原発事故後の除染はどのように行うべきか
バイオレメディエーションによって、土壌中のセシウム137を完全に取り除くことはできない。しかし、土に固着しているので、流出等の心配はない。30年たてば1/2になり、60年たてば1/4になる。バイオ燃料製造ファームとして長期的に利用しながら、遠い将来に安全な場所に戻すことができる。[1]
1. 問題提起
チェルノブイリや福島などで起きたような原子力発電所事故では、健康被害を及ぼす放射性物質が周辺地域に広く拡散する。代表的な放射性物質のうち、ヨウ素131は、半減期が8日で、その影響は短期的になくなるが、セシウム137は、半減期が約30年で、その除去が最大の政策的課題となる。
チェルノブイリ原子力発電所事故が起きたのは1986年4月26日である。事故後、除染作業が行われたにもかかわらず、効果はなく、2011年現在でも、合計で一万平方キロメートル(東京都の面積の五倍に相当する面積)の区域が立ち入り禁止となっている。チェルノブイリ原発周辺は、本来農業に最適な肥沃な黒土の平原なのだが、経済的に有効に活用されないまま放置されている。
こうした事態を変えようと、日本の特定非営利活動法人、チェルノブイリ救援・中部が、2006年から「菜の花プロジェクト」を始めている。チェルノブイリ原発の西部に位置し、セシウム137やストロンチウム90などの放射性物質によって土壌が汚染されているナロジチに菜の花を植え、土壌中の放射性物質を吸収させ、菜種から得られる油をディーゼル油として利用し、残りの根・茎・葉・種皮などを発酵させて得られるメタンを燃料として活用するというプロジェクトである。放射性物質は、油やメタンには含まれておらず、発酵残滓に閉じ込められるので、残滓だけを放射能廃棄物として処分すればよい。
植物によって放射性物質を取り除く方法は、バイオレメディエーションと呼ばれ、福島第一原発事故以降、日本でも注目されるようになった。もっとも事故後菜の花は植える季節を逸していたので、代わりにヒマワリが汚染地域に植えられた。農水省も、その効果を確かめるために、2011年5月27日より福島県飯舘村の農地にヒマワリの種をまいて、実験を始めた。しかし、8月5日に開花したヒマワリの茎・葉・根を刈り取って調べたところ、土壌に含まれるセシウムの0.05%しか吸収しなかった。これに対して、表土を削り取る方法では、最大で97%も低減できたと農水省は発表した。
実は、チェルノブイリ救援・中部も、以下の理由で、ヒマワリを植えることには批判的であった[3]。
- 福島原発事故による土壌の放射能汚染のほとんどは、表面数センチメートルの土に固着したセシウム134,137によるもので、ヒマワリを植えるために土を掘り起こしてしまうと、セシウム134,137を深く混ぜ込んでしまうことになる。
- ヒマワリの根が汚染さえた表層土壌に根を張るとは限らない。また、ヒマワリは、水耕栽培でもしない限り、セシウム134,137をほとんど吸い上げない。菜の花も、1年間に吸い上げる放射能は土壌中の数%にすぎないが、農地の安全利用に対しては効果がある。
- ヒマワリは大きく育つので、その処分が問題になる。ヒマワリにはリグニンが多く含まれるため、メタン菌による分解・発酵には向かない。焼却するには、放射性物質の拡散を防ぐために、焼却灰の処理が必要になる。
結局、表土剥離が一番有効ということで、細野豪志環境相・原発担当相は、この方法で除染する工程表を10月29日に発表した。
福島の放射能汚染土 県内に最大30年間中間貯蔵 環境省が工程表 (date) 2011年10月29日 (media) 産経新聞 さんが書きました:
それによると、除染は来年1月から本格的に開始。汚染土などの仮置き場は、国有林の敷地を自治体に無償貸与するなどして確保する方針で、中間貯蔵施設が設置されるまでの3年間の保管を予定している。用地造成や施設建設は自治体が行うが、費用は国が持つ。
鉄筋コンクリート製の仕切りを用いて造られる中間貯蔵施設は、来年度中に福島県内に立地場所を1カ所選定する。福島県内で発生した計1500万~2800万立方メートルの汚染土が保管できる施設を設置。必要な敷地面積は3~5平方キロと想定している。
