1月 142001
 

商品に価値を与えるのは有用性と希少性である。空気は有用だが、誰でも簡単に入手できるから価値がない。ごみは、世界に一つしかない珍しいものであっても、有用性がないから価値がない。では、有用性と希少性を統一的に表現するなら、どうなるのか。

1. 価値は低エントロピーである

有用性とは、欲望された目的の実現に対する貢献性のことである。私たちの目的は、自己のシステムの維持・発展であるが、開放系のエントロピーを減らすためには、それ以上のエントロピーを環境において増やさなければならない。そのために有用な低エントロピー資源には、当のシステムにとって、価値がある。

希少性とは、需要に対する供給の不足であり、獲得困難性である。商品が希少であればあるほど、獲得の不確定性(エントロピー)は増大する。逆に言えば、この不確定性の否定である商品の獲得、労働者の観点からすれば、生産には、エントロピーの大きさに応じたネゲントロピー(マイナスのエントロピー)があることになる。

2. 従来の二つの価値学説

希少性の解釈をめぐって、労働価値説と限界効用価値説という二つの価値学説がある。

2.1. 限界効用学説

限界効用とは、ある商品の消費量を1単位増加した時、これに伴って増加する効用の大きさのことで、商品供給の数が増えるに従って、その限界効用は減っていく。限界効用が逓減するのは、供給が増えるにつれて、希少性がなくなっていくからである。

2.2. 労働価値説

では労働価値説の方はどうだろうか。商品がサービスの場合、労働が価値の源泉であることは、はっきりしている。商品が財の場合でも、私たちが対価を支払っているのは、実は物に対してではなくて、その物を生産し、運搬してきた労働に対してである。

労働がなぜ価値を生み出すかを論じる前に、労働が、それ以外の活動、例えば遊びとどう異なるのかを考えてみよう。遊びでゴルフをする人が、物理的にプロゴルファーと同じようなすばらしいプレーをしても、後者が労働としてお金が支払われるのに対して、前者が遊びとして逆にお金を支払わなければならないのはいかなる違いに基づくのか。

遊びでゴルフをするときは、ゲームに勝つ必要はないし、つまらなくなればいつでもやめることができる。しかし、プロゴルファーの場合は、そうした恣意的行為は、負の報酬なしにはありえない。遊びには、労働のときよりも《他のようでもありうる》自由がある。逆に言えば、労働は遊びよりもエントロピーが小さい。そして労働はネゲントロピーであるがゆえに価値を生み出す。

3. エネルギーの価値論からエントロピーの価値論へ

では、労働価値説がしばしば主張するように、すべての価値の源泉は労働だとか、商品の価値は、社会的必要労働時間によって規定されると言えるだろうか。宝くじで大金を当てた人は、はずれた人に比べてより多く努力したわけではない。宝くじは極端な例だけれども、偶然が価値を生み出すことはしばしばある。

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百万ポンドのくじに当たったこの女性は、労働の結果、価値を手に入れたと言えるだろうか? “Maria Murray Lottery Scratchcard Millionaire” by Matthew Anderson is licensed under CC-BY-SA.

労働価値説は、職業による時給の差を、その職業に就くまでの教育期間の機会費用によって、つまり最終的には労働商品を生産するための労働時間によって説明しようとする。だが、同じ条件下で同じ時間訓練を受けたからといって、同じ能力の人材ができるとは限らない。産まれたときから自分にある分野の才能があるかどうかは、宝くじと同様に、偶然が支配する。

労働価値説は、宝くじを説明できないが、エントロピー価値説なら説明できる。N人の応募者に対して当選者が1人という単純なケースで言えば、この宝くじに当選することは、エントロピーをlogN減少させる。このNの大きさが大きいほど、当選のありがたみは増大する。労働価値説を信奉するマルクス主義経済学は、エネルギーの経済学であって、エントロピーの経済学ではなかった。エネルギーの経済学は、工業社会ではうまく機能するが、情報社会には対応できない。だからこそ、社会主義諸国は、情報革命の進展とともに、崩壊していったのである。

読書案内
書名価値論
著者宇野 弘蔵 他
出版社と出版時期こぶし書房, 1996/12
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