1月 082000
 

ネット人口は増え続けているが、ネット通販は、いっこうに流通の主役になりそうにない。ネット通販は、便利なだけでなく、環境への負荷をも減らすことができる。そこで、普及に向けての起爆剤を提案したい。

image

1. 第二次流通革命としてのネット通販

戦後の日本での流通革命は、二つの段階に分けることができる。第一次流通革命は、日本では高度経済成長時代に現れた工業革命型の流通革命で、画一的商品・低価格・大量販売・高回転・セルフサービスといった工業社会にふさわしい特徴を持ったスーパーマーケットがその担い手になった。1973年、スーパーが商店街にとって脅威と感じられ、大店法が制定された頃には、ダイエーの売上高が、ついに三越の売上高を上回ってトップになった。73年は、スーパーの反映が頂点に達した時期だったが、1973年は、同時に石油危機が起きた時期でもあるわけで、そのとき以降、大量生産大量消費の時代が終わり、スーパーは次第に不振になっていく。周知の通り、ダイエーは経営不振だが、ダイエーの経営不振は、第一次流通革命の時代が完全に過去のものとなったことを象徴していると言える。

これに対して、第二次流通革命は、情報革命によって惹き起こされた流通革命と言える。ここでいう情報革命とは、73年ごろから始まった量から質への転換のことだが、情報社会においては、個人の個性化された多様な需要に応じることが重視される。70年代前半に登場して、情報革命的流通革命の先陣を切ったのは、POS(Point of Sales 販売時点)管理システムやEOS(Electronic Ordering System 電子受注システム)により消費者のニーズを把握して24時間営業しているコンビニエンスストアである。第一次流通革命を象徴する企業がダイエーであったのに対して、第二次流通革命を象徴する企業は、セブン-イレブン・ジャパンであると言うことができる。しかしそのコンビニも、97年には、既存店売上高が大手各社とも軒並みマイナスとなり、すでに曲がり角にきている。コンビニがネット時代の端末として大きな役割を果たすと期待する人も多いのだが、それはあくまでも過渡的な段階においてのことで、究極の流通革命は、自宅をコンビニにすること、すなわちインターネット通販であると私は考える。

2. ネット通販の必要性

インターネットによる流通革命は、業務用では普及しているものの消費者向けにはいまだ普及しているとは言いがたい。また日本企業の売上高対物流コストはアメリカ企業の2倍に達すると言われるので、物流コスト削減のためにもインターネットコマースの普及を急がなければならない。流通の高コスト構造は、たんに生産性向上を妨げるだけでなく、新規参入者の障害にもなっているという点で有害だ。現在日本では廃業が起業よりも多く、これが失業率悪化の背景になっている。ネット通販が普及すれば、一方で中抜きにより職を失う人も出てきが、販売網構築のための資金やコネがなくても個人がSOHOで起業することが可能になるわけだから、雇用という点でもマイナスよりプラスの面が大きい。

インターネット通販の普及方法を考えていく上で、まず流通する商品を、アトム型とビット型に分類してみたい。アトム型商品とは、物理的に、つまり道路や鉄道などを使って輸送せざるを得ない物質的商品のことである。物質の基本単位は、原子なのでこう呼ばれる。これに対して、ビット型商品は、デジタル化して、オンライン上で配信できる情報商品である。ビットとは、デジタルコンテンツの基本単位で、0か1かを選択するバイナリーディジットのことだ。ビット型商品の流通革命に関しては、次回に譲ることにして、今回はアトム型商品の流通革命について述べたいと思う。