環境省は中間貯蔵の期間を「30年以内」と長期に設定した理由を、「量が多くて10年や20年では除染が完了できない」としている。
最終処分場については「県外に設置する」としているものの、具体策は何も決まっていない。
国が負担する費用はいくらぐらいになるのか。2011年9月29日に環境省がまとめた試算によると、2011-13年度までの3年間で、少なくとも一兆数千億円に上るとのことである[4]。この費用には、効果的な除染手法が決まっていない高濃度汚染地域(半径20キロメートル圏内の警戒区域)の対策費や汚染土などを安定的に保管する中間貯蔵施設の整備費は含まれておらず、30年以上かかる除染プロジェクトの費用の総額は、それよりもはるかに大きくなりそうだ。
日本の財政状況を考えるなら、もっと費用を圧縮しなければならない。そこで、私は、以下のような除染方法を提案したい。
- 高濃度汚染地域にある建造物(廃炉作業中の福島第一原発とその関連施設を除く)を爆破解体して、更地にする。
- 低濃度汚染地域の表層土を削り取り、それを高濃度汚染地域の汚染土の上に覆い被せる。
- 高濃度汚染地域にナタネやトウモロコシを植え、バイオディーゼルやバイオマスエタノールを製造する。
- バイオ燃料製造でできる農業廃棄物をガス化して、発電の燃料とする。
- ガスに含まれるセシウム等の有害物質はゼオライトで分別吸着し、処分する。
政府がこれからやろうとしているように、削り取った膨大な量の汚染土を、国有林の仮置き場、県内の中間貯蔵施設、県外の最終処分場へと転々と長距離にわたって移動させたり、鉄筋コンクリート製の施設を作ったりすると、それだけコストがかかる。私の提案では、移動距離が短いし、巨大な施設を作る必要はないし、バイオ燃料の製造や発電が利益を生むので、トータルでかなりのコストの圧縮になる。
このやり方では、双葉町や大熊町といった高濃度汚染地域内の住民が永遠に元の生活に戻ることができないことを問題視する人がいるかもしれない。だが、こうした高濃度汚染地域内の住民は、どのみち元の生活に戻ることはできない。福島第一原発は、冷温停止後も微量の放射性物質を出し続けるので、これらの地域で表土剥離を行っても、また新たに汚染が行われてしまうからだ。重要なことは、事故発生前に単純に戻すことではなくて、経済的に無価値になった土地を再び有効活用することなのである。
高濃度汚染土壌の上に低濃度汚染土壌を堆積させることで、高濃度汚染土壌が地上に及ぼす影響を低減させることができる。汚染土壌の層がそれだけ厚くなるが、植物の根は深く伸びるので、バイオレメディエーションにとっては好都合だ。チェルノブイリ救援・中部が採用しているナタネは、土に固着した放射性セシウムを吸い上げることはできないが、土壌中の水分に溶けている放射性セシウムは十分に吸い上げることができる。ナタネが連作障害を惹き起こすといけないので、別の作物との輪作にしなければいけないが、ナタネ栽培で一時的に土壌中の水溶性の放射性セシウムがなくなるため、次に育てる植物には放射性セシウムが入りにくくなる。菜の花プロジェクトにおいては、ソバ、ライ麦、小麦を作っているとのことであるが、食品を作っても売れないので、トウモロコシなどバイオ燃料として活用できる作物を植えるとよいだろう。
菜の花プロジェクトでは、ナタネ油を取った後、バイオマスをメタン発酵させるという伝統的な手法を用いているが、二段醗酵法のような、より先端的な方法を採用することも検討してみるべきではないだろうか。
世界初、生ごみから水素とメタンを高速回収できる新システム (date) 2004年7月14日 (media) 産総研 さんが書きました:
従来、メタン醗酵による迅速な処理が困難であった生ごみや紙ごみまたは食品系廃棄物などの含水率の高い有機性廃棄物を、嫌気性微生物により水素とメタンと二酸化炭素に分解する新技術の実用化を目指す。
