12月 251999
 

権力者をボスとリーダーという二つの理念型に分類して対比してみよう。

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boss vs leader” by John Lester is licensed under CC-BY

ボスの主要関心事は、自分の既得権益の維持である。サルの社会は平等ではなくて、獲物やメスに手を出す優位関係がどのオスの間にも確立している。この優位関係の頂点にいるオスはボスザル(アルファオス)と呼ばれている。ボスザルが、メスと餌場と安全な寝場所を独占し、それを他のオスザルに横取りされまいと、自分の強さを絶えず誇示するように、ボス型の権力者は、武力による威嚇や脅迫で自分が手にした権益を独占しつづけようとする。

ただ自分以外のライバルをすべて敵に回すと、団結した敵に権力を奪われてしまうので、帰属原理上自分に近く、自分に忠誠を誓う取り巻きを部下として厚遇し、独占した富を再配分する。その一方で自分に逆らう存在者は、徹底的に冷遇し、見せしめにする。「分割して統治せよ」という支配の大原則に基づいて、被支配者を周縁と半周縁に分けて統治するわけである。

リーダー型の権力者は、コミュニティの利益に奉仕するべく選ばれる。リーダーが帰属原理に基づいて派閥を作るのではなく、業績原理に基づいて部下を登用するのは、その存在が私的ではなくて公的であることを示している。

一般に発展途上国にはボス型の権力者が多く、近代民主主義が機能している国にはリーダー型の権力者が多い。例えばアフリカにはウォーロードと呼ばれる派閥(小は部族から大は民族までの帰属原理に基づく運命共同体)のボスがたくさんいる。彼らは、木材や鉱物資源、空港や港湾の税金、国際社会からの救援物資などの資源を自分の派閥に再配分しようと絶えず戦争をしている。日本には、アフリカの貧しい人に資金や食料を援助することが良いことだと思っている人が多いが、国際社会がアフリカに援助をすればするほど、その援助の恩恵の配分を巡って派閥間の闘争が激しくなり、戦火でアフリカの貧民の生活がさらに困窮するという皮肉な事態が生じている。

これは、文部省が「科学技術の振興のために」研究助成金をばらまけばばらまくほど、その配分を巡って学閥間の競争が激化し、学閥への忠誠心を誓う若手研究者に補助金を下賜するボス教授の権力支配が強化され、かくして科学技術の衰退をもたらすのとよく似ている。省庁の予算分捕り合戦や自治体の霞ヶ関詣でについては言わずもがなである。どうやら民主主義や市場原理が機能しない後進的な国や産業ではボス型権力者が跋扈すると言えそうである。

サルから人間への進化の過程でも、ボスからリーダーへというトップの性格の変化を見ることができる。オランウータン、ゴリラ、チンパンジー、ボノボなどの類人猿の社会は、サルの社会よりも人間の社会に近い。ニホンザルのボスは、群れの者を追い散らして餌などを独占してしまうが、チンパンジーの社会では先取特権が認められており、アルファオスといえども劣位のオスの所有権を尊重する。アルファオスは、群れの中で争いが起きると、割って入って仲介をするが、それは決して見かえり目的で仲介するわけではない。身贔屓的な仲裁をするオスは、激しい抵抗にあい、アルファオスとしての権威が失墜することもある。

では、チンパンジーのオスはボスではなくてリーダーなのかと聞かれれば、そうとは言えない。アルファオスは、自分の群れの利益しか考えておらず、他の群れに対しては派閥的な行動を取るからだ。 

野生のチンパンジーの社会は複雄群で、オスたちはメールボンドと呼ばれるメンズクラブに所属している。メールボンドの結束は強く、よその群れが近づくと一致団結して自分の群れや縄張りを守ろうとし、時には群れどうしで戦争に似た殺し合いが行われる。

特に集団が分裂した時の争いは熾烈である。例えば、タンザニアのゴンベ国立公園のチンパンジーで観察されたことだが、大きな集団から六頭のオスが分派すると、大きな集団のオスたちが連れ立ってパトロールし、裏切り組みが一頭で居るところを見つけて捕まえ、踏んだり蹴ったりして殺して行ったとのことである。

派閥を超えた、全体の利益を考えるリーダー型の権力者は、人類史において近代民主主義が誕生してはじめて可能になったと言えそうだ。

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