アトム型商品のネット通販には、消費者にとって次のような利点があり。

  1. ネット通販では、産地直送が可能だので、流通の中間マージンが省ける分だけ安い価格で購入できる。
  2. また店に足を運ぶことなく、自宅において24時間年中無休で使えるので便利だ。もちろん販売者が24時間年中無休でスタンバイしているとは限らないが、少なくとも、商品の閲覧や注文は、24時間年中無休で可能である。
  3. 在庫が豊富で、データーベース化すれば、価格や機能などの比較が容易だ。従来の店舗の場合、在庫には物理的な限界があったが、バーチャルモールなら、世界中の商品在庫の中から選べる。望ましい価格と機能を備えた商品を見つけるために一軒づつ回って見比べることは大変なことだが、オンラインショップならば、クリック数回で別の店舗に行ける。
  4. あらかじめ作った製品を売るだけでなく、Configure-To-Order 、いわゆるオーダーメイドにより、消費者のきめこまかなニーズに対応できることも魅力的だ。受注してから作る場合、売れ残り等のリスクがなくなるということは、生産者にとっての魅力でもある。
  5. 最後の「店員につきまとわれるなどの衆人環視のストレスがない」だが、対面販売がないとさみしいという人もいるので、これは長所とも短所ともいえるところだ。いずれにせよ、あまりかっこよくない買い物をするときには、オンラインショッピングの方が賢明である。

この中で一番重要なのは、一番目の長所なのだが、90年代のネットビジネス黎明期には、この点がわかっていない人たちが、実験的にバーチャルモールを開店して、失敗するケースがよく見られた。

失敗するケースとして二つのパターンを挙げることができ。

  1. 小売店が、流通コストを削減することなく、インターネット通販を手がける。→「バーチャルモール」という言葉の連想から、小売店経営者が出店したりすることが多かったのだが、店頭でと同じ価格で売ったのでは、価格面で魅力がない。
  2. 系列販売店を持つ既存の大企業がネット直販に乗り出す。→系列店への配慮から、値下げは難しい。以前ソニーやNECの方に「どうして日本のパソコンメーカーはデルやゲートウェイのように直販をやって、パソコンの価格を下げないのですか」と訊いたところ、ソニーの方は「系列店との関係あるので、彼らの頭越しにそういうことをすると信用関係にひびがはいる」と言っていた。その後NECは、オンラインで注文した商品を店頭で受け取る擬似ネット通販を、ソニーは、値下げしないことを条件にネット通販を始めたが、大企業ができる流通革命としては、これが限度である。

要するに、小売店や小売店を抱えている生産者は、ダイレクトマーケティングに進出しにくいということだ。ネット通販は、既存の販売チャンネルを持たない(特に新規参入組の)中小の製造業が産地直送で販売するうえで有効である。アメリカでも、B to C のイーコをリードしている企業は、90%が中小企業である。

3. ネット通販の課題

生産者が、ネット通販で販路を開拓しようとするとき、次のようなオンラインショッピングが抱えている問題を解決しなければならない。

  1. 代金が前払いの場合は消費者に、後払いの場合は生産者にリスクがある。
  2. クレジットカード番号など自分の個人情報が第三者に漏れないか心配である。
  3. 情報端末の操作方法が、消費の主体である主婦や高齢者にとって習得困難。
  4. 配達の時間に在宅していなければならず、外出の自由が制限される。
  5. 小額の商品の場合、送料のウェートが大きく、費用が割高になる。
  6. 商品の情報が間接的で、不満足の際の返品コストが気がかりである。

1と2は、オンラインショッピングにまつわる古典的問題である。日経の「第7回インターネット・アクティブ・ユーザー調査」によると、利用者のインターネットショッピングに対する不安の要因は、「クレジットカード番号など個人情報が第三者に盗まれないかといった安全性」や「業者に登録した個人情報が流出するのではないかといった機密性」などの個人情報に関する不安が全体の約7割を占めている。これと密接に関係することだが、続いて金銭上のトラブルを心配する回答が多い。無名の中小企業が、個別的・無媒介にネット直販を試みる場合、信用上の問題があり、消費者は注文に躊躇してしまう。出店企業が商品を届けないうちに倒産することもある。後払いの場合、消費者が代金を支払ってくれないリスクがある。最近、ダイエーOMCが、ネット通販のトラブルに備えた保険つきクレジットカードを発行したが、できれば、保険のお世話にならない決済方法を作りたいものだ。

生産者と消費者にとって安心できる決済方法としては、次の二つの方法がある。

  1. 代金を商品と同時に引き換える
  2. 販売側に負担のかからない後払いの方式で、注文者の身元確認をして代金の回収を確実にする

A.には実は問題があるのだが、それは後で述べる。B.を実行する時、注文ごとに運転免許のコピーを送るといったような身元確認をしていると、わずらわしい上に、個人情報の流出につながるので、好ましくない。第三者による認証業務の一元化が必要だ。ではこの原則を守れる決算方法にはどのようなものがあるかを考えてみよう。

