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京都議定書の問題点

2007年8月5日

京都議定書の企図は、米国が批准を拒否したことで、骨抜きとなり、事実上失敗した。しかし、京都議定書の問題点は、これ以外にもある。京都議定書にはどのような欠陥があったのか。温暖化を有効に防止するには、どのような制度が必要なのか。このページでは、京都議定書の欠陥を分析し、その欠陥を克服する新たな議定書を提案したい。[1]

Kiyozumi Dera, Kyoto, Japan. Photo by Su San Lee on Unsplash. Published on December 23, 2018.

1. 負担分担の問題

1.1. 各国の数値目標の不公平さ

京都議定書とは、温室効果ガスを国際的に削減するために、1997年12月11日に京都市で開催された第3回気候変動枠組条約締約国会議(COP3)で議決した議定書である。この議定書では、以下の第三条第一項にあるように、地球温暖化に責任があるとみなされた先進国(附属書Ⅰに掲げる締約国)は、2008年から2012年までの期間中に排出する温室効果ガスの年平均量を1990年比で少なくとも5%割合削減する義務を負った。

附属書Ⅰに掲げる締約国は、附属書Ⅰに掲げる締約国により排出される附属書Aに掲げる温室効果ガス の全体の量を二千八年から二千十二年までの約束期間中に千九百九十年の水準より少なくとも五パーセント削減することを目的として、個別に又は共同して、当該温室効果ガスの二酸化炭素に換算した人為的な排出量の合計が、附属書Bに記載する排出の抑制及び削減に関する数量化された約束に従って並びにこの条の規定に従って算定される割当量を超えないことを確保する。[2]

しかしながら、実際の目標は、国によって、+10%(アイスランド)から-8%(EUなど)まであって、まちまちである。具体的な目標数値の設定に決まったルールがあるわけではなく、きわめて恣意的な印象を与える。

日本の削減目標は、6%である。6%削減という日本とカナダの数値目標は、EUの8%削減、米国の7%削減という目標に比べて低いように見える。しかし、1990年における日本の一人当たりの二酸化炭素排出量が8.7トンであったのに対して、英国は10.0トン、統一ドイツは11.2トン(1991年)、米国は18.9トン、カナダは15.0トンで、オーストラリアなど、16.2トンも出しながら、8%の増加が認められた国もあった[3]のであるから、日本の数値目標は、これらの国々と比べると厳しいものであったと言える。

EUの戦略(特に基準年設定)は見上げたものであった。周知の通り初期配分の基になる基準年は1990年と定められ、これはEUに著しく有利なポジションを与えるものであった。

この年は、まさに東西ドイツ統合の年であり、エネルギー効率の悪い旧東ドイツの工場を新鋭のそれに立て替えるだけでいくらでも削減の余地があった。英国においてもエネルギー自由化が始まった年であり、従来の石炭保護政策の転換で天然ガスへの移行が急速に進んだ。この結果、EU内の2大排出国であるドイツが-17.5%、英国が-14.1%の大幅減少となっている(2004年、これに対して日本の2005年度排出量は+8.1%)。[4]

1990年を基準とした削減率を目標にすると、日本のように、それまで省エネ努力を積み重ねてきた国には不利となる。それゆえ日本政府は、当初、「一人当たりの排出量(炭素換算)をpトン以下にする」または「総排出量を1990年レベルからqパーセント以上削減する」のどちらかを選ぶという二本立て案を提案し、京都会議が開かれる前に、日本は、pを3、qを0にすることで、米国に事前に打診していた。日本の場合、前者が有利で、米国の場合、後者が有利なので、これで日米が合意できると考えたのだろう。しかし、97年8月2日の読売新聞夕刊がこれを暴露して報道すると、このいかにも日本的な根回しは、京都会議をぶち壊す目標の打診として世界のNGOから糾弾された[5]

結局、日本は、ヨーロッパの要求を呑む形で、数値目標を「総排出量を1990年レベルからqパーセント以上削減する」という形式で統一した。COP3の議長を務めた大木浩環境庁長官(当時)は、インタビューで、次のように会議を振り返っている。

会議中、「こんな議定書は不平等だ。結ぶべきじゃない」と通産省の幹部に言われたが、議定書そのものが「共通だが差異のある責任を負う」と掲げるようにもともと不平等条約。そういう面では常に国内外で不協和音を抱える宿命にあった。[6]

