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砂漠を緑化するにはどうすればよいのか

2016年8月2日

現在、地表面の約4分の1が砂漠となっており、さらに毎年約600万ヘクタールの割合で砂漠化が進行している。このまま砂漠化の進行を放置すれば、生物の食料基盤と居住基盤はどんどん減っていくことになる。砂漠化を食い止めて、地球を緑化するには私たちはどうすればよいのか。この問いに答えるには、そもそも人間はエコシステムにおいてどのような役割を果たしていたのかというところから考え直さなければならない[1]

Image by Jonny Lindner from Pixabay

人間は水産物を食べて進化した

アクア説によれば、人類の祖先は、水中の環境に適応し、魚や貝などの水産物をとって生活することで、チンパンジーと分岐する独自の種となった。私は、エレイン・モーガンのように、人類の祖先が海中で暮らしていたとは考えず、アフリカ大陸の淡水湖の水辺で暮らしていたと考えている[2]。ここでは、こうしたセミアクア説も含めた広い意味でアクア説を理解することにしよう。

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コンゴで、杖を突きながら浅瀬を二足歩行するゴリラ[3]。四足歩行する類人猿も、浅瀬を渡る時には二足歩行することが観察されている。樹上生活を送っていた人類の祖先は、セミアクア環境に適応することで二足歩行する種に進化したと考えられている。

アクア説は、かつては異端の説だったが、現在では、初期人類が水産物を食べて、脳を巨大化させたという説に関しては、少なからぬ科学者が同意している。

人類の祖先として、サバンナで、ヌーを狩って持ち帰り、石器で肉を切り分けたり、死肉をあさったりする、筋骨たくましいハンターの絵がよく描かれるが、もっと正確なイメージは、静かな湖や波の穏やかな海に入って、魚、海鳥の卵、軟体動物やその他の海産物を捜し求める漁夫(漁婦)かもしれない。[4]

人間の脳の成長を促す主要成分は、ドコサヘキサエン酸(DHA)とアラキドン酸(AA)である。人間は、これらのもととなるオメガ-3とオメガ-6の不飽和脂肪酸を自分で合成することができない。オメガ-6は植物油などからも摂取することもできるが、オメガ-3を十分に摂取しようとするならば、魚介類や海草を食べないといけない[5]。初期人類が、脳を巨大化させたとするならば、魚介類や海草を食べていたはずである。実際、初期人類の化石は当時水辺であった場所で見つかっている。ヒトの脳は、道具や言語の発達に伴って大きくなったと一般に思われているが、そうなる前から、水棲動植物の摂取により脳を大きくさせていた[6]。ホモ属は、脳化指数が類人猿の水準を超える頃、オメガ-6系の脂肪酸を含む陸棲動物の肉に加え、カメ、ワニ、魚など、オメガ-3系の脂肪酸を含む水棲動物の肉を摂取しており、こうした必須脂肪酸を含む食品の摂取が、それを必要とする脳の巨大化に貢献したと考えられている[7]

もっとも私は≪脳を大きくすることができたから脳が大きくなった≫とする能力論的アプローチではなく、≪脳を大きくしなければならないから脳が大きくなった≫とする必要論的アプローチは取りたい。人は長い間セミアクア環境にありながら、ホモ属が現れるまで、類人猿以上に脳化指数を高めることはしなかった。そうすることもできたが、恵まれた環境にあったためその必要はなかった。寒冷化と乾燥化が進み、安住できるセミアクア環境が縮小した第四紀になって、初めて類人猿以上に知能が進化したホモ属が出現した。環境の悪化がイノベーションを促したのである。180万年前にホモ・エレクトスが第一回目の出アフリカを敢行したのは、縮小する内陸淡水資源に代わって、外洋に新たな水産資源を求めるためだったのだろう。

その後、人類は、牛肉や豚肉といった陸上動物の肉をより多く食べるようになった。しかし、牛肉や豚肉の脂肪は、コレステロールを多く含むが、魚油は、逆にそれを減らしてくれる。鯨は魚ではないが、鯨肉は、牛肉や豚肉や鶏肉よりもコレステロールの含有量が少ない。その進化上の出自ゆえに、陸棲動物の肉よりも水産物を食べたほうが、心疾患のリスクを下げるなど、より健康に生きることができるように私たちの体は作られているのである[8]。摂取エネルギーの5%をバター、ラード、赤身肉などに含まれる飽和脂肪酸から魚油や植物油などに含まれる不飽和脂肪酸に変えることで、全体の死亡率を13-27%下げるという調査結果が出ている[9]。水産物を食べることは、実は、人間の健康にとって良いだけでなく、エコシステム(生態系)全体の健康にとっても良い。本稿はこのことを確認することになる。

人間がエコシステムで果たす役割は何か

一般に、人間を含めて、動物は、植物が光合成によって作り出した栄養を直接的または間接的に搾取するだけの寄生的存在に過ぎないと思われているが、実は、動物、なかんずく人間には、エコシステムを維持する上で重要な役割がある。

植物は、生きていく上で、16の元素を外部から取り入れなければいけない。水素、炭素、酸素、窒素、カリウム、リンは大量に必要だが、カルシウム、マグネシウム、イオウは少量でよく、さらにモリブデン、銅、亜鉛、マンガン、鉄、ホウ素、塩素はごく微量でかまわない。このように必要な量に差はあるものの、どれか一つでも欠くならば、正常な成長ができないという意味で、これらの元素は必須元素と呼ばれる。

必須元素のうち、水素、炭素、酸素は、空気と水から直接補給することができる。窒素は、植物が自力で取り入れることはできないが、共生微生物の力を借りて、空気中から固定をすることができる。これら四つの元素は、動物がいなくても、微生物と自然の循環があれば、摂取できる[*]

[*] もちろん、実際の農業においては、人間が灌漑等の方法により人工的に水を供給しているし、窒素も化学肥料によって供給している。二十世紀以降、ハーバー・ボッシュ法によって空気中から人工的にかつ安価に窒素を固定することができるようになったので、窒素の枯渇を心配する必要はない。

だが、これ以外の元素、特にリンは、動物がいないと供給が難しくなる。なぜなら、こうした土の中にある必須元素は、時間とともに、雨水によって洗い流され、海や湖沼に不可逆的に蓄積し、陸地では不足するからだ。水の中に流出した栄養塩(水に溶けている必須元素の化合物)は、プランクトンなど微生物に摂取され、さらにそれらを食べる魚など、大型の動物の体内に蓄積される。水中の動植物の体内にある栄養塩は、死ぬことで海底や湖底に蓄積されることになる。

栄養塩は、重力によって、より高い場所から低い場所へと移動するので、そのままであれば、やがて陸上から栄養塩が枯渇し、陸上から生命は消滅するはずだが、実際にはそうはならない。これは長期的には栄養塩が溜まった海底や湖底が隆起するからである。もっともそれには非常に長い時間がかかるので、それだけならすぐに栄養塩が枯渇する。

もっと短期的な逆戻りとして、熱塩海洋循環の湧昇(upwelling)がある。以下の図は、赤色の表層海流が、青色の深層海流、あるいは紫色の海底海流へと折り返され、ACC(南極周極流 Antarctic Circumpolar Current)を形成した後、インド洋、太平洋、大西洋で表層へと湧昇する様子を示している。

The Thermohaline Ocean Circulation
熱塩海洋循環。Source: Stefan Rahmstorf. “Thermohaline Ocean Circulation”. In: Encyclopedia of Quaternary Science Edited by S. A. Elias. Elsevier, Amsterdam 2006.

