定額式超流通の提案

2016年10月22日

デジタルコンテンツの著作料金を回収するためには、複製と頒布にコストがかからないという特性を十分に生かすために、アナログコンテンツの著作権を守るときのように従量的に課金せずに、ハードの購入費や通信網の使用料金に一定比率で著作物利用料金を課すべきである。そうすれば、市場規模の増大により、情報消費者とソフトのクリエイターとハードウェア業者は、三者とも少ない犠牲で大きな利益を得ることができる。

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1. 今なぜ著作権法を見直す必要があるのか

デジタル・コンテンツは、アナログ・コンテンツとは異なって、質を劣化させることなく容易に複製・編集し、ネットワークを通じて低コストで出版・頒布することができる。ところが現行の著作権法では、他者の著作物を利用する場合、例外的な場合を除いては、著者の承諾が必要であり、商用ならば一定のライセンス・フィーを払わなければならない。こうした著作権法上の制約は、デジタル・コンテンツが持っている本来の魅力を消費者が実感することを妨げている。アナログ・コンテンツを念頭において100年以上も前に結ばれたベルン条約でデジタル・コンテンツを規制することには問題があると言わなければならない。

コンテンツ提供者の収入ルートは二つある。一つはスポンサーから広告収入をもらう方法で、もう一つは消費者から料金を取る方法である。民放のテレビ局などはまだ数が少ないので、いまのところ広告収入だけで成り立っているが、今後テレビとパソコンが一体化し、書籍・レコード・映画などのメディア産業がインターネットに参入してメディアがマルチ化すると、視聴率が分散するし、スポンサー側の出費の総額にも限度があるのだから、広告収入のみに依存するわけにはいかなくなる。では、ウェブ上に作品を公表するコンテンツのクリエイターは、どのような方法で消費者から料金を集めたらよいのであろうか。

1983年に森亮一氏は、デジタル著作物の流通にふさわしい課金方法として、「ソフトウェア・サービス・システム」を提唱した [森 亮一:ソフトウェア・サービス・システム]。このシステムはコンテンツの利用に応じて課金を行なう流通システムで、今日「超流通 superdistribution」と呼ばれている。超流通で流通されるデジタル・コンテンツには、権利処理に必要な情報が超流通ラベルとして付加され、利用量に応じた権利処理を利用者の手元の超流通マシン内で行ない、その記録を元に料金が支払われる。世界的に名が知られている提案であるが、普及するにはいたってない。

超流通の画期的な点は、CD-ROMなどのパッケージ商品を頒布して複製を禁止するのではなく、複製を自由にすることによって消費者に量産作業をやってもらうという点にある。だが森氏のこの構想も、《見た分だけ払う pay per view》という従量的料金システムにこだわっている点で、ビット型産業の特質を十分利用しているとは思えない。アトム型産業では、複製に大きなコストがかかるので、価格を従量的に決めることに合理性があるが、ビット型産業の場合には、複製にほとんどコストがかからないのだから、料金システムは定額式にすることができる。

現在、DAT・DCC・MDなどのデジタル方式の録音機器を購入する際、消費者は、定価に上乗せされている録音補償金を支払うことになっている。DVDの録画機器が販売されるようになれば、録画補償金が上乗せされることになるであろう。他人の著作物を利用しない人までが、補償金を払うのは不合理のように思われるかもしれないが、もしデジタル録音機が自分の歌った音の複製しかできないのなら、あるいはデジタル録画機が、自分で撮影したビデオの複製しかできないのなら、それらは売れないので単価がきわめて高くなるはずだ。つまり他人の著作物を利用しない人も、間接的には恩恵を受けているのだから補償金を支払う義務がある。この補償金制度発展させれば、次のような定額式超流通になる。

2. 定額式超流通の提案

まずコンピュータを含めたすべてのデジタル複製機器の小売価格およびデジタル通信関係の料金に著作物利用料金を定率で課す。消費者がパソコンを組み立てるケースもあるので、パーツも小売りする時には相応の料金を課す。次にその料金を著作権管理機関にいったん集金する。インターネットに国境はないのだから、その著作権管理機関は世界知的所有権機構(WIPO)内に設置するべきである。ベルン条約では著作権の認定に関しては無方式主義(登録不要制)が採られている。だがインターネットでは登録の手続きが簡単であるから、WIPOに登録する方式主義を取ることが可能である。コンテンツのクリエイターは、自分が作ったファイルにWIPOからもらった著者ID番号を電子透かしで 入れる。

自分の作品を自分だけで作るとは限らない。ある著者が作った作品の中には、サンプリングによって他の著者ID番号のファイルが混入している場合もある。そこで混在の比率を出すために、作品内のすべてのファイルを解析して、バイト数を計算する。ただし文字・音声・画像・動画などファイルのタイプによってバイト数のレベルが桁違いなので、タイプごとに是正定数を掛けて計算する。作品を一つのフォルダに格納して登録する時、著者ID番号ごとの料金配分比率を登記しておく。こうして著者ID番号とは別の作品ID番号をもらってフォルダに付け、オンライン上にアップロードして出版する。コンピュータ・プログラムも同様の手段を用いて頒布する。

