ピグー税による少子化の促進
公害や資源の枯渇など、ある消費者や生産者の経済活動が、市場の外部で他の消費者や生産者に与える不利な影響を外部不経済と呼ぶが、ピグー税は、この外部不経済を市場に内部化するための税制である。例えば、生産者がごみ処理のコストを負担しないと、社会的に必要とされる以上の生産を行ってしまうので、ごみ処理のコストをあらかじめ生産物の価格に含め、供給量を減らさなければならない。そうすれば、パレート最適な資源配分、すなわち他人の効用を損なわずには、どの個人の効用をもこれ以上高めることができないような最も効率的な資源の利用状態を実現することができるというわけである。

1. なぜピグー税は必要なのか
ハイエク派の人々の中には、責任の帰属のはっきりしない公共の空間を作り上げるから環境破壊が野放しになる、つまり環境破壊は市場の失敗ではなくて政府の失敗であり、個人が私的所有権を強く主張すれば、政府が余計なことをしなくても、環境問題は解決すると主張する人もいる。しかし環境破壊が明らかになってから個人が裁判所に損害賠償を請求しても手遅れである。被害が表面化する前に、政府が予防的な制度を作っておく必要がある。
日本では、2001年4月から家電リサイクル法が施行され、家電製品を廃棄する際に、消費者が再商品化に必要なコストを負担することになっている。この法律は二つの点で大きな問題を含んでいる。一つは、物質回収型リサイクル産業を優遇することは資源の浪費と環境汚染を促進するという点であり、もう一つは、ごみの有料化は、不法投棄と自家焼却にインセンティヴを与えるという点である。
自宅にある小規模な家庭用焼却炉でごみを燃やすと、ごみ処理費を支払わなくてもすむが、低温燃焼のためにダイオキシンや塩化水素が発生するなど周辺に迷惑をかけることになる。ごみの不法投棄が環境を破壊することは言うまでもない。家電リサイクル法は、その目的とは逆の効果をもたらすのである。不法投棄や自家焼却を防ぐためにも、廃棄物処理費を、消費者が後で支払うのではなく、ピグー税として生産時に政府が徴収し、競争入札により選定された廃棄物処理委託業者に支払うべきである。この方法だと、メーカーが倒産しても、そのメーカーの負担で廃棄物が処理できる。また競争入札では、最も低コストの処理方法が選定されるので、効率の悪いリサイクルは淘汰される。その際、処理業者がコストを下げるために、違法な手段を選ばないように、政府が監督しなければならないことは言うまでもない。
環境に悪い物質を生産段階で抑制することができるのもピグー税の優れているところである。廃棄物を処理する段階では、その廃棄物にどれぐらい有害物質が含まれているのか不明である。塩化ビニールのようなダイオキシンの原因となる物質に、生産段階で高い税金をかければ、生産者は生産コストを下げるために、例えば酢酸ビニールのような安い代替物質を開発するにちがいない。代替物質が普及した段階で、塩化ビニールの製造を禁止すれば、焼却処理コストも下がる。
先進国では、多くの製品が、潜在的な寿命よりも短い期間で廃棄される。めまぐるしいモデルチェンジを繰り返すメーカーと流行を煽るメディアにその責任があるとも言えるが、修理するよりも買い換えた方が得をする価格システムに最大の問題点がある。修理に必要な費用もあらかじめピグー税として徴収し、標準的な寿命を終えるまで、持ち込まれた故障品を無料で修理する制度を作るべきである。
2. ピグー税の導入は経済を犠牲にするか
こうしたピグー税を導入して、商品価格が上昇しても、商品を長く使うことができるようになれば、消費者には、デメリットがない。困るのは、生産者の方である。ピグー税を導入して環境保護に力を入れると、それは消費が冷やし、経済成長に悪影響を及ぼすと懸念する人は多い。はたして経済成長と資源問題/環境問題の解決はトレードオフの関係にあるのだろうか。
