最も望ましいエネルギー源は何か
福島第一原子力発電所事故により、原子力にエネルギー源をシフトさせていこうとする政府と電力会社の計画は頓挫し、太陽光や風力による発電を普及させるべきだという主張が増えつつある。しかし、私たちが最優先するべきは、安くて、安全で、再生可能・持続可能で、環境に良いエネルギー源であり、その第一の候補が有機物発電である。[1]
1. 問題提起
人類文明のシステムを維持・発展させていく上で、低エントロピーなエネルギー(以下、たんにエネルギーと呼ぶ)の持続可能な供給は不可欠である。利用可能なエネルギー源は、様々あるが、そのうちのどれを利用することがもっとも望ましいであろうか。
私は、「石油に代わるエネルギーは何か」で、「最も理想的な代替エネルギー資源はメタンだ」と2000年6月に主張した。この主張は、11年後の今でも基本的には変わっていないが、メタンだけだと量的に少ないので、もっと範囲を広げるべきであるとするならば、望ましいエネルギー源は有機物であるということになる。
有機物発電が望ましいのには、いくつか理由がある。まず、有機物発電は、他の発電方式よりも、コスト・パーフォーマンスが良い。米国エネルギー省は、2010年に、2016年に新規発電所を運転開始するとした場合の米国における平均的な発電のコストを以下のように試算している。
これを、1MWh 当たりのコストが低い順に並べると、以下のような順位となる。
順位 | 発電の種類 | 発電単価 |
---|---|---|
01位 | 天然ガス 改良型コンバインドサイクル発電 | 79.3$/MWh |
02位 | 天然ガス 従来型コンバインドサイクル発電 | 83.1$/MWh |
03位 | 従来型石油 | 100.4$/MWh |
04位 | 石炭液化発電 | 110.5$/MWh |
05位 | バイオマス発電 | 111$/MWh |
06位 | 天然ガス 改良型コンバインドサイクル発電(CCS) | 113.3$/MWh |
07位 | 地熱発電 | 115.7$/MWh |
08位 | 改良型原子力発電 | 119$/MWh |
09位 | 水力発電 | 119.9$/MWh |
10位 | 天然ガス 改良型燃焼タービン発電 | 123.5$/MWh |
11位 | 石炭液化発電(CCS) | 129.3$/MWh |
12位 | 天然ガス 燃焼タービン発電 | 139.5$/MWh |
13位 | 風力発電 | 149.3$/MWh |
14位 | 風力発電(海上) | 191.1$/MWh |
15位 | 太陽熱発電 | 256.6$/MWh |
16位 | 太陽光発電 | 396.1$/MWh |
これを見てもわかるとおり、1位から6位までの上位が、有機物をエネルギー源とする発電によって占められている。中でも、最もコスト・パーフォーマンスに優れているのは、天然ガスを燃料とする改良型コンバインドサイクル(Advanced Combined-Cycle)発電である。原発と水力は中位で、新エネルギーの代表格とされている太陽光、太陽熱、風力による発電は、最下位である。
コンバインドサイクル発電は、燃料を燃やして発生するガスの圧力でガスタービンを回し、発電を行い、その時に発生する余熱で水を沸騰させ、その圧力で蒸気タービンを回し、さらに発電を行うことで、エネルギーの変換効率を高めている。改良型コンバインドサイクル発電は、タービン入口温度を高めることで、ガスタービンの効率を改良し、入り口温度が1600℃の場合、発電端熱効率は60%以上(低位発熱量)となる[3]。
燃料電池を使うならば、エネルギー効率はさらに高くなる。JX日鉱日石エネルギー株式会社が、2011年10月から家庭向けに販売するSOFC型燃料電池のエネルギー効率は、コージェネレーションを行う場合、87%にまでなる[4]。燃料電池は、水素を燃料としているが、水素のもっとも安価な供給方法は、メタンをはじめとする有機化合物の改質である。JX日鉱日石エネルギー株式会社がやっているように、既存の都市ガスのインフラを使うのが現実的である。
これに対して、原子力発電の熱効率は、30%程度で、残りは廃熱として排出される。また、発電所と消費地が遠く離れているので、送電ロスも大きいが、送電ロスも、廃熱という形で排出される。廃熱はゴミの最終形態であり、廃熱を大量に出す原子力発電は、たとえ安全に行ったとしても、環境に良いとは言えない。水力発電も、発電所が消費地から遠いので、同じ問題を抱えているが、火力発電所(特に未利用資源利用型発電所)は消費地の近くに立地できる。燃料電池などは、一家に一台置けるぐらいである。発電所が消費地に近いほど、コージェネレーションはやりやすくなる。