“共通だが差異のある責任 common but differentiated responsibilities”というのは、発展途上国の免責を保証した第十条に出てくる文言であるが、大木氏は、「差異がある」ということと「不公平である」ということを混同しているようだ。負担の分担を公平に行うということは、必ずしも、負担の量が同じになるということではない。普遍的なルールに基づいて、責任に応じた負担の量が決まるなら、公平さがあるが、京都議定書の数値設定はそうではなかったというところに問題がある。

ちなみに、大木浩は、翌年(1998年7月12日)に行われた第18回参議院議員通常選挙で、現職閣僚であるにもかかわらず落選した。落選の原因は他にもあるのだが、大木の落選は、京都議定書が国益に反するとして、日本国民に歓迎されなかったことを示唆している。

1.2. 発展途上国の義務の免除

京都議定書のもう一つの欠陥は、発展途上国に新たな義務を課さないことを決めた1995年のベルリン・マンデートを踏襲し、発展途上国に全く義務が課されていないことである(第十条)。米国は、発展途上国(特に中国)に削減義務がないことを理由の一つとして、批准を拒否した。発展途上国が現在の勢いで経済成長を続け、人口を増やし続けるなら、たとえ先進国が2012年までに温室効果ガス排出量を1990年比で5.2%削減しても、世界全体では、30%増加してしまう[7]。それゆえに、発展途上国に削減義務がないことを問題視する米国の主張は正しい。

2007年6月19日に、オランダの政府系環境アセスメント機関が、2006年の中国の二酸化炭素排出量は62億トンで、米国を抜き世界1位になったと発表した。二酸化炭素の排出量は、2006年に2.6%増えたが、これは石炭消費量が4.5%増えたからで、その増加分のうち2/3は、中国の寄与による[8]。6月21日に、外交部の秦剛報道官は、定例記者会見の席上で、この報告を批判した。

秦報道官は、中国は発展途上国であり、経済成長に伴って排出量が増加するのは当然だと述べた。もっとも温室効果ガスの1人あたり排出量はオランダの11.4トンに対し、中国はわずか3.66トンに過ぎず、地球温暖化の主な原因は先進国が工業化の過程で多量に排出してきた温室効果ガスが問題だと断言。先進国は発展途上国に罪を押しつけず、真摯に反省すべきだと主張した。[9]

秦報道官の発言に見られるように、発展途上国は、IPCCの報告書の分析結果に基づいて、現在の地球温暖化は、産業革命以来、先進国が排出し、蓄積してきた二酸化炭素が原因だと主張し、責任は専ら先進国にあると言っている。しかしながら、私は、こうしたIPCCの分析に疑問を持っている。

産業革命以降の温暖化は、主として太陽活動の再活性化によって惹き起こされているので、20世紀の中頃までは、太陽活動と地表面の気温との間には、かなりの相関性があった。温室効果ガスによる温暖化の影響が顕在化したのは、20世紀の後半になってから、すなわち、近代化の波が少数の先進国から地球全体に広がる過程においてである。それゆえ、発展途上国には何の責任もないとはいえない。発展途上国は、一人当たりの二酸化炭素排出量が、先進国と比べて低いのであるから、その分負担は軽くなければならないが、応分の負担は課されるべきである。

もとより、たんに途上国に負担を課すだけでは、脱落する国が増えるだけである。そこで、脱落が途上国に経済的損失をもたらすようにしなければならない。また、それと同時に、ペナルティがあるにもかかわらず、それをも上回るメリットがあると参加国に思わせる制度でなければいけない。また、先進国にも、参加することで、自国の経済にダメージを与えることはないと思わせなければならない。どうすればそのような仕組みができるかに関しては、第三章で提案することにしよう。

2. 柔軟性措置の問題

京都議定書の温室効果ガス排出削減規制には、金融メカニズムと呼ばれる柔軟性措置があって、国内で削減目標が達成できなくても、他の国での削減実績でそれを補填できる。しかし、このメカニズムにおける吸収源と追加性のルールに関しては、問題がある。

2.1. 三つの金融メカニズム

京都議定書が認める金融メカニズム(financial mechanisms)、通称、京都メカニズムあるいは柔軟性メカニズム(flexible mechanisms)には、共同実施(Joint Implementation)、クリーン開発メカニズム(Clean Development Mechanism)、排出量取引(Emissions Trading)の三つがある。

