太陽活動と景気循環の関係

2001年7月7日

なぜ景気は循環するのかに関して、専門の経済学者たちの間でいまだに定説がない。そこで、この問題を経済学の内部で解決しようとせずに、もっと宇宙規模で考察してみよう。景気循環を太陽系のバイオリズムとみなし、文明の興亡をも説明する包括的な理論の可能性が生まれてくる。[1]

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1. ジェボンズの太陽黒点説

限界効用理論の提唱者の一人として有名な経済学者、ウィリアム・ジェヴォンズは、1876年に、科学雑誌『ネイチャー』に「商業恐慌と太陽黒点」という論文[2]を発表し、太陽黒点活動と景気循環との連動を指摘した。多くの経済学者は、この太陽黒点説を荒唐無稽なオカルト的学説として嘲笑もしくは無視している。しかし、彼ら自身は、なぜ景気が特定の長さの周期で循環するのかを説得的に説明する代案を持っていない。

景気循環の主循環は、約10年を周期とするジュグラー・サイクルで、これは太陽黒点数の主要な変動周期である11年に対応している。例えば、最近100年間の日本における工業投資指数の伸び率と太陽黒点相対数とのグラフを見比べてみると、強い正の相関関係を観て取ることができる。経済学者は、機械の寿命は10年なので、設備投資は約10年ごとに増減すると説明するが、機械設備の耐用年限は、実際にはまちまちだし、時代によって変化しているので、この説明は苦しい。

2. 主循環以外のサイクル

主循環の他に、約40ヶ月を周期とする在庫循環であるキチン・サイクル、15-25年を周期とする建設循環であるグズネッツ・サイクル、50-60年を周期とする技術革新の循環であるコンドラチェフ・サイクルが、経済学の分野で実証されているが、それぞれ、2-4年(太陽黒点周期の1/3倍)周期のエルニーニョのサイクル、約22年(太陽黒点周期の2倍)周期のヘールのサイクル、約55年(太陽黒点周期の5倍)周期の吉村サイクルに対応している。

以下の図1は、11年周期の影響を取り去って、太陽黒点数の増減の傾向を図示した、11年移動平均のグラフである。55年周期以外に、その倍の周期をも見て取ることができる。

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過去300年間の太陽黒点数の11年間移動平均[3]

コンドラチェフ・サイクルは、金利の波動なのだが、金利が高くなる1815年、1870年、1920年、1973年では、太陽活動も低調である。図2 を見てもわかるように、特に1901年前後は、山が低い状態が長く続いているが、それは、この期間が、さらに規模の大きな長期の波動、太陽大周期の谷に当たるからだ。

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1700年から2002年までの太陽黒点数の変動[4]。青色の各山が11年周期に相当する。

太陽大周期とは、200年ごとに現れる、太陽黒点数の極小期である。1900年前後の極小期の200年前に当たる1700年前後にはマウンダー極小期、さらに200年前に当たる1500年前後にはシュペーラー極小期、さらに200年前に当たる1300年前後にはウォルフ極小期がある。これらの三つの極小期には、こうした固有名詞がつくぐらい太陽黒点数が激減した。14世紀から18世紀にかけての時期は、現在の温暖期や中世温暖期と比べて寒く、小氷期と呼ばれているぐらいであるが、それは、この期間が、さらに規模の大きな長期の波動、2500年周期の谷に当たるからだ。

太陽黒点数は、2500年ごとに、ほとんどゼロになる時期が来る。BC3300年頃から始まった都市革命、BC800年頃から始まった精神革命、1700年頃から始まった科学革命は、いずれも2500年周期の谷で起きた革命なのである。都市革命は、世界各地に四大文明を生み出した。精神革命は、イスラエル、ギリシャ、インド、中国に、今日でも古典として賞賛されている高度な哲学や宗教を生み出した。科学革命は、ヨーロッパに、近代科学と技術革新に基づく資本主義を生み出した。こうした人類の歴史を画期する重要な出来事が、気候の寒冷期、すなわち危機的状況で現れることは興味深い。逆に山に相当する温暖期、例えば中世温暖期では、生活が安定するがゆえに、革命やイノベーションは起きにくくなる。

