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性的自己擬態の記号論

2008年10月31日

最近、ローライズパンツをはいた女性が、しゃがんで腰の地肌を見せることがはやっているが、あのしぐさが男を性的に刺激するのはなぜなのか。男が、女とは異なってネクタイをしめるのはなぜなのか。デズモンド・モリスの性的自己擬態説を参考に、これらの問題を考えることで、人類の表象文化の起源を探りたい。

Image by Ian Lindsay from Pixabay
切り株に擬態する蛾。このように、動物が周囲の事物や他の動物に似た形態を持つことを擬態(mimicry)という。

1. 自己擬態による性的誘惑

自分の体の一部を他の部位に模造することは、自己擬態(automimicry/self-mimicry)と呼ばれている。例えば、ある種のヘビは、尻尾が顔そっくりであるが、このヘビは、自己擬態をしているということができる。ヘビの危険部位は噛み付くことができる頭の部分であるから、尻尾を頭とそっくりにすることで、敵を効果的に牽制することができる。自己擬態という言葉は、同一個体内だけでなく、同一種内での擬態に対しても使われる。例えば、ミツバチのオスは、メスとそっくりな外観を持つことで、メスのミツバチのように針で刺す能力があるかのように偽装し、敵を威嚇することができる。

自己擬態の機能は、敵を威嚇することにのみ限定されない。異性を惹きつけるための自己擬態もある。デズモンド・モリスによれば、人間の女性の乳房と口唇は、尻と陰唇の擬態になっている。

女性の突出した半球形の乳房は、肉質の尻のコピーに違いないし、また口のまわりのはっきりと区切られた赤い唇は赤い陰唇[女の外部生殖器の一部]のコピーに違いない。[1]

なぜこのような擬態が生じるのか。モリスは、性的自己擬態のもう一つの例として、ゲラダ・ヒヒを挙げる。ゲラダ・ヒヒの胸には、以下の図の上部に描かれているように、尻と同様に、白い毛に縁取りされたひょうたんの形をしたピンクの皮膚があり、かつ、その中で、赤い乳首が、赤い陰唇のように中央でくっついている。このように、性器とそっくりの形状を胸に作り出すのは、ゲラダ・ヒヒが、他のサル科の動物と比べて、長い時間尻を地面に付け、性器が隠れる姿勢で座っているからだとモリスは言う。

Automimicry: Big Boobs, Ruby Lips and Pendulous Noses
ゲラダ・ヒヒ(上)とマンドビル(下)における自己擬態。Source: R. Dale Guthrie. Body Hot Spots: The Anatomy of Human Social Organs and Behavior. Chapter 13. “Automimicry: Big Boobs, Ruby Lips and Pendulous Noses.” Van Nostrand Reinhold (1976/6/1).

人間の性的自己擬態も同じ理由で説明できる。もしも人間が、他のサル科の動物と同様に、四足歩行をし、性器が顔と同じ高さにあって、よく見えるなら、このような擬態は不要である。しかし、直立二足歩行をし、後背位ではなくて対面位でセックスをするようになると、尻も陰唇も見えにくくなる。そこで、ちょうどフェロモンが、性器から以外に、鼻の高さにある腋の下からも分泌されるようになったように、尻と陰唇も、本店とは別にその代理店を体の上部に作ったと考えることができる。

性的自己擬態に対応して、性交にも擬態が生じる。陰唇の代わりに口唇にペニスを挿入する行為や、尻の間にペニスを挿入する代わりに、乳房の間に挿入する行為は、性的自己擬態ゆえに生まれた性交の象徴的反復であり、前戯として使われている。ある種の性交では、アナルが陰唇の代わりになっている。相手の口の中に舌を挿入するフレンチキスや陰唇に舌を挿入する場合では、舌がペニスの代わりになっている。勃起した乳首を口に含む場合、乳首がペニスの代わりとなっている。

ところで、モリスは、自己擬態のもう一つの例として、マンドリルというヒヒの顔を挙げている。マンドリルの顔には、引用した図の下部に描かれているように、青い皮膚に挟まれた真っ赤な鼻があり、黄色いあごひげが生えているが、これは臀部における真っ赤なペニス、その横にある青い陰嚢、その下にある黄色い陰毛の擬態になっている。モリスは、この自己擬態の理由はわからないと言うが、これは、敵の攻撃に対して脆弱になりがちな尻の部分を顔に似せて、敵を威嚇するためだろう。つまりヘビの自己擬態と同じで、顔の擬態が臀部に生じていると考えるべきだ。

2. 人工物による性的自己擬態

人間は自然的存在であると同時に文化的存在でもあり、性的自己擬態を人工物で強調したり新たに作ったりする。ブラジャーで、たるんだ乳房を寄せて、上げて、尻のような外観にしたり、口紅を塗って、唇を、性的に興奮して、膨らんで濃い赤色になる陰唇のようにしたりすることは、人工物による自然的擬態の強調である。

2.1. 性的自己擬態としての腰見せ

近頃、ローライズパンツと丈の短い上着という組み合わせが女性の間ではやっている。この組み合わせだと、以下の写真にあるように、座ったり、かがんだりすると、ウエスト部分で腰の地肌とパンツが露出してしまう。女性が、腰周りの肌を見せることにどのような意味があるのだろうか。

画像の表示
ローライズパンツの一例[2]