現在インターネットコマースでは、商品やサービスの受発注と決済を処理するためのさまざまな方法が採られている。

image
旧郵政省:平成11年版通信白書

この表では、生産者と消費者以外の第三者が媒介する場合とそうでない場合が下と上に書かれている。この中で最も理想的な決済方法は、第三者を媒介しない電子マネーを用いた方法だ。しかし電子マネーは普及のめどが立っていない。ここでは、電子マネーのことは考えないことにする。

これに対して、ローテクだけれども、最も安全で、かつ直観的にわかりやすい方法は、代金引換の方法だ。ヤマト運輸のウェッブ通販サービス「クロネコ探検隊」は、消費者に都合のいい日時を指定してもらい、代金引換で注文者に商品を宅配している。この方法の最大の欠点は、宅配時に注文者が自宅にいなければならない、つまり注文者の外出の自由を束縛するというところにある。また購入に必要な金額を自宅に用意しておかなければならないということも、場合によっては不便である。コンビニまで取りに行くという方法だと、オンラインショッピングの利便性は半減してしまう。

第三者機関が保証しない銀行振込や郵便振替方式では、店舗側にリスクがある。他方でクレジットカード方式では注文者側にリスクがある。現在、SSL(Secure Sockets Layer)やSET(Secure Electronic Transaction)といった送信する情報を暗号化する技術が開発されていが、多くの消費者は、コンピュータ画面にクレジット番号を打ち込みたがらないというのが現状である。そこでクレジットカード番号や金融機関の口座番号等を直接インターネット上では送信しないで、クレジットカード会社や金融機関を通じた決済代行サービスを行う事業者も現れている。電子決済という緑色のボックスのグループがそれだ。このようなサービスでは、事前に郵便、電話、ファクシミリ等を用いてクレジットカード番号や金融機関の口座番号を決済サービス事業者に登録しておいて、インターネット上ではその決済サービス事業者が独自に発行したユーザーIDやパスワードを使って本人確認を行う。買い手が商品を購入したら、店舗は決済サービス事業者を通じて、クレジット会社や金融機関から代金を回収するという仕組みになっている。

このように、オンラインショッピングの普及に伴い、決済にまつわる古典的問題は次第に解消されつつある。しかしネット通販を普及させるためには、さらに克服しなければならない問題がある。

3. 情報端末、とりわけコンピュータの操作方法が、消費の主体である主婦や高齢者にとって習得困難ということもよく指摘される問題である。本当は、コンピュータの使い方は、本当はとてもやさしいのだが、先入観から、使おうとしない人が多いのが実態だ。

4. また配達の時間に在宅していなければならず、外出の自由が制限されるということも問題だ。将来働く女性が増えるだろうから、届出先の不在率も上昇するかもしれない。そうでなくても、こちらから対応する時間を選ぶことができないわずらわしさという電話と同様の問題もある。

5. 小額の商品の場合、送料のウェートが大きく、費用が割高になるという問題がある。

6. さらに、オンラインショッピングの場合、直接商品を手にとって見てみたり、試食したりできないので、そういう意味で商品の情報が間接的になり、買ってはみたものの、思っていたものとは違ったという場合がある。アパレル産業の中には、顧客が自分の身体データーを入力すると、3Dのバーチャル空間で試着した様子を見ることができるようにするなどの工夫を凝らしているところもあり、他の通販に比べれば、ネット通販は、想像と現実のギャップを埋める上で有利かもしれないが、顧客が送られてきた商品に満足しない可能性は残る。不満足で返品するときのコストが消費者にとっても生産者にとっても大きくならないようにする工夫が必要だ。

4. ネット通販の課題の解決

こうした問題点を克服し、ネット通販を普及させるにはどうしたらよいか、私からいくつか提案をしたいと思う。

提案のその1は、サイバーモール主催者は、積極的に市場を拡大するために、操作の容易な情報端末の貸与により、潜在的顧客層を積極的に開拓するべきだということである。日本のネット人口は、全人口の十数パーセント程度で、この普及率をいかにテレビの普及率に近づけるかが先決問題だ。