3. なぜ黒点数の変動は経済に影響を与えるのか

こうした太陽黒点数の波動と人類文明の波動とのシンクロナイズは、たんなる偶然であって、因果関係はないのだろうか。そうではない。太陽黒点数が増えると、太陽放射の強度が増える。もっとも、太陽放射全体の強度の変動幅は、11年周期でたったの0.08%であり[5]、この程度の変動では、地表面の温度を変えることはできない。

1997年に、デンマーク気象研究所の Svensmark と Friis-Christensen は、地球全体の雲量と宇宙線の放射強度との間に相関性があると発表した[6]。宇宙線とは、宇宙空間に存在する高エネルギーの放射線粒子のことである。宇宙線の放射強度は、太陽束(太陽から放射される電磁波)の強弱に左右されるから、太陽黒点数の周期に応じて、雲量が変化するということになる。

実際、以下のグラフ(図3)を見るとわかるように、太陽束(solar flux 破線)が増えると(このグラフでは、下に向かうと)、宇宙線の流入量の変化率(changes in cosmic ray flux 実線)が減り、それとともに、雲量の変化率(change in cloud fraction 図形)が減ることが見て取れる。

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雲量の変化率(図形)と宇宙線の流入量の変化率(実線)と太陽束(破線)の相関関係[7]。 雲量データのうち、三角形は、Nimbus7のデータ、四角形は、ISCCP C2 と ISCCP D2 のデータ、菱形は、DMSPのデータである。

なぜこのような連動が起きるかを説明しよう。宇宙線は、超新星残骸などで加速されて、銀河から地表面に降り注ぎ、空気中で、窒素や酸素の原子核に衝突して、陽子、中性子、パイ中間子、ミュー粒子などを発生させ、これらの粒子がさらに、大気の窒素や酸素の原子核に衝突し、多数の粒子を発生させる。粒子が増えると、粒子の周りに水蒸気が集まって、雲が形成されやすくなる。ところが、太陽黒点数が増えると、太陽風(太陽から吹き出す高温で電離したプラズマ)が吹き荒れ、そして、その太陽風が、太陽系外から流入する宇宙線を吹き飛ばす。だから、太陽活動極大期には、宇宙線の流入量が減り、雲が形成されにくくなる。つまり、太陽放射が雲に反射されずに地表に届きやすくなり、気温が上がる。太陽活動極小期にはその逆が起きる。

いったん気温が上昇ないし下降すると、さらにその気温の変動を増幅させるポジティブ・フィードバックが作動する。寒冷化して、雪氷に覆われる面積が増えると、アルベド(入射光エネルギーに対する反射光エネルギーの比)が増えて、さらに寒冷化が加速される。温暖化が進むと、雪氷に覆われる面積が減り、さらに温暖化が加速される。この他、温暖化が進むと海中に溶けている温室効果ガスが放出され、さらに温暖化が進むというポジティブ・フィードバックもある。寒冷化では、逆の現象が起きる。

以上より、太陽黒点数が増えると、地球はより多くの太陽エネルギーを受け取り、そしてその低エントロピー資源を消費することにより、養分と水と大気の循環が活発になり、人間経済の生産量も増大すると考えることができる。

4. 付録:フォーラムからの転載

関連トピックとして、フォーラムから“太陽活動と景気循環に関しての質問”を転載します。

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1985年から2015年にかけての太陽黒点数の変化[8]。100年に1度の経済危機といわれる2007-2009年の大不況と100年に1度の太陽活動の低迷が時期的に重なっている。
太陽活動と景気循環に関しての質問
投稿者:くわひろ.投稿日時:2012年4月09日(月) 21:58.

「太陽活動と景気循環の関係」についてご質問させて下さい。

質問1

「太陽活動と景気循環の関係」において

永井俊哉 さんが書きました:

以下の図1は、11年周期の影響を取り去って、太陽黒点数の増減の傾向を図示した、11年移動平均のグラフである。55年周期以外に、その倍の周期をも見て取ることができる。

[中略]

コンドラチェフ・サイクルは、金利の波動なのだが、金利が高くなる1815年、1870年、1920年、1973年では、太陽活動も低調である。図2 を見てもわかるように、特に1901年前後は、山が低い状態が長く続いているが、それは、この期間が、さらに規模の大きな長期の波動、太陽大周期の谷に当たるからだ。

上記のご指摘に関して1870年は太陽活動が低調とあるますが、11年間移動平均グラフをみても、太陽黒点数の変動グラフを見てもその対応関係がはっきり分からないのですが、お考えをお聞かせ下さい。移動平均グラフにある1858年の底の影響が後になって出てくるという事でしょうか?

