市場原理は至上原理か(15)農協は農業に必要なのか

2016年2月10日

資材の共同購入、農産物の共同販売から金融、共済、厚生、福祉にいたるまで、幅広く日本の農民の営農と生活をサポートする農協(農業協同組合)は、日本の農業にとって必要なのか、否か。

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司会: 農作物の内外価格差を見ればわかるように、日本の農業には国際競争力がありません。なぜ日本の農業には競争力がないのでしょうか。

自由: 日本の農業の生産性向上を妨げているのは、農家における労働者と経営者と所有者の一体化、農業における生産と流通と金融の一体化、農政における農政族議員と農林水産省と農協系組織の一体化という三つの一体化である。この三つの一体化を解体しなければならない。そのために必要なことは、農家を株式会社化すること、農業における流通と金融を自由化すること、補助金支給などの行政手続きを、農協系組織を経由して行わないことだ。

社会: 最近農協は、世間の強い風当たりにさらされるようになったが、もともと農協は農民たちが作った自主的な相互扶助組織だ。1980年にモスクワで開かれた国際協同組合同盟大会で、カナダのレイドロウ副会長が日本の農協を地域社会の経済的発展に貢献する協同組合のモデルとして賞賛した。農協は、農民を市場経済の魔の手から守る重要な役割を果たしている。

自由: 農業もグローバル化と自由化が進んでくると、農民たちもこれまでのように農協の高コスト構造に安住していられなくなる。毎年集荷手数料約300億円の他、実態不明のリベートや奨励金などが、全農系の手に落ちるが、この費用をもっと圧縮することはできないだろうか。日本の米の小売価格は、外国と比べて10倍高いと言われているが、小売価格は農家の出荷価格より10倍高いわけだから、農家→農協→経済連→全農→卸売業者→小売業者→消費者という従来の食管法のルートを短縮すれば、日本の米も価格面で競争できるようになる。

社会: 確かに系統三段階の各々で手数料を取っていると流通経費がかさんでしまう。だから、農協は三段階を2000年までに二段階にしようと努力している。信用事業の方も農林中金と信連を統合できるように法的整備がなされた。農業共済事業も二段階制を実施し、組織の数を四割削減し、1770ある単位農協は、2000年には530まで減らす。職員も5万人削減する予定だ。

自由: 赤字農協と黒字農協を合併して経営危機の表面化を遅らせるといった後ろ向きのリストラが効果を現すとは思えない。農協の体質改善に最も効果のある方法は独占禁止法を適用することだ。

社会: 農協は小さな農家が共同して仕事をしていくのが原則だから、独禁法を適用されると、協同組合が成り立たなくなる。

自由: 農家は小さいが農協は巨大だ。取り扱う農作物は十兆円を超え、貯金も六十兆円以上だ。こんな巨大企業に独占を許していたら、弱い立場の農家は搾取され放題になる。農家が農協から購入する農薬や肥料などの資材はかなり高額で、例えば、全農を通じて国内メーカーから購入する肥料の価格は、同じメーカーが輸出する肥料の価格の三倍もする。肥料価格安定臨時措置法が制定された六四年には、国内向け価格と輸出価格はほとんど変わらなかったが、この価格カルテルを認めた臨時措置法がその後全農の働きかけで計六回も延長された結果、日本の農家の七割が使わなければならない肥料の価格は異常な高値となってしまった。本来農協は農民のためにメーカーに対して価格引き下げ交渉をしなければならないはずなのだが、逆に指定してやったメーカーからリベートをもらって価格をつり上げる。リベートの割合は、農薬の場合売上高の15%程度で、全農の懐に落ちる農薬のリベート総額は、年間二百八十億円と計算される。日本の農業が過剰な農薬と化学肥料で汚染されているのは、それらを売れば売るほど農協が儲かるからだ。もっとも職員数が過剰だから、購買部門は赤字のようだけれども。農協が農家に売りつけるのは農業資材だけでない。販売手数料などの収入が落ち込むと、農家を戸別訪問し、生活指導と称してエアコンや宝石やソーラー温水器などなど農業とは関係のない物品を押しつけ販売する。

