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循環型社会は可能か

2000年6月3日

「環境に優しい」と自称する企業が、「わが社は、ごみを一切出さないゼロ・エミッション・リサイクルを実現している」と宣伝するのを耳にすることがある。しかし、厳密に言うならば、ゼロ・エミッションのリサイクルなどは物理的に不可能である。物理的に可能で環境保全になる循環型社会とはどのようなものかを考えよう。

Image by Marilyn Murphy from Pixabay. Licensed under CC-0.
電気自動車はゼロ・エミッションを標榜しているが、実際はゼロ・エミッションではない。

1. ゼロ・エミッション・リサイクルの幻想

一度設備を作って稼動させると、燃料を補給しなくても永久に仕事をしつづける空想上の機関を永久機関という。近代工業革命時代にヨーロッパで、永久機関を造ることが試みられたが、すべて失敗に終わった。永久機関は、近代における錬金術である。

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実際には不可能な永久機関の一例。

熱力学の二つの法則に対応して、永久機関にも二種類がある。第一種永久機関は、エネルギー保存則に違反する永久機関で、「燃料の消費がより多くの燃料を生み出す」と騙る高速増殖炉は、第一種永久機関である。第二種永久機関は、エントロピー増大側に違反する永久機関で、「ごみを出さず、環境を汚染しない生産工程」を騙るゼロ・エミッション・リサイクルは、第二種永久機関である。

熱力学の二つの法則により、永久機関は、技術的にではなくて理論的に不可能であることが証明されているが、にもかかわらず、現在にいたるまで、永久機関を発明したと自称する人が後を絶たない。国連大学は、1994年にゼロ・エミッション研究構想(Zero Emissions Research Initiative)なるものを打ち出し、廃棄物排出ゼロのリサイクルシステムを理想として掲げたが、これはまさに第二種永久機関を作ろうとする現代の錬金術と言わなければいけない。

エントロピー増大側を無視したリサイクル神話は、資源もごみも物であるという誤解の上に成り立っている。資源は物ではなく、低エントロピーという物の状態ないしエネルギーの質であり、人間の生産および消費という経済行為は、物が持つ資源価値を取り出すことによって、物のエントロピーを増大させることに他ならない。そしてごみとは、その増大したエントロピーのことである。

リサイクル活動は、材料としての廃棄物のエントロピーを縮小することによって、環境にそれ以上のエントロピーの増大をもたらすという点で、新しい材料から製品を作る場合と本質的に異ならない。ゼロ・エミッションの生産工程も、廃物を出さない分廃熱を出すことによって環境を汚染するのである。

2. どのような循環型社会が望ましいのか

資源もごみも物だと考えている人は、ごみ発電などでごみを燃やすことはもったいないと感じる。実際には、ごみ発電は、サーマルリサイクルと呼ばれるエネルギー回収型のリサイクルである。物質回収型のリサイクルが、エネルギー回収型のリサイクルより優れているとは限らない。どちらを選ぶかは、エネルギー収支を計算して、ごみの個別性質により決めることである。

リサイクル(Recycle)は、正しい方法で行えば、資源の消費を効率化することができるが、しかし所詮環境破壊の程度を小さくするだけの効果しかない。環境への負荷が少ないという点でリサイクルより望ましいのは、リユース(Reuse)である。使えるが不必要になった製品を加工することなく他の人に利用してもらえば、廃物も廃熱もほとんど出ない。しかしもちろんどの製品にも寿命がある。リユースにも限界がある。だから資源問題と環境問題を根本的に解決するには、3番目の R、リデュース(Reduce)、すなわち生産=消費の規模そのものの縮小が必要になる。

3. 環境問題の解決には何が必要なのか

生産=消費の規模を縮小するには、生産=消費の無駄を省く、生活水準を下げる、人口を減らすという三つの方法がある。一番目は、技術革新や経済システムの改善によりもたらされる。一番望ましい選択肢のように見えるが、限界がある。二番目は、最も嫌われる選択肢で、恐怖政治でも起こさないと実現できない。

最後に残された選択肢は、人口を減らすことである。現在先進国では少子化が進んでいるが、この傾向を発展途上国にまで広げなければならない。そのためには、発展途上国に先進国におけるのと同様の義務教育制度を導入させ、子供を産むことが親の経済的負担となるシステムを作ることが重要である。教育への投資により、人類は量的には減るが、質的には向上する。

資源問題と環境問題を解決するための政策の優先順序は、Reduce、Reuse、Recycle であって、最初の二つに取り組むことなく、リサイクルに力を入れるならば、リサイクルビジネスという新たな大量生産=大量消費型経済を許すことにしかならない。