これらの湧昇地点では、海底に溜まっている栄養塩が表層に噴き上げられるので、豊かな漁場となる。そして人間や鳥などの陸上動物が水産物を取って食べ、その排泄物や死体を陸上に還元することで、必須元素の水陸にまたがる循環が形成される。そのおかげで、植物は、陸上で繁栄することができる。

では、水産物を食べない動物は、エコシステムの維持に役立っていないのかと言えば、そうではない。水産物を食べる動物は少数なので、排泄物や死体は特定の場所に偏る。陸上の植物や動物を食べ、他の場所で排泄物や死体を残すことで、動物は、水の中から取り返した必須元素を薄く広く拡散する働きをしている。

オックスフォード大学のクリストファー・ダゥティたちが2013年に発表した論文によると、メガファウナと呼ばれる大型動物が更新世に大量絶滅したおかげで、栄養分の土壌への拡散が妨げられた[10]。この現象は、代わって台頭した新しい大型動物、ヒトの進出が遅れた南米大陸で顕著に見られるという。

以下の図は、メガファウナが大量絶滅する前に当たる1万5千年前(a)、現在(b)、今から2万8千年後(c)のアマゾン川流域におけるリン濃度の推定値を表示している。右下(d)は、1万5千年前と2万8千年後の変化量を表している。

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アマゾン川流域におけるリン密度の変遷。Source: Doughty, Christopher E., Adam Wolf, and Yadvinder Malhi. “The Legacy of the Pleistocene Megafauna Extinctions on Nutrient Availability in Amazonia.” Nature Geoscience 6, no. 9 (September 2013): 763. https://doi.org/10.1038/ngeo1895. Figure 3: Map showing changing ecosystem P concentrations in South America due to megafauna extinctions.

もともとアンデス山脈は、鮮新世に海底が隆起してできたので、リン資源が豊富である。リンはリン酸(H3PO4)として水に溶け、アマゾン川に沿って運ばれるので、アマゾン川にはたくさんの生物資源がある。メガファウナは、餌場である川の周辺から遠く離れた場所に糞を残したり、死後の死骸が腐敗したりすることによって、摂取したリンをアマゾン川流域に拡散することに貢献した(a)。メガファウナの絶滅によってリンの分散が98%減少し、現在では、アマゾン盆地におけるリンの密度は低下しており(b)、その傾向は今後も続くと予想されている(c)。メガファウナの役割はそれだけ大きかったということである(d)。

なお、アフリカ大陸など、古くから人類が絶滅せずにいた大陸では、南米大陸ほど栄養塩の不足は起きていない。人類は、とかく環境の破壊者として見られがちだが、エコシステムの維持者として機能することもあることを認識しなければならない。

大型動物は小型動物よりも大量の餌を食べ、移動距離もはるかに長いので、リン酸塩などの栄養塩を広範囲な土壌に分散させることができる。そこで、ダゥティたちは、大型動物の役割を人体における動脈の働きに、小型動物の役割を毛細管の働きに譬えている[11]。これは面白い比喩だが、ダゥティたちの論文では、動脈に栄養分を供給している消化器官や肝門脈についての考察が乏しい。サハラ砂漠からの砂の供給について言及があるだけだ。

西サハラとモロッコには、大きなリン鉱石鉱床があるので、サハラ砂漠から運ばれてくる砂塵がリンの供給源の一つになっている可能性はあるが、一般的に言って、砂漠のリン含有量はごくわずかである。ジャレド・ダイアモンドは、「日本で樹木の再生が速いのは、雨量が多く、大量の火山灰と黄砂の降下が肥沃な土壌を回復し、かつ地質の年齢が若いからである[12]」と言うが、中国内陸部の砂漠から日本に飛散する黄砂に含まれるリンはきわめて僅かであり[13]、火山灰土はリン酸と強く結合するため、火山灰土層では植物はリン酸欠乏になりやすい[14]。だから、他の栄養塩はともかくとして、リンに関しては、火山灰や黄砂は供給源にはなっていない。

欧米の学校教育では、以下の図にも見られるとおり、海底に堆積したリン資源の陸上への回帰に生物が果たす役割が重視されることは稀である。せいぜい、グアノ(海鳥の糞や死骸などが珊瑚礁に堆積して化石化したもの)に言及する程度である。

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欧米でよく見かけるリン循環の模式図の一例。海底の隆起のみで循環を説明している。Source: University of Waikato. “The phosphorus cycle ― Phosphorus moves in a cycle through rocks, water, soil and sediments and organisms.” Published on 30 July 2013. ニュージーランドのワイカト大学作成。

これに対して、日本では、人間が行う漁業が果たす役割にも言及される。以下は現行のある高校生向け教科書からの引用である。

リン酸は,核酸・ATP・リンタンパク質など原形質に不可欠で重要な成分であり,しかも,自然界を循環している。このような有機リン酸化合物は,結局はリン酸塩に分解され,それは植物に利用される。しかし,リンの大きい貯蔵庫は空気ではなく,地質時代に形成された岩石などの堆積物である。これらはしだいに侵食され,リン酸塩を生態系に与える。このとき,多くのリン酸塩は海に流れ,その一部は浅海の沈殿物の中に堆積し,一部は深海の堆積物として失われる。したがって,リンをその循環路にかえす手段は,リンの消失を補うために不十分である。現在,世界のどこでもこの堆積物の大規模な隆起は起こっておらず,また海鳥や魚の作用も十分ではない。ペルー海岸のばく大なグアノ堆積のように,海鳥は明らかにリンを循環路に帰すのに重要な役割を演じた。鳥によるリンや他の物質の海から陸への運搬は続いている。人間は,不幸にもリンの消失の割合を促進し,リンの循環を不完全なものにしている。人間は多量の海産魚を収獲するが,1年間に採鉱されるリン酸塩岩石は100~200万トンで,その大部分が洗い流されているのに比べて,魚の収獲によって循環路にかえされるリン元素の量は6万トンに過ぎないと計算されている。リン酸塩岩石の貯蔵量がばく大であるから,リンの不足を直ちに心配することはないといわれているが,リンの循環を完結させるような努力が,リン元素の将来の不足を起こさないために必要であろう。[15]