社会: そんなに既存の農協に不満があるのなら、農民自身で自分らの農協を作って独立したらいい。

自由: 農民の中には、特別栽培米を手がけて消費者に直接米を販売したり、農業資材を海外から直接輸入したりして、コストダウンを計るところが出てきている。だが農協からすれば、農家の農協離れは手数料収入の減少につながるのでおもしろくない。品質検査をわざと遅らせたり、プロパンガスの供給を止めたり、融資の回収を迫ったり、補助金の支給を拒否したりといった陰湿な村八分で自立しようとする農家にいやがらせをする。

国家: 農家の戸数は戦後減少傾向にあるのに、農協職員数は逆に増加傾向にあるのはなぜか。

社会: 農家は減っていいるが、農協の組合員数は准組合員の増加によって増えている。特に大都市では、准組合員が半数以上になっている。また本来の組合員の方でも農業の副業化が進み、農家総所得に占める農業所得もわずか17.5%に過ぎないようになってしまった。それに伴って農協は、事業のウェイトを農業外に移しつつ規模を拡大してきたわけだ。農民にしても農協は収入が安定した魅力的な転職先だから、職員数はどうしても増えてしまう。今日農協信用事業を主として支えているのは、農業所得ではなく、兼業先の給与、家賃などの農業外所得や年金あるいは農地売却代金などで、また農協の農業資金向け貸付けも、全体の2割程度だ。こうした傾向は望ましいことではない。

自由: 農協が本業を逸脱して起こした一番有名な事件は住専問題だ。バブル崩壊後、総量規制の対象外だった農協マネーが銀行の子会社であった住専を通して不動産投機に使われ、不良債権化し、住専の経営が行き詰まって明るみに出てきた。政府の住専処理策では、農協系金融機関の負担額は、1兆2100億円だったが、農協系組織が加藤紘一氏をはじめとする農政族議員を総動員して負担を5300億円に減らし、不足分6800億円に住専処理機構運営費50億円を加えた額を公的資金で穴埋めすることにした。結局住専設立母体行が貸付債権を全額放棄したのに対して、農協系金融機関は元本の9割を回収することに成功した。

社会: 農協系金融機関は互助的な非営利の金融機関だから、リスクテイク能力が低い。1兆2100億円も負担したら、農協は破綻し、地域経済が大きな打撃を受ける。農協に貸し手責任がなかったとは言わないが、住専を別働隊として利用し、不良債権のゴミ箱にした母体行にこそ最大の責任があるのだから、6850億円は母体行が負担するべきだった。

自由: 貸し手責任以前の問題として、農協系素人金融機関に存在理由があるのかどうか考え直してみる必要がある。農協系金融機関の理事や幹事は帳簿の読み方すら知らない。そういう金融のイロハもわからない農民上がりのおっさんたちが億単位の金を融資していたのだから、これまで問題が起きなかった方が不思議だ。私は、あのときに農協を解体するべきだったと思う。預金保険機構を農協にまで適用すれば、金融不安の引き金にはならなかったはずだ。農協が破綻しても農協の機能がなくなるわけではない。農協の機能を分割し、商社や地銀や保険会社などが事業を継承したらよい。一つの機能で複数の営利企業が競合することによりコストダウンが進み、日本の農作物が安くなって国際競争力がつき、結果としては日本の農業を保護したことになる。

社会: 農協はたんなる企業ではなく、行政の窓口でもあり、解体してしまったら、農政に大きな支障をきたすことになる。

自由: 農協は、官僚によって行政代替機関として、政治家によって集票マシーンとして利用されることにより、政官財の癒着の媒体となってきた。農協の役員選出には公職選挙法が適用されないので、供応や買収や脅迫などの不正行為も珍しくない。当選した役員は、経理も人事も思いのままにして利権を私物化し、組織を特定政治家の後援会にして、集票活動の代償として利益誘導を求める。

社会: それはもう昔の話だよ。小選挙区制が導入されて以来、衆議院議員は組織票だけでは当選できなくなった。これからは、国民の広範囲のコンセンサスを得なければ、農家は自分たちの利益を主張できなくなるだろう。