このファッションを取り上げた News Web Japan の記事は、以下のような澤口俊之のコメントを引用して、「脳の障害によるれっきとした病」と言っている。

「ファッションというのは、どんな意識的な理由(口実)があったとしても、無意識な『繁殖戦略』が隠れています。よくいわれる本能というものです。男性に訴えかけるような体型とかファッションをする、わざとセクシーに見せるとか、逆に慎ましく見せるとかは、人を意識している行動なのです。これは問題ではない。ただ、無意識に下着が見えるような格好や行動をしたりするのは、周りに対して無頓着、かまわなくなるということなので、脳の障害でおこるれっきとした病です。パンツが見えようが、ブラジャーが見えようが気にしないというのは、それはうつ病の傾向を疑うか、人間としての本来的な働きが落ちていることなのです。実際、分裂病のかたは身なりを気にしなくなります。外界に対する意識の障害ですね。ある状況に対して、自分はどういう立場なのかという意識がないんです。そういう人たちが目だってきています。周りにどう思われているか意識しない、自己意識がなくなるというのが、『ゲーム脳』といわれている正体でもあります。若者が切れやすいというのも前頭前野の働きがにぶっているからです」[3]

この澤口のコメントの前半には同意できる。ファッションには、意識的な口実が何であれ、無意識な「繁殖戦略」が隠れているというのは、そのとおりである。だが、下着を見せるという行動には、「繁殖戦略」がないといえるだろうか。澤口のような、年配の男性は、女性が下着を見せることに性的な魅力を感じず、むしろだらしがない程度にしか感じないだろう。しかし、若い男性は、必ずしもそうではない。彼女たちの腰見せファッションが、繁殖のパートナーとして、性的魅力の劣る中高年の男性を予め排除して、若い男性にターゲットを絞った誘惑であるとするならば、それは立派な「繁殖戦略」であると言うことができるのではないか。

ところで、この記事が書かれた2002年には、森昭雄の著書『ゲーム脳の恐怖』が出版され、「ゲーム脳」がマスコミの流行語になったが、この仮説は、未だに科学的には実証されていない。そもそも、日本の女性の大半が「分裂病」ということはないだろう。

モリスは、腰見せファッションがはやっているのは、女性がスカートをはく代わりにズボンをはくようになったからだと言う。

この結果、女性の脚は、露出された肉体領域としての役割をほぼ終え、代わりに新しいゾーンが必要とされた。肩と胸の谷間を露出させるロートップが過去に使われたことがあったが、そのやり方はすでに陳腐になっている。何か新しいものが求められていたところ、どこかで誰かが、短くてズボンに届かない上着を着るというすばらしいアイデアを思いついたのだった。[4]

たしかにそうではあるが、肌の一部を露出するのであれば、どのような方法でもよいというわけではない。

モリスは、胸の谷間を尻の性的自己擬態で説明したが、スカートを履いて足を露出することも、性的自己擬態で説明できる。私は、以前次のように書いた。

男の関心を惹きつけようとする女が、なぜ冬の寒い時でも、ミニスカートをはいて太ももを露出するのか、その理由を考えてみよう。ミニスカート・露出した太もも・X脚という男好みの三点セットがそろうと、尻と性器を連想させる肉の山と谷ができる。それは女陰の擬態なのだ。[5]

ズボンをはくと、この性的自己擬態が無効になるとするならば、それを代替する腰見せルックスは、それに取って代わる性的自己擬態ということになる。実際、女性がしゃがんだ時、上着とパンツの間がぱっくりと開いて、地肌が露出すれば、まるで、女が両脚を開いた時にぱっくりと開く陰唇を縦にした時のようである。肌だけでなく、複雑なふち模様のパンツまで露出させると、それはまるで、陰唇の襞のようだ。だからこそ、それは、男にとっては、妙にエロチックに感じられるのではないか。

女の腰の肌自体は全然エロチックではないし、ビキニ姿の女が露出する肌の中で特に注目されている部分でもないのにもかかわらず、しゃがんで腰の地肌を露出させることが男を悩殺するのは、それが性器の擬態になっているからではないだろうか。

2.2. 性的自己擬態としてのネクタイ

他方で、男は、背広とワイシャツとネクタイというフォーマルな服装で性的自己擬態を行っている。フロイトは、ネクタイはペニスの象徴であると言った[6]が、男の胸の中央でぶらぶらしているネクタイがペニスの擬態であるとするならば、そのペニスの付け根の横に広がる二つの襟は、睾丸に相当し、それらを囲む背広の左右の前身頃(まえみごろ)は、両脚に相当するということになるだろう。人間の男は、ゲラダ・ヒヒと同様に、胸に性器の類似物を作って、異性の注意を惹き付けようとしているのである。

ネクタイは、ペニスの見本としては長すぎるのではないかと思う読者もいるだろう。その通り。男たちは「自分のあそこはこんなに長いのだぞ」と誇大広告をしているのである。長くて大きなペニスは男たちの憧れの的である。ペニスが少々短くても、セックスする上で何の問題もないにもかかわらず、短小ペニスに悩んで病院を訪れる男性は少なくない。

男が大きなペニスを欲望するのは、短小なペニスでは、女にもてないと思っているからである。澤口によると、ペニスの大きさと背の高さは比例する[7]。そして背の高さと知性の高さも比例する。プリンストン大学のアン・ケースとクリスティナ・パクソンによると、3歳の頃から、背の高い子供の方がそうでない子供よりも認識力のテストで良い結果を出す[8]