有機物発電のもう一つのメリットは、電気や熱を好きな時に、好きなだけ取り出すことができるという所にある。なかでもガスタービンエンジンは、始動性に優れている。これに対して、原子力発電は、需要に合わせた出力調節ができず、出力調節をしようとするなら、揚水発電を行わなければいけない。太陽光発電や風力発電なども、出力調節を自由に行おうとするなら、電池に蓄電しなければならない。これらは、いずれもコストを押し上げることになる。これに対して、有機物は、それ自体が蓄電池の役割を果たしている。
有機物発電の最大の欠点と言われているのは、二酸化炭素の排出であるが、これも、カーボン・ニュートラルを実現するなら、問題とはならない。ランキングの6位に“天然ガス 改良型コンバインドサイクル発電(CCS)”とあるが、“CCS”は、「二酸化炭素回収・貯蔵 (carbon capture & storage)」という意味である。発生する二酸化炭素を回収し、地中や水中に埋めても、なお他の発電方式よりも電力単価が安いのである。
もとより、二酸化炭素をまるで核廃棄物のように地中等に埋めることには賛同できない。二酸化炭素は光合成の材料であり、火力発電所や燃料電池とビニールハウスをパイプラインで結合させ、発電で生じる二酸化炭素と廃熱を農業生産の改善に結び付ける方が、より生産的な炭素固定となる。品種にもよるが、一般的に言って、温度と二酸化炭素濃度を通常よりも高めると、光合成速度が高くなり、作物の育ちがよくなる。ビニールハウスの温度を保つために重油が燃やされることがあるが、それは資源の浪費であり、有機物発電の副生成物を利用するべきである。
しばしば、少しでも石油や石炭といった地中の有機物を燃料として使うなら、カーボン・ニュートラルは成り立たないという主張を見かけるが、植物は光合成の生産物を地中に固定するので、こうした主張は正しくない。地中に固定する割合は、植物により異なるが、ヨーロッパアカマツで3割、冷温帯落葉樹林で6割である[5]。ということは、その割合で、地中の有機物を燃料として使用しても、カーボン・ニュートラルは実現するということである。
有機物を燃料と利用すると言っても、それは利用方法としては最後の段階となる。石油は最初は化学素材として使用し、良質の木材は建築資材として使用し、廃棄される段階で、燃料にする。一時期流行したバイオ燃料のように、作物の可食部分を燃料にすることは好ましくない。他に用途がなくなった段階で、発熱・発電用に使用するカスケード利用が一番合理的である。
日本は、国土の約7割が森林であり、有機物発電の燃料に恵まれている。環境保護論者の中には、森林伐採を環境破壊と決め付けている人が多いが、適度の間伐は、下草の生育を促進し、土壌の固定化と保水力の向上をもたらすので、放置するよりも好ましい。また、炭素の地中への固定化という観点からしても、成長の止まった木を放置するよりも、それを伐採し、新たに植林した方がよい。
2011年3月に起きた福島第一原子力発電所事故により、石炭 → 石油 → 原子力 というようにエネルギー源をシフトさせていこうとする政府と電力会社の計画は頓挫し、安くても危険な原子力発電よりも、高くても安全で環境によい、太陽光や風力による発電を普及させるべきだという主張が増えつつある。しかし、私たちが最優先するべきは、安くて、安全で、再生可能・持続可能で、環境に良いエネルギー源であり、私はその第一の候補が有機物発電であると思う。
二酸化炭素を直接地中に埋めるのではなく、二酸化炭素から、例えば、炭酸ナトリウムを作り、水酸化カルシウム等と混ぜて地中に埋めるといいのではないでしょうか? そうすれば、それは植物に水と一緒に吸収され、植物の成長にも直接に、結びつくような気がします。私は、ちょっと、これで、 植物の生育実験をやりたくなってきました。
炭酸ナトリウムと水酸化カルシウムを反応させれば、炭酸カルシウムと水酸化ナトリウムになりますが、炭素を炭酸カルシウム(石灰石や大理石)として保存することは、自然界で起きています。サンゴなどがその典型です。サンゴを守ることは、炭素固定という観点からも非常に重要な課題です。
なお、石灰は、酸性土壌の中和に用いられていますが、中和により、炭酸は炭素は二酸化炭素となり、空中に放出されるので、光合成には直接活用されることはないでしょう。1804年に、ニコラス・テオドール・ド・ソシュールがソラマメの実験で示した通り、植物は、光合成に必要な二酸化炭素を気孔から取り入れており、根から取り入れることはしていません。
そうでしたか。 本当にありがとうございます。 無駄な実験をやらなくて済みました。
でも、二酸化炭素を炭酸ナトリウムとして、水酸化カルシウムと混ぜて、地中に埋めておけば、炭素固定につながることは確かなようですね。
それが地下で水に溶けたとしても、炭酸カルシウムとして炭素固定されるのは良いと思います。
また、海の中でも、サンゴによって炭素固定がおこなわれているんですね。
海中でもサンゴの発育で、二酸化炭素の固定に、つながっているというのは正直、知りませんでした。
貴重なご意見、本当にありがとうございます。
2. 参照情報
- 小出裕章『原発のウソ (扶桑社新書) 』扶桑社 (2011/6/1).
