10月 092012
 

メルマガで配信した記事のうち、試論編に収録しなかった、もしくは大幅に修正を施した号の原文をそのまま再現するシリーズを始めます。第1回目は、創刊号で、テーマは「メールマガジン」です。内容が古すぎるので、試論編には収録していませんが、ここでは現時点でのコメント付きで再録します。

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1999年9月25日発行のメルマガの内容

みなさんはじめまして。『教養のためのコラム』発行人の永井です。創刊号から購読してくださいましてありがとうございます。ホームページに、9月の主題は精神分析と書きましたが、創刊号にふさわしい自己言及的な特殊なテーマをと考え、本日は「メールマガジン」をテーマとして取り上げることにします。

今日の題目:メールマガジン

メールマガジンは、日本でのみ流行しているユニークなプッシュ型サービスである。アメリカでもCNET NEWS.COMのように、電子メールで無料のニュース配信をしている会社もあるが、日本のまぐまぐのように、多数の発行者と読者を媒介するサービスはまだ現れていない。

もちろんプッシュ型サービス自体は、アメリカで生まれたコンセプトだ。プッシュとプルについて、いまさら説明する必要もないかもしれないが、簡単に説明すると、ユーザーがわざわざWWWサーバーにアクセスして、情報を持ってくるというような、従来のサービスのあり方(プル型サービス)に対して、プッシュ型サービスとは、WWWサーバーが自動的に情報を送ってくるというものである。

97年10月には、ポイントキャスト・ネットワークが日本に上陸し、当時ブラウザ市場のシェア争いをしていたインターネットエクスプローラとネットスケープナビゲータの両陣営は、あの頃盛んにプッシュ型サービスへの適応を喧伝していたものだった。

しかし鳴り物入りで登場したウェッブベースのプッシュ型サービスは、まったくの空振りに終わった。ポイントキャスト・ネットワークは、時事ニュース、株価情報、産業情報、天気概況、スポーツニュース、芸能や海外エンタテインメント情報などを無料で提供したが、当時の通信速度の遅さのもとでは、ポイントキャスト社のサービスは、ユーザからすれば「できの悪いテレビ」でしかなかったのである。

そもそもテレビが普及している中、インターネットが、テレビと比べて我慢できないほどスピードがのろいのにもかかわらず、ブームになったのは、インターネットがテレビのようにプッシュ型ではなく、プル型であったからだ。ポイントキャスト・ネットワークは、そういう原点を忘れていた。

もちろんインターネットと放送の一体化は今後進むことが予想される。しかしそれにしても、ワープロで仕事をしている最中に、ポイントキャスト・ネットワークからの情報が画面を覆ったりすると、たとえその情報が求めていたものであったとしても、多くのユーザーはわずらわしく感じることであろう。プッシュ型サービスには、取り込み中にかかってくる電話と同じわずらわしさがある。

これに対して、メルマガは、プッシュ型サービスのわずらわしさとプル型サービスの面倒くささという二つの欠陥をうまく克服したハイブリッドのサービスである。ユーザは、自分が暇なときにメールボックスを開けてコンテンツを読むことができる。留守番電話やテレビ放送のビデオ録画と同じく、受信者が受信時間を選べるメリットがある。またプル型のネットサーフィンと違って、毎回こちらから出かける必要がない。接続料金が従量制である人にとっては、短時間でダウンロードして、オフラインでゆっくり読むことができる点も魅力だ。日本でメールマガジンが流行する理由として、電話料金の高さを挙げる人もいる。

メルマガが成功したもう一つの要因として、メールソフトというインターネットユーザーなら誰でも持っているアプリケーションを使った「コバンザメ戦略」を挙げることができる。常用しているプライベートメールのついでにメルマガをという人も多いはずだ。

もちろんメルマガが主で、私用は従という逆のタイプの人もいる。昔、私が電子メールを始めた頃、一週間に一回ぐらいしかメールが来なかった。だからめったにメールボックスを開けることがなく、そのため、重要なメールを受信する時機を逃すなど苦い経験を何度かした。しかしメルマガを購読設定してからは、毎日最低一回は受信トレイをのぞく習慣が身についた。こういう意外な効用もメルマガにはある。

