サブプライム問題はなぜ起きたのか

2016年10月22日

2009年1月20日、バラック・オバマが米国大統領に就任した。共和党の市場経済万能主義的な経済政策のおかげでサブプライム問題が発生したので、この世界恐慌以来の経済的危機を、世界恐慌の時と同様のニューディール政策によって克服する必要性が生じ、このため、米国の有権者は、小さな政府を理想とする共和党政権に代わって、大きな政府を理想とする民主党政権を選んだというのが大方の解釈であるが、この解釈は正しいのか。検証してみよう。

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サブプライム債券危機が起きた時の関係企業の株かを三次元で示した図。中央の黄色のグラフはリーマン・ブラザーズの株価の変遷を表している。”A 3D view of the stocks of the principle companies involved in the Subprime Mortgage Crisis” by Wikiwonka42 is licensed under CC-BY-SA

1. 民主党政権誕生に対する二つの誤解

2008年11月4日に米国の大統領選挙で、民主党候補のバラック・オバマが共和党候補のジョン・マケインを破って、第44代大統領に当選した。この時によく耳にした解説は、以下のような類のものである。

 共和党のブッシュ政権が市場原理主義を至上のものとし「小さな政府」の運営を続けた結果、マネーゲームが横行し拝金主義が蔓延(まんえん)した。そしてリーマンブラザーズの倒産に象徴される市場万能主義の破たんが生じた。狂乱の宴のあとに残されたのが極端なまでの格差社会という荒涼とした光景であった。

 11月4日、米国民は市場原理主義の「小さな政府」より政府の大幅な関与を打ち出したオバマ候補の「大きな政府」を選択した。マケイン候補は選挙期間中、オバマ氏の当面の危機を脱するため「大きな政府」を前提とする経済政策に対して、「それはまるで社会主義だ」と激しく攻撃した。米国民にとって「社会主義」という言葉は、建国の精神から言っても本能的に拒絶反応を起こす言葉である。しかし2008年の米国民は「市場原理主義」よりマケイン候補が攻撃する「社会主義」を選択したのである。

 米国を席捲(せっけん)した暴力的なまでの市場原理主義の行き過ぎに対し、国民ははっきりと「No!」という回答を突きつけたのである。

今回の大統領選挙では、投票日が近づくにつれて、有権者の関心が経済問題に集まったというのは事実である。しかしながら、サブプライム問題に端を発する金融危機が、共和党の市場原理主義的な「小さな政府」の経済政策によって惹き起こされ、そのために、米国民は、この問題を解決するために、社会主義的な「大きな政府」の経済政策を掲げるオバマを次期大統領に選んだとというこのライブドア・パブリック・ジャーナリストの解釈はいかがなものだろうか。

私が見るところ、現在よく耳にするこの通俗的解釈は、以下の二つの誤解に基づいている。

  1. 共和党政権は小さな政府で、民主党政権は大きな政府である。
  2. サブプライム問題は、自由放任的な経済政策が原因で起きた。

この二つの常識が間違いであることを、以下に示そう。

2. 共和党は米国を大きな政府にした

米国の共和党は、レーガン以来、小さな政府を理想とする市場原理主義の政党であるというのが世間の常識[d]であるが、レーガンの経済政策、いわゆるレーガノミックスは、そうした常識とは異なるものである。たしかに、レーガンは、減税を実行したが、それと同時に、政府の歳出をも削減しなければ、本当の意味で、小さな政府を実現することにはならない。ところが、レーガンは、国防予算を増額させることで、政府の支出を増やしてしまった。レーガノミックスのおかげで米国経済は一時的に良くなったが、それは、当初レーガンが考えていたようなサプライサイドの経済政策によるものではなくて、ケインズ的な財政政策によるものであった。

[d]レーガンは、この他、規制緩和を積極的に推進したと一般に思われているが、規制緩和に熱心に取り組んだのは、レーガン共和党政権の前のカーター民主党政権であり、レーガン本人は、規制緩和に対しては、カーターほど積極的ではなかった。

レーガン以降のブッシュ親子による共和党政権についても同じことが言える。「ブッシュはなぜ戦争を始めたのか」で既に述べたように、共和党政権は、小さな政府という建前とは裏腹に、軍産複合体と癒着し、デフレになると、それを戦争によるインフレ効果で克服しようとする、その意味では、公共事業依存型の大きな政府を志向している政権なのである。