本実験プラントは、可溶化・水素醗酵槽とメタン醗酵槽の新しい二段醗酵法を採用しており、従来型メタン醗酵と比較して、全体の処理時間を現状の25日から15日に短縮、エネルギー回収率も40~46%から55%に向上できるなど、有機物を水素とメタンに高速・高効率でガス化し、分離回収する点が従来にない特徴となっている
この技術は、2005年には900L規模の実証試験へと進み、実用を視野に入れたパイロットプラントで長期連続運転データを取得しているとのことである[5]。メタンも水素も、ともに燃料電池の燃料となる。直接燃やすよりも熱効率が良い、次世代型発電も試してみる価値があるだろう。
セシウムをはじめとする有害物質は、発酵に際して、ゼオライトを使って吸着させて、取り除くことができる。天然ゼオライトは国産の安価な鉱物(20kgで2000円程度)で、セシウムをはじめ様々な有害物質を吸着してくれる。回収した放射性物質は、量的に大きくないので、地中処分しても、コスト高にはならない。
バイオレメディエーションによって、土壌中のセシウム137を完全に取り除くことはできない。しかし、残存しているセシウム137は土に固着しているので、流出等の心配はない。植物に吸収されることなく土壌中に残存していても、30年たてば1/2になり、60年たてば1/4になる。バイオ燃料製造ファームとして長期的に利用しながら、遠い将来に安全な場所に戻すことができる。コストを抑えた除染方法としては、これが一番ではないだろうか。
私は、高濃度汚染地域の建造物の爆破には賛成できない。爆破により更に、広範囲にわたって放射性物質をバラ撒くことになるためである。廃炉は、周りを鉄などの金属板で囲って、その内部に石膏等の物質を流し込み、固めるとともに、内部に冷水配管を通して、冷凍機等で冷却するのが最も良い策ではないだろうかと考えています。そして、原発の周りの土地は、植物によるバイオレメディエーションにより、放射性物質を除去する方法を取るのがよいのではないかと考えます。
「高濃度汚染地域にある建造物」のすぐ後に「廃炉作業中の福島第一原発とその関連施設を除く」とあることからもわかるように、「爆破解体」というのは廃炉の方法ではありません。
私は、廃炉のことを言っているのではありません。高濃度汚染地域の建造物を爆破をすれば、さらに、高濃度汚染地域を広げるようなことになると忠告しているのです。
海外で技術開発が進んでいる解体用の爆破は、周辺に断片を飛ばさずに建造物を内部崩壊させるので、汚染物質の周辺への拡散は最小限に抑えることができます。もとより、今問題にしている高濃度汚染地域では、建造物の周辺も建造物と同程度に汚染されており、かつ無人ですから、そもそもそういう心配は無用です。当日天気を選べば、大気中への拡散も最小限にすることができるでしょう。それでも、低濃度汚染地域にまである程度は拡散するでしょうが、最初に書いたように、
- 高濃度汚染地域にある建造物(廃炉作業中の福島第一原発とその関連施設を除く)を爆破解体して、更地にする。
- 低濃度汚染地域の表層土を削り取り、それを高濃度汚染地域の汚染土の上に覆い被せる。
の順番で行えば、拡散した汚染物質が回収されます。爆破解体は費用と作業時間を最小にすることができるので、予算に限度があり、かつ長時間の作業が作業員の健康に悪影響を与える可能性が高い時は、有効な方法です。
ひーろまっつん さんが書きました:
私は、高濃度汚染地域の建造物の爆破には賛成できない。爆破により更に、広範囲にわたって放射性物質をバラ撒くことになるためである。廃炉は、周りを鉄などの金属板で囲って、その内部に石膏等の物質を流し込み、固めるとともに、内部に冷水配管を通して、冷凍機等で冷却するのが最も良い策ではないだろうかと考えています。そして、原発の周りの土地は、植物によるバイオレメディエーションにより、放射性物質を除去する方法を取るのがよいのではないかと考えます。
そして、内部剤にトルマリン鉱石を敷き詰めて、グラスウール等の保温材で覆い、その外部を石膏で覆い固めて内部に冷水配管を通しておき、外部から冷却すれば完璧だろうと思われる。