もしもこれが本当ならば、背が高くてペニスの長い男を欲望する女は、知性の高い男を欲望しているということになる。男の性的自己擬態は、そうした女の欲望を満たそうと「背伸び」をした結果と解釈できる。もとより、澤口の説の科学的根拠は明確ではないし、だから、私は、「指の長い男はなぜもてるのか」では、生物学的説明ではなくて、象徴論的な説明にとどめておいた。

3. 表象文化の起源としての性的自己擬態

性的自己擬態は、視覚的手段以外に言語的手段によって行われる。そもそも言語は、その本来のありかたにおいて擬態的である。言語は、対象そのものではないが、対象を代表象する(represent 代理し表象する)機能を持つからである。漢字のような表意文字はもちろんのこと、アルファベットのような、今日純粋な表音文字として機能している文字も、その起源にさかのぼってみると、象形文字であったりする。象形文字は、本物である対象を模倣した擬態と言ってさしつかえない。

人間が最も発達した言語能力を持つ動物であることと、人間が意図的に性器を隠す唯一の動物であることは無関係ではない。性器の希少価値を高めるために異性に対して性器を隠蔽しなければならないと同時に、異性を誘惑するために性器の存在をほのめかさなければならないという相反する要求に答えるべく、人間は性的自己擬態を増殖させ続けてきた。そしてその延長上に、言語という最も洗練された表象文化を位置づけることができる。

考えてみれば、これまで新しいメディアを先導してきたのは、いつもポルノであった。インターネットが1996年に日本で爆発的に普及したのは、インターネットに接続すれば、無修正のポルノ画像が見ることができたからであり、だから、当時は男性のユーザーの方が圧倒的に多かった。ビデオデッキが一般家庭に普及することができたのも、アダルト・ビデオを自室で鑑賞したいという男たちの飽くなき欲望があったからである。CD-ROMも、映画も、写真も、そして活版印刷術も、不可視の性器を代表象させるためなら金に糸目を付けない消費者がいたからこそ、大衆規模までに市場を拡大することができるようになったのだ。

これまで新しいメディアの普及にポルノが果たしてきたパイオニア的役割を考えるならば、メディアの起源をポルノに求めることすら可能かもしれない。そこまで言ってよいかどうかは別として、もしも人間が性器を隠蔽しないようになるならば、性器の存在は水や空気と同じくありふれた存在になり、ちょうど水や空気を消費するために金を払う人がいないように、それを見るために金を支払う人はいなくなるであろうことは確かだ。人類が性器を隠蔽し続けてきたおかげで、人類は性的自己擬態を増殖させ、さらには豊かな表象文化一般を築き上げることができるようになったのである。

4. 付録:女性の乳房はなぜ肥大化したのか

以下の議論は、システム論フォーラムの「女性の乳房はなぜ肥大化したのか」からの転載です。

読者による問題提起
投稿者:てしがわら.投稿日時:2012年8月30日(木) 23:47.

はじめまして。「てしがわら」と名乗らせていただきます。永井先生の「ヒトは海辺で進化したのか」を読ませていただきました。私の本業は理論物理学者で、人類進化に関しては門外漢なのですが、最近興味があり、独学で勉強しております。その中で、上記のページに行き当たり、感銘を受けました。実は、私もチャド共和国で700万年前の人類が発見されたニュースを知ってから、永井先生と同じような淡水域での半水棲進化説を考えていたものですから。

個人的には現生のバクのような生活形態で、肩あたりまで浸かる深さの水辺を主に歩いて移動し、魚や海藻を採るときだけ、もぐったり泳いだりしていたと推定しています。さて、前置きが長くなってしまいましたが、「女性の乳房の肥大化」についてです。結論から言うと、私はこれは「女性の乳房が脂肪を蓄えて肥大化したのは水面で授乳させやすくするため」であると考えています。つまり、上記のようにかつての人類が、水辺で、肩あたりまで浸かって歩いていたとするなら、他の類人猿のように胸が平らだと、そのままでは授乳できない。赤ん坊がおぼれてしまいます。もちろん、いちいち授乳のために浅瀬や岸まで戻ってもよいでしょうが、その場で授乳できた方が便利です。現生人類の女性の胸のように脂肪で肥大化した乳房は水面ではプカプカ浮きます。乳房全体が浮いて乳首が水面から上に出た状態になれば、母親が肩まで浸かる深さにいても赤ん坊は窒息することなく、そのまま授乳できます。

もちろん、これも物的証拠のないただの仮説(というか、仮説の上に重ねた仮説)に過ぎませんが、女性の乳房が肥大化しているのはほとんど人類だけの特徴なのに、このことについて触れた人類水生進化説を見たことがなかったものですから、ここに投稿させていただきました。まあ、単に私が不勉強で未見なだけかもしれませんが。もしよろしければ、永井先生のご意見をお聞かせください。

Re: 女性の乳房はなぜ肥大化したのか
投稿者:永井俊哉.投稿日時:2012年8月31日(金) 10:44.