顧客が既にパソコンなどを持っている場合は別として、まだ情報端末を持たない場合、リースすることによって、まず便利さを実感してもらうことから始めなければいけない。無料携帯電話や無料パソコンの場合と同様に、ハードは無料で配布し、サービスに課金するわけだ。消費者に過大な初期投資のリスクを負わせないことが、普及のための第一条件である。リースする端末のスタートページには、サイバーモールのホームページを指定しておいて、顧客が日常的に商品を注文できるようにしておく。

リースする端末としては、デスクトップ型PC以外にもノート型パソコンや携帯電話などのモバイル端末、セガのドリームキャストのようなゲーム機、Web TVなどインターネット接続機能を持つテレビ、後で説明するネットワーク冷蔵庫などいろいろ考えられる。消費の主体である主婦や高齢者の大半が、パソコンを得意としないことを考えれば、情報家電をリースするということはとても重要なことだ。

そう遠くない将来、各部屋に情報端末が一台、つまりキッチンにはネットワーク冷蔵庫、ダイニングルームにはインターネットテレビ、リビングルームにはパソコンやゲーム端末が配置され、そしてそれとは別に各家族が一つづつモバイル端末を持つようになり、それらがホームサーバで結ばれるという時代が来るだろう。どの情報端末から始めるかは、家庭の事情による。

ここに挙げた5種類の端末の中で、ネットワーク冷蔵庫はまだ実用化されていないので、ご存知ない方も多いだろうから、少し詳しく説明したい。この写真は、松下電器が2003年の生活をイメージして作った Home Information Infrastructure の中にある情報家電の一つのネットワーク冷蔵庫だ。ご覧の通り、保存されている内容物が一目で確認できる液晶ディスプレイを装備している。ワンドアにして、液晶ディスプレイをもう少し広くした方がいいような気がする。松下は、庫内のデーターを外出先から携帯端末で確認し、食材を買い足すことが可能と説明している。しかし、それだけのために数万円割高な冷蔵庫を買う人がいるだろうか。松下は、既存の流通を前提にネットワーク冷蔵庫を作ろうとしているわけだが、私は逆に流通を変えるための、つまりインターネット通販を普及させるためにネットワーク冷蔵庫を活用したいと思っている。

ネットワーク冷蔵庫には、次のようなメリットがある。

  1. 冷蔵庫の扉面積の有効活用:日本の台所は狭く、コンピュータを設置する場所がないので、冷蔵庫の扉がディスプレイになれば、場所の節約になる。
  2. タッチパネル方式の入力が可能:キーボード入力が苦手な人でも、タッチパネル方式の入力なら、直観的にわかりやすいというのも、オンラインショッピングを普及させるという目的にかなっている。情報家電の代表選手は、Web TVだが、テレビは手を伸ばして届く範囲では見ないので、タッチパネル方式を使うことは困難だ。
  3. 庫内情報(特に賞味期限)の管理:商品の容器にICチップを付けて、冷蔵庫の扉にあるリーダーで読み取ると、その食品の中身や賞味期限や料理方法などの情報が、冷蔵庫内のディスクに蓄積され、それをディスプレイに表示することができるようにすれば、庫内の食品データーを賞味期限順にソートすることができるので、購入した食品を忘れて腐らせてしまうことがないなど庫内情報を簡単に管理することができる。
  4. レシピデータのリアルタイムでの活用:さらにICチップに、食材の料理方法のデーターを入れておくと便利だ。最近専業主婦の減少により、料理の仕方がわからない夫婦が増えていると聞く。料理の本を買って読めばいいのだが、紙の本に書かれたレシピを読んでいる間は、手を動かすことができない。でもデジタルのレシピデータならば、音読させて、それを聞きながら料理することができる。動画で料理方法を説明するなら、なお良いだろう。

