2月 182001
 

社会システムとは、たんなる人の集合ではない。システムが、要素と要素の相互作用でないように、社会システムも人と人との相互作用ではない。たんなる因果的相互作用なら、物と物との間にも確認できる。では、社会システムの本質とは何か。

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1. ダブルコンティンジェンシー

私は、システムを、不確定性を縮減する機能として定義したが、この定義は、社会システムの定義にも使える。ただし、社会システムの場合、縮減するべき不確定性が特殊である。社会システムが縮減するべき不確定性がどのようなものであるのかを理解するには、社会システムが存在しないなら、どのような不便があるかを考えればよい。

今無政府状態のジャングルで、あなたは見知らぬ相手と鉢合わせになったとしよう。二人は、お互いに銃を相手に向けて、同時に次のように叫ぶ。

「銃を捨てろ。そうすれば、こっちも銃を捨ててやる。」

私が銃を捨てるかどうかは、相手が銃を捨てるかどうかに依存し、相手が銃を捨てるかどうかは、私が銃を捨てるかどうかに依存している。このように二つのシステムの選択が、相互に相手のシステムの選択に不確定的に依存しているとき、その不確定性をダブルコンティンジェンシーと言う。

2. 囚人のディレンマのパラドックス

もし、二人とも武器を捨てて平和共存できれば、それが一番良い。しかし私が率先して銃を捨てても、相手が約束通り銃を捨ててくれるとは限らない。相手は武器を独占して、私を奴隷にしてしまうかもしれない。

予想される四つの事態における二人の利得の組み合わせは、以下のとおりである。

相手が銃を捨てる相手が銃を保持する
自分が銃を捨てる(自分=+1, 相手=+1)(自分=-1, 相手=+2)
自分が銃を保持する(自分=+2, 相手=-1)(自分=0, 相手=0)

ここで私は、次のような推論をする。「相手が銃を捨てるか保持するかは不確定だ。しかし相手が銃を捨てる場合でも保持する場合でも、いずれの場合にも自分が銃を保持した方が利得は大きい。だから私は、銃を保持しつづけるべきだ。」ところが、相手も同じことを考えているから、二人とも武器を捨てようとしない。

これは、所謂囚人のディレンマで、共に核兵器を削減しようとしなかった冷戦時代のアメリカとソ連も同じようなディレンマに陥っていた。

ゲームの理論によると、他のプレーヤーがどんな戦略を取っても、自分の利得の最小値を最大にする戦略が最適反応である。そしてどちらのプレーヤーにとっても最適である戦略の組み合わせは、ナッシュ均衡と呼ばれる。囚人のディレンマのパラドックスは、ナッシュ均衡が最善でないことがわかっていても、各プレーヤーは、最善の判断を下すことでナッシュ均衡にしか到達できないというところにある。

3. 囚人のディレンマからの脱却

では、二人が無政府状態から抜け出して、共に自分たちの生命を安全にするには、どうすればよいのか。二人だけでは、ダブルコンティンジェンシーのディレンマから抜け出せない。そこで第三者が現れる場合を想定してみよう。

二人の共通の知人が現れ、両手のピストルを二人に向けながら、「三秒以内に銃を捨てろ。捨てないとピストルで撃つ。一、二の三!」と言えば、二人に銃を捨てさせることができる。この場合、第三者は政府としての役割を果たしていることになる。

第三者が信用できないエイリアンなら、銃を捨てると、二人は第三者の奴隷になる可能性がある。そこで二人は、第三者が漁夫の利を占めないように、力を合わせて第三者を撃ち殺したとしよう。このとき、二人の間には、連帯感が芽生える。これはスケープゴート効果である。

ダブルコンティンジェンシーのディレンマを解消する第三者は、コミュニケーションメディアと呼ばれる。共通の味方であれ、共通の敵であれ、コミュニケーションメディアは、すべてのプレーヤーから等距離でなければならない。そしてこの等距離であることが、コミュニケーションメディアに公共性を与える。

社会システムに特有な不確定性のすべてがダブルコンティンジェンシーというわけではない。産業界は官僚の規制によって、官僚は政治家の命令によって、そして政治家は財界のロビー活動によって制約されるというような三者の意思決定依存関係は、ダブルコンティンジェンシーのたんなる組み合わせではない。そこで、ダブルコンティンジェンシーより包括的な概念として、マルチコンティンジェンシーという言葉を使うことにしよう。そして社会システムとは、マルチコンティンジェントな不確定性を縮減するコミュニケーションメディアであると定義することができる。

読書案内
書名社会システム理論〈上〉
媒体単行本
著者ニクラス ルーマン 他
出版社と出版時期恒星社厚生閣, 1993/01
書名社会システム理論〈下〉
媒体単行本
著者ニクラス ルーマン 他
出版社と出版時期恒星社厚生閣, 1995/09
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