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文明を持続可能にするための提案

2007年8月26日

1987年のブルントラント報告「私たちの共通の未来」以降、持続可能性(sustainability)は、人類が行う開発のエコロジカルな持続可能性を指す概念として頻繁に使われるようになった[1]。その背景には、産業革命以降、人類の開発は加速度的に進んだために、その持続可能性が疑問視されるようになったことがある。では、人類文明を持続可能にするには、どうすればよいのか。このページでは、そのための方策として、(1)人口増加の抑制、(2)植生の維持と回復、(3)再生可能エネルギーの利用の三つを提案したい。[2]

Image by Gerd Altmann.

1. 人口増加の抑制

1.1. 現代の資源問題と環境問題の根本原因

現代における資源の枯渇リスクの増大と環境汚染の深刻化は、根本的には、産業革命以後増大したエネルギー消費によってもたらされている。以下のグラフを見ると、とりわけ20世紀後半以降に急激に増大していることがわかる。

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急増する世界のエネルギー消費量。バイオマス・エネルギーは横ばいだが、産業革命以降、化石燃料の消費が急増している。Source: HYDROPOLE. Data from Jean-Marie Martin-Amouroux, IEPE, Grenoble, France, private communication (2003) BP Statistical Review of World Energy 2004.

エネルギー消費量は、人口と一人当たりのエネルギー消費量によって決まるのであるから、エネルギー消費量を減らそうと思えば、このうちのどちらか、または両方を減らさなければならない。

一人当たりのエネルギー消費量は、技術革新によりエネルギー効率を高めるなど、生活の質を下げることなく、ある程度までは下げられる。エネルギーの消費が生み出す高エントロピー廃棄物が環境に与える負荷を最小にする上でも技術革新は重要な役割を果たす。技術革新が、資源・環境問題の解決に必要であることは言うまでもない。だが、技術革新に過剰な期待を持つことは禁物である。特に、エネルギー消費の総量を減らそうと思えば、人口を減らさなければならない。

以下のグラフが示すように、世界の人口は、産業革命以降、爆発的に増えている。技術革新による生産力の増大と医療の発達による平均寿命の延びが、多産多死社会を多産少死社会にした。この人口爆発が持続可能でないことは明らかである。資源問題と環境問題を解決する上で、最初に必要なことは、多産少死社会を少産少死社会にすることである。

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20世紀以降、爆発的に増加した世界人口。Source: 国連人口基金東京事務所「世界人口推移グラフ[3]

1.2. 改善しつつある人口問題

幸いにして、人口増加率は、1960年代後半以降減少している。1970年代以降、先進国では、少子化が顕著に進んでおり、日本でも、1973年をピークに、新生児数や合計特殊出生率が下がりだした。

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世界の人口増加率の変遷。1960年前後に大きく落ち込んでいるのは、1958年から始まった毛沢東の大躍進政策の影響である。[4]

世界人口の増加数も1990年以降減り続けている。下の図には、世界人口のグラフも赤線で書き込まれているが、このまま順調に人口増加数が減り続ければ、世界人口は、S字型のロジスティック曲線を描いて、人口増加を停止させるだろう。

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世界人口の毎年の増加数(棒グラフ,目盛りは左軸,単位は百万人)と世界の人口(赤の曲線,目盛りは右軸,単位は十億人)[5]

1.3. 知識集約的経済は人口を減らす

世界の人口増加率が減少しているのはなぜだろうか。通常のロジスティック・モデルは、生物の個体数が環境収容力に近づくことが、個体数の増加に歯止めをかけると説明する。しかし、現在の世界の人口増加は、餓死者の増加によってというよりも、むしろ餓死とは無縁の先進国における出生率の低下によって抑制されている。では、先進国で出生率が下がっている原因は何か。

日本の夫婦は、教育コストの高さゆえに、子供をあまり産みたがらない。韓国、台湾、香港、シンガポールといった教育熱心な東アジア諸国でも事情は同じで、これらの国々の合計特殊出生率は、日本よりも低い。低学歴社会の発展途上国では、子供は、早い段階で労働力として使われるので、子だくさんに経済的メリットがあるが、高学歴社会の先進国では、子だくさんはむしろ経済的デメリットである。ゆえに、社会の高学歴化は、人口減少をもたらす効果を持つ。