人間が果たす役割についての認識の差が、捕鯨や漁業に対する評価の違いを生むことになる。

回収型農業と流出型農業

生態系において人間が果たす役割は、水中から栄養塩を回収して陸上に還元することである。この役割を果たしているか否かという観点から、農業(漁業や牧畜も含めた広い意味での農業)を回収型農業と流出型農業という二つの理念型(イデアール・テュプス)に分類してみたい。理念型はあくまでも理念的な典型であるから、現実の農業には中間的なものが多いのだが、大まかに言って、小麦栽培と牧畜から成り立つ西洋の農業は流出型農業であり、米と豆の栽培から成り立つ東洋の農業は回収型農業である。この違いの発祥を、私たちは四大文明の時代にまで遡らせることができる。

紀元前3500年から紀元前2300年にかけて、メソポタミア文明、エジプト文明、インダス文明など、旧大陸に集権的な文明が現れた。これは、そのころ、北緯35度以北の地帯が湿潤化したのに対して、北緯35度以南の地帯が乾燥し、北緯35度以南に住む人々が、ナイル川、チグリス・ユーフラテス川、インダス川、長江に水を求めて集まったからだと考えられている[16]

これら四大文明のうち、メソポタミア文明、エジプト文明、インダス文明の三つの文明は、西洋文明と呼ぶことができる。インドは普通東洋と呼ばれているが、インダス文明は、メソポタミア文明の影響を受けてできたので、西洋に分類することにしたい。三つの文明での農業のあり方は、後に、私たちが典型的な西洋だと考えているヨーロッパに受け継がれる。

西洋文明では、小麦栽培と牧畜をセットにした農業が行われた。小麦は、必須アミノ酸のうち、リジン、メチオニン、スレオニンが少ないので、肉や乳製品で、不足したアミノ酸を補わなければならない。このため、これらの西洋文明は、家畜の肉を入手するために、森林を大規模に伐採し、牧畜用の草原を作った。

メソポタミア文明では、人々は、神殿建設や交易船の建造のために、多くの森林を伐採した。それは『ギルガメシュ叙事詩』に描かれている森の神フンババの殺害から窺い知ることができる。エジプト文明もまた森林資源を必要とし、両者とも争ってレバノン杉を伐採した。メソポタミア文明は、インダス文明の町ロタールからも木材を輸入していた。

西洋文明は、森を伐採し、麦畑を作り、家畜を飼った。彼らは小麦と家畜の肉を食べてできた人糞尿を有効活用することなく、ごみとして捨てていた。インダス文明のモヘンジョ・ダロは、世界初の高度な下水処理施設で有名だが、最終的には、それはインダス川に捨てられていた。今でも、インド人は、家畜の糞を肥料として使うことはあっても、人間の屎尿を肥料として使うことはない。

インド諸地域での家畜糞の絶対量は屎尿をはるかに凌駕しており、家畜糞のみに依存する形態が展開したものとおもわれる。集約的な庭畑地の経営にも通常屎尿は使用されず、家畜糞のみに依存してきた。都市近郊農家による都市廃棄物の利用は長い歴史を持つが、屎尿は蔬菜栽培人カーストを例外として活用されていなかったものとおもわれる。[17]

家畜の糞を肥料として土地に還元しても、それだけでは、たんに栄養塩が陸の中で循環しているだけで、水中から陸上への回収をしたことにはならない。だから、しだいに地力が落ちていくのである。

流出型農業による土地の疲弊は、現在これらの文明が存在した地域が砂漠となっている原因の一つとされている。もちろん、エジプトを除くアフリカ大陸北部のように、これといった文明のないところも砂漠化した[*]から、北回帰線付近の砂漠化は自然現象だと言うことができるが、人間がそれに対して、ポジティブ・フィードバックをした 、あるいは少なくとも防ぐことはしなかったと言うこともできる。

[*] アルジェリア南部のタッシリナジェール山脈の壁画には、カバの親子やワニの絵が描かれている。7000年前のヒプシサーマル期においては、サハラ砂漠の降水量は年間400ミリほどあり、夏の気温も今より約2度低く、現在のサバンナ気候に近かっ
[18]

森林を伐採し、麦畑と牧草地を作り、小麦と家畜の肉を食べ、糞尿をごみとして流しさる西洋文明の歴史は砂漠化の歴史である。 流出型農業の伝統は、古代エジプト・メソポタミア文明から、古代ギリシャ・ローマ文明を経て、近代ヨーロッパへと受け継がれ、アメリカ大陸やオーストラリア大陸といった新大陸に広がり、現在急速な勢いで地球を砂漠化している。

これに対して、東洋の長江文明[*]では、稲と豆が栽培された。米は、必須アミノ酸のうち、リジンだけ足りないが、リジンは豆で補うことができる。今でも中華料理には、豆腐を始め豆料理が多いが、その起源は長江文明にまでさかのぼるのかもしれない。

[*] 長江文明とは長江の流域に存在したとされる先史時代の諸文化の総称である。紀元前6000-5000年頃のものと推定される河姆渡(かぼと)遺跡の発見により、黄河文明とは別の中国文明と認識されるようになった。但し、本格的な文字は発見されておらず、都市文明というよりも農耕文化であり、「長江文明」という呼称は必ずしも適切ではないが、ここでは慣例に従うことにする。

長江文明でも、人々は豚をはじめとする動物の肉を食べていたが、西洋文明のように、大規模な森林伐採を伴う本格的な牧場開拓は行わなかった。栄養学的に言って、陸上動物の肉を食べる必要がなかったからである。米と豆と魚介類と野菜を食べれば、必要な栄養はすべてとることができた。

長江文明の人たちがどのように屎尿を処理していたかは不明だが、中国語の古語(豚の旁を囲った象形文字)に視覚的に表現されているように、豚小屋が便所を意味することから、豚の餌にしていたのではないかと推測される。実際、代表的な長江文明である河姆渡文化では、豚が家畜化されていた。

人糞を豚の餌にする習慣は、つい最近まで中国に残っていた。今もまだ残っているのかもしれない。中国に出征した日本兵は、用便中に、いち早く餌を食べようと寄ってきて尻をなめる豚に悩まされた。だから、豚を追い払うための棒が用便の必携の具であったという[19]。この習慣は、沖縄やフィリピンやその他東南アジアの一部の地域にも見られたが、地理的な近接性を考えれば、これは多分中国の影響であろう。

人糞を食べた豚の糞は、土に還元されるから、長江流域では、水産物の栄養塩が陸上に回収される循環ができていたということができる。長江流域は、宋の時代に「蘇湖熟、天下足」(蘇州と湖州の農産物が実れば、国中を賄うのに十分である)と称されたほどの「魚米の郷」であった。

長江文明消滅後、中国南部は、小麦栽培と牧畜を中心とする中国北部の政権の支配を受けるが、現在砂漠化が進行する中国北部とは対照的に、いまだに緑を失わずに多くの人口を養っている。長江流域は、他の四大文明と同様に北回帰線下にあるにもかかわらず、砂漠化していないということを考えると、回収型農業の果たす役割は大きいと言わなければいけない。