町田徹が、中国や沖縄でカドミウムなどの重金属に汚染された土壌の浄化事業に取り組んでいるアースノートの徳永毅社長の発言を取り上げ、農林水産省が「農地除染対策実証事業」の結果に基づいて進める農地の除染事業は、農業土木利権復活を動機とした無駄な事業だと主張している。
「植物による土壌浄化」が消えて、「表土削り取り」が先行するのはなぜか?除染事業予算で「農業土木利権」復活を目論む農水省の思惑 (date) 2012年6月19日 (media) 現代ビジネス (author) 町田徹 さんが書きました:
徳永社長は、「表土のはぎ取りは、植物の生育に必要な表面の肥沃な土壌をはぎ取ることに他ならず、仮に汚染を除去できたとしても、その地域を農地に適さない土地にしてしまう恐れが強い」と指摘する。
その結果、農地の買い取りや、農家が稲作・畑作で上げてきた収入の補償が必要になり、行政コストが膨大なものになりかねないというのだ。
もうひとつ、徳永氏の指摘で看過できないのは、対案として有力視されるファイトレメディエーションの効果を測定するにあたって、農水省がひまわりとアマランサス(ヒエ科の植物)の2種類しか実験対象にしなかった問題だ。
徳永氏によると、「植物が地中からどのような物質を吸収するかは、その種類や、その種の原産地によって大きく左右される」。そして、農水省の試験は「わざわざ効果が小さい植物を選択したとしか思えない」(同)というのである。
実際のところ、アースノートでは、東日本大震災の直後から、東京大学、名古屋大学、東京農工大学と協力して、福島県内の10ヵ所余りの地域で、イネ300種、ソルガム(熱帯アフリカ原産のイネ科の穀物)200種、その他の植物30種を対象に、放射性セシウムを吸収し易く除染に効果的な植物と、逆にセシウムを吸収しにくく食べても人体に影響を及ぼす懸念のない作物を探る実験を繰り返し実施してきた。
その結果、特定のソルガムの中に、ヒマワリや一般的なイネの数10倍のセシウムを吸収するものが存在することが確認されており、「品種改良も含めて技術開発を進めれば、汚染された農地をファイトレメディエーションによって5年間で農地として回復できる方策を、今後2年程度の間に特定・開発することが十分に可能だ」(徳永氏)という。
政府は「復興」という大義名分のもと予算規模を拡大させているが、政府がやっている除染作業は、仮設住宅の建設と同様、無駄以外の何物でもない。
環境省は、地元を無視して決めた最終処分場の候補地を選び直すことにしたとのことである。
最終処分場 候補地の地域振興策検討 (date) 2013年3月28日 (media) NHKニュース さんが書きました:
放射性物質を含む汚泥や焼却灰の最終処分場を巡って、環境省が候補地の選定方法を見直したことを受けて、28日、宮城県では見直し後初めて、県内の自治体の意見を聞く会議が開かれ、環境省の井上副大臣は、候補地への地域振興策を検討し、地元の意見を重視する考えを示しました。
放射性物質が一定の濃度を超える汚泥や焼却灰のうち、宮城など5つの県で出たものについて、環境省は新たに最終処分場を建設して処理する方針です。
このうち、候補地を提示した茨城と栃木で反対意見が相次ぎ、環境省は、先月、選定方法を見直し、すべての県で候補地を選び直すことを決め、地元の市町村長らから意見を聞く会議を新たに設置しました。
28日、見直し後宮城県で初めての会合が仙台市で開かれ、村井知事や県内の35すべての市町村長らが集まりました。
会議では、環境省の井上副大臣が「これまで地元との協力が不十分だったが、今後は地域の意向を尊重していきたい」とあいさつし、地元の意見を重視する考えを示しました。
会議では、参加した自治体から「保管場所がひっ迫しており、一日も早く方向づけしてもらいたい」とか、「地域ごとの自然条件や実情を詳しく知ってほしい」という要望がでたほか、「候補地となった自治体の負担が大きく、具体的な振興策などがないと前に進めない」といった指摘が相次ぎました。
振興策を巡っては県側がこれまでも要望していて、井上副大臣は「政府全体の問題になるので、ほかの省庁と相談していきたい」と述べ、候補地となる自治体への地域振興策を検討する考えを明らかにしました。
