10月 161999
 

出版不況の原因の一つである再販制度は、出版社の反対が強くて、いまだに残存しているが、守旧派がどう抵抗しようとも、インターネットによる中抜きと流通の合理化は、必然的に進むだろう。

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司会: 情報の流通革命は、当然物の流通革命を引き起こします。映画、音楽、書籍などビット型商品の流通はもちろんのこと、アトム型商品の流通も、インターネット通販の影響を大きく受けます。まずビット型商品から議論したいと思いますが、将来ビデオ・オン・デマンド、ミュージック・オン・デマンド、ブック・オン・デマンドなどが普及して、小売りや卸が廃業になるという可能性はあるでしょうか。

自由: 障害が三つある。一つは通信インフラが速度と料金という点でまだ発展途上にあることだが、この障害のクリアは時間の問題だ。もう一つは、著作権保護が難しいという問題だ。デジタルコンテンツは質を劣化させることなく容易に複製ができる。海賊版をウェッブサイトで販売する露骨な違法行為ならば、サイバー・パトロールで摘発することができる。しかし、友人に違法コピーを電子メールで配ることは、盗聴でもしない限り、取り締まることはできない。また支払い方法が確立されていないこともインターネット通販の障害だ。多くのネットサーファーは、クレジットカードの番号を送信することに不安を感じている。

国家: コンテンツをインターネットで流通させるとコストが安くなるという利点があるが、反面素人でも気軽に出版できるため、玉石混淆になってしまうという欠点がある。読者は「コストが高くつくにもかかわらず出版される以上、ある程度以上の内容があるはずだ」と期待して紙の本やCDを買う。従来のメディアにはそうした選別機能がある。

自由: それは本質的な問題ではない。出版社が人気度別ランキング表を作って選別すればよい。

司会: 情報産業に市場原理を導入する際、話題となる論点に再販売価格維持制度があります。書籍や雑誌や新聞に適用される再販制度を規制緩和すべきかどうかについてみなさんはどう思われますか。

国家: 書籍や雑誌や新聞は文化だ。営利を追求して文化の水準を下げることはあってはならない。

社会: そうだ。政府は、価格統制を通じて弱い立場にある小売店を保護するべきだし、商業ベースに乗りにくい良心的な出版や地域の文化が排除されないように、良質な情報へのアクセスをユニバーサル・サービスとして保証するべきだ。

自由: 再販制度は、文化や情報の質と多様性を維持することが目的だが、インターネットの登場でその存在根拠を失うことになった。学術論文は、非営利であること、読者が低い人口密度で国境を越えて分散していること、発表のスピードが要求されることから、ウェッブ・パブリッシィングに特に適している。少数意見の発表もそうだ。出版社の中には、再販制度を規制緩和すると、自分たちにとって不利益になると誤解している人もいるが、期間限定再販維持制度なら、読者にとってのみならず、出版社にとっても利益になる。一般に出版物には三つのレベルの潜在的な顧客がある。

  1. 高くても買って読む人
  2. 安ければ買って読む人
  3. 無料でないと読まない人

再販制度のもとでは、一のレベルの客しか取り込めなかった。法定の一定期間後、再販制度を適用除外にすれば、値下げにより在庫をすべて売り尽くすことができる。絶版後は、コンテンツをインターネット上で公開し、無料で読めるようにして、広告収入を稼ぐ。このように時間差を設けることで三つのレベルの顧客をすべて取り込むことができる。

社会: なんだかまるで映画みたいだな。映画は、最初映画館で上映されるとき高い料金が設定され、その後ビデオになると料金が安くなり、最後はテレビ局に売られてただで見られるようになる。

自由: 映画にしても音楽にしても書籍にしても、情報商品は、時間とともに価値を下げていくのに、それを無視して再販制度で定価を固定すると、消費者にとっても生産者にとっても不利益になる。現在、国内で出版された本の約四割が出版社に返品され、出版社の経営を圧迫している。さらに年間一億二千万冊の本が裁断機にかけられ処分されているが、これは環境や資源という観点からも好ましくない。

社会: 再販制度のもとでは、一定期間内であれば売れ残り商品を返品できる委託販売制が採られていたが、君が提案した形で規制緩和すれば、小売の書店も、値下げしてでも売り切らなければならないから、売れ残りのリスクを負わなければならなくなる。すると書店は売れ線の本しか店頭に置きたがらなくなり、また大型スーパーによる寡占化が進む。

自由: これまで書籍の小売業者は、多様な情報へアクセスする権利を国民に保証するという観点から保護されてきた。しかしアマゾン・ドット・コムのような新しい流通形態が現れれば、もはや経営を保護しなければならない理由はなくなる。

司会: ビット型商品の流通に関してはこれぐらいにしておきましょう。アトム型商品の流通の規制緩和では、大規模小売店舗法の廃止が一番大きな論争点ですね。98年の通常国会で中小の商店街を保護するための大店舗法の廃止が決定され、環境対策や町作りのための大規模小売店舗立地法が2000年6月から施行されることになりました。これについてのみなさんのご意見を伺いましょう。