アトム型商品を中心に作っていた工業社会では、経済成長と環境破壊との間に強い正の相関関係があり、GNP(国民総生産)はGross National Pollution(国民総汚染量)などと呼ばれたりした。しかしビット型商品を中心に作っている情報社会では、経済成長が環境を破壊する程度が小さい。磁気媒体上に保存されるビット型商品には、生産にも破棄にもほとんどコストがかからない。工業社会では、経済が成長すると、資源が枯渇し、物価の上昇によりインフレになることが多いが、情報革命の中心地であるアメリカでは、インフレなき成長が長期にわたって続いた。これは、ニューエコノミーがオールドエコノミーより資源節約的であるからだ。
3. 教育費の自己負担は一種のピグー税である

私は前回、資源問題と環境問題を根本的に解決するためには、教育への投資により人口を減少させる必要があると主張したが、その提案はここでも生きてくる。教育への投資を促進し、知的労働者を増やし、知識集約型経済を作れば、環境に過大な負荷をかけることなく、経済を成長させることができるからである。社会的に必要な数以上の人口を作らないためにも、教育費という人口論的ピグー税を人口の生産者に課すべきなのである。
ディスカッション
コメント一覧
中国の一人っ子政策よりも上記の方法がすぐれていると思います。お金持ちほど多くの子孫が得られ、かつ、教育水準の高い人間が社会に供給されるので、より豊かな社会が実現できるでしょう。
人口を積極的に減らすべきだという主張は初めて見たので衝撃を受けました。人類が長く生存するためにはそちらの方が良いことは理解できますが、全ての国が同様に実施してくれないと日本だけ国力を落としてしまうのではないでしょうか
もちろん、日本だけが人口を減らしても意味がありません。先進国では、日本と同様に少子化が進んでいますから、問題は発展途上国です。日本の途上国援助の前提として、少子化のためのピグー税導入を条件とするといった方法が有効化と思います。貧困の撲滅を目標としている途上国にとって、人口増加率の削減は、温室効果ガス排出量の削減よりも受け入れやすい課題です。そういえば、鳩山首相も、9月24日に国連でこんな演説をしていました。
日本だけが負担と犠牲を甘受することがないようにしてもらいたいものです。
ボクの保有する自家用小型乗用自動車(ガソリンエンジン(自然吸気・非直噴))は、平成15年式で、走行距離は99,000キロですが、世間体さえ気にしなければ、買い換えるよりも修理したほうが合理的です。なぜならば、10万キロ走行したときに交換すべき部品には、タイミングベルト、ウオーターポンプ、点火プラグなどがありますが、これらの必要経費の合計金額では、マトモな中古車を購入することができないからです。
ちなみに合計所得が同じで人口が10000分の一なると日本の場合ジニー係数0.6でも実質所得増加
資源や環境に関する他の記事も併せて読みました。やはり人口を減らすことが何よりも環境にとって良い事だと帰結するんですね。人や物が増えすぎて余っちゃうと結局のところ行き着く先は戦争によって消費?縮減?させるみたいな話も大袈裟に聞こえますが、繋がるのかなと。そう考えると自分たちのためにもなりますよね。自然保護とか地球のためなんか言うと、地球市民(笑)と嘲笑されそうですけどね
陰謀論なんかでは、コロナ禍も相まってビルゲイツが人口削減のためにワクチンを推奨してるだとかチップが埋め込まれてるだとか云われ、反ワクチンの人はそういった類いの話を鵜呑みにしています。ビルゲイツには、コロナ禍以前からこのような陰謀論が多いですが、多分永井さんの記事の内容にあるような話をしただけかもしれませんね。「人口を減らす」ってワードだけやたら強調されたり、歪曲されたせいで陰謀論が広まったのかなと思いました。本題から逸れた話しを長々としてしまって申し訳ないですが、最後に一つ聞きたい事があります。小泉前環境相のレジ袋有料化は何か効果があったと思いますか?