また、高学歴社会では、就学期間の長さゆえに、晩婚化が進む傾向がある。女性の場合、生殖能力がある期間は限られているので、晩婚化は合計特殊出生率を下げることになる。世界的に見て、女性の教育水準と合計特殊出生率との間には、負の相関があることがわかっている。以下の図を見ても、学歴が高くなるにつれて、合計特殊出生率(total fertility rate)が下がる傾向があることがわかる。

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7つの発展途上国における女性の教育と家族の規模の関係。各国の左の棒グラフは、学歴なし、中央の棒グラフは、初等教育修了、右の棒グラフは中等教育修了の女性の合計特殊出生率。Source: Center for Global Geography Education. “Population Module." Lesson 3.

教育は性欲を学問や芸術に昇華させる。平均的なIQのティーンエイジャーよりもIQの高いティーンエイジャーのほうが、セックスやキスをしないという調査結果[6]から判断しても、知的活動は性的活動を抑制する傾向があるといってよいだろう。先進国のように情報産業が発達している社会では、娯楽が多様化するので、性的関心は相対的に低下する。また、日本の萌えオタクのように、性欲をバーチャルな対象で満足させてしまう人々も増えている。今後、世界的に、リアルな世界に遺伝子(gene)を残すよりも、バーチャルな世界に文化的遺伝子(meme)を残すことに熱心な人々が増えるだろう。

こうした様々な原因で、低学歴社会から高学歴社会への、労働集約的経済や資本集約的経済から知識集約的経済への移行は、出生数を減らす。人類が特に意図したわけでもないのに、自然と人口問題は解決しつつある。まるで自然の摂理が働いているかのようだ。先進国の中には、少子化に危機感を抱いて、様々な少子化対策をしているところもあるが、人口増加が人類の絶滅の危機を高めていることを考えるならば、少子化をむしろ逆に促進すべきである。

1.4. 人口を減らすための政策

人口の削減は、温室効果ガスの削減と似ている。全体の削減にはみんな賛成するのだが、自分のところの削減となると抵抗が出てくる。とはいえ、人類全体の利益を優先させて考えるならば、各国ともエゴを主張しているわけにはいかない。私は、温暖化対策として、温室効果ガスの排出にピグー税を課すことを提案したが、ここでは、「子供の排出」にピグー税を課すことを提案したい。

具体的には、結婚する前に、養育保険への加入を義務付け、多額の保険料を支払うことを制度化する。未婚で出産する時も、同様の義務を負うものとする。この制度を世界的に普及させれば、経済的理由から出産を断念する人が増えるので、人口増加を抑制できる。

また、結婚後、親が、病気や破産などの理由で、子の養育ができなくなっても、保険金により、子は十分な教育を受けられる。それゆえ、この制度は、教育水準の低い労働者を増やすことを阻止する。

発展途上国は、これまで、教育水準の低い労働者を大量に生み出してきた。しかし、世界的に産業のオートメーション化が進んでいるので、今後の労働市場で重要になるのは、人材の量ではなくて質であろう。子供の数を減らしつつも、一人当たりの教育投資を増やす養育保険制度は、知識集約的経済の時代にふさわしい人口増加抑制制度だと思う。

私は、このページの最初で、資源・環境問題の解決には、技術革新と人口増加の抑制の二つが必要だと言ったが、どちらも知識集約的経済が解決してくれる課題だ。一人当たりの教育投資が増えれば、優れた技術者の数も増えるだろうし、それだけ技術革新も促進されるだろう。

少子化を危惧している人たちは、少子化が進むと、生産年齢人口に対して非生産年齢人口である高齢人口が増え、経済が停滞するという問題を指摘するが、この問題も知識集約的経済が解決してくれる。人間の肉体的能力は、年とともに急速に衰えるが、知的能力は、加齢によっては容易に衰えない。知識集約的経済では、高齢者が知的労働を続けるので、高齢者の割合の増加が若年層の負担を増やすことはない。日本もそろそろ定年制を廃止してはどうだろうか。

2. 砂漠の再緑化

地球の砂漠化は、おそらく最も深刻な環境問題だろう。過去の多くの文明は、森林伐採と土地の酷使によって滅んだ。現代文明が滅びないようにするには、持続可能な農業の方法を確立しなければならない。

