資本とは何か

2016年10月22日

資本および資本主義社会とは何か。社会主義経済は、近代資本主義経済と異なるのか。資本の概念は、社会学的にどこまで拡大できるのか。これらの問題をシステム論的に考えてみよう。

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1. 資本とは何か

資源を浪費すると、たんにエントロピーが増大するだけで、何の価値も生まない。しかし、資源を有効に活用すれば、エントロピーの増大が新たなネゲントロピーを生み出す。そして、資源が新たな資源を作り出すために使われるとき、その資源は資本と呼ばれる。

資本はそれが生み出す資本によって正当化される。生み出された資本もそれがさらに生み出す資本によって正当化される。自己言及的に自己自身を正当化し、自己自身を生み出すシステムという意味で、資本主義社会はオートポイエーシスである。

資本(capital)の語源は、ラテン語の頭(caput)である。ラテン語で家畜を意味する"pecus"が、貨幣や財産をあらわす"pecunia"のもとになっていることは興味深い。家畜の頭数が資本の大きさを表し、資本としての家畜は、子供を産むことにより自己増殖する。これが資本の原型的なイメージである。

2. 資本主義社会とは何か

資本主義社会とは、資本増殖のオートポイエーシスが自己目的化しているインフレ肯定型の社会である。こうした禁欲的な蓄積のための蓄積が「資本主義の精神」だ [マックス ヴェーバー:プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神] とするならば、社会主義も一種の資本主義だということになる。ソ連の5カ年計画を見れば分かるように、社会主義諸国も、「生産力の増大」を自己目的的に目指していた。

社会主義(共産主義)と資本主義との違いは、市場経済を認めるか否かにあるのだが、語源的観点からすれば、資本主義的経済が市場原理に基づかなければならない必然性はない。近代は総じて資本主義の時代であったのであり、市場経済も社会主義経済も、特権階級が富を蕩尽して、生産力を増大させようとはしなかった前近代社会とは異なるという意味で同じ近代資本主義経済なのである。

岩井克人のように、資本主義経済と貨幣経済を同一視し、 [岩井 克人:貨幣論] 貨幣の死であるハイパーインフレを資本主義経済の死とみなす人もいる。しかし、貨幣経済は、資本主義が誕生するはるか前から存在しており、貨幣経済と資本主義経済を同一視するわけにはいかない。資本主義経済は、貨幣が少しずつ死ぬインフレにおいて成長するのであって、貨幣の価値が増えることで、縮小再生産が続くデフレこそ資本主義経済の死なのである。

3. 広義の資本主義社会

近代資本主義は、経済資本の拡大再生産を偏重するという点で特異であるが、資本の概念を広く取ることにより、資本主義をさらに一般化することができる。すなわち、資源に経済的、文化的、身体的、政治的資源があることに対応して、資本にも、経済資本、文化資本、身体資本、政治資本があると考えるわけである。

経済資本は、生み出された経済資本と生み出す能力としての経済資本に、そして後者はさらに、潜在的な才能(商才)としての経済資本と実用資格・事業成功の経歴・企業ブランドなどの顕在化した能力証明としての資本に分類できる。

文化資本も、同様に、生み出された学問的・芸術的作品、作品を作る潜在的な才能、学歴・賞・肩書きなど能力証明の三つに分類できる。

身体資本とは、健康な、体力のある身体、美しい容姿、行儀の良い身体的振る舞いなどで、身体的特徴の多くが遺伝することを考えれば、生み出す資本と生み出された資本を生殖において区別することができる。オリンピックのメダルや美人コンテストでの受賞などの顕在的能力証明は、身体の価値が下がった後でも、利益を生むのだから、潜在的才能との違いははっきりしている。

政治資本とは、敵以上に味方を作る戦略的能力であり、その能力が作り出す《味方×資本量の合計-敵×資本量の合計》の大きさである。政治家であってもなくても、人生で成功するには、この資本が必要である。公職選挙によって得られた公的な肩書きは、政治資本を獲得する能力を証明すると同時に、さらに政治資本を拡大再生産するための資本ともなる。

資本が同じ種類の資本を増殖させるために使われることもあるが、別の資本を作るために使われることもある。オリンピックで金メダルを獲得し、国民的英雄となった選手が、その知名度を利用して国会議員に当選し、その政治的権力を利用して資金を集め、その金を政治・経済の研究に使うとき、身体資本から政治資本を、政治資本から経済資本を、経済資本から文化資本を作り出していることになる。

読書案内
書名 プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神
媒体 文庫
著者 マックス ヴェーバー 他
出版社と出版時期 岩波書店, 1989/01
書名 貨幣論
媒体 文庫
著者 岩井 克人
出版社と出版時期 筑摩書房, 1998/03