- 日本エネルギー学会天然ガス部会『天然ガスのすべて―その資源開発から利用技術まで』コロナ社 (2008/9/1).
- 熊崎実『熱電併給システムではじめる 木質バイオマスエネルギー発電』日刊工業新聞社 (2016/9/29).
- 電力50編集委員会『電力・エネルギー産業を変革する50の技術』オーム社 (2021/2/18).
- 長山浩章『再生可能エネルギー主力電源化と電力システム改革の政治経済学―欧州電力システム改革からの教訓』東洋経済新報社 (2020/2/28).
- 山家公雄『日本の電力改革・再エネ主力化をどう実現する ― RE100とパリ協定対応で2020年代を生き抜く』インプレスR&D (2020/3/27).
- ↑ここでの議論は、システム論フォーラムの「最も望ましいエネルギー源は何か」からの転載です。
- ↑U.S. Energy Information Administration. “Estimated Levelized Cost of New Generation Resources, 2016" Annual Energy Outlook 2010, December 2009, DOE/EIA-0383(2009).
- ↑三菱重工「世界最高効率のJ形ガスタービン実証運転で世界最高のタービン入口温度1,600℃を達成」2011年5月26日.
- ↑JX日鉱日石エネルギー株式会社「いよいよ10月よりSOFC型エネファームを販売開始」2011年9月15日ニュースリリース.
- ↑独立行政法人国立環境研究所「分光画像計測による地中植物根の自動分類―衛星観測技術の応用により地中生態画像の解析に成功―」平成20年1月7日(月).
ディスカッション
コメント一覧
私は永井さんと同じで、再生可能エネルギーは高コスト低効率であるがゆえに却って資源とエネルギーの浪費にしかならないと考えていますが、アップルやグーグルといった先進企業もデータセンターに太陽光発電を大規模に取り入れたり、イーロン・マスクのような起業家もソーラーシティを立ち上げたりして、新エネルギーの普及に努めています。再生可能エネルギー事業の大半は政府からの補助金がないと継続が難しく、ソーラーシティなんかも例外ではないと思いますが、彼らは近い将来の技術革新を信じているのでしょうか?つまり助成なしで採算の合う事業になると考えているのでしょうか。
私は彼らがエコノミーとエコロジーを分けて考えていて、後者の視点で米国人らしく慈善的な取り組みの一環として、これらの事業を推進しているような気がしてなりません。あるいは再生可能エネルギーが決してエコロジーではないことを考えると、政治的な思惑なんかもあったりするのかなと勘ぐってしまいます。
ソーラーパネルは有害物質を含んでいるので、環境に悪影響を与えないように廃棄処分するには、コストが高くつきます。「環境に良いから」と言って買っておきながら、不法投棄したなら、矛盾になります。買う時は、廃棄処分費も計算に入れて、決めなければいけませんね。
再生可能エネルギーの本質的問題
太陽光にしても風力にしても、利用しようとすれば密度の薄いエネルギーを集める「集荷」技術が必要です。薄いものを濃縮するのはエントロピーの逆行過程に相当するので自動的には進みません。今後技術の進歩があったとしても、エントロピーの逆行過程が自動的に起こるような技術はありえません(熱力学の第二法則)から、集荷のプロセスを進めるには、外からエネルギーを加えたり、得られたエネルギーの一定部分をそのために供じる必要があります。現在の太陽電池の「効率」は電池単独の効率であって、集荷を含む電力システム全体の効率ではありません。集荷のプロセスで効率がどの程度低下するかは規模や方法にも依存しますが、正の出力になりうるかどうか判らないほど厳しい可能性があります。
さらに、太陽光や風力は時間変動が大きいので、人間が使うことのできる電力(一定の出力)を得るには、溜めたり削ったり足したり、といった平準化技術が不可欠です。これもエントロピーの逆効過程に相当します(統計力学的)。電力の平準化には電池が想定されますが、電池を作る資源・エネルギーが大きいことから、経済的に十分成立するかどうか確かとは言えない状況です。現状では系統電力網のバッファー効果に頼って変動出力をそのまま組み入れているようですが、系統電力が再生可能電力より十分に大きい故に均されているように見えるだけです。電力源が太陽電池や風力だけになったら、家庭に来ている電気の電圧が時時刻刻大きく変動するために、電気器具は使い物にならなくなるでしょう。