これを受けて、県では、候補地になった自治体に必要な具体的な振興策や、候補地をどう絞り込んでいくのかなどについて、意見を取りまとめたうえで、環境省側に示すことを決めました。
環境省は、ほかの4つの県でも、来月、市町村長の意見を聞く会議を開き、建設に向けた地元の理解を得たいとしています。
自治体への地域振興策と引き換えに迷惑施設の受け入れを要請するとはいかにも自民党的なやり方であるが、汚染物質は、人が住んでいる各地に分散させるよりも、人が住んでいない汚染源に集める方が、処分の方法として正しい。福島第一原発とその周辺地は、人が住んでいないのだから、ここを最終処分場にすれば、地域振興策など講じる必要はない。必要なことは、地権者から土地を買い取ることだけだ。
伊藤博敏は、管政権が「汚染の激しい地区の将来的な国有化と、そこを核汚染物質の処理場とする案を密かに温めていた」と推測し、そうした案には「住民ではなく国家にとってのメリット」しかないと言う[6]。その後の管政権、あるいは民主党政権の動きを見る限り、そうした案があったのかどうか怪しいのだが、その案が住民のメリットにならないという伊藤の考えはおかしい。帰ることができるようになる見込みもないのに、将来元通りの生活ができるという幻想を抱かせ、不動産を塩漬けにさせておくよりも、国が不動産を買い取り、核汚染物質の処理を行うという形で有効活用した方が、国にとってメリットになるだけでなく、元住民にとっても、売却で得た資金を使って、汚染されていない地域で生活を再開できるのだから、メリットがあると言えるだろう。
ついでに使用済み核燃料の最終処分場にもするという案に関しては、福島の地下の岩盤が安定しているかどうかとか、地下水脈にぶつからないのかどうかといった要素を勘案して決めなければならない。10万年間管理しなければいけないのだから、候補地選びは慎重にしなければならない。日本に安全な場所がないなら、国外に見出すしかない。
使用済み核燃料をモンゴルに貯蔵 日米との合意原案判明 (date) 2011/07/18 (media) 47NEWS さんが書きました:
モンゴル産のウラン燃料を原発導入国に輸出し、使用済み核燃料はモンゴルが引き取る「包括的燃料サービス(CFS)」構想の実現に向けた日本、米国、モンゴル3カ国政府の合意文書の原案が18日明らかになった。モンゴル国内に「使用済み燃料の貯蔵施設」を造る方針を明記し、そのために国際原子力機関(IAEA)が技術協力をする可能性にも触れている。
モンゴルを舞台としたCFS構想が実現すれば、核燃料の供給と、使用済み燃料の処分を一貫して担う初の国際的枠組みとなる。福島第1原発事故を受け、当面は構想の実現は難しいとみられるが、民間企業も含め後押しする動きが依然ある。
こういう案に対しては「自国で使った燃料のごみを他国に押し付けるのはけしからん」といった非難が投げかけられるものであるが、10万年間管理しなければいけないことを考えるなら、日本人とモンゴル人の子孫が、10万年間も同じ場所に住み続けるということはないのだから、民族の利害よりも人類全体の利害を考えて、世界で最も安全な場所を選ぶべきだろう。
桜田義孝文部科学省副大臣が、2013年10月5日に千葉県野田市での会合で、東京電力福島第一原発事故で放射能に汚染されたゴミから発生した焼却灰を「原発事故で人の住めなくなった福島に置けばいい」と発言し、顰蹙を買っている。下村博文文部科学相は、8日朝の会見で「福島の人は一番の被害者、寄り添って、早く復旧復興しないといけない」と言い、桜田発言を「福島の人たちの心情を十分に理解していない発言」として、桜田学副大臣に厳重注意した。佐藤雄平福島県知事も、8日の県議会総括審査会で「傷口に塩を塗るもので遺憾なことだ」と不快感を示した。