ポイントキャスト・ネットワークは、テレビとの競争に負けたが、メルマガは既存のメディアに対して強い競争力を持っている。紙の本や雑誌と違って無料という点で読者にとって魅力的であり、地上波テレビと違って一万誌以上の選択肢があるので、個人の特殊なニーズに答えることができる。

メルマガの問題点としては、多くのメールソフトがhtml文書に適応していないことを指摘しなければならない。テキスト文書の限られた表現手段でグラフィックなイメージを作ろうとして、メルマガの世界では妙な技法が発達しているが、メールソフトが将来ブラウザ並みの表現力を持つようになることを期待したい。またメールを「全画面表示」で読むボタンも作ってもらいたいものだ。

(あとがき)

今年8月25日時点でのバガボンド社の調査によると、メルマガ市場における市場占有率(読者登録数/総読者登録数)は、まぐまぐがだんとつで、85.31%なのだそうです。以下、第2位はCLICKINCOMEで、10.17%、第3位はPubzineで、2.14%、第4位はMacky!で、1.77%
となっています。

Macky!は、多くの会員を持つニフティが経営しているのに、なぜこんなに低調なのでしょうか。私はその原因が、Macky!の「メールマガジン作者規約第3条第4項」にあると思います。そこには、「ヘッダー、フッターにニフティのサービスの案内等の情報を挿入する」とあります。メールマガジンを配信した際、自動的にメールマガジンの文面の最初と最後の部分に、ニフティ側で制作したヘッダー3行、フッター5行のインフォメーションを入れるというわけです。しかしそれでいて、「ニフティからメールコンテンツ制作、配信等に関する費用はお支払いいたしません」とも言っています。現在まだ実施していないということですが、要するにただで広告を載せるつもりなのです。

8月25日現在、Macky!から発行されているメルマガは750誌で、これは、Pubzineの1,892誌やココデ・メールの1,754誌と比較しても少数です。以前、ジオシティーズが、「ウチで公開しているウェッブページの著作権は我が社に属する」と発言したために、多くのウェッブマスターがジオシティーズから亡命しましたが、もしもMacky!が、「ウチで発行しているメルマガの著作権は我が社に属するので、ニフティには無料で広告を掲載する権利がある」と考えているのなら、いつまでたっても、発行誌の数は増えないでしょう。

そういうわけで、この『教養のためのコラム』も、上位3位までの発行機関から出すことにします。

読者からのメール

大場さん:初めまして、大場と申します。しっかりした文章、内容の濃縮度、大変興味深いものがあります。ところで質問なのですが、『プッシュ型』と『プル型』についてよく理解できません。例を挙げて講義お願い出来ないでしょうか。

永井:プッシュ型とプル型の違いは、情報に対して受動的であるか能動的であるのかの違いです。もしテレビの電源をつけて、たまたま目に入った番組を見ているだけなら、典型的なプッシュ型サービスを受けていることになります。放送局がプッシュして来た情報を完全に受動的に受け入れているだけですから。もし番組表を見て、ビデオに録画予約するのなら、視聴者が情報収集に関して能動的になるので、プル型に近づきます。サーチエンジンを使って積極的に情報をプルするネットサーフィンは、典型的なプル型情報収集です。プッシュ型とプル型の違いを分かりにくくしている原因としては、二つの動詞の主語が、前者は情報発信者、後者は情報受信者というように、異なっていることを挙げることができます。もっと分かりやすい名称があれば良いのですけれども。

MIKEさん:私は永井さんの「超越論的哲学」も少しずつ読ませていただいておりますが、ゆっくりじっくりでないとなかなか理解できません。カント哲学の理解は生涯の課題だと考えていますが、私の頭ではなかなかついていかないのが現状です。最近「複雑系」の勉強をしているうちに、現象学へ導かれ現在は少し現象学をかじろうと思っています。今後ともご指導お願いします。

