3月 112012
 

フォーラムから“国民は政治に何を求めているのか”を転載します。

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中曽根康弘(左)と小泉純一郎(右)

投稿者:永井俊哉.投稿日時:2012年3月11日(日) 16:02.

有権者が政治家に求めていることは、資本集約型経済の時代と知識集約型経済の時代では異なる。日本の場合、いわゆる高度成長期は前者に該当し、石油危機以降の時期は後者に相当する。前者の時代においては、有権者は政治家に自分が所属する組織や団体への利益還元を行う大きな政府を求めるが、後者の時代においては、そうした大きな政府がもたらす弊害の除去が政治家に求められる。

こうした有権者のニーズの変化は、世論調査における無党派層の増加という形で表れている。時事通信社が1960年から始めた世論調査のデータを見てみよう。

1990年代における有権者の変質 (date) 2002 (author) 井田正道 さんが書きました:

時事データでは1968年ごろから70年代中盤にかけて無党派層が増大し、70年代後半から90年代初頭までは5割前後の水準で推移していた。そして、93年から95年にかけておよそ1割増加している。その結果、1995年以降は無党派層は6割を超える高水準となっている。

支持政党を聞く朝日新聞の世論調査によると、答えない回答者の割合は、ほぼ変化なし(若干減少傾向)であるのに対して、「好きな政党なし」と答えた割合は増加傾向にある。ここから、無党派層が増えたといっても、政治に無関心であるがゆえに無党派層ではなくて、政治には関心があるが、固定的に支持する政党を持たない無党派層が増えているという質的変化があることが推測できる。

自民党は、様々な利益団体の組織票や献金で議員を当選させ、その見返りにそれらの利益団体の利権を規制や補助金で守り、社会党は、組合の組織票やカンパで議員を当選させ、組合員の利権を守るという利益還元型の政治を行ってきた。しかし、こうした利権政治の弊害があらわになるにつれて、組織票には参加しない無党派層が増え、それに伴って、自民党や社会党といった既成政党の支持率は下がっていった。

自民党の支持率は長期的に下落傾向にあるのだが、そんな中、無党派層の支持を集めて自民党が衆議院議員総選挙で圧勝したことが過去に二回あった。1986年に中曽根首相が行った第38回衆議院議員総選挙と2005年に小泉首相が行った第44回衆議院議員総選挙である。与党の議席数が300を超える勝利をおさめ、自民党総裁としての任期を全うする長期政権を実現できたのは、歴代総理の中でも中曽根康弘と小泉純一郎の二人だけである。

この二人は、なぜ高い支持率を維持して長期にわたって政権を運営することができたのか。なぜ総選挙で圧勝することができたのか。現在自民党は支持率低迷に悩んでいて、再建策をいろいろ模索しているようだが、自民党を再生させたいのであるならば、過去の二大成功例から成功の秘訣を学ぶべきであろう。

二人には、多くの共通点があるのだが、本質的な点だけを列挙しよう。まず、二人は、コンセンサスの積み上げという従来の日本の政治慣行に反して、トップダウン的なリーダーシップを発揮した。また、メディアを通じて国民に分かりやすいメッセージを送り続けた。外交は親米保守で、米国大統領と個人的な信頼関係を築くことに成功した。そして、最後に、最も重要な点であるが、増税なき財政再建を目指し、国営企業の民営化を推し進めた。

中曽根は「国鉄改革は行革の天王山」として、国鉄民営化を争点に、野党に不意打ちをかけて解散総選挙を行い、小泉は「郵政民営化は改革の本丸」として、郵政事業民営化を争点に、野党に不意打ちをかけて解散総選挙を行った。どちらにおいても、有権者は民営化路線に賛同し、それが与党の圧勝をもたらした。

小泉の構造改革路線は、2009年に行われた第45回衆議院議員総選挙で否定されたという人もいるが、それならなぜ、連立パートナーの民主党が圧勝した中、郵政民営化反対の公約を最も明確に掲げた国民新党が、党代表と幹事長が落選するほどの敗北を喫したのか、なぜ民主党の政治の中で唯一(少なくとも当時は)評価されたのが事業仕分けであったのかが説明できない。自民党政権末期の麻生内閣は、小泉の構造改革路線を転換しており、それに失望した有権者たちが、マニフェストの冒頭で「税金のムダづかいと天下りを根絶します」と宣言した民主党に、再び政治が構造改革路線に戻ることを期待して投票したと見るべきであろう。そして、それが期待外れだったからこそ、民主党の支持率はその後急落したのである。

中曽根と小泉は「小さな政府」を目指す自由主義者(リベラルではなくて、リバタリアンという意味で)であったが、靖国神社を参拝するなど国家主義的な側面をも持っていた。しかし、国民が評価したのは前者であって、後者ではない。