レジ袋有料化は、小泉前環境相の前任にあたる原田義昭環境相(当時)が、2018年10月4日の会見で表明し、推進したもので、小泉前環境相はたんに既定路線を実行に移しただけですから、彼一人に責任を押し付けるのは不公平です。
そう断った上で言いますが、レジ袋有料化は、有料指定ごみ袋制度やプラスチックのマテリアル・リサイクルと同様に、愚策であると思います。これら三つは、環境保護やプラスチック資源の節約を大義名分としておきながら、その成果を上げていないからです。
レジ袋の無料配布は、もともと小売店が万引き防止のために始めたものですが、そうした小売店側の思惑とは別に、顧客は、レジ袋を、たんに商品を自宅に運ぶためだけでなく、分類整理のために活用し、汚れたら、ごみ袋にして、ごみと一緒に捨てるというように有効活用していました。
ごみはレジ袋とともに燃やされ、その熱は発電に利用されます。小泉前環境相がドヤ顔で喝破したように、プラスチックは、石油からできています。ごみにプラスチックが多く含まれるほど、燃えやすくなります。
ごみの燃焼によって発生する熱と二酸化炭素も回収すれば、温室栽培で有効活用されます。育成される植物は、食用に使われるだけでなく、バイオマス・プラスチックの材料になります。こうしたプラスチックの使用は、持続可能な循環型経済といってよいでしょう。
ところが意識高い系の自称環境保護活動家たちは、この健全な循環型経済を寸断してしまいました。環境を保護しようと高い意識を持つこと自体は良いのですが、政策を決める時には、本当に環境保護や資源節約になるのかどうか、よく考えなければいけません。
レジ袋有料化で使用が増えた綿製のエコバッグの場合、131回以上使わなければレジ袋よりも省エネになりません。また、エコバッグを使うと、ごみ袋が別途必要になります。実際、レジ袋有料化の影響で、ポリ袋の売り上げが倍以上になりました。プラスチックの使用量を削減する効果はなかったのです。
プラスチック削減運動の発端となったのは、2015年にネットで公開された鼻にストローが刺さったウミガメの動画でした。鼻から血を流すウミガメの姿は痛々しく、世間に大きな衝撃を与えましたが、本当に問題なのは、ストローよりももっと小さくなったマイクロプラスチックによる海洋汚染です。
これは、たしかに解決しなければならない由々しき問題です。しかし、プラスチックのマテリアル・リサイクル、そのためのごみの分別収集、ごみ袋とレジ袋の有料化は、マイクロプラスチックによる海洋汚染を防止する上で逆効果になっています。
なぜなら、ごみを捨てる方法が面倒で高コストになればなるほど、ごみの不法投棄が増えるからです。プラスチックのマテリアル・リサイクルも、通常は採算が取れないので、義務化するなど強要するほど、不法投棄を増やすことになります。
ごみの不法投棄を減らす最もよい方法は、ごみをいつでも、どこででも、分別せずに無料で捨てられるようにすることです。ガス化溶融炉でごみ処理をするなら、人間が分別をしなくても、機械的・自動的な分別により、発電と資源のリサイクルが可能です。
マテリアル・リサイクルこそが本物のリサイクルで、サーマル・リサイクルは偽のリサイクルと言う人は、資源の本質を理解していません。資源の本質とは、物ではなくて、エントロピーの低さです。特に有機系の資源は、熱分解した方が、本当の意味での循環型経済になります。
プラスチックのマテリアル・リサイクル、ごみの分別収集、ごみ袋とレジ袋の有料化といった経済的合理性もなければ、環境保護にも資源節約にもならない愚策を、「人々の環境意識を高める」といった精神論で正当化する意識高い系の偽善を見破ることこそ、真の意味で高い意識がなすべき仕事だと思います。