国家: 大店舗法の廃止は、日本市場の制覇を狙うアメリカの策略だ。89年にアメリカの玩具専門店チェーン、トイザラスが日本進出を発表してから二ヶ月後に、アメリカは、日米構造協議で大店舗法の緩和を求めてきた。日本が大店舗法の緩和を約束すると、トイザラスは中小の玩具点を駆逐しながら日本への出店を開始し、今や日本トイザらスは、国内最大の玩具小売となってしまった。

自由: 確かに大店舗法を廃止した背景には、アメリカからの外圧があった。自民党の議員は、アメリカにNOが言えない反面、商工団体から推薦をもらって当選しているため、商店街から「見返り」を求められ、結局98年に、商店街を整備する自治体に対して国が建設費を補助する中心市街地活性化法案を可決させ、同年度の予算に1兆円近い事業費を盛り込んだ。これは、ウルグアイラウンドで米の市場開放を余儀なくされると、農民を慰撫するために国内対策費として6兆円余の予算を組んだのと同じ発想だ。政府は、新しい産業形態を先取りするビジョンを持つことなく、ただ衰退産業に補助金をばらまいて現状を維持しようとすることしか考えない。

社会: 規制緩和論者は、大店舗法を廃止することが消費者の利益になると宣伝しているが、本当の狙いは私的独占だ。大型店による独占が進めば、消費者価格はつり上げられる。スーパーなどではセルフサービスが主流で、対面販売を基調とする中小零細店におけるような人間的なふれあいがない。また商店街が崩壊すれば、街並みの景観に悪影響を与え、祭りや催事など、地域社会のコミュニケーションの場がなくなる。高齢化社会を迎えるに当たって、徒歩で買い物ができる商店街を規制によって守るべきだ。

自由: 大店舗法廃止は、はっきり言って遅すぎたのではないのかな。今頃廃止しても意味がないよ。いや、廃止に意味がなくなったからこそ廃止できたのかもしれないけれどね。低価格・高回転・セルフサービスを特徴とするスーパーマーケットは、アメリカで、モータリゼーションと大衆消費社会の誕生とともに現れた新しい流通形態で、資本主義的大型店舗が生業的な商店街の経営を圧迫するというのは、工業社会的な現象だ。日本には、戦前から百貨店があったが、スーパーが現れたのは、50年代後半から始まった高度経済成長期で、73年に大店法が制定された頃には、ダイエーの売上高が、三越のそれを上回っていた。画一的商品を安く大量に販売するダイエーは第一次流通革命の申し子ともいえる存在だった。そのダイエーが経営危機に陥っているということは、第一次流通革命がもう終わったということを意味している。

第二次流通革命は、情報革命に対応している。情報社会においては、個人の個性的需要に応じることが重視される。70年代前半に登場して、情報革命的流通革命の先陣を切ったのは、POS(Point of Sales 販売時点)管理システムやEOS(Electronic Ordering System 電子受注システム)により消費者のニーズを把握して24時間営業しているコンビニエンスストアだ。しかしそのコンビニも、97年には、既存点売上高が大手各社とも軒並みマイナスとなり、すでに曲がり角にきている。コンビニは、情報革命の成果を十分に取り入れているとはいえない。究極の流通革命は、自宅をコンビニにすること、すなわちインターネット通販だ。商店街→百貨店→スーパー→コンビニ→通販、これが流通業の進化のプロセスだ。

社会: 通販には発注業務の煩雑さや管理費用の増加、配送用車両の増加に伴う交通渋滞や排気ガス公害など問題が多い。

自由: 多頻度小口配送を特徴とする宅配便は、情報社会にふさわしい流通の担い手だ。受発注と管理にコンピューターを導入することにより、時間とコストの削減ができる。交通渋滞や排気ガス公害に関して言えば、従来のスーパーマーケットは流通サイドの車の使用量は少ないが、買い物客が自動車で買いに来るから、トータルでは変わらない。インターネット通販が量的に拡大すれば、共同配送センターの設置や配送の定ルート化や定時化によって効率化を促進できる。今後小売は減少し、卸は宅配便の共同配送センターになるだろう。

国家: サイバーモールはうまくいってないところが多いと聞く。本当に将来インターネット通販が流通の主流になるのか。

自由: 大手メーカーが参加しているサイバーモールは売り上げが伸びていない。系列の販売店に迷惑をかけないように、値引きしないで売っていることが最大の原因だ。この点、伝統的取引関係の義理に縛られない新規参入者は、気兼ねなく低価格で販売できるので、インターネット通販で成功するところが多い。これまで系列の販売チャンネルがあることが大手の強みだったのが、それが逆に足かせになっている。大企業ほど競争力があるとは言えない一つの事例だ。

司会: やっぱりインターネットは、流通全体に大きな影響を与えるようですね。インターネットは世界を覆う巨大なコンピューターネットワークであるににもかかわらず、特定の人物や機関によって一元的に管理されているわけでなく、その点で市場経済の構造とよく似ています。ということは、インターネット革命と市場経済革命は車の両輪というところでしょうか。

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