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最も望ましいエネルギー源は何か

2011年10月2日

福島第一原子力発電所事故により、原子力にエネルギー源をシフトさせていこうとする政府と電力会社の計画は頓挫し、太陽光や風力による発電を普及させるべきだという主張が増えつつある。しかし、私たちが最優先するべきは、安くて、安全で、再生可能・持続可能で、環境に良いエネルギー源であり、その第一の候補が有機物発電である。[1]

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原子力発電(左)、火力発電(中央)、風力発電(右)

1. 問題提起

投稿者:永井俊哉.投稿日時:2011年10月02日(日) 16:55.

人類文明のシステムを維持・発展させていく上で、低エントロピーなエネルギー(以下、たんにエネルギーと呼ぶ)の持続可能な供給は不可欠である。利用可能なエネルギー源は、様々あるが、そのうちのどれを利用することがもっとも望ましいであろうか。

私は、「石油に代わるエネルギーは何か」で、「最も理想的な代替エネルギー資源はメタンだ」と2000年6月に主張した。この主張は、11年後の今でも基本的には変わっていないが、メタンだけだと量的に少ないので、もっと範囲を広げるべきであるとするならば、望ましいエネルギー源は有機物であるということになる。

有機物発電が望ましいのには、いくつか理由がある。まず、有機物発電は、他の発電方式よりも、コスト・パーフォーマンスが良い。米国エネルギー省は、2010年に、2016年に新規発電所を運転開始するとした場合の米国における平均的な発電のコストを以下のように試算している。

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2016年における新世代資源の推定平準化コスト[2]

これを、1MWh 当たりのコストが低い順に並べると、以下のような順位となる。

順位発電の種類発電単価
01位天然ガス 改良型コンバインドサイクル発電79.3$/MWh
02位天然ガス 従来型コンバインドサイクル発電83.1$/MWh
03位従来型石油100.4$/MWh
04位石炭液化発電110.5$/MWh
05位バイオマス発電111$/MWh
06位天然ガス 改良型コンバインドサイクル発電(CCS)113.3$/MWh
07位地熱発電115.7$/MWh
08位改良型原子力発電119$/MWh
09位水力発電119.9$/MWh
10位天然ガス 改良型燃焼タービン発電123.5$/MWh
11位石炭液化発電(CCS)129.3$/MWh
12位天然ガス 燃焼タービン発電139.5$/MWh
13位風力発電149.3$/MWh
14位風力発電(海上)191.1$/MWh
15位太陽熱発電256.6$/MWh
16位太陽光発電396.1$/MWh

これを見てもわかるとおり、1位から6位までの上位が、有機物をエネルギー源とする発電によって占められている。中でも、最もコスト・パーフォーマンスに優れているのは、天然ガスを燃料とする改良型コンバインドサイクル(Advanced Combined-Cycle)発電である。原発と水力は中位で、新エネルギーの代表格とされている太陽光、太陽熱、風力による発電は、最下位である。

コンバインドサイクル発電は、燃料を燃やして発生するガスの圧力でガスタービンを回し、発電を行い、その時に発生する余熱で水を沸騰させ、その圧力で蒸気タービンを回し、さらに発電を行うことで、エネルギーの変換効率を高めている。改良型コンバインドサイクル発電は、タービン入口温度を高めることで、ガスタービンの効率を改良し、入り口温度が1600℃の場合、発電端熱効率は60%以上(低位発熱量)となる[3]

燃料電池を使うならば、エネルギー効率はさらに高くなる。JX日鉱日石エネルギー株式会社が、2011年10月から家庭向けに販売するSOFC型燃料電池のエネルギー効率は、コージェネレーションを行う場合、87%にまでなる[4]。燃料電池は、水素を燃料としているが、水素のもっとも安価な供給方法は、メタンをはじめとする有機化合物の改質である。JX日鉱日石エネルギー株式会社がやっているように、既存の都市ガスのインフラを使うのが現実的である。

これに対して、原子力発電の熱効率は、30%程度で、残りは廃熱として排出される。また、発電所と消費地が遠く離れているので、送電ロスも大きいが、送電ロスも、廃熱という形で排出される。廃熱はゴミの最終形態であり、廃熱を大量に出す原子力発電は、たとえ安全に行ったとしても、環境に良いとは言えない。水力発電も、発電所が消費地から遠いので、同じ問題を抱えているが、火力発電所(特に未利用資源利用型発電所)は消費地の近くに立地できる。燃料電池などは、一家に一台置けるぐらいである。発電所が消費地に近いほど、コージェネレーションはやりやすくなる。

有機物発電のもう一つのメリットは、電気や熱を好きな時に、好きなだけ取り出すことができるという所にある。なかでもガスタービンエンジンは、始動性に優れている。これに対して、原子力発電は、需要に合わせた出力調節ができず、出力調節をしようとするなら、揚水発電を行わなければいけない。太陽光発電や風力発電なども、出力調節を自由に行おうとするなら、電池に蓄電しなければならない。これらは、いずれもコストを押し上げることになる。これに対して、有機物は、それ自体が蓄電池の役割を果たしている。

有機物発電の最大の欠点と言われているのは、二酸化炭素の排出であるが、これも、カーボン・ニュートラルを実現するなら、問題とはならない。ランキングの6位に“天然ガス 改良型コンバインドサイクル発電(CCS)”とあるが、“CCS”は、「二酸化炭素回収・貯蔵 (carbon capture & storage)」という意味である。発生する二酸化炭素を回収し、地中や水中に埋めても、なお他の発電方式よりも電力単価が安いのである。