質問2

バブルはなぜ生まれるか」において

永井俊哉名 さんが書きました:

80年代の日本発のバブルと90年代のアメリカ発のバブルは、10年周期のジュグラー・サイクルで説明できる。

とありますが、、日本発のバブルとネットバブルそれぞれの発生時期は、太陽黒点第22周期と23周期の谷底からの増加期に始まり頂点において崩壊するように見受けます。

しかし、「物価は成長とどう関係するのか」によれば、

永井俊哉 さんが書きました:

2.2. インフレ期(高い物価上昇率+低い経済成長率)

太陽黒点数の極小期、すなわち資源デフレの時期に見られる現象である。リフレ型経済成長にともなって、資源需要が資源供給の上限を超えて増大し、貨幣供給が貨幣需要の上限を超えて増大すると、経済成長を伴わない物価の上昇、いわゆるスタグフレーションが始まる。スタグフレーションは、大規模な戦争による資源枯渇現象として現れることが多い。資源不足を解消するために、企業は生産の縮小を余儀なくされる。その結果、スタグフレーションは不況と失業率の上昇を帰結する。

2.3. ディスインフレ期(低い物価上昇率+高い経済成長率)

スタグフレーションから脱却するために、政府と民間は支出を切り詰め、金融を引き締める。その結果インフレが終息すると、名目金利は低下し、それに伴って、収益還元法によって評価される資産価格が上昇し始める。いったん資産価格が上昇し始めると、投機の過熱と資産価格の高騰の循環が始まり、資産バブルが発生する。1950~60年代の日本に見られたようなリフレ型経済成長が、物価の上昇を伴った消費主導の経済成長であったのに対して、1980年代後半の日本に見られるようなディスインフレ型経済成長は、物価の上昇を伴わない投資主導の経済成長である。ディスインフレ型好景気は、資産価格の暴落により終わる。第1波動では、1825年にイギリスで起きた南米投資バブルの崩壊、第2波動では、1873年に欧米で起きた鉄道バブルの崩壊、第3波動では、1929年にアメリカで起きた株式バブルの崩壊(暗黒の木曜日)、第4波動では、2000年にアメリカで起きたネットバブルの崩壊が有名な例である。

とあり、バブルは太陽黒点55年周期の極小期から上昇期に向かう場面で起こるように受け取れます。太陽活動と景気循環は55年周期と、11年周期においてはフラクタルではなく、むしろ逆なのでしょうか?

ここがどうしても理解できませんので、ご教授下さい。

質問3

現在、コンドラチェフ・サイクルと太陽黒点55年周期の関係はどうなっているのでしょうか? 1973年が金利の頂点で、太陽活動が谷底であれば、2000前後に太陽活動活発の頂点と金利の谷底が現れ、現在(2012)においては太陽活動が55年周期での極小期に向かいつつある段階で、世界経済もリフレ期にあると思うのですが、私の力でそれを確かめる資料を見つけることはできませんでした。 55年周期の頂点とコンドラチェフ・サイクルの谷底はいつ現れたとお考えでしょうか?

質問4

上記質問2、3とも関係しますが、現在、第24周期のシュワーベ・サイクルに入ったようですが、55年周期で見ると極小期に向かっている途中だと思うのですが、巷では、11年周期の黒点増加期に入ったから景気が良くなるというような論調があります(これは正しいのでしょうか??)。

また55年周期で考えて見ても、リフレを導く時期に入ったような気がしているのですが、今後の太陽11年周期と55年周期を鑑みて、永井さんの短期的、長期的な経済状況の見通しはありますでしょうか?

もしくは、財政政策や金融政策でのコントロールの方が影響が大きく、もはや太陽の活動状況は経済の好不況を考える上で影響が少ないとお考えでしょうか?

以上よろしくお願い致します。

Re: 太陽活動と景気循環に関しての質問
投稿者:永井俊哉.投稿日時:2012年4月10日(火) 11:17.