中曽根は、1982年に総理大臣に就任した当初「戦後政治の総決算」をスローガンに掲げ、「日本列島不沈空母化」発言などのタカ派的な言動を繰り返し、その結果、1983年に行われた第37回衆議院議員総選挙では、自民党が過半数を割り込む敗北を喫した。だがその後、土光臨調に基づき、1985年に日本専売公社と日本電信電話公社を民営化させるなどの民活路線を推し進めると人気が上昇し、それが1986年の総選挙での圧勝につながった。

小泉の後を継いだ安倍晋三は、「戦後レジームからの脱却」という中曽根の「戦後政治の総決算」を彷彿とさせるスローガンのもと、教育基本法改正、防衛庁の省昇格、憲法改正手続法の成立など、国家主義的な政策を実行していった。しかし、支持率は下がる一方で、2007年の第21回参議院議員通常選挙で、自民党は大敗した。

無党派層の票は、浮動票とも言われ、定見もなくその時々の時代の流れに翻弄されながら気まぐれな投票をしているように一般には思われているが、実際にはそうでもない。中曽根と小泉の例からもわかるように、彼らは、以下のような傾向のリーダーに好意的に投票する傾向がある。

  • トップダウンのリーダーシップ
  • メディアを通じて絶えず国民に語りかける姿勢
  • 外交は親米保守
  • 独占利権の解体,民営化路線,市場原理の導入,増税なき財政再建

現在の野田佳彦民主党党首と谷垣禎一自民党総裁は、三番目以外の条件を備えていない。二人とも財務官僚の操り人形のようにふるまっており、だから人気がない。野田総理は増税に意欲を示しているが、国民が求めているのは、《増税なき行革》であって、《行革なき増税》ではない。

では、現在の日本の政界で、これらの条件を最もよく満たしている政治家は誰か。たぶんそれは橋下徹大阪市市長であろう。橋下徹が政治家として評価されているのは、たんに元タレントで知名度があるからだけではない。石原慎太郎東京都知事は、橋下以上に知名度があるが、政治思想が国家主義的過ぎて、国政進出はあまり歓迎されていない。毎日新聞が2012年3月に実施した全国世論調査では、橋下徹大阪市長が率いる大阪維新の会の国政進出に「期待する」と答えた人は61%であったが、石原新党構想の方は「期待する」は38%にとどまった。共同通信が2月に行った全国電話世論調査でも、前者は61.2%で、後者は25.6%という結果が出ている。

もとより、橋下は、現時点では国政進出を決めておらず、仮に国政進出をしても、自身が出馬することはないと明言している。橋下は、「人生一生使い切り型モデル」を提案し、資産課税やら相続税100%やらを言い出すなど、経済がわかっていないので、本人は国会議員に出馬しない方が無難である。党首が出馬しない政党では、総選挙に候補を立ててもインパクトがないので、国政に進出するのであれば、政策の傾向が同じ中央政界の政党と大阪維新の会とを統合をした方がよい。

最も有権者から統合が支持される確率が高いパートナーは、みんなの党であろう。数ある中央政界の政党の中で「小さな政府」の理念を前面に掲げているのは、この政党だけである。しばしば、大阪維新の会とみんなの党はブレーンが同じだから政策も同じと言われるが、党首はブレーンを恣意的に選んでいるわけではなく、むしろ橋下徹と渡辺喜美の政治思想がもともと類似しているから、同じようなブレーンが集まってきていると解するべきである。

もしも橋下徹と渡辺喜美が、「小さな政府」の理念に基づく改革を前面に出して次期総選挙を戦えば、相当な議席を獲得するだろう。だが、もしも相続税100%やベーシック・インカムなどの「大きな政府」を帰結する主張を行えば、支持を下げることだろう。

「小さな政府」に批判的な評論家は、小泉や橋下が選挙で圧勝すると、無知蒙昧な大衆が、劇場型政治でお祭り気分になり、面白半分で投票したといった有権者を馬鹿にした論評を行うが、そうした論評は日本の有権者の判断力を過小評価している。むしろ彼らは、現状のままの政治が続くことに危機感を持ち、現状を変えてくれそうな、リーダーシップのありそうな人物に政治を託そうとして票を投じていると見るべきである。

Re: 国民は政治に何を求めているのか

投稿者:ペンペン.投稿日時:2012年3月30日(金) 21:24.

これは、橋下の大阪市に限った話ではないのですが、地方公務員の人件費カット等の、歳出カットによって、当該地方公共団体の財政状態を好転させることはできません。なぜなら、歳出カットした金額分だけ、地方交付税が減額されるからです。

Re: 国民は政治に何を求めているのか

投稿者:永井俊哉.投稿日時:2012年3月31日(土) 10:37.