英国の生物人類学者、ジリアン・ベントレー(Gillian Bentley)によると、女性の人の乳房が、他の類人猿の乳房とは異なり、突出するようになった原因は、乳児の頭蓋の構造変化であるとのことです。

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授乳するチンパンジーの写真。この写真からもわかる通り、授乳するチンパンジーのメスの乳房は膨れていない。子は口をとがらせて乳を吸っている。[9]

ヒト以外の類人猿は、顎が突き出ているので、平らな乳房でも問題なく乳を吸うことができます。ところがヒトは、大脳が発達するにしたがって、頭蓋の構造が変化し、顔面が平らになりました。顔面が平らで乳房も平らだと、乳を吸いにくいし、最悪の場合、鼻孔が乳房でふさがれ、窒息する危険すらあります。だから、乳房は、男の気を惹くためにではなくて、顔面の平面化に対応するために進化したのではないのかというわけです。

乳房は思春期まで発達しないため、生物学者は、乳房があることで、女性が伴侶を惹きつけ、自分と子供の幸せに関心を持ってもらうことができると考えました。胸の大きい女性は、より成功し、より多くの子供を産んだという説があります。

しかし、その説明はベントレーにとってはピンとこないものでした。まず、胸への憧れは世界共通ではありません。「乳房を露出している多くの文化では、それほどエロティックなイメージの源にはなりません」と彼女は言います。

別の説明は、ベントレーが娘にミルクを与えているときに閃きました。ベントレーは下を見て、もし自分の胸が突き出ていなければ、娘が乳を飲もうとしているときに娘の鼻が肉に埋もれてしまうことに気がつきました。娘は窒息してしまうかもしれません。乳房が進化して大きくなったのは、乳児が息をするスペースを確保するためだったではないでしょうか。

霊長類の乳児の多くは、顎や唇が突き出ているため、窒息の危険性はないと彼女は気付きました。そこで彼女は、乳房が人間の顔の特徴と共進化したのではないかと提案しています。

顔が平らになると、それを補うために乳房が大きくなったということです。「乳児の死亡は非常に強い淘汰だったでしょう」とベントレーは言います。[10]

これが乳房発達の一次的原因であることを認めたとしても、二次的原因として性選択を考えることはできます。文明国の女性の乳房が、裸族の女性の乳房とは異なり、丸くて上向きなのは、ブラジャーの装着が原因でしょう。彼女たちが授乳期を過ぎた後もブラジャーで乳房の下垂を防ごうとするのは、文明国では形の良い乳房に記号的な意味があるからだと思われます。

さて、乳房発達とアクア説のと関係ですが、ご提案のような説を唱えるには、人類の進化上いつから乳房が発達したのかを検証する必要があります。引用文からもわかる通り、Gillian Bentley の説も、自分自身の授乳体験からの思い付きといった感じで、考古学的に実証されているようではないようです。残念ながら、乳房がどの程度発達していたかは出土品からはなかなか推定できないので、このため説得力のある説が形成されにくいのが現状です。

Re: 女性の乳房はなぜ肥大化したのか
投稿者:てしがわら.投稿日時:2012年8月31日(金) 22:12.

てしがわらです。丁寧なご返答ありがとうございます。

乳房そのものは化石として残りませんから、いつごろから発達したかを検証するのは難しいかも知れませんね。強いて言えば、乳房を支えるクーパー靭帯などの痕跡から発達の程度を推定することはできるかもしれません。靭帯の痕跡から筋肉の発達の度合いを解剖学的に推定することは可能であり、乳房を支える筋肉も乳房の肥大に伴って発達していったと考えられますから、状態のよい化石さえあれば、乳房の発達した年代がおおよそでわかるかもしれません。ただ、人類の化石は、特に古い年代のものは、ほとんど部分化石しか見つかっていませんから、やはり難しいでしょうね。

しかし、もしクーパー靭帯の痕跡などから、発達した年代が明らかになれば、Bentley氏の説と、今回のアクア発達説のどちらがより信憑性があるかを判定できそうです。Bentley氏の仮説が正しいとすれば、女性の乳房の発達は、人間の脳の発達とそれに連動した頭蓋骨の形状変化に関わりがあるそうですから、これは人類史的にみて、かなり最近のことだということになります。原人でもまだ下顎が大きいですから、少なくとも新人になってからということになるでしょう。一方で、アクア説では半水生生活は人類の黎明期にみられた生活形態であろうと推測しているわけですから、それとともに乳房が発達したとするならば、すでに猿人の段階で女性は大きな胸をしていたことになる訳です。

とはいえ、Bentley氏の仮説には、少し無理があるようにも思えます。なぜなら、現代人の女性でも、胸の小さな方はいらっしゃいますが、彼女たちが授乳のとき、赤ん坊を窒息させてしまったなどという報告は聞いたことがないからです。陸上で授乳する限りは、胸が小さくても安全に授乳はできるのです。やはり水面で赤ん坊をおぼれさせずに授乳させるために発達したと考える方が、多少なりとも説得力があるように思います。そして、その後、半水生生活を捨て、再び完全な陸上生活に戻った時、当初の意味を失った発達した乳房に、新たに性的アピールという二次的な意味が与えられたと考えるのは乱暴でしょうか?

いずれにせよ、状態の良い古い年代の化石が発見されないことには仮説の域を出ませんが。

Re: 女性の乳房はなぜ肥大化したのか
投稿者:永井俊哉.投稿日時:2012年9月01日(土) 17:51.