日本の回収型農業

中国では、糞便を豚の餌にするという方法以外にも、醗酵させて肥料にするという方法が古くから行われていた。いつから行われるようになったのかはよくわかっていないが、中国の習慣が日本に伝来した可能性がある。

便所は、日本の古語で「かわや」と呼ばれ、漢字で便所を意味する「厠」もそう訓じられた。「かわや」の語源は何だろうか。「かわや」を、川の上に作られた便所という意味での「川屋」とする説と母屋とは別に作られた便所という意味での「側屋」とする説がある。

「川屋」説は、『古事記』にある丹塗矢伝説を根拠にしている。

三島溝咋の女、名は勢夜陀多良比売。其の容姿麗美しかりき。故、美和の大物主神、見感でて、その美人の大便為れる時、丹塗矢に化りれ、其の大便為れる溝より流れ下りて、其の美人の富登を突きき。爾に其の美人驚きて、立ち走り、伊須須岐伎。[20]

[口語訳:ミシマノミゾクヒの娘は、名をセヤダタラヒメという。その容姿は美しかった。そのため、美和の大物主神がそれを見て気に入って、その美人が用を足そうとした時に、丹塗矢に変身して、大便が垂れる溝を流れ下って、その美人の陰部を突いた。するとその美人は驚いて、立ち上がると走って慌てふためいた。]

よく読むと、セヤダタラヒメ が川で用便したとは書いていない。天然の川は「溝」とは呼ばない。たんに下水溝に便を落としたと解釈するべきだ。そもそも「厠」という漢字には、側(かたわら)という意味はあっても川という意味はない。

インドネシアやタイなど、東南アジアでは、川に用便する風俗が広く見られ、中国南部や日本にも部分的にあったと考えられるので、「川屋」説もあながち否定できないのだが、日本の家屋が伝統的に便所を母屋から切り離してきたことを考えると、「側屋」説の方に軍配が上がる。その場合、下水溝に落とした糞尿をその後どう処分したのかに関しては不明である。

人糞尿の肥料としての活用が、古代から行われていたかどうかはともかくとして、文献上では、927年の『延喜式』が初出で、播種前の施肥として使われていたとのことである。鎌倉時代になって、二毛作が行われるようになると、肥料の需要がさらに増え、人糞尿は追肥用にも使われるようになった。

1563年に来日したルイス・フロイスは、『日欧文化比較』の中で「欧州人は糞尿を汲み取り、便所を掃除してくれる人に金を払うが、日本では汲み取り人が糞尿を買い、米と金を支払っている」と書いている。人糞尿は、安土桃山時代には、既に商品になっていたのである。

人糞尿の商品化は江戸時代に本格化する。江戸は、18世紀初頭には人口の多さで世界最大級の大都市になったが、この巨大都市は環境破壊をもたらさなかった。海から陸への、そして陸から海への栄養還元により、江戸湾はすしの新鮮なネタとなる海産物であふれ、江戸周辺の田畑は、地力を衰えさせることなく、高い生産力を誇っていた。

日本人は、縄文時代から、魚介類やイルカや鯨を盛んに食べていたが、仏教が盛んになって肉食禁止令が出されるようになると、陸上の動物を食べることが少なくなり、ますます水中の動物を食べるようになった。江戸時代の農業は、水産物を食べ、排泄物を肥料として陸上に還元する回収型農業のもっとも典型的な形態である。

人糞は、窒素とリン酸を豊富に含むが、カリウムが不足しているので、カリウムが豊富な灰を混ぜて使われた。また、灰はアルカリ性なので、人糞尿だけだと酸性化しやすい土壌を中和化する働きもあった。干し鰯が肥料として使われることもあったが、人糞尿の方がはるかに安かったので、主流にはならなかった。

日本は、明治維新後、西欧諸国のまねをして、下水道法を作り、糞尿を生活廃水と一緒に管渠に集め、海域に捨てる計画を立てた。

この計画を知った当時の東京帝国大学農学部長の麻生慶治郎は「人糞尿は日本の農業にとって欠かすことのできない重要な肥料源である。これを海などに流し去るようなことになったら、日本農業の将来はどうなるのか」と政府に強く反対を申し入れた。政府もこの麻生教授の意見に耳を傾け、下水道法案の内容を見直すこととなる。[21]

こうして、人糞尿の堆肥化は、明治維新後も続けられた。しかし、都市部での人口増加と農地の縮小に伴い、需給が悪化し、人糞尿の価格が下落し始めた。戦後は化学肥料が普及したこともあり、人糞尿の堆肥化は、昭和30年ごろには終了した。

現在の日本は、もはやかつての江戸時代の日本のようなエコロジカルな国ではなくなっている。食生活が西洋化され、人々は魚肉に代わって、牛肉を食べるようになった。人糞尿はごみとして処分されて、海に流され、農地には大量の化学肥料と農薬がまかれている。それでもまだ日本に緑が多く残っているのは、輸入を通じて海外の資源を収奪しているからである。

人糞尿を堆肥化しなくても、化学肥料を使えば、土地がやせることはないのだから、何も問題はないと反論する人がいるかもしれない。そう言う人は、化学肥料の材料がどこから来ているかを考えてみるべきだろう。化学肥料の主要な成分である、窒素とリンとカリウムのうち、窒素は空気中にほぼ無尽蔵にあるが、リンとカリウムは鉱山から採掘している。 だから、化学肥料を使うことは、陸上から水中への栄養塩の流出を促進することになる。

カリ鉱石は比較的まだ資源が豊富であるが、リン鉱石は資源が枯渇しつつある。以下のグラフが示す通り、リン鉱石に対する需要は増加の一途をたどっている。

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米国地質調査所の調べによる1900年以降の世界全体におけるリン鉱石の生産高[22]

リン鉱石によるリンの供給のピークがいつ来るかに関してはさまざまな予測があるが、2030年ごろに頭打ちになるという試算もある[23]。もっと楽観的な予測もあるが、いずれにせよ、私たちは良質のリン鉱石から優先的に採掘を始めているので、時間とともにリン鉱石からのリンの供給は困難になっていくことだろう。

リン鉱石枯渇懸念の影響は、現時点において既に出てきている。日本は、従来、米国フロリダ州の鉱山から大量にかつ安価に購入していたが、1990年代の後半に、米国がリン鉱石の枯渇を懸念して禁輸措置を実施したため、中国四川省の鉱山から輸入するようになった。しかし、中国も、リン鉱石に110%の関税を掛けた[24]ことから国際価格は急騰しており、もはやリン鉱石に安易に依存できる時代ではなくなってきている。

リン鉱石が枯渇したら、人類は、海に流出したリンを回収しなければなくなるだろう。そうした回収を機械で直接やろうとすれば、莫大な費用とエネルギーが必要になるが、心配は無用である。魚や鯨が代わりにやってくれる。魚や鯨などの水棲動物の骨には大量のリンが含まれているから、それを農地に還元すればよいのだ。