上に述べた集荷と平準化は原理的な問題であって、工夫や努力だけでは解決できない部分を含みます。化石燃料から再生可能エネルギーへの移行は、技術開発だけでは実現しない可能性が大きいと言わざる得ません。科学技術が何でも解決できるわけではありません。それが成り立つシステムの中では技術革新が起こりえますが、その枠組みの外では有効ではありません。我々が知っている技術、即ち産業革命以降の技術はエントロピーの増大を前提としたものでした。エントロピーの増大が起こりにくいエネルギー変換技術は、まさにその枠組を超えなければならない種類の問題です。叡智を傾けても、遅々とした歩みにしかないならないと思われます。
エントロピーの視点からはバイオマスは有用な特性を持つ資源であり研究に値するものですが、生産量が限られ生産地には偏りがあります。密度の薄いエネルギー資源ですから移動しようとすればエントロピー的に不利になります。
再生可能エネルギーはいずれもまだ完成されていないものであり、明日の人類のエネルギー需要を賄うことは困難です。技術を組み合わせて可能性を追求することになるでしょうが、石油を代替できるほどの大きなエネルギーが得られるとは、信じにくいところです。
いわゆるエネルギー問題の本質は、人類がエネルギーを使いすぎていることと言わざる得ません。エネルギー問題を数十年のスパンで解決しようとするならば、エネルギー技術の革新を待つよりも、社会や生活のあり方を変えるほうが近道ではないかと思われます。
天然の植物を用いたエネルギー利用では、リン酸塩が制約要因になるので、「生産量が限られ生産地には偏りがある」ということになりますが、この限界を超える方法として、人工光合成があります。酸化チタン製の光触媒太陽エネルギーの変換効率は、植物の0.2~0.3%を上回る1.1%を達成しました。
半導体を使う方式よりも変換効率が低いものの、触媒に用いる酸化チタンが安価であるため、「部品の製造コストは1平方メートル当たり数百円の水準」ですみます。人工光合成を用いる場所として私が期待するのは、リンなどの栄養塩濃度が低いおかげで生物の密度が極めて低い「海の砂漠」です。海の砂漠は、人間も他の生物もまだほとんど活用していない未利用資源です。砂漠といっても日光と水は豊富にあるので、ここで人工光合成をおこない、有機物を生産し、これを船で陸地まで運べば、低い地代コスト、輸送コスト、貯蔵コストで、発電や石油化学製品のための資源を供給することができるようになるでしょう。
再生可能エネルギーの本質的問題ーその2
エネルギー変換デバイスの改良に関する疑問
太陽電池を例にとれば、植物型光合成より光電変換効率が高いように思われます。さらに研究開発によって単品・見かけの効率は多少上がりつづけていますが、このような改良を続けることでエネルギー問題が解決するかというと大いに疑問です。太陽光は真昼の正午でも高々1kW/m2程度しかありません(日本の夏)。人工光合成であろうが、植物光合成であろうが、もともとのエネルギー密度が低いことを克服はできません。エントロピー問題を逃れられるものではないのです。風力発電にも似た問題があります。
人工光合成は興味深い高度な技術です。しかし高価な触媒を多用します。安価な触媒が見いだされたとしても、植物ほど安くなるでしょうか。広い面積を覆うときのコストの問題は真剣に議論されませんがそこに本質的問題があるのです。装置を作り生成したエネルギーを輸送するに要するコストや資源問題はどうなるのでしょうか。エネルギー問題における技術革新は、光エネルギー変換効率を1%2%向上させることではなく、工業(および産業革命的貿易システム)のパラダイムを超えることであるはずです。世界を股にかけてビジネスを進め、資源を移動させる人たちが評価されたのはつい昨日のことですが、そのような産業形態とは異なった形の社会が次の時代では求められているのではないでしょうか。