てしがわら さんが書きました:

Bentley氏の仮説が正しいとすれば、女性の乳房の発達は、人間の脳の発達とそれに連動した頭蓋骨の形状変化に関わりがあるそうですから、これは人類史的にみて、かなり最近のことだということになります。原人でもまだ下顎が大きいですから、少なくとも新人になってからということになるでしょう。

Bentley は、脳の発達のおかげで顔が平面化したと言うのですが、私はこれは正しくないと思います。なぜならば、以下の写真を見てもわかる通り、脳がまだ発達していない最古期(600万年~700万年前)のヒトの化石であるサヘラントロプス・チャデンシスの段階で、顔面が既に平面化しているからです。

画像
サヘラントロプス・チャデンシスのホロタイプ頭蓋の顔側面図。トゥールーズの人類学分子・画像合成研究所の標本。[11]

このサヘラントロプスの頭骨では、脊髄が通る孔である大後頭孔が下方にあることから、脊髄が下に伸びていた、つまり、サヘラントロプスは直立していたと推定されています。ここから、顔面の平面化をもたらしたのは、直立二足歩行であった、つまり、直立二足歩行をするようになって、大後頭孔が下方に移り、その結果、顎骨が奥に引っ込むような頭骨になったのではないかと考えることができます。

顔面の平面化は、ケニアのトゥルカナ湖西岸地域で発見された約330万年前のケニアントロプス・プラティオプスにおいて特に顕著です。あまりにも顔が平らなので、「顔の平らなケニア人」という意味でこの名前が付けられたぐらいです。しかし、脳容積は、他の類人猿と同様に小さかったのだから、やはり脳の巨大化が顔面の平面化をもたらしたとは言えないでしょう。

では、早い段階から顔面が平面化していたのであれば、乳房も早い段階から発達していたのかどうかが Bentley の仮説を検証する上で重要になってくるのですが、サヘラントロプスは頭骨しか残っていないので、そのあたりは全くわかりません。全身を推測できるだけの十分な骨が残っている最古の事例は、318万年前の化石人骨であるアウストラロピテクスのルーシーです。以下の写真は、ルーシーを典型とするアウストラロピテクス・アファレンシスのメスの復元図です。

画像
アウストラロピテクス・アファレンシスの女性の復元模型(バルセロナのコスモカイシャ)[12]

アウストラロピテクス・アファレンシスのメスの乳房が、どの程度の根拠に基づいて復元されているのかわかりませんが、これは現代の基準で言えば、貧乳で垂れ乳といったところでしょうか。でも乳児を窒息させないという目的なら、この程度で果たせるでしょう。アウストラロピテクス・アファレンシスの顎は少し出張っていることですし。

現代の文明国の女性がブラジャーで矯正することによって実現している丸い球のような乳房は、窒息防止という点ではかえって不都合です。乳児にとっては、むしろ垂れ乳の方が乳を吸いやすいのではないかと思います。この点でも、一次的な乳房の発達と二次的な乳房の発達を分けて考えなければいけないと思います。

Re: 女性の乳房はなぜ肥大化したのか
投稿者:てしがわら.投稿日時:2012年9月02日(日) 12:50.

てしがわらです。ご返答ありがとうございます。

顔の平面化が脳の発達ではなく、直立二足歩行に起因し、すでに最古期には平面化の兆候が見られるとすると、仮に化石に残る痕跡から、乳房の発達度合いを推定できるようになったとしても、少なくとも年代によって乳房発達の原因が顔面平面化か、水上授乳かの白黒をつけることはできませんね。残念です。

せめて授乳をしていたのが陸上か水上かがわかればいいんですが。授乳行為自体は、外敵に襲われる危険がありますから、より安全な場所を選んで行われていたはずです。問題は樹上生活を捨てた初期の人類にとって、陸上と水上のどちらがより安全であったかということです。陸にはサーベルタイガーその他がいますし、水辺にはワニがいますからね。ただ、顔面の平面化が原因なら授乳場所は関係ありませんから、授乳場所が判明しても否定される可能性があるのは水上授乳説の方だけです。

ブラジャーで矯正された丸い乳房より垂れ乳のほうが乳を吸いやすいのではないか、というご意見は全くその通りだと思います。私もずっと、垂れ乳を想定しておりました。水面でプカプカ浮かせて乳を吸わせやすいのは垂れ乳の方ですから。むしろ丸い乳は水上では吸わせにくいと思います。ただ、陸上ではあまりに垂れすぎていると授乳の際、母親は自分の乳を手で持つ必要があり、吸わせにくくなります。一方で、水上では浮きますから、垂れていれば垂れているほど吸わせやすいでしょう。

Re: 女性の乳房はなぜ肥大化したのか
投稿者:永井俊哉.投稿日時:2012年9月03日(月) 00:28.