永井:私も複雑系に興味がありますし、このメルマガでもいつか取り上げるつもりです。今後ともよろしくお願いします。

2012年10月9日でのコメント

以上は、創刊号本文とそれに寄せられたメールの内容です。但し、毎号共通のヘッダーとフッターの部分は省略しています。私が最初にメールマガジンを発行した当時のタイトルは「教養のためのコラム」で、1年後の2000年9月には、タイトルを「教養大学」に変え、2003年6月には、当時出版した書籍名と同じ「縦横無尽の知的冒険」に変えました。2005年1月以降は、本文そのものを記載せずに、更新情報のみを掲載し、現在に至っています。

文中に出てくるプッシュ型とプル型という言葉は最近では使われなくなりましたが、両者の違いは、情報に対して受動的であるか能動的であるのかの違いです。もしもテレビの電源をつけて、たまたま目に入った番組を見ているだけなら、放送局がプッシュして来た情報を完全に受動的に受け入れているだけだから、典型的なプッシュ型サービスを受けていることになります。もし番組表を見て、ビデオに録画予約するのなら、視聴者が情報収集に関して能動的になるので、プル型に近づきます。サーチエンジンを使って積極的に情報をプルするネットサーフィンは、典型的なプル型情報収集です。

メールマガジンは日本でのみ主流となったガラパゴス的プッシュ型メディアで、その流行はテレホーダイという日本特有の料金体系で説明できます。テレホーダイとは、深夜早朝の時間帯(23時~翌日8時)に限り、通話料金を月極の一定にする、1995年から始まったNTTのサービスで、テレホーダイ全盛期には、その時間帯にメールを受信し、時間帯外にはオフラインでメールマガジンを読むことで電話料金を節約するという読書スタイルが流行りました。

しかし、2001年頃から、ADSLなど、24時間定額のブロードバンド・インターネット接続が日本でも普及し始め、メールマガジンをオフラインで読むメリットがなくなり、インターネットの中心が、メールからウェブへと移りました。また、2005年頃からブログが日本で急激に普及し、フィード・リーダでブログを読むという新しいプッシュ型メディアがメールマガジンにとって代わりました。

以下のグラフは、データが継続的に得られるまぐまぐとメルマ(旧CLICKINCOME)における『縦横無尽の知的冒険』の読者数の推移を示しています。ピークは、2004年3月1日に発行した164号「浦島物語の起源は何か」で、7発行機関合計で、13264名となりました。それ以降、読者数は減り続けています。また、発行機関の多くもサービス停止に追い込まれています。

メルマガ主要二発行機関での『縦横無尽の知的冒険』の読者数の推移
メルマガ主要二発行機関での『縦横無尽の知的冒険』の読者数の推移。発行周期が異なるので、横軸の時間軸は等間隔ではない。153-155号でまぐまぐの読者数が急上昇しているが、これはまぐまぐの機関紙『ウィークリまぐまぐ』で紹介されたのが原因。

メールマガジンは、インターネット・メディアの主流ではなくなりましたが、今後も、電子メールが使われる以上、消滅することなく、傍流メディアとして存続し続けるものと予想されます。海外でも、電子メールによるニュースレター(email newsletter)やメーリングリスト(mailing list)という形でのコンテンツ配信は存在しており、ウェブ・パブリシングを補完する役割を果たすことでしょう。

最近台頭したプッシュ型メディアとしてツィッターなどのソーシャルメディアを挙げることができます。ツィッターは、短いテキストを書くだけでよいという手軽さゆえに多くの書き手が参入したという点で、メールマガジンに似ていますが、同時にそれが限界にもなっています。本文にも書いたように、メールマガジンは、基本的にテキストベースです。HTMLメールマガジンの試みもありましたが、セキュリティ上の理由から普及しませんでした。Google+ は、画像や動画も含めることができるので、ツィッターの進化版と見ることができます。

2012年現在、私はメールマガジンに加え、Google+, Twitter, Facebook といったソーシャルメディアで、コンテンツの本体ではなく、コンテンツの更新情報を配信しています。それはこれらのメディアの本来の使い方ではないのですが、私としては、過去の苦い経験から、自分が作成したコンテンツを他社が管理しているドメインに置きたくないので、自分が書いたものは自分のサイトで保存するようにしています。いちいちリンクをクリックするのは面倒という方も多いと思いますが、ご了承をお願いします。

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