8月 232007
 

J.A. Chapman, S.A. Drury, R.C.L. Wilson の共著『氷河期-気候変動と生命』を読んで考えたことの覚書。現氷河期はいつから始まったのか、氷河期の氷期/間氷期のサイクルは何によって決まるのか、ヤンガードリアス事件は全地球的現象だったのか、熱塩循環が気候にもたらす影響は何であるのかなど。

1. 氷河期はいつから始まったのか

氷河期とは、地上に氷床があるほど寒い時期である。この氷河学的定義に従うならば、グリーンランドと南極に氷床が存在する現代では、まだ氷河期は終わっていないということになる。

私たちは、極地に氷があることを当然のように思っているが、かつては、北極圏にも南極圏にも氷床はなかった。2004年に北極海を掘削して得た海底堆積物コアを解析したところ、暁新世と始新世の境界期(5500万年前)の海面水温は、夏になると24度まで上昇していたことがわかった [Nature June 01, 2006:Article p.601; Letters pp.606-10; News and Views p.579] 。

最近まで北半球氷床の成立は1,100万年前から500万年前の間に始まったと考えられてきたが、全球の氷床量の推定値が4,160万年前に南極の許容量を超過することなどの矛盾する証拠があるため、この説には疑問が投げかけられている。Edgarたちは、その時期に両半球に大きな氷床が存在していたという仮説を、赤道大西洋で得られた海底堆積物の記録を用いて検証した。彼らが求めた氷床量の推定値は、容易に南極に収まるものであり、北半球には大きな氷床が存在していなかったことを示している。この発見は、南極と北極では大陸と海洋の分布状況が異なっているために、北半球よりも南半球の方が先に大陸氷河作用の閾値を超えたことを示唆する気候モデルシミュレーションを支持している。

そのとき以来、今日に至るまで、地球の気温は全体的に見て、低下している。以下の表は、酸素同位体の比率から推定した過去6000万年間の気温の推移である。右側にある黒い太線は、極地に氷床が存在した期間で、EAが南極東部、WAは南極西部、NHは北半球である。

氷河時代の始まり
図1 過去6000万年間の気温の推移 [S. A. Drury et al:The Great Ice Age: Climate Change and Life, p.81]

この表では、北極圏の氷床は、南極圏の氷床よりも遅れて発達したように見えるが、最新の研究によれば、北極圏で海氷や氷山によって運ばれた石片が最初に出現したのは約4500万年前で、両極での寒冷化の開始時期は一致していることがわかっている [Nature June 01, 2006:Article p.601; Letters pp.606-10; News and Views p.579] 。それゆえ、氷河期の始まりは、4500万年前と見てよい。

2. 氷河期の周期を決めるのは何か

4500万年前以降、氷河期は短期的に寒暖を繰り返しながら続いている。氷河期の中の比較的寒い時期を氷期、比較的暖かい時期に間氷期という。下の図の(a)は、過去200万年間にわたる深海での酸素同位対比の波動を描いた図で、(b)~(d)は、各時期のスペクトルを分析して得た、周期(frequency)とその振幅(amplitude)の関係図である。

氷河時代の周期
図2 氷河期の周期 [S. A. Drury et al:The Great Ice Age: Climate Change and Life, p.87]

スペクトル分析から、1万9千年、2万3千年、4万1千年、10万年の周期があることがわかる。ミランコビッチの仮説によれば、このうち、10万年周期は、地球の公転軌道の離心率(eccentircity)の周期に対応し、4万1千年周期は、自転軸の傾斜角(obliquity)の周期に対応し、1万9千年と2万3千年の周期は、歳差運動(precession)の周期に対応する。これらの周期的変動により、日射量が変動し、寒暖のサイクルができるとミランコビッチは考えたわけである。

ミランコビッチの仮説は、氷河期の周期を説明する上で有力であるが、問題点も指摘されている。その後の研究によれば、離心率の周期は、強い10万年周期と弱い41万3千年周期から成り立つのではなく、強い40万年周期と弱い12万5千年/9万5千年から成り立つことがわかっている [S. A. Drury et al:The Great Ice Age: Climate Change and Life, p.87] 。しかし、氷河期には40万年周期はないし、その反面、最も主要な周期である10万年周期が説明できなくなる。

理論上では歳差運動と地軸の傾きの変化の方が、離心率の変化よりも、日射量に対する影響が強いのだから、10万年周期は、別の原理で説明されるべきだろう。本書では、10万年周期を、地球軌道が太陽系軌道平面から傾いて、宇宙ダストのバンドに出入りする周期に求める説も紹介されている [S. A. Drury et al:The Great Ice Age: Climate Change and Life, p.88]が、メカニズムが良くわかっていないので、推測の域を出ていない。

図1(a)をよく見ると、現代に近づくにつれて、波の間隔が広くなっていることに気がつくが、実際、(b)~(d)では、時とともに10万年周期の振幅が大きくなっている。この本では、二酸化炭素濃度が80年前に閾値を越えて下がったために、4万1千年周期が10万年周期になったという説が取り上げられている [S. A. Drury et al:The Great Ice Age: Climate Change and Life, p.153]が、4万1千年周期は、(b)~(d) を見ればわかるように、ほとんど振幅を変えずに残っており、4万1千年周期がそのまま単純に10万年周期に変化したというのは、無理がある。

2004年12月に出版された論文で、新しすぎて、この本では紹介されていないが、その論文によると、東京大学気候システム研究センターが、ミランコビッチ周期と二酸化炭素濃度と氷床に対する地殻の反応を組み込んだ三次元氷床モデルで、10万年周期をシミュレーションすることに成功したとのことである[Abe-Ouchi, A.; Saito, F.; Segawa, T.: Simulating and Investigating the 100ka ice age cycle with a three dimensional ice sheet model and GCM]。

この論文は、ネット上では摘要しか公開されておらず、私は本文を読んでいないのだが、北半球での氷床分布のシミュレーションにも成功しているというのが本当なら、かなり精度は高いことだろう。10万年周期は、複数の要因の合成から生まれる周期のようだ。

読書案内

本書のタイトルを直訳すると『大氷河期』なのだが、「大」がつくのは、近代小氷期などと区別するためで、日本語訳では、たんに氷河期でよいだろう。

書名The Great Ice Age: Climate Change and Life
媒体ペーパーバック
著者S. A. Drury 他
出版社と出版時期Routledge, 1999/12
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