化学肥料のもう一つの問題点は、主要な必須元素を含んではいるものの、微量の必須元素までは含んでおらず、長期的に化学肥料ばかりを用いていると、田畑が植物の育たない土地になってしまうということである。この点からも、有機肥料、なかんずく人糞尿の利用を見直したいものである。

欧米人の無理解を象徴する捕鯨禁止運動

流出型農業は砂漠化をもたらし、回収型農業は緑化に貢献する。この見解は、まだ一般的には認知されていない。それを象徴するのが、欧米の自称「環境保護団体」が行っている捕鯨禁止運動である。彼らは、牛食文化の方が鯨食文化よりも優れていると考えているのだが、実はまったくその逆であることを示そう。

日本人は、有史以前から捕鯨を行ってきた。三内丸山遺跡など縄文時代の遺跡から多数の鯨やイルカの骨が見つかっている。当初は、漂流した鯨やイルカを食べていただけなのかもしれないが、根室市の弁天島貝塚からは、綱のついた銛を使って、舟と同じぐらいの大きさの鯨を捕まえようとしている様子を描いた骨片が出土しており、かなり早い時期から、船を使って積極的に捕鯨をしていたことがわかる。

江戸時代になると、従来の弓取り法や突き取り法よりも確実な捕鯨方法である網捕り法が普及し、商業的組織による鯨の大規模な捕獲・解体・流通のシステムが確立された。しかし、江戸時代の日本人の捕鯨が鯨資源を枯渇させることはまったくなかった。江戸時代の日本人は、陸地から目撃できるほど沿岸に近づいた鯨しか捕獲しておらず、そうした鯨は黒潮に乗って日本近海を回遊する鯨のごく一部でしかなかったからだ。

ところが、江戸時代も末期になると、鯨資源は急速に枯渇していった。アメリカを中心に、イギリスやフランスの捕鯨船が日本の近海にまで進出し、鯨を乱獲したからである。彼らは鯨を捕獲すると、油だけを取って、それ以外は海中に捨てていた。利用効率が低いので、船いっぱいの商品を生産するためには、大量に捕獲しなければならなかったわけだ[*]

[*] もちろん、現在ではこのような捕鯨は行われていない。現在似たような問題を抱えている漁法は、フカヒレとなるサメのヒレだけを切り取り、残りの胴体は海に捨てるフィニングである。残酷という理由で反対している人たちがいるが、そういう人たちはサメを即死させて海に捨てるのなら賛成するのだろうか。問題はむしろ有効に活用できる資源を海に捨てている所にある。実はサメの肉は適切に調理すれば、おいしく食べることができる。食べられない軟骨も肥料として使うことができる。フィニングを認めると、ヒレだけを船に残せばよいので、乱獲をもたらすというのも問題である。フィニングは禁止されるべきだが、絶滅の懸念がない限りサメ漁全体を禁止するべきではない。捕鯨に関しても同じことが言える。

欧米の荒っぽい捕鯨とは対照的に、江戸時代の日本人は、「鯨は棄てるところがない」と言って、鯨資源を完全に利用していた。鯨の肉のうち、赤肉は地元で刺身として消費され、それ以外は、塩蔵や釜茹でにされ保存食となった。皮、骨、内臓は釜で煮詰めて油をとり、油は灯油や農薬として利用し、残り粕の皮と内蔵は食用とし、骨は砕いて肥料にした。ひげ、筋、歯は加工されて、工芸品などに利用された。

日本は、近代捕鯨に乗り出した後も、鯨体を完全利用する伝統を守り続けた。 否、むしろ鯨体は、近代化によりさらに用途が拡大した。鯨肉は、ハム、ソーセージ、ベーコン、大和煮、缶詰などにも加工されるようになった。骨や内臓から薬品やホルモン剤の原料が、油からは石鹸やマーガリンやクリームの材料が、皮や筋からは写真フィルムや医薬品のカプセルの原料が取り出されるようになった。こうした鯨体の完全利用は、資源の有効活用という点でだけでなく、海中に流出した栄養源を陸上に還元するという点においてもエコロジカルである。

他方で、西欧人は、20世紀になっても、鯨体の完全利用を行わなかった。以下の引用文は1960年ごろの話である。

欧州の捕鯨は鯨油生産である。IWCは、戦前の捕鯨条約や協定でうたっていたように鯨体の完全利用を常に強調してきた。しかし、監視員制度のなかったこのころの南氷洋では、油脂の少ない赤肉は、搾油の効率が悪すぎるという理由でほとんどが投棄されている。鯨肉に比重が移っている当時の日本の船団は、外国母船の近くに操業しているとき、たえず立ち昇る赤肉投棄の水煙を目撃していた。[25]

欧米人は、鯨油を灯油として使った。鯨油を取っても、それを燃やしてしまうなら、海中から陸上への栄養塩の還元には貢献しない。また鯨体を海中に投棄すると、せっかく集積された栄養塩が海底に沈んでしまう。死骸はバクテリアによって分解され、一部の栄養塩は海水表面に浮上し、プランクトンや魚の餌になるが、かなりの部分は海底に沈んだまま有効に活用されない。この意味で、西洋の捕鯨は、生態系を破壊している。

鯨資源が希少になっていくにつれて、捕鯨の規制が厳しくなってきた。安価な石油が出回るようになったこともあって、西洋諸国は次々に捕鯨から撤退していったが、日本の捕鯨船は、鯨体を完全利用しているため、生産効率が良く、捕鯨を続けた。相変わらず操業を続ける日本の捕鯨に対して、捕鯨をあきらめた西洋諸国からバッシングがおきるようになった。そして捕鯨全面禁止を求める国際世論が高まるようになる。

捕鯨禁止が環境保護の象徴となったのは、1972年にストックホルムで開かれた国連環境会議においてである。

当時のニクソン大統領は、地球上の環境破壊の中で最大といわれる戦争、とくにベトナム戦争における枯葉作戦で、ホスト国スウェーデンのパルメ首相に厳しく批判されていた。国連主催のこの会議が、アメリカ批判の集会になっては困る。また大統領選挙を控え、対立候補の民主党マックガバンが草の根運動でじりじり人気をあげている時期でもあった。政治家は政敵を倒すために手段を選ばない。ニクソンは大選挙区のカリフォルニア州で大量得票を得るため、環境保護運動、なかでも反捕鯨運動の女性旗手であったマッキンタイヤーと手を結ぶ。そしてこの繋がりを通じ、地方的運動であった環境問題、とりわけ捕鯨禁止が世界的な問題に浮上するのである。[26]

もっとも、アメリカ政府は、60年代から野生動物保護に取り組んでいたので、72年になって突然捕鯨禁止を主張したというわけではない。ニクソンも、国際的な面子を重視したというよりも「むしろ、新しく台頭した環境問題に関して国民と敵対した立場を取ることにより国内の分裂をさらに深めることを恐れていた結果だと見るべきであろう[27]」。他方で、日本側には、環境問題として捕鯨が取り上げられることはあるまいと高を括って、対策を講じていなかったという外交的失敗も原因の一つである[28]