このうち、共同実施とは、先進国(附属書Ⅰに掲げる締約国)が、他の先進国、特に、ロシアなど市場経済への移行途上国で温室効果ガスの排出量を削減するプロジェクトを実行し、その削減量を、京都議定書第三条で決められた自国の削減量に移転する制度で、京都議定書第六条第一項で、次のように定められている。

附属書Ⅰに掲げる締約国は、第三条の規定に基づく約束を履行するため、次のことを条件として、経済のいずれかの部門において温室効果ガスの発生源による人為的な排出を削減し又は吸収源による人為的な除去を強化することを目的とする事業から生ずる排出削減単位を他の附属書Ⅰに掲げる締約国に移転し又は他の附属書Ⅰに掲げる締約国から取得することができる。

(a) 当該事業が関係締約国の承認を得ていること。

(b) 当該事業が発生源による排出の削減又は吸収源による除去の強化をもたらすこと。ただし、この削減又は強化が当該事業を行わなかった場合に生ずるものに対して追加的なものである場合に限る。[以下略][10]

クリーン開発メカニズム(外務省訳では、低排出型の開発の制度)は、先進国が発展途上国で温室効果ガスの排出量を削減するプロジェクトを実施し、それによって削減された排出量を自国の割り当てに充当する制度で、京都議定書では、第十二条第二項と第三項で以下のように規定されている。

2. 低排出型の開発の制度は、附属書Ⅰに掲げる締約国以外の締約国が持続可能な開発を達成し及び条約の究極的な目的に貢献することを支援すること並びに附属書Ⅰに掲げる締約国が第三条の規定に基づく排出の抑制及び削減に関する数量化された約束の遵守を達成することを支援することを目的とする。

3. 低排出型の開発の制度の下で、(a) 附属書Ⅰに掲げる締約国以外の締約国は、認証された排出削減量を生ずる事業活動から利益を得る。(b) 附属書Ⅰに掲げる締約国は、第三条の規定に基づく排出の抑制及び削減に関する数量化された約束の一部の遵守に資するため、(a) の事業活動から生ずる認証された排出削減量をこの議定書の締約国の会合としての役割を果たす締約国会議が決定するところに従って用いることができる。[11]

排出量取引とは、目標以上に削減された排出量に対して国連が発行するクレジットを、目標を達成できなかった企業や国が排出枠として購入する制度である。購入者が積極的にプロジェクトをするのではないという点で、共同実施やクリーン開発メカニズムとは異なる。京都議定書は、排出量取引に関してはあまり詳しく述べていないのだが、第十七条で、次のように概略を示している。

締約国会議は、排出量取引(特にその検証、報告及び責任)に関する原則、方法、規則及び指針を定める。附属書Bに掲げる締約国は、第三条の規定に基づく約束を履行するため、排出量取引に参加することができる。排出量取引は、同条の規定に基づく排出の抑制及び削減に関する数量化された約束を履行するための国内の行動に対して補足的なものとする。[12]

二酸化炭素の排出量を削減するための限界費用は、日本が世界で最も高い[13]。このことは、すなわち、二酸化炭素の排出削減は、日本でやるよりも海外でやったほうが安くつくということである。

2.2. 吸収源の問題

京都議定書は、以下にあるように、第三条第三項で、1990年以降の植林などで吸収された二酸化炭素を数値目標の達成に利用することを認めた。

土地利用の変化及び林業に直接関係する人の活動(千九百九十年以降の新規植林、再植林及び森林を減少させることに限る。)に起因する温室効果ガスの発生源による排出量及び吸収源による除去量の純変化 (各約束期間における炭素蓄積の検証可能な変化量として計測されるもの)は、附属書Ⅰに掲げる締約国がこの条の規定に基づく約束を履行するために用いられる。[14]

第六条第一項は、既に引用したように、共同実施プロジェクトの目的を「温室効果ガスの発生源による人為的な排出を削減し又は吸収源による人為的な除去を強化すること」と定めているが、クリーン開発メカニズムと排出量取引の目的も同じで、発生源の削減と吸収源の増大が対策の両輪である。

また、その後の2001年に採択されたマラケシュ合意では、新規植林だけでなく、森林や放牧地などの管理を利用することによる吸収分のカウントも許容されるようになった。しかしながら、実際には、吸収源の増大は、発生源の削減よりも不利な扱いを受けている。まず、最初の基準年で、クリーン開発メカニズムでの植林による吸収量は、全割当量の1%を超えてはいけない。さらに、植林を共同実施ないしクリーン開発メカニズムで行って、二酸化炭素を吸収しても、立ち木を伐採したり、プロジェクトを終了したりした段階で、新たにクレジットを補充しなければならない。排出量取引でも同様である。それはなぜなのか。