エレイン・モーガンの本には、他のサル科の動物は、子を母の体毛にしがみつかせて授乳することができるが、体毛が無いも同然のヒトの場合そうはいかないので、子の口に届きやすいように乳房が下に垂れるようになったというようなことが書かれていたと記憶しています(どの本のどのページだったかは忘れました)。たしかに、子は母と一緒に移動する時、母の体毛にしがみついていますが、授乳の時もそうしなければいけない必然性はありません。人間に近いチンパンジーは、人間がそうするように、母が両手で子を抱きながら授乳することが多いようです。その場合、子は体毛にしがみついている必要はありません。

但し、ヒトの乳児は、サルの赤ん坊と比べて、脂肪が多く、体重も重いので、この方法だと母親の腕に負担がかかります。浅瀬の水中の場合、ヒトの乳児は水に浮くので、母親の両手は、たんに乳児が流れないように押さえておくだけでよく、負担が軽くなるというメリットがあります。しかし、陸上でも母親が座って授乳すれば、負担が分散されるでしょうから、これは決定的なメリットではありません。

ヒトの乳房も脂肪のウェイトが大きいので、水に浮きやすいけれども、水に浮いている乳房に乳児が泳いで辿り着き、それを吸うというのはかなり難しい技なのではないでしょか。乳房が水中に浮いているなら、乳児が水も一緒に吸ってしまう可能性があるでしょうし、逆に母乳が水中に流れ出てしまう可能性もあります。そういうことにならないのかどうか、一度実験をしてみるとよいと思います。私の周辺には乳児がいないので、そういう実験はできませんが。

Re: 女性の乳房はなぜ肥大化したのか
投稿者:てしがわら.投稿日時:2012年9月05日(水) 10:16.

てしがわらです。返信が遅れて申し訳ありません。実験に協力してくれそうな乳児を探してみましたが、少なくとも現在は自分の周りでも身近に見つけることができませんでした。しかしながら、化石による検証が困難である以上、もし論文にするならば、実際に水上での授乳にどのようなメリットがあるか、そもそも授乳の行為自体が楽にできるのか、胸の大きさでそれらにどのような違いが生じるかなど、実際に実験で確かめることは必須であると考えておりますので、いつか必ず実現してみたいと思います。

ただ、水上での授乳ですが、乳児が自力で泳いで母親の乳房までたどり着くというイメージではありません。普段は長く伸びた母親の頭髪にしがみつかせた状態でプカプカ浮かせておくとしても(これはモーガンの著書のどこかに書いてあったと思います。)、あくまでも授乳の際には母親が手で乳児を抱えて乳房まで誘導するイメージです。この場合、永井先生もご指摘の通り、乳房にも乳児にも浮力がかかるので授乳の際に負担がかかりません。

やはり、問題となるのは安全性の評価でしょうか。最初、陸上で座って授乳するのは、ただでさえ逃げ足の遅い人類にとっては、自殺行為に等しいのではないかとも考えたのですが、当時の人類が暮らしていた環境では、水際にパピルス類などの比較的背の高い植物が群生していた可能性が高く、その場合、座って授乳することで、茂みに身を隠しながらできるメリットがあることに気づきました。先にも述べたとおり、水中にはワニがいますから、陸上でも水上でも授乳には危険が伴い、決定的なメリットがありません。

ここまでの議論の印象をまとめると、水上授乳説は、完全に否定できる部分もないが、決定的なメリットもない、といったところでしょうか。

現状ではアクア説が一般に認められていない以上、現段階でこの仮説を論文として発表するのは得策ではないように思えてきました。ですので、まことに勝手ではありますが、この件は、いったん保留にさせていただきたいと思います。もちろん、完全に否定する材料もありませんので、仮説そのものを捨てるつもりはなく、今後も考えていくつもりですので、なにか決定的なメリットを思いつくか、実験を行って、それによってメリットを発見したら、また、この場にてご報告申し上げます。それでは、また。

Re: 女性の乳房はなぜ肥大化したのか
投稿者:永井俊哉.投稿日時:2012年9月05日(水) 11:06.

てしがわら さんが書きました:

実験に協力してくれそうな乳児を探してみましたが、少なくとも現在は自分の周りでも身近に見つけることができませんでした。

乳児をお持ちの女性がこの投稿を読んで意見を書いてくれることを期待しましょう。あいにく、このサイトの読者には男性が多いので、あまり期待できませんが。

てしがわら さんが書きました:

ただ、水上での授乳ですが、乳児が自力で泳いで母親の乳房までたどり着くというイメージではありません。普段は長く伸びた母親の頭髪にしがみつかせた状態でプカプカ浮かせておくとしても(これはモーガンの著書のどこかに書いてあったと思います。)、あくまでも授乳の際には母親が手で乳児を抱えて乳房まで誘導するイメージです。

私はモーガンのその仮説には懐疑的です。人間の髪の毛がそのような負荷に耐えられるかどうかという問題以前に、当時髪の毛が長い直毛であったのかどうかを疑わなければいけません。コーカソイドやモンゴロイドの女性の髪は長いけれども、ネグロイドの髪は短く縮んでいます。これは、赤道直下の強い太陽放射から頭を守るための適応と考えられています。人類の祖先がアフリカにいた時も、同じような適応をしていた可能性があります。

てしがわら さんが書きました:

やはり、問題となるのは安全性の評価でしょうか。

安全性は問題になりません。なぜなら、安全な場所などどこにもないからです。豹に噛まれた跡が残っている古人類の頭骨なども見つかっており、樹上ですら安全でなかったことがわかります。もしも現在の人類と同程度の安全性が確保できていたならば、人口爆発という別の問題が起きていたことでしょう。

Re: 女性の乳房はなぜ肥大化したのか
投稿者:てしがわら.投稿日時:2012年9月06日(木) 01:08.