農業が第一次産業で工業が第二次産業と言われ、何か第二次産業のほうが近代的な印象がありますが、エントロピーを基軸に置けば、農業・あるいは生物生産は次の時代を代表する第四次産業の一部になる可能性があります。植物は基本的に種をまいて水を与えておけば、炭水化物を生産できます。効率は低いものの資源をほとんど消費しません。工業の時代には低レベルと思われた技術に、次の時代の可能性があることを指摘したいと思います。
最も望ましいエネルギー源は何か、という問いに対して、10年間で考えるか、50年を想定して議論するかで答えは異なります。前者については多くの技術屋からの現状改良型の答えがあります。しかし、世界のエネルギー需要は膨らむばかりです。私もエネルギーの研究者の一人ですが、ここ数十年、一向に本質的解決方法が見いだされない現状を憂いています。
50年を考えれば、すでに米国のエイモリー・ロビンスがその著書「ソフトエネルギーパス」で提言したことが重要でしょう。エネルギーの商業的な価値に捕らわれるのでははなく、生活の質の価値に目を向けることによって別次元の社会システムを考えるべきと思います。
化石燃料も、それが利用した太陽光エネルギーの密度が低かったのだから、同じことが言えます。なお、海の砂漠は亜熱帯外洋域にあり、光合成有効光量子束密度は比較的高いと予想されます。
開発の歴史の長さが違います。太陽電池の開発は19世紀から行われていますが、人工光合成の開発は20世紀の後半からです。太陽電池も、開発当初の変換効率は今よりもずっと低かったのですから、人工光合成の変換効率も今後は向上するでしょう。NEDO は、21年度までに、実証試験に移行できる水準の同10%前後にまで高める目標を掲げているそうです。
先のコメントで「部品の製造コストは1平方メートル当たり数百円の水準」と書いたにもかかわらず、コストを問題視するということは、量産すれば、需給逼迫により価格が高騰すると予想しているからなのですか。チタンのクラーク数は 0.46 で、10番目に高く、地理的に偏らずに自然界に豊富に存在するので、酸化チタンの価格高騰をそれほど心配する必要はないでしょう。
バイオマスに関してはことさら輸送コストを問題にする人が多いようですが、輸送コストはどのエネルギー形態にもたいがいかかります。最も普遍的なエネルギー形態である電気でも、送電ロスで発電量の6%程度は失われています。私の今回の提案では、船による有機物の輸送にコストがかかりますが、浮力が働くので、それほど大きくはないでしょう。またエネルギーの主要な消費地が海岸近くにあるので、陸揚げ後のコストも大きくはないと予想されます。
emuhakase さんは工業社会から工業社会以前に回帰するパラダイム転換が理想だと考えているのですか。私はイノベーションをもっと前向きに考えているし、工業社会から情報社会へのパラダイム転換を前進させるべきだと考えています。かなり先の話になりますが、コンピュータへのマインド・アップローディングが可能になれば、宇宙への移住はより容易になるでしょう。現在私たちは、宇宙に放射されている太陽エネルギーのごく一部しか利用できていませんが、そうなれば、利用できる割合をさらに増大させることができるようになるでしょう。
再生可能エネルギーの本質的問題-その3 永井さんの主催する論壇に期待すること
数値や専門家の考える近視眼的な技術予測よりも、概念的に問題を把握してその本質をとらえる方法を確立されることが、このような高度な論壇サイトの役割ではないかと期待しています。論壇として他に代わるものがないので、これを築かれた永井さんの慧眼に感心しております。
発表される数値について、若干コメントしたく。
工学は理学と異なります。生産技術はもっと異なります。原材料の値段や資源量から計算されるものはあくまでも特定条件下の理論値であって、現実に得られるであろう製造物の値段とは全くの別物と考えたほうが安全でしょう。NEDOや当該分野の論文などに提示されている試算、学会や企業団体あるいはIEAのような組織で扱われる数値もそのまま議論の対象にしない方が安全と思われます。専門家は、特定の条件での特殊な数値であることを十分理解して議論の下敷きにしていますが、専門外の方がその数値をありうるもののように扱うと、技術の本質の理解に至らない結果を招くのではないかと恐れています。