もしも本当に、共和党は小さな政府を、民主党は大きな政府を目指しているのであれば、共和党政権下では財政支出は減少し、民主党政権下では、財政支出は増大するはずなのだが、以下のグラフを見ても、そうした関係は見出されない。むしろ、逆に、共和党政権下では財政支出の対GDP比率は増大し、民主党政権下では、減少している。

米国の財政支出の対GDP比率の推移
図1 米国の財政支出の対GDP比率(百分率)
[データの出所:Government Spending in the United States

もちろん、私は、共和党政権は大きな政府で、民主党政権は小さな政府であると言うつもりはない。次のオバマ民主党政権では、おそらく、財政支出の対GDP比率は上昇することだろう。財政支出の対GDP比率は、その時々の経済環境に依存し、必ずしも実権を握った政党によってのみ決まるわけではない。しかし、このデータだけを見ても、共和党政権は小さな政府で、民主党政権は大きな政府という対比がおかしいということがわかるであろう。

オバマの大統領就任演説を見てもわかるように、彼は、「小さな政府」対「大きな政府」、「市場原理主義」対「社会主義」という対立軸の中に自分を位置づけているわけではない。

The question we ask today is not whether our government is too big or too small, but whether it works – whether it helps families find jobs at a decent wage, care they can afford, a retirement that is dignified.

我々が今日立てるべき問いは、政府が大きすぎるか小さすぎるかではなく、政府が機能するか否かである。すなわち、家族が人並みの給与の仕事を見つけたり、医療サービスを受けたり、立派な退職資金を手に入れたりすることの助けに政府がなるかどうかだ。

[…]

Nor is the question before us whether the market is a force for good or ill. Its power to generate wealth and expand freedom is unmatched, but this crisis has reminded us that without a watchful eye, the market can spin out of control – and that a nation cannot prosper long when it favors only the prosperous.

我々が立てるべき問いは、また、市場が良い力か悪い力かというものでもない。富を作り自由を広げる市場の力に比肩するものはない。だが、今回の危機は、監視がなければ市場は統制を失い、豊かな者ばかりを優遇する国の繁栄が長続きしないことを我々に気づかせた。

The success of our economy has always depended not just on the size of our Gross Domestic Product, but on the reach of our prosperity; on our ability to extend opportunity to every willing heart – not out of charity, but because it is the surest route to our common good.

我々の経済の成功は、これまでずっと、たんにGDPの大きさにではなくて、繁栄の裾野の広さに、すなわち、すべてのやる気のある人に機会を広げる能力に基づいていた。それは慈善心からそうするのではなく、それが公共の利益を実現する最も確実な方法だからだ。

しかるに、評論家の中には、共和党政権は大きな政府で、民主党政権は小さな政府という先入見に基づいて、米国民がマケインではなくてオバマを選んだのは、第二のフーバーであるブッシュの続きをやりそうなマケインよりも、オバマの方が、第二のルーズベルトとして、ニューディールをやってくれそうだからだといった論評を行うものが少なくない。例えば、ジャーナリストの田原総一郎は、次のように言っている。

 金融混乱が高まって、オバマ氏の人気が逆転したということは、明らかにマケインやブッシュにフーバーを見て、オバマにルーズベルトを求めているんだと思う。

 つまり自由主義経済の原則ではなくて、公共事業を中心いろいろなことをやってくれるオバマ氏を求めているのだ。

田原は、たんなる評論家ではなくて、自分の意見に基づいて、政治を動かそうとするから厄介である。田原は、90年代の日本をダメにした経済政策の提唱者であるリチャード・クーをサンデー・プロジェクトに出演させて、世論を積極財政の肯定に導こうとしたり、「バラマキで何が悪い」と開き直って、与党の大物政治家たちから、公共事業の拡大と赤字国債の増発の言質をとろうと誘導尋問をしたりしていた。

ところで、田原は、どのような公共事業が最も効果的であると考えているのだろうか。先ほどの引用箇所に続けて、田原は次のように言っている。

 実はルーズベルトのニューディール政策も完全に成功したわけではない。誤解をされるかもしれないが、あえて言うと、こういう大不況が襲ったとき、ヒューマニズムとか人道主義とか、善悪をすべて考えないで言えば、戦争が一番効果的だ。

 現に歴史的には、必ずこういう不況下で戦争が起こっている。第二次世界大戦があったから、アメリカの景気はよくなった。ヒューマニズムとか善悪を抜きにして言えばの話だが、戦争というのは、いってみれば最も効率のいい大きな公共事業のようなものなのだ。

 まず、多くの国を巻き込める。それから戦争が始まると、飛行機や戦闘機や戦車などいろいろなものを生産する。ところが生産したものがどんどん壊れていく。だから在庫がまったくない状況だ。そういう意味では理想的とも言える。

