーよりも投入するエネルギーの方が多いと言う人もいます[5]。いずれにせよ、重要なことは、可食部分からバイオエタノールを作るのではなくて、食べられない部分を燃料として活用することです。

北マリアナ連邦で、日本でやっているようなゴミの分別をしてもたぶん誰も守らないでしょう。だからゴミは分別せずに出し、それをサーマル・リサイクルで電気を取り出す方法をとることが現実的です。これでゴミの放置が引き起こす衛生問題とエネルギー問題を解決することができます。ともあれ、クリーンエネルギーを使うことは、自然の美しさを売りにしている観光地では必要なことです。

7. 参照情報

関連著作
注釈一覧
  1. The location of the Philippine Sea“. This image is in the public domain because it contains materials that originally came from the United States Central Intelligence Agency’s World Factbook.
  2. “Now you don’t have to be a farmer. You can become lazy, go and apply for food stamps, and survive. In the olden days, there were no food stamps. People had to go out there and plant or go out there and fish. Today, there are quite a few people on food stamp programs here in this village.” CNMI: Tanapag. The Land: Planting. Accessed Date: 3/26/2007.
  3. JAL. “JALグループ、2005年度下期路線便数・機材計画を一部変更.” 2005年07月29日.
  4. “Veteran Rota senator Paul A. Manglona confirmed that during a meeting yesterday, it was agreed that JAL, which had terminated its scheduled flights to Saipan in 2005, will be making 11 charter flights to Rota in August.” Saipan Tribune. “JAL to commence charter flights to Rota”, Friday, March 02, 2007. Accessed Date: 3/27/2007.
  5. “Energy outputs from ethanol produced using corn, switchgrass, and wood biomass were each less than the respective fossil energy inputs.” ― Farrell, Alexander E., Richard J. Plevin, Brian T. Turner, Andrew D. Jones, Michael O’Hare, and Daniel M. Kammen. “Ethanol Can Contribute to Energy and Environmental Goals.” Science 311, no. 5760 (January 27, 2006): 506–8.