もう一つのうがった見方として、アメリカやオーストラリアなどが日本の捕鯨に反対しているのは、これらの牛肉輸出国が、日本人に鯨肉の代わりに牛肉を食べさせ、日本への牛肉の輸出を増やそうとしているからだという国内産業保護説がある[29]。反捕鯨運動をしている人の中には、こうした不純な動機に基づいている人もいるのだろうが、大部分の人は、たんなる無知に基づいて、捕鯨禁止が環境保護になると信じて、捕鯨反対を叫んでいる。

反捕鯨運動家の中には、鯨は知能の高い動物で、人間に近いから、殺すべきではないという人もいる。鯨は、たしかに水中で生活しているから、人間と同様に、嗅覚が衰退し、聴覚が発達している。しかし人間との類似点はその程度だ。鯨は、牛と同様に、偶蹄類の祖先から進化した動物で、その知的水準も牛と同じである。鯨を殺すことはかわいそうだが、牛を殺すことはそうではないといった議論はナンセンスである。

また、牛は飼うことができるが、鯨は養殖できないから、牛食文化が管理された責任ある食文化であるのに対して、鯨食文化は収奪するだけの無責任な食文化だという主張もある。しかし、もしも欧米人が、家畜の餌を自力で与えていると思っているなら、それは誤解である。欧米人は、家畜を食べることで陸上の栄養塩を一方的に収奪し、地力を回復させないのだから、これこそ収奪するだけの無責任な食文化ではないのか。それに対して、江戸時代の日本人は、陸を豊かにすることで海を豊かにしたのだから、これは一種の養殖であったということができる。

よく「森は海の恋人」と言われる。森が豊かだと、陸から海に流れ出る川の水も栄養分が豊かになり、海の生物も繁栄する。逆に森が破壊されると海もやせてくる。地中海が痩せた海になったのも、古代ギリシャ・ローマ文明が、地中海沿岸で大規模な森林破壊をしたからであると言われている[30]。 古代ギリシャ・ローマ文明が、地中海で小規模にやったことを、近現代の西洋文明は、世界の海で大規模にやっている。

もっとも、陸から水に流れる栄養塩は、多ければ多いほど良いということではない。栄養塩が多すぎると、富栄養化と呼ばれる現象が起きる。栄養塩の増加によりプランクトンが増えすぎ、光合成ができない夜間に酸素不足となり、水中の生物が大量に死んで、漁業資源がかえって減ってしまうという現象である。水中からの栄養塩の回収と均衡する量の栄養塩を水中にコンスタントに流出させることが持続可能な、つもり最も望ましい農業のありかたなのである。

鯨を増やすためには、餌となる魚やプランクトンを増やさなければいけない。そのためには、砂漠化を阻止し、陸上を緑化しなければならない。だから、遠まわしではあるが、牛肉を食べるのをやめて、牧場を縮小することが、鯨を救うことになるのである。鯨を保護しても、いつかは寿命を迎えて死ぬ。死んで海底に沈むと、栄養塩が有効に活用されなくなる。だから、そうなる前に、鯨を捕まえて、食べて、陸上の緑化に役立てるべきである。

商業捕鯨を再開するにしても、もちろん、絶滅に瀕している種に対しては特別な配慮が必要である。ただ、捕鯨全面禁止は、絶滅種を救う上で、逆効果であることがある。たとえば、シロナガスクジラは絶滅に瀕しているが、シロナガスクジラとクロミンククジラは、南極海において同じ餌のナンキョクオキアミを主とする動物プランクトンをめぐって競合する関係にある。クロミンククジラは、体が小さいので、シロナガスクジラとは異なり、捕獲の対象にはならなかった。このため、乱獲でシロナガスクジラの数が減ったときに、クロミンククジラの数が急増し、その結果、いくら保護しても、シロナガスクジラが増えなかったのではないかという説がある[31]

だが、こうした日本の主張は、国際社会では受け入れられていない。当初一時的な措置だった商業捕鯨モラトリアムは、1990年までに見直すということになっていたが、見直しは先送りされ続けている。科学調査という名目で日本が南極海で行っている調査捕鯨に対する国際社会の目も厳しくなっている。2014年3月に、国際司法裁判所(ICJ)は、日本の調査捕鯨が科学調査を目的としているとは言えないという判断を示し、中止を命令した。

日本沿岸での小型鯨類(イルカを含む)の捕鯨は、国際捕鯨委員会(IWC)管轄外であるため、商業捕鯨が禁止されていない。ところが、2010年に、米国のドキュメンタリー映画『ザ・コーヴ』が第82回アカデミー賞長編ドキュメンタリー映画賞を受け、和歌山県太地町で行われているイルカ漁が国際的な注目を集めるようになった。

キャロライン・ケネディ駐日米国大使は「米国政府はイルカの追い込み漁に反対します。イルカが殺される追い込み漁の非人道性について深く懸念しています[32]」と発言して、国内で顰蹙を買ったが、海外では「日本人はかわいくて知的なイルカを虐殺する野蛮民族」というネガティブなイメージが広まった。

日本人は、捕鯨が日本の伝統的な文化だから尊重されるべきだという主張をしているが、これでは説得力がない。切腹が日本の伝統的な文化だからといって、現在の日本の死刑囚に切腹をさせるべきだということになるだろうか。今後も捕鯨を続けることを正当化したいのであるならば、それが日本のみならず世界のすべての人々、さらにはすべての生物にとって、デメリット以上のメリットがあることを感情的にではなくて、理論的に示さなければならない。鯨教の信者ともいうべき一部のファナティックな人々を除けば、世界の人々は合理的な議論に耳を傾けてくれるはずだ。

砂漠を緑化するためのプロジェクト

以下の地図にも描かれているように、世界の土壌は、過伐採、過放牧、過耕作によって急速に劣化している。

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1998年現在における世界の砂漠化脆弱性地図[33]。灰色の領域は砂漠で、赤色、橙色、黄色の領域は、この順に砂漠化する脆弱性が高いことを示している。

砂漠化の原因は様々であり、すべての砂漠を緑化する必要はない。しかし、栄養塩不足で不毛化している場所は、栄養塩の供給により再緑化するべきだ。もっとも、人畜の糞尿をそのまま堆肥化して使うことは、現代では難しい。そこで、下水を処理してリンを資源化することが検討されている[34]。現在肥料として販売する実績のある方法は、四つある。

  1. HAP(HydroxyAPatite ヒドロキシアパタイト)法:副産リン酸肥料として肥料登録
  2. MAP(Magnesium Ammonium Phosphate リン酸マグネシウムアンモニウム)法:化成肥料として肥料登録
  3. 灰アルカリ抽出法:副産リン酸肥料として肥料登録
  4. 部分還元溶融法:熔成汚泥灰複合肥料として肥料登録

