原子力発電に将来性はあるか
原子力発電とは、核分裂や核融合といった原子核反応時に出るエネルギーを利用した発電の総称で、現在商用化されている原子力発電は、核分裂から発生する熱エネルギーで、蒸気タービンを回し発電している。原油価格の上昇や地球温暖化問題への関心の高まりを背景に、原子力発電が再び脚光を浴びるようになったが、果たして、原子力発電は、エネルギー問題を解決する上で有効な手段となりうるだろうか。[1]

1. 原子力発電の問題点
原子力発電は、二酸化炭素を排出しないクリーンなエネルギーとして注目を浴びている。
原子力発電は、ウラン燃料の製造や発電所の建設においてCO2を排出しますが、運転中にはCO2を排出しないので、発電電力量あたりのCO2排出量は、ほかの電源と比べて少ないとの結論が得られています。原子力が電力供給のトータルシステムとして、温暖化抑制に優れた電源の一つであることが証明されているわけです。[2]
原子力発電が、運転中に二酸化炭素を出さないというのは、厳密には正しくない。原子力発電は、核分裂によって生じた熱エネルギーの三分の二を廃熱として捨てているのだが、その廃熱は、取水時よりも7度ほど高い温排水として海に流される。水の温度が上昇すると、コカコーラを温めた時と同様に、水に溶けている二酸化炭素が大気中に放出される。温排水の量は、発電容量100万kWに対し、火力発電で毎秒40立方メートル程度だが、原子力発電では70立方メートル程度である[3]。
もちろん、空冷式の原子力発電もあるが、これはこれで、ヒートアイランド現象の原因になる。そこで、熱汚染の問題を解決するために、原子力発電でコージェネレーションを行うことが考案されている。フランスでは、原子力発電の廃熱を使った温室栽培が行われていて、日本でも、温排水を使った養殖が試みられているが、いずれにせよ、マイクロガスタービンや燃料電池発電と比べると、利用範囲は限られている。
原子力発電は、使用する燃料が極端に少なくて済み、経済性が高いと言われるが、初期コストやバックエンドコストを含めて、本当に安くつくかどうか、疑わしい。2005年6月に原子力資料情報室が公益事業学会で発表した試算によれば、原子力発電のコストは、火力発電のコストよりも高い。
運転年数40 年の場合、最も安いのはLNG で4.88 円/kWh、続いて石炭の4.93円 /kWhとなり、その次に原子力発電の5.73円/kWhという結果になった。原子力発電のLNG との差は1円/kWh近くにもなっている。この差はさらに、法定耐用年数での試算結果では大きくなっていることも分かった。[4]
本当に原子力発電のコストが安いならば、電力自由化は追い風のはずだが、むしろ電力を自由化することで、原子力発電は存続が困難になるのではないかという見解が強い。
電力自由化によって投資家の見る眼が以前に比して厳しくなり、各電力会社とも、投資規模が大きく、投資の回収に長期間が必要であるなど、リスクの大きい大規模電源の投資には慎重にならざるを得なくなっている。
自由化に伴い、各電力会社の需要が想定外に他事業者に離脱する可能性が増したことにより、大規模電源をもつリスクが高まった。
自由化により、電力各社は競合関係におかれることとなり、需要の伸びや必要な時期等が異なる電力会社間での共同開発や広域運用の調整は、以前よりも困難になりつつある。[5]
原子力発電が敬遠されるのは、必ずしも、投資規模が大きく、投資の回収に長期間が必要であるからではない。
例えば、すべての投資家が10年以内に収益を確保したいと願っていると仮定しよう。その場合でも、今から50年後に消費者に売れて利益をもたらす商品は、40年後に資産として転売が可能であるから、それを考えれば、30年後にも資産として転売が可能であるから …… というように、期待の期待の期待の …… を続けていくことで、50年後にしか売れない商品でも、今すぐ資産として売ることができる。[6]
原発推進派が電力自由化に反対しているのは、彼らが主張するほど原子力発電のコストが安くないからだろう。
2. 高速増殖炉
原子力発電は、化石燃料の枯渇への対策としても役に立たない。燃料となるウラン235は、天然ウランの中に0.7%しか含まれておらず、石油や天然ガスとほぼ同じ時期に枯渇すると言われている。ウランには核分裂するウラン235と、ほとんど核分裂しないウラン238があり、豊富な後者を利用する方法として、高速増殖炉での核燃料サイクルが提案されている。
現在日本で運転されている原子力発電所はすべて軽水炉である。軽水炉では、減速材を用いて、高速中性子のエネルギーを落とし、高速中性子を熱中性子に変え、そして、熱中性子でウラン235を核分裂させ、熱エネルギーを取り出している。他方、高速増殖炉では減速材を用いずに、高速中性子でプルトニウム239を核分裂させ、それによって発生する高速中性子をウラン238に当て、プルトニウム239へと転換することで、エネルギーを取り出しながら、同時に燃料を増殖させる。