排出権の世界では100年単位で温暖化問題を考えるため、森林がいくらCO2を吸収するといっても、それが半永久的に木材として固定化されているわけではないため、「森林は大気中のCO2を仮にそこに貯留している」程度の能力しか認められていないということなのです。そこで、炭素蓄積量を計測し、立木としてCO2が固定されている限りシンククレジットを与えるが、立木を切ったり、プロジェクトが終了したときには、そのシンククレジットは仮のものなので、別のクレジットで補充してくださいというルールが採用されるのです。[15]

木が伐採されたり枯れたりしたからといって、その木を構成している炭素が、直ちにすべて二酸化炭素となって空中に放出されるわけではない。木材を建築資材などとして利用すれば、かなりの長期にわたって、炭素が固定保存される。植物は、枯れた後、分解されずに泥炭となって地中に保存されることもある。それゆえ、立木を切ったり、プロジェクトが終了したりした段階で、吸収分を無効にするのは非現実的である。

もちろん、建築資材となった木材も、石炭化した木材も、燃やしてしまえば、その炭素は二酸化炭素として空中に放出される。だが、もしもそういう理由で「植林して二酸化炭素を吸収しても、最終的にはまた空中に放出されるので、結局は吸収したことにはならない」という論理を認めるならば、同じ論理で、「化石燃料を燃やして二酸化炭素を放出しても、最終的にはまた海や植物が吸収するのであるから、結局は放出したことにはならない」ということになるだろう。にもかかわらず、排出源の削減には恒久的なクレジットを認め、吸収源の増大には一時的なクレジットしか認めないのは不公平ではないのか。

二酸化炭素を排出しないようにしても、それだけでは大気中の二酸化炭素濃度は変化しない。二酸化炭素を吸収し、かつそれを排出しないようにするならば、大気中の二酸化炭素濃度は減少する。この違いを考慮に入れるならば、前者では、非排出にだけクレジットを認め、後者では、吸収と非排出のそれぞれにクレジットを認め、後者のクレジットを前者のクレジットの二倍にしなければならない。それゆえ、UNFCCCによる吸収源の過小評価には賛成できない。

2.3. 追加性の問題

もう一つの問題点は、追加性である。共同実施に関して引用した第六条第一項の(b)に「ただし、この削減又は強化が当該事業を行わなかった場合に生ずるものに対して追加的なものである場合に限る」とあるが、同じような但し書きは、クリーン開発メカニズムにもある。要するに、共同実施やクリーン開発メカニズムがなければ行われないようなプロジェクトしか対象にならないということである。共同実施やクリーン開発メカニズムがあることで、追加的に温室効果が削減されなければならないという意味で、この要件を追加性要件と名付けることにしよう。

この追加性要件は、排出量取引にはない。排出量取引という制度があろうがなかろうが、それとは無関係に、ロシアが排出する二酸化炭素の量は、1990年以降減少した。にもかかわらず、ロシアは、その減少分、所謂ホットエアを排出枠として売れる。日本がロシアから排出枠を購入しても、温室効果の削減には追加的効果もない。ヨーロッパ人たちは、なぜか、このホットエア問題を黙殺した。京都議定書を締結したころ、ヨーロッパにとって、隣国のロシアの経済的混乱は悩みの種だった。もしかすると、ヨーロッパ諸国には、北方領土問題を理由に経済援助を渋る日本からロシアへの資金移転を促そうという政治的意図があったのかもしれない。

もっとも、その後、世界的な燃料費の高騰で、資源大国ロシアの経済状況は好転した。2007年現在、ロシアは金には困っていない。エネルギー大国を目指すロシアが欲しいのは、エネルギー効率を向上させる先端技術である。それゆえ、ロシアは、ホットエアは売らずに、共同実施を受け入れる予定である。ホットエアを売らないことで、炭素クレジットの値を吊り上げ、技術移転を促進しようという作戦なのだろう。

