ピグー税による少子化の促進

2016年10月22日

公害や資源の枯渇など、ある消費者や生産者の経済活動が、市場の外部で他の消費者や生産者に与える不利な影響を外部不経済と呼ぶが、ピグー税は、この外部不経済を市場に内部化するための税制である。例えば、生産者がごみ処理のコストを負担しないと、社会的に必要とされる以上の生産を行ってしまうので、ごみ処理のコストをあらかじめ生産物の価格に含め、供給量を減らさなければならない。そうすれば、パレート最適な資源配分、すなわち他人の効用を損なわずには、どの個人の効用をもこれ以上高めることができないような最も効率的な資源の利用状態を実現することができるというわけである。

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急増する世界の人口(1800-2100年)。2010年以降は、国連による上位(赤色)、中位(オレンジ色)、下位(緑色)の予測。“World population chart, from 1800 to 2100” by Tga.D, Aetheling is licensed under CC-BY-SA.

1. なぜピグー税は必要なのか

ハイエク派の人々の中には、責任の帰属のはっきりしない公共の空間を作り上げるから環境破壊が野放しになる、つまり環境破壊は市場の失敗ではなくて政府の失敗であり、個人が私的所有権を強く主張すれば、政府が余計なことをしなくても、環境問題は解決すると主張する人もいる。しかし環境破壊が明らかになってから個人が裁判所に損害賠償を請求しても手遅れである。被害が表面化する前に、政府が予防的な制度を作っておく必要がある。

日本では、2001年4月から家電リサイクル法が施行され、家電製品を廃棄する際に、消費者が再商品化に必要なコストを負担することになっている。この法律は二つの点で大きな問題を含んでいる。一つは、物質回収型リサイクル産業を優遇することは資源の浪費と環境汚染を促進するという点であり、もう一つは、ごみの有料化は、不法投棄と自家焼却にインセンティヴを与えるという点である。

自宅にある小規模な家庭用焼却炉でごみを燃やすと、ごみ処理費を支払わなくてもすむが、低温燃焼のためにダイオキシンや塩化水素が発生するなど周辺に迷惑をかけることになる。ごみの不法投棄が環境を破壊することは言うまでもない。家電リサイクル法は、その目的とは逆の効果をもたらすのである。不法投棄や自家焼却を防ぐためにも、廃棄物処理費を、消費者が後で支払うのではなく、ピグー税として生産時に政府が徴収し、競争入札により選定された廃棄物処理委託業者に支払うべきである。この方法だと、メーカーが倒産しても、そのメーカーの負担で廃棄物が処理できる。また競争入札では、最も低コストの処理方法が選定されるので、効率の悪いリサイクルは淘汰される。その際、処理業者がコストを下げるために、違法な手段を選ばないように、政府が監督しなければならないことは言うまでもない。

環境に悪い物質を生産段階で抑制することができるのもピグー税の優れているところである。廃棄物を処理する段階では、その廃棄物にどれぐらい有害物質が含まれているのか不明である。塩化ビニールのようなダイオキシンの原因となる物質に、生産段階で高い税金をかければ、生産者は生産コストを下げるために、例えば酢酸ビニールのような安い代替物質を開発するにちがいない。代替物質が普及した段階で、塩化ビニールの製造を禁止すれば、焼却処理コストも下がる。

先進国では、多くの製品が、潜在的な寿命よりも短い期間で廃棄される。めまぐるしいモデルチェンジを繰り返すメーカーと流行を煽るメディアにその責任があるとも言えるが、修理するよりも買い換えた方が得をする価格システムに最大の問題点がある。修理に必要な費用もあらかじめピグー税として徴収し、標準的な寿命を終えるまで、持ち込まれた故障品を無料で修理する制度を作るべきである。

2. ピグー税の導入は経済を犠牲にするか

こうしたピグー税を導入して、商品価格が上昇しても、商品を長く使うことができるようになれば、消費者には、デメリットがない。困るのは、生産者の方である。ピグー税を導入して環境保護に力を入れると、それは消費が冷やし、経済成長に悪影響を及ぼすと懸念する人は多い。はたして経済成長と資源問題/環境問題の解決はトレードオフの関係にあるのだろうか。

アトム型商品を中心に作っていた工業社会では、経済成長と環境破壊との間に強い正の相関関係があり、GNP(国民総生産)はGross National Pollution(国民総汚染量)などと呼ばれたりした。しかしビット型商品を中心に作っている情報社会では、経済成長が環境を破壊する程度が小さい。磁気媒体上に保存されるビット型商品には、生産にも破棄にもほとんどコストがかからない。工業社会では、経済が成長すると、資源が枯渇し、物価の上昇によりインフレになることが多いが、情報革命の中心地であるアメリカでは、インフレなき成長が長期にわたって続いた。これは、ニューエコノミーがオールドエコノミーより資源節約的であるからだ。

3. 教育費の自己負担は一種のピグー税である

私は前回、資源問題と環境問題を根本的に解決するためには、教育への投資により人口を減少させる必要があると主張したが、その提案はここでも生きてくる。教育への投資を促進し、知的労働者を増やし、知識集約型経済を作れば、環境に過大な負荷をかけることなく、経済を成長させることができるからである。社会的に必要な数以上の人口を作らないためにも、教育費という人口論的ピグー税を人口の生産者に課すべきなのである。

読書案内
書名 The Economics of Welfare (Classics in Economics.)
著者 A. C. Pigou 他
出版社と出版時期 Transaction Pub, 2001/06/15