それは、働いて稼いだ分だけ生活保護費を減額すると、受給者が働かなくなるのと同じ現象で、弱者の保護が弱者を作り出すという典型例です。だから大阪維新の会は、地方交付税の廃止、地方共有税制度、消費税の地方税化を主張しているのでしょう。

大阪維新の会は、「歳出カットした金額分だけ、地方交付税が減額される」という類の指摘にこう反論しています。

大阪都構想への誤解を解く (media) 大阪維新の会 さんが書きました:

現行の地方自治制度や地方財政制度、地方交付税交付金制度などを前提に「大阪都構想では財源不足に陥る」といったネガティブキャンペーンを行う向きがあるがナンセンスである。大阪都構想を実現するということは、当然、国から都に権限と財源を大幅に移譲することを意味する。長年、護送船団方式で維持してきたわが国の地方自治と地方財政制度も同時に終わりを告げる。どうせなくなる運命の現行の制度にあてはめて「成り立たない」と騒ぐのは愚の骨頂である。

ちなみに全国各地に地域政党ができてくると当然、国政にも影響を与えるようになる。「法改正はたいへんだ」「総務省がイエスといわない」といった見方も浅はかだ。そんなものは政治主導でいくらでも変えられる。現行制度を墨守しようとする既存政党や行政学者の意見に惑わされてはならない。

Re: 国民は政治に何を求めているのか

投稿者:ペンペン.投稿日時:2012年6月03日(日) 20:55.

永井俊哉 さんが書きました:

「小さな政府」に批判的な評論家は、小泉や橋下が選挙で圧勝すると、無知蒙昧な大衆が、劇場型政治でお祭り気分になり、面白半分で投票したといった有権者を馬鹿にした論評を行うが、そうした論評は日本の有権者の判断力を過小評価している。むしろ彼らは、現状のままの政治が続くことに危機感を持ち、現状を変えてくれそうな、リーダーシップのありそうな人物に政治を託そうとして票を投じていると見るべきである。

好きか嫌いか、という感情に基づいて行動する大衆に、判断力などありません。望ましい選挙結果が得られた理由は、有権者という集団において、馬鹿が正規分布していたからです。いわゆる『統計の奇跡』というものでありまして、デモクラシーとは、たとえ有権者の民度が低くても正常に機能するものなのです。

Re: 国民は政治に何を求めているのか

投稿者:永井俊哉.投稿日時:2012年6月04日(月) 15:16.

政策が正しいあるいは実行力があると思われる政治家に「好き」という感情を抱いて投票したとしても、それでもって判断力がないとは言えません。そもそも判断力がなければ、好きとか嫌いとかいった感情すら抱くことはできません。たぶん、ペンペンさんが言いたいことは、判断力がないということではなくて、判断力が低いということなのでしょうが、ぺんぺんさんが有権者の民度が低いと判断する理由は何ですか。以下のような世論調査の結果に不満でもあるのですか。

「維新に投票」28% 次期衆院選比例 (date) 2012年6月3日 (media) 毎日新聞 (author) 岡崎大輔 さんが書きました:

毎日新聞の全国世論調査で、橋下徹・大阪市長が率いる「大阪維新の会」が次期衆院選で候補者を立てた場合、比例代表の投票先を聞いたところ、維新が28%を占め、民主党(14%)、自民党(16%)を大きく上回った。地域別にみると、維新の支持は地元・近畿で41%に達したほか、九州や中国・四国で3割超。維新が政党不信の受け皿として、近畿だけでなく、全国レベルで浸透している現状が浮き彫りになった。

維新は次期衆院選で全国規模の候補者擁立を目指し、3月に開講した政治塾に約2000人を集め、候補者養成を続けている。国政進出について「期待する」が61%に上り、「期待しない」の33%を大きく上回った。同じ設問で聞いた今年3、4両月調査でも「期待する」は6割を超えており、有権者の期待感を維持している。

比例代表への投票先調査から、維新への期待度を地域別にみると、地元・近畿の以西で支持を広げている「西高東低」傾向がうかがえる。ただし、維新は北関東29%、南関東23%、東京22%の支持を集めるなど、各地域で民主、自民の2大政党を上回った。

支持政党別にみると、民主支持層の23%、自民支持層の15%、無党派層の34%が比例代表で維新に投票すると回答した。維新はまだ候補者も決まっておらず、政権公約も未定。与野党対立が長引き、「決まらない政治」が続くなか、未知数の地域政党が支持を集める異例の事態となっている。

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