とはいえ、ロシアが期待するような技術革新を共同実施がもたらすかどうかはわからない。追加性要件のおかげで、共同実施もクリーン開発メカニズムも、温室効果ガスの削減だけを目的とするプロジェクトが有利になったからだ。京都議定書第十二条第三項に「附属書Ⅰに掲げる締約国以外の締約国は、認証された排出削減量を生ずる事業活動から利益を得る」とあったが、温室効果ガス削減効果以外の利益が大きければ大きいほど、追加性のない事業だと判断されてしまうからだ。

温室効果ガスの排出量を削減するだけの事業よりも、複合的な利益をもたらす多目的事業の方が、地元住民も喜ぶし、効率的に行うならば、人類全体の利益にもなる。したがって、追加性要件により、後者よりも前者を優遇する現在の仕組みは問題があると言わなければならない。

環境省は、ODA予算を温暖化対策に転用することを目的として、多目的のコベネフィッツ型温暖化対策を提唱している。コベネフィッツ型温暖化対策とは、例えば、次のような事業である。

地方におけるエネルギー供給を図るオプションとして、戸別やコミュニティレベルで農家にバイオダイジェスターによる熱供給システムを導入すれば、石炭や非再生可能バイオマス代替効果によって、燃料購入代金や労働負荷の緩和、屋内大気汚染緩和、良質の液肥が入手できるなど、家庭レベルでの生活向上・生産活動拡大を導くことになり、地域格差の改善・貧困削減という開発ニーズが充足される。また同時に、非再生可能バイオマスからの燃料代替により、温室効果ガスの削減という地球温暖化の緩和とともに、森林減少を防止するという自然環境保全などの便益ももたらされる。[16]

ODA予算を用いてクリーン開発メカニズムを実施しようとする日本の提案は支持されていない。しかし、発展途上国に、数値目標を受け入れてでも参加したいというモチベーションを与えるためにも、そして米国を参加させるためにも、ODA改革という形で、温暖化対策を講じることは必要だと私は考える。最後に、この観点から、私の温暖化対策を提案したい。

3. 新しい制度の提案

京都議定書には、負担の分担が不公平である、離脱にペナルティがない、吸収源を軽視している、多目的事業を不利にするといった欠陥があることを指摘した。最後に、これらの欠陥を克服し、地球温暖化問題を含め、トータルに環境問題を解決する新制度を提案したい。

3.1. 温室効果ガス排出税を導入する

1990年を基準として、恣意的に削減率の目標を決めると、負担の分担が公平ではなくなる。それゆえ、温室効果ガスの排出量全体に、一定割合で課税するという形で、普遍的に規制すべきだ。このように外部不経済の内部化する税のことを、経済学ではピグー税という。ピグー税では、自分が生み出した不経済の分だけ負担するのであるから、明快で、公平であり、外部不経済を効率的に減らすことができる。

この税を導入しても、増えた税収の分、他の課税を減らせば、国民経済全体にダメージを与えることにはならない。多くの国は、所得に課税しているが、こうした取りやすいところから取る方法は、社会政策的に望ましくない。税にはペナルティとしての機能があるから、所得に課税すると、利益を出して社会に貢献しているところがペナルティを受けるということになる。逆に言うと、放漫経営で、赤字を出しているところは、税制上優遇されていることになる。それゆえ、望ましくない結果へのインセンティブを高める税はできるだけ減らし、ペナルティ型のピグー税を増やしたほうがよい。

ピグー税は、地球温暖化だけでなく、大気汚染、水質汚濁など他の環境問題の解決にも役立つ。先進国による途上国への汚染の輸出を防ぎ、環境問題をグローバルに解決するには、こうした各種のピグー税を、先進国のみならず、途上国にも適応すべきである。途上国は、それまで何の制約も受けなかったのであるから、こうした税の導入に反発するかもしれない。それゆえ、ピグー税を拒否する途上国には何らかのサンクションが必要である。一つの案として、離脱した途上国を政府開発援助(ODA=Official Development Assistance)の対象からはずすようにするというのはどうだろうか。逆に、参加する途上国には、政府開発援助を通じて、環境問題の解決以上の利益が受けられるようにすれば、途上国の離脱を防げる。

3.2. 政府開発援助を環境関係に限定する

政府開発援助は、第二次世界大戦後、福祉国家的政策の国際版として登場した。1970年代以降、先進国では福祉国家的政策の見直しが進んだにもかかわらず、政府開発援助は、相変わらず惰性で続けられている。2006年におけるDAC(開発援助委員会)加盟国全体の政府開発援助額は、1000億ドル以上になる[17]。政府開発援助は本当に必要なのか、改めて考え直してみる必要がある。