HAP法とは、下水中のリン酸を消石灰(水酸化カルシウム)と反応させ、ヒドロキシアパタイト結晶を析出させる方法である。

10 Ca(OH)2 + 6 H3PO4 → Ca10(PO4)6(OH)2 + 18 H2O

イオン反応式として書けば、以下のようになる。

10Ca2+ + 2OH + 6PO43- → Ca10(PO4)6(OH)2

MAP法とは、下水の嫌気性汚泥にマグネシウムイオンを添加し、弱アルカリでリン酸マグネシウムアンモニウム(Struvite ストルバイト)を生成させる方法である。

Mg2++NH4++PO43–→NH4MgPO4

灰アルカリ抽出法とは、焼却灰中のリンを水酸化ナトリウム溶液により抽出して、消石灰を反応させ、リン酸カルシウムを回収する方法である。化学反応式はHAP法と同じである。HAPが下水処理方法であるのに対して、灰アルカリ抽出法は一般廃棄物の処理方法である。もう一つの一般廃棄物の処理方法が部分還元溶融法である。焼却灰にカルシウムやマグネシウム等を添加し、リン酸への部分的な還元溶融により、スラグをリン肥料とする技術である。

これ以外に、まだ実用化されていないが、将来有望なリンの回収方法として、微生物燃料電池を用いた方法がある。微生物電解セルにおいて、カソード(還元が起こる電極)にリン酸塩が析出することは既に知られていた[35]が、廣岡佳弥子たちの研究グループは、同じ原理で、電気分解とは逆の発電で、カソードにリン酸塩を析出させることができることを発見した[36]。すなわち、微生物が酪農廃水に含まれる有機物を分解する時に発生する電子がアノード(酸化が起きる電極)に流れ、カソードでは、酸素還元反応が起こってプロトンが消費され、リン酸塩が析出する。アノードからカソードに電子が流れることで、発電にもなるというわけだ。

廃水が潜在的に持つエネルギーは、その廃水を活性汚泥法によって処理するために必要なエネルギーの約9.3倍以上という推定がある[37]。既存の下水処理方法が、エネルギーを投入する必要があるのに対して、微生物燃料電池を用いた方法は、下水処理と発電とリンの回収を行うという点で画期的である。

今後リン価格の上昇に伴って、下水や一般廃棄物からのリンの回収が進むだろう。しかし、陸上で循環させているだけでは不十分である。いくら回収しようとしても、リンは陸から水中に流出する。もちろんそれは悪いことではない。陸から水中にリンが流出するおかげで、水中の生命が繁殖できるからだ。だが持続可能なリンの循環を維持するためには、水中の食物連鎖の頂点となる生物のリン資源を、死んで沈む前に回収し、陸上で有効活用する必要がある。そのためには、下水や一般廃棄物からのリンの回収に加え、骨を粉砕して肥料として活用するといった江戸時代から日本人がやっている慣行を続けるべきだ。

本稿の冒頭で、水産物を食べ、その栄養塩を陸上に還元することが、人類が誕生以来エコシステムで果たしてきた役割であることを確認した。私たちは、ともすれば、人間を自然にとって有害な存在とみなし、人間の影響を最小にすれば、それで自然が守られると考えがちである。そして、環境保護運動家は、そうした考えに基づき、自然を守るために私たちに自己犠牲的な禁欲を求める。しかし、人間は、本来エコシステムを破壊する存在ではなくて、それを維持する存在である。人間が本来のライフスタイルに戻るなら、欲望を否定するのではなく、むしろ欲望を満たすことで自然を守ることができる。

人間が、自己犠牲的なボランティア活動によってではなくて、普段の生活を通じて、知らないうちにエコシステムの持続性に貢献しているというのが一番長続きのする、その意味で一番望ましい環境保護である。持続性を実現しようとする努力は、努力そのもの持続性によって実現するのである。