私も、「ニューディールは成功したのか」で、ルーズベルトのニューディール政策は、第二次世界大戦に参加したことで、真に実現されたとという解釈を示した。もしも田原が、戦争をリフレのための公共事業として認識しているのならば、そしてニューディールを財政均衡政策から積極財政によるリフレ政策への転換と解釈しているのであれば、クリントン政権末期に生じた、ドットコムバブル崩壊によるデフレを克服するべく、クリントン時代の財政健全化政策を放棄して、「テロとの戦い」という大義名分の下、大規模な公共事業を行ったブッシュは、まさにフーバーではなくて、ルーズベルトということになるのではないか。田原は、しかし、そうは考えない。それは、共和党政権は小さな政府で、民主党政権は大きな政府という先入見に囚われているからである。

3. サブプライム問題は政府の失敗である

次に、本題であるサブプライム問題について考察しよう。ここでサブプライム問題と呼んでいるのは、サブプライム・ローンが不良債権化したことで起きた金融問題のことである。サブプライム・ローン(subprime lending)とは、低所得者など、債務履行の信頼度が低い借り手に対する貸付のことである[s]。債務履行の信頼度が高い優良顧客への貸出金利“prime rate(最良金利)”よりも金利が高く、債券価格が低いという意味で“subprime mortgage(準優良抵当)”と名付けたのが、語源とされている。

[s]日本では、「サブプライムローン」という表現が一般的であるが、グーグルで検索すると、“subprime lending”が“subprime loan”の倍以上ヒットするので、後者よりも前者の方がポピュラーであるようだ。だから、本来は、「サブプライム貸付」とでも訳すべきなのだろうが、ここでは慣例に従う。日本語では、ローンという言葉は、貸金よりも借金という意味で使われるが、英語では“loan”は“lend”と同様、「貸す」という意味であることに留意されたい。

普通の民間金融機関が、返す見込みの少ない低所得層に巨額の融資を行うといったことが、レッセ・フェールの市場経済で、大規模に自然発生するなどということはありそうにないということぐらい、少し考えればわかりそうなものだが、多くの人は、ブッシュ共和党政権が、市場経済を自由放任した結果、サブプライム問題が自然発生したと考えている。しかしながら、サブプライム問題の発端を作ったのは、ブッシュ共和党政権ではなくて、クリントン民主党政権であり、しかも、それは、市場の自由放任ではなくて、政府による市場介入によって発生した。

クリントンは、低所得者にもマイホームを提供しようというリベラルな動機から、ファニーメイ(連邦住宅抵当公社)とフレディマック(連邦住宅貸付抵当公社)という政府系住宅金融会社に圧力をかけて、返済能力の低い人たちへの貸し出しを増やさせようとした。

In 1995, President Bill Clinton’s HUD agreed to let Fannie and Freddie get affordable-housing credit for buying subprime securities that included loans to low-income borrowers. The idea was that subprime lending benefited many borrowers who did not qualify for conventional loans.

1995年に、ビル・クリントン大統領時代の住宅都市開発省は、ファニーメイとフレディマックに、低所得者の借り手に対するローンを含むサブプライム証券を購入することで住宅を入手可能にする貸付を行わせることに同意した。サブプライムローンは、通常のローンを受ける資格のない多くの借り手にとって利益になるという発想であった。

二社のうち、ファニーメイは、大恐慌時代の1938年に、フランクリン・ルーズベルトが、停滞する不動産市場を活性化させるために、ニューディール政策の一環として設立した政府系金融機関である。1970年には、抵当市場をさらに活性化させるために、フレディーマックが新設された。両社とも、1995年までは、堅実な融資を行っていたが、クリントン政権時代、政権の高官が両者の最高幹部に任命され、クリントン政権の意向で、低所得者へのリスキーな貸し出しを積極的に行うようになった。

両社のなかでも政治との癒着が酷かったのは、ファニーメイで、クリントン政権があまりにもサブプライムローンに力を入れさせるので、ニューヨークタイムズは、1999年に、それが将来金融危機の火種になることを警告していた。以下の記事は、サブプライム問題が深刻化し、ファニーメイに公的資金が注入される2008年よりも9年も前に書かれた記事である。

Fannie Mae, the nation’s biggest underwriter of home mortgages, has been under increasing pressure from the Clinton Administration to expand mortgage loans among low and moderate income people and felt pressure from stock holders to maintain its phenomenal growth in profits.