日本が行う政府開発援助は、ダム建設や道路整備などの経済インフラへの投資に偏っていて、日本企業の海外進出に役立っても、途上国の貧困の根絶には貢献していないという批判がしばしばなされる。たしかに、政府による環境破壊型プロジェクトの推進は、国内でも海外でも時代錯誤的になっていると言ってよいだろう。

では、欧米の先進国が熱心にやっているような、貧困層のための医療・食料・教育への人道的な援助なら必要かといえば、そうでもない。途上国の医療や食料や教育に先進国が金を出せば出すほど、他人の金を当てにして子供を産む人が増える。人口の増加が資源の減少と貧困をもたらし、その貧困を解消すべく、さらに人道的援助がなされるという悪循環のおかげで、途上国の貧困問題は、一向に改善しない。先進国は、人口増加を抑制するためにも、そして地域経済の自立を促すためにも、途上国への人道的援助をやめるべきである。

よって、政府開発援助を正当化する事業としては、環境破壊の防止と修復ぐらいしかない。環境問題は、市場経済だけに任せておいても解決しないので、政府が介入する正当性がある。ただし、環境問題といっても、グローバルな温暖化だけでなく、ローカルな公害も対象にしなければならない。

3.3. 多目的事業を優遇する

例えば、工業プロセスで発生する二酸化炭素を回収・貯蔵する炭素隔離事業のように、温室効果ガスを削減する効果しか持たないプロジェクトは、追加性ゆえに、京都議定書が定めるクリーン開発メカニズムの承認を得やすいが、途上国の人々に歓迎されない。他方で、自分たちの生活を目に見える形で向上させる効果を複合的に持つプロジェクトなら、歓迎される。コベネフィッツ型温暖化対策を講じるには、京都議定書という枠組みよりも、政府開発援助の枠組みで行う方がよい。

もちろん、温室効果ガスを削減する効果しか持たないプロジェクトでも、フロンや亜酸化窒素など、地球温暖化係数の高い温室効果ガスを回収して分解するなど費用対効果が大きいプロジェクトなら、やる価値はある。実際、それらは既に行われている(下の図参照)。だが、そういうおいしいプロジェクトは現在ほとんど残っていない。今後は、再生可能エネルギーの開発など、コベネフィッツ型温暖化対策が中心になるだろう。

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登録済CDM/JIプロジェクトの件数(左軸)と温室効果ガス削減量(右軸)。Source: 三菱総合研究所『先進事例にみる排出権取引ビジネス最前線』工業調査会 (2006/5/1). p. 53.

緑化事業は、クリーン開発メカニズムでは過小評価されていることを前回指摘した。しかしながら、緑化事業は、コベネフィッツ型温暖化対策としてはきわめて有望である。沙漠を緑化すれば、水と栄養の循環を作り出すことで、環境を改善できるし、食料、資材、エネルギーの自給も可能になる。ただし、バイオマスを直接燃やすことは好ましくないので、環境負荷を与えないように、ガス化して利用することが必要になる。この点では、先進国による技術支援が必要である。バイオマスの利用に関しては、また別の機会に詳しく論じたい。

3.4. 米国を参加させる

米国は、途上国に削減義務がないこと米国経済にダメージを与えるということを理由に、京都議定書の批准を拒否した。だが、私の提案した制度では、米国は拒否する理由はない。途上国は先進国と同じピグー税を受け入れる上、米国は世界最大の政府開発援助国であるから、追加的な負担はない。オーストラリアやカナダの賛成も得やすい。

資源問題と環境問題を解決する上で、無駄を省くということはとても重要である。温暖化対策と他の環境対策と途上国支援を別々にやって、資金という希少資源を浪費するのではなくて、無駄を省いて、できるだけ効率的に運用することを心がけなければいけない。