桜田副大臣は、発生者責任の観点から東電の敷地内で管理したらどうかという趣旨で発言したと釈明しているが、放射性廃棄物が発生した都道府県内で処理するというのが汚染対策特措法の基本方針であるため、問答無用で却下された。この他、高野光二福島県議会議員が2013年9月26日の代表質問で「福島第一原発周辺の一定範囲を国が買収し、除去土壌などの最終処分場を整備すべき」と発言したのに対して、松本幸英楢葉町長は「避難住民の意思を無視している」、「国が県外に設置する方針を示している中で、非常に憤りを感じている」と批判している。しかし、各都道府県とも、最終処分場をどこに建設するかをめぐってもめているのだから、桜田や高野の提案は傾聴に値するのではないか。
箒でごみを集めるという日常的なケースを引き合いに出すまでもなく、一般的に言って、汚物が散らばっている時は、まずそれを一箇所に集めるのが汚染処理の基本である。汚物は、それ自体が高エントロピーなのだが、拡散すると位置のエントロピーも増大する。放射性廃棄物はそれ自体のエントロピーを縮減することは困難なので、位置エントロピーを縮減することが第一の課題となる。その際、各都道府県ごとに分散的に集めることには合理性がない。むしろ、最も汚染されており、かつ今も汚染を続けている一つの源泉地に集約する方が合理的である。それが法に反するというのなら、変えるべきは法の方である。
下村大臣は「復旧復興」を口にしているが、福島第一原発周辺がもとの人が住める場所に戻る見通しは全く立っていない。東電の廣瀬直己社長は、10月7日の参議院経済産業委員会で「現在も毎時1000万ベクレルの追加的放出がある」と述べ、放射性物質の海洋への放出のみならず、大気への放出もが継続的に続いていることを認めている。国際原子力事象評価尺度レベル7という点で同じチェルノブイリ原子力発電所事故では、30年近くたった今でも原発から半径30km以内の地域には人が住めないという現状に鑑みるなら、福島第一原発周辺もそうなると想定するべきだ。政治家たちは、この点を指摘すると、避難住民の心を傷つけるとか言って浪花節的な反発をするものだが、避難住民の心を傷つけまいとして、福島を元通りに戻すなどといった実現不可能な約束をする方が、さもなくば別の土地で生計を立てるというもっと有望な選択肢を避難住民から奪うのだから、よっぽど罪は重い。
避難住民は、元通りの生活に戻るということを断念した方がよい。私たちが今するべきことは、福島第一原発周辺を事故前の状態に戻すことではなくて、マイナスの価値しか生まなくなったこの土地を少しでもプラスの価値を生み出す場にするように努力することである。私は、汚染土壌や焼却灰を福島第一原発周辺に集約し、そこでナタネやトウモロコシを植え、バイオディーゼルやバイオマスエタノールを製造しながら、有害物質を除去するバイオレメディエーションを提案した。それから2年近くたっているが、最終処分所の建設はまだ行われていないので、今からでも実行しようと思えばできるのだが、そういう動きにはなりそうにもない。
自民党もようやく避難者全員の帰還が無理であることを認めるようになったようだ。
「この地域住めないと言う時期来る」原発避難で石破氏 (date) 2013年11月3日 (media) 朝日新聞
自民党の石破茂幹事長は2日、東京電力福島第一原発事故で避難した被災者の帰還について「『この地域は住めません、その代わりに手当てをします』といつか誰かが言わなきゃいけない時期は必ず来る」と述べ、除染基準の見直しなどで住民が帰還できない地域を明示すべきだとの考えを示した。政府は希望する避難者全員の帰還を原則としているが、石破氏の発言はこの原則を転換すべきだとの考えを示したものだ。
廣島・長崎で除染したという話はきいたことがないが、人は住んでいる。実は必要ないんじゃないの?(禁句?)
どちらも大量の放射性物質を出すのですが、福島第一原子力発電所事故では原爆よりも半減期の長い核種が大量にまき散らされたので、除染が重要な課題となります。半減期が30年と最も長い放射性セシウム137に関して言えば、福一は原爆の168.5倍まき散らしたから、広島や長崎のように自然な減衰を期待するわけにはいきません。同じぐらい半減期が長いストロンチウム90も広島原爆の三倍ほど出しています。詳しくは以下の資源エネルギー庁の文書を参照してください。
資源エネルギー庁「よくある質問とその回答」 Q 45.