化石燃料は太陽光によって育った資源と言われます。数億年にわたって蓄積されたものですので、その時々の効率は著しく低いものです。数億年かかって溜めたプロセスを、工学的にしかも短時間で再現できる可能性があると言われても簡単には信じがたいところです。ともあれ、特定技術の可能性を深掘りしたり検証しようとすることは如何なものでしょうか。専門家が学会でやっていれば良いことのように思います(結論が出るまでに長い時間がかかるでしょう)。
エネルギーと人間のありかた、未来の人間のあり方に技術がどのように役立つかを議論の出発点にできないでしょうか
産業革命の時代は、エネルギーをお金に例えれば、返す当てもないのにサラ金から金を借りて使いまくったようなものです。その借金をどうするかが問われています。残念ながら、人間にとって都合の良い、大量に得られて環境にも問題のない新しいエネルギー資源は見つかっていませんし、そのようなものがあるとは考えにくいのです。時代に逆行しようというのではありませんが、人間が分散して住み、乏しい再生可能エネルギーをうまく使う方法を見つけることが、次世代の人類が(幸福に)生きるための最善の策(物理学にできる最大のこと)であるとエイモリーロビンスは説いています。私は彼の議論(その建て方)が、エネルギー問題を考える上で最も妥当なものの一つではないかと思っています。
たしかに、公表されている数字は、第三者が検証したものではないのですから、疑ってかかるべきものかもしれません。しかし、人間が自然界の光合成以上の物を作れないと最初から決めつけるのはどうかと思います。人工光合成の開発は、人工知能の開発と同様に、自然界からその原理を学びつつ、自然界の産物以上の物を作ろうとする試みです。しばしば「鳥か飛行機か」が問題になりますが、私たちにとって重要なことは鳥と同じように羽ばたいて飛ぶことではなくて、その浮遊原理を理解した上で、鳥以上の輸送力を持った人工物を作ることであり、人類はそれに成功しました。人工光合成や人工知能も同じ目標を持つべきでしょう。
化石燃料は時間的なスケールの拡大によって、エネルギー密度を濃縮しています。私の提案は、時間的なスケール拡大に代わって、空間的なスケール拡大により、エネルギー密度を高めようとするものです。第一段階の空間的スケール拡大は、海の砂漠あるいは陸の砂漠といった、生命がほとんど利用していないが、太陽高度が比較的高い場所で人工光合成を行うことです。陸の砂漠での光合成の話はしませんでしたが、パイプラインで淡水の水源から水を供給することで可能になるでしょう。第二段階は、地球に降り注がない太陽放射の利用です。宇宙に水が存在しない以上、別の変換技術が必要になりますが、地表面で行う変換以上に空間的スケール拡大の余地があります。実現には時間がかかりますが、既存有機物資源(特に天然ガス)のストックが豊富であるため、焦る必要はないと思います。実際、2016年現在、原油価格は供給過剰で停滞しています。
インターネットが中央集権的な従来のマス・メディアとは異なって分散的であることからもわかる通り、情報革命はグローバルなスケールで脱中心化と双方向化をもたらします。エネルギーの地産地消といっても、エネルギー産業がローカルに閉じるプレ近代とは異なり、ポスト近代の情報化社会では、スマート・グリッドなどの技術により、ローカルな地産地消を超えた需給の調整が分散的に行われるものと予想します。地産地消は、経済的には必ずしも合理的ではないので、電力自由化とスマート・グリッド化を通じ、市場原理による資源の最適配分を目指さなければなりません。
議論が微妙に食い違っているようです。いわゆる自然エネルギーと、工学的にそれを利用できることは別物と申しあげています。人間がエネルギー特に電力を利用するときには、一定品質のエネルギーを想定してますが、それには、自然エネルギーの「集荷」と「平準化」が不可欠です。複雑系である自然エネルギーを大規模に利用することは、人間の科学技術には経験のないことです。少なくとも、物理学の根底から考えれば、単純な工学の工夫では困難であることを、論を立てようとする方々は、ご認識いただきたいと思います。