2.1. 砂漠化はいかにして起きるのか

産業革命以降の急激な人口爆発により増大した農作物と家畜への需要を満たすべく、近代人は、森林を切り開き、農地や放牧地を作ってきた。以下の図は、米国に限定されているが、近代文明の発展が原生林を消滅させる様子を描いている。

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1620年(左上)、1850年(左下)、1920年(右上)、現在(右下)の米国における原生林の分布[7]

左上の、1620年の図は、イギリスのメイフラワー号がプリマスに到着した時の原生林の分布を示している。当時のアメリカ大陸東部は、うっそうとした原生林で覆われていた。しかし、やがて原生林は、ヨーロッパから来た移民によって蚕食され、現在では、ほとんど残っていない。この地図には描かれていないが、現在は、再植林による人工林が増えつつある。もとより、現在の森林被覆率は1620年の水準には及ばない。

原生林が開墾され、農地や牧草地に転換されても、植被が減るわけではないから、問題はないと思うかもしれない。確かに、木でも草でも植物であることには変わりがない。それでも、木と比べると、草のほうが、蒸散の量と規模が小さいので、水の循環を作り出す機能が弱い。もちろん、農地であれ、放牧地であれ、持続可能ならよいのだが、実際には、農地や放牧地が砂漠化するという現象が頻発している。砂漠化のメカニズムは、以下のとおりである。

放牧地が砂漠になる過程

生産性を高めようと、家畜の数を増やすと、家畜が牧草を食べ過ぎて、牧場が持続不可能になる。また、放牧地では、家畜が行き来するので、家畜の踏圧により、土壌が硬くなる。その結果、降雨が地下に浸透せずに、地表層に貯まり、蒸発しやすくなり、植物の根圏土壌水分環境を悪化させ、植生の再生伸長を妨げる。そして、植被が後退すると、風食や水食により表層土壌が失われ、恒久的な砂漠になる。

農地が砂漠になる過程

天然の草木は、菌根菌や根粒菌といった共生菌のおかげで、わずかな栄養とわずかな水分で生きていける。ところが、近代農業は、商品価値の高い作物を作ろうとして、大量の殺虫剤や除草剤を散布して、土中有用微生物を殺してしまう。その結果、植物は、土中の栄養分や水分を吸収する能力を大幅に失う。そのため、化学肥料の散布と灌漑が必要になるが、大量の肥料と水の投与は、塩類集積をもたらし、作物を枯らすことになる。そして、植被が後退すると、風食や水食により表層土壌が失われ、恒久的な砂漠になる。

2.2. 砂漠化にはどのような問題があるのか

現在、世界の砂漠は、毎年6万平方キロメートルのスピードで広がっている。植物は、食料、建築資材、衣類原料など、人類にとって有益な資源を提供するのみならず、水と気温を調整するなどエコロジカルにも重要な役割を果たしているのであるから、植被の後退としての砂漠化が人類にとって好ましくないことは言うまでもない。

植物が二酸化炭素の吸収源としても機能していることは広く知られているが、生きている間に、植物本体にのみならず、土壌にまで炭素を蓄積させることはあまり知られていない。そこで、京都議定書は、植林に仮のクレジットしか認めない。だが、植物による土壌への炭素隔離、長期にわたる温暖化防止策として、近年注目されている。

植物は、二酸化炭素吸収源として機能している。炭素が、二酸化炭素として直ぐに大気中に放出されるのではなく、植物、土壌あるいは海洋に貯蔵されることを「隔離」という。地球上の炭素の収支バランスを保つために、我々は炭素の隔離を増やし、炭素の大気中への排出を減らす必要がある。炭素が土壌あるいはバイオマス(一定の空間に存在する動植物と有機物全部)の内外で循環しうる一方で、いわゆる土壌の「腐植」物質(有機物としても知られる)を増加させる方法がある。この腐植物質は、炭素を安定した炭素化合物として何千年もの間存続させられる。

森林や草原が農地に切り替わる以前は、土壌有機物は土壌質量の約6-10%を占め、今日の通常の農耕システムにおける1-3%の水準をはるかに上回っていた。世界中で自然の草原や森林が農地に切り替わることで、大気中二酸化炭素濃度は著しく増加した。我々は、森林や農地をもっと肥沃にして土壌有機物を増やすことによって、この過剰な大気中の二酸化炭素を捕らえ、より自然な地形を維持できる。[8]