こうしたことから、ネットワーク冷蔵庫は、食品のオンラインショッピングに適しているといえる。

インターネットで食品を注文する方法は三つある。

  1. 材料の段階で宅配する。牛乳2本、卵1パックなど既定値をあらかじめ設定しておくと、足りなくなれば、それらが自動的に宅配で送られてくる。
  2. 料理した完成品を宅配する。これは従来のピザの宅配などが、電話を使わずに、インターネットを使うようになっただけである。
  3. 両者の中間形態。消費者は完成品をメニューのリストから選ぶが、宅配で送られてくるのは必要な材料のみで、食べたい時に自宅で料理する。

Aの方法は、自分で料理ができない人や一度に多くの材料を消費できない単身の生活者には歓迎されない。Bの方法では、商品をすぐに食べなければならず、配達回数を減らして送料を抑えることができない。Cの方法ならば、ある程度貯蔵が効くので、まとめて受け取ることができるし、食べたい時間にレシピを聞きながら簡単に料理できるので、ネット通販にはふさわしい方法といえる。

提案のその2は、荷受ボックスも貸与して、配達を効率化し、消費者の利便性を高めるということだ。運送会社のサービスも会員制にして、会員に、運送会社と会員しか鍵を開けることができない荷受ボックスをリースした方がいい。運送会社が、商品を自宅前にある荷受ボックスに入れておくことができるのなら、消費者は外出の自由を制限されることはなくなる。食品が入れられる場合を考えると、荷受ボックスは、断熱材を充填したクーラボックスが望ましい。

提案のその3は、送料を定額化し、顧客に送料比率を下げるインセンティブを与えるということである。ネット通販事業を成功させるためには、日常的にオンラインショッピングをする固定的な顧客層を作ることが必要だ。私が先ほど食料品のネット通販を重視したのは、それが、ネット通販一般を普及させる上での突破口になるからだ。家計に占める飲食費の割合は高くはない。しかし食品は必需品で、しかも通常長期保存が難しいので、毎日定期的に購入しなければならない。したがって宅配便は、商品を注文されるたびに配送するのではなくて、バスのように会員宅を定ルート・定時刻で巡回し、まとめて配送することができる。つまり、運送効率が上がるので、送料を会員費の一部として定額で固定することができる。すると消費者は、一商品当たりの送料コストを下げるために、食料品以外の商品もできるだけ多くついでに注文するようになる。注文量が増えれば、加盟を希望するオンラインショップの数が増え、注文可能な商品が増えれば、サービスの魅力も増えるので、会員となる消費者の数も増えるというポジティブフィードバックが働くことが期待できる。

提案のその4は、荷受ボックスのリース制度と定ルート/定時刻巡回制を利用して、クーリングオフの返品を消費者にとって容易かつ業者にとって低コストにするということだ。ネット通販では、購入した商品が、予想していたものとは異なっていたということが多いから、低コストもしくは無料で返品できるシステムを確立しておくことが、消費者に安心を与える。返品するときには、インターネットを通じてあらかじめ連絡をしておき、荷受ボックスに戻しておく。するとバスのように会員宅を定ルート・定時刻で巡回する宅配便が、新しい商品を届けに来たときに、返品を回収していく。これならば、生産者や運送業者にとっても返品のコストは小さくてすむ。

以上の四つの提案で、ネット通販が抱える四つの問題を克服することができる。

  1. 情報端末の操作方法が、消費の主体である主婦や高齢者にとって習得困難。この問題は情報家電の登場で解決しそうだ。
  2. 配達の時間に在宅していなければならず、外出の自由が制限される。これは、荷受ボックスをリースすれば解決できる。
  3. 小額の商品の場合、送料のウェートが大きく、費用が割高になる。これは、送料の定額化、宅急便の定ルート/定時刻巡回化、注文商品の増加によって解決される。
  4. 商品の情報が間接的で、不満足の際の返品コストが気がかりである。返品は荷受ボックスに入れておけば、次の配達の時に回収するので、余計なコストはかからないので、この悩みも解消される。

5. 誰がネット通販の担い手として有望か

さて、これまで述べてきたように、ネット通販でも、生産者と消費者を媒介する第三者の存在が必要だ。では、その担い手となるのは誰かということだが、私は案外現存の通販会社はメジャープレイヤーにはなりにくいのではないかと思っている。その理由としては、従来型の通販業は、競合関係にある他の通販チャンネル、例えばカタログ販売などを温存させようとする、企業カルチャーをネットワークビジネスにふさわしいものに変えようとしない、 既存顧客とネットユーザのプロフィールギャップを埋められないなどの点を上げることができる。特に生協は、社会主義的イデオロギーを引きずっているので、普遍的存在にはなりにくいのではないだろうか。