てしがわらです。いつも丁寧なご返信ありがとうございます。保留にしますと申し上げておいて、またすぐに投稿するのも少し気が咎めたのですが、すこし思いついたことがあったので、書かせていただきます。

それは、顔面の平面化説にしても、モーガンの説にしても、なぜ脂肪を蓄えるようになったのかを説明していないのではないか?ということです。単に(陸上で)吸わせやすくするために、乳房が発達したとするなら、皮がのびたり、乳首だけが長く発達して、ビロンと垂れるように進化しても良かったはずです。そうはならず、脂肪を抱え込んで肥大化するという発達を遂げたからには、やはり脂肪を蓄えることそのものに意味があったと考えるべきではないでしょうか?その点でバートレイとモーガンの仮説は説明が不十分であると言えるでしょう。水上授乳説では、浮力のため、という説明を与えていますから、ここだけは他の説よりアドバンテージがあるように思います。

とはいえ、決定的といえる程のアドバンテージではありませんね。やはり現段階では、仮説の上に仮説を重ねているだけなので、説得力に欠けます。実験は必ず実現しなければなりませんね。

(追伸)
モーガンの頭髪に関する仮説に対するご指摘、まさにその通りだと思います。盲点でした。水上授乳説には直接関係ない部分なのが幸いだったと言うべきでしょうか。そういえば、現在の古人類の復元模型は、だいたい皆、直毛に復元してますが、あれも実は間違いかもしれませんね。他の類人猿は皆直毛ですが、人類がくせ毛になったのが、木陰の多い森林を捨て、直射日光の降り注ぐ水辺に暮らすようになったからだとすれば、黎明期には既に短く縮んだくせ毛になっていたはずでしょうから。というか、その時点で体毛もほとんど退化していた?

Re: 女性の乳房はなぜ肥大化したのか
投稿者:永井俊哉.投稿日時:2012年9月06日(木) 12:08.

てしがわら さんが書きました:

顔面の平面化説にしても、モーガンの説にしても、なぜ脂肪を蓄えるようになったのかを説明していないのではないか?

それに関しては、モーガンは『人類の起源論争―アクア説はなぜ異端なのか?Aquatic Ape Hypothesis)』の第九章や『進化の傷あと―身体が語る人類の起源The Scars of Evolution )』の第九章で詳しく論じています。水の熱伝導率は空気の約25倍であるため、長時間水中にいると体温を奪われ、低体温症となってしまいます。しかし、脂肪は熱伝導率が低いので、脂肪が多いと体温保持が容易になります。また脂肪の密度は、体の他の成分とは異なり、水の密度よりも小さい(比重は約0.9)ので、脂肪が多いほど大きな浮力が働きます。だから水中で生活する動物は皮下脂肪が発達しています。こうした理由から、モーガンは、ヒトの皮下脂肪の発達をアクア説の根拠にしています。

てしがわら さんが書きました:

他の類人猿は皆直毛ですが、人類がくせ毛になったのが、木陰の多い森林を捨て、直射日光の降り注ぐ水辺に暮らすようになったからだとすれば、黎明期には既に短く縮んだくせ毛になっていたはずでしょうから。というか、その時点で体毛もほとんど退化していた?

水面は太陽放射を反射により減らすので、体表面を毛で保護する必要がなく、このため水棲動物の体毛は退化すると考えられます。但し、ヒトの場合、呼吸する都合で少なくとも鼻から上は水面から出さなければならず、頭皮を太陽放射から守り続けるために頭髪は残ったとアクア説は説明します。ネグロイドの縮毛は、その機能を無駄なく果たしています。長い直毛は水の抵抗を増やすので、水中での移動には不利に働きます。コーカソイドやモンゴロイドが直毛なのは、寒冷地での陸上生活に適応するためでしょう。散髪すると風邪をひきやすくなることからもわかるように、長い直毛には保温効果もあります。

Re: 女性の乳房はなぜ肥大化したのか
投稿者:てしがわら.投稿日時:2012年9月07日(金) 00:20.

てしがわらです。いつもお世話になっております。

上で「顔面の平面化説にしても、モーガンの説にしても、なぜ脂肪を蓄えるようになったのかを説明していないのではないか?」と書いたのは、女性の胸に特化した話です。いわゆる皮下脂肪についてのアクア説の言説は存じているつもりです。そしてもちろん、女性の方が男性よりも皮下脂肪の割合が高いということも存じております。たしかに女性の胸の脂肪も種類としては皮下脂肪に分類されるものですが、女性の胸の成長は女性ホルモンが関係していますし、男性の胸の皮下脂肪とは明らかにボリュームが異なっています。もうちょっと言うと、同じ女性でも二次性徴の前と後とで胸の脂肪の量が異なっている。なので、「なぜ女性の胸だけが特別に多く脂肪を蓄えるようになったのか」については、従来のアクア説の説明に加えて、さらにもう一歩踏み込んだ説明が必要であろうということです。そして、バートレイやモーガンの「(陸上で)楽に授乳するため」という理屈は、女性の胸が「脂肪によって」肥大化した説明として不十分ではないのか?ということなのです。陸上で楽に授乳するためならば胸全体に脂肪をたっぷりと蓄える必要はないのです。だって、皮がのびるか、乳首が長く発達するだけでも事足りるはずですから。もちろん、単に私が無知なだけで、永井先生がご紹介くださっている書物の中に、「女性の乳房部の」脂肪について特別に掘り下げた記述があるのかもしれませんが。もしそうなら、もう一度読み返してみようと思います。

さらに言えば、かなり上の方で指摘したようにバートレイとモーガンの説は、現代人の胸の小さな女性が授乳できている事実を考えると苦しいと思います。やはり、水上で授乳していたと考えれば、脂肪の件も、授乳のさせやすさについても、無理なく説明できると思うのですが。ただし、授乳のさせやすさについては、本当に楽にできるのか実験してみる必要があります。

Re: 女性の乳房はなぜ肥大化したのか
投稿者:永井俊哉.投稿日時:2012年9月07日(金) 09:36.