土壌中に最も大量に炭素を固定しているのは、菌根菌である。菌根菌は、植物に、リン酸を代表とする無機栄養と水分を与える代わりに、植物から有機物を受け取る形で、植物と共生している。この共生関係は、植物が陸上に進出した4億年前から続いている[9]。近代以降、人類は、農薬をまくことで、菌根菌を殺し、4億年間続いてきた共生関係を破壊しつつある。

2.3. どうすれば砂漠を再緑化できるか

土壌の炭素固定能力を回復させるためには、菌根菌を生かした有機農業を復活させなければいけない。有機農業とは何かに関しては、様々な議論があるが、米国農務省は、「合成殺虫剤を使わない生産を重視する農業生産の概念と実践。[10]」と定義している。しかし、合成殺虫剤の不使用だけでは、不十分である。有機農業の定義には、除草剤や化学肥料の不使用までが必要である。有機農業では、害虫の駆除や雑草の除去には、化学農薬ではなくて、生物農薬が使用され、肥料は、化学肥料ではなくて、堆肥などの有機肥料が使われる。

もとより、生物農薬や有機肥料だからといって、安全で環境によいとは限らない。生態系を破壊するような生物農薬は使うべきではないし、有機肥料も必要最小限にしなければならない。肥料を過剰に与えると、余剰窒素を求めて虫や病原菌が湧く。肥料を必要最小限にすると、虫や病原菌が湧かなくなるので、農薬の使用も減らせる。

この考えをさらに推し進めて、化学農薬や化学肥料だけでなく、農薬と肥料を一切使わずに作物を育てる無肥料栽培を推奨する人々がいる[11]が、無機栄養分は、植物によって摂取されたり、水に流されたりするので、新たに補給されなければ、徐々に減っていって、最終的には、土壌は作物を育てられなくなる。

日本で農業するには、あまり肥料は必要ないかもしれないが、砂漠や荒地など、栄養の乏しい土地を緑化するには、施肥は不可欠である。化学肥料は、リン鉱石から作られるが、リン鉱石は枯渇しつつあるので、化学肥料を用いた農業は持続可能ではない。家畜の糞尿を肥料として使うという方法もあるが、これだと海から陸への栄養の循環を作ることはできない。また、家畜の放牧自体が砂漠化をもたらしていることを考えるならば、家畜への依存度を高めることも好ましくはない。陸上動物ではなくて、水中動物の肉を食べ、そして、人糞を発酵させて肥料にし、有機農業により陸地に還元することが、砂漠の緑化にとって必要である。

3. 再生可能なエネルギー

人類の文明を、何千年、何万年と持続させるためには、再生可能なエネルギー源による循環型社会を構築しなければならない。再生可能なエネルギーには多くの候補があるが、主力となるのは、バイオマスであろう。

3.1. 持続可能な文明のエネルギー源

人間は、この地球に誕生して以来、現代に至るまで、バイオマスを主なエネルギー源にしている。つまり、人間は、植物が、太陽エネルギーを利用して作った低エントロピー資源に依存している。バイオマスという言葉は、化石燃料を含まない狭い意味で使われることもあるが、ここでは、化石燃料を含めた、生物起源の有機物という広い意味で使うことにしたい。

私たちが、体内用エネルギー源として、バイオマスに依存していることは言うまでもない。私たちが食べる食物には、植物起源のものもあれば、動物起源のものもあるが、後者の資源価値は、前者の資源価値に由来する。人間のみならず一般的に生物は、食物を高熱源として、水を低熱源として利用し、自らのエントロピーを縮減することで生きている。

私たち人間は、体外用エネルギー源としても、主として、バイオマスに依存してきた。時代とともに、主流が、木材、石炭、石油、天然ガスと変化してきたものの、その資源価値のほとんどは、植物に由来するといってよい。そして、人類文明は、バイオマス燃料を高熱源として、水や空気を低熱源として利用し、自らのエントロピーを縮減することで存続している。

もちろん、人類の文明は、植物による光合成にのみ依拠しているわけではない。人類は、産業革命以前から、水車や風車などにより、水力や風力を使うこともあったが、それらはエネルギー供給の主流にはならなかった。今日、風力エネルギー、水力エネルギー(非塞き止め型)、太陽エネルギー、地熱エネルギー、海洋エネルギーなど、様々な再生可能エネルギーの利用が試みられているが、これらは、需要とは無関係に電力を供給するので、バイオマス発電で出力を調整しなければならない。