住宅抵当の国内最大の引き取り手であるファニーメイは、中低所得者向けの抵当ローンを拡充するようにとクリントン政権からますます圧力をかけられるようになり、また、驚異的な収益増大を維持しろという株主からの圧力を感じるようになった。

[…]

In moving, even tentatively, into this new area of lending, Fannie Mae is taking on significantly more risk, which may not pose any difficulties during flush economic times. But the government-subsidized corporation may run into trouble in an economic downturn, prompting a government rescue similar to that of the savings and loan industry in the 1980’s.

たとえ、試験的であるにしても、この[サブプライムという]新しい貸し出し領域に足を踏み込むことで、ファニーメイは、とてつもなく大きなリスクを取り始めた。景気が良いうちは問題が生じないかもしれない。しかし、この政府から補助金をもらっている企業[ファニーメイ]は、不況になると危機に直面し、1980年代の貯蓄貸付業界がそうしたように、政府による救済を求めることになるかもしれない。

以下の図2は、サブプライムローンの年間総額と抵当市場全体におけるその割合を示しているが、ここから、サブプライムローンが、クリントン政権の政策により、1998年頃から急増したが、2000年にドットコムバブルが崩壊すると、伸び悩み、サブプライムローンが抵当市場に占める割合が一時減ったことがわかる。

BBC NEWS Business The US sub-prime crisis in graphics
図2(左図)サブプライムローンの年間総額(棒グラフ、単位は十億ドル)と抵当市場における割合(折れ線グラフ、単位はパーセント)、図3(右図)抵当債券(薄い茶色、単位は十億ドル)と政府保証債が占める割合(濃い茶色)[BBC: The US sub-prime crisis in graphics

以下の図4は、米国の住宅価格指数を示している。2002年に3指数とも、上昇率が一時的な落ち込みを示しており、もしもこのとき政府が、政府系金融機関によるサブプライムローンを抑制していたならば、それによって作り出された住宅バブルは、規模が小さい早期の段階で崩壊し、そのダメージは、実際のものよりもずっと小さなものですんでいたことであろう。

Standard & Poor's
図4 全米(太い実線)、10都市(細い実線)、20都市(点線)での住宅価格指数の対前年比の推移。[Standard & Poor’s (2007) The S&P/Case-Shiller® U.S. National Home Price Index Posts a Record Annual Decline in the 3rd Quarter of 2007

ところが、2001年に発足したブッシュ政権は、サブプライムローンを抑制するどころか、逆に税制上の優遇措置や財政支援によりサブプライムローンを後押しした。ブッシュは、2002年に、次のような演説で、住宅ローンの支払い利子の税控除や頭金支払いへの補助金支給といったサブプライムローン推進政策を正当化している。

Too many American families, too many minorities do not own a home. There is a home ownership gap in America. The difference between Anglo America and African American and Hispanic home ownership is too big.

あまりにも多くのアメリカの家族が、あまりにも多くのマイノリティーが自宅を所有していません。アメリカには、自宅所有率に格差があります。アングロ系アメリカ人とアフリカ系/ヒスパニック系アメリカ人との間にある自宅所有率の格差はあまりにも大きすぎます。

[…]

And so by the year 2010, we must increase minority homeowners by at least 5.5 million. In order to close the homeownership gap, we’ve got to set a big goal for America, and focus our attention and resources on that goal.

そこで、2010年までに、私たちは、マイノリティーの自宅所有者を、少なくともあともう550万世帯増やさなければなりません。自宅所有の格差を是正するために、アメリカは遠大な目標を掲げ、私たちの注意と資源をこの目標達成のために集中しなければなりません。

ブッシュは共和党の政治家だから、きっと弱肉強食の自由競争と格差社会を放置するコチコチの市場原理主義者にちがいないという先入見を持っている人もいるかもしれない。しかし、実際には、共和党の政治家も、有権者のごく一部に過ぎない金持ちを優遇するだけでは多数の票が取れないので、こうした低所得のマイノリティーの歓心を買う人気取り政策もしているのである。

米国では、アフリカ系・ヒスパニック系の貧困層が都市のスラム街にある集合住宅に住んでいるのに対して、白人の富裕層は郊外の一戸建て住宅に住むという傾向がある。その結果、郊外の富裕層の子供と都心の貧困層の子供は校区が別になり、別の教育を受けることになる。米国では、教育の内容は学区ごとにまちまちであり、教育予算が固定資産税で賄われるために、地域の地価の格差によって教育の質が大きく異なる。だから、住居格差が教育格差、就職格差、賃金格差につながり、貧富の格差の再生産と固定化をもたらしている。クリントンやブッシュが低所得のマイノリティたちに一戸建ての住宅に住ませようとしたのは、こうした格差の再生産を断ち切ろうとしたためだった。