くわひろ さんが書きました:

1870年は太陽活動が低調とあるますが、11年間移動平均グラフをみても、太陽黒点数の変動グラフを見てもその対応関係がはっきり分からないのですが、お考えをお聞かせ下さい。移動平均グラフにある1858年の底の影響が後になって出てくるという事でしょうか?

1816年から1914年までは、金本位制のおかげでインフレが人為的に抑制されていた時期に相当します。またこの時期は、パクス・ブリタニカの絶頂期で、比較的戦争が少なく、このため、それ以外の時期と比べて金利が低く抑えられていて、金利の高騰という形で影響が顕著に出てきません。それでも、1858年前後は比較的金利が高かったのですが、1866年の普墺戦争、1870年の普仏戦争の影響で、1870年の方が金利がより高くなったということです。

くわひろ さんが書きました:

太陽活動と景気循環は55年周期と、11年周期においてはフラクタルではなく、むしろ逆なのでしょうか?

太陽黒点55年周期は物価の波であって、11年周期の設備投資(景気)の波と同じ扱いはできません。なお、「太陽活動と景気循環の関係」は10年以上前に書いた記事で、現在のデータを扱っていません。現在のデータに基づく議論は、ブログで詳述しますので、それまでお待ちください。

Re: 太陽活動と景気循環に関しての質問
投稿者:くわひろ.投稿日時:2012年4月10日(火) 18:22.

明確なお答えありがとうございました。

景気循環を示す各サイクルが、太陽活動循環の各サイクルと対応するというのは本当に興味をかき立てられました。

今一度上に挙げさせて頂きました永井さんの論文を読み直して、私がしっくりこなかった点が判明しました。

「太陽活動と景気循環の関係」におきまして下記の対応が示されています。

  • コンドラチェフ・サイクル50-60年 ―  吉村サイクル(太陽黒点周期の5倍)
  • グズネッツ・サイクル15-22年   -  ヘールのサイクル(太陽黒点周期の2倍)
  • ジュグラー・サイクル10年     -  太陽黒点周期 11年サイクル
  • キチン・サイクル約40ヶ月     -  エルニーニョ・サイクル(2-4年太陽黒点周期の1/3倍)

しかしながら、「物価は成長とどう関係するか」では、グズネッツ・サイクルの(本来的な)位置付けとして、コンドラチェフ・サイクルの中にある2つの景気循環にグズネッツ・サイクルを対応させておられます。

とすると、グズネッツ・サイクルの対応として、太陽黒点周期の2倍であるヘールのサイクルと、太陽黒点周期の5倍である吉村サイクルの半分(太陽黒点周期の2.5倍)を示されていることになると思うのです。

又、コンドラチェフ・サイクルの中にある2つの景気循環と、5回起こる設備投資(景気)の波の関係が理解できません。

永井さんのシステム論システム・ブログでの新たな論文で、上記のような私の疑問に対するようなご見解が頂けたらと思います。楽しみにしております。ありがとうございました。

5. 参照情報

  1. 本稿は、2001年07月07日にメルマガに投稿した「太陽活動と景気循環」を改訂したものである。原文に関しては、リンク先のキャッシュを参照されたい。
  2. Jevons, W. Stanley. “Commercial Crises and Sun-Spots.” Nature 19, no. 472 (November 14, 1878): 33–37.
  3. National Geophysical Data Center. “Sunspot Numbers” でのデータを基に作成。
  4. National Geophysical Data Center. “Sunspot Numbers” でのデータを基に作成。
  5. The Intergovernmental Panel on Climate Change. Climate Change 2001, The Scientific Basis, 6.11.1.1.
  6. Svensmark, Henrik, and Eigil Friis-Christensen. “Variation of Cosmic Ray Flux and Global Cloud Coverage—a Missing Link in Solar-Climate Relationships.” Journal of Atmospheric and Solar-Terrestrial Physics 59, no. 11 (July 1997): 1225–32. doi:10.1016/S1364-6826(97)00001-1.
  7. Svensmark, Henrik. “Influence of Cosmic Rays on Earth’s Climate.” Physical Review Letters 81, no. 22 (November 30, 1998): 5027-30. p.9.
  8. Marshall Space Flight Center. “Solar Cycle Prediction.” NASA. Updated 2016/01/12.