ところで、再生可能エネルギーというと、通常は、化石燃料は除外されている。しかし、これはおかしな話だ。石油にせよ、石炭にせよ、天然ガスにせよ、化石バイオマスは、現在も新たに自然に作られている。ただ、人類がその100倍以上の量を消費しているから、生産が消費に追いつかないだけだ。そして、これと同じことは、現役バイオマスについても当てはまる。人間が、現在のエネルギーの消費量を変化させずに、化石バイオマスの代わりに現役バイオマスを消費すれば、やはり、生産が消費に追いつかなくなって、現役バイオマスは枯渇する。

バイオマスは、カーボン・ニュートラルだが、化石燃料はそうではないといったこともしばしば耳にする。しかし、現役バイオマスならカーボン・ニュートラルで、化石バイオマスならカーボン・ポジティブとは限らない。カーボン・ニュートラルであるのは、大気中に放出される炭素と、大気中から取り入れられる炭素の量が均衡している時に限る。現役バイオマスであれ、化石バイオマスであれ、生産以上に消費すれば、大気中の二酸化炭素濃度は上昇する。もとより、現役バイオマスのうち、化石バイオマスになるのは一部で、残りは分解されて、二酸化炭素を放出するから、現役の時に燃料として利用した方が、二酸化炭素放出量は少なくてすむ。

カーボン・ニュートラルでかつ持続可能なバイオマスの消費を続けようと思えば、人類のバイオマス・エネルギー消費量を、植物による生産量の水準まで減らさなければいけない。風力エネルギー、水力エネルギー、太陽エネルギー、地熱エネルギー、海洋エネルギーなど、他の再生可能エネルギーを利用したとしても、その量はたかがしれている。私は、このシリーズの初回で、世界人口の削減の必要性を強調したが、それは、現在の世界人口を再生可能エネルギーだけで養うことは、将来の技術革新を考慮しても、不可能と考えるからだ。

おそらく、多くの人は、このような禁欲的な提案に賛成しないだろう。「自然エネルギーに頼るなどという原始的なことはやめて、新エネルギーの本命である核融合エネルギーを実用化して、無尽蔵のエネルギーを使えるようにすべきだ」と反論する人がいるにちがいない。しかし、仮に将来、核融合エネルギーの利用が実用化して、エネルギー問題が解決したとしても、核融合炉は食料を生産しないのであるから、人口が増え続ければ、食糧危機が起きるだろう。一方で、農業技術が進歩を遂げてはいるが、他方で、砂漠化が進行しており、今後とも増大する食糧需給を満たし続けられるかどうかはきわめて不透明である。

私たちは、今一度、人類の進歩とは何かという根本的な問いを問い返さなければならない。人類の進歩は、科学・技術・文化といった情報システムの質的向上であって、人口増加のような物質システムの量的増大ではない。私たちの目標は、現実空間に生物遺伝子を残すことから仮想空間に情報遺伝子を残すことに変わるだろう。もちろん、人口が多いほうが、優れた人物も多く現れるのだろう。しかし、教育水準の低い国の人口増加は人類の進歩に寄与しそうにない。出生数を減らしても、一人当たりの教育投資を増やせば、人材の量的減少による質的低下を防げる。文明を持続可能にするには、文明の規模を自然の許容度の範囲内に収める必要がある。

3.2. バイオマス・エネルギーの利用方法

バイオマスは、今後とも、循環型社会を構築しようとする人類にとって、体内用エネルギー源としてはもちろんのこと、体外用エネルギー源としても、また各種の資材資源としても、重要な役割を果たすだろう。ここでは、体外用エネルギー源としてのバイオマス資源の活用方法について考えてみたい。

バイオマス・エネルギーの利用方法はいろいろあるが、エネルギーを取り出す方法という観点からすると、以下の表のように分類できる。

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バイオマス・エネルギーの利用方法。Source: 井熊均『図解でわかる京都議定書で加速されるエネルギービジネス』日刊工業新聞社 (2006/2/1). p. 101.