生協が行っている共同購入は、方法がアナログである点を除けば、ネット通販における電子決済と大差ない。最近は生協もプロセスを電算化するようにしているようだが、まだまだ不十分のようだ。92年の京都生協の調査によると、生協の共同購入は、スーパーと比べて配達の利便性や商品の安全性という点で高い評価を受けているが、品揃えの豊富さや価格の安さという点では低い評価を受けている。本来人件費として価格に転嫁されるべき活動をボランティアでカバーしているにもかかわらず、価格面で安いと認識されていないということは、それだけ非効率であるということでもある。

共同購入衰退の原因

  1. コストを引き下げるために大量注文・一括配送するので、取扱商品の品目数に限界があり、多様化する組合員のニーズにこたえられない。
  2. 女性の社会進出と少子化により、日中の女性の在宅率が減少し、共同購入を始めとする組合活動がしにくくなっている。
  3. 無添加無農薬などの商品の安全性が、もはや生協の専売特許ではなくなり、一般商品の安全性が向上して格差がなくなってきている。不況の長期化により、安全性だけでなく、低価格志向も強まってきている。

やはりネット通販の担い手としては、ネット通販を専門とする企業が一番有望である。

6. 行政は何をするべきか

ネット通販に対して、行政はどのようにかかわるべきであろうか。パソコンネットワークを地域のコミュニケーションに役立てようという試みは、全国各地の自治体で進んでいて、岡山県では、新しい地域のコミュニケーション手段としてのパソコン利用を模索するため、行政や県内外の企業などが高度情報化実験推進協議会を設立した。県や国の助成合わせて総額で年間1億円(97年度)を投入し、そのプロジェクトの一環としてネットワーク冷蔵庫の実験をやった。シャープ、日本シリコングラフィックス・クレイ、岡山市のブイ・シンク・テクノロジーが共同で開発を進めて、冷蔵庫の扉部分にタッチ入力式の液晶画面を取り付け、CATVなどの地域ネットワークと接続し、この画面にゴミ収集日や休日当番医、学校行事といった地域情報を表示しようというわけだ。画面の上には、画像送信用のカメラと音声入力用のマイクまでが取り付けられたとのことだ。岡山県情報政策課長は「冷蔵庫は24時間電源が入っている。世界を相手に情報発信するインターネットも24時間。電子メールなどの対応に効果が期待できる」と言っている。家電の代表選手である冷蔵庫との組み合わせで、パソコンとは無縁だった主婦や高齢者に浸透を図ろうというわけだ。

しかし残念ながら、実験参加希望者が少なく、このプロジェクトはうまくいっていない。行政が情報化に取り組もうとしていることには敬意を表すが、住民のニーズを考えて工夫しないと、予算の無駄使いになってしまう。またなぜ公的セクタである自治体がネットワーク冷蔵庫を配布しなければならないのか、理由が明確でない。現在は市場経済の時代だ。小さな政府という理念からすれば、自治体は環境問題などの政府固有の問題に取り組むべきだ。そして自治体はゴミ有料化などの政策を通じて、間接的に、ネット通販の普及に貢献することができる。

では、果たしてネット通販は環境に良いのだろうか。環境に悪いという人もいる。多頻度小口配送は、配送用車両の増加に伴う交通渋滞と排気ガス問題を惹き起こすというわけだ。しかしこの問題は、トラックの積載率を向上させ、定ルート/定時刻巡回により走行距離を短縮すれば、解決する。最近フットワークエクスプレスとマイクロソフトなどが、インターネットを使ってトラックの空きスペースの利用を仲介するサービス会社を設立すると発表したが、こうした努力で、トラックの積載率を挙げていかなければならない。プラス要因としては、容器の再利用が可能になるという点を挙げることができる運送会社が、インターネット通販のサプライチェーンマネージメントを一括して引き受けることにより、ゴミを軽減するグリーンロジスティクスが可能になる。

