6月 032000
 

「環境に優しい」と自称する企業が、「わが社は、ごみを一切出さないゼロエミッションリサイクルを実現している」と宣伝するのを耳にすることがある。しかし、厳密に言うならば、ゼロエミッションのリサイクルなどは物理的に不可能である。物理的に可能で環境保全になる循環型社会とはどのようなものかを考えよう。

1. ゼロエミッションリサイクルの幻想

一度設備を作って稼動させると、燃料を補給しなくても永久に仕事をしつづける空想上の機関を永久機関という。近代工業革命時代にヨーロッパで、永久機関を造ることが試みられたが、すべて失敗に終わった。永久機関は、近代における錬金術である。

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実際には不可能な永久機関の一例。

熱力学の二つの法則に対応して、永久機関にも二種類がある。第一種永久機関は、エネルギー保存則に違反する永久機関で、「燃料の消費がより多くの燃料を生み出す」と騙る高速増殖炉は、第一種永久機関である。第二種永久機関は、エントロピー増大側に違反する永久機関で、「ごみを出さず、環境を汚染しない生産工程」を騙るゼロエミッションリサイクルは、第二種永久機関である。

熱力学の二つの法則により、永久機関は、技術的にではなくて理論的に不可能であることが証明されているが、にもかかわらず、現在にいたるまで、永久機関を発明したと自称する人が後を絶たない。国連大学は、1994年にゼロエミッション研究構想(Zero Emissions Research Initiative)なるものを打ち出し、廃棄物排出ゼロのリサイクルシステムを理想として掲げたが、これはまさに第二種永久機関を作ろうとする現代の錬金術と言わなければいけない。

エントロピー増大側を無視したリサイクル神話は、資源もごみも物であるという誤解の上に成り立っている。資源は物ではなく、低エントロピーという物の状態ないしエネルギーの質であり、人間の生産および消費という経済行為は、物が持つ資源価値を取り出すことによって、物のエントロピーを増大させることに他ならない。そしてごみとは、その増大したエントロピーのことである。

リサイクル活動は、材料としての廃棄物のエントロピーを縮小することによって、環境にそれ以上のエントロピーの増大をもたらすという点で、新しい材料から製品を作る場合と本質的に異ならない。ゼロエミッションの生産工程も、廃物を出さない分廃熱を出すことによって環境を汚染するのである。

2. どのような循環型社会が望ましいのか

資源もごみも物だと考えている人は、ごみ発電などでごみを燃やすことはもったいないと感じる。実際には、ごみ発電は、サーマルリサイクルと呼ばれるエネルギー回収型のリサイクルである。物質回収型のリサイクルが、エネルギー回収型のリサイクルより優れているとは限らない。どちらを選ぶかは、エネルギー収支を計算して、ごみの個別性質により決めることである。

リサイクル(Recycle)は、正しい方法で行えば、資源の消費を効率化することができるが、しかし所詮環境破壊の程度を小さくするだけの効果しかない。環境への負荷が少ないという点でリサイクルより望ましいのは、リユース(Reuse)である。使えるが不必要になった製品を加工することなく他の人に利用してもらえば、廃物も廃熱もほとんど出ない。しかしもちろんどの製品にも寿命がある。リユースにも限界がある。だから資源問題と環境問題を根本的に解決するには、3番目の R、リデュース(Reduce)、すなわち生産=消費の規模そのものの縮小が必要になる。

3. 環境問題の解決には何が必要なのか

生産=消費の規模を縮小するには、生産=消費の無駄を省く、生活水準を下げる、人口を減らすという三つの方法がある。一番目は、技術革新や経済システムの改善によりもたらされる。一番望ましい選択肢のように見えるが、限界がある。二番目は、最も嫌われる選択肢で、恐怖政治でも起こさないと実現できない。

最後に残された選択肢は、人口を減らすことである。現在先進国では少子化が進んでいるが、この傾向を発展途上国にまで広げなければならない。そのためには、発展途上国に先進国におけるのと同様の義務教育制度を導入させ、子供を産むことが親の経済的負担となるシステムを作ることが重要である。教育への投資により、人類は量的には減るが、質的には向上する。

資源問題と環境問題を解決するための政策の優先順序は、Reduce、Reuse、Recycle であって、最初の二つに取り組むことなく、リサイクルに力を入れるならば、リサイクルビジネスという新たな大量生産=大量消費型経済を許すことにしかならない。

読書案内
書名「循環型社会」を問う―生命・技術・経済
媒体単行本
著者エントロピー学会
出版社と出版時期藤原書店, 2001/04
書名エコロジー神話の功罪―サルとして感じ、人として歩め
媒体単行本
著者槌田 敦
出版社と出版時期ほたる出版, 1997/12
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  9 コメント