このうち、一番上の燃焼は、最も古くから行われているバイオマスの利用方法で、木炭、石炭、石油、天然ガスといったバイオマスの従来の利用方法は、これである。技術的に容易である反面、窒素酸化物や硫黄酸化物といった有害物を放出し、大気を汚染するという欠点がある。

近年の原油価格の高騰のおかげで、バイオディーゼルやバイオエタノールが代替燃料として注目されるようになった。バイオディーゼルは、生物起源の油脂をメチルエステル化し、水分、グリセリン、メタノールを除去することで作られるディーゼル自動車用燃料で、軽油の代替として使える。バイオエタノールは、サトウキビやトウモロコシなどのバイオマスを発酵させ、蒸留して生産されるエタノールで、ガソリンに混入して使える。

バイオディーゼルやバイオエタノールのエネルギー収支が黒字であることを疑う人も多い。Pimentel と Patzek によると、トウモロコシからバイオエタノールを生産するには、それよりも29%多い化石燃料のエネルギーを消費しなければならず、大豆からバイオディーゼルを生産するには、それよりも27%多い化石燃料のエネルギーを消費しなければならない[12]

しかし、その後行われた検証によると、彼らは、エタノールの副生成物を入力エネルギーに換算したり、古いデータを使うなどして、バイオ燃料のエネルギー収支を過小評価しているとのことである[13]。多くの研究者は、バイオ燃料のエネルギー収支が黒字であると評価している。農薬や肥料に使うエネルギーを減らせば、黒字幅をもっと拡大できる。

バイオディーゼルとバイオエタノールは、どちらも、既存の自動車インフラをそのまま使えることから、原油価格の高騰に即座に対応できるというメリットをもつ反面、化石燃料ほどではないにしても、燃焼時に窒素酸化物や硫黄酸化物といった有害物を放出するデメリットを持つ。このため、バイオマスから、ガス化または発酵により、水素、メタン、一酸化炭素を取り出し、それを燃料電池の燃料として利用し、発電する方法が研究されている。有害物質を燃料生産時に取り除けば、消費時には、水と二酸化炭素しか出さない。

3.3. 二酸化炭素問題にどう対処するか

バイオマス・エネルギーの消費は、二酸化炭素を排出し、地球温暖化をもたらす点が問題視されている。そこで、バイオマスの燃焼によって排出される二酸化炭素を回収し、地中の帯水層や油田や深海底などに封入する二酸化炭素隔離の様々なプロジェクトが検討されている。だが、わざわざエネルギーを使って、毒物ではない二酸化炭素をあたかも毒物であるかのように隔離する方法には賛成しかねる。

循環型社会の理念からすれば、二酸化炭素として排出される炭素は、元の形態に戻して隔離する方法が望ましい。人間は、バイオマスの燃焼とセメントの製造により大気中の二酸化炭素濃度を上昇させている。したがって、炭素は、バイオマスおよびセメントの原料である石灰石(炭酸カルシウム)に戻すことで貯蔵する方法を優先すべきである。

バイオマスの燃焼で生じた二酸化炭素は、光合成の材料となることで、再び、バイオマス化される。温室栽培で、これを人為的に早める方法が考案されている。バイオマス発電所に温室を併設し、発電で生じた廃熱と二酸化炭素を温室に送り込む方法は、電気と熱と二酸化炭素の三者が有効に利用されることから、日本では、トリジェネレーションと呼ばれている。スイカやメロンなど、光合成産物を貯蔵するシンク器官のある植物の場合、高濃度二酸化炭素環境による施肥効果が顕著に現れる。

二酸化炭素をセメントのリサイクルに活用する案も出されている。使用済みのセメントは強度が弱くて、そのまま再利用すると品質上の問題を起こす。そこで、飯塚淳氏は、廃コンクリートから再生骨材を製造する際に廃棄物として排出される廃セメント微粉末に、二酸化炭素を高圧で供給して、炭酸によってカルシウムを抽出し、これにより廃セメントからセメント原料となる炭酸カルシウムを生産する方法を提案している[14]

二酸化炭素の固定化を長期化させるために、木造家屋の建設を優遇する政策も有効だ。木材で建築物を作るのは、日本の伝統なのだが、最近では、コンクリートの建築物に取って代わられつつある。コンクリートの代わりに木材を使えば、木材内の炭素を長期間にわたって貯蔵できるのみならず、セメントを節約することで、二酸化炭素の発生を減らせる。家屋を取り崩す時は、廃材をバイオ燃料として使うことで、化石バイオマスの燃焼を削減できる。