東京電力福島第一原子力発電所からの放出量については、原子力安全・保安院において、核種ごとに解析による試算を行っており、放射性セシウム137については、計約1万5千テラベクレルと推定しています。なお、この推定は、昨年6月に公表した「IAEA閣僚会議に対する日本国政府の報告書」にも記載しています。一方、広島に投下された原子爆弾については、「原子放射線の影響に関する国連科学委員会2000年報告附属書c」のデータから核種ごとに試算しました。放射性セシウム137の試算結果は約89テラベクレルです。東京電力福島第一原子力発電所の試算値約1万5千テラベクレルは、原子爆弾の試算値約89テラベクレルで単純に割ると約168.5倍の値となります。
2. 追記(2021年3月10日)
2011年3月11日の東日本大震災から明日で10年になる。福島第一原子力発電所事故が惹き起こした土壌汚染の問題は依然として解決していない。政府は、除染や土壌の中間貯蔵にすでに5兆円超を投じたが、最終処分まで含むと費用はさらに膨らむ見通しだ。除染廃棄物は、中間貯蔵施設で一時保管した後、2045年までに県外で最終処分することが法律で定められているものの、最終処分場をどこにするかはまだ決まっていない。
汚染土壌を県外で最終処分することには「負担を全国で引き受ける」という感情的メリット以外に何らの合理性もない。最終処分場の選定でもめる上に、汚染土壌の掘削と運搬に巨額の追加費用がかかる。そもそも汚染対策は、感染対策と同じで、封じ込めが大原則であって、わざわざそれと逆のことをするのは愚の骨頂なのである。それにもかかわらず、日本の政治家が、敢えて非合理な政策を打ち出すのは、彼らが、経済的合理性よりも心情の美しさの方が重要と思っているからだ。マス・メディアも「被災地の人々の気持ちに寄り添え」という感情論的な論調の報道をして、それを後押ししている。
心情倫理と責任倫理というマックス・ヴェーバーの区別を用いるなら、日本の政治家の大半は後者よりも前者を重んじる。心情が美しければ、手段が非合理で、その結果どれだけ税金を無駄遣いしても責任は問われないと思っているということだ。その一つの典型例が、福島県沖で進められていた浮体式洋上風力発電事業(ふくしま未来)である。これは、原発事故からの復興の象徴にしようと、合計約600億円を投じて官民連携で進めてきた経済産業省の委託事業なのだが、採算が見込めないことから、2020年12月に、建設した設備を全撤去して、事業から撤退することが決まった。
福島県は、もともと石炭産業で栄えた地域であったが、エネルギー革命によって石炭の需要が減る中、新エネルギー源として原発を誘致した。その原発が挫折したのだから、代わりとなる新エネルギー源を求めようとしたことは、心情としては理解できる。しかし、実際に風力発電事業をしようとするなら、その計画に経済的合理性があるかどうかを事前に吟味するべきであった。ヨーロッパでは、風況の良い遠浅の海底を選んでウインドファームを建設し、成功を収めた。ところが、日本では、福島県沖合が風力発電に適さないのにもかかわらず、復興の象徴にしたいという心情優先で、経済的合理性を無視した結果、600億円が無駄になったのである。
経済的合理性を重視するなら、最終処分は県外ではなくて、現地で行うべきだ。現在、避難指示の解除に伴い、住民の帰還が進んでいるが、居住率は六割程度で伸び悩んでいる。他方で、除染事業の従事者の数は増えている。ここに復興のヒントがある。政府は、事故発生以前の状態に戻そうとしているが、できもしない約束をするよりも、ピンチはチャンスの発想で、むしろ除染を福島の新たな産業に育てるようにするべきだろう。
3. 参照情報
- 日野行介『除染と国家 ― 21世紀最悪の公共事業』集英社 (2018/11/21).
- 児玉龍彦『放射能は取り除ける ― 本当に役立つ除染の科学』幻冬舎 (2013/9/11).
- 児玉徹『バイオレメディエーションの基礎と実際』シーエムシー出版; 普及版 (2003/2/1).
- ↑ここでの議論は、システム論フォーラムの「原発事故後の除染はどのように行うべきか」からの転載です。
- ↑Digital Globe. “Earthquake and Tsunami damage-Dai Ichi Power Plant, Japan" Licensed under CC-BY-SA.
- ↑チェルノブイリ救援・中部「ヒマワリ栽培による放射能汚染土壌の浄化は可能か」2011年8月17日 執筆 池田, 監修 河田.
- ↑除染費、1兆数千億円に=中間貯蔵施設整備で拡大も―環境省 (date) 2011年9月29日 (media) 朝日新聞
- ↑廃棄パンから効率的にエネルギーを取り出す「水素・メタン二段発酵技術」を確立
- ↑「福島を除染ゴミと使用済み核の最終処分場に!」という民主党政権の“本音”が表面化する新年 (date) 2012年01月05日 (media) 現代ビジネス
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