軽水炉において冷却材として使用されている軽水(普通の水)は、中性子の減速材として機能してしまうために、高速増殖炉では使えない。代わりに、金属ナトリウムを使用しているのだが、金属ナトリウムは水と激しく反応して水素を発生するので、管理が難しい。高速増殖炉のもんじゅが金属ナトリウム漏洩事故を起こしたことは、記憶に新しい。海外でも、高速増殖炉原型炉は、事故を起こしたり、経済性に問題があったりして、閉鎖されるところが多い。
プルトニウム239はウラン235よりも放射能が強く、化学的にも非常に毒性が強い。また、プルトニウムは核兵器の燃料でもあることから、軍事転用のリスクといった政治的問題もある。高速増殖炉は有望な選択肢ではない。
3. 溶融塩炉
安全で経済的な原子炉として最近注目を浴びている次世代原子力発電の担い手にトリウム溶融塩炉がある。トリウム溶融塩炉とは、溶融塩、特にフッ化物溶融塩(LiF-BeF2)に核燃料物質であるトリウムのフッ化物を溶解させ、それを、核反応・熱輸送・化学処理に利用する核分裂炉である。トリウム溶融塩炉には以下のような長所がある。
- 燃料のトリウムは、資源量が豊富で、かつ地理的に偏っていない場所から採掘される。
- 経済性を損なうことなく、小型化が可能である。熱効率が高く、廃熱は、軽水炉の半分ぐらいである。
- 燃料が固体ではなくて、液体であるため、成形加工が不要である、核燃料物質の補給や核分裂生成物の除去を連続的に行える、燃料被覆管の照射損傷や燃料破損がない、再処理施設が不要である。
- 燃料塩が1次系を循環する間に核分裂生成物が容易に分離除去できるため、放射能残量を減らして、事故時の施設外部への放射能流出の危険性を最小限にすることができる。
- 燃料塩の沸点は通常運転温度に比べ十分高く、また蒸気圧も低いため、一次系の圧力の異常な上昇はない。燃料塩の圧力は、5気圧程度で低く、1次系の構造材を薄くでき、溶融塩の漏洩や、系の破壊といった高圧に伴う事故の危険性がない。
- 1次、2次系塩ともに化学的に安定であり、空気・水との反応が比較的緩やかである。燃料塩は、黒鉛が適切な割合で存在する時のみ臨界となるので、漏れた燃料塩が臨界事故などの苛酷事故の可能性はほぼない。
- トリウムはウランよりも原子量が6小さく、プルトニウムなどの超ウラン元素を実質的に生成しないので、核拡散抵抗性、核テロ対策に優れている。
短所ないし課題としては、以下のようなものが挙げられる。
- 溶融塩は非密封線源であり、汚染に注意して取り扱う必要がある。
- フッ化化合物溶融塩の融点が400℃以上と高温であり、耐熱性を高めるために材料が高額になる。
- 燃料塩中の成分元素であるリチウムと中性子との核反応により生成するトリチウムは、高温では金属では封じ込められず、容易に拡散透過するので、その制御技術が必要である。
- 炉心黒鉛の交換が4年毎に必要である。黒鉛材料技術、安定性実証等が必要である。
日本におけるメインストリームの原子力産業では、軽水炉→高速増殖炉という既定路線から外れる異端として扱われ、あまり重要視されていないが、一つの可能性として検証に値する。
4. 原子力発電の未来
原子力発電は、放射性物質である核廃棄物を作り出し、その処分には時間とコストがかかる。また、原子力発電の重大事故は広範囲にわたって多大な被害を与える。それならば、原子力エネルギーは、宇宙開発に使ったらどうだろうか。宇宙空間なら、核廃棄物の処分に困らないし、重大な事故がおきても、せいぜい被害者は当事者だけにとどまる。限りある資源のウランやトリウムは、地球上での発電に使わずに、将来の宇宙開発のために保存しておくべきではないだろうか。
5. 参照情報
- 竹田敏一『知っておきたい原子力発電』ナツメ社 (2011/8/9).
- 関本博『理工系のための原子力の疑問62 なぜ世界は原子力発電に依存するのか? 再稼働をふまえ理解すべき科学的知識』SBクリエイティブ (2013/3/15).
- 科学雑誌 Newton『検証 福島原発 原子力発電の今後』株式会社ニュートンプレス (2016/12/26).
- ↑本稿は、2006年12月20日に『連山』で公開した「原子力発電の将来」に加筆と修正を施して、2021年7月19日に公開したものである。
- ↑電気事業連合会「原子力発電を進める理由」原子力への取り組み.
- ↑原子力百科事典(ATOMICA)「原子力発電所からの温排水の利用」01-04-03-02
- ↑勝田忠広,鈴木利治「原子力発電の経済性に関する考察」原子力資料情報室. 2005年6月12日.
- ↑制度改革評価小委員会「[https://web.archive.org/web/20110323132016/http://www.enecho.meti.go.jp/denkihp/bunkakai/seidokaikaku_hyoka/4th/4th_hyoka_shoi_shiryo03.pdf 電力自由化と原子力発電(現状と課題)」平成17年12月12日. 資源エネルギー庁電力・ガス事業部.
- ↑永井俊哉「資本主義の未来」2005年10月29日.
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