ブッシュによる、格差是正を大義名分とした新しい住宅政策により、2002年以降、再びサブプライムローンの総額とシェアの双方が急上昇したことを、図2から読み取ることができる。また、住宅需要の増大に伴って、住宅価格指数の変化率が二桁となり、住宅バブルが本格化したことが図4からわかる。いったん住宅価格が上昇し始めると、転売目的で購入する投機家も出てくるようになる。政府が行った、不動産売買によるキャピタルゲインの課税免除が、土地転がし(米国の場合、正確に言えば、住宅転がし)を過熱させた。

一般的に言って、市場経済では、買い手が増えることによって資産の価値が上昇すると、キャピタルゲインを目当てにさらに多くの人がそれを買おうとするようになるというポジティブ・フィードバックが働く。図3を見ると、2002年以降、政府保証のない抵当証券の割合が増えていることがわかるが、これは、政府の保証を必要としないプライムローンが増えたからではない。図2が示すように、2002年以降、サブプライムローンの占める割合が急増している。これは、住むためではなくて、転売の差益を目当てにした低所得者たちが増えてきたことを示唆している。借金して、自宅を手に入れ、資産を増やすという夢のような話が成り立つのは、住宅価格が上昇し続けている間に限られる。バブルが崩壊すれば、サブプライムローンは、不良債権となる。

市場経済が持つポジティブ・フィードバックのメカニズムが住宅バブルを過熱させたことは事実である。しかし、それを根拠に、サブプライム問題を市場の失敗とみなすことは、問題の根源を見失った判断である。主犯は、政府であり、市場経済は、せいぜい幇助の役割しかしていない。だから、サブプライム問題は、政府の失敗であると結論付けるべきである。

サブプライム問題は、貧富の格差を是正しようと、政治家たちが社会主義的な経済政策を強行したことで発生した。市場経済を自由放任した結果、経済危機が生じ、貧富の格差が広がったのだから、社会主義的政策による貧富の格差の是正が必要だといった、冒頭で取り上げた通俗的見解が、いかに倒錯しているかが、これでおわかりいただけたかと思う。

オバマは、引用した演説の中で「今回の危機は、監視がなければ市場は統制を失い、豊かな者ばかりを優遇する国の繁栄が長続きしないことを我々に気づかせた」と言っているから、アフリカ系の血を引く彼が、白人とマイノリティとの格差是正のために市場経済への介入を試みることは大いにありうることだ。しかし、それはこれまでクリントンとブッシュがしてきたことであり、チェンジの名に値する新政策ではない。もしも、オバマがクリントンやブッシュと同じことをするならば、同じような失敗をするだろう。サブプライム問題は、ニューディール政策によって惹き起こされた危機であって、ニューディール政策によって克服されるべき危機ではないのである。

4. 結語

マルクスの時代以来、恐慌が起きるたびごとに、市場経済の時代の終焉と社会主義経済の時代の到来が叫ばれた。今回の経済危機においても、御多分に洩れず、マル経崩れの左翼系エコノミストたちが、ここぞとばかりに活気づき、「アメリカ型市場原理主義が崩壊した」「新自由主義の時代は終わった」と言っている。彼らは、政府の失敗を市場の失敗に掏り替えて、社会主義的プロパガンダをしているわけだが、こうした掏り替えは、彼らの常套手段であり、珍しいことではない。

例えば、今話題の派遣労働の問題でも、社会主義者たちは、小泉・竹中の規制緩和が原因だとして、政府による規制の強化を求めている。「どうすれば労働者の待遇は良くなるのか」で既に論じたように、派遣労働の問題、あるいはもっと広く捉えて、ワーキング・プアの問題も、政府の失敗であり、正社員の雇用の過剰保護を止めない限り、抜本的な問題解決は不可能である。それにもかかわらず、社会主義者たちは、この政府の失敗を市場の失敗に掏り替え、政府による市場介入で雇用問題を解決することを提案している。

病気の原因がわからなければ、対症療法しかできないように、経済問題も、その原因を突き止めることができなければ、抜本的な解決をすることができない。市場原理が不十分であるために起きた問題を、市場原理が原因で起きた問題に掏り変える社会主義者たちのトリックを見破るためには、「米国政府はレッセフェールの小さな政府」とか「共和党は市場原理主義の政党」といった先入見に惑わされることなく、問題の根本原因を正確に探り当てる努力が必要である。