もとより、二酸化炭素をまるで核廃棄物のように地中等に埋めることには賛同できない。二酸化炭素は光合成の材料であり、火力発電所や燃料電池とビニールハウスをパイプラインで結合させ、発電で生じる二酸化炭素と廃熱を農業生産の改善に結び付ける方が、より生産的な炭素固定となる。品種にもよるが、一般的に言って、温度と二酸化炭素濃度を通常よりも高めると、光合成速度が高くなり、作物の育ちがよくなる。ビニールハウスの温度を保つために重油が燃やされることがあるが、それは資源の浪費であり、有機物発電の副生成物を利用するべきである。

しばしば、少しでも石油や石炭といった地中の有機物を燃料として使うなら、カーボン・ニュートラルは成り立たないという主張を見かけるが、植物は光合成の生産物を地中に固定するので、こうした主張は正しくない。地中に固定する割合は、植物により異なるが、ヨーロッパアカマツで3割、冷温帯落葉樹林で6割である[5]。ということは、その割合で、地中の有機物を燃料として使用しても、カーボン・ニュートラルは実現するということである。

有機物を燃料と利用すると言っても、それは利用方法としては最後の段階となる。石油は最初は化学素材として使用し、良質の木材は建築資材として使用し、廃棄される段階で、燃料にする。一時期流行したバイオ燃料のように、作物の可食部分を燃料にすることは好ましくない。他に用途がなくなった段階で、発熱・発電用に使用するカスケード利用が一番合理的である。

日本は、国土の約7割が森林であり、有機物発電の燃料に恵まれている。環境保護論者の中には、森林伐採を環境破壊と決め付けている人が多いが、適度の間伐は、下草の生育を促進し、土壌の固定化と保水力の向上をもたらすので、放置するよりも好ましい。また、炭素の地中への固定化という観点からしても、成長の止まった木を放置するよりも、それを伐採し、新たに植林した方がよい。

2011年3月に起きた福島第一原子力発電所事故により、石炭 → 石油 → 原子力 というようにエネルギー源をシフトさせていこうとする政府と電力会社の計画は頓挫し、安くても危険な原子力発電よりも、高くても安全で環境によい、太陽光や風力による発電を普及させるべきだという主張が増えつつある。しかし、私たちが最優先するべきは、安くて、安全で、再生可能・持続可能で、環境に良いエネルギー源であり、私はその第一の候補が有機物発電であると思う。

Re: 最も望ましいエネルギー源は何か
投稿者:ひーろまっつん.投稿日時:2012年2月08日(水) 05:45.

二酸化炭素を直接地中に埋めるのではなく、二酸化炭素から、例えば、炭酸ナトリウムを作り、水酸化カルシウム等と混ぜて地中に埋めるといいのではないでしょうか? そうすれば、それは植物に水と一緒に吸収され、植物の成長にも直接に、結びつくような気がします。私は、ちょっと、これで、 植物の生育実験をやりたくなってきました。

Re: 最も望ましいエネルギー源は何か
投稿者:永井俊哉.投稿日時:2012年2月08日(水) 10:34.

炭酸ナトリウムと水酸化カルシウムを反応させれば、炭酸カルシウムと水酸化ナトリウムになりますが、炭素を炭酸カルシウム(石灰石や大理石)として保存することは、自然界で起きています。サンゴなどがその典型です。サンゴを守ることは、炭素固定という観点からも非常に重要な課題です。

なお、石灰は、酸性土壌の中和に用いられていますが、中和により、炭酸は炭素は二酸化炭素となり、空中に放出されるので、光合成には直接活用されることはないでしょう。1804年に、ニコラス・テオドール・ド・ソシュールがソラマメの実験で示した通り、植物は、光合成に必要な二酸化炭素を気孔から取り入れており、根から取り入れることはしていません。

Re: 最も望ましいエネルギー源は何か
投稿者:ひーろまっつん.投稿日時:2012年2月08日(水) 20:17.

そうでしたか。 本当にありがとうございます。 無駄な実験をやらなくて済みました。

でも、二酸化炭素を炭酸ナトリウムとして、水酸化カルシウムと混ぜて、地中に埋めておけば、炭素固定につながることは確かなようですね。

それが地下で水に溶けたとしても、炭酸カルシウムとして炭素固定されるのは良いと思います。

また、海の中でも、サンゴによって炭素固定がおこなわれているんですね。

海中でもサンゴの発育で、二酸化炭素の固定に、つながっているというのは正直、知りませんでした。

貴重なご意見、本当にありがとうございます。

2. 参照情報

関連著作
注釈一覧
  1. ここでの議論は、システム論フォーラムの「最も望ましいエネルギー源は何か」からの転載です。
  2. U.S. Energy Information Administration. “Estimated Levelized Cost of New Generation Resources, 2016" Annual Energy Outlook 2010, December 2009, DOE/EIA-0383(2009).
  3. 三菱重工「世界最高効率のJ形ガスタービン実証運転で世界最高のタービン入口温度1,600℃を達成」2011年5月26日.
  4. JX日鉱日石エネルギー株式会社「いよいよ10月よりSOFC型エネファームを販売開始」2011年9月15日ニュースリリース.
  5. 独立行政法人国立環境研究所「分光画像計測による地中植物根の自動分類―衛星観測技術の応用により地中生態画像の解析に成功―」平成20年1月7日(月).