公表されたデジタル著作物は、複製も編集も頒布も自由かつ無料という二重の意味でフリーである。但し被複製著作物の著者ID番号が取り込まれる形で利用しなければならない。他人の詩を歌詞として使用したり、他人の小説を映画の脚本として利用する場合には、その詩人や小説家の作品が配分から外れないように、オリジナルのテキスト・ファイルをフォルダ内にバンドルしなければならない。その方がありがたいという消費者もいるだろうし、不要ならば消費者が自分で削除すればよい。編集者の場合、たんにカット・アンド・ペイストだけでは配分対象にならないから、表紙や目次や解説を付けて自分の領域を作る必要がある。

エンドユーザが使うコンピュータには、経路が有線のインターネットであれ、無線の電波であれ、あるいはCD-ROMのようなパッケージ・ソフトによる場合であれ、外部から入ってくるデジタル・コンテンツのID番号を読み取る超流通ラベルリーダ(SDLR)を組み込む。リーダに蓄積された情報は、ネットワークを通してWIPOに送られる。WIPOは、登録されているコンテンツの一定期間中の複製回数を調べ、これにプロバイダが報告するアクセス数を加味して各著者のメディアへの貢献度を計算し、料金を分配する。

今ある著者A氏の著作物を含むデジタル作品、W1,W2 … Wnに、それぞれ、W1円,W2円 … Wn円が支払われるとする。 各作品の構成が、

W1( A氏の割合A1%,B氏の割合B2% … )

W2( A氏の割合A2%,C氏の割合C1% … )

Wn( A氏の割合An%,X氏の割合X1% … )

ならば、

が、A氏の口座に振り込まれる。定額式超流通でも、人気がある著者ほど高収入という原則は変わらない。ただ1コピーいくらではなくて、全体に占める割合で決まるという点が異なるだけである。

なお広告料金も同様の手段で支払わせる。ウェブサイトの開設者は、スポンサーを募集する時には、コンテンツの著者別構成比率を明記してWIPOに登録する。広告の依頼主は、自社の広告を設置するウェブサイトの管理人ではなくて、著者に料金を支払う。だから、他人のサイトを丸写しして広告を募集しても収入にはならないわけである。もちろんこのシステムを維持するためには、WIPOへの登録内容を公開し、不正があれば、被害者が訴えられるようにすることが必要である。

定額式超流通の概念図

3. 定額式超流通の長所

以上説明した、定額式超流通の従量料金式超流通に対する優位は、市場規模を急速に大きくすることができるという戦略的側面にある。もし消費者が見た分だけ料金を払わなければならないとするならば、消費者は出費を最小にするためにできるだけ見ないようにする。これでは、デジタル著作物市場はなかなか拡大しない。だが定額の料金をあらかじめ払っているならば、消費者は、元を取ろうとしてできるだけ長い時間デジタル・メディアを利用しようとする。利用者の視聴時間が長くなれば、それを狙って広告スポンサー付きのメディア産業が続々と参入する。コンテンツが充実すれば、さらに多くの人がデジタル・メディアを利用し、それによって著作物利用料金の総額が増えるという市場規模拡大へのポジティヴ・フィードバックが作用する。

定額式超流通は、情報の消費者、ソフトウェアのクリエイター、ハードウェア業者(情報機器の製造業者や通信事業者)の三者に三様の利益をもたらす。情報の消費者は、著者の許可を得ることなく、あたかも著作権など存在しないかのように、コンテンツを自由に利用することができるのだから、デジタル・コンテンツのメリットを最大限享受することができる。ソフトウェアのクリエイターは、自分の作品をより多くの顧客に使ってもらうことによって、収入増を期待できる。そしてデジタル著作物市場の規模が大きくなればなるほど、情報関連機器は売れて、通信網利用者も増えるので、ハードウェア業者も利益が上がる。

定額式超流通で不利益を被るのは、高コスト型の古い流通業に携わる業者だけである。紙の本を扱う出版社や書店、音楽CDを売るレコード会社、ビデオレンタル店など、情報を物として売買している流通業は今後没落していくであろう。クリエイターと消費者はより直接につながることになる。多くの資本を必要とする動画制作を別にすれば、才能あるクリエイターが比較的容易に自分の作品を出版し、かつ収入を得ることができるようになる。

インターネットがブームとなってから数年ほど経つが、ほとんどのウェブページは趣味の域を出ない。有料のページもあるが、いちいち契約しなければならず、不便だし、クレディットカードの番号を打ち込むことには、セキュリティ上の心配がある。質の高いページを作るインセンティヴを高めるためにも、定額式超流通が実現することを願いたい。

追記

本稿は、JMF第4回日本マルチメディア大賞を受賞した論文に、若干の修正を加えたものである。また、財団法人岐阜県産業経済振興センター主催の講演の原稿の一部ともなった。この論文の著作権は、永井とJMF(日本マルチメディアフォーラム)の両方にあります。

読書案内
書名 ディジタル著作権
媒体 単行本
著者 名和 小太郎
出版社と出版時期 みすず書房, 2004/03/16