4. 参照情報

4.1. 関連著作

4.2. 注釈一覧

  1. 本稿は、2007年07月22日から08月05日にかけて『連山』で三回にわたって連載した (1)「負担分担の問題」(2)「柔軟性措置の問題」(3)「新しい制度の提案」を一つにまとめ、2021年6月17日に修正を加えた上で再掲したものである。
  2. “1. The Parties included in Annex I shall, individually or jointly, ensure that their aggregate anthropogenic carbon dioxide equivalent emissions of the greenhouse gases listed in Annex A do not exceed their assigned amounts, calculated pursuant to their quantified emission limitation and reduction commitments inscribed in Annex B and in accordance with the provisions of this Article, with a view to reducing their overall emissions of such gases by at least 5 per cent below 1990 levels in the commitment period 2008 to 2012." ― United Nations Framework Convention on Climate Change (UNFCCC). “Kyoto Protocol to the United Nations Framework Convention on Climate Change." 10 Dec 1997; 外務省和訳.
  3. これだけ条件が良いにもかかわらず、オーストラリアは批准を拒否した。なお、各国の一人当たりの二酸化炭素排出量は、[Listof countries by carbon dioxide emissions per capita]のデータによる。
  4. 山口光恒「京都議定書から何を学ぶか」『日経BP』2007年5月24日.
  5. 竹内敬二『地球温暖化の政治学』朝日新聞社 (1998/6/1). p. 151-153.
  6. 『東京新聞』2004年10月8日.
  7. 山口光恒「ポスト京都議定書の枠組み」RIETI (独立行政法人経済産業研究所). 2005/03/03.
  8. Netherlands Environmental Assessment Agency (2007) China now no. 1 in CO2 emissions; USA in second position.
  9. Yahoo!ニュース(Record China)CO2世界最大との報道に反発!「先進国は責任回避せず真摯に反省を」―中国.
  10. “1. For the purpose of meeting its commitments under Article 3, any Party included in Annex I may transfer to, or acquire from, any other such Party emission reduction units resulting from projects aimed at reducing anthropogenic emissions by sources or enhancing anthropogenic removals by sinks of greenhouse gases in any sector of the economy, provided that: (a) Any such project has the approval of the Parties involved; (b) Any such project provides a reduction in emissions by sources, or an enhancement of removals by sinks, that is additional to any that would otherwise occur; " ― United Nations Framework Convention on Climate Change (UNFCCC). “Kyoto Protocol to the United Nations Framework Convention on Climate Change." 10 Dec 1997; 外務省和訳.
  11. “2. The purpose of the clean development mechanism shall be to assist Parties not included in Annex I in achieving sustainable development and in contributing to the ultimate objective of the Convention, and to assist Parties included in Annex I in achieving compliance with their quantified emission limitation and reduction commitments under Article 3. 3. Under the clean development mechanism: (a) Parties not included in Annex I will benefit from project activities resulting in certified emission reductions; and (b) Parties included in Annex I may use the certified emission reductions accruing from such project activities to contribute to compliance with part of their quantified emission limitation and reduction commitments under Article 3, as determined by the Conference of the Parties serving as the meeting of the Parties to this Protocol." ― United Nations Framework Convention on Climate Change (UNFCCC). “Kyoto Protocol to the United Nations Framework Convention on Climate Change." 10 Dec 1997; 外務省和訳.
  12. “The Conference of the Parties shall define the relevant principles, modalities, rules and guidelines, in particular for verification, reporting and accountability for emissions trading. The Parties included in Annex B may participate in emissions trading for the purposes of fulfilling their commitments under Article 3. Any such trading shall be supplemental to domestic actions for the purpose of meeting quantified emission limitation and reduction commitments under that Article." ― United Nations Framework Convention on Climate Change (UNFCCC). “Kyoto Protocol to the United Nations Framework Convention on Climate Change." 10 Dec 1997; 外務省和訳.
  13. 小林紀之『地球温暖化と森林ビジネス―「地球益」をめざして』日本林業調査会; 第3版 (2005/8/30). p. 112.
  14. “3. The net changes in greenhouse gas emissions by sources and removals by sinks resulting from direct human-induced land-use change and forestry activities, limited to afforestation, reforestation and deforestation since 1990, measured as verifiable changes in carbon stocks in each commitment period, shall be used to meet the commitments under this Article of each Party included in Annex I." ― United Nations Framework Convention on Climate Change (UNFCCC). “Kyoto Protocol to the United Nations Framework Convention on Climate Change." 10 Dec 1997; 外務省和訳.
  15. 大串卓矢『なるほど図解 排出権のしくみ』中央経済社 (2006/10/5). p. 67.
  16. 環境省「開発途上国の開発ニーズ志向のコベネフィッツ型温暖化対策・CDMの実現に向けて」平成19年5月30日.
  17. 外務省「2006年におけるDAC諸国の政府開発援助(ODA)実績(暫定値)」2007/04/05.