  1. 僕は特にマーケティングを専門にしているので、生産と消費の関係については日々考えさせられます(それでメシを食っているのだ)。このテーマが避けて通れないと痛感するのは、「生産効率を上げる」+「消費量を増やす」という典型的な損益分岐思考ではこの社会は早晩行詰まると思っているからです。
    スーパーやコンビニなどの飲食物のかなりの%が(20%以上という説もありますが・・・)ゴミとなって消費されることなく、廃棄されます。例えば、マグロはどこの寿司屋でも食べられます。つまり、ストックがあるが、廃棄も多いのです。生きていればエントロピーの増大は避けられないにしても、エントロピーの最も緩やかな増加が可能なのは生命です。
    ここでは多くのマグロの命がゴミのために使われています。(もし、この数字に従えば五匹に一匹は無駄死にですね)もちろん、これらは消費者情報の不足をストックで補うためであって、販売機会を維持する必要経費として処理されています。もし、いつ誰がマグロを食べるかが事前に分かれば多くの命を救えますが、当然、情報収集に伴いエントロピー増大してしまうので、単純な理想郷の姿ではありませんね。
    僕が密かに期待しているのは、ITです。これで、消費者が事前に自分の消費欲望を伝えられれば、食品などにもカンバン方式(トヨタ自慢の世界に広がるマネジメント・メソッド)が適用されるかも知れません。そんなに簡単にはいかないか?・・・
    現状の経済のコアは「生産性向上」と「生産利益の再分配」ですが、ここに「消費性向上(=さっきのマグロの生命ロスを減らすこと)」と「消費利益の再分配(=事前にマグロを予約すると安く入手できる仕組みなど)」が加わらなければ、人類はこの袋小路から出られないと思うのです。
    そして、「生産」→「消費」→「還元(地球に戻す)」という流れをワンセットにするのであれば、次の段階では「還元性向上(=マグロの骨のほうがプラスチックよりは土に早く戻るから、還元性が高い)」と「還元利益の再分配(=より早く土に返る廃棄方法ほど費用負担を減らす税制など)」に行きつくことになるとも思っています。(あ~、随分先だろうなあ)

  2. ぷ~太郎さんの文章を読んで面白いと思ったのは、「還元」という言葉が二義的でありながら本質的には同じ意味を持っているということです。オーダーメードへのITの応用が需給のミスマッチを防ぐことによって、無駄な生産を削減することに貢献するであろうことには賛成です。私は、さらにネット通販が、無駄な包装の削減にも寄与できると考えています。

  3. 広い視点で見ると、経済活動(生産行為)というのは、「生活水準を向上させる」事を目的にしている。
    「生活水準を下げる(生産=消費の規模の縮小)」という行為を、(恐怖政治ではないスタイルで)仮に実現したとすると、その行為は資本主義に反する行為ということになってしまうのでしょうか。
    もしそうだとするならば、資本主義のシステムでは(社会主義者も指摘するが)、消費の規模を縮小することは難しいということになるのでしょうか。

  4. 人口が減るならば、個人の生活水準を維持もしくは向上させながら、全体の消費の規模を減らすことは、理論的には可能です。

  5. そうですか。安心しました。
    やや話が脱線してしまうかもしれませんが、、
    引用文「だから資源問題と環境問題を根本的に解決するには、3番目の R、リデュース(Reduce)、すなわち生産=消費の規模そのものの縮小が必要になる。」について
    先進国の国民一人一人が、今、何か出来ることはないものでしょうか。
    例えば、私の様な一般人にできる事は何かないものでしょうか。

  6. エネルギーの無駄遣いをやめる方法なら、いくらでもありますよ。まめに電気を消すとか。買い物をしたとき、無駄なレジ袋やらストローやらスプーンやらを断るとか。
    私は、今年の冬、家でほとんど暖房を使いませんでしたが、風邪を引きませんでした。空気全体を温めるなど、無駄なことです。厚着をして、体を温めて、頭は冷やした方が、思考が明晰になるので、一石二鳥です。
    環境を守るのか、それとも豊かな生活を守るのかというトレードオフの関係で考えずに、両立させるために、いろいろ知恵を働かせるべきです。

  7. ありがとう御座います。
    永井さんご指摘のように、ややトレードオフの関係で考えすぎていたようです。

  8. リユースするよりも、所有者が最後まで使い切ることが大事だと思う。
    ところで、私のクルマも寿命が来るまで使用する予定だったのに、今年の2月からエアバッグ警告灯が常時点灯しているクルマは車検に通らなくなってしまった。私のクルマは常時点灯しており、点灯原因が不明で修繕不能のため、手放さざるを得ない。
    くたばれ、運輸省

  9. リユースとは再利用ということで、一回だけで使い捨てにせず、寿命まで使い切ることも広義のリユースと言うことができます。

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