てしがわら さんが書きました:

バートレイやモーガンの「(陸上で)楽に授乳するため」という理屈は、女性の胸が「脂肪によって」肥大化した説明として不十分ではないのか?ということなのです。陸上で楽に授乳するためならば胸全体に脂肪をたっぷりと蓄える必要はないのです。だって、皮がのびるか、乳首が長く発達するだけでも事足りるはずですから。

乳首は、母親が両手で乳児を抱きかかえた時、乳児の口に自然と入る位置になければいけません。皮や乳首が長く伸びただけなら、重力により乳首が下向きになります。授乳の際、いちいち乳首を手でつまんで、乳児の口にまで持っていくという面倒なことをするわけにはいきません。乳房を脂肪で膨張させると、乳首が前を向くし、幼児の顔にやさしい弾力性を持たせることができます。てしがわらさんの仮説では、乳房を水に浮かせるということのなのですが、脂肪がなければ水に浮かないので、てしがわらさんの仮説も成り立たないと思います。

てしがわら さんが書きました:

バートレイとモーガンの説は、現代人の胸の小さな女性が授乳できている事実を考えると苦しいと思います。

胸が小さいというのは、2番目の投稿に写真を挿入したアウストラロピテクス・アファレンシスのメスのようなレベルの乳房のことでしょうか。乳児の窒息を防ぐという点では、わずかな隙間でもあればよいのですから、この程度の貧乳で十分その機能を果たすでしょう。全く膨らみがないのなら、問題があるでしょうが、オスはそういうメスに性的魅力を感じないので、性選択の段階で淘汰される確率が高いと考えてよいでしょう。また、胸が小さいのなら、「脂肪で肥大化した乳房は水面ではプカプカ浮く」という前提が崩れるのだから、そういうメスが存在しうることはてしがわらさんの仮説にとっても不利なはずです。

5. 参照情報

関連著作
注釈一覧
  1. “The protuberant, hemispherical breasts of the female must surely be copies of the fleshy buttocks, and the sharply defined lips around the mouth must be copies of the red labia.” Desmond Morris. The Naked Woman: A Study of the Female Body. Vintage Books (2005/10/31). p. 75.
  2. Gates of Ale. “In the summer of 2001, a young woman sitting in a fast food restaurant wearing low-rise jeans exposing a white thong, an early 2000s fashion trend commonly referred to as a whale tail." Licensed under CC-BY-SA.
  3. News Web Japan. “「ゲーム脳」の影響はここまで来た!? 女たちはなぜパンツを見せるのか.” 2002年10月23日.
  4. “The result of this is that female legs have largely lost their role as areas of exposed flesh and some new zone was needed as a replacement. Low tops that expose shoulders and breast cleavarage have been employed in the past, but that solution had become too familiar. Something novel was required and somewhere, someone had the bright idea of wearing a top that was too short to reach the trousers.” Desmond Morris. The Naked Woman: A Study of the Female Body. Vintage Books (2005/10/31). p. 174.
  5. 永井俊哉.「指の長い男はなぜもてるのか」2004年11月15日.
  6. Sigmund Freud. “Die Traumdeutung." in Gesammelte Werke in 18 Bänden mit einem Nachtragsband Bd. 2/3. FISCHER E-Books; 1st edition (June 30, 2010). p. 361.
  7. 澤口俊之『モテたい脳、モテない脳』新潮社 (2005/05). p. 112.
  8. Case, Anne, and Christina Paxson. “Stature and Status: Height, Ability, and Labor Market Outcomes.” Working Paper. National Bureau of Economic Research, August 2006.
  9. Derek Keats. “Chimpanzee mother with baby." Licensed under CC-BY
  10. “Because breasts don’t develop until puberty, biologists have suggested that they help the female attract a mate and keep him interested in her welfare and that of her children. Those with larger breasts were more successful, the theory goes, and produced more offspring. But that explanation didn’t ring true for Bentley. For one thing, she points out that the fascination with breasts is hardly universal. “Among many cultures where the breast is uncovered it isn’t such a source of erotic imagery," she says. The alternative explanation came to Bentley while she was feeding her daughter. Bentley looked down and realised that if her breast didn’t protrude, her daughter’s nose would be buried in flesh while she was trying to suckle. She would be in danger of being smothered. Could the breast have evolved and enlarged precisely to give infants room to breathe? Most primate infants aren’t at risk of suffocation, she realised, because they have a protruding jaw and lips. So she suggests that the breast co-evolved with human facial features. As the face became flatter, the breast became larger to compensate. “If infants were dying, that would have provided a very strong selection," she says." ― Philip Cohen. “feeding" New Scientist. 11 April 2001.
  11. Didier Descouens. “Cast of the Sahelanthropus tchadensis holotype cranium TM 266-01-060-1, dubbed Toumaï, in facio-lateral view. Specimen of of Anthropology Molecular and Imaging Synthesis of Toulouse." Taken on 23 June 2010.
  12. Reproducción de Australopithecus afarensis en Cosmocaixa, Barcelona." 7 November 2006 (original upload date).