参照情報

関連著作
注釈一覧
  1. 本稿は、2006年7月12日に公開した「沙漠を緑化するにはどうすればよいのか」に大幅な加筆修正を加えてアップデートし、再公開したものである。なお、「さばく」は「砂漠」とも「沙漠」とも書くが、水部(通称さんずい)の漢字「沙」は、「水で小さくなったスナ」という意味で、本来「沙漠」は、海岸や川岸などに存在する沙の広がりを指す。これに対して、石部(通称いしへん)の漢字「砂」は、「小さな石のスナ」という意味で、「砂漠」の方がより一般的な意味で使うことができる。それゆえ、本アップデート版では、タイトルを「砂漠を緑化するにはどうすればよいのか」に変えることにした。
  2. 永井 俊哉『縦横無尽の知的冒険』東京: プレスプラン, 2003. p.32-35. アクア説に対する私の見解として、この他、「ヒトは海辺で進化したのか」や「なぜヒトの体毛は少ないのか」も参照されたい。
  3. Public Library of Science. “Wild Gorillas Handy with a Stick.” licensed under CC-BY-SA. PLoS Biol 3(11): e385. https://doi.org/10.1371/journal.pbio.0030385. Published: October 1, 2005.
  4. “Illustrations of human ancestors routinely show brawny hunters bringing home the wildebeest, butchering meat with stone tools, and scavenging carcasses on the savanna. But a more accurate image might be ancient fishermen–and fisherwomen–wading into placid lakes and quietly combing shorelines for fish, seabirds’ eggs, mollusks, and other marine food.” Gibbons, A. “AMERICAN ASSOCIATION OF PHYSICAL ANTHROPOLOGISTS MEETING: Humans’ Head Start: New Views of Brain Evolution.” Science 296, no. 5569 (May 3, 2002): 835–37. https://doi.org/10.1126/science.296.5569.835.
  5. オメガ-3の材料は、植物プランクトンが作り出すα-リノレン酸である。植物プランクトンを摂取する動物は、体内でα-リノレン酸を原料としてEPAやDHAを生産することができる。
  6. “Body fat in human babies provides three forms of insurance for brain development that are not available to other land-based species: (1) a large fuel store in the form of fatty acids in triglycerides; (2) the fatty acid precursors to ketone bodies which are key substrates for brain lipid synthesis; and (3) a store of long chain polyunsaturated fatty acids, particularly docosahexaenoic acid, needed for normal brain development. The triple combination of high fuel demands, inability to import cholesterol or saturated fatty acids, and dependence on docosahexaenoic acid puts the mammalian brain in a uniquely difficult situation compared with other organs and makes its expansion in early humans all the more remarkable. We believe that fresh- and salt-water shorelines provided a uniquely rich, abundant and accessible food supply, and the only viable environment for evolving both body fat and larger brains in human infants.” Cunnane, Stephen C., and Michael A. Crawford. “Survival of the Fattest: Fat Babies Were the Key to Evolution of the Large Human Brain.” Comparative Biochemistry and Physiology. Part A, Molecular & Integrative Physiology 136, no. 1 (September 2003): 17–26.
  7. “The manufacture of stone tools and their use to access animal tissues by Pliocene hominins marks the origin of a key adaptation in human evolutionary history. Here we report an in situ archaeological assemblage from the Koobi Fora Formation in northern Kenya that provides a unique combination of faunal remains, some with direct evidence of butchery, and Oldowan artifacts, which are well dated to 1.95 Ma. This site provides the oldest in situ evidence that hominins, predating Homo erectus, enjoyed access to carcasses of terrestrial and aquatic animals that they butchered in a wellwatered habitat. It also provides the earliest definitive evidence of the incorporation into the hominin diet of various aquatic animals including turtles, crocodiles, and fish, which are rich sources of specific nutrients needed in human brain growth. The evidence here shows that these critical brain-growth compounds were part of the diets of hominins before the appearance of Homo ergaster/ erectus and could have played an important role in the evolution of larger brains in the early history of our lineage.” Braun, D. R., J. W. K. Harris, N. E. Levin, J. T. McCoy, A. I. R. Herries, M. K. Bamford, L. C. Bishop, B. G. Richmond, and M. Kibunjia. “Early Hominin Diet Included Diverse Terrestrial and Aquatic Animals 1.95 Ma in East Turkana, Kenya.” Proceedings of the National Academy of Sciences 107, no. 22 (June 1, 2010): 10002–7. https://doi.org/10.1073/pnas.1002181107.
  8. “Much evidence shows that the marine omega-3 fatty acids eicosapentaenoic acid and docosahexaenoic acid have beneficial effects in various cardiac disorders, and their use is recommended in guidelines for management of patients after myocardial infarction. However, questions have been raised about their usefulness alongside optimum medical therapies with agents proven to reduce risk of cardiac events in high-risk patients. Additionally, there is some evidence for a possible pro-arrhythmic effect in subsets of cardiac patients. Some uncertainly exists about the optimum dose needed to obtain beneficial effects and the relative merit of dietary intake of omega-3 polyunsaturated fatty acids versus supplements. We review evidence for the effects of omega-3 polyunsaturated fatty acids on various cardiac disorders and the risk factors for cardiac disease.” Saravanan, Palaniappan, Neil C Davidson, Erik B Schmidt, and Philip C Calder. “Cardiovascular Effects of Marine Omega-3 Fatty Acids.” The Lancet 376, no. 9740 (August 2010): 540–50. https://doi.org/10.1016/S0140-6736(10)60445-X.
  9. “Replacing 5% of energy from saturated fats with equivalent energy from PUFA and MUFA was associated with estimated reductions in total mortality of 27% (HR, 0.73; 95% CI, 0.70-0.77) and 13% (HR, 0.87; 95% CI, 0.82-0.93), respectively. ” Wang DD, Li Y, Chiuve SE, and et al. “Association of Specific Dietary Fats with Total and Cause-Specific Mortality.” JAMA Internal Medicine, July 5, 2016. https://doi.org/10.1001/jamainternmed.2016.2417.
  10. “For example, we estimate that the extinction of the Amazonian megafauna decreased the lateral flux of the limiting nutrient phosphorus by more than 98%, with similar, though less extreme, decreases in all continents outside of Africa. This resulted in strong decreases in phosphorus availability in eastern Amazonia away from fertile floodplains, a decline which may still be ongoing. The current P limitation in the Amazon basin may be partially a relic of an ecosystem without the functional connectivity it once had. We argue that the Pleistocene megafauna extinctions resulted in large and ongoing disruptions to terrestrial biogeochemical cycling at continental scales and increased nutrient heterogeneity globally.” Doughty, Christopher E., Adam Wolf, and Yadvinder Malhi. “The Legacy of the Pleistocene Megafauna Extinctions on Nutrient Availability in Amazonia.” Nature Geoscience 6, no. 9 (September 2013): 761. https://doi.org/10.1038/ngeo1895.
  11. “Our framework for estimating nutrient diffusion by animals can be applied to modern ecosystems globally, and even incorporated into global land biosphere models demonstrating the ecosystem service of nutrient dispersal. This service is analogous to that played by arteries in the human body, with large animals acting as arteries of ecosystems transporting nutrients further and smaller animals acting as capillaries distributing nutrients to smaller subsections of the ecosystem. Therefore, after the demise of its large animals, the Amazon basin has lost its nutrient ‘arteries’ and the widespread assumption of P limitation in the Amazon basin may be a relic of an ecosystem without the functional connectedness it once had.” Doughty, Christopher E., Adam Wolf, and Yadvinder Malhi. “The Legacy of the Pleistocene Megafauna Extinctions on Nutrient Availability in Amazonia.” Nature Geoscience 6, no. 9 (September 2013): 763. https://doi.org/10.1038/ngeo1895.
  12. “Japan has rapid tree regrowth because of high rainfall, high fallout of volcanic ash and Asian dust restoring soil fertility, and young soils.” Diamond, Jared. Collapse: How Societies Choose to Fail or Succeed. Revised Edition. Revised版. Penguin Books, 2011.
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  24. “中国は1日、リン酸アンモニウムなど化学肥料の輸出関税を31日まで110%に引き上げると発表した。ここ数年、国内の肥料の需要期に高関税を課したことはあったが、突然の表明。実質的に輸出が止まることになりそうで、大手商社で肥料を扱う部署の幹部は「レアアースと状況が似てきた。中国は長期的には国内分を確保するつもりだろう」と漏らした。実は「中国が来年から年を通じて輸出関税を30~40%にするのでは」といううわさが業界を駆けめぐっていた。リン鉱石を原料とするリン酸アンモニウムの場合、直近の税率は数%で、業界は輸出規制の強化に身構えていた。リン鉱石の産出量は中国が世界の3割を占める。レアアースと同じく、中国は肥料原料の輸出を絞ってきた。事は中国にとどまらない。肥料は今や、レアアースや鉄鉱石と同様に、国益に通じる戦略物資になりつつある。食料の生産には肥料が不可欠だ。世界の人口は50年には91億人に達すると予測され、同じ面積で多くの作物を作る必要が高まる。肥料需要はこれから爆発的に増える。これだけでも肥料価格は高騰する素地があるが、資源の偏在も拍車をかける。窒素、リン酸とカリウムは肥料3要素とされるが、工業的に製造できる窒素肥料以外は、鉱山が頼り。リンとカリウムの上位3国の世界産出量のシェアは、それぞれ6割余りに達する偏在ぶりだ。リン酸アンモニウムの国際価格は06年以前の水準から、穀物が高騰した08年春には4倍超に。今も06年の2倍という高値圏にある。” 朝日新聞「肥料争奪戦、レアアース並み 中国、リン輸出を突然制限」2010年12月1日.
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  26. 板橋 守邦.『南氷洋捕鯨史』中央公論社 (1987/06). p.190-191.
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  28. 真田 康弘「捕鯨問題の国際政治史」In:『解体新書「捕鯨論争」』新評論 (2011/5/13). p.88.
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