マスコミの論調もそうですが、自然科学的エネルギーと工学でいう
エネルギーの概念を同一の議論の領域にまとめようと試みている方が多いように思われます。それが誤解を招きます。
自然エネルギーの利用にご興味のある方は、細分化した技術の優劣ではなく、是非、「集荷」と「平準化」の方法を論じて貰いたいものです。人間が生活を変える以外に対処方法が見つからない(それでもかなり難しい)というのが、エモリーロビンス以降の認識と思います。
地球上に降り注ぐエネルギーは、光合成以外にも多くの仕事をします。潮流を作り、気象を保つことにも多くが使われます。人間が使うエネルギーは地球に降り注ぐエネルギーの一万分の一程度ですが、ご都合良く自然に人間へのエネルギー分与を増加願えるかどうかは、わかりません。すでに危険水域かも知れず、かなり難しいのではないかと思う次第です。
自然エネルギーの利用について石油危機以降多くの提案がありますが、ある程度の規模で実現した例を知りません。政府が莫大な補助金を投入して風力や太陽光利用が試みられていますが、税金投入抜きでは成り立たない現状をみれば、状況は厳しいと思わざる得ません。人工光合成がそれ以上のものであるかどうかは歴史の判断かも知れませんが、これまでの所多くの化学的光エネルギー変換は、到底技術になり得るレベルに達していないことをご想起いただきたく存じます。
地形や気象も様様ですから、ミクロに見れば色々な応用可能性や例外的な場所もあるでしょうが、熱力学や統計力学の壁を越える本質的技術は現れていません。研究費を求める技術者の押し売りや、マスコミの無理解から来る錯誤の言葉は聞かず、是非、大局に立ってエネルギー問題を論じていただきたいところです。
何に対する御批判なのかよくわかりません。御指摘の点はむしろ有機物発電のメリットではないのですか。本文から引用しましょう。
有機物発電は自然エネルギーを有機物の結合という形で「集荷」し、「平準化」しています。人工光合成も、取り出した水素をそのまま燃料電池で発電に使うこともできますが、それを二酸化炭素と合成して有機物にするのは、たんにプラスティックの原材料にするからだけでなく、そうした後でも、燃焼という形であれ、燃料電池という形であれ、必要な時に必要なだけそこからエネルギーを取り出すことができる高品質の資源として保管するためなのだろうと思います。
私もそういう認識です。「地球は熱機関としてどのような仕事を行うか」を参照してください。もっとも人類にとって重要な働きは、人類が作るエントロピーを熱として宇宙に捨てる仕事です。この仕事のおかげで、人類の文明は持続可能となっています。
人工光合成をしたからといって「熱機関としての地球」の動作に悪影響を及ぼすとは考えにくい。
だからこそ、私は「市場原理による資源の最適配分を目指さなければなりません」と書いたのです。「自然エネルギー」による発電であれ、原子力発電であれ、政府が補助金を出さないと経営が成り立たないようなコスト・パフォーマンスが低い発電方法を無理やり実用化することに、私は反対しています(有害な発電方法に対しては、外部不経済を内部化すればよい)。人工光合成も同じです。補助金なしで経営が成り立つまで実用化するべきではありません。市場原理に任せると、現状では有機物発電、特に天然ガス火力発電が有利になります。幸い天然ガスのストックは豊富なので、当面これに依存することができます。もし枯渇しそうになれば、発電単価が上昇するでしょうから、その時は他の発電方法、例えば、人工光合成などにはチャンスでしょう。
永井さんとemuhakaseさんの議論は、2015年(一昔)前の議論です。再生可能エネルギーのコストの問題ではありません。地球存続、人類が存続の地球環境の危機の人類の基本認識に変化が有ったから(コップ26の宣言)化石燃料の消費は地球環境を災害を頻繁に興し、ヒトが棲みにくくなる環境破壊の問題であるから、再生可能エネルギーで競争しましょう!と言う問題です。特にemさんの認識は抹殺に値する化石人間の知識です。ぼくだから無視しないでコメントしていますが、世界は地球生態系の存続のために化石燃料を使うのを後10~30年≒2050年でやめましょう!と決議したのです。故に再生可能エネルギーのより良い競争力(コスト含む)の問題を議論しましょう。終わり