4. 結論

最後に全体をまとめることにしよう。

  1. 人類文明を何千年、何万年と持続できるようにするには、近代になって爆発的に増えた人口を削減しなければならない。今後、世界経済のオートメーション化が進むことで、単純労働者は不要になる。したがって、現在の先進国で起きている、経済の知識集約化による少子化の流れを世界全体に広げる必要がある。
  2. 砂漠化を阻止し、再緑化するためには、人口を減らすだけでなく、農薬漬け、肥料漬け、灌漑水漬けの近代農業を見直し、菌根菌を活用した有機農業を行う必要がある。また、砂漠化の直接的な原因となっている放牧を減らし、陸棲動物の代わりに水棲動物を食べ、排泄物を陸上に還元することで、栄養の循環を作り上げるべきである。
  3. 人口を減らし、緑化に成功するならば、豊富になった現役バイオマス資源を、体内用エネルギー源としてのみならず、体外用エネルギー源として活用できるようになる。植物による生産と動物による消費が均衡すれば、二酸化炭素問題も解決する。人類文明は、植物による扶養能力を超えないなら、持続可能になる。

もしも人類文明が、何千年、何万年と持続するならば、宇宙移民も夢ではなくなるだろう。そうした夢を実現するためには、まずは、目先にある、資源問題と環境問題を解決しなければならない。

5. 参照

関連著作
注釈一覧
  1. “Sustainable development is development that meets the needs of the present without compromising the ability of future generations to meet their own needs.” ― United Nations General Assembly. “Report of the World Commission on Environment and Development: Our Common Future“. Chapter 2: Towards Sustainable Development; Paragraph 1. Transmitted to the General Assembly as an Annex to document A/42/427 – Development and International Co-operation: Environment; United Nations General Assembly (March 20, 1987).
  2. 本稿は、2007年08月12日から26日にかけて『連山』で三回にわたって連載した (1)「人口増加の抑制」(2)「沙漠の再緑化」(3)「再生可能なエネルギー」を一つにまとめ、2021年6月16日に修正を加えた上で再掲したものである。
  3. Data from The United Nations. World Population Prospects: The 2004 Revision 2005; The United Nations. The World at Six Billion 1999.
  4. U.S. Census Bureau. “World Population Growth Rates". International Data Base, July 2007 version.
  5. U.S. Census Bureau. “Historical Estimates of World Population." Data from United Nations (1999) The World at Six Billion.
  6. Halpern, Carolyn Tucker, Kara Joyner, J. Richard Udry, and Chirayath Suchindran. “Smart Teens Don’t Have Sex (or Kiss Much Either).” Journal of Adolescent Health 26, no. 3 (March 2000): 213–25.
  7. Source of 1620, 1850, and 1920 maps: William B. Greeley, The Relation of Geography to Timber Supply, Economic Geography, 1925, vol. 1, p. 1-11. Source of TODAY map: compiled by George Draffan from roadless area map in The Big Outside: A Descriptive Inventory of the Big Wilderness Areas of the United States, by Dave Foreman and Howie Wolke (Harmony Books, 1992).
  8. New Farm Field Trials (2003) Organic farming sequesters atmospheric carbon and nutrients in soils – White paper, organic farming sequesters atmospheric carbon.
  9. Taylor, T. N., W. Remy, H. Hass, and H. Kerp. “Fossil Arbuscular Mycorrhizae from the Early Devonian.” Mycologia 87, no. 4 (July 1995): 560–73.
  10. United States Department of Agriculture. “Glossary of Biotechnology Terms“. Last Updated: 03/18/2009.
  11. 農文協『現代農業 土壌肥料特集~今、話題の無肥料栽培とは~』農文協. 2005年10月号.
  12. Pimentel, David, and Tad W. Patzek. “Ethanol Production Using Corn, Switchgrass, and Wood; Biodiesel Production Using Soybean and Sunflower.” Natural Resources Research 14, no. 1 (March 1, 2005): 65–76.
  13. Farrell, Alexander E., Richard J. Plevin, Brian T. Turner, Andrew D. Jones, Michael O’Hare, and Daniel M. Kammen. “Ethanol Can Contribute to Energy and Environmental Goals.” Science 311, no. 5760 (January 27, 2006): 506–8.
  14. 飯塚淳 (2002) 廃セメントを用いた二酸化炭素排出量削減プロセス」Tokyo University, Department of Environment systems.