原材料から製造、流通、卸売り、販売に至る過程をサプライチェーン(供給の連鎖)と言い、需要変動にあわせて生産計画を立て、不良在庫を削減すると同 時に欠品を撲滅し、多段階流通を簡素化して、川上から川下までの企業が一体 となり、消費者あるいは最終ユーザに対応しようとする動きがサプライチェーンマネージメントである。 サプライチェーンマネージメントは、90年代に登場した比較的新しい言葉であり、それ以前の物流(physical distribution)の合理化とは次元の異なるロ ジスティックス(logistics)の合理化である。物流とロジスティックスの間には戦術と戦略の違いがある。もしロジスティックスを誤るならば、物流の合理化はたんなる失敗の合理化にしかならない。従来の流通科学が、いかに物流を効率化するか、いかに在庫を管理するかを論じてきたのに対して、サプライチェーンマネージメントは、いかに物流と在庫をなくすかを課題とする。サプライチェーンマネージメントを通して、環境への負荷を減らすグリーンロジスティクスは、次世代の流通の理念である.

家庭ゴミの中では生ゴミと食品・飲料の容器包装材が占める割合が多いのだが、インターネット通販は、この両者を削減することに貢献できる。

  1. 生ゴミの削減のために:消費者は食材を集めてから料理を考えるのではなくて、完成品に必要な食材のみを購入し、しかも賞味期限順にソートして管理できるので、食材を未使用のままゴミにするリスクが減る。(もちろん食べ残しの生ゴミは減らないけれども。)
  2. 容器包装材の削減のために:容器はICチップを付けていて高価であるから、繰り返して使う。生産者は注文を受けると、指定された運送会社の容器に商品を入れる。消費者は、商品を消費すると、容器を洗って荷受けボックスに入れておく。すると運送会社が次の商品を宅配する時に、容器を回収し、データーを初期化して、生産者に再分配する。こうすれば、容器包装材のゴミを劇的に減らすことができる。

自治体にとってゴミ問題は深刻であり、ゴミを有料化するところも出てきている。ゴミが有料化されれば、消費者にとって、ゴミの出にくいインターネット通販はさらに魅力的になる。また企業にとっても、容器を再利用できれば、それだけ経費の削減になる。

もちろんゴミを有料化すると、廃棄物の不法投棄が増えるという問題が出てくる。ゴミを有料化せずに減らすには、反復使用不可能な容器包装材を使っている商品の消費税率を引き上げるという方法も有効である。この場合でも、インターネット通販は有利である。

7. 小売業と生産者の将来

最後に、新しい流通革命に対して小売業者と生産者はどう対応するべきかについて考えたいと思う。かつてゴア副大統領は、高速道路の建設によって、砂漠の中にある馬車の中継地点がゴーストタウンになったように、情報スーパーハイウェイの建設によって、小売業のような中間媒介産業は消滅するだろうと予言した。しかし私は、小売業が完全になくなることはないと考えている。いくらインターネット通販やSOHOが普及しても、人々は決して自宅に閉じこもったままになるわけではないからだ。外出する必然性がなくなればなくなるほど、人々は行楽目的で外出するようになる。このような行楽客を相手にした小売店や自ら行楽的空間を創設する小売業は、インターネット通販が流通の主流なっても、生き残るに違いない。現時点でも、何かを買う目的をもって、商店街に行く人は少なくなっている。人に会うため、散歩するため、気分転換のために商店街に行って、たまたま見つけた、気に入った商品を買うという人は意外に多い。今後、商業空間の生活空間化あるいは、商店街の公園化が必要になっていくと思う。

ネット通販のもう一つの盲点は、欲しいと思った商品がすぐに手に入らないということだ。Asukulのように、1日で届けるところも出てきているが、通販の場合、欲しい商品を1時間以内に手に入れることはほとんど不可能だ。しかし既存の店舗型商店の場合は、品切れになっていないという仮定のもとでだが、1時間以内で欲しい商品を見つけて手に入れることができる。ネット通販が普及してもコンビニがなくなることはないだろう。

もっともすべての既存の小売業が、こうした行楽型で生き残れるわけではない。日本の小売商店をアメリカと比較してみると、一店舗当りの売上高はアメリカの半分、人口比での小売商店数は三倍であり、日本の小売商店数が過小過多になっていることが窺える。こうした過剰性から判断して、従来型の小売や卸の規模は縮小されざるをえないと予想される。

では、物作りをしている生産者は、新しい流通革命に対してどう対処すればよいかを考えてみよう。生産者にとっては、インターネットコマースは、販路をグローバルな規模にまで拡大するチャンスを与えてくれると同時に、地域独占に安住していた生産者をグローバルな競争にさらすという両刃の刃だ。サイバースペースには、地の利といったものはない。かつては世界の僻地に位置したオーストラリアやニュージーランドは、地理的デメリットを克服し、公用語が英語であるメリットを利用して、サイバースペースでは、重要な役割を果たすようになっている。もし生産者が地の利に安住していたら、来るべきデジタル時代には没落する可能性がある。そうならないためにも、今後生産者は、地理的優位性よりも専門的優位性を志向し、得意分野への特化をさらに進めなければならない。

注:本稿は、2000年3月21日に、財団法人岐阜県産業経済振興センター主催の講演会「インターネットによる流通革命」の原稿をもとに書いたものです。

追記(2011年2月)

この文章を書いてから10年以上が経過した。ネット通販は普及してはいるものの、コンピュータを持たない高齢者は依然として多く、近所の商店街の「シャッター通り」化に伴い、日々の生活用品の購入に困っている「買い物弱者」が増え、その数は、内閣府の調査などから全国で600万人と推定されている。そんな中、最近になって、やっと以下のような試みが出てきた。

セブン-イレブン・ジャパンとNTT東日本、都市再生機構(UR)などは2日、簡単な端末操作で食品などを注文できる宅配サービスを、4日から試験的に実施すると発表した。都市圏でも増加している「買い物弱者」の高齢者などを支援する取り組み。6カ月間の試行で事業として成り立つかなどを検証した上で、将来的に全国展開したい考え。

今回対象にするのは東京都中央、目黒両区にあるURの集合住宅に住む約500の高齢者世帯。セブン-イレブンは既にパソコンなどによるネット宅配サービスを手がけているが、今回の取り組みでは、高齢者でも簡単に操作できるNTT東日本の板状のタブレット型端末「光iフレーム」=写真=を無償貸与。指で画面に触れて操作するだけで、セブン-イレブンによる弁当やおかずなどの食品の宅配のほか、離れて暮らす家族に連絡が取れるサービスを提供する。端末は使わないが、セブン-イレブンが提携する家事代行会社による洗濯や掃除などのサービスも試験的に始める。

[毎日新聞(2011年2月2日)買い物弱者:セブン-イレブンなど宅配試行]
このページをフォローする
私が書いた本

  2 コメント

  1. 今、WEBビジネスにも片足をつっこんでいますが、これは
    大企業→時間的なマーケット拡大(売上貢献よりは経費節約)
    小企業→空間的なマーケット拡大(経費節約よりは売上貢献)
    というすみわけになりそうな感じがしてます。
    それはこのWebのメディア・カバーの特徴が、大企業にとってはマスメディアの下限を広げる。(顧客への+アルファ情報を安価に提供)小企業にとっては人海戦術の上限を広げるからです。(顧客への必要最低限情報を安価に提供)白書が指摘する企業規模二極化は納得できます。まあ、どっちにころんでもその中身が勝負なので、果たしてただビジネスモデルだけで長期間経営が維持できるとは思えませんね。

  2. たんにネット通販をするだけでは、売り上げは増えないでしょう。ネット通販には、BTOパソコンのように、顧客の細かい好みに応じて商品をカスタマイズするなど、ネットならではの良さがあるわけで、そうしたネットの利点を生かした新しいサービスを打ち出してもらいたいものです。

 返信する

以下のHTML タグと属性が利用できます: <a href="" title=""> <abbr title=""> <acronym title=""> <b> <blockquote cite=""> <cite> <code> <del datetime=""> <em> <i> <q cite=